弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第15話「デザイアの謎 交錯する企み!」

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第15話「デザイアの謎 交錯する企み!」

 

 赤壁杯予選第一ステージサバイバルレース。
 小竜隊とデッドキャッスルは共闘して順調に進んでいたのだが、突如現れた玄武使いホウセンの乱入によってゲンジが分断され、更にギョウが裏切って小竜隊を道連れに海へダイブするようにシュートした。
 絶体絶命の小竜隊!果たして予選通過出来るのか……!

「「「うわあああああ!!!!」」」

 ナスティアラクネアに拘束されたまま、ソニックユニコーンとマイティオーガが宙を舞い、海へと落ちていく。

「ちっ!こいつらと心中なんて冗談じゃねぇ!!行けっ!ニードルセンザンオー!!」
 アラクネアが海に落ちる前にシュウタロウは急いで機体を出した。これでデッドキャッスルはリタイアを免れた。
「ギョウ!今この瞬間をもっててめぇはクビだ!!勝手に沈没してろ!!!」
 ギョウにそう言い放ち、デッドキャッスル達は先へ進んだ。

「……あぁ、勝手にするさ」
 ギョウは虚しげにそう呟くと落ちていく機体を回収した。
「……目的は果たした。これでいいんだ、俺は」
 踵を返してその場を離れていく。

 しかし、小竜隊はそうはいかない。
 このまま海に落ちればリタイアは確実。だが、機体を回収しても残っているのは遥か後方にいるドラグナーのみ。どちらにしても勝ち目が無い。
 ドボン!!
 成すすべなく二機が海に落ちる。
 軽量化してるから即沈みはしないが、それでも沈むのは時間の問題だ。
「うわわわ、どないするんや!?」
「ナガト、念のためにマイティオーガは回収するんだ。軽量なユニコーンの方が沈む速度は遅い」
「分かった」
 言われた通りナガトは機体を回収する。しかし、それでもユニコーンは徐々に沈んでいく。
「くそっ、敵の罠に敢えて乗ってやるとか言っておきながらこのザマとは……すまん、俺の判断ミスだ」
「でも、リュウジさんの読み自体は間違ってなかったし……」
「あんな、自分のチーム裏切ってまでうちらをハメようとするような奴の動きなんか読めるかい」
「とにかく、このまま大人しく沈むのを待ってても仕方ない。少しでも進むしか……!」
 しかし、水上でステップは効かないし、シュートしてもロクに進まずただただ沈んでいくだけだ。

『ゴール!!今、ホワイトホースのイッケイ君、一位で予選通過!続いて、少し遅れてタツヤ君が二位!僅かの差で三位は南雲ソウ君です!!』

 無常に響く実況にリュウジは悔しげに拳に力を入れる。

「くっ、万事休すか……!」
 ザッパァン!!
 その時、ユニコーンの後ろで大きな波が発生したかと思ったら、一体のフリックスがユニコーンを持ち上げて運び出した。

「いけ!スリヴァーシャーク!!」
「なんだ!?」
 見ると、シズキのスリヴァーシャークが水面に浮かび、ユニコーンを乗せていた。
「シャシャッ!大ピンチみたいだな、小竜隊!」
 得意気なシズキをはじめ、江東館メンバーがそこにいた。
「こ、江東館!」
「無事だったんか!?」
 レース序盤に海に突き落とされたと言う実況を聞いていたのでとっくに脱落したと思っていた。
「あぁ、シズキのスリヴァーシャークとリンのウェイバーオルカは水上戦対応機でね。どうにかリタイアせずに済んだんだ」
「まさに九死に一生だ」
 スリヴァーシャークはユニコーンを乗せたままゆっくりと進んでいく。
「水上対応……そういうのもあるのか」
「海の上を進むなんて全然考えとらんかったわ」
「シャッシャッシャッ!恐れ入ったか!!」
「と言っても、効率は悪いけどね。あたしとシズキもバリケード使い切っちゃったからシュートでしか前に進めないし……制限時間に間に合うか微妙な所ね」
 本来は3〜5人でペース配分を考えながら進むようなコースをたった二人で、しかも普通よりも負荷の大きい水上でステップを使ってはすぐにエネルギーを使い切るのは当然だ。
「ごめんなさい、僕らのせいでシズキさんとリンさんに負担かけちゃって」
「別に良いわよ。あんな奴が参加してるなんて考えもしなかったし」
「……インビンシブルソウルのホウセンか」
 リュウジがその名を呟くとサクヤが反応した。
「やはり、君らも彼にやられたのか。奴も四聖獣の機体を使っているらしい。それでバイフーが狙われた。ドラグナーの彼がいないのもそれに関係してるんだろう?」
「……落ちたのは別件だが、そんな所だ」
「今年の赤壁杯は、いつものようにはいかなさそうだな」

