オリジナルビーダマン物語 第7話

Pocket

爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第7話「ブレイグの秘密」




 今度開かれるビーダマン東京都大会は、フリューゲル家主催のヒンメルカップとして開催される事になった!
 しかも、その大会の優勝者には、特典としてヒンメルと戦う権利が与えられると言う。
 シュウは早速打倒ヒンメルに向けて研究し、なんとか活路を見出す事が出来たのだった!
 シュウ達がヒンメルのDVDを見て研究した日の夜。
 佐倉家、彩音の部屋。
「う~ん……」
 彩音は勉強机の上にノートパソコンを置いて、ジッと画面を見ている。
 女の子らしいファンシーな部屋の中で、唯一メカニカルなパーソナルな精密機器だけが異彩を放っていた。
「私の思い過ごしかなぁ」
 背もたれにもたれかけて、一息つく。
 その時、コンコンと扉が小さくノックされた。
「どうぞ~」
 彩音の返事を聞いて、ノックの主は静かに扉を開けた。
「お姉ちゃん、お風呂空いたよ~」
 入ってきたのは、パジャマ姿でタオルを首にかけている琴音だった。
「うん、分かった。ありがとう」
「あ、お姉ちゃん何見てるの?」
 琴音が、彩音のパソコン画面の前まで行く。
「これって、シュウとブレイグじゃない」
 彩音のパソコンの画面には、シュウとブレイグの画像が載っていた。
「うん。ブレイグについて、ちょっと調べたい事があったから。あとシュウ君のデータもいろいろと知りたいし」
「ふ~ん……」
 と、琴音は何故かニヤニヤと笑う。
「な、なに?」
「お姉ちゃん、随分とシュウの事気になってるみたいじゃない?」
「えっ!?」
 琴音の発言に、彩音は過剰に驚く。
「な、何のこと?」
「惚けたってダメだよ。今日のお姉ちゃんの態度見ればすぐ分かるもん。それに、家に帰ってまでパソコンでシュウを見てるなんて」
「そ、そんなんじゃないよ!私はただ、クラブのメカニック担当として……!」
 顔を真っ赤にしながら、ワタワタと懸命に両手を振りながら慌てて否定する。
 そんな彩音を見て、琴音は腹を抱えて笑い出した。
「あはははは!!お姉ちゃんってほんと単純だよね~!!」
「も、もぅ!変な事言わないで!」
「ごめんごめん!……まぁ、お姉ちゃんの気持ちも分かるんだけどね」
「……」
「あいつは、バカでどうしようもないけど。真っ直ぐ良い奴だよ。……誰かさんみたいに」
「わ、私、お風呂入ってくるね!」
 これ以上話を長引かせると自分が不利になるだけだと感じたのか、彩音は素早く立ち上がって扉へと歩いていく。
「お姉ちゃん」
 その背中に、琴音が静かに語りかける。その声色にさっきみたいなからかいの雰囲気はなかった。
 ドアノブを持ったまま、彩音は止まる。
「あたしは、さっきのお姉ちゃんの顔、好きだな」
「……」
 彩音はそれに返事はせず、静かに扉を開いた。
 浴場。
 濛々と上がる湯気の中、彩音が憂いな表情で湯船に使っている。
「ふぅ……琴音ちゃん変な事ばっかり言うんだから……」
 “あいつは、真っ直ぐで良い奴だよ。誰かさんみたいに”
 誰かさん……琴音が誰を指しているのか、彩音にはよく分かっていた。
 だけど……。
「私は、そんなんじゃ……」
 “ありがとうあやねぇ!これで上手く行きそうだぜ!!”
