弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第4話「意地の1戦!ナスティアラクネア!」

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 千葉県浦安市にある夢と魔法の国。その中央に聳え立つシンボル『ディスティニーキャッスル』の前では多くのフリッカー達が熱く凌ぎを削るフリックスカップ関東予選が開催されていた。
 大会内容は予選無しの勝ち抜き戦。ランダムに対戦カードが決まっていき、最後まで勝ち残った人の優勝と言う特殊なトーナメント方式だ。

「いけぇ!ライジングドラグナー!!」

「行くんや!ウィングワイバーン!!」

「頑張れ!シールダーアリエス!!」

 成都小学校に通うフリッカーのゲンジ、ユウスケ、ツバサの3人は順調に勝ち進んでいた。

 2回戦を勝ち終えた3人は休憩エリアで合流する。
「2人ともどうやった?ウチは楽勝で2回戦突破や!」
「俺たちもさ」
「楽勝、とはいかなかったけどね」
「なんやグレートフリックスカップっちゅうても大したことあらへんなぁ」
「油断は禁物だよ、ツバサちゃん」
「2回戦までは、組み合わせによっては運よく勝ち上がることも出来る。けど、ここからは高い確率で実力者と当たることになるからな」
「はん、上等やないか!誰が相手でも、勝つんはウチらやで!な、ユウスケ、ゲンジ!」
「あぁ、もちろんだ!」
「が、頑張るよ」

 と、3人が話していると会場にアナウンスが響いた。

『ここで、2回戦のバトルは全て終了だ!それでは3回戦の対戦カードを発表するぞ!!モニターに注目!!』

 特設ステージに備え付けられたモニターにズラリと対戦カードが表示されていく。

「俺の次の相手は……嘉渡ギョウか、聞いた事ないな」
「あっ」
「……」

 あっさりした反応のゲンジに対して、ツバサとユウスケはモニターを見て固まっている。

「どうしたんだ2人とも……あ」

 ゲンジもモニターに表示されているものを見て理解した。
 次の2人の対戦相手は……。

「もう身内同士で当たるなんて」
「ま、個人戦で勝ち抜くっちゅー事はこういう事やからな。面白いやないか!ユウスケ、手加減したら承知せんで!」
「うん!いいバトルをしよう!」

 そして、休憩時間を終えて早速ユウスケとツバサの試合が始まる。
 2回バトルを終えてもう人数が絞られているので、ここからは特設ステージ上のフィールドで一試合ずつ消化するようだ。
 おかげで、ゲンジもジックリと仲間達の戦いを観戦する事ができる。

「いくで!ウィングワイバーン!!」
(ツバサちゃんのウィングワイバーンは広い攻撃範囲と機動力でマインヒット戦を得意としてる。だったら、このアクティブシュートはどうしても先手を取りたいはず……それなら僕は!)

『3.2.1.アクティブシュート!』

 審判の合図とともに向かい合った2人が同時シュートする。

「飛ぶんや!ワイバーン!!」
「頼むぞ、アリエス!」

 機動力を活かしてまっすぐ突っ込んでくるワイバーンに対して、ユウスケはアリエスをスピンさせながら迎え撃った。
 ワイバーンの方が早く、より奥へと進んだ位置で二機が接触する。

「おっしゃ!先攻はもろたで!!」
「いや、ここだ!!」

 ギュム……!
 ワイバーンの勢い、そしてスピンの力が加わる事でアリエスのスポンジが凹み、その弾力でワイバーンは横へと弾かれて場外。アリエスはグリップを活かして踏ん張った。

「なんやてぇ!?」
「やった!」

『ウィングワイバーン自滅!残りHP2!』

 バトルを観ているゲンジはユウスケの戦術に感心した。

「上手い、さすがユウスケだ。ワイバーンの特性やツバサの戦い方に合わせてアリエスのシュートポイントをスピンタイプにセッティングしたのか」

 そしてバトルの方は2回目のアクティブシュートになる。

「なかなかやるやないか、ユウスケ!油断してたでぇ!」
「うん、でもこれはあくまで初見殺しだから」
「よぉ分かっとるやないか!二度目はないで!」
(さすがに同じ手は通用しない。けど、向こうもこの不規則なスピンシュートへの対抗策はないはず。だとすれば、向こうの最善手は確実に先手を取るためにこっちのシュートを避けるしかない。でも、それならそれでダメージレースで僕が有利だ!)

 ユウスケは少し思案したあとマインを中央よりも自分の陣地側へ置き、再びスピンシュートの構えを取る。それを見たツバサはニヤリと笑った。

(マインの位置変更、先手を取られてもヒットを受けんようにするためか。甘いでぇユウスケ!)

『3.2.1.アクティブシュート!』

「いけっ、アリエス!」
「右回転か、ならウチは左や!!」
「っ!?」
「ユウスケのシュートを見て瞬時にシュートフォームを変えた!?」

 逆回転で衝突する二機。お互いに回転力を相殺しているので、一直線に真正面からぶつかったのと同じになる。

「ぶっ飛ぶんや!!」
「アリエス!!」

 勢いのあるワイバーンが競り勝ってアリエスを弾き飛ばすが、アリエスはスポンジのグリップでどうにか耐えた。

「ア、アホな!なんちゅー粘り強さやねん……」
「まさか、スピンシュートを見切られるなんて……!」

 ツバサとユウスケ、お互いにお互いの凄さに驚愕している。

「せっかちな大阪人の中で生まれ育ったんや。そこで培った動体視力、なめたらあかんでぇ!」

「なるほど、それで……!」
「そっちも大した防御力やで!けど、ここから挽回してくで!!」

 ツバサはワイバーンのウイングを広げる。

「マイン置く位置を変えたんはええ保険や!せやけど、ウィングワイバーンには関係あらへん!」

 アリエスとマインの位置はやや遠かったが、広がったウィングによって難なくマインヒットを決める。
 ガッ!
 マインを弾き飛ばしつつ、ワイバーンはアリエスと接触して停止した。

