オリジナルビーダマン物語 第6話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!

第6話「打倒ヒンメルへの資格!」

 

 仲良しファイトクラブ。
クラブリーダーとして町内会に出席していたタケルは、新しい大会情報を仕入れて帰って来た。
しかも、その大会に出れば、ヒンメルと戦えると言う。
しかし、シュウは大会に出ないと言う……!

「ちょ、ばっ、ええええ!おま、お前!正気か!?」
 タケルは、ひとしきり狼狽して、シュウの額に手を添える。
「う~む、熱は無いな……」
「んだよ!そんなにおかしな事言ったかよ!」
 タケルのオーバーリアクションに少しイラっとしたシュウはタケルの手を払いのけた。
「だってお前、ヒンメルだぞ?ずっと戦いたがってたじゃねぇか!?」
「……」
 不思議がるタケルに対し、シュウはまた無言になる。
「なんか、あったのか……?」
 タケルは、訳知り顔をしている琴音に尋ねた。
「はぁ、実はね……かくかくしかじか」
 琴音は、仕方ないなと言う顔で、先ほどの道場破りの事をタケルに話した。
「なるほどな。それで凹んでると」
 事情を聞いて、タケルも納得する。
「俺さ、まだ全然なんだよな……今のままじゃ、ヒンメルに会わせる腕がねぇんだ……!」
 シュウは悔しそうに、拳を握り締め、歯を食いしばる。しかし、そんなシュウをタケルはため息で一蹴した。
「はぁぁ、お前そんなくだらない事でグズグズ言ってんのかよ」
「なっ、くだらないってなんだよ!?」
「くだらねぇよ……別に今のお前がどうだろうが関係ないだろが。次にヒンメルと戦うのは今のお前じゃないんだから」
「……どゆこと?」
 イマイチ、タケルの言っていることが分からない。
「ったく、仕方ねぇ奴だ。琴音、悪いが彩音さんを呼んできてくれ」
「え、う、うん、いいけど」
 琴音は突然話を振られてビックリする。
「シュウ、お前は俺と一緒に来い!」
「へっ?!」
 タケルはシュウの腕をガシッと掴み、そのまま外へと歩いていく。
「ちょ、ちょちょちょ、どこ行くんだよおおおお~~!!!」
 わけもわからず連行されてたまるかと必死に抵抗するシュウだが、タケルの力は凄まじく、そのままズルズルと引っ張られていくのだった。

 そして、シュウがタケルに連れて行かれたのは、ビデオやDVDのレンタルショップ『TATUYA』の前だった。
「って、ここTATUYAじゃんか!なんで、こんな所に……」
「いいから、入るぞ」
 ごねるシュウをほっといて、タケルはさっさと店の中に入っていった。
「ま、待てよ!」
 シュウも慌ててその後に続く。

