弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第10話「激突!ライジングドラグナーVSディバイトバイフー」

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第10話「激突!ライジングドラグナーVSディバイトバイフー」

 

 小竜隊VS江東館の親善試合。
 第1ラウンドの3VS3の戦いは見事小竜隊が制した。
 この事でより一層結束を強めたのだが、反対に江東館チームは……。

「ちくしょう、俺達があんな負け方するなんてよぉ……!」
「ごめん、サクヤ……」
「俺の詰めが甘かった。油断大敵、火がボウボウだな」
 負けた三人は申し訳なさそうにしているが、サクヤは凛とした表情で言った。
「何言ってるんだ、三人はよく戦ってくれた!おかげで、小竜隊の強さのおおよそは掴めた。……新規チームのにわか仕込みかとも思ったが、さすがは元ホワイトホースのエースが指導しただけの事はある」
「残りの二人も、チーム戦の基礎訓練はマスターしていると見ていいだろう。後世畏れるべし、だ」
「そうだな、楽な戦いにはならなそうだ」
「兄ちゃん……」
 ケンタが不安げにサクヤを見上げた。
「大丈夫だ心配するなケンタ。俺とお前のコンビネーションがあれば必ず勝てる。それに、ケラトプスとバイフーの力を信じるんだ」
「うん……」
 ケンタは弱々しげに頷き、手に持ったバイフーを見つめた。
「ユミ、早速三人の機体のメンテを頼む。最終ラウンドは、場合によって誰が出るか分からないからな」
「えぇ。いつでも万全に戦えるようにしておきますよ、お任せあれ!」
 ユミは清楚に振る舞いつつも、いたずらっ子のような笑顔を浮かべながら敬礼した。
「しゃしゃっ、相変わらず敬礼似合わねぇなぁ。頼りなさそっ」
 シズキが軽口を叩くとユミは目を細めて冷たい笑顔を向けた。
「では、シズキ君は頼りになる方にメンテしてもらってください。その分、私はエイグルとオルカを完璧に仕上げますね」
「うわわわ、ごめん!冗談冗談!ぃよっ、世界一敬礼の似合う女!!」
 シズキは慌てて手を振ると、取って付けたようなおべっかを飛ばした。
「そのフォローも微妙なんですが……」
「褒め下手か」
 シズキの下手くそっぷりにユミは困ったように苦笑し、リンは呆れてジト目になった。
「ふっ、はははは!」
 その様子を見て、サクヤが笑い出すと、他のメンバーもつられて笑い雰囲気が和やかになっていった。

(さすがはチームバトルの老舗、江東館だ。敗北を引き摺らないように素早く雰囲気を切り替えている。さて、小竜隊の方はどうかな?)
 諸星コウは離れた場所で眺めながら江東館に感心したのち、小竜隊へ意識を向けた。

 小竜隊はリュウジが作戦会議を仕切っていた。
「さて、第二ラウンドだが江東館からはリーダーのサクヤと弟のケンタが出る」
「敵の大将と戦えるなんて燃えてくるで!」
「リーダーってくらいだから、サクヤって結構強いのか?」
「結構なんてもんじゃない。奴の使うコメットケラトプスはフロントに備えた三本角で凄まじい馬力を発揮する。真正面からのぶつかり合いで競り勝った奴はいないんだ」
「……って事は、ケラトプス相手にはぶつかり合いを避けてマインヒットで攻めたほうがいいのかな?」
 ユウスケの呟きにツバサが異を唱える。
「パワーならウチらだって負けてへんで!なぁゲンジ?」
「ああ、ドラグナーなら競り勝てる!」
「その通りだ。アクティブシュートでは敢えてケラトプスを狙った方がいい。ゲンジとツバサの二人がかりなら抑え込めるはずだ」
「しかしそれだと、ケンタの方が無防備になるんじゃ」
 リュウジの作戦にナガトが突っ込んだ。
「正直、そこは未知数だ。だが、チームバランスからいってケンタはディフェンダー担当でサクヤのサポート役のはずだ。となれば、アクティブではサクヤが先手を取りに行くだろう」
「確かに……」
「しかし、これはあくまでヤマを張ってるだけだ。何せ弟の方は公式戦のデータがないからな」
「しかも、あいつの機体は諸星コウが作ったもの……」
 ゲンジは手元のドラグナーを見た後、離れた場所にいる諸星コウへ視線を向けた。
 視線に気づいたコウは意味深に笑ってみせた。
「加えて、兄弟タッグとなればコンビネーションも抜群だろうな。油断するなよ、二人とも!」
「おう!」
「任せときぃ!」

