shoot11「過去」
そして、二人がやって来たのは千葉県にある大きな病院だった。
看板には『正本クリニック』とある。
椎奈は受付を済ませ、千春を先導して病室棟へ向かった。
「ね、ねぇ、あの子ってもしかして身体が悪いの……それでこんな戦いを仕組んだって事なのかな?」
「その程度だったら可愛いんだけどね……」
そして、目的の病室前に辿り着く。
名札には『綾川まゆみ』と書かれていた。
「綾川、まゆみ……!」
その名前に千春は聞き覚えがあったのか、呆然とする。
「入るよ」
「う、うん」
椎奈に促され、二人は病室に入った。
殺風景な病室、その奥のベッドに一人の少女がいくつもの管で電子機器に繋がれながら眠りについていた。
「こ、この子……!」
「やっぱり、調べた通り……」
その姿は、あの少女と瓜二つだった。
「ドロシー、これって……」
「この子は、サイメタルの力を最も引き出す事が出来た少女だった。でも、ある時研究中の事故で何年も昏睡状態になってるみたい」
「そんなっ!」
ドクンッ!
その時、千春の胸が大きく高鳴った。
脳裏に何かノイズ混じりの映像が浮かび上がる。
”ちはちゃん!ちはちゃん!”
「っ!」
自分を呼ぶ懐かしい声に、千春は額を抑えた。
「どうしたの、千春!?」
「……わたし、この子に会った事が……昔……」
「え!?」
「どうして、忘れてたんだろう……私、助けを求められたのに、逃げて……!」
フラフラと後ずさる千春。
その背中に、フッと冷気のようなモヤを感じ、千春は反射的に振り返った。
「ようやく、思い出したのね」
そこには今まさにベッドの中で眠っている少女と同じ顔、綾川まゆみの意識体が立っていた。
「まゆ……ちゃん……」
「どういう事、千春?」
まゆみと千春の顔を見比べながら聞いてくる椎奈へ、千春は呆然としながらポツリポツリと話し始めた。
「私、小学生の頃に近所の公園で、寂しそうにしてる子がいたから声をかけた事があったんだ。それで、仲良くなって、毎日遊んでたんだけど……その子、日に日にどんどんやつれていって、それで、ある日……暗くなったのに全然帰してくれなくて、『ずっと一緒にいて欲しい』『どこか遠くへ連れてって』ってしつこくお願いされて……私、怖くなって、手を振り解いて逃げたんだ……」
「千春……」
懺悔をするように言い終えると、千春はガクッと膝をついた。
それを冷めた目で見ていたまゆみ意識体は口を開いた。
「あの事故があったのは、その後だった。ちはちゃんに見捨てられたと思った私は精神を乱して、サイメタルはそれに感応して暴走してしまった……実験ばかりで友達も作れず、少しずつサイメタルに身体を蝕まれていっていたあの頃の私にとって、ちはちゃんは唯一の支えだった。助け出して欲しかったわけじゃない。ただ、ずっとお友達でいてくれれば、それだけで救われたのに……なのにあなたは、私を見捨てた」
冷たく刺すような鋭い瞳で千春を見下ろす。
「ごめん、なさい……ごめんなさい……!」
「そんなの、ただの言い掛かりじゃない!それに、それとこの戦いと何の関係があるのよ!あなたの目的は何!?」
俯きながら謝り続ける千春に変わって椎奈が食ってかかる。
「……あの事故で昏睡状態になった私は、サイメタルの力でどうにか意識は保てたの。自由に行動するためにこの意識体を作って、身体を目覚めさせるための方法をずっと模索していた。そしてようやく見つけたの。私と同じようにサイメタルと関わった少女達のエナジーを出来るだけ多くの種類集めて凝縮させたものを取り込む事」
「それで、カードの争奪戦を」
物理的にやり取りしやすくするためにカード化して、出来るだけ多くの種類とブレンドさせるために同じ相手とは一度しか戦えず、2枚までしかやり取りできないと言うルールにした。
これなら全て辻褄が合う。
「そう、この戦いは救済なの。もちろん私だけじゃない、サイメタルに関わった少女達全てにとっても救いを勝ち取るチャンスになる」
そういうと、まゆみは膝をつく千春に目線を合わせた。
「今度こそ私を救って、ちはちゃん」
「っ!」
その囁きに目を見開く千春。
千春の反応に満足げに微笑んだまゆみはスッと姿を消した。
つづく