 店に入ってから、シュウは店内をじっくり見回した。
 タケルの事だから、このTATUYAが実は特別なTATUYAで、ビーダマンの特訓施設なんかが隠されているんじゃないかと思ったからだ。
 しかし、店内はいたって普通のレンタルビデオ店で、変わったところは無い。
「なぁタケル。ほんとにこんなとこ来て意味あるのか?」
「黙ってついて来い。……おっ、あっちだな」
 タケルは、天井に吊らされているコーナー名が書かれた看板を確認するとその方向に歩き出した。
「あっ、まったく、なんなんだよ……」
 シュウもタケルの歩く方角と視線を辿って、その看板を見つける。
「スポーツコーナー?」
 タケルが向かった先は、スポーツコーナーだった。ここではスポーツ番組の特集や中継なんかのDVDが置かれている。
「おっ、結構いろいろ揃ってるな」
 タケルは、そのスポーツコーナーの端っこの一段に目をつけ、何個かパッケージを手にとって、裏に書かれている紹介文なんかをじっくり見ている。
「それは?」
 シュウはタケルが手に持っているそれを覗き込んだ。
「あぁ、これはな。ビーダマン大会の中継とか、特集番組とか、そういうのがまとめてあるDVDだ」
「へぇ、そんなのがレンタルされてるんだ……」
 シュウもなんともなしに棚に置かれているDVDを一個手に取ってみた。
「なんせヒンメルは世界チャンピオンだからなぁ。取り上げられてる回数だって多いはずだ」
「つまりそのDVDを見れば、ヒンメルのバトルを研究できるって事か!?」
「そういう事」
「じゃあ、あやねぇを呼んだのも?」
「あぁ、彩音さんの分析力があれば、効率良いからな。この一ヶ月、ヒンメルに狙いを絞って猛特訓すりゃ、再戦を挑むのに相応しい腕にはなるだろう。
とにかく、やるしかねぇんだ」
 タケルの言うとおり、今の自分が弱いからとグズグズしている場合じゃない。
今の自分が弱くても、次戦う時までに強くなればいい。たったそれだけの単純な話だったんだ。
「タケル……サンキュ。……でもさ」
 タケルの思わぬ心遣いにシュウは感動した。しかし、それよりも何よりも一つ突っ込みたいことが。
「いくらなんでも借りすぎじゃないか!?」
「そうか?」
 キョトンと首を傾げるタケルは両手に何十本ものDVDを抱えていた。
「い、一体どんだけ借りるつもりなんだよ……」
「あるだけ全部だ。時間はたっぷりある。資料は出来るだけ多い方がいい」
「いや、そういう問題じゃなくて。俺、お小遣いもう無いんだけど……」
 それだけのDVDを借りるとなると、お金もかなり掛かるだろう。
 言いだしっぺはタケルとはいえ、シュウのために借りるのだから、そこは割り勘になるのだろう。しかし、お小遣いの少ないシュウにはちと厳しい。
「心配すんな。俺の奢りだ」
「マジで!?でもそれ、ザッと1万くらいしそうだぞ……」
「大丈夫大丈夫」
 飄々と言うと、タケルはレジへと歩いていく。
 レジについて会計をする。
「では、以上33点で9千600円になります」
 会計のお姉さんが商品の多さに多少手間取りつつも淡々と会計を進める。
(うわぁ、やっぱり高ぇ……こんなの普通の小学生が払えるわけねぇよ……)
 あまりの金額の高さに怖気づくシュウだが、タケルは何事も無いように財布から一枚のプラチナ色のカードを取り出す。
「これで、お願いします」
「はい」
 このやりとりだけで会計を済ませてしまった。
(え、え、なんで?なんでカード出しただけで買い物できるの!?お金は!?お金はああああ???)

 帰り道。二人は、大量のDVDの入った袋を下げて並んで歩いている。
「タケルって、すげぇんだなぁ」
 シュウはタケルに畏敬の眼差しを送りながら呟いた。
「何が?」
 シュウの呟きの意味が分からないタケル。
「いや、さっきの買い物……俺には何をしているのかさっぱり分からなかった」
まだ小学生のシュウにはクレジットカードの概念が無い。ましてや小学生の分際でプラチナカードを使うなど……。
 タケルは一体何者なのだ?と言う疑問を抱いても無理は無い。
「別に大した事じゃねぇよ。それより、今はヒンメルの事だけを考えろ。帰ったら猛研究だぞ」
「わ、分かってるさ!よーし、やってやるぜ!見てろよヒンメル!絶対にお前に会わせる腕を身につけてやる!!」
 打倒ヒンメルに向けての情熱が復活したのか、シュウは拳を握り締めるとダーッと駆け出していった。
「ははは!やっといつものアイツらしくなったなぁ」
 その背中を眺めながら、タケルは微笑ましく思うのだった。

