第33話「飽くなき欲望!デザイアフェニックス!!」
個人戦、チーム戦、海外の大会から選りすぐりのフリッカーを招待して開催された『トリニティカップ』。
その第一試合で、南雲ソウはデザイアを取り込んだフェニックスで圧倒的な力を発揮していた。
『さぁ、いきなり最初のアクティブで凄まじいパワーを発揮したデザイアフェニックス!このまま一方的な展開で終わってしまうのか!?』
大きく弾き飛ばされたナップルセイバーを拾った鳳梨は、あっけらかんと笑った。
「いやぁ、凄いなぁ。今のフリックスはレベル高いや」
「……」
「でも、こっちだってやられっぱなしじゃないぜ」
ソウの異様な雰囲気にもビビらず、と言うよりも気付いていない鳳梨は機体を再セットして不敵に笑う。
『では仕切り直し!3.2.1.アクティブシュート!!』
バシュッ!!
「いけっ!ナップルセイバー!!」
「やれぇぇ!!!」
バシュウウウウウ!!!ガガカッ!!!
再び真正面からぶつかり合う両機。しかし今度は先程とは違い、ナップルセイバーの複雑なフロントが多段ヒットする事で衝撃をいなし、勢い余ったフェニックスはそのまま場外してしまった。
『おおっと!今度は鳳梨君がやり返す!!ナップルセイバーの特性を利用してフェニックスを受け流した!!』
観戦席のゲンジ達。
「すげぇ、あのソウ相手に……!」
「何者や、あのフリッカー?」
「豊本鳳梨……第7回GFC準優勝者、相手に合わせて柔軟な闘い方が出来る技巧派フリッカーだったんだって。その大会の後は引退してて、今回が久しぶりの復帰戦みたいだけど……」
ユウスケはネットで情報を調べていた。
「第7回って言うと、ウチがフリックスやる前の大会やなぁ」
「久々のバトルであそこまで出来るなんて、よっぽどレベルの高い大会だったんだろうな……」
そして試合の方は……。
再度の仕切り直しアクティブで今度はナップルセイバーがデザイアフェニックスを躱し、ソウもそれを読んだのか加減したシュートのおかげで自滅は免れそのままナップルセイバーの先手となっていた。
「いけっ!」
ブランクを感じさせぬ見事なテクニックで鳳梨はマインヒットを決める。これでソウのHPは4。
しかし、返しのターンでソウはデザイアフェニックスの可動アームを変形させてマインヒット。
「ふん」
そのアームはカイザーフェニックスの時のような美しさはなく、細い骨のようなものだったが、それ故により広くより自由な可動でほぼ動かずにマインヒットを決められるようだ。
「デカッ!でもそれなら……!」
当然広くなればその分マインヒット反撃はしやすい。鳳梨は難なく反撃を決める。
鳳梨 HP4
ソウ HP3
このままダメージレースを続ければ鳳梨の有利なのだが……。
「甘い!」
バゴン!!