 今度はシュウの言葉が脳裏で響く。
「……」
 体中が火照っていくのを感じた。これは湯のせいだけではないのだろう。
 だけど、今はなんとなくそれを認めたくなくて、脳裏に響く声から耳を塞ぐように、顔を湯の中に沈めた。
 ……。
 ………。
 そして、翌日の爆球小学校、昼休み。
「はぁ~、食った食った~!」
 給食を食べ終わったシュウは、満腹になった腹を擦りながら、背もたれに寄りかかる。
「おい、竜崎!外で遊ぼうぜ~!!」
 そんなシュウに、田村と吉川が声をかけてきた。
「ん、おう!」
 元気良く立ち上がるシュウ。
「何する?ケイドロ?ろくむし?ひまわり?」
 シュウは一応千葉県出身なので、とりあえず元千葉県民として、外で遊ぶのに相応しい遊びを羅列してみるが、田村と吉川は首を横に振る。
「何野暮な事言ってんだよ」
「俺たちがやる遊びと言ったら、ビーダマンしかねぇだろ?」
 と言って、田村はシアナイトを吉川はマフラーイエローを取り出した。二機とも市販の汎用型ビーダマンだ。
「おっ、いいねぇ~!大賛成だぜ!」
 シュウもブレイグを取り出し、三人は勢い良く教室を飛び出した。
 裏庭。昼休みにボール遊びとかをする児童は大体グランドに行くので、ここはあまり人がいないようだ。
 そこに、シュウ、田村、吉川の三人がどたどたとやってきた。
「なぁなぁ、どんなバトルやる?」
「とりあえず、空き缶集めてきたからさ、バトルボウリングでもしようぜ!」

 田村がMAXコーヒーの空き缶を両手いっぱいに持ってきた。
「おっけー!」
 三人は、MAXコーヒー空き缶を10個並べる。細長く硬い缶なのでボウリングのピンとしてはピッタリだ。
 そして、三メートルくらいの距離をとった。
「おーし、じゃあまずは俺から!」
 田村がシアナイトを構える。
「いっけぇ!」
 じっくり狙いを定めて、空き缶目掛けてショットを放つ!
 カコーーン!
 高い金属音を出して空き缶が4本吹っ飛ぶ。
「う~ん、4本か……」
「まぁまぁだな。まっ、俺のショットを良く見とけ……!」
 今度は吉川がシュート位置に立つ。
「いっくぜぇ、俺のマフラーイエロー!」
 マフラーイエローのホールドパーツをシメつけて、パワーショットを放つ!
 バゴーーン!!
 田村の時よりも派手な音を立てて、空き缶が6本吹っ飛んだ。
「おっしゃ!俺の勝ち!!」
「ちぇ~、パワーはお前の方が上か」
 得意気にする吉川に対して悔しそうに口を尖らせる田村。
「じゃ、次は俺の番だな」
 シュウが名乗りを上げて、シュート位置に立つ。
「あ、そういえば竜崎のバトルってまだ見た事なかったよな」
 今更のように田村が言う。確かに、ビーダマンの話はするが、ビーダマンで遊ぶのはコレが初めてかもしれない。
「へへへ、ヒンメルに挑戦するとか言うその腕、見せてもらおうじゃねぇか?」
 吉川がニタニタと笑いながら挑発する。
「へっ、よーく見てろよ!これが、俺とブレイグのパワーだ!!」
 ザッ!
 シュウは地面を踏みしめて体を安定させ、ホールドパーツをシメつける。
「いいいいっけえええええ!!!」
 バシュウウウウウ!!
 シュウのパワーショットが空を裂きながらカッ飛んでいく。
 ドガアアアアアア!!!
 その凄まじい威力のショットは、空き缶10本全部をぶっ飛ばしてしまった!