 両チーム作戦タイムを終えて、出場選手がフィールドについた。
 ゲンジ&ツバサとサクヤ&ケンタが対峙する。

「第1ラウンドは不覚を取ったが、今度はそうはいかないぜ」
「こっちだって!」
「目にモノ見せたるで!」
「……」
 軽く言葉のジャブを交わしたのち、レフェリー役の子が声を上げる。
「それでははじめます。両者構え!!」
 そこ声で気を引き締めてシュートの構えを取った。

「3.2.1.アクティブシュート!!」

「「「いっけええええ!!」」」
 合図とともに一斉にシュート。
 力強く突進するケラトプスへドラグナーとワイバーンが迫る。
 ガッチーーーン!!!
 3機が真正面から激突!凄まじい衝撃波を発しながらの押し合い!互角の競り合いだったが、微妙にドラグナーとワイバーンが押し込んだ。

「ぐっ、二人がかりなのになんてパワーや……!」
「でも押し込んだぞ!リュウジの読みは当たったか!?」

 リュウジの読み通りならこれでゲンジ達が先手になって断然有利なのだが……。

「先手は江東館!」

 レフェリーからは予想外の言葉が飛び出した。

「なに!?」
 よくフィールドを見ると、ケンタのディバイトバイフーがシレッと遠くへ進んでいた。

「しまった!ヤマが外れたか……!」
 リュウジが悔しげに言う。

「くっ、ケンタはディフェンダーじゃ無かったのか!?」
「これは不味いで!」
 ケラトプスのパワーは凄まじい。それは先程の正面衝突で嫌と言うほど体験している。そんな機体が今超至近距離からシュートしてこようとしているのだ。

「ちぃ!」
 ゲンジとツバサは急いでバリケードを構えた。
「はあああああ!!!!」
 バーーーーン!!!
 サクヤの気合を込めたシュート。真正面で密着していた二機を押し飛ばして突進した。
 飛ばされた二機はマインに接触しながらもどうにかバリケードによって場外は免れた。

「ぐっ!!」
「なんちゅうプレッシャーや……!」
「フリップアウトは耐えたけど、俺達二機を一気に押し出してマインヒットするなんて……!」

 そしてケンタは攻撃せずにケラトプスの近くへバイフーを移動させた。
 小竜隊のターン。

「ツバサ、とりあえずケラトプスを狙おう!ポイントゲッターを先に潰せば形勢はこっちが有利になる!」
「了解や!」
 バシュッ!!
 まずはドラグナーがケラトプスへアタックする。
 バキィ!!
 防御力はそれほどでもないのか、ケラトプスは大きく弾かれる。

「ケンタ!」
「うん!」
 サクヤの合図でケンタはステップでバイフーを移動させて弾かれたケラトプスを受け止めた。
「なに!?受け止めた……!」
「やっぱりあいつディフェンダーやったんか!?」

「ディバイトバイフーのフロントに備えている巨大な爪は可動式のグリップパーツになっていてね。普段は接地させずに機動力を出しているが、接地させれば不動の防御力を発揮するのさ」
 コウが得意げに説明した。

「それでディフェンダーなのにアクティブで先手を取れたのか……!」
「アタッカーのケラトプスとディフェンダーのバイフー。俺達兄弟の布陣に隙はないぜ」
「まだまだや!!」
 ツバサのシュート。
 ガッ!
 バイフーに支えられているケラトプスは全く弾かれなかったが、バウンドボディを利用し、反射してマインヒットを決めた。
「どやっ!」
「ナイスツバサ!」
「やるな。しかも反撃を封じてきたか」
 マインも機体も散り散りになり、さすがのケラトプスも攻め手がない。
「ケンタ、俯瞰の布陣だ。次のターンに備えるぞ」
「うん!」

 バシュッ!
 今度はケラトプスとバイフーが別々の方向へシュートし、次のターンフィールドのどの方向へもシュートできるようになるべく端へ移動した。
 もちろん、ゲンジやツバサにとっても攻め手に欠ける立ち位置だ。

 その立ち位置にリュウジは感心した。
「上手い位置付けだ。反撃を受けないようにしつつ、ゲンジとツバサがどこに逃げても次のターンで攻撃が通る確率が高い」
「反撃も逃げも封じる、か……1VS1だとこう言う都合の良い立ち位置は不可能に近いけど、お互いのシュート軌道をカバー出来るチーム戦だからこそって感じだな……」
「じゃあ、打つ手がないって事?」
「並の攻撃ならな。だが、今の二人なら……」

 反撃も逃げも封じられてしまい、ゲンジとツバサは立ち往生だ。
「ど、どないするゲンジ?」
「この距離だ。下手に攻撃仕掛けても防がれて反撃される。かと言ってどこに逃げても狙われる……なら、やる事は一つだ!」
 ゲンジが目配せすると、ツバサはその意図を察した。
「せやな!遅れるんやないで、ゲンジ!!」
「ツバサこそ、しっかり力出せよ!!」
 ゲンジとツバサはケラトプスへ狙いを定めてほぼ同時にシュートした。