『さぁ、残り時間も後わずか!そろそろペースアップしないと後がありません!!』

「シャッ!?やべぇ!!時間がねぇぞ!!」
「シズキ!ペースアップ出来ないのか!?」
「これが限界だって!」

「このままじゃ、江東館まで……やっぱり、僕達は諦めてリタイアした方が」
「……せやな、悔しいけど江東館に迷惑はかけられんわ」
 ユウスケとツバサは諦めムードでせめて江東館に迷惑はかけないように言うが、ケンタがそれを拒否した。
「い、いやだよ!こんな、中途半端に助けて見捨てるような事……!」
「でもさすがに一体乗せたままでペースアップはキツいぜ……!」
「……仕方ない。本当にすまない小竜隊の皆……!」
 罪悪感に苛まれながらも、サクヤはリーダーとしてチームを最優先にする選択を取ろうとするが。

「……確かに、助けられておきながらお荷物になってたら見捨てられて当然だな」
 と言いながらリュウジはフッと笑った。
「なら、俺達を助けて正解だったって事を見せつけないとな」
「え?」
「一か八かだ。君、次のアクティブフェイズで俺と同時シュートしてくれ」
「シャッ?あ、あぁ……!」

 そしてアクティブフェイズになる。
「いけ!スリヴァーシャーク!!」
「いくぞ、一点集中ソニックホーン!!!」

 バシュウウウウウ!!!!
 ソニックユニコーンがフロントの一本角で前方の水面を掻き分けながら進んだ。
 そのおかげで水面の抵抗が少なくなり、スリヴァーシャークは水面を飛ぶように猛スピードで突き進む。

「なっ、速い!!」
「地上進んでる時より速いんやないか!?」
「ソニックホーンが水面を左右に分けて抵抗を少なくして、そこへスリヴァーシャークが高速で進む事で機体の底面に薄い膜が発生して水面から微妙に浮きながら抵摩擦で進めるんだ」
「ハイドロプレーニング現象か!これなら普通のフィールドよりもよっぽど速く進める!!」
「諍い果てての契りとはまさにこの事!」
「これならギリギリ間に合うかも!」

 このペースは凄まじく、見立て通り小竜隊と江東館はどうにか時間前にゴール手前までたどり着いた。

「よし、ゴールが見えてきたぞ!!」
 しかし、再び問題が発生する。
「で、どうやってゴールすれば良いんだこれ?」
「あ」
 ゴールは当然橋の上。そして当然ながら海から橋へ上がる手段などあるはずもなく……どれだけ進んでも、ただ下からゴールを見上げることしかできない。

「くっ!何か手は無いのか?」
「シズキ、あんたジャンプシュート出来ないの?」
「出来るかっ!!」
「……せやっ!トライビーストの合体技や!!」
 ツバサは先程トライビーストが見せた、味方機を攻撃して加速した合体技を思い出した。
「攻撃力の高いフリックスで水面をぶっ叩いて、飛ばすんや!!」
「そうか!同時に叩けばいけるかも知れない!」
「よし、俺達も乗るぞ、ケンタ!」
「うん!」

