弾突バトル!フリックスアレイ ゼノ 第26話「明日なるダントツに向かって!」

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第26話「明日なるダントツに向かって!」

 

 フリップ魔王との最終決戦。
 伝説のフリックスを持つフリッカー、弾介、レイズ、シエル、フィランの四人はついに心を一つにする事で真の力であるギラファドラゴンを誕生させた!

「あれこそが伝説のフリックスの真の姿……!我がライバル、ギラファドラゴンだ!!」

 魔王は心底嬉しそうに言った。

「ギラファ……」
「ドラゴン……?」
「ついに、私達の心が一つに……!」

 気がつくと、魂が繋がっているような感覚があった。
 四人で一つの機体を扱っているような、今までに無い不思議な……。

「ちょ、ちょっと待っておかしくない!?あたし達に心が一つになる要素なんてあった!?」
「確かに」

 どう考えても四人の心はバラバラだった。チームワークも何もあったもんじゃ無い。

「いや、お前達の心は確かに一つになっていた。『自分が真っ先に我を討伐する』と言う目標によってな」
「あ……」

 一見バラバラに見えた四人の心だが、バラバラだからこそ一つの方向に心が向いていたと言う事だろう。

「よくぞここまでたどり着いた。これは褒美だ……ドラゴブレス!!」

 ドンッ!!
 ゴルドライグの必殺技、バネ蓄勢ギミックを使った超火力攻撃が襲い来る!

「ギラファディフェンス!!」

 シエルが咄嗟にバリケードを構えてそれを受け止めた。

「シェルガーディアンとドラグカリバーをあっさりぶっ飛ばした技をあっさり受け止めた……!?」
「このグリップ力は究極の盾の力か」
「どうやら、四人で同時に操るのではなく、一人一人がこの一つの機体を独立して干渉できるようですね」
「と、言う事は、勝負は続行だな」
「え?」
 今度はレイズがギラファドラゴンへ干渉するように構えた。
「誰が1番魔王討伐に貢献出来るか……はああああ!!」

 バシュッ!!
 レイズのシュートで放たれたギラファドラゴンはサイドウイングをゴルドライグに引っ掛けるように突っ込み、接触後は猛回転しながらカーブしてマインにヒットした。

「ギラファウイング!!」

 バチンッ!!
 マインヒットダメージを与えただけでなく、マインを遠くへ弾いて反撃も受けづらくした。

「この距離なら反撃マインは出来ないな!」
「不要だ……ドラゴテール!!」

 魔王はシュートポイントのテールを利用してスピンシュートを放った。

「そんなものっ!ギラファホールド!!」

 フィランはステップでギラファドラゴンを正面に向けつつ、大型化したフロントソードを斜め前に変形させた。
 ガッ!!
 フロントパーツでゴルドライグを掬い上げ、フロントソードで挟み込むように拘束した。

「からの……カウンタースロー!!」

 更に、スピンしていたゴルドライグの勢いを利用してそのまま投げ飛ばした。
 ガッ!ガッ!!
 何度も反転していくゴルドライグ。

「よし、そのまま転倒してスタンだ!!」
「甘い!ドラゴギル!!」
 ガシッ!!
 ゴルドライグは背中の鰭を利用して飛び上がり、反転せずに着地した。

「おっし〜!!でも凄いよフィラン!」
「ふふん、惚れ直した?」
「よーし、次は僕の番だ!!」
「スルーかい」

 今度は弾介が構える。

「させぬ!!」
「「フリップスペル!ライトニングラッシュ!!」」

 二人が同時にスペルを発動。
 ライトニングラッシュの効果で何度も何度もぶつかり合う。
 パワーは互角だ!

「「いっけえええええ!!!!」」

 バーーーーン!!!
 激しい攻防でお互いにかなりのダメージを受けてラッシュは終了。

「はぁ、はぁ……!」
 体力を消耗し、弾介は肩で息をする。
 と、魔王が俯き、小刻みに震え出した。

「な、なんだ?」
「ふふ、はは……はっはっはっは!はーっはっはっはっは!!!」

 突如、魔王らしからぬ満面の笑みで大笑いを始めた。

「え、ど、どうした!?」
「楽しいな、龍剣弾介」
「え、あ、あぁ……!」
「ここまで心が踊ったのは、生まれて初めてだ」
 心の底から楽しげに呟く魔王に対し、弾介は思わず感慨深げに言った。
「……お前、ほんとにただ楽しいバトルがしたかっただけなんだな」
「お前は楽しくないのか?」
「悔しいけど、めちゃくちゃ楽しい!……やっぱり、僕は魔王の分け身魂なんだな」
 魔王の問いに、弾介は少し思案したのちに自嘲気味に言った。
 バトルを楽しめば楽しむほど、自分が魔王と同じ存在だと言う事を認識してしまう。