「「いっけええええ!!!!」」

 バキィィィ!!!
 2機が同時にケラトプスへヒットする。
「ツインフォーメーション!?くっ、まさかマスターしているとは……!」
 サクヤは驚きながらもバリケードをしっかり構えた。
「兄ちゃん!!!」
 パキンッ!!
 しかし、凄まじい勢いに負けてバリケードは粉砕。
 そのままケラトプスは場外してしまった。

「ケラトプス!フリップアウトで撃沈!!」

「おっしゃぁぁ!!」
「やったで!これでウチらがリードや!!」

 ケラトプスを拾うサクヤ。
「まさかここまでやるとは……あと頼むぞ、ケン……タ?」
 後の試合を託すためにケンタの方へ向いたサクヤは目を見張った。
「……あいつら……!」
「ケンタ、お前……!」
 ケンタの表情には、相手に対する明らかな敵意が浮かんでいた。
 そして江東館ターン。
 ケンタは無言でディバイトバイフーを構え、ドラグナーとワイバーンへ狙いを定めた。まさに虎視眈々と獲物を狙う猛虎の如く。

「さぁ、あと一人や!」
「相手がディフェンダーならこの攻撃も耐えられる。後は俺たち二人でマインヒットを決めていけば……」
 楽勝ムードの二人だが、そこへ何かを察した黄山先生が危機迫る表情で叫んだ。
「気を引き締めるんじゃ二人とも!相手の雰囲気がさきほどとは全然違うぞ!!」
「え?」
「なんのこっちゃ?」
 キョトンとするゲンジとツバサだが、ケンタの表情を見てハッとした。
「あ、あいつ……!」
 二人は気を引き締めてバリケードに力を込めた。

「よくも……よくもっ、兄ちゃんをっっっ!!!」
 ケンタは慟哭し、腕を突き出しながらシュートした。
「あれは、ブースターインパクト!?」
 伝説の技、ブースターインパクトを模したようなシュートにより、ディバイトバイフーはグリップパーツを接地させたままにも関わらず凄まじい勢いで突っ込んできた。
 グリップの摩擦により爆煙を巻き上げながら。

「なんやこのシュート!?」
「くっ!防ぎきれない……!」

 バーーーーーーーーーン!!
 弾き飛ばされたドラグナーとワイバーンはそのままバリケードどころかゲンジとツバサを飛び越えて地面に激突した。
 グシャァァ!!!
 嫌な音が鳴り響いたのち、すぐに当たりは静寂に包まれた。

「え、えっと、ライジングドラグナー、レヴァントワイバーン、撃沈!勝者江東館です!」
「ドラグナー!」
「ワイバーン!!」

 判定を聞くよりも先にゲンジとツバサは地に伏した愛機を拾った。
「くっ、嫌なぶつかり方したからなぁ……やっぱり破損しちまったか」
 ドラグナーはフロント部分が欠け、ヘッドパーツも折れている。そしてワイバーンはバウンド用のゴムパーツが外れている。
「うちのワイバーンもや……まさかあんな隠し球があったとは」
 悔しがる二人だが、すぐに立ち上がりゲンジはケンタへ声をかけた。
「いやぁまいった。凄いシュートだったな今の!……って、あれ?」
 ゲンジは友好的に健闘を称えようとしたがケンタの様子がおかしいことに気付いた。
「あ、あの、ご、ごめんなさい……ごめん、なさい……!」
 酷く狼狽だ様子で、目が泳ぎ涙が溜めながら何度も何度も謝り始めた。
「ど、どうしたん…」
「落ち着け、ケンタ!」
 ゲンジが問うのを遮るようにサクヤがケンタの肩を掴んで言い聞かせた。
「お前は悪くない!お前はよくやったんだ!」
「兄ちゃん……ぼく、ぼく……!」
 バッ!
 ケンタはサクヤの手を振り切って外へ駆け出していった。
「ケンタッ!」

 ダッ!
 突然のことにワンテンポ遅れてサクヤも飛び出すが、既にケンタの姿は無い。
 ここら辺は周りが住宅地で入り組んでいるため死角が多い。ほんの数秒間目を離すだけでも簡単に見失ってしまうのだ。