 この中で攻撃力の高い機体を持つ四人が構えた。

「いけっ!マイティオーガ!」
「やるんや!レヴァントワイバーン!!」
「いくぞ、ケラトプス!!」
「頼むよ、バイフー!!」

 ザッパァァァン!!!
 4機のフリックスが水面を叩く事で大津波が発生し、スリヴァーシャークとソニックユニコーンがそれに乗って飛び上がった。

『さぁ、残り時間が迫っています!!デッドキャッスルとアトランティスが予選突破をかけて激しい鍔迫り合い!!!』

「うおおおおお!!!絶対に通過するぞ!!!センザンオー!!!!」
「兄貴のためにも負けられないっす!!スチールロブスター!!!」
 ガシガシと高速でぶつかり合う二機だが、バランスを崩さずに走っている。
「回転棘を持ったセンザンオーにそんなのが効くか!」
「俺だって、スチールロブスターのボディは頑強っす!!」
「ちっ、そんなら仕方ねぇ」
「自分のゴール最優先っすね」
 お互い蹴落とすのは無理だと悟り、とにかくゴールを目指す。

『時間的に、最後の通過チームはこの二つでしょうか!?……いえ、まだです!!な、なんだこの津波は!?』

 ゴゴゴゴゴ!!!
 ソニックユニコーンとスリヴァーシャークを乗せた津波がセンザンオーとスチールロブスターに迫り来る!

『海に落ちてリタイアしたかと思われた江東館と小竜隊です!!何故か発生した大津波に乗ってラストスパート!!』

「な、なんだありゃ!?」
「い、急がないと巻き込まれるっす!!!」

『ゴール!!デッドキャッスルとアトランティス、同時に予選突破!そして、波に乗った小竜隊と江東館はどうなるのでしょうか!?』

「このまま行くんや!!」
「いや、まずい!!」

 グラ……!
 ゴール手前で波の勢いが弱まり、乗っていた2機がバランスを崩して落ちてしまう。

「くそっ!後一歩で……!」
「シズキ、交代だ!羽ばたけ!エメラルドエイグル!!」

 スリヴァーシャークとエメラルドエイグルが交代、エメラルドエイグルは羽を広げて空中で姿勢制御し、ソニックユニコーンを押し出しながら滑空してゴールへ向かった。

「いいぞ、シメイ!」
「餅は餅屋!空中ならエイグルだ!!」

『ゴーーーール!!そしてほぼ同時にタイムアーーップ!!!ギリギリで小竜隊と江東館も第一ステージ通過です!!!』

「「「やったーーーー!!!!」」」

『激動の第一ステージが今、終わりました!予選通過チームは32組!半分以上がここで篩い落とされると言う過酷なサバイバル!第二ステージはどうなってしまうのでしょうか!?』

 レースも終わり、選手達はロビーサーバーへ移転される。

「皆!!」
 ロビーに戻って、ゲンジは小竜隊と合流出来た。
「ゲンジ!」
「大丈夫やったか?」
「あぁ、なんとか退けたけど、結構損傷しちまった……」
 ボロボロになったドラグナーを見せる。
「でもこのくらいならすぐ修理出来るよ、貸して」
「悪い、頼むユウスケ」
 ゲンジがユウスケにドラグナーを渡した。
「それより、第一ステージ突破できたみたいだな!よかった……」
「ギョウが裏切ってうちらを海に落とした時はどうなるかと思ったけどな」
「ギョウが!?……あいつ、やっぱり改心してなかったのか」
「それどころかデッドキャッスルを裏切ってでも僕らを貶めようとしてきたんだ」
「とんだ食わせもんやったで!」
「江東館が助けてくれなかったらどうなってた事か」
「あ、そういや江東館と同時に突破したんだっけ。あいつらも脱落したと思ってたから、良かった……」

 ゲンジがホッと安心したところで、再びアナウンスが入った。

『では、また2時間の休憩となります。
第二ステージは午後1時よりスタート。ロビーサーバーやプライベートサーバーはそのままですので、ご活用ください。時間までに戻ればログアウトも許可します。また、控えメンバーとの交代は2名までです』

 ある程度の説明が終わり、休憩時間となった。

「さて、どうする?」
「ちょっと早いけど、ログアウトして昼飯にするか」
「あ!だったらラーメン行こうラーメン!本八幡に背脂ギタギタの美味しい店が……」
「わざわざ電車使っていくのもなぁ」
「隣駅なんだからいいじゃん」
「次の試合の準備もあるんだ、移動時間がもったいないだろ」
「っていうか、普通にザイセで良いんじゃないかな」
「千葉県民ってほんとザイセ好きだよな……」
「まぁ、市川はザイセ発祥の地だし」
「マジか!?それは知らんかったわ……!千葉はイタリアンの本場やったんか……」
「そりゃ、千葉県は世界が内包されてるからな」
 小竜隊が昼飯談義でやいのやいのやってる所に、諸星コウがやってきて話しかけて来た。