「……」
「……」
 田村と吉川は、唖然としながら、地面に転がる空き缶を眺める。
「どぉだ!これが俺のパワーだぜ!」
 という、得意気なシュウに対してもまともに反応しきれない。
「りゅ、竜崎、お前……」
「なんっつーパワーしてるんだ!?」
 ワンテンポもツーテンポも遅れて、二人がようやく驚愕する。
「なははは!このくらい軽い軽い!」
「そういや、お前のビーダマンって特別なオリジナルビーダマンなんだよな」
 ブレイグがオリジナルビーダマンだと言うのは、シュウが転校してきた日に二人とも知っている。
「それにしても、ここまでパワーに差があるなんて」
「おいおい、でも俺の力だって……!」
 さっきのパワーショットがブレイグの力によるものだけみたいな言い方なのにシュウはちょっと不満気だ。
 しかし、二人は聞いていない。
「なぁ、俺にもちょっと使わせてくれよ!」
 吉川がシュウからいきなりブレイグを奪い取る。
「あ、勝手に!」
「いいだろ、減るもんじゃないし」
 吉川がブレイグを構え、トリガーを押す……のだが、撃てない。
「あ、あれ……ぐぐっ!」
 思いっきり力を込めて、ようやくビー玉が発射されたのだがそのショットはあらぬ方向に飛んでいき、備え付けの池の中に落ちてしまった。
「あっちゃ~……」
 田村が額に手を添えて呆れる。
「竜崎お前、こんなの撃ってたのかよ」
「う、うん……そんなに、違うんだ。俺のビーダマン」
 吉川からブレイグを返してもらい、改めて愛機を見るシュウ。
 そもそもブレイグ以外で撃ったことがあるのはヴェルディルだけなので、他との扱いやすさを比較した事があまり無いのだ。
「一体どんな仕様なんだ、そのビーダマン」
 田村がそう聞くのだが、シュウは返事に窮する。
「う~、俺もあんま意識した事なかったからなぁ……」
 後頭部をポリポリかきながらシュウは苦笑いする。
「なんとなく、パワー型だろうなってのは分かるんだけど」
「まぁいいや。じゃあ次は連射競技にしようぜ!それだったら公平になるだろう」
 ブレイグが一般機よりも優れていたとしても、パワー型だとしたらパワー競技でなければ性能差は縮まる。
 そう考えた田村は連射競技を提案した。
 空き缶を10本、横一列に並べる。どんなにパワーショットをぶつけても、一発で一本しか倒せないような位置だ。
「じゃあ、今度は連射で10本倒した時のタイムで勝敗を決めるぞ!」
「おっけー!」
「連射はちょっと苦手なんだけど、やってやるぜ!」
 三人はしばらく連射競技に興じた。
「よし、連射だったら俺の方に分があるな」
 一番成績がよかったのは田村だったようだ。
「くぅ、惜しかったぁ。あとちょいだったのに……!」
 僅差で吉川が二位のようだ。
「俺、ダントツでビリかよ……」
 やっぱりシュウはパワーだけだったようだ。
「だっはっはっは!やっぱバトルは人の腕なんだよ腕!オリジナルビーダマン使ってりゃ良いってもんじゃないのさ」
 二位だったくせに何故か吉川は威張って高笑いした。
「くそー、ロクにブレイグ撃てなかったくせに……!」
「なんだとぉ~……!」
「ほんとの事だろ~!」
 吉川とシュウがにらみ合う。そこを田村がなだめる。
「まぁまぁ。でも、ブレイグのあの発射抵抗であれだけの連射が出来るんなら大したものだよな」
「そりゃ、まぁ確かに」
 ブレイグの発射感を体験した吉川は田村の言葉に納得する。
「でもパワーだけ強くてもダメなのかなぁ」
「そりゃね。でもそこはセッティング変えるだけでも違うから」
「セッティングかぁ。パック変えたりマガジン付けたりとかならした事あるけどあんまり細かくなるとよく分からないんだよなぁ……」
 まともにブレイグを弄ったのは、ブレイグが故障したあの時くらいなものだ。
 普段はノーマルのまま特に弄らずに戦っているからセッティングもブレイグの仕様も実はあまりよく分かっていないのだ。
「さて、と。そろそろ昼休みも終わるな」
「あ、もうそんな時間かよ!急がねぇと!」
 そう言って二人は、ビーダマンを分解しだす。