 そして二人は仲良しファイトクラブ練習場に帰って来た。
「ただいま~!」
 元気良くジムに入るシュウと、その後に続くタケル。
 ジムには、既に彩音と琴音がおり、琴音が痺れを切らした様子で入ってきた二人に悪態をつく。
「あ、やっと帰って来た。人にお姉ちゃん呼び出させといて、一体どこ行ってたのよ」
「あぁ、ちょっくらTATUYAに行ってきた」
 イケシャアシャアとそう言うとタケルは下げている袋を見せる。
「って、こんな時にビデオ屋って……しかも何本借りてんのよ!?」
「まぁまぁ、琴音ちゃん。タケル君にもきっと考えがあっての事だろうから」
 まだまだ文句言いたげな琴音をなだめながら、彩音が前に出る。
「それで、私に用ってなに?機体の修理?」
 彩音はタケルに向き直って天使のような微笑みで問いかけた。わけもわからず呼び出されたにも関わらず文句一つ言わないこの人はマジ天使だ。
「いや、そういうんじゃなくて、ちょっとこいつを一緒に見て欲しいんだ」
 再び手に提げた袋を彩音に見せる。
「ビデオを?」
 ビデオと自分の需要がイマイチ結びつかなくて彩音は首をかしげた。
「あ、まさかお姉ちゃんにエッチなビデオ見せようってんじゃないでしょうね!?」
 琴音がいたらん妄想力を働かせてタケルに軽蔑の眼差しを送る。
「んなわけあるか!!」
 いわれの無い軽蔑を払いのけるようにタケルは両手を挙げて少しオーバーな否定をする。
 ガサッとタケルの手にあった袋も一緒に上がり、それが彩音の目線と同じ高さになる。
「あ、これって、ヒンメル・フリューゲルのバトル特集が収録されてるDVDね……どうしてそんなものを借りてきたの?」
 袋から飛び出てるDVDのパッケージを見て、彩音はそれがどういうものなのかを見抜いた。
 しかし、それでもそれと自分がどう結びつくのかを分かりかねているようだ。
「それはだなぁ……」
「俺、ヒンメルに勝ちたいんだ!今度の大会で!!」
 と、ここで、タケルを押し退けるように、今まで黙っていたシュウが口を開いた。
「しゅ、シュウ君?!ヒンメルに勝ちたいって……?」
 シュウが出てきても彩音にはまだピンと来ない。が、琴音は納得したようだ。
「なるほど、それでか。ほらお姉ちゃん、前に話したでしょ。シュウがヒンメルをライバル視してる事」
 ようやく彩音もシュウやタケルの言動に合点がいったようだ。
「あぁ、そういう事。それでヒンメル・フリューゲルのDVDを?」
「そ。今度の県大会、優勝チームにはヒンメルと戦う権利が与えられるって言うからな。それまでにヒンメルの事を研究しておこうってわけだ。
彩音さんならバッチリ分析出来るだろう?」
「バッチリかどうかまでは分からないけどね」
 彩音が苦笑しながら応える。
「頼む、あやねぇ!アイツに勝つためには、どうしてもあやねぇの力が必要なんだ!!」
 少し曖昧な態度の彩音に不安を覚えたシュウは、必死に頼み込む。
「え……」
 彩音は、そんなシュウの姿を見て、一瞬誰か別の言葉が脳裏に浮かんだ。

 “ここからは、俺の腕だけじゃどうしようもなくなる。彩音、お前のメカニックとしての力が必要なんだ!” 

「おにい……」
 しかし、彩音はすぐに我に返って、喉まで出かかった言葉を抑えた。
「う、うん。大丈夫。私に出来る事なら、精一杯するよ」
「ありがとう!あやねぇ!!」
 嬉しさからか、シュウは彩音の両手を握ってお礼を言う。
 包まれるようなシュウの手の感触に、彩音は少しだけ頬を染めたのだった。
 と、言うわけで一同は練習場の奥にある休憩室へとやってきた。