「やぁ、第一ステージ突破おめでとう。小竜隊のみんな」
 友好的な笑みを見せているが、その腹積りははかりしれない。
「諸星コウ……!」
 思わぬ存在の登場にゲンジは身構える。
「そう身構えられると傷付くな。一応僕は君達の味方側の人間だと思ってるんだけどな」
「一応、ねぇ」
「あぁ、どちらかと言えば一応、ね」
 ゲンジ達の怪訝な視線を否定せず、むしろより肯定するかのような返事をする。こういう所があるからコウの本心は読めない。
「俺達の味方なら、なんでホウセンみたいな危ない奴に玄武のフリックスを与えたんだよ!ケンタと俺はいきなり襲われたんだぞ!」
「……その件も含めて、君達には話しておきたい事、報告すべき事がある。特設したプライベートサーバーへ来てくれ」
「え」
「玄武のフリックスの事、僕が赤壁杯のメインスポンサーになった事、そしてそもそも青龍や白虎……四神モチーフのフリックスとはなんなのかという事」
「……!」
「いきなりえらく核心に迫る事を明かしてくれるんやな」
「まぁ、本当はじっくりといきたかったんだが、思いの外急を要するようになってね。当然、来てくれるだろう?」
「……あぁ!」
 ゲンジは身震いしながらも力強く頷いた。

 そしてコウのプライベートサーバーへ移動する。
 そこには既に江東館メンバーがいた。

「あ、江東館の皆……!」
「君達も諸星コウに呼ばれたのか」
「あぁ。そう言えば、皆のおかげで第一ステージ突破出来たんだっけ?今更だけど俺からも礼を言うよ、ありがとう」
 ゲンジはその場にいなかったので今礼をした。
「いや、助かったのはこっちも同じさ。小竜隊がいなければ俺達も危なかった」
「それより、ゲンジさんもあのホウセンって奴に襲われたんだよね?大丈夫だった?」
「……あぁ、めちゃくちゃ強い奴で、かなり危なかったけど。タイシって奴に助けられて二人でどうにかやり過ごせたんだ」
「タイシって……まさか、あいつか?」
「あぁ、サクヤの事も話してた。頂点を競うって誓いあったって」
「……そうか、あいつも参加してたんだな」
 サクヤは感慨深げにケラトプスを握りしめた。

「おほん」
 コウが咳払いして自分に注目を集めた。
「積もる話があるのは分かるが、今は時間が惜しい。君らに与えるべき情報をこれから話す。質問があれば遠慮なく言ってくれ。中途半端な理解では困るからね」
「……分かった。とりあえず、順を追って頼むよ」
「あぁ。まずは何から話すべきか……そうだな、そもそもの発端から話した方がいいだろうな」
 コウは部屋の端まで歩き、そして壁にモニターを出現させた。
「では、君達に渡した四神モチーフの機体、その元となったフリックスの開発企画『デザイアプロジェクト』についてから話をしよう」
「デザイアプロジェクト……そういえば、ホウセンもデザイアがどうとか言ってたな」

「デザイアプロジェクトとは、遊尽コーポレーションの社長である僕の父、諸星キンジロウとその右腕である潁川トウマ、そして僕の幼馴染であり天才技術者・神宮タツヤの三人で進めていた、謂わば『技術の粋を結集した最強の機体開発プロジェクト』と言った所だ」
「よくある奴やな」
「だが、残念ながらデザイアプロジェクトは凍結してしまった。製品にするには製造コストがかかり過ぎる上に、強度的にも問題がある。更に厄介だったのが、使えば誰でもある程度簡単に強くなれてしまうという事だ」
「コストや強度はともかく最後のは良い事では?」
「誰でも簡単に強くなれてしまうと、競技バランスが崩れてしまうんだ。かつてフリップゴッドの犯した過ち『バンキッシュパンデミック』を引き起こしかねない。いや、それだけならまだマシだ。コストがかかると言う事はそれだけ価格が高騰するし、強度に問題があると言う事は高い頻度で買い替えを要求してしまう。つまり、フリックスの実力関係なく、経済的に優れてるものが有利になってしまう可能性がある」
「あぁ、それは競技として最悪だな……」
「もちろんトップの世界に行けばそんなものは通じないが、人口の大半はトップ以外の人間だからね。彼らの存在を蔑ろにしては世界は成り立たない」
「言い回しが壮大やな」
「でも、確かにそうだよね。皆が皆、個性的な機体が合ってるわけじゃないだろうし」

