第7話「フリッカー伝説!誘われて洗濯バサミボーイ!!」
琴井コンツェルンの筆頭株主、岡部によって会社を乗っ取られシールドセイバーも奪われてしまったトオル。
タクミはシールドセイバーを取り戻すためにトオルともに琴井コンツェルンへと侵入するのでした。
シュンシュンシュン!!
廊下の壁にいくつもの穴が空き、そこから無数のセミを模した黒い簡易フリックスが襲い掛かります。
「うわぁ!こんな罠まであるのー!?」
「岡部の奴、会社をめちゃくちゃに魔改造したな……!」
「トオル、シールドセイバーが保管されてそうな場所に心当たりはない?」
「建物構造が変わってなければ、きっと社長室に嫌味ったらしく飾ってるはずだ」
「よし、案外してくれ!」
「分かった!」
トオルの案内で二人は社長室へ急ぎます。
その道中、侵入者の連絡を受けたガードマンや社員が次々と妨害に来ますがどうにか倒して進みます。
「重建王!」
「クロノギア!」
「アスピドケロン!」
「ダークマター!!」
「リーフ!!」
どれも個性的で強い機体ではあったが、新機体を手にして乗りに乗っているタクミの前には敵ではありません。
「よし、あともう少しだ!この先に社長室がある!」
「絶対にシールドセイバーを取り戻すぞ!」
タッタッタッタッタ!
あともう少しで社長室へ辿り着く……その時でした。
「おっと、これ以上は行かせられないなぁ?」
廊下の奥からコツコツと音を立てて、巨大な剣を背負った大柄な男が現れました。
「お、お前は!?」
「俺は岡部さんに雇われた用心棒、大人しく帰らねぇと、皆殺しだ」
そう言いながら背中の剣を引き抜くと、それは剣ではなく剣型のフリックスでした。
その刃先には様々な塗料や部品のカケラが付着しており、これまでの激闘を感じさせました。
「タクミ、こいつは今までのよりヤバそうだぞ……!」
「う、うん……!でも、やるしかない!」
トオルとタクミは少し怖気付きつつも立ち向かいました。
シュンッ、バキィ!
フリックスとフリックスの激しい鍔迫り合いです。しかし、用心棒の方が押しています。
「やっぱりこいつ、見た目通り強い!」
「これで終わりだ。喰らえ!皆殺しスラッシュ!!」
用心棒はシュートポイントの柄の部分を摘んでぶん回すようにシュートしました。これが彼の必殺技なのでしょう。
「う、うわああああ!!!」
これを喰らってはひとたまりもありません。タクミは思わず悲鳴を上げましたが、その時です。
「「「いけええええ!!!」」」
後ろから数多くの洗濯バサミを装備したフリックス達がシュートされ、サミンを庇いました。
バチーーン!
衝撃でいくつもの洗濯バサミが飛び散りますが、そのおかげで衝撃を分散して耐えたようです。
「こ、これは……!」
振り向くとそこには、クラスメイトや公民館大会で戦った友達、それにセンバ屋で買い物してくれたお客さん達が立っていました。
「皆……!」
「ここは俺たちが食い止めるから、二人は先に!」
「でも皆、グレートフリックスカップは……」
「それはお互い様だろ?友達のピンチを放って大会に出たらそれこそフリッカー失格さ!」
「ごめんよ皆、こんな僕のために……」
「気にするなよ。俺達もトオルがいない公民館の大会は物足りなかったしさ!」
「ありがとう皆!ここは任せた!!」
用心棒をみんなに任せて、二人は先を急ぎついに社長室へ入りました。
社長室では、ちょび髭を生やした神経質そうなおっさんが余裕綽々と言った様子で座っていました。
「やはり来ましたか。元社長跡取り息子にセンバ屋のセガレ……」
「岡部!そこはパパのイスだぞ!勝手に座るな!!」
「トオルのシールドセイバーを返せ!!」
「ふむ、シールドセイバーはあそこです」
岡部は、部屋の端にある棚へ目線を向けました。そこにはシールドセイバーが保管されています。
「え」
「ただし、社長椅子にしてもシールドセイバーにしてもタダで渡すわけにはいきませんねぇ。これは私が戦いで勝ち得たものです。それを取り返したいなら、相応のものを賭けた上で勝ち取って見せて下さい」
「もちろん、そのつもりさ!僕はこのサミンⅡを賭ける」
「ちょ、いいのかタクミ!?」
「もちろん!僕は絶対に負けないし、このサミンⅡはシールドセイバーに勝つために作ったんだ!シールドセイバーを取り返せなかったら作った意味がなくなるんだ!」
「麗しき友情とやら、素晴らしいですね。では、私はこれを使います。
爆誕ザ・セミンMkⅡ!!」
岡部の取り出したフリックスは、まるでセミのような形をした樹脂粘土造形の機体だった。