「って、何やってんだ?!ビーダマンバラバラにして……!」
 二人の行動の意図が分からずにシュウは狼狽した。
「なにって、メンテに決まってんだろ」
 シュウに対して、吉川はシレッと応える。
「バトルした後は、こうやってメンテナンスして機体を休ませてあげるんだ。じゃないと本来の性能を発揮できなくなったり、疲労が蓄積して故障の原因にもなるからね」
「そ、ビーダマンだって人間と同じように疲れたらちゃんと労ってやらないとな!大事な相棒なんだから」
 二人とも、本当に大事そうに丁寧にメンテナンスをしている。自分の扱うビーダマンを本当に愛しているんだという事がヒシヒシと伝わってくる姿勢だ。
「メンテかぁ」
 そう言えば、まだメンテのやり方すらまともに知らなかったりする。
「お前はやらないのか?」
「あ、いや。俺は、今何も道具持って無いし。放課後、クラブに行った時にするよ。優秀なメカニックもいるし」
「そっか。でもメンテ用具くらい持ち歩いてた方が良いぞ」
「うん、次からそうする」
 と受け答えしつつ、シュウはいそいそとブレイグを懐にしまった。
 そして放課後。HR終了と同時にシュウは寄り道せずに真っ直ぐにクラブへ直行した。家に帰らずにクラブに行ってる時点で十分な寄り道なのだがね。
「こんにちは~!」
 元気良く扉を開ける。
 中には既に、タケル達三人が揃っていた。
「おっ、シュウ来たな、待ってたぜ」
「おかえり、シュウ君」
「相変わらず無駄に元気ねぇ……」
 三人が口々にシュウへ挨拶する。
「あ、珍しく皆揃ってる……そだ、あやねぇ!ちょうどいいところに!」
「私?」
 シュウはあやねぇの方を向く。
「あやねぇにお願いがあるんだ!俺にメンテナンスの仕方とか、いろいろ教えてくれないかな?」
「え?」
「ほら、前に教えてくれるって言ったじゃんか。それに、俺まだブレイグの事よく分かってない部分多いし。自分の大事な相棒だからさ、ちゃんと知っておきたいんだ!」
 シュウの目は真剣だった。それに対して、彩音は柔らかく微笑むと快く承諾した。
「そう言えば、約束だったもんね。分かった、じゃあ今から教えてあげるね」
「ありがとう!」
 承諾してくれた彩音に、シュウは心からお礼を言った。
「しかしどういう風の吹き回しだ?」
「俺、ブレイグの事大切な相棒とか言っておきながら、まだメンテの仕方もブレイグの仕様も知らないままだからさ。
ビーダマンのメンテしてる友達見てたら、こっちの方もしっかりしなきゃなって思って」
「なるほどな。まぁ、まだお前は初心者だし基礎をキッチリ固める事の方が先決か……しかし、今日はお前も練習に加わってもらう予定だったんだがな」
 タケルは少しガックリする。
「まぁ仕方ないんじゃない。とりあえず昨日みたいにあたしと二人で練習しよう」
「そうだな」
 シュウにはタケルと琴音の会話の意味が分からない。
「え、何かするの?」
「チームプレイの練習だよ。大会に向けての」
「チームプレイ?」
 ビーダマンの練習にチームプレイと言う単語がイマイチ結びつかない。
「あ、そっか。ヒンメルの事ばっかで言ってなかったな。次の大会は、三人一組のチーム戦なんだよ。チームワークが一番大事ってわけだ」
「へぇ。ビーダマンってチームでも戦えるんだ、初めて知った」
「そういう事。メンバーは当然俺と琴音とお前だ。ヒンメル打倒も大事だが、まずは大会を勝ち抜かないと話にならないからな」
「そっか、確かにヒンメル倒すことばっか考えてたけど、そもそもヒンメルと戦うためには大会に優勝しなきゃダメなんだもんな。
う~、だとしたら俺も早くチーム練習しないとなぁ……!」
「まぁ、まだ時間はあるんだ。今は基礎をしっかり学べ」
「うん、そうするよ。悪いな、俺もすぐにチーム練習に加われるようにするから!」
「なるべく早く頼むぜ」
 と言うわけで、タケルと琴音。シュウと彩音で分かれて部活する事になった。
 シュウと彩音は、練習場の隅にある机について、ビーダマン講座をする事になった。