「気にするな。最強同士の最高のバトルだ!誰であれ、心踊らぬ方がどうかしているというもの!」
「……最強同士、か」

 含みのある弾介の呟きに、魔王は怪訝な顔をした。

「何が不服だ?」
「二つほどね。最強同士ってのは間違ってないかもしれない。でも、これが最高のバトルだなんて僕は思わない」
「世界の頂点に立った我とその分身の戦いが最高ではないだと?」
「もちろん!世界にはいろんなフリッカー達がいた!僕の知らない強さを持ってる人がいっぱいいた!きっと、まだまだたくさんいるし、皆どんどん強くなる!その全員とのバトルが最高のバトルなんだ!!」
「我ら以上のバトルが出来ると言うのか?」
「当然さ!それに、このバトルだって、僕一人の力じゃない……本当は一対一でお前と戦いたかった。
いや、魔王だけじゃない。レイズも、シエルも、フィランも!世界中の皆を倒したい!!
その後も、僕にリベンジするためにもっと強くなって立ちはだかってくる皆とまた戦いたいんだ!」

「全員に勝つ事前提なのね……」
「さすが弾介さん……」
「ふん、ほざいていろ」

 あまりにも純粋過ぎる夢を語る弾介に3人は呆れるが、弾介は構わず続ける。

「だから、だからこんなバトルじゃ終われない!僕はもっともっと強くなる!
このバトルは、ダントツを目指すための通過点なんだ!!」

「魔王であり、頂点であるこの我とのバトルが、通過点だと?」
「そうさ!頂点は、ダントツはなるものじゃない!ダントツは目指し続けるものなんだ!!
自分で勝手に頂点を決めつけて、停滞し続けて
皆に迷惑かけてまで自分勝手なバトルをしようとするお前なんかに僕は負けない!
このバトルの先へ行きたいんだ!!」
「我が、停滞し続けた……」
「僕は進み続づける!またいつかお前とも正々堂々と1vs1でバトルするために!
だから……そのためにも!今はみんなの想いで、間違ったダントツを終わらせる!!」

 再びアクティブフェイズになる二機。

「面白い!面白いぞ龍剣弾介!!一度は夢焦がれ、そして失望したダントツの世界!その先があると言うなら見せてもらおう!!」
「ダントツで決めるぞ……!」

 シュートの構えを取る弾介の手に他の3人の手が並んだ。

「え!?」
「ドサクサに紛れて抜け駆けはさせんぞ、龍剣!」
「どうせなら、皆で決めましょ!」
「これが、最後のシュートです!!」
「よし、勝負だ皆!!」

 四人で一斉にギラファドラゴンをシュートする。

「「「「ダントツで決めろ!ギラファドラゴン!!」」」」

 バシュウウウウウ!!!!!
 向かい合って放たれる二機が真正面から激突する。

「ぬおおおおお!!ドラゴブレス!!!」

「「「「ギラファリーチブラスター!!!!」」」」

 四人の力が籠ったシュート。
 より強化したボディと大型化したフロントソードによる超必殺がゴルドライグを貫き、凄まじい弾力を生み出して場外へと葬り去った。

「ヌワアアアアアアアア!!!!」

 これによりゴルドライグは撃沈、弾介達の勝利だ。
「やったああああ!!!」
「ついに、終わったんですね……」
「あぁ、疲れた……」
「ちっ、勝負は引き分けか。まぁいい、いずれ俺が……」

 戦いが終わり、フィールドは解除。そしてギラファドラゴンも元の四機のフリックスに分離した。

「おぉ、ドラグカリバー!元に戻ってよかった〜!やっぱりドラグカリバーはドラグカリバーじゃないと!!」

 元に戻ったドラグカリバーを弾介は愛おしそうに頬擦りした。

「……我が、負けたか」

 ノリで断末魔の声を上げたものの、撃沈したのはフリックスの方なのでフリップ魔王自体はまだ存命だ。
 しかし、最大の武器であり防具でもあるフリックスを失っては丸腰同然。今なら簡単に倒せるだろう。

