弾突バトル!フリックス・アレイ FICS 第60話「唸れ!フリックス太極拳!!」

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第60話「唸れ!フリックス太極拳!!」

 

 アジア予選に出場するためにインドへ上陸したダントツウィナーズは、フリックスヨガ教室で新たなる知見を得ることができた。
 そして、フリックスヨガの先駆者でありインド代表でもあるヴィハーンは更に世界の広さを教えてくれるであろう人物を紹介してくれると言う。

 翌日、早速ダントツウィナーズはヴィハーンの案内で中国拳法のような道場へ案内された。
 そこでは道着を来た少年少女達が型の練習をしていた。
 ちなみに、伊江羅博士は大会の登録等で忙しいので別行動だ。

「これは、拳法?」
「いや、空手だろ」
「違うでございます。これは太極拳。そしてこの道場はそれをフリックスに活かすフリックス太極拳を指南する所なのでございます」
「へぇ、ヨガの次は太極拳……」
「なんでもフリックスにできるんだな」
 感心していると道場の奥からやや細身だが長身で無駄な肉のないガッシリとした少年がやってきた。
「おお、ヴィハーン!よく来てくれたい!」
「ハオラン、久しぶりでございます。今日は昨日話した通り、日本代表のフリッカーを連れて来たのでございます」
「おお、おお、遥々日本から!いやぁ、丁度大会前に他国のフリッカーと練習試合をしたいと思ってたから丁度よかったい!……っと、申し遅れたい!オイラは台湾代表チーム【拳弾倶楽部】のリーダー、ハオランったい!」
「あ、ど、ども、ダントツウィナーズの段田バンです」
 バン達も軽く会釈をした。なんとなく、ハオランの距離の近さに圧倒された。
 そう言えば台湾は親日の国としても有名だ。彼の人懐っこさは国民性なのだろう。
「私とハオランは古くからの友人でございます。ハオランはフリックス太極拳を世界へ広めるためにここインドにも道場の支部を開いているのでございます」
「普段は自国の道場にいるったいが、アジア大会がインドで開かれるって事になったんで、せっかくだからしばらくはインド支部で指導してるたいよ」
「へぇ、なんかすげぇなぁ!こう言うのだったら出来そうだ!!」
 バンはダッと駆け出して道場生達の見様見真似で太極拳の動きをしてみた。

「はっ!とう!とりゃ!!」
 動きは全く違うが、それでも1発1発に力が篭っており、実際の威力は他の道場生達よりも遥かに高そうだった。

「ほぅ、動きはめちゃくちゃったいが、キレは抜群たい!どうだ、ウチの道場生にならんたい??」
 ハオランがグイグイとバンに迫る。
「い、いや、俺はフリッカーだし……ってか!俺とお前は大会で戦う敵じゃねぇか!」
「関係ないったい!見込みがある奴は大歓迎たい!!」

 シュバッ!!と風の切る音がした。
 見ると、ザキがバンよりも遥かに重く素早く、そして正確な動きで型をこなしている。

「こんなもんか?」
「ほぅ……」
「わりぃが、御託はいい。とっととそのフリックス太極拳とやら、見せてもらおうじゃねぇか」
「ハオラン、そろそろ当初の目的をやるでございますよ」
「……そうたいな。では、この道場生達と100人組手をやるったい!!日本代表と戦えるまたとないチャンス!しっかりと物にするたいよ!!」

「「「唷!!!」」」
 ハオランが道場生達へ呼び掛けると元気のいい返事が返って来た。

「おっしゃ!やるぞー!!」
 100人を相手にした勝ち抜き戦だ。
 ダントツウィナーズからはまずはバンが出ようとするが……。
「待て。お前は昨日散々戦っただろうが。今日は俺の番だ」
「うっ、分かったよ……けどザキ、適当なとこで負けろよ」
「けっ」
「そこは勝つように言おうよ……」

 ザキと道場生がフィールドに着く。
 ヴィハーンがレフェリーをやるようだ。

「では行きます。3.2.1.アクティブシュート!!」

「走!ルインジェット!!」
「ブチかませ!ダークネスディバウア!!」

 バキィ!!
 ザキのスピンシュートがあっさりと相手のフリックスを弾き飛ばし、ダイレクトヒットする。

「え、つよっ!?」
「日本人やべぇ……!」
 ザキの圧倒的強さに場が騒然とする。

 その後も。
「ランタンペリカン!」
「オルカクラフト!」
「グレートクラフト!」
「シフトスピード!」

 次々と道場生が挑むのだが。

「打ち砕け!ダークネスディバウア!!!」

 バキィィィ!!
 と、全てあっさり一撃で倒していく。

「けっ、スクール生の方がまだ骨があるぜ」
 このまま全員倒してしまいそうなザキへ、バンは恨みを込めて泣き言を言う。
「ザキィ……独り占めはずるいぞー……!」
「控えは指咥えてみてろ」