 休憩室は、練習のし過ぎで疲れた選手を休ませるための部屋で、飲み物を入れてある冷蔵庫や洗面所、テレビなんかが設置されている。
「へぇ、クラブにこんな部屋があったんだぁ」
 初めて休憩室に入ったシュウは、物珍しそうに見回した。
「シュウ君は入るの初めてだっけ?この休憩室には洗面所や冷蔵庫、仮眠用の布団とかいろいろあるから、練習に疲れた子が自由に休めるようになってるんだよ」
 彩音がシュウに簡単に部屋の説明をしてくれた。
「へぇぇ~!なんか、こういうの見るとワクワクするなぁ!」
「まぁ、最近はあまり使ってないんだけどな。チョコチョコ飲み物補充してたりするから、喉渇いたら自由に水分補給していいんだぞ。熱中症にでもなったら……」
 そういうタケルだが、中は意外と小奇麗だ。
「おぉ~!カピルス発見!!」
 早くも冷蔵庫を勝手に開けたシュウは、中から白いジュースを取り出した。
「って、勝手に開けるの早ッ!……まぁ、良いけど。当初の目的忘れんなよ」
「おおっと、そうだった!」
 コップにカピルスを注ぎつつ、シュウはハッとした。
 初めて入る部屋に興奮してしまったが、今はそれどころではないのだ。
「初めてお泊りするガキか、あんたは……」
 シュウのはしゃぎっぷりに、琴音は呆れながらそんなツッコミを呟いた。
「んじゃまぁ、とりあえず本題と行きますか」
 タケルが、袋からDVDを一枚取り出す。
「おう、頼むぜ」
 全員テレビを前に、見やすい位置に座る。
 それを確認すると、タケルはDVDをプレイヤーにセットした。
 真っ黒だった画面に、メーカーのロゴが映る。
 そして、しばらくすると画面が明るくなり本編がスタートした。
『さぁ、アトランティックビーダマン大会もいよいよ決勝戦だ!!』
 画面から実況者の声が響き渡る。どうやらドイツのある大会の決勝の様子らしい。
 会場内に、二人の少年が入場する。
『ルールはSHB!戦うのは、圧倒的なテクニックで相手を翻弄してきたヒンメル・フリューゲル選手!
そして、その巨体から繰り出されるパワーショットで並み居る強豪をなぎ倒してきたヘスラー選手!』
 実況の通り、ヘスラーと呼ばれた少年は、少年とは思えないほどの巨漢だ。
「すっげぇ、タケルよりデケェ……!」
 画面を見ているシュウが、ヘスラーの巨大さに驚く。
「なかなかパワーがありそうな奴だな」
 タケルも冷静に分析する。
『そんじゃ、両者ともスタンバイ!レディ・ビーファイト!!』
 実況者の合図とともに二人が動き出す。
 互いに牽制しあい、有利なポジションの取り合いだ。
 ドギュッ!!
 先手を取ったのは、ヘスラーだった。巨漢に似合うパワーショットがヒンメルを襲う。
『先手必勝か!ヘスラー選手が開始早々強烈なパワーショットを炸裂させる!!』
それを見たヒンメルは、特に避ける事もせず、ただ一発だけビー玉を発射する。
だが、そのショットは明らかに遅い。
 ガキンッ!!
 案の定、ヒンメルのショットはあっさりと叩き落される。
『ヒンメル選手の迎撃はあっけなく弾き飛ばされた!まさか、このまま決まってしまうのかぁ!?』
 しかし、ヘスラーのショットは、真っ直ぐヒンメルに向かっていたはずなのに、まるで避けるようにカーブを描いて明後日の方向に飛んでいった。
『おおっと!狙いが逸れたのか、ヘスラー選手のショットは運よく外れたぁ!!』
 その様子を見て、タケルは驚きの声を上げる。
「な、なんだよありゃ!どう見てもヒットしてる軌道じゃないか!!」
「うん、まるでヘスラー選手のショットが途中で自分から外してるみたい……」
 彩音も驚きを隠せないようだ。
「俺も、あれにやられたんだ……絶対にヒンメルのシャドウに当たると思ったのに、ヒンメルのショットを弾き飛ばした瞬間にビー玉が変な動きをして……」
「私も実際にこの目で見たけど、そのメカニズムまでは分からなかったわ……」
あの技を現実に目の当たりにしたシュウや琴音も、お手上げと言ったようだった。
 シュウ達が驚いている間にも画面内のバトルは進んでいる。
 ヒンメルは、全く動かずに全てのヘスラーのパワーショットを防いでいる。
『ヒンメル選手、不動!!一方のヘスラー選手はパワーショットの乱発で疲れが見えているようだ!!』
 ドンッ!
 息を切らしているヘスラーがあからさまなミスショットを放つ。
 その隙をついて、ヒンメルが素早くホルパーをシメたパワーショットをぶち込んだ。
 バーン!!
 と、ヘスラーのシャドウが爆発した。
『決まったぁぁぁ!勝ったのは、ヒンメル選手!!!無傷の大天使の異名は伊達じゃない!!全く動かずにヘスラー選手のシャドウボムを撃破してしまった!!』
 一本目のDVDが終了する。