「さぁ、観念してください!あなたの悪事もこれまでです!!」
 シエルがとどめを刺そうとフリックスを向けるが……。

「ふ、ははは……良い気分だ!これが、ライバルとの熱いバトルか……!」

 よほど満足だったのか、余韻を噛み締めるように天を仰いだ。
 そんな魔王へ弾介が近づく。

「フリップ魔王。次は僕一人で倒す!だからまたバトルしよう!もう世界滅ぼすとか、そういうのは無しで」
 弾介が握手を求めるように手を出す。
「ちょ、弾介さ……!」
「ノーパン、敵は丸腰だし少しくらい良いんじゃないの?」
 弾介に物申そうとしたシエルをフィランが制した。

 そして、魔王は弾介の手を見つめるだけで、ゆっくりと首を振った。
「……それは無理だ」
「え?」
 気がつくと、スゥ……と徐々に魔王の身体が透け始めた。
「なっ!」
「我は、フリッカー達の持つ『ダントツになりたい』と言う願いが叶わなかった事による呪いの集合体……マイナスの思念体だ。だが、我は今のバトルで満ち足りてしまった。もはや、存在を維持する因果が無いのだ」
「そ、そんな……!」

 悲痛に言う弾介とは真逆にフィランがピシャリと言い放った。

「別に残念でもなければ、同情の余地も皆無よ。勝手に消えてくれるならトドメ刺す手間が省けて万々歳」
「えぇ、仮にあなたが改心しようと贖罪しようとそれは変わりません。最も、これまでの事を考えれば、消えた程度の罰では釣り合いが取れませんが」

 なんとなくしんみりしそうな雰囲気の中、フィランとシエルは毅然と言い切った。

「我はダントツを渇望するだけの思念体に過ぎない、改心など不可能だ。だが、釣り合いというのなら……司祭の娘よ、これを受け取るがいい」
「っ!?」

 魔王がシエルへ手をかざすと、一筋の光がシエルへ向かい包み込んだ。
 すると、シエルの脳裏に知識が流れ込む。

「うっ、く……」
「だ、大丈夫シエル!?」
「まさかあんた、往生際悪く一矢報いようっての!?」
「ふん、油断しているからだ」

 シエルに対する魔王の思わぬ反撃に三者三様の反応を示すが、シエルがそれを否定した。

「い、いえ、私は大丈夫です……こ、これは……魔法の伝授……?」
「魔法?」
「なんでわざわざ魔法なんか教えんのよ」
「……我に贖罪は不可能だ。元よりする気も皆無。これは、我の満足が永遠に続くための確証だ。お前達にとっての望みでもあるからな、逃れる事は出来まい」
「どう言う意味だ?」
「龍剣弾介よ、満足を、ダントツを追い続けろ。さもなくば、呪いは再び……」

 スゥー……と、魔王の姿は完全に消え去った。

「何よもう、後味悪いわねぇ……」
「しかし、この魔法……マスターすれば、希望になるかもしれません」
「え、そうなの?」
「えぇ、しかしこれを使うと言うことは……」

 シエルは喜びとも皮肉ともつかない微妙な笑みを浮かべた。

「よーーし!魔王も倒した事だし!!」

 何はともあれ魔王討伐は成功したのだ。
 弾介は元気よく言い放った。

「早速皆でバトルしよう!!」
「フッ、望む所だ。決着を付けるぞ」
「「はあああああ!?」」

 あれだけバトルしてまだやりたりない弾介とレイズの様子に、シエルとフィランは素っ頓狂な声を上げた。

「なんでそうなんのよ!!」
「え、今そう言う流れじゃないの?」
「あの、一応大仕事達成した直後なんですから、いろいろとやる事が……」
「ええー!」
「フッ、ならお前達二人は不戦敗だな」
「じゃあ僕とレイズだけでバトルだ!……あ、そうだ!せっかくならギラファドラゴンとも戦ってみたいなぁ」

