第66話「FICS本戦開幕!激闘のマリンスタジアム!!」
アジア大陸予選から数週間後。
いよいよ、FICS本戦リーグ開幕まであと数日に迫っていた。
そんな日の放課後。
「いよいよだな、バン!」
「開催が近づくとなんかこっちまで緊張して来るよ!」
バンは、オサムとマナブと談笑しながら帰路についていた。
「へへ、俺はどんどんワクワクして来てるぜ!あぁ〜、早く戦いてぇ!!」
「相変わらずだなお前は」
「でも頼もしいよ、僕らの代表として」
「代表か……へへっ、んじゃ、今日も練習行ってくるぜ!」
ここ最近、バンは放課後すぐに研究所へ向かってダントツウィナーズの練習に励んでいる。
友達付き合いは悪くなっているが、それに不満を唱える者はいない。
今のバンは名実ともに日本中のフリッカーに応援されるべき立場の代表なのだ。
研究所、特別練習室。
既にリサとザキが練習に励んでいた。
「おっす〜!やってんな二人とも!」
バンが軽いノリでやって来ると、ザキはいきなり苦言を呈した。
「けっ、おせぇよ。今日は来ないかと思ったぜ」
「しょうがねぇだろ、昼間は学校あんだから……ってか、お前らこそ学校はどうしてんだよ」
そもそも義務教育受けるべき児童が平日の真昼間から練習できてる方がおかしい。
「わ、私は通信教育してるから」
「だよな。で……」
ザキの方は……。
「くだらねぇ事言ってねぇで早く準備しろ。大会まで時間がねぇんだ」
「あ、誤魔化した」
「ザキは8歳の時にアメリカで義務教育課程は履修しているからな」
ザキの代わりに伊江羅が答えた。
「8歳で!?」
「ちっ、余計な事言ってんなよ」
ザキの意外な真実を知りながらも、ダントツウィナーズは練習に励んだ。
そして、いよいよ。
……。
………。
千葉県千葉市美浜区マリンスタジアム。
全世界の人間が注目する中、世界中からフリッカー達が集まっていた。
そのステージでバトルフリッカーコウがマイクを持って声を張り上げる。
『さぁ皆んな!!!いよいよだぞぉぉぉ!!!フリックスアレイ史上初の世界大会!フリックスアレイインターナショナルチャンピオンシップが本日から開幕だぁーーー!!!』
全世界から歓声が湧き上がる。
『まずは出場チームの紹介だ!
北アメリカ大陸予選を勝ち抜いたアメリカ代表!TSインテリジェンス!!』
ゴーグルをかけない如何にもエリートそうな佇まいの少年達にスポットが当たる。
(あ、こいつら、前に河川敷で……!)
(やっぱり、FICS出場チームだったんだ)
『彼らはかの有名なトランスヒューマニズム党を率いているアーロン・マスクがオーナーを務めるイルミナスクールを首席で出場している超エリートだ!チーム名同様のインテリジェンスな戦いが楽しみだね!』
(イルミナスクールか……)
ザキが密かに反応した。
『続いては、ヨーロッパ大陸予選を突破したユーロフリッカー騎士団!!
ヨーロッパ各国から高貴なる騎士の末裔が集結したこのチームは、メンバー一人一人が大会優勝候補の実力を備えている!!』
ユーロフリッカー騎士団は威風堂々とした風格で、観客からの人気も高く各所で黄色い声援が上がっていた。
『お次は、アフリカ大陸予選を勝ち抜いたデザートハンターズ!
広大なサバンナを駆け巡る野生児達の雄叫びが世界のフィールドでも轟くのだろうか!!』
デザートハンターズは小柄で色黒な如何にも野生児といった感じの少年たちの集まりだ。
『続きまして、南アメリカ大陸予選を突破したブラジル代表のデウスリベンジャーズ!