 『自分に合った機体や戦術で戦う事が1番の最適解』と言うのがフリックスの特徴だが、それでも全てのフリッカーがその域に行き着けるわけではない。
 『誰が使っても簡単に強くなれる機体』と言うものが出てきてしまえばフリッカー自身が向上し自分なりのスタイルを身に付ける努力を怠るかも知れない。しかもそのために大金が必要となれば尚更やる気が失われてしまうだろう。
 そうなれば、界隈の衰退を招きかねない。

「だが、デザイア自体は素晴らしい機体だ。問題点はあるとは言え、日の目を見ずにただ凍結させるだけでは芸がない。そこで僕はデザイアの力を四つに分けて、汎用性を無くす代わりに強度面やフリッカーの個性を活かせるような機体として生まれ変わらせた」

「それが、ドラグナーやバイフー……?」

「そうだ。青龍のドラグナー、朱雀のフェニックス、白虎のバイフー、そして玄武のシェルロード。この四つのフリックスを相性の良いフリッカーに託してデータを集め、量産化して市場に出す。それが僕の目的だ」
「朱雀のフェニックス……やっぱり、南雲ソウも俺達と同じなんだな」
「あぁ。ソウもタツヤと同じように幼馴染でね。三人で協力して企画を進めていたんだ。ソウにはフェニックスを、タツヤにはシェルロードを託してね」
「え、シェルロードの使い手ってホウセンって奴じゃないのか!?」
 ゲンジが言うとコウは苦い顔をした。

「ここから、計画に歪みが出てきたんだ。あろう事か、父の右腕だった潁川が独立して新企業を立ち上げてデザイアプロジェクトを続行しようとした。もちろんデザイアのデータは遊尽コーポレーションにあるからそんな事は不可能だが……奴はタツヤをスカウトしてシェルロードを手中に収めてしまった。ホウセンって奴は恐らく潁川がスカウトしたフリッカーだろうな」
「そっか……いくらお前でもあんなめちゃくちゃなフリッカーに渡すわけないもんな」
「当然だ。あんな野蛮人は僕の機体を使うに相応しくない」
 珍しく、コウは拗ねたような口調で言って、コホンと咳払いした。
「残りの3機まで奪われるわけにはいかないからね。この時まだ未完成だったドラグナーは未組みの状態のままでフリッカーを探し、完成してしまったバイフーは一刻も早く信頼のおけるフリッカーに渡す必要があったのさ」
「そうか、それで俺の時は設計図とパーツだけくれたのか」
「攻撃型の俺に防御型のバイフーを託そうとしたのも……」
「あの時は急いでいたからね。不誠実な対応になってしまって悪かった」
「いや、わがままを言ったのはこっちだからな」
「うん、僕もバイフーと出会えて良かったし」
「そう言ってもらえると助かる」
 西嶋兄弟とコウの間にもう禍根はないようだ。

「で、それと赤壁杯と何が関係あるんだ?」
「僕の目的のためには四つの機体のバトルデータが必要になる。が、シェルロードは潁川の手にあり自由にデータが取れない。下手に接触しようとすればこちらの機体が奪われる危険もある。そこで、四つの機体が一堂に会する大会を用意した」
「それが、今回の赤壁杯……!」
「そうだ。南雲ソウ、東堂ゲンジ、西嶋ケンタの三人が参戦する大会のメインスポンサーになればいろいろと都合が良い。そして、奴らもこの三機はどうしても欲しいはずだから大会に参加せざるを得ない。この大会でバトルデータを集めつつ、機体を奪われないように目を光らせておけばとりあえず目的は達成出来るはずだった。こちらの管理するVR越しならどうあっても手は出せないだろうからね」

