shoot12「責任」
千葉県『正本クリニック』。このカード争奪戦の首謀者である綾川まゆみの病室で全ての真相を知り、過去を思い出した千春はこの戦いの責任は自分にあったのだと愕然としてしまう。
「今度こそ私を救ってね、ちはちゃん」
まゆみの意識体が消えた後も、その言葉は千春の耳に深くこびりついていた。
これ以上病室にいても仕方がないので、椎奈は千春を促して病室から出てエントランスへ向かった。
無言で歩く二人。
千春の表情は暗く、口も閉ざされている。そんな千春を心配そうに見ながらも、椎奈はかけるべき言葉が思い浮かばないでいた。
エントランスから外へ出た時だった。
何やら駐車場が騒がしい。
けたたましいサイレンとともに救急車が玄関へ辿り着く。
救急車の後ろの扉が開かれ、複数人の隊員がスロープからローラー付きのベッドを慎重に下ろしている。
その、ベッドの中で横になっているのは顔に傷のついた金髪の少女だった。
千春はその姿を確認すると駆け寄った。
「アリスさん!!」
ダッ!
「ちょ、ちょっと君!」
「ごめんなさい!知り合いなんです!」
やんわりと制止しようとする隊員を振り切ってベッドへ近づき、アリスの顔を覗き込む。
「……あぁ、月の……」
千春の姿を確認するとアリスは嬉しそうに微笑んだ。
「アリスさん!どうして……!」
「へへ……しくっちまった……あいつ、とんでもなく強ぇな……気を付けろ、このバトルに参加した以上……あいつに食われるだけだ……!」
「アリスさん……」
「悪ぃな……もう一度お前と、バトル、したか……った……のに」
途切れ途切れにどうにか言葉を紡ぐと、アリスはゆっくりと目を閉じた。
「……」
千春もこれ以上迷惑はかけられないとゆっくりその場を離れると、隊員達が慌ただしくヘッドを院内へと運んでいった。
その様子を見送り、千春は再び椎奈と駅までの道のりを歩く。
足取りは重く、口数は少ない。
「何か解決策が見つかるかとも思ったけど、振り出しに戻っちゃった感じね」
「うん……」
「でもきっと何か手があるはず。諦めずに探すしかないわ」
「うん……」
「とにかく、今出来ることはそのための時間稼ぎね。私達含めて誰もカードの枚数が10枚にならないように、そしてもちろん0枚にもなっちゃいけない。こう着状態が続けばこれ以上犠牲者は出ないはず。もちろんあまり長引かせると綾川まゆみの命が危ないから、向こうも何らかの手を打ってくると思うけど」
椎奈自身、気が気でないせいかいつもよりも口数が多くなる。
それに対して千春は、押し黙ってしまった。
「……」
「……」
少しの間沈黙が流れ、そして千春が口を開く。
「ねぇ、ドロシー。お願いがあるんだけど」
「え?」
千春は一呼吸置いて言った。
「私と戦って」
その言葉の意味を理解するのにワンテンポ遅れた椎奈は声を荒げる。
「ちょ、話聞いてたの!?ここで私達が戦ったらそれこそあの子の思う壺でしょ!」
「……」
「まさか、今回の件に責任を感じて……カードを10枚集めて、わざとあの子に……?」
「ドロシーが戦ってくれないなら、別の子を探すだけだよ」
椎奈の質問には答えず、千春は話を逸らす。
「っ!あんたがそういうつもりなら、私は許さない!叩き潰してでも止めるからね」
「うん、全力で来て」
怒りを剥き出しにする椎奈とは対称的に、バトルを挑んだ側である千春は静かに頷いた。
千葉県はフリックス発祥の地でもある。
つまり、そこかしこにフリックスバトルができる場所が点在しているのは常識だ。
千春と椎奈はなるべく人気が少ない場所へ移動してバトルを始めた。
「「3.2.1.アクティブシュート!!!」」
ルナ=ルチリアとグラヴィトキシックが激しくぶつかり合う。
その中で、椎奈と千春の主張も激突した。
「あの子が事故に遭ったのはあんたのせいじゃない!こんなくだらない戦い、乗る必要ないでしょ!」
「分かってるよ!私は、罪滅ぼしをしたいんじゃない!」
「何にしても、カードを10枚集めたらあの子と戦うしかなくなる!そんな事になったらどっちかの命が危ないの!私達に出来る最善手は戦いを膠着させて別の手段を探す事だよ!」
「そうかもしれない、けど、私は……私の願いを叶えたいんだ!」
「願い……?」
「私、ルナ=ルチリアを手に入れてからいろんな子達と戦って、気づいたんだ。私の本当の願いに……だからドロシー!私は絶対に勝つよ!!」
千春の目に強い決意の光が灯る。
それを見た椎奈は気を取られてしまい、シュートの冴がなくなってしまう。
「いっけぇ!ルナスクレイパー!!」
その隙をついて、千春は必殺のスピンシュートを放ってマインを弾き飛ばしてグラヴィトキシックへぶつけた。
マインヒットでグラヴィトキシックは撃沈。
千春の勝利だ。
「……強くなったね、千春」
椎奈は満足気に頷くと、千春へカードを渡した。
「……あんたが何を願って戦いに挑むのかは聞かない。けど、信じてるからね」
「ドロシー……ありがとう」
千春は集まった10枚のカードを大切に握りしめると、踵を返して歩き出した。
「……死なないでね、千春」
つづく