ソウはフェニックスのアームを閉じてフロントのメタルアッパー刃とその上部のバネギミックでナップルセイバーを飛ばし、フリップアウトさせた。
鳳梨 HP2
ソウ HP3
ダメージレース逆転だ。
観戦席のゲンジ達。
「豊本鳳梨もなかなか食らいついとるけど」
「性能が圧倒的だよ……ドラグナーみたいなメタルフロント、バイフーのグリップ、シェルロードのバネギミック、そしてフェニックスの可動アーム……あれがデザイアの力……!」
「あ、あぁ……でも、なんか変なんだよな」
「変って?」
「確かにソウが使ってんのは、デザイアっぽいんだけど、なんか潁川エンタープライズで戦った時とはちょっと違う気がするんだ。あの時も完璧なデザイアと戦ったわけじゃないし、ソウが使ってるのもアレンジしてるんだろうけど」
言いようのない違和感の正体に悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「それはあのデザイアが、デザイアでありながらデザイアでないからさ」
振り向くとそこには、諸星コウが神妙な表情で座っていた。
「コウ……」
「言ってる意味がよう分からんで」
「確かにあの機体は、デザイアと同じギミックを有し、同じ性能を持っている。だがデザイアがデザイアである所以、つまり『誰が使っても最強になれる』ための根幹になるシステムを使っていないんだ。搭載はしているようだが」
「根幹のシステム?」
「そうだ。デザイアは超火力のギミックと可動アームをAI制御し、状況に合わせて最適化する事で誰でも強くなれるんだ。だが、それを作動させるためには相応のエネルギーが必要となる。しかし、バッテリーを積んでしまうと規定をオーバーしてしまう。そこで、シュートポイントを介してフリッカーとAIをリンクさせ、脳へ刺激を与える事でフリッカーの潜在能力を引き出しつつ、それによって発する電気信号をエネルギー源にする。それがタツヤの開発した悪魔の発明、デザイアシステムだ」
「フリッカーをバッテリー代わりに……!」
「そ、そんな物騒なもんだったのかよ……!」
「もちろん、そのシステムも四分割してしまえば大した影響はないのだが、どう言うわけかソウが一つに戻してしまった」
「でも、ソウのデザイアはそれを使ってないのか?」
「ソウほどの腕があれば使う必要がない、と言う事だろうが……ならなぜデザイアを使っているのか」
そこまではコウにも分からないらしく、真剣な表情で試合に集中した。
そして、試合の方は。
鳳梨がソウへマインヒットダメージを与えてお互いHP2になっているようだ。
「周りにマインはない!ここでフリップアウトに耐えればまだチャンスはある!!」
「……甘いな。その程度か」
「え?」
「勝利への執念、強さへの渇望のない貴様にこれ以上付き合う気はない!!」
バッ!
ソウは観戦席を振り向き、ゲンジとコウを睨みつけた。
「「!?」」
「よく見ていろ……これが、真の力だ!!!」
そして、ソウはデザイアフェニックスへ念を送るように手をかざした。
すると、デザイアフェニックスのバネギミック部分が分離し念力で操られるように浮揚し、ナップルセイバーの後ろへ接地し、完全に固定された。
「クレイビングルイネーション!!!」
ドンッ!!!!
デザイアフェニックスの突進!
先程設置した分離パーツでナップルセイバーを挟み込み、そして同時にバネギミックが発動する事で……。
ベギャアアアア!!!!
圧力でナップルセイバーを押し潰し粉々に破壊。そしてその欠片が場外してしまった。
『なっ、ふ、フリップアウト……!勝者は南雲ソウ君だ!しかし、なんと言う破壊力!ナップルセイバーは粉々だ!!』
「そ、そんな……!」
呆然とする鳳梨を無視し、ソウは踵を返す。
その様子をゲンジ達は唖然として見ていた。
「な、なんちゅー奴や……」
「あんな戦い方をするなんて」
「あの技、デザイアを倒した時と似てる……弱点を逆に取り込んだのか……!」
「あの技の起動時に使っていたのはデザイアシステムだった。なるほど、万人が強くなるための補助ではなく、己が強化のために利用したと言う事か……それが君の欲望なんだな、ソウ……!」
ゆっくりとした足取りで戻るソウだが、急にフラつき蹲った。
(ソウ?)