「気を付けろタクミ!あの機体は思ったより強い!」
「名前が、サミンと似てる」
「当然です。この間のお二人の戦いのデータから作り上げた機体ですから。シールドセイバーのパテ造形。サミンのシンプルにまとまったボディ形状……ただし、それぞれ無駄が多過ぎます。デザイナーが設計したからかは知りませんが、シールドセイバーの気取った形状は却って扱いづらくするだけ」
「気取った形状!?」
「サミンは洗濯バサミが邪魔なだけ」
「センバ屋の洗濯バサミをバカにするな!!」
「では、とっとと終わらせましょうか。私としても危険分子はさっさと潰して安心して経営がしたいものです」
「パパの会社奪っておいて、いけしゃあしゃあと……!」
「これが社会というものですよ、おぼっちゃま」
そして、岡部は部屋にフィールドを用意します。
フィールドは典型的な長方形で、中央に二つフリップホール、フェンスが二つあるスタンダードなものです。
二人はフィールドについてマインをセットし、機体を構えました。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
バキィ!!
中央でぶつかった二機のフリックスですが、サミンが力負けして弾かれてしまいます。
「強い!?」
「堅固な素材に規定ギリギリの重量、シンプルにまとまった形状の強さです。そして」
バチンッ!
サミンⅡの衝撃で分離したパーツに当てることでマインヒットしました。
「余計な機能なんて付けてるから簡単にマインヒットされるんですよ」
「余計な機能!?」
「えぇ、バトルで勝つだけなら重くて硬い塊であればいい。奇抜な形状も凝ったギミックも、不要です。まぁ性能に関わらない範囲なら手癖でモールドを掘るくらいはしますが、あくまで前後の確認をしやすくするためだけですね」
「そんな事ない!シールドセイバーの気取ったデザインも、キザったらしいトオルが使うから強いんだ!サミンの洗濯バサミだって、センバ屋の伝統がこもってるんだ!!」
タクミはサミンⅡの洗濯バサミをサイドにセットします。
そして、思いっきりスピンシュートさせました。
「ふん、そんなスピンシュートなど……」
バッチーーーーーン!!
サミンⅡの洗濯バサミがセミンに触れた瞬間、ピンチリングが解放されて凄まじい勢いでセミンを場外へ弾き飛ばしました。
「な、なんですと!?」
「僕は、センバ屋の洗濯バサミを活かすために一生懸命工夫して、一生懸命練習して、この力を手に入れたんだ!!」
そして、仕切り直しのアクティブシュートです。
「そんなもの!ただの偶然!オカルトですよ!!」
「いっけー!!」
「「アクティブシュート!!」」
岡部は今度こそサミンを倒すために全力シュートしました。しかし……。
「これが、センバ屋の伝統だあああああ!!!!」
バッ!!
サミンⅡは洗濯バサミの力でジャンプし、セミンのシュートを回避、セミンはそのまま場外した事で撃沈しました。タクミの勝利です。
「やったああああ!!!」
「タクミ!凄いぞ!!」
「な、あんな、洗濯バサミなんてふざけたものを使ったフリックスに負けるなんて……」
「ふざけてなんかないよ!僕にとって、センバ屋はフリックスと同じくらい大切なんだ!
他のフリッカー達だってそうさ。それぞれ違った特技や拘り、好きなものがあって、それを形にするのがフリックスアレイなんだよ!」
「それぞれの好きを形に……」
「セミンはおじさんにとっては最強だったのかもしれないけど、でも僕達が使ったら弱かったと思うし。それはサミンもシールドセイバーも同じだよ。だから人のフリックスを奪ったり否定したらいけないんだ」
「……」
「本当の強さは、自分で見つけて作っていかないと!」
「……奪い、否定する事で力を手に入れた私にはこれ以上ない嫌味ですね」
「え、いや、別に嫌味なつもりじゃ……!」
「約束は守りますよ。持っていきなさい」
岡部は棚を開けてシールドセイバーを取り出してトオルに渡しました。
「……今度は僕がお前を倒してやる」
「いいでしょう」
こうして事件は解決しました。
岡部は会社の経営権を琴井一家に返却し、無事元の日常に戻るのでした。
……。
………。
そして、タクミは。
店番をしながら小型テレビを眺めていました。
その内容は……。
『こ、れは……!奇跡、なのか……?万事休すだと思われたディフィートヴィクターは、間一髪でギミックが暴発した事で九死に一生を得た!それとは反対に、ギミックの振動によってブレイズウェイバーがバランスを崩して場外!