大陸予選を圧倒的力で突破したと言う事以外、全てが謎に包まれている!しかし、熱いバトルを見せてくれる事は間違いなさそうだ!!』
フードを深く被り、顔もよく見えない少年たち。
まるで、何かやましいことでもあるのではないかと思わせるほど、なるべく目立たないように身体を縮こませているようにも見える。
が、この盛り上がりの中でその事を気にするものはいなかった。
『最後は大本命!!日本代表のダントツウィナーズ!!先日行われたアジア大陸予選の激闘は記憶に新しい!フリックス発祥の地日本を代表するものとして、世界を相手に堂々としたバトルを期待しているぞ!!!』
「あったりまえだぜ!!ダントツ1番は俺達だ!」
『以上5チームで、これから半年かけて各チーム3回ずつ戦う総当たりで優勝を決定するぞ!勝っても負けても最後までどこが優勝するか分からない!最後の最後まで応援よろしく頼むぜええええ!!!』
こうして、大歓声の中で開会式が終わり、早速最初の試合が組まれた。
ダントツウィナーズの相手はTSインテリジェンスだ。
「へっ、いきなりお前らと当たるなんてな!容赦しねぇぜ!」
バンは友好的に話しかけるのだが、インテリジェンスの三人はそれをスルーしてブツブツと話し合っている。
「……フィールドタイプノーマル、サイズラージ、路面コンディションドライ」
「過去のデータから判断し、ダントツウィナーズのバイオリズムは良好でしょう」
「予定通り、作戦はベーシックでいく」
「「ラジャー」」
「なんだあいつら。訳分かんねぇ事ブツクサ言いやがって」
「……」
「けっ」
『さぁ、両チームともに準備はOKかな?』
ダントツウィナーズとインテリジェンスが機体をセットする。
『そんじゃ、いくぜ!記念すべきFICS最初のシュートだ!3.2.1.アクティブシュート!!』
「いっけぇ!ビートヴィクター!!」
「プロミネンスウェイバー!」
「ダークネスディバウア!」
バシュウウウウウ!!
六機の機体が一斉にフィールド中央へ向かう。
バーーーン!!
激しい衝撃、その中で1番奥へ進んだのはプロミネンスウェイバーだった。
『先攻はプロミネンスウェイバーか……!?』
「まだだ!」
インテリジェンスのリーダー・デイビットが叫ぶ。
すると、サイバネティックアバターのシャーシからキュルルル!とモーター音とタイヤの摩擦音が響き、フィールド奥へと移動した。
『な、なんと!停止したかに思われたサイバネティックアバターが再始動!更に突き進んで先手を取りました!!』
「な、なんだあの動きは!?」
「内蔵モーターと駆動輪……!」
「それを制御するマイクロチップも入ってるだろうな」
「そんなものをフリックスに搭載するなんて……」
「まぁ、あそこならやりかねねぇだろうな」
「ザキ、何か知ってるの?」
「……来るぞ、気を散らすな」
リサの疑問を無視するザキだが、ザキの言う通り他の事を気にしている場合では無い。
『さぁ、TSインテリジェンスの攻撃だ!』
「Go!サイバネティックアバター!!」
ドンッ!
サイバネティックアバター三機がそれぞれダントツウィナーズ機体にアタックする。
しかし、それは大した威力ではない。
「なんだ?この程度か。大した事ないじゃん」
「いや、よく見て!」
キュルルル!!
再びモーター音を響かせてサイバネティックアバターは方向転換してマインに接触。
『マインヒット!!インテリジェンス、近未来技術を駆使した凄まじいマインヒットだ!!』
「えぇー!そんなんありかよ!!」
「ありなもんはしょうがねぇだろ。とっとと仕留めるぞ!」
バシュッ!!
ダントツウィナーズの攻撃。
しかし、サイバネティックアバターは自動で動いてそれを回避した。
「自律ステップ!?」
「ズルすぎるだろ……!」
インテリジェンスのテクノロジーに翻弄されるダントツウィナーズ。
「「「Go!サイバネティックアバター!!」」」」
バシュッ、バチィン!