 バンの恨み言を一蹴したザキは、難なく100人突破してしまう。
「ふぅ、どうした?こんなもんか?」
 一息つき、ザキは余裕の笑みを浮かべた。

「ん?」
 そんなザキにバンは違和感を覚えた。
「どうしたの?」
「いや、なんかザキいつもより少し疲れてるような」
「そ、そうかな?」
 全然余裕そうに見えるのだが。本気でぶつかった事のあるバンだからこそ分かる何かがあるのだろうか。

「いやぁ、お見事ったい!さすがは日本トップクラスのフリッカー!道場生達にとっても良い経験になったったい!」
「けっ、前座は終わりだ。そろそろメインと行こうじゃねぇか」
「そのつもりたい」
 ハオランが頷くと、何故か周りの道場生達も不敵にほくそ笑んでいた。

 そして、ささっとザキとハオランのバトルが始まる。

「行くでございます!3.2.1.アクティブシュート!!」

「一撃で沈めろ!ダークネスディバウアア!!」
「砕破!!」

 ハオランのシュートした砕破(さいは)と呼ばれたフリックスはその幅の広いフロントでディバウアの攻撃を受け止めて、そして横へ受け流してしまった。

「なに!?」
「ザキのシュートを、こんなにあっさり!?」
「受け止めて、流す……一回のシュートで二つの動作をこなすなんて」
 驚愕するダントツウィナーズへ、ハオランが説明する。
「太極拳はただの力押しではないったい!時にゆっくり、時に静かに、そして、相手の呼吸を読む……それこそが極意ったい!」
「ちっ」

 それでも先手はザキが取った。
 今度こそぶっ飛ばしてやろうとシュートするザキだが。
 ガッ!
 ステップを駆使されて、先程と同じように受け流されてしまう。
 しかし、ビートヒットで1ダメージだ。
「いくったい!砕破!!」
 バキィ!!
 ハオランの攻撃、そこそこ弾き飛ばしてマインに当てる。3ダメージだ。

「ちぃ!」
 再び反撃に出るが、先程と同じ結果。
 ビートヒットを与えるが、反撃でマインヒットされてしまう。

「はぁ、はぁ、くそ……!」
「ザキが、翻弄されてるなんて」
「でも、こんな程度で息を切らすなんて、ザキらしくねぇ」
 いつもと違う様子のザキに戸惑うバン達にハオランが解説する。
「ふふふ、本来なら圧倒的にパワーで勝るザキにはさすがのオイラも苦戦していた。けど、今のザキは道場生達と戦った後たい」
「はぁ?あの程度の奴ら、何の影響もねぇよ!」
「これが普通の100人ならそうだったい。しかし、太極拳は流れを読み相手へ的確に攻撃を打ち込む。例えどんなに力の差があろうと、可能な限りの影響を相手に残すのたい」
「そうか!それでザキはいつもよりも疲れるのが早かったのか!」
「それでもザキにとっては自覚しないレベルの微々たる物。そこを突いて、最大限に活かせるのがフリックス太極拳ったい!!」
 ザキはなまじ強いからこそ、相手からのダメージに気付きづらい。そして、だからこそそこを突く事のできるフリックス太極拳は相性が良かったのだ。

 バシュッ!!
 ハオランのシュートがディバウアのサイドにヒット。
「ちぃぃ!!」
 グルグルとアームを広げながら回転するディバウアを守ろうとするが、アームの一部がフィールド外に着いてしまい場外。
 これでザキの負けだ。

「小さな力を最大限に活かし、最強の力に変えて敵を討つったい!!」
「くそっ、俺とした事が……!」
 ザキは拳を握りしめて悔しがった。反対にバンは目を輝かせてハオランを見上げる
「す、すげぇ……!フリックスヨガだけじゃねぇ、フリックス太極拳もすげぇ!」
「これが、世界の広さ……」
「おもしれぇ!次は俺が相手だぜ!ハオラン!!」
「もちろんったい!」

 今度はバンとハオランのバトルだ。
「では、いくでございます!3.2.1.アクティブシュート!!」

「いっけぇ!ビートヴィクター!!」
「走!砕破!!」

 ビートヴィクターと砕破がフィールド中央に向かって同時にぶっ飛ぶ。
 その時だった。

「シンプルストライカー!」
「クラッシュオブクリムゾン!」
「スプリングインパクト!」

 シュンッ!シュンッ!と三機のフリックスが乱入してきた。
 その三機は砕破とビートヴィクターへ迫る。

「なに!?」

「っ!ガネーシャッ!!」
 レフェリーとして近くにいたヴィハーンが咄嗟にガネーシャをシュートして三機の襲撃を緩和し、フィールド上に合計六機のフリックスが着地した。