よって、勝ったのはディフィートヴィクター!!
第一回グレートフリックスカップを制したのは、段田バンくんだああああああ!!!!!!』
「ぃよっしゃあああああああ!!!!!!」
そう、第1回グレートフリックスカップ決勝戦の中継でした。
「やっぱり凄いな、全国大会は。いつもやってる公民館の大会とはレベルが違うや……どうせ、僕なんかが出てもすぐ負けてただろうな」
結局、あの後時間に間に合わず、タクミは大会に行く事が出来ませんでした。
「でも……負けてもいいから、出たかったな……」
目が潤んでくるのを必死で堪えながら、タクミは俯きました。
「おいおい、客が来てんだから営業スマイルしろよタクミ」
「え?」
前から声がしたので顔を上げると、そこにはトオルが立っていました。
「トオル……何か用か?」
「客扱いする気はないんだな。確かに僕は客じゃない。けど、ちゃんとしたビジネスとしてここに来たんだぜ」
「ビジネス?……って、またウチの店を買い取ろうって話じゃないだろうな」
「そんな不利益な事はしないさ。もっと利益的な話をしようじゃないか」
「利益的?」
タクミは怪訝な顔をしますが、トオルは構わず続けます。
「前に言っただろ?琴井コンツェルンは遠山フリッカーズスクールと共同で企画を進めてたって」
「あぁ、そのタイミングで乗っ取られたんだもんな」
「会社を取り戻したって事は、もちろんその企画もこの琴井家が主動で進んでる。そこでタクミ、君のフリッカーとしての腕を買って協力要請をしたいんだが……どうだ?」
「協力要請?どうせロクなことじゃないんだろ」
「そんな事はないぜ。タクミは『フリップゴッド』の名前くらい聞いた事あるだろ?」
「まぁ、名前くらいは……でもそれって都市伝説だろ?」
「いや、それが実在するらしいんだ。そこでその企画っていうのがフリップゴッドと大きく関わってくる。だから、フリップゴッドの捜索をする事になったのさ」
「フリップゴッドの捜索?」
「あぁ、もちろんそのためには様々な困難が待ち受けてると思う。強敵との戦いもね。だから腕の立つフリッカーの協力が必要なのさ」
「……強敵との戦い」
「どうだ?ワクワクしてくるだろ?」
「う、うん……けど、フリップゴッドを見つけてその先に何があるの?」
「世界大会さ」
「せ、世界大会!?」
「あぁ!全国大会なんか目じゃないぞ!!そのための道を僕達で切り開くんだ!」
「僕達で、世界大会を切り開く……!」
先程まで凹んでいたタクミの目が輝き始めました。
「全国大会に出られなくなった事はこれでも悪いと思ってるんだ。そのお詫びってわけじゃないけどさ」
「トオル!!」
タクミはバッと立ち上がった。
「さぁ行こう!今すぐ行こう!!フリップゴットを探す旅に!!」
「あ、おう……!」
タクミがレジから離れると父の怒声が聞こえてきます。
「コラ!タクミ!!店番はどうする気だ!!」
「まぁまぁ良いじゃないのパパ。これも立派な社会勉強よ。気をつけて行くよの、タクミ」
「うん!」
「全くお前という奴は……センバ屋の息子として恥じないようしっかりやってきなさい!!」
「パパ……ありがとう!!」
ガタッ!
「ぶひ!ぶひ!!」
2階からこころが降りてきてタクミの頭に飛び乗りました。
「うわ、こころ!お前ケージから出てきたのか!?仕方ないなぁ、お前も一緒に行くか!」
「ぶひーー!!!」
こころを頭に乗せたままトオルと一緒に店を飛び出しました。
「よーーーし!!センバ屋19代目!仙葉タクミ!世界へ行ってきまーーす!!」
おわり
CM