再び次のターンでマインヒットを受けてしまった。
「ぐっ!」
「このままじゃ、完敗だよ……」
「ふざけやがって……!」
「落ち着け皆」
その時、耳に付けていた無線から伊江羅博士の通信が届いた。
「伊江羅博士」
「行き過ぎたテクノロジーには相応の代償が付き物だ。精密機械の繊細さは本来フリックスのような格闘ホビーには向かない。敵の動きに惑わされず正攻法で攻めろ」
それだけアドバイスして通信は切られた。
「正攻法で……」
「そうか。あれだけのテクノロジーをレギュレーション内に収めてるって事は、純粋なおはじきとしての性能をかなり犠牲にしてるはず」
「なるほどな。ならアレで一気に仕留めちまえばいいって事だ」
「そっか!よーし、やろうぜ!!」
バッ!
ダントツウィナーズは息を合わせてシュートした。
バンはヴィクターをウェイバーのサイド目掛けて放ち、そしてザキもその反対側を狙ってスピンシュートする。
カッ!!
三つのフリックスが衝突した時、爆発的な衝撃波がフィールドに巻き上がった。
「「「フェイタルブラスター!!!」」」
バゴォォーーーン!!!!
如何に自走しようとフィールド全体を攻撃されては逃げ場がない。
サイバネティックアバターは三機ともに呆気なくフリップアウトしてしまった。
『出たーーー!!!アジア大陸予選でも見せてくれたダントツウィナーズの新たなる合体技!!!サイバネティックアバターはたまらずフリップアウトだ!!!』
「へっ、テクノロジーに頼り過ぎてフィジカルが鈍っちまってるようだな」
「……」
やられたにも関わらず、インテリジェンスは冷静だった。
「データ獲得。スキルネーム『フェイタルブラスター』、ベクトル・オールレンジ、衝撃効率120%、使用条件ダントツウィナーズ三機による衝突」
「……良くやった。メインサーバーへデータを転送しろ」
「ラジャー」
「しかし、サイバネティックアバターに異常発生。今の衝撃で電送系に接触不良確認です」
「構わない、目的は達成した。あとは機体へ負荷をかけないよう試合を終わらせる」
「「ラジャー」」
何やら密やかに会議をしたのちにインテリジェンスはスタート位置に着く。
『さぁ、追い詰められたインテリジェンス!反撃開始となるか!?』
インテリジェンスがシュートする。
「おっしゃ来やがれ!……なに!?」
反撃に対して身構えるバン達だが、インテリジェンスの動きを見て目を疑った。
サイバネティックアバターは自らの意志でフラフラとフィールドの穴の上に向かい、停止した。
『おおっと!サイバネティックアバターが三機ともに穴の上に停止して自滅!よって勝者はダントツウィナーズだ!!
テクノロジーとフィジカルの対決は、フィジカルに軍配が上がったぞ!!!』
ワーーーー!!
と、盛り上がる観客。しかし、バン達は釈然としなかった。
「なんだ、あいつら……」
「まるで、わざと自滅したみたい」
「……なるほどな」
「なんだよ、ザキ」
「戦いは長ぇって事だ。けっ、くだらねぇ奴らだ」
つまらなそうに吐き捨てて、ザキは踵を返した。
「あ、待てよ!」
バン達もそれを慌てて追いかける。
一方、インテリジェンスはベンチに戻ると、監督と思われるサングラスをかけた大人の男から叱責を受けていた。
「なんだ、あの最後のシュートは」
「すみません。自走機能に異常が出ていたもので」
「なら、そんなものに頼らずに全力でシュートすれば良かっただろう!」
「計算上、あれ以上過剰に負荷をかけては次の試合までに修復出来なくなる可能性があります」
「それでも、最後まで勝ちを模索するのがフリッカーだ……!」
「……問題ありません。目的は達しました。次に勝つための布石は打っています」
デイビットは監督の叱責にも怯まずに言い返す。
「……もういい。しっかりと休んで次の試合に備えるんだ」
監督はため息をついて諦めるように言った。
「はい、ありがとうございました」
デイビット達は感情のない声でそういうと、一礼して去っていった。
つづく
CM