 江東館に残された他のに人らも何事かとゾロゾロと外に出てきた。

「なんや、どないしたんや?」
「なんで急に出てったんだ?」
 外に出たは良いものの何をするべきか分からず皆立ち往生している。

「ええい、とにかく探すんじゃ!!あんな小さい子がパニック起こしながら一人で居たら危ないじゃろが!事情は後で聞けばええ!!」
「そうだな。とにかく手分けして探そう」
「まだそう遠くには行ってないはずだ。1時間探してみて見つからなければ一旦戻ってまた対策を考えよう」
 リュウジとナガトがこの場を仕切って指示を出す。
「分かった!」
「本当に申し訳ない、こんな事になってしまって」
 サクヤらは罪悪感に苛まれた表情で頭を下げる。
「そういうのは後や!早く行くで!!」

 こうして、皆で手分けしてケンタの捜索を始めた。
「俺は一度家に帰ってみる。シメイ達はそれぞれ小竜隊のメンバーと一緒に行動してくれ!」
「「「了解!」」」
 気を取り直したサクヤも的確にメンバーに指示を出す。

 ……。

 しかし、どこを探してもいくら呼びかけても成果はない。
 時間も経ったので一旦江東館に戻った。

「これだけ探しても居ないなんて……」
「すまない、俺がもっと気をかけるべきだった」
「サクヤだけのせいじゃないよ」
「あぁ、監督不行き届きは連帯責任だ」
「今は責任の所在よりもこれからどうするかを話しましょう」
 項垂れるサクヤへ江東館メンバー達が慰める。
「そうそう!大事なのはどうやってケンタを見つけるか、だよなぁ……」
 江東館メンバー達に同調するように言ったゲンジに対してコウが口を挟んだ。
「いや、その必要はないだろう」
「え?」
 思わぬ発言に一同がコウの方を向いた。
「最終ラウンドはチームの中から一人を選んでの代表戦。なら、一人欠けた所で試合進行には影響しない。残ったメンバーだけでやればいい」
「なっ!なんちゅー薄情な事言うんや!!あんたには人の心が無いんか!?」
「何も放置しようってんじゃない。これだけ人員がいるんだ。試合に出ないものだけでケンタを探せばいい。これ以上スケジュールを圧迫するよりは効率的だ」
「効率とか、そういう問題や……!」
「そうだな」
 食ってかからんとするツバサを遮るようにサクヤが言った。
「こちらの不手際でこれ以上小竜隊の皆様を拘束するわけにはいかない。試合を続行しよう。他の皆はすまないが引き続きケンタの捜索を……」
 これがリーダーとして正しい決断だろう。
 いつまでも身内の不手際にお客様を付き合わせるわけにはいかない。
「いや、ダメだ!!」
 しかし、ゲンジが思わず叫んでいた。今度はゲンジに注目が集まる。
「あ、いや、えっと……お、俺達はチームとして、小竜隊として、江東館に試合を申し込んだんだ。だから、メンバーが一人でも欠けたらチーム戦を挑んだ意味がない、気がするって言うか……」
 上手く考えがまとまってなかったのか、しどろもどろな言葉になってしまう。
「ぼ、僕もゲンジくんと同じです!」
 要領を得ないゲンジの言葉にユウスケが同調した。
「ユウスケ……」
「上手く、言えないけど。でも、フリッカーとして放っておいちゃいけない気がするんです!」
「もちろん、うちもや!」
「あぁ、ゲンジの言葉は俺達小竜隊の総意だ。だから気にしないで欲しい」
「そもそもこれは親善試合だからな。ただ予定をこなしただけじゃ目的を果たしたとは言えないさ」
「君達……ありがとう……」
 サクヤが涙を堪えながら頭を下げると他のメンバーもそれに続いた。