「確かに」
「けど、何か不都合があったと?」

「ここからは君達の方が身をもって体験してるだろう。サバイバルレースでのホウセンの振る舞いだ」
「あぁ……」
 ゲンジ達は実感のこもったため息をつく。
「あそこまでラフプレイをされるとは、さすがに予想外だった。奪わせないのなら破壊してしまうと、脅しをかけられたようなものだ」
「壊したら、向こうにとっても不都合なのでは」
「いや、奴らが欲しいのはあくまで機体の部品のみ。バトルが出来なくなっても、部品が手に入る程度の破損なら関係ないんだ。だが、こちらはそうはいかない」
「このままではどちらの目的も達成出来なくなる……むしろ長い目で見ればあちら側の方が目的達成してしまう可能性が高いと」
「そう。そこで急いで潁川へコンタクトを取った。ある契約をするためにね」
「契約?」
 ゲンジが聞き返すと、コウは一息ついて神妙な顔つきになった。

「ここからはゲンジとケンタ、二人に大きく関わってくる」
「あ、あぁ……」
「うん……」

「大会で負けたら、機体を相手に渡す。直接対決はもちろん、成績で負けても同じだ」

「なっ!」
「えぇ!?」
「何そんな勝手な!俺は反対だ!!」
「僕も、そんな約束は出来ない!!」
 当然ゲンジとケンタは猛反対するが、コウは冷酷に言い放つ。
「勘違いするな。僕はお願いしてるんじゃない。報告しているだけだ。君達に出来るのは意見する事ではなく、理解し勝利に努める事のみだ」
「ふ、ふざけるな!なんの権利があって……!」
「託してはいるが、元々その機体の生みの親は僕だ。子供は親の言う事を聞くべきじゃないか」
「いやそれはおかしいやろ!」
「そうだよ!フリッカーはゲンジ君とケンタ君なんだから!」
「開発者とは言え横暴じゃないか」
 口々にコウを責め立てるが、それでもコウは表情を変えずに続ける。

「勝てば良い、簡単な話じゃないか。それとも、君達は負けるつもりでこの大会に出ているのかい?そんなフリッカーこそ、僕の機体を使うに相応しくないね。今すぐ返してもらおう」
「……!」
「は、話にならんな……めちゃくちゃやこいつ……!」
「俺は……!」
 ゲンジはグッと拳を握りしめた。
「おお、ゲンジ!ガツンと言ったれ!けど、手ぇ出すのは我慢しぃや!」

「俺は!」

 ギッとコウを睨みつけてゲンジは高らかに宣言した。

「俺はっ!ドラグナーのフリッカーだ!!」

「……ん?」
 いきなりそんな宣言されるとは思わず、コウは首を傾げた。

「ドラグナーの生みの親が誰でも、どんな目的で作られたものでも、俺はドラグナーと一緒だからここまで強くなったんだ!だから、ドラグナーのフリッカーとして絶対に優勝する!!誰の好きにもさせない!!」
「ほぅ……」
 コウは意味深に頷いた。
「ぼ、僕だって!バイフーのおかげで強くなれたんだ!だから、ずっと一緒に戦って、勝つって決めたんだ!!」

「……理解が早くて助かるよ」
 コウは静かにそう言うと、モニターに五人の男女の顔を映した。
 その中にはホウセンもいる、
「これがシェルロードを所持しているインビンシブルソウルのデータだ。簡単なものしかないが、作戦に役立ててくれ」
「う、運営側がそんな事していいのかよ……!」
「正確にはスポンサーさ。運営よりも権力は上だ」
「悪びれもせずに……」
「まぁ、情報があるのはありがたい。使わせてもらおう」
 少々罪悪感もあるが、両チームともインビンシブルソウルのデータを受け取った。
「ただし、向こうさんも君らのデータくらいは持っているはずだ。これで条件は互角になったと考えた方がいい」
「まぁ、そうだろうな……」
「……ん?」

 その時、モニターを見ていたナガトは、一人の少年の顔に注目した。

(な、なんであいつが……!)

 

    つづく

 

 

CM

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