「イマイチ、メンテナンスって何やればいいのか分からないんだ」
「そうね……一口にメンテナンスって言っても、機体の持っている機能によって必要なメンテナンスは変わるの」
「ふむふむ」
「ラバーを搭載したホールドパーツだったら、磨耗するたびに交換しないといけないし。ローラーやギアにはちょくちょくグリスを差さないといけない。
グリップ部分が汚れてたりすると発射が安定しなくなるから、外装は常に掃除しないといけないしね」
「なるほど……って事は、まずはブレイグについて知らないといけないのかなぁ」
 手に持ったブレイグを目の高さまで上げて、眺めるシュウ。
「うん、そうね……じゃあ、分解して一つ一つパーツを見ながら説明しようか」
「うん!」
「ちょっと貸して」
 シュウは彩音にブレイグを渡した。
 彩音は丁寧にブレイグを分解し、パーツの一つ一つを机の上においていく。
「まず、ビーダマンを構成するパーツは、ヘッド、アーム、フット、コア、パック、トリガーの6種類から成り立っているの」
「ふむふむ」
 彩音はブレイグのアームを手に取る。
「このアームパーツは、ビーダマンを持つためのグリップの役割をするパーツよ。形状によって持ちやすさに影響が出るの」
「ブレイグのアームって力が入りやすくてシメ撃ちしやすいんだよなぁ」
「そうね。後、このアームにはホールドパーツの広がりを矯正する効果もあるみたい」
「広がりを矯正?」
「そう、つまり付けるだけで威力が上がってるの。ブレイグのパワーの秘密はコレね」
「へぇぇ、そんな機能があったんだ」
 ブレイグの意外な機能を知って、シュウはマジマジとアームを見つめた。
「このアームパーツは一番ビーダーの手が触れる場所だから、バトルのあとはしっかり吹いてキレイにしてあげてね。
汚れが付着したままだと、グリップ力が下がっちゃうから」
「うん、分かった!」
 次にフットを手に取る。
「次はフットパーツ。これはステージ系の競技の時にビーダマンを接地させるパーツで、安定性や機動力に影響するの」
「なるほど。ブレイグのフットには何か特別な機能はついてないの?」
「う~ん、普通パワー型ビーダマンはフットには特徴的なギミックは積まないからね。ブレイグのフットに特殊な機能は無いみたい」
「そっか……」
「フットパーツも底面が汚れやすいから、バトルの後は掃除してあげてね」
「なんか、大変そうだなぁ……」
 次は、コアを手に取った。
「次はコアパーツよ。ビーダマンの中心部で最も大きく性能に影響するパーツなの」
「ビー玉を発射する部分だしね」
「うん。コアパーツは、ホールドパーツと外装の二つで出来ていて、ホールドパーツはビー玉を発射するエッジ、外装前方に露出してシメ撃ちが出来るパッド、後ろに伸びてるのがパックやトリガーパーツと干渉するカウンターレバーの三つの要素から成り立っているの」
「へぇ、いっつもシメつけてる部分はパッドって言うのかぁ。んで、ブレイグのアームがシメつけてる部分はエッジって事?」
「うん、そう。あと、ホールドパーツの硬さや外装の形状で、パワー型か連射型かコントロール型かが決まってくるの」
「ブレイグはどんなタイプなの?!」
「ブレイグは、通常の水平二本爪に加えて下に一本爪を追加したトライアングルホールド。三本の爪で強力なパワーショットを撃てるようになってるわ」
「やっぱパワー型だよなぁ~!」
 ブレイグがパワー型だというのをメカニックの口から聞けて、なんとなく嬉しかった。
「ただ一つ、気になる点があるの」
「なになに?」
「どうして、下爪がラバーじゃないんだろうって……」
 ブレイグの爪は三本とも同じ素材だ。
「ラバーじゃないとマズイの?」
「マズくはないんだけど、普通三本爪の場合は下爪をラバーにしてドライブショットを撃てるようにするのがセオリーなんだけど」
「ドライブショットの方が強いの?」
「ラバーをつけると発射抵抗が増えるし、初速も下がるから一概には言えないけど。