「うぅ、わしは、わしは良い教え子を持ったものじゃ……!」
 黄山先生は一人煩く号泣した。

「フッ、そう言う事なら僕も尽力しようじゃないか」
 コウがいけしゃあしゃあと言うと、ツバサが突っかかった。
「なんや?急に掌を返しおって。探すのは反対だったんじゃないんかい」
「さっきのはあくまで効率的な案を提示しただけで、君達の意志に反対しているわけじゃないさ。満場一致で方針が固まった以上、今はそれに従い協力する方が効率的だろう?」
「食えんやっちゃな……」
「と言うわけで、僕から提案だ。また闇雲に探した所で見つかる確率は低い。ある程度情報をみなに開示した方が的を絞りやすいんじゃないか、サクヤ?」
 コウは人を試すかのような笑みを浮かべながらサクヤへ言うと、サクヤは少し迷いながらも口を開いた。
「……そうだな。俺には話す義務がある」
「それって、ケンタが逃げ出した理由に心当たりがあるって事?」
「そもそも、なんでケンタの方が泣き出すんや?負けた上に機体が破損したのはうちらの方やで?」
 疑問を示すゲンジ達へ、サクヤはゆっくりと語り出した。
「……ケンタはあれでも、昔はもっと明るい子でな。クラスでもリーダー格だったんだ」
 オドオドしてサクヤの後をついているだけな印象のケンタからは想像もつかない。
「あの大人しそうな子が……人は変わるもんやな」
「だけどある日、クラスのいじめっ子が下級生のフリックスを取り上げてる所に遭遇して、怒ったケンタはいじめっ子達にバトルを挑んだんだ」
 そこまで言うと、サクヤは一息付くために少し間を置いた。
「え、普通に良い話やん」
「ああ。漫画の主人公みたいだ」
 ゲンジとツバサは思わず拍子抜けたかのような感想を漏らした。
「……ここまでは良かったんだが、問題は相手との力の差が大きすぎたんだ。仮にもケンタは江東館で訓練しているフリッカーだ、普通の子じゃ相手にならない。しかも正義感と怒りで加減を忘れて、相手の機体を壊してしまった。それで相当ショックを受けてしまってな……罪悪感から塞ぎ込んでしまったんだ」
「確かに、機体が壊れんのは気の毒やが……でも悪いのは相手やん」
「まぁ、自業自得だよな」
「バトル中に機体が破損するなんてよくある話だしな」
 なんとなくピンと来てないゲンジ達の中でユウスケは俯きながら言った。
「だけど、分かる気がする……どんな事情があっても、フリックスを壊すのは嫌だよね」
「望まぬ加害は、被害を受けるよりも心を痛めるからのぅ」
 小竜隊面々の感想を聞いた後、サクヤは再び語り始めた。

「……一時はフリッカーを辞めるとも言っていたんだが、江東館の皆のおかげでどうにか立ち直れはしたんだ。だが、それでも以前みたいな積極的なバトルは出来なくなってしまった」
 サクヤから事情を聞き、一同は合点がいったようだ。
「なるほど。つまりさっき取り乱したのは」
「うちらの機体が破損した事でトラウマを抉られたっちゅー事か」
 しんみりとした空気になる中、コウが淡々とした口調で呟いた。
「ふむ、何かヒントになるかとも思ったが、アテが外れたな。別の手段を講じよう」
「ちょ、ほんま冷淡なやっちゃな」
「感傷に浸るのは非効率だ。だが、それはこの試合の行方を見届けたいと思っているが故だ。その点だけは信頼してもらっていい」
「あぁそうかい……」
 マイペースではあるもののコウも悪意あって言っているわけではないらしい。

「罪悪感で……あ、あの!」
 コウの独特な感性に呆れている中、一人思案していたユウスケが声を上げた。
「どうした?」
「この建物って、普段は人が入らないような部屋ってありますかね……?」

 ……。
 ………。
 江東館2階の奥にある空き部屋。
 電気も付けず薄暗い部屋の片隅でケンタは膝を抱えて蹲っていた。
 そんな時、扉がゆっくりと開かれて光が差し込み、ケンタは顔を上げた。

「やっぱりここにいたんだね」
 ユウスケがケンタの顔を見るとニコリと笑った。
「あ……」
「よかった。心配したんだよ」
 ユウスケはケンタに近づくとしゃがみ込んで目線を合わせた。
「あ、えっと……」
「乾ユウスケ、ユウスケでいいよ」
「あの、ユウスケさん……ごめんなさい……僕、ユウスケさんのチームの機体を壊しちゃって……」
「あのくらい気にしなくていいよ。それよりも戻ろう?皆待ってるよ」
「でも、僕……」