「「「それは無理だ」」」
「い、言ってみただけだよ……!」
「ったく、良いから始めるぞ」
「うん!」

 弾介とレイズは距離を取って構えた。

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

 バーーーーン!!
 二つのフリックスが空中で衝突し、衝撃波が起こる。

「「うわああああ!!!」」

 いつもなら何でもないシュートの反動が、疲労困憊した身体には骨身に染みたようで。
 二人は吹っ飛び倒れ、アクチュアルモードも解除してしまった。

「あ、ぐ、くそ……!あ、あれ?め、目が……回る……!」

 ドサッ!
 立ち上がろうとした弾介だが、目を回して倒れる。

「ギブアップか……俺の、勝ちだ……な」

 ドサッ!
 弾介の気絶を確認した直後、レイズも気を失って倒れた。

「ちょ!」
「大丈夫ですか!?」

 シエルとフィランが慌てて駆け寄ると、2人から静かな寝息が聞こえてきた。

「……寝てますね」
「はぁ、そりゃあれだけ戦った後だしね……」
「どうしましょ」
「もう、起きるまでそっとしときましょ……なんかドッと疲れてきた」
 フィランもどさっと倒れ込む。
「私も……なんだか、眠…く……」
 シエルも大欠伸した後に横になった。

 かつての魔王城で、四人はぐっすりと熟睡するのだった……。

 ……。
 ………。
 …………。

 それから月日は流れ……。

 フリップ王国の王宮の一室では、国王であるジンが忙しく政治関係の仕事をしていた。
 何枚も積まれた書類の束へ忙しなく目を通している。

「ふぃ〜、まだまだ全然片付かねぇな……!」

 コンコン。と言うノックと共にゆっくりと扉が開かれた。
 湯気の立つカップを乗せたお盆を持って入って来たのは、王妃アリサだった。

「お疲れ様。少し休んだら?」
 カップを机に置き、アリサも椅子について休憩を促す。
「サンキュ、でもまだまだこんだけ残ってるからな、ゆっくりもしてられん。せっかく生き返ったのに、社会的には未だに死人扱いされてたんじゃ、たまったもんじゃないだろうからな」
「そうね……それにしても、こんな奇跡が起こるなんて」
 アリサが感慨深げに呟くと、ジンも頷いた。
「あぁ、シエルが魔王から魔法を伝授されたって聞いた時はタチの悪い冗談だと思ったが……」
「まさかあの幻の回復魔法、セイクリッドバースが本当に使えるなんて」
「セイクリッドバース……分類は回復魔法だが、その実態は『損害を被った因果そのものを無かった事にする』と言う神に匹敵する奇跡。まさか、魔王からの被害そのものを消し去っちまうとはな……」
「おかげで、平和を取り戻しただけじゃなく。魔王軍による犠牲者も元通り」
「とはいえ、そのせいで住民達の書類やら何やらを全部修正しなくちゃいけなくなったんだよな……蘇生した民に向けた新しい法も必要になったし。まったく、政でここまで忙しいのは久しぶりだ」
 愚痴るジンだが、アリサはクスリと笑う。
「でもジン、毎日楽しそう」
「まぁな、嬉しい忙しさって奴だ。さて、一息ついたし仕事するか!」
「あ、でも今日は午後からあけとかないとね」
「え?……あぁ、今日は開催日か!すっかり忘れてた!」
「弾介、この日のために凄く頑張ってたし。見に行かないと可哀想だよ」
「だな!よし、続きは明日だ!!救世主弾介の晴れの舞台、国王の俺がしっかり見届けないとな!!」
 ジンは仕事を切り上げて外出の準備を始めた。

 コロッセオタウン。
 闘技場は大型イベント用の設備が設置されており、賑わっていた。
 闘技場の外には屋台が立ち並んでいて、お祭りの様相を呈している。

「ふぃ〜、こんなもんかな……」
 会場の見廻りを終え、弾介は一息ついた。
「うん、会場の外も中も完璧だ。出場選手も強いフリッカーがいっぱい参戦してくれたし、客席も満員だ。今日から楽しくなりそうだ!」
「お久しぶりです、弾介さん。凄い賑わいですね」
 弾介が張り切っていると、親衛軍の隊長さんが話しかけてきた。
「あ、隊長さん!」
「まさか魔王討伐後にこのような大会の企画を立ち上げるとは思いませんでした」
「そ、そうですかね?」
「えぇ、この世界のフリックスは、玩具として嗜む者もいますが、それ以上に戦闘兵器としての意味合いも強くネガティブな感情を持つものも多い。特に元魔王軍フリッカーとして利用されていた者たちへの反発は大きく、二度と日の目は見られないと思っていましたが。
そんな中、根気良く競技としてのフリックスアレイの啓蒙活動を続け、フリッカー達へのネガティブな感情を払拭するために尽力し、こうして大会開催まで漕ぎ着けた……誰にでも出来る事じゃないですよ」
「いやぁ、僕としてはやっぱりフリックスやるからには楽しみたいし、楽しんでもらいたいですから」
「私も、今日は一フリッカーとして参加させていただきます。対戦する時は、よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ!」