「だ、誰だいきなり!!」
 バンが叫ぶと、入り口から大柄の男たちが3人歩いてきた。

「ここにいたか!破門者、ハオラン!!!」
 真ん中にいたリーダー格の男が叫ぶ。如何にも武闘家と言った感じのガタイの良い男だ。
「っ!ブルース……!」
 ハオランが気まずそうにその名を呟く。
「ブルース?」
「……オイラが昔所属していたフリックス太極拳の祖。中国のフリックス拳法の主ったい……」
 ハオランが説明をすると、ブルースが威圧的に口を開いた。
「そう、貴様のやっているフリックス太極拳は、所詮フリックス拳法の派生!紛い物だ!門外不出の秘術たるフリックス拳法を、破門者の貴様が勝手に道場を構え世界へ発信しようなどとは言語道断!即刻道場を畳み、世界大会への出場も辞退すべきだ!!」
「そ、そんなっ!フリックス太極拳は確かにフリックス拳法から生まれたものったい!でも、今は様々な交流を経て進化をして完全な別物ったい!!」
「それが不味いのだ!!外部からの悪影響を受けて純度が下がり、混血してしまう……そんなものが、フリックス拳法を祖とする派生として存在してはならない!!!」
「世界は進化するものったい!純血を守ってばかりいては、その秘術もいずれ腐ってしまうったい!水は流れるからこそ、その純度を保てるったい!!」
 両者の言い分は平行線。まったく譲る気はないようだ。

「あーもー、うるせぇ!!せっかくフリックス太極拳とバトル出来ると思って楽しみにしてたのに邪魔しやがって!せっかくフリックス出したんだ!手っ取り早くバトルで決めようぜ!!」
「……それもそうだ。丁度3VS3。そちらは異国同士の継ぎ接ぎチームか。混血を重ねて雑種と化したフリックス太極拳には相応しい」
「雑種は時として思わぬ力を発揮するものでございますよ」
「へへっ、面白くなりそうだぜ」
「二人ともすまんったい。妙な事に巻き込んでしまって」
「いえ、ヨガと太極拳のコラボレーション。一度試してみたかったのでございますよ」

「おっしゃー!……で、ターンの順番どうする?アクティブシュートめちゃくちゃだったけど」
「貴様ら雑種チームからで構わんぞ。せめてもの情けだ」
「ちぇ、乱入しといて偉そうに!後悔すんなよ!!」

 こうしてハオラン率いる雑種チームとブルース率いる拳法チームのバトルが始まった。

「よーし行くぜ、ビートヴィクター!」
「ガネーシャ!」
「砕破!!」

 早速バン達が攻撃を仕掛けるが、3人のシュートはてんでバラバラであっさりと防がれてしまった。

「軽いっっ!!重心が全く乗っていない!!」

 バキィィィ!!!
 フリックス拳法チームの反撃でバン達はビートヒットを受けてしまう。

「くっ!」
「所詮は紛い物!純度を失った伝統は駆逐されるのみなのだっ!!」
「そ、そんな事はないったい!オイラはフリックス拳法を抜けて、さまざまな世界に触れてこの太極拳を会得したったい!ヴィハーンやバン達との交流でその技法は更なる極地を得るったい!!」
「そうだ!俺だって、世界のフリッカーと会ってもっと強くなれたんだ!!」

 太極拳、ヨガ、そして日本チャンプとしての力を駆使して異なる力を一つにしていく。

 太極拳の静から動へ切り替わる力。
 ヨガの柔軟性。
 そして、フリッカーとしての純粋なシュート力。

「な、なんだこの動きは!?」

 異なる技術形態からなる予測不可能な攻撃。
 それにブルース達は戸惑い、大ダメージを受けていく。

「そうか、フリックス拳法は閉鎖された一つの技術に固執しすぎていたから、異なる流派に対する耐性がないんだ……!」

 純粋な力ならフリックス拳法も負けてはいないのだが、虚を突かれる形であえなく撃沈してしまう。

「おっしゃー!!」
「ぐ……バカな……こんな邪道に、我ら拳法が……!」
 ブルースは敗北を受けて項垂れる。
「……いや、これもまた正道の形の一つということか」
「ブルース……」
「仕方がない。せめて、恥を晒さない戦いをしろよ」
「もちろんったい!」

 ブルースとハオランは堅く握手をした。

 他国、他流との交流。それによって得られる成長こそがこのFICSが開かれた最大の目的であると、バン達は改めて感じるのだった。

 

   つづく

 

 

CM

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