そこへ、甲賀アツシが咄嗟に現れてソウに肩を貸して一緒に歩いて行った。
「甲賀アツシ……!」
「やっぱりこの件はレッドウィングスの他のメンバーも絡んでるのかな」
ソウの変わり用だけじゃなく、いきなり現れたアツシの存在にも驚きを隠せない。
「とにかく、君達は大会に集中してくれたまえ。デザイアをソウが持っている分には、バンキッシュパンデミックの心配はなさそうだ」
コウは立ち上がり、心なしか疲れているような口調でそう言うと去っていった。
「コウ……」
そして、大会は筒がなく進行していき……。
いよいよ小竜隊の出番となった。
『さぁ、続いての対戦カードは前回の赤壁杯で見事優勝を勝ち取った小竜隊と、中東代表のモルト・カークス君!日本最強チームと中東代表の個人フリッカーと言う異色のバトルは一体どのような化学反応を生み出すのか!?』
対戦フリッカーがステージに上がる。
モルト・カークスと呼ばれたフリッカーは、色黒で小柄な少年だった。
こう言う場に慣れてないのか、ガチガチに緊張している。
「あ、あごががが……!」
まるでロボットのようにぎこちない足取りでフィールドについた。
「うおおおお!モルトーー!!頑張れよおおおお!!」
「しっかりやって、村に錦を飾ってくれえええ!!!」
モルトの身内と思われる人々が観戦席で一際大きな声援を送ってくる。
「うぐごごご……」
ただ、それが余計にプレッシャーなのかモルトは更に身体が硬くなる。
それに対する小竜隊は……。
「とにかく今は勝ち進むしかない」
「せやな!勝っていけばいずれは南雲ソウとも当たれるはずや!」
「HPの振り分けはどうしよう?」
「普通に2で分ければ良いんじゃないか?」
「うちも異議なしや」
簡単に作戦会議をして、試合に集中する事にした。
そして、両者準備完了する。
『それではそろそろ始めるぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』
バシュウウウウウ!!
両者の機体が一斉に放たれる。
「い、いけぇ!マグナムエレファント!!」
「先手はもろたで!!」
ガッ!
ツバサの素早いシュートでマグナムエレファントが加速し切る前にワイバーンが抑え込む。
『先手は小竜隊だ!さすがツバサ君!まさに神速のシュート!!』
「いっくでぇ!!」
既にマグナムエレファントと接してるのでそのまま後ろのマインにぶつかり、難なくマインヒットを決める。
そして、反撃を喰らわないようにドラグナーとアリエスはワイバーン周りのマインを弾き飛ばしつつ三機でまとまって防御力を高める陣形をとった。
「く、くそぉ!!」
モルトは負けじと攻撃するが、そのシュートは届かない。
「なんやガッチガチやん!」
「このまま攻めるぞ!」
バッ!
今度はワイバーンがエレファントを弾き、そしてアリエスがマインを弾き、ドラグナーがスピンしながらマインヒットを決めた。
『収束と散開を繰り返しながら、小竜隊が序盤のリードを広げていく!さすがは日本最強チーム!一方的な展開だ!!』
「く、くっそぉ!!」
必死でアリエスに攻撃を仕掛けるもあっさりと耐えられてしまう。
「どうしたモルトー!気張っていけー!!」
「根性見せろー!!!」
ギャラリー達の応援も更に力が入るが、空回りだ。
小竜隊は順調にモルトのHPを削っていく。
「なんや?中東代表って言う割に手応えがないな」
「しっ、ツバサちゃん!」
思わず漏れた感想だが、相手に聞こえる声量だったためツバサは慌てて口を閉じた。
「うわわ、すまん、無神経やった……!」
「しょ、しょうがないだろ!オイラ、こうやってバトルするのは初めてなんだから!」
「初めて……?」
「オイラの村はまだフリックスが普及してなくて、ずっと一人で練習してたんだ。そんな時、諸星っておじさんがオイラを招待してくれたんだ!大会で活躍すればきっと村でもフリックスが流行るようになるって!」
「……」
「だから、絶対に負けられないんだ!!」
モルトは気合を入れて機体を構える。
「モルト、シュート前は一旦深呼吸して肩の力を抜いた方が良いぜ」
そんなモルトへ、ゲンジは思わずそうアドバイスしていた。
「え?」
「ゲンジ君?」
敵に塩を送るような真似をするゲンジに怪訝な顔をするユウスケとツバサ。
「な、なんでアドバイスなんか……!」
「招待されたって事はそれなりに実力があったからなんだろ?だったら俺はそれが見たい!じゃないと勝ったって意味がないじゃないか!」
「……」
モルトはゲンジに言われるまま深呼吸して肩の力を抜く。
「いくぞ、マグナムエレファント……」
そして落ち着いた表情でマグナムエレファントをシュートした。
「いっけええええ!!!」
ガッ!!
マグナムエレファントの攻撃がドラグナーにヒット!