 親衛軍隊長と別れた後はブラブラと屋台を巡った。
 そこで、シエルと大人の男の人の姿を見つけた。

「ねぇパパー、今度はあっち見に行ってみようよ」
「おいおい、シエル。ちょっとくっつきすぎじゃないか?」
「いいでしょー、今日は非番なんだし!……ぁ、だんすけさん……」
 父親にべったりしてたシエルだが、弾介の姿を見つけると顔を赤くして居直った。
「はは、やぁシエル」
「こ、こんにちは弾介さん」
「お、弾介くん!今日はお招きありがとう!私はフリッカーではないが客席で観戦させてもらうよ!!」
「は、はい!頑張ります」
 知り合いの親と話すのはどうも慣れない……緊張した面持ちの弾介をシエルの父はマジマジと見つめる。
「フッ、それにしても本当に良く似てるなぁ……将来の義理の息子になるかもしれないとはいえ、血の繋がった息子と言っても通じるレベルだ」
「な、何言ってるのパパ!」
「ははは、冗談だ!」
(笑えない)
 シエル父と弾介の顔が似てるのは闇の深い事情があっての事だが、いちいち言及するのもアレなので弾介は苦笑いするしかない。
「さて。父さん、ちょっと飲み物でも買ってくるから二人は休んでなさい」
 気を使ったのだろうか、シエル父はその場から離れた。
 弾介とシエルは近くのベンチに座り、一息ついた。

「あー、やっと座れた〜!」
「ふふ、弾介さんあれからずっと奔走してましたもんね」
「最初は軽い気持ちだったのに、こんなに大ごとになるとは思わなかった……」
「……魔王討伐してからも、いろいろありましたもんね」
「うん……シエルのお父さんは、その、
体調とかは大丈夫なの?」
「えぇ、健康そのものです。生き返ったって言っても、あの魔法は因果を消すものですから。死、そのものが無かったことになってるんです」
「でも、魔王からの被害を受けたって事実はそのままって、なんかややこしいなぁ」
「元々私達人間が使えるレベルの魔法ではないですからね、理解出来ないのも当然です」
「……これが、あいつが最後に望んだ世界、本当の願いだったんだな」
 ダントツに失望せず、全てのフリッカーがダントツを目指し続けられる世界……。
「えぇ。そして私達の希望でもある……皮肉ですが、最後の最後で魔王の望みを叶え続けると言う呪いをかけられてしまいましたね」

 キュッとシエルは裾を強く握った。
 因果を歪め、不可逆である生死を弄り、そして邪悪なるものに加担し続ける未来。
 例え多くの人の希望であろうと、司祭として神に背く行為の代償はいずれ重くのしかかってくるだろう。

「呪いか……うーん、シエルの事情とかはよく分からないけど……でも、何かあったらまた皆で解決すればいいよ!」
「弾介さん……はい、そうですね!」

 弾介の言葉にシエルは笑顔で頷いた。

「弾介みーっけ!」

 ドサッ!
 突然後ろからフィランに抱きつかれた。
「うわ、フィラン!?」
 フィランは腕を弾介の首に絡めながら耳元で囁いた。
「なーに二人でイチャイチャしてんのよ?仕事のフリして相引き?」
「い、いや、ちょうど一息ついたところでシエルに会ったからさ!」

 弾介はガバッと立ち上がり慌てて弁明する。
 しかし、フィランはジト目でシエルの脚へ視線を向けた。

「ふーん、なんか色仕掛けしてるっぽいけど」
 フィランに言われて目を向けると、シエルは前垂れの裾を強く握っていたため太ももが露わになっているのに気づいた。

「はっ!ち、違いますこれは!フィランと一緒にしないでください!!」
「それよりフィラン、レイズは一緒じゃないの?」
「……一緒なわけないでしょ」

 弾介の問いに、フィランは不機嫌そうに答えた。

「え、だって、魔王討伐した報酬で大金と豪邸貰って、そこで親子三人一緒に暮らしてるんじゃ……」
「あの子ならとっくに家出しちゃったわよ。『俺は一人で生きるんだ』とか言い出して」
「えぇーー!?だってもう、そんな事する理由なくなったんじゃ!?」
「あの子も無駄に頑固だから……お父さんも、修行とか言って家を空ける事が多いし。あのボッチ気質は根っからの血筋ね。あたし母親似でよかった」
「ははは、相変わらずだなぁ。でも、って事はレイズもめちゃくちゃ強くなってるって事か!試合で当たるのが楽しみだ!!」