「受け止められたか。けど、マインは弾き飛ばした!これで反撃も受けんはずや!!」
「いや、この位置ならあれが狙える!」

 ユウスケは狙いを定めてシュートし、ワイバーンを押し出した。その力は弱いのだが……。

「なんやそんなシュート……って、あ!」

 ワイバーンが停止した先を見てツバサは目を見張った。ワイバーンの翼が丁度穴の上で停止していたのだ。

『ウィングワイバーンフリップアウトで撃沈!勝者、シールダーアリエス!!』

「んなアホなぁ……!」
「よかったぁ……一か八かだったけど、ヤマが当たった」
「まさか、さっきのマインは反撃で穴に落とせるようにするための位置だったんか?」
「うん。けど、さすがにアクティブシュートで場外させられたら使えなかった作戦だったから、アリエスの防御に救われたよ」
「フリッカーの作戦と機体の性能か……くぅぅぅ、完敗や!!!」

 ホッとするユウスケと悔しがるツバサを見ながらゲンジも楽しげに今のバトルの感想を呟いた。

「瞬間的な判断力はツバサの方が上だったけど、今回は2手3手先を考えるユウスケの戦略がハマったって感じだな」
「あぁ、本当に良いバトルだったな」

 不意に背後から独り言に答える声が聞こえて、ゲンジは振り向いた。
 そこには、ゲンジよりも背が高く年上っぽい雰囲気の少年が立っていた。

「え、と……どなた?」

 いきなり初対面の年上に話しかけられて、ゲンジは思わず面食らった。

「あぁ、悪い悪い。俺は嘉渡ギョウ、君の対戦相手さ。そして、こいつが俺の愛機ナスティアラクネア」

 ギョウは変声期に入ったばかりの男子特有のやや掠れた声で自己紹介し、愛機をゲンジへ手渡した。

「あ、ど、ども」
「良い機体だろ?良かったら、ジックリ見てくれ」
「え、いや、でも……」

 さすがにこれから試合するかもしれない相手の機体を観察するのはズルイような気がして躊躇われるのだが、ギョウは友好的な笑顔と口調で続ける。

「君の試合見させてもらったけど、真っ直ぐで熱いバトルが気に入っちゃってさ。
君とは是非とも、手の内を明かして正々堂々全力で戦ってみたいんだ!小細工なしでさ!」
「……まぁ、そういう事なら」

 一応フェアなのだろうか。褒められて悪い気もしないし、友好的に接してくれた相手の提案を無碍にするのも気が引ける。
 ゲンジは遠慮がちにしっかりとアラクネアを分析する事にした。

「……思ったよりも軽い。それにこの可動式フロントアーム、これはマインヒット用かな?」
「いや、これは相手を拘束するためのギミックさ。ぶつかった衝撃で相手を掴んで動けなくする、だから重くして火力を高める必要がないんだ」
「なるほどなぁ……って、そこまで種明かしするのか!?」
「言っただろ。手の内は全て明かしたいって。俺の機体は初見殺しの機能が多い、だから実力で勝てた感じがしなくてさ。でも、君とのバトルは実力で勝ちたいんだ」
「それは光栄だな。だったらますます負けられないや」
「ははは、良いバトルをしよう!」

 ゲンジから期待を受け取ったギョウは友好的な笑顔を浮かべたまま踵を返して歩いていった。
 そして入れ替わるようにツバサとユウスケがやってくる。

「お疲れ、2人とも。良いバトルだったぜ」
「うん、ありがとう」
「カーッ、でも悔しいわぁ!!あそこまで見事に完敗してしまうとは!!!」
「いや、でもツバサも凄かったぜ」
「うん、どっちが勝ってもおかしくなかったよ」
「慰めなんていらんわ……んな事よりゲンジ、あんたさっき見知らぬあんちゃんと話しとったけど知り合いか?」

 ゲンジとギョウが話していた所はツバサとユウスケにも見られていたらしい。

「あぁ、知り合いじゃないんだけど。俺の次の対戦相手、確かギョウって言ったかな?」
「なぬ!?対戦相手が対戦前に直々に会いにくるとはどないこっちゃ!?まさか、試合前に喧嘩売りに来たんか??」

 ツバサの発想は女の子とは思えないくらい血の気が荒い。

「いや、なんか正々堂々と戦いたいから手の内を明かしに来たって言って、機体のギミックを教えてもらった」
「はぁ?なんやのんそれ……」
「何か裏があるんじゃ」

 事の顛末を話すと、ツバサとユウスケは怪訝な顔をした。

「俺だって怪しいとは思ったけどさ、見せてもらう分には損はないしさ」
「確かに……」
「それで、どんな機体だったの?」
「ん〜、軽量で拘束ギミックを搭載してる機体だったな」
「拘束ギミックか、珍しい機体やな」
「しかも軽量ってのが変わってるね」
「拘束ギミックで軽量級なのってそんなにおかしいのか?」
「おかしいって事はないんだけど、やっぱりある程度は本体側に重量が無いと踏ん張りが効かなくて、拘束出来ても飛ばされちゃうから」
「そうなのか?あいつは、火力必要ないから重くしなくていいって言ってたけど」
「うーん、まぁそこら辺の解釈は人によるからなぁ」
「細かい事はええやん!とにかく、相手が手の内明かしてくれたなら有り難く対策