第77話「鋼鉄の魂」
千葉市美浜区いなげの浜。
ここではデザートハンターズとTSインテリジェンスの試合が行われていた。
「いけー!マルコーー!!」
バン達はダントツウィナーズの応援を受けながらマルコ達は絶好調だった。
「いやっほー!いけぇ〜パイライトファング〜!!」
『さぁ、ここいなげの浜に特設した特殊フィールド!路面が柔らかな砂地で出来ているこの舞台に両チームともに大苦戦すると思われましたが、デザートハンターズはまるで水を得た魚の如く大進撃!砂地と思えないほどの機動力でTSインテリジェンスを追い詰める!!!』
「ボク達にこんな砂地なんて関係ありまセーン!」
「ティラノデストロイヤーも砂地は故郷のようなものデース!」
「ディープクラーケンはこの潮風が心地良いデース!」
デザートハンターズにとってはホームグラウンドのようなものだ。
一方でTSインテリジェンスとは相性が悪すぎる。
『さぁ、生き生きとしているデザートハンターズに対して、TSインテリジェンスにはいつもの精彩が感じられない!これはフィールドとの相性が悪すぎるか!?』
「衝撃装填率100%、アフターブースト使用可能」
「ですが、路面状況から換算し、攻撃力は50%低下」
「今回は使用を見合わせる。いや……」
デイビットは少し間を置いて言った。
「今回は勝利を見合わせる」
「「ラジャー」」
『おおっとどうした事か?インテリジェンスはあらぬ方向へ機体を向けて……シュートした!?そ、そしてそのまま自滅で撃沈!!何という事でしょうか!あっけない幕引きで、勝者はデザートハンターズ!貴重な一勝をもぎとりました!!』
「いぇーい!!」
ようやく勝てた。その喜びにマルコ達は踊り合って全身で喜びを表現した。
「おーい!やったな、マルコ!!」
ダントツウィナーズ達も友人として駆けつけて祝福する。
「バン!ボク達、やりマシタ!!」
「おう、見てたぜ!良いバトルだった!!」
「凄かったよ」
「サンキュー!次はダントツウィナーズの番です!覚悟してくだサイ!!」
「おっ、言うじゃねぇか!また俺達が勝ってやるさ!!」
仲良く軽口を叩きながら喜びを分かち合っていたが。
突如響いてきた男の怒声によって、その雰囲気はブチ壊された。
「なんだ、さっきのバトルはっ!!!」
バン達はびっくりしてその方向を見る。
「あれは、TSインテリジェンスの……」
インテリジェンスが監督から酷く叱責を受けていた。
「申し訳ありません。フィールドに対して分析不足でした。次はこの結果をフィードバックし……」
淡々と弁明をするデイビットだが、監督は大袈裟な素振りでそれを否定した。
「そうじゃない!そういう事じゃあないんだよ!!俺は負けた事に怒ってるわけでも、その原因の説明を求めてるわけじゃない!」
「……」
監督の言いたい事が理解出来ず、デイビットは口を閉じる。
「何故最後まで全力で戦わなかった!?諦めて、わざと負けるような事をしたんだ!」
「勝敗は既に決していました。あれ以上続けてもメリットは皆無です」
「メリットとかそう言う問題じゃない。さっきの状況だってまだ打開策はあっただろう!俺は指示を出したはずだ!」
「あの指示に従った場合をAIにシミュレーションさせた結果、成功率は10%以下……ならばあれ以上機体に負荷をかけずに次へ備えた方が効率的です」
「そんなものはやってみなくては分からないだろう!戦ってるのはAIじゃない!フリッカーだ!!」
「これが我々のフリッカーとしての戦い方です」
こう言われては、これ以上言う事もなくなってしまうのか、二人ともしばらく押し黙る。
そして、もう話す事はなくなったと判断したデイビットは一礼し、ほかメンバーを連れて去って行った。
「はぁ、どうして分かってくれねぇんだ……」
デイビット達が去った後、監督はガックシと項垂れた。
「あの、大丈夫デスカ?」
そこへマルコが話し掛ける。
「あぁ、君達は、デザートハンターズの、それにダントツウィナーズも……ウチの子達と対戦してくれてありがとう、今日も良い試合だった。しかしすまないね、こんなみっともない姿を見せてしまって」
「いえ、気にしないでくだサイ」
「それにしてもなんか意外だなぁ。いつもテクノロジーがどうとか言ってる奴らの監督だから、もっと、なんて言うか……こんな熱い人だとは思わなかった」
「ははは、俺は雇われの身でな。あいつらの所属してるスクールとは無関係の人間なんだ」
「スクール……」
「イルミナスクール、あそこのカリキュラムとしてフリックスやってる奴らに外部の人間が何言っても聞く耳もたねぇだろ」
「ザキ、お前なんか知ってんのか?」
「昔、な」
「そう!そうなんだよ!!トランスヒューマニズムだか、AIのシンギュラリティを促して人類を導くためだとか意識の高いことばかり!でもフリックスバトルは、そうじゃねぇんだよなぁ!!」
いきなり声を張り上げる監督に一同面食らう。その事を察した監督は咳払いした。
「あぁ、すまんすまん。見ての通り、俺はただのフリッカーでな。俺の考えを押し付けるべきじゃないってのも分かっちゃいるんだ。でも、でもなぁ……せっかくこんなデカい大会に出てるんだから、もう少し楽しんで欲しいんだよな……」
最初は大きかった声も段々と萎んでいく。
「カントクサンは彼らの事が大切なのデスネ」
「あぁ。受け持った以上は本当の子供のように思ってるさ」
「でも、なんか分かる気がするなぁ。やっぱバトルするからには楽しんだ方が良いもんな」
「そうデスネ。ボクらも皆とのバトルは楽しいです!」
「ははは、正直君達が羨ましいよ……それにしても、君達は敵チームなのに仲が良いんだな」
「そんなの当たり前デス!ボクらフリッカーは皆トモダチです!」
「ああ!」
マルコとバンががっしりと肩を組む。
それを見た監督は何か思い立ったのかグイッと二人に迫った。
「そうだ!!君達に折り入って頼みがあるんだが、聞いてくれるかい!?」
「いぃ!?」
グイグイくる監督にバンは思わずたじろいだ。
つづく
CM