 かつての戦友達の近況を聞き、それぞれが幸せに日々を過ごしている事が分かって弾介は安心した。

「っと、そろそろ時間だ!ごめん、二人とも!シエル、おじさんによろしく言っといて!」

 時間を確認した弾介は慌てて駆けていった。

 ……。
 ………。

 そして、いよいよ幕開けの時間となる。
 会場には選手達が、客席には観客達がフルハウスだ。
 会場に設置されたステージにスポットライトが当たり、かつて魔王軍主催大会でも司会者を務めた男が壇上でマイクパフォーマンスを取る。

『グッドエブリワン&グッドエブリワン!!ようこそいらっしゃ〜い!!!
本日は、魔王を討伐した救世主、龍剣弾介主催大会の開催日だ〜〜!!
早速主催者による挨拶とルール説明いくぜ!!』

 緊張した面持ちで弾介が壇上に現れる。

「えっと、龍剣弾介です!本日はお集まりいただき、ありがとうございました!」

 弾介はカンペを見ながら辿々しく続ける。

「早速ルールの説明です。一年間にわたって毎週大会を開き、バトルの結果に応じてポイントが入ります!
勝てば高得点、負けても残りHPに応じてポイントが入って、更に会場を沸かすようなプレイをしたら芸術点も入ります!
それから、並行してコンテストも開いています、受付の隣にある棚に製作した機体を提出して、これも投票によってポイントが入ります!
それで合計ポイントが高い人が優勝です!
えっと、つまり、バトルに勝っても負けても、強くても弱くても、バトルが好きな人も製作が好きな人も、みんなが楽しめる、楽しんだもん勝ちなルールです!
名付けて、フリックスアレイレジャーグランプリ!!
今ここに開催を宣言します!楽しみましょう!!」

 拙いながらも、弾介の開催宣言で会場が沸き立つ。

 その様子を貴賓席から観ているのがジンとアリサ、そしてイブだった。

「あいつ、立派になったもんだぜ」
 まるで我が子の成長でもみているかのようにジンは感慨深げに言った。
「それにしてもレジャーグランプリとは、弾介殿も考えたでありますなぁ」
 イブは意味ありげに笑いながら感心していた。
「どう言う事だ、イブ?」
「調べによると、フリップ魔王は『フリックスバトルに負けた者の悔しい気持ち』や『戦いで傷ついた者達の恨みや憎しみ』と言ったマイナス感情が集まって意思を持った存在らしいのであります。つまり、いくら魔王を討伐した所で、あちき達がマイナスな感情を強く抱けばまた新たな魔王が生まれる可能性もあるのであります」
「確かにそうだが、それと弾介の大会と何か関係あるのか?」

 察しの悪いジンに代わって、アリサがイブの言わんとしている事を解説した。

「戦いやフリックスはこの世界にとってネガティブなものだった……それをこの大会で遊びにする事で、楽しいものだと言う認識に変えてしまえば魔王が生まれる力がなくなると」
「そう言う事であります!」
「ほ〜ん。つってもあいつ事だから、自分が楽しみたいってのが1番の理由だろうがな」

 そして、会場ではいくつも設置されたフィールド上でバトルが繰り広げられていた。

「よーし!ここのところずっと大会の準備にかかりっきりでロクにバトル出来なかったからなぁ!今日からは思いっきり戦うぞぉ〜!」

 弾介は張り切ってフィールドに上がった。
 そんな弾介を待ち侘びていたかのように、一人の少年が仁王立ちしている。

「ようやく来たか、龍剣」
「レイズ!」

 レイズは新型の赤いフリックスを突きつけた。
「あの時の決着、ようやく着けられるな」
「あぁ!この大会を開いたのはこの為でもあるんだ!絶対に負けない!!」
 弾介も新型の青いフリックスを取り出す。

 そして、二人は機体を構えて対峙する。

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

 戦いの火蓋が切って落とされた!
 魔法陣をくぐり抜けてスケールアップした二機が正面衝突し、衝撃波が巻き起こる。

「ダントツで決めろ!ドラグライザー!!」

 

     おわり

 

 目次 前の話

 

 

CM

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