 ドタドタドタバタ!バタン!!!
 いきなり大勢の足音と乱暴な入室音が響く。

「ユウスケ、いきなり駆け出すなよ〜!」
 ゲンジ達が遅れてやってきたようだ。
「ご、ごめん、いてもたってもいられなくって」
「って、あーーー!ケンタ!!ここにいたのか!?」
 ユウスケに悪態をつきながら、ケンタの姿を見つけるとゲンジは素っ頓狂な声を上げた。
「ほんっとよかった」
「まさに灯台下暗し……!」
「人騒がせなやっちゃでほんま」
 他のメンバー達もゾロゾロと後に続いて部屋に入る。
「ケンタッ!お前心配したぞ!!」
 サクヤが血相を変えて駆け寄り、ケンタの肩を抱いた。
「兄ちゃん……」
「……良かった、無事みたいだな。ごめんな、兄ちゃんがもっとしっかりしていれば……」
「ううん!違うんだ!!悪いのは全部僕なんだ!!ゲンジさんとツバサさんのフリックスを壊しちゃって……!だから、だから僕なんか、フリックスをやる資格ないんだ……それで……!本当に、本当にごめんなさい!!」
 慟哭しながら立ち上がり、頭を下げるケンタに対して、ゲンジは優しく言った。
「何言ってんだよ。俺はお前に感謝してんだぜ!謝られる筋合いなんかないって」
「え?」
「あの時のシュート、ブースターインパクトだよな?俺もまだ使いこなせた事ないのに、すげぇよ!俺、またお前とバトルがしたい!今度こそ打ち破ってやる!!」
「で、でも、ゲンジさんの機体は壊しちゃったから……」
「大丈夫だよ。ゲンジ君、ドラグナーを貸して」
 今度はユウスケが言うとゲンジからドラグナーを受け取り、この場で応急処置をして修復した。
「ほら、あのくらいだったらすぐ直せるから」
「そうそう!壊れたって何したってすぐ直して何度でも戦えるからフリックスは面白いんだ!だから俺達フリッカーは強くなれるんだぜ!」
「……すぐ直して、戦える……戦っても、いいの?」
「あったりまえだろ!」
「ぼ、ぼく……戦いたい……また、戦いたい!」
「ああ!望む所だ!!」
 ケンタの顔が綻び、笑顔が戻った。
 そこへユミが優しく肩に手を置く。
「ケンタ、相手の事だけじゃなく自分の事も大事にしなきゃダメですよ」
 そう言って、ユミはケンタからバイフーを受け取り、軽くメンテナンスをしてから返した。
「はい。これでまた全力で戦えますよ」
「ユミさん……ありがとう……!」

 これで一件落着のようだ。
 一同は試合会場に戻り、最終ラウンドの準備をする。
 さっきの話の流れから、出場するのはゲンジとケンタだ。

「それにしてもユウスケ、どうしてケンタがあの部屋にいるって分かったんだ?」
 小竜隊エリアでフィールドで対峙する二人を眺めていたナガトは何気なくユウスケに尋ねた。
「……僕も、小さい頃お母さんに怒られて家を飛び出した事があって。でも僕の方が悪いって分かってたから迷惑もかけたくなかったし、かと言って戻ることもできなかったから……こっそり家に戻って自分の部屋に隠れてたことがあったんだ。それでもしかしたらって」
「なるほどな……」
 ナガトは納得したように頷いた。
 それと入れ替わるようにツバサが何かを思い付いた顔をして地団駄を踏んだ。
「あーー!思わず空気読んで黙っとったけど、最終ラウンドうちが出ても良かったやん!!」
「で、でもツバサちゃんの機体はまだ壊れてるし」
「がーーーーそやったーーー!!……あっ、せや!」
 ツバサは何かを閃いたようでゲンジに声を掛けた。

「ゲンジ!」
「なんだよ?」
「これ、受け取りぃ!」
 ツバサが何か白くて小さいものを投げるとゲンジがそれをキャッチする。手に取ったそれを見てみると、それはゴムの塊のようなパーツだった。
「これって……」
「うちかて、ケンタにリベンジしたいのは同じなんやからな!」
「……あぁ、分かった!レヴァントワイバーンの魂も乗せるぜ!」
 ゲンジはシャーシを開いてそのパーツを中に入れた。
 そして、そろそろバトル開始だ。

「頑張れよ、ケンタ……」
「さて、青龍vs白虎の戦い、どんな結末を見せてくれるのか……」

「ではいきます!3.2.1.アクティブシュート!!」

「いけっ!ライジングドラグナー!!」
「頑張れ!ディバイトバイフー!!」

 バーーーーン!!
 両者の強力なシュートがフィールド中央でぶつかる。しかし、ドラグナーの方がバイフーを押し込んでいた。

「っ!」
「先手を取ればグリップを接地させられない!いっけぇ!!!」

 バキィ!!
 ドラグナーがあっさりとバイフーをフリップアウトさせる。
 ディフェンダーとは言え、それはあくまでグリップを接地させている状態が前提。そうでなければ防御力はたかが知れてるのだ。

「ディバイトバイフーフリップアウト!残りHP1!!」

「くっ……!」
 ケンタは悔しげにバイフーを拾った。
「どうしたんだケンタ!もっと全力で来いよ!」
「え?」
「そんなもんじゃなかっただろ!さっきの、あの技で来い!!」
「で、でも……!」
 あの技はドラグナーを破損させてしまった技……再びトラウマが蘇りそうになって目を瞑るケンタにゲンジが叫ぶ。
「大丈夫、俺は絶対に負けない!だから、全力で行こうぜ!!
「……うん!!」
 ゲンジのまっすぐな言葉にケンタは強く頷いて、バイフーのグリップを接地させた。