その瞬間、マグナムエレファントの頭上のポールが振り下ろされてドラグナーの奥にあったマインにぶつかり、そのマインは弾かれてワイバーンとアリエスへヒットした。
『おおっと!ミラクルシュート炸裂!!マグナムエレファント起死回生の隠しギミック二よって、小竜隊を一度に全員マインヒット!!これで全員HP1!チームとしての弱みが出てしまった!!』
チームとして参加する場合は一度に複数人ダメージを受けると一気に窮地に立たされてしまう。これで形勢は分からなくなった。
「や、やった!やったああああ!!!」
ミラクルな攻撃が決まり、モルトは素直に飛び上がって喜ぶ。
「うおおおお!!!」
「いいぞ!モルトおおお!!!」
ギャラリーも湧き立つ。
それはモルトの身内だけではない。全く関係ない他人もモルトのプレイを称賛していた。
「やるじゃねぇか!!」
「見直したぜ!!」
「……オイラのシュートで、皆が」
今まで浴びたことのない歓声に、モルトは喜びつつも戸惑いを見せた。
「へへ、面白いだろ!フリックスバトル!」
「ああ!面白いぞ!フリックスバトル!!」
ゲンジとモルトは笑顔で頷いた。
「って、何敵にアドバイスしとんのやゲンジ!」
「敵なんかじゃないさ。俺達だってこうやって強くなったんだ!」
「……うん、そうだったよね」
「せやったな」
ユウスケもツバサもゲンジの行動に納得し、そしてモルトを見据える。
「今のお前なら全力で勝ちに行けるぜ!覚悟しろよ!!」
「望むところだ!!」
モルトは精一杯の力を込めてバリケードを構えた。
ゲンジはドラグナーを変形させて構える。
「いっけぇぇ!!ドラゴンランストライデント!!!」
バシュウウウウウ、バキィィィ!!
三本の槍がマグナムエレファントに刺さり、バリケードを破壊するほどの勢いでフリップアウトさせた。
『決まったああああ!!!見事なフリップアウトで、勝者は小竜隊!!日本最強チームの腕を見せた!!!』
「やったぜ!!」
「ようやったな、ゲンジ!」
「さすがだよ、ゲンジくん!」
喜びを分かち合う三人。そしてゲンジは一人佇むモルトへ声を掛ける。
「モルト!良いバトルだったぜ、ありがとう!!」
握手を求めるように手を差し出すと、モルトもその手を握った。
「オイラの方こそ、念願のバトルができて楽しかった!一人でやるのも良いけど、バトルが出来るのはもっといいな!」
「そうだろ!やっぱフリックスバトルは楽しいよな!!」
ゲンジの言葉への返事には少し間が空き、そして雫がポツポツと落ちた。
「うん、楽しい!……楽しかった……なのに、オイラ変なんだ、涙がとまらねぇ……!」
手を離し、グジュグジュと目を拭うのだが、それでも涙は止まらない。
「モルト……」
そんなモルトに、かつてソウに負けた時の自分の姿が重なった。
“それが敗北の悲しみだ。そして、強さを求める覚悟だと思え”
「なぁ」
あの時自分がソウに言葉をかけられたように、どうにかモルトにも上手い言葉をかけてやろうとするのだが……。
「うおおおお!!!すげぇぞ、モルトおおおお!!!」
「お前は村の誇りだあああああ!!!」
これまで以上の歓声に包まれてゲンジの声はかき消された。
「み、みんな……」
みんなの励ましを受けてモルトは顔を上げてゲンジへ機体を突き出した!
「オイラ、次はもっと強くなる!今度は絶対オイラが勝つ!!」
そう宣言するモルトの瞳は強さを求めるフリッカーそのものだった。
「あぁ!楽しみにしてる!!」
ゲンジが力強く返事すると、モルトは笑顔を見せて踵を返した。
「強さを求める覚悟、か……」
そんなモルトの背中を見ながら、ゲンジはかつてソウに言われた言葉を呟いた。
(ソウ、お前の覚悟って一体……?)
つづく