「すげぇな……噂には聞いてたが、改めてよく見ると、ほんとすげぇ……」
 タケルは驚愕のあまり、呆然としている。
「あぁ。なんか、ますますあいつに勝ちたくなってきたぜ……!」
 シュウはモニターを睨みつけながら、拳を握り絞めて軽く武者震いをした。
「でも、これじゃ改めてヒンメルの凄さが分かっただけで、何の対策も出来ないじゃない」
 琴音が最もな事を言う。
「なぁに、まだ最初の一本だ。次の試合を見るぜ」
 DVDを取り出して、次のディスクを入れるタケル。
「驚いてばっかじゃダメだ。これはアイツを倒すための対策を練るために見てるんだから」
 気合いを入れなおし、シュウは正座してモニターを見据える。
「次は私も、ちゃんと分析できるように集中して見るね」
「頼むぜ、あやねぇ!」
「うん、任せて」
 そして、二本目のDVDがスタートする。
 これもヨーロッパでの大会の様子が映し出されていた。さっきの試合と同様に、ヒンメルは相手の攻撃を全て翻弄していく。
「これなんだよなぁ、ヒンメルは弱いショットで相手のショットを全部逸らしちまう。一体どういう仕掛けなんだ?」
「普通だったら、あんなに威力差があったらただ弾かれるだけで相手のショットに影響を与える事は出来ないはずだが……」
 シュウとタケルは腕を組んでう~んと唸る。
「あ、ちょっと待って!」
 と、彩音は何かに気付いたのか、リモコンを手にとって一時停止ボタンを押す。
 モニターは、丁度ヒンメルの手元がアップされた所で止まった。
「どうしたんだ、あやねぇ。何か分かったの?」
「……もう、ちょっと」
 再びボタンを押して一時停止解除。今度はスロー再生して、また一時停止。したかと思ったらまたスロー再生して停止……を何度か繰り返した。
「やっぱり……」
 ふぅと気を抜いて、画面から離れて一息つく彩音。
「何がやっぱりなんだよ?説明してくれよ」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっとコレを見て」
 彩音は再びリモコンを手にとって、今度は巻き戻しをする。そして、ヒンメルの手元が映ったところで一時停止をした。
「これが、ショットを撃つ瞬間。手元を見て」
 彩音に言われるまま、一同は画面に映るヒンメルの手元をマジマジと見た。
「腕を強くホールドしてる……シメ撃ちかな?」
 ヒンメルは機体をガッチリホールドしているように見えたので、シュウはそう言った。
「でも、露出してるホールドパッドには触れてないぞ。単に強く握って狙いを付けやすくしてるだけじゃないのか?」
 タケルの言うように、ミハルデンのコア前方に伸びているホールドパーツには一切触れていない。これではいくら強くホールドしてもシメ撃ちにはならない。
「多分だけど、エンゲルミハルデンのアームは、エッジと平行して可動式パッドが付いていて、それを押さえることでホールドパーツに干渉できるんだと思う」
「なるほど。それでアームを押さえてシメ撃ちをしてるのか」
「ううん。これは、シメ撃ちのためのパッドじゃないの。よく見て、片側しか押さえてないでしょ?」
 彩音の言うとおり、ヒンメルはミハルデンの右腕のパッドしか押えていない。
「あ、ほんとだ!これじゃ、シメ撃ちにならないぞ……!」
 片側だけシメても力が伝わらないだけじゃなく、ビー玉の軌道が逸れてしまうだけだ。
「じゃあ、次に発射した瞬間で止めるね」
 彩音は再び映像を動かして、発射されたビー玉が映った所で止める。
「やっぱ、弱いショットだよなぁ」
「ん?」
 タケルは何か違和感に気付いた。
「発射した玉、なんかうねってるか……?」
「うん。今度はスローにしてみるね」
 スロー再生する。ゆっくりと、ビー玉が飛んでいく……。
「あっ、横回転か!!」
 そして、そのショットが相手の撃ってきた玉にぶつかる。
 すると、当然ヒンメルの弱いショットは弾かれるのだが、ヒンメルの玉の回転によって相手の玉に回転がかけられた。
「ヒンメルのショットが、相手の撃ってきた玉に回転をかけた……」
「そう。だから、相手のショットは回転の気圧の差でカーブして、本来狙った軌道から逸れてしまうの」
「なるほど、それで弱いショットでも相手の強いショットを防御できるのか!?」
「弱いショットなら機体もビーダーも全く負担をかけずにいくらでも連射が出来るからな……」
 これで、ヒンメルが無傷の勝利を得られる理由が分かった。
「でも、ちょっと待ってお姉ちゃん」
 その中で琴音は一つ疑問を抱いたようだ。
「ヒンメルって、最初から回転かけてたっけ?私が実際に見た時は無回転だったように思えたんだけど……」
「そりゃ、お前の見間違いとかじゃないのか?」
「そうかなぁ……?」