「では行きます!3.2.1.アクティブシュート!!」

「いっけぇぇ!!ドラゴンヘッドブラスター!!!」
「捕らえろ!バイティングクロー!!!」

 バシュウウウウウ!!!!
 お互いの必殺シュートが炸裂し、空気を切り裂きながら突進していく。
 バゴオオオオオオオ!!!!
 2機の衝突に爆音が巻き起こる、そしてドラグナーが斜め前に軌道を逸らされてそのまま場外。対してバイフーはグリップを効かせてその場で止まっていた。

「いぃ!?」

「ライジングドラグナー自滅!残りHP2!!」

「何やっとんのやゲンジ……かっこわるぅ」
「うるさい!」
 あれだけカッコつけておいて打ち負けるのは確かに情けない。
「あの技……グリップ力の高いディバイトバイフーをブースターインパクトの要領で強引に動かしつつ、高いグリップ力のおかげで敵機にぶつかった瞬間に踏ん張って自滅を防いでいるのか」
「防御型ならではの攻撃法って感じだね」

 江東館控え。
「しゃしゃっ!ケンタの奴やるじゃん!」
「すっかり調子を取り戻したみたいね」
「ふふ、私のメンテの賜物でもありますけどね」
「だが、勝って兜の緒を締めよだ。ケンタ、最後まで油断するなよ!」
 江東館メンバーが口々にケンタへ声援を送る中、コウがサクヤへ話しかけていた。

「なかなかやるじゃないか。あれがケンタにディバイトバイフーを使わせようと思った理由か?」
「まぁ、そんな所だ」
 コウの問いへ肩をすくめながら答えたサクヤは2ヶ月前にコウがディバイトバイフーを持ってきた事を思い出していた。

 ……。
 回想シーン。

「ディバイトバイフー?」
「ああ。とあるプロジェクトのために開発したフリックスだ。防御型ではあるが、パワーに定評のある君に是非使ってほしくてね」
「……悪いが、俺にはコメットケラトプスと言う愛機がある。他の機体を使う気はない」
「まぁそう言わず、一度試し撃ちしてみてくれ。使う使わないはそれから決めてくれれば良い」
「……そのくらいなら構わないが」
 サクヤは渋々ながらバイフーを受け取り、フィールドにおいて構えた。
「はあああああ!!!」
 ドンッ!!
 バイフーはフィールドに置いていた
ターゲットフリックスを弾き飛ばし、更にその場にビタッと止まった。
「どうだい、なかなかなものだろう?ディバイトバイフーの性能は」
「……そうだな。ケラトプスに勝るとも劣らない……いや、総合的な性能では上回っているだろうな」
 サクヤの感想にコウは嬉しそうに頷いた。
「そうだろう?君との相性も抜群なはずだ」
「だが、悪いがやはり……」
 最初から答えは決まっていた。如何に凄いフリックスであれ関係ない。そう簡単に愛機を取っ替えられるわけがないと断ろうとした時。
「す、すごい……」
 近くにいたケンタが目を輝かせながらディバイトバイフーを見ていた事に気づいた。
「ケンタ……?」
「……そうか、残念だが無理強いする気はない。この話は忘れてくれ」
 断られる雰囲気を察したコウはあっさりと引き下がろうとしたが、それをサクヤが止めた。
「待ってくれ。俺の他にその機体を使わせたいフリッカーの候補はいるのか?」
「いや、残念ながら。この機体はかなり特殊でね、相性の良いフリッカーはそういるものじゃない」
「なら、一つ……提案させてもらってもいいか?」
 サクヤはそう言いながらケンタの肩に手を置くと、ケンタは不思議そうな顔でサクヤを見上げた。

 ……。
 回想シーン終了。

(あの時の、ディバイトバイフーを初めて見た時のケンタの瞳は昔の輝きを取り戻していた……)
 サクヤは一縷の望みに縋るような目でケンタとゲンジのバトルを見守る。

 先程ディバイトバイフーの必殺技にしてやられたゲンジは頭の中で必死に戦略を練っていた。
(ケンタの必殺技、すげぇ……真正面からやればどうにかなると思ったけど、予想以上だった。このまま同じ事を繰り返したら負ける……こうなったら俺も一か八かだ!)

「それでは行きます、3.2.1.アクティブシュート!」

「捕らえろ、バイフー!!」
「いっけぇ!ブースターインパクトォォ!!」
 なんと、ゲンジはケンタのように腕を突き出しながらシュートする技、ブースターインパクトの模倣技を繰り出した。

「なんやてぇ!?」
「それは悪手だぞ!?」
「あちゃー、早まったか……」
 小竜隊メンバーはそれぞれ『やっちまったなコイツ』的な微妙な反応をする。
 その反応の通り、ドラグナーはコントロールを失い明後日の方へぶっ飛んで自滅してしまった。