ドライブ回転をかければ、遠距離になっても速度が落ちにくいし、回転が掛かってる分無回転よりも威力は高いはずよ。実際タケル君のレックスはドライブショットを撃てる仕様だし」
「そっかぁ……じゃあ、なんで無回転なんだろう?」


 ホルパーの事ばかり気にしてても進まないので、次にパックを手に取った。
「パックは、コアの後ろの下半分に取り付けるパーツよ。フットパーツと同じように、路面に接地して機体の後ろを支える事が出来るの。
更に、内部のパワーチップがカウンターレバーと干渉して威力を上げてるの」
「あ、それなら取り替えた事ある!確か、パワーチップっていろいろ種類があるんだよね!!」
「うん。全部で5段階。へぇ、パワーチップの付け替えは知ってたんだ?」
「友達が付け替えてるの見た事あるからさ」
 引っ越す前の町の友達の事を言っているのだろう。
 ちなみに、セーフティチップ、セミパワーチップ、パワーチップ、ハイパワーチップ、フルパワーチップの順番で威力が強い。
 (注)爆スピ内のパックは上部が切り取られていて、カウンターレバーの穴に差し込むようなトリガーパーツ等と干渉しないようになっています。
「じゃあ、次はトリガーね。これはビー玉を押し出すためのホールドパーツに負けないくらいに重要なパーツよ」
「ブレイグのトリガーは、特に機能はないみたいだなぁ」
「まぁ、シンプルな方が扱いやすいからね。
機体によっては、特殊な機構を積んでいたり、トリガーパーツの一部をカウンターレバーの穴に差し込んで威力に影響を与えるものもあるの」
「へぇぇ」
「このパーツは特にコアと擦れるから、ちょくちょくグリスを塗って滑りを良くしてあげると性能が上がるよ」
「なるほど!よし、早速…!」
 グリスを取り出してトリガーに塗りたくるシュウ。
「あぁ!あまり塗りすぎちゃだめ!なるべく薄く、満遍なくね……!」
「うわわっと、む、難しいなぁ……!」
 そして、最後にヘッドパーツを手に取った。
「ヘッドパーツは、文字通りビーダマンの顔で個性を決めるパーツかな。機能的には、照準の付けやすさとか持ちやすさのサポート。
あと物によっては装填のしやすさに影響を与えるものもあるの」
「へぇ。ただの飾りってわけじゃないんだ」
「……」
 ブレイグのヘッドを手に取ったまま、彩音は神妙な顔をする。
「どしたの?」
「このヘッドも不思議なのよね……」
「?」
「ちょっと、コレを見て」
 言って、彩音は小型のノートパソコンを取り出した。
 モニターをつけると、そこにはシュウと琴音が映っていた。
「あれ、これってこの間の……?」
「うん、前にシュウ君と琴音ちゃんが戦っていたのを記録してたの。昨夜、それをチェックしてて気付いたんだけど……」
 モニター内で、シュウがビー玉を発射した瞬間で彩音は映像を止めた。
「この瞬間、シュウ君の髪がなびいてるの、分かる?」
「え……あぁ、確かに」
 シュウは短髪なので分かりにくいのだが、確かに発射の反動だけにしてはいように髪が逆立っているように感じる。
「それと、ブレイグのヘッドも見てみて」
 次に彩音は映像をスロー再生した。
 すると、ブレイグのヘッドについている光の刃がゆっくりと小刻みに動いているのが分かった。
「ヘッドが動いてる!?」
「ブレイグがショットを撃つ度に、シュウ君の髪とブレイグのヘッドの一部が動いてるの。多分、強力な風が巻き起こってるんじゃないかな?」
「言われて見れば、撃つ度になんか風を感じるかも……でも、それがどうかしたの?」
「さっきの話に戻るんだけど、もしかしたらブレイグがドライブショットを撃たないのって、この風を起こすためじゃないかな?」
「えぇ!?でも、どうやって……!」
「無回転のショットは乱気流を巻き起こす。それを刃の振動が倍増させてるとしたら、ありえない事じゃないわ」
「そう、なのか……でも、だとしたら何の為に風を?」
「そこまではさすがに……だけどきっとブレイグには何か隠された力がありそうな気がするの」
 それに…といいそうになって、彩音は言い含んだ。
(この機能、やっぱりどこかで……?)