 再び映像を再生する。
 今度は、ヒンメルが相手に攻撃するターンのようだ。
 前にシュウに繰り出した必殺ショット『リングエンゲル』を撃っている。
「な、なんだこいつ!?」
「撃つたびに、ホールドする腕を変えたり、なんかコアの下を押えたりしてるぞ……!」
「それだけじゃないわ!撃った玉の回転方向が全部違う!?そんなのってありえるの!?」
「多分、エンゲルミハルデンのコアは、ゴムリングをつけたローラーホールドパーツが内臓されてるんだわ」
「ゴムリングローラー?」
「うん。ただ普通に撃つだけだったら、無回転の玉を発射するんだけど。片側を押えてローラーの回転を止めたら……」
「そうか!ラバーの力で玉が横回転する!」
「しかも、押える腕を変えるだけで一瞬で左右の回転を使い分けられるんだ!」
 彩音の説明で、全員がミハルデンの秘密に気付いた。
「それだけじゃないわ。さっきコアの下部を押えて撃っていたでしょ?多分、あれはスイッチになっててラバー付きの下爪の出し入れが出来るんだわ」
「ラバー爪の出し入れ!?って事は、ドライブ回転も切り替えられるって事か!?」
「って、じゃあ、あのビーダマンはたった一機で、無回転、右、左、前、右斜め、左斜めの……6回転を使い分けられるの!?」
驚愕する皆の反応を見て、彩音はゆっくりと頷いた。
「あの必殺ショットも、その6回転を完璧に使い分けてるからこそ出来る技なのよ……」
 そう、6種類の回転と威力を調整し、空中で自分の連射した玉同士がぶつかって分散する。
 そして、相手の周りの地面に落ちた瞬間に、それぞれの回転によって地面を蹴ってターゲットに集束していく……。
 そんな恐ろしい技を難なくこなしてしまうのが、ヒンメルだったのだ。
「と、と、とん、でもねぇな……」
 分析する事で対策を練るどころか、更に改めてヒンメルの凄さを知ってしまった。
「こりゃ、生半可な努力でどうにかできる相手じゃねぇぞ」
 さすがのタケルも畏怖の気持ちを隠せないようだ。
「こっちがどんなに強いショットを撃っても、ミハルデンのショットを、ただぶつけられただけで軌道を変化させられてしまう」
「その上、攻撃に転じた時の必殺ショットは四方八方から同時に襲い掛かるから、とても避けようがない……!」
 佐倉姉妹も何も対抗策が浮かばないようだ。
「なんとかこう、奴のビー玉に触れずに奴のショットを撃ち落す事が出来ればいいんだけどなぁ……」
「フィールド上のオブジェを倒すとかして間接的に弾くって手段はあるが。現実的じゃないな」
「くっそー、どうすりゃいいんだぁ~!」
 シュウは仰向けに倒れて頭をわしゃわしゃ掻き毟るが、そんな事で良いアイディアが浮かぶわけも無い。
 全員が万事休すとばかりに頭を悩ませている中、彩音は画面に集中し、何度も何度もリングエンゲルの動きを見る。
「……もしかして、上なら」
 そのつぶやきを聞いたシュウが上半身を起こして彩音に向き直る。
「上って?」
「う、うん。ずっとあの必殺ショットの動きを見てたんだけど。逃げ場がないのはあくまで平面な意味で、上に行けばかわせるんじゃないかと思って……」
「上か……」
 反応の乏しいシュウに、彩音は慌てて訂正する。
「あ、でもさすがにそれは無茶だよね!」
「……いや、それいけるかも!」
「えっ?」
 シュウの思わぬ返答に彩音は聞き返した。
「そうか、シュウ!お前の必殺ショットだ!!」
「あぁ、あれね~」
 タケルと琴音もピンときたようだ。
「うん!メテオールバスターならアイツの攻撃をかわして、その直後に反撃できる!!」
「さすがのヒンメルも必殺ショット直後なら隙も出来てるはずだしな!活路が見えてきたぜ!」
 盛り上がる三人だが、彩音はメテオールバスターを知らないのでキョトンとしている。
「メテオールバスターってのはシュウの必殺ショットで、地面に向かってショットを放った反動で大ジャンプして空中から撃つ技なんだ」
「す、凄い技使えるんだね……!」
 ちょっと現実離れしてて彩音にはどんな技なのか想像がつかないようだ。
「ありがとうあやねぇ!おかげで上手くいきそうだぜ!!」
 シュウはガシッと彩音の両手を握って嬉しそうに礼を言う。彩音はちょっとビックリしながらもすぐに微笑む。
「うん。役に立ててよかったよ」
「シュウ、あとはヒンメルの動きの癖やリングエンゲルのタイミングを徹底的に頭に叩き込んで、確実にメテオールバスターを決められるようにしないとな!」
「おう!みんな、ありがとう!あとは俺一人でなんとかなるよ」
「そうか。じゃあ俺たちは自分の練習に戻るぜ。シュウも、適当なとこで切り上げろよ」
「あまり無理しないようにね」
「うん、大丈夫」
 そして、三人がワイワイしながら部屋を出て行く。