「げぇ……!」

「しゃしゃっ!何やってんだあいつ!」
「ローマは一日にして成らずだ」

 ガシャーン!
 地に落ちたドラグナーをゲンジは慌てて拾いに行った。
「やっぱ即席じゃ無理か……!」
 ドラグナーは衝撃でシャーシが開き、中身が飛び出していた。
「……これは」
 そのパーツを見てゲンジはある事を閃き、ドラグナーのシュートポイントを弄り始めた。

「何やっとんのやゲンジー!負けたら承知せんでー!!」
「分かってるよ!任せろ!!」
 ツバサの叱責に負けずゲンジは言い返す。
「ほんまに分かっとるんかいな」
「大丈夫だよ、ゲンジ君なら」
「あぁ、あの様子なら何か思い付いたんだろうな」
「とにかく、仲間を信じるのみじゃ!」

 そして、お互い残りHP1の状態でアクティブシュートだ。
「では行きますよ、3.2.1.アクティブシュート!!」

「これで決めるぞ!ディバイトバイフー!!」
「いくぜ、ドラゴングリップインパクト!!」
 ドンッ!!!
 ライジングドラグナーが先程とは比べ物にならないスピードでぶっ飛んだ。

「っ!?」
「あのスピードは……!」

 バーーーーン!!!
 真正面からの激突!しかし、グリップ力で勝るバイフーはその場にとどまり、ドラグナーが弾かれる。
 ガッ、ガッ!!
 しかし、シュートポイントが接地した瞬間、ドラグナーもその場にとどまった。

「え!?」
 ピシ、パキィ!!
 反対に、踏ん張る事で衝撃をモロに受けたバイフーはフロントアームが折れて場外に吹っ飛んでしまった。

「ディバイトバイフー撃沈!勝者、ライジングドラグナー!!」

「やったぜぇぇ!!!!」
 ドラグナーを手に取り、ゲンジは飛び上がった。

「おおお!よくやったでゲンジ!!」
「あぁ、上出来だ!」
「やったね!ゲンジくん!」
「良いバトルだったぞ!」
 小竜隊メンバーが口々に称賛しながらゲンジの元へ駆け寄った。
「いやぁ、危なかったけど勝ててよかった〜!」
「それにしても最後のシュートはすごかったね!一体何をしたの?」
「あぁ、これさ」
 ゲンジはドラグナーのシュートポイントを見せた。そこにはワイバーンのゴムパーツが取り付けられている。
「あー、それうちの!!」
「まだパーツに接着力が残ってたからさ。シュートポイントにコイツをつければ弾力とグリップ力でディバイトバイフーに対抗出来ると思ったんだ!」
「かーーっ、大したやっちゃで!一時はどうなる事かと思ったが……」
「まさにチームの勝利だな」
 小竜隊が舞い上がり盛り上がる中、おずおずとケンタが近づいてきた。

「あの、ゲンジさん」
「ん?」
「す、凄いシュートでした!僕、負けたけど凄く楽しかったです!!」
「あぁ、俺もだ!……けど、ごめんな、バイフー壊しちまって」
「ううん、このくらい大丈夫です!それよりも、またゲンジさんと戦いたい!戦いたいんです!!」
「もちろん!またやろうぜ!!」
 ゲンジとケンタはガシッと固い握手を交わした。

 その様子を眺めながら、サクヤは思った。
(……そうか、ケンタに必要だったのは仲間だけじゃなく、ライバルだったんだな……)
 そんなサクヤへコウがフッと笑いながら問いかけてくる。
「大したものだな。この1試合で、彼はすっかり一人前のフリッカーとして成長を果たした。あれは狙っていたのかい?」
「まさか……だが、信じていた」
 サクヤの返答を聞いて、コウは愉快そうに笑った。
「ふっ、はははは!そうか、今回はブラコンの勝利と言う事にしておこう」
 そう言いながらケンタの方へ歩いていく。

「西嶋ケンタ。次は是非勝ってくれよ。更なる精進を期待している」
 すれ違いざまにそれだけ言うと返事も聞かずにコウは去っていった。
「……」
 それを聞いてキョトンとしながらケンタはコウの背中を眺め、そしてその意味を理解した瞬間顔を綻ばせてディバイトバイフーへ視線を向けた。
「ディバイトバイフー……これから頑張ろう、一緒に!」

 ……。
 ………。

 静岡県某所。
 コンクリートで囲まれた薄暗い廃墟のような空間で、三人の少年が顔を合わせていた。

「俺達とチームを組みたいだと?」
「まさか孤高を気取っていたお前から、そんな言葉が飛び出すとはな。馴れ合いに興味でも出て来たか?南雲ソウ」
「……嫌なら、別の奴を探すまでだ」

 三人のうちの一人は、あの南雲ソウだった。

 

     つづく

 

 

CM

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