 思案する彩音に対して、シュウは無邪気にブレイグのヘッドを掲げた。
「へぇぇ!やっぱお前って凄いビーダマンだったんだな、ブレイグ~!よ~し、もっともっとお前を使いこなして、絶対に強くなってやるぜ!!」
 そんなシュウを見て、彩音は一旦思案するのをやめて微笑んだ。
「ふふ、じゃあちゃんと手入れして、大事にしてあげないとね。世界に一つしかない相棒なんだから」
「あ、そうだな!よし、じゃあ早速あやねぇに教えてもらった事を実戦だ!!しっかりメンテしてやるからな~!!」
 シュウは、気合いを入れてブレイグのメンテに取り掛かる事にした。
 そんなシュウを、彩音は微笑ましく見守るのだった。
 その頃、ヒンメルが泊まっているセントラルホテルの一室。
 窓際に設置してあるソファの上で、ヒンメルはエンゲルミハルデンのメンテをしていた。
「……」
 丁寧にミハルデンのボディを磨いているその瞳には、特に何の感情も抱かれていない。
 そんな時、扉のノックが遠慮がちに叩かれた。
「ヒンメル様、よろしいでしょうか?」
 外から、初老の男の声が聞こえる。
「いいよ。入ってきて」
「失礼いたします」
 静かに扉が開き、スーツ姿の男が現れる。ヒンメルの執事か何かだろう。
 多少白髪混じりだが、整えられた短髪に物腰のやわらかな雰囲気。それで居て、瞳には隙の無い鋭い光が見える。
 年齢はそこそこいってるのだろうが、若さには無い力強さを持っている印象だ。
「ヒンメル様。ビーダマン東京都大会へ出場する全チームの登録が完了いたしました。こちらが、その資料でございます」
 執事が、一枚の紙をヒンメルに渡す。
「ありがとう、ルドルフ」
 執事の名はルドルフと言うらしい。
 ヒンメルは受け取った紙をじっくりと眺める。
「ヒンメル様。お言葉ですが、本当にあのような特典を呈示する事を承諾して、よろしかったのですか?
提案した協会の人間はただ、ヒンメル様を客寄せパンダにしたいだけかと……」
「別に構わないよ。僕はただ、戦うだけだから。いつもと同じように、戦えばいいだけだから……」
「さようで、ございますか……」
「ルドルフ。もう下がっていいよ。メンテナンスに集中したいんだ」
「……はい、かしこまりました」
 ルドルフは一礼して、部屋から出て行った。
 再び一人になり、静かになった部屋の中でヒンメルは受け取った資料をテーブルに置いて、再びミハルデンのボディを磨く。
「……」
 その瞳にはさっきとは違い、ほんの僅かだが喜びや楽しさと言った感情が込められているようだった。
 チラッと、ヒンメルはテーブルの上に置いた資料に視線を移す。
 そこには、仲良しファイトクラブの登録メンバー『竜崎修司』の名があった。

     つづく

 次回予告

「さぁ、いよいよヒンメルカップ開催だぁ!絶対に優勝して、今度こそリベンジ決めてやるぜ!!
そして始まった予選は、なんと遊園地を使った大規模なバトルだった!
おっしゃ、ワクワクしてきたぁ!!
 次回!『準備万端!挑め、ヒンメルカップ!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!」

 

 




オリジナルビーダマン物語 第7話」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: オリジナルビーダマン物語 第6話 | ユージンの競技玩具ライフ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)