 それから数十分。シュウ達はヒンメルのDVDをとにかく繰り返し視聴していた。
「………」
 瞬きも忘れるほど、シュウは画面に釘付けになっている。
 その時、部屋の扉が開き、タケルが入ってきた。
「シュウ、お前まだ観てたのか!?」
 シュウが振り返る。
「タケル……」
「ったく、適当なとこで切り上げろって言っただろ。今何時だと思ってんだよ」
「へっ?」
 言われて時計を観る。時間は6時半だった。そろそろ帰らないとマズイ、小学生的に。
「やべっ、集中しすぎてて気付かなかった!」
「おいおい……」
「へへへ、なんか楽しくってさぁ。こんな風に夢中になって頑張るのなんて初めてだぜ」
 頑張るのが初めて……タケルは、その言葉が少し引っかかった。
「シュウ、お前はさ」
 照れ隠しで笑うシュウに、タケルは少し真剣な口調でたずねた。
「なんで、そこまでヒンメルに……いや、その前に、なんでビーダマンをやってるんだ?」
「?なんでって、そりゃ楽しいからに決まってるだろ?バンバン撃ったり撃たれたりして!!無茶苦茶熱いし楽しいじゃんか!!」
 そう言ったシュウの表情は、本当に楽しそうだった。だからこそ、タケルは一つだけ確かめたかった事があるのだ。
「そうか。そうだよな。ビーダマンは、楽しいものだよな。でもさ……」
「ん?」

「それって別に、ヒンメルに拘る理由にはならないよな?」

「……」
 図星だったのか、シュウの表情が止まる。
「ただ楽しいから、ただ熱いから。それだけだったら、ただバトルしてりゃいい。頑張らなくても熱いバトルは出来るぜ。違うか?」
 シュウは、しばらく黙ったのちに口を開いた。
「そう、なんだよな……。俺さ、ちょっと前まではこんなに勝ちたいって思った事無いんだ」
「……」
「タケルの言うとおり。ただ楽しくバトルが出来ればそれでよかった。正直、勝ち負けにそこまで意味があるとは思ってなかったんだ」
「そうか……」
「だけどさ、あいつと……ヒンメルと戦った時、初めてバトルが楽しくなかったんだ」
「楽しくなかった……?」
 ヒンメルに異常なまでに拘るシュウのセリフにしては、意外だったのでタケルは思わず聞き返した。
「あんなにつまらないバトルは初めてだった。俺の攻撃は全然通じないし、あいつの必殺ショットには手も足も出ないし……最悪のバトルだった」
「最悪、か……」
「悔しかったんだ、何も出来ずに負けちまった事が。だけどさ、悔しいって思った瞬間に、次は絶対に勝ちたいとか、もし勝てたら無茶苦茶楽しいんじゃないか?
とか、そんな考えがグルグルグルグル頭の中で駆け巡ってさ、すげぇ気持ちよかったんだ。体中の血が沸騰してるみたいで、なんかいてもたってもいられなくなって……!」
 そう言うシュウの拳は無意識のうちに震えるくらい握られていた。あの時の感情を思い出しているのだろう。
「なるほど、心から負けて初めて、勝利する喜びを知ったって事か」
「うん、ビーダマンはただ楽しむための遊びじゃない。勝ったら無茶苦茶嬉しくて、負けたら死ぬほど悔しい思いをする真剣勝負なんだって。
だからこそ、俺はあいつに勝ちたいんだ!今度こそ!!」
 顔を上げて、真っ直ぐな瞳でそう明言する。
「あはははは!」
 そんなシュウ表情を見ると、タケルは妙に嬉しくなって笑い出した。
「な、なんだよ、そんなに可笑しい事言ったか?」
「いや、そうじゃねぇ!嬉しいんだよ!お前みたいな奴がうちのクラブに入ってくれた事がよ!」
「タケル……」
「絶対にリベンジしてやろうぜ、シュウ!だが、その前に俺もビーダーとして頂点を目指してるって事を忘れるなよ?」
 タケルは親指で自分を指し、ニヤリと笑った。
「ああ、当然だぜ!まだタケルにだって勝ててないもんな……!へへっ、倒さなきゃいけねぇ目標がいっぱいで楽しみだぜ!」
「そうこなくっちゃな!」
 バンッ!と気合い付けにタケルはシュウの背中を叩いた。
「いってぇ~!!」

     つづく

 次回予告

「よおおおっし!打倒ヒンメルへの活路も見えたし、あとはヒンメルの動きを頭に叩き込むだけだぜ!!
え、相手の事を知るのも大事だけど、まずは自分を知れって?
そういや俺、ブレイグの事あまりよく知らないかも……

次回!『ブレイグの秘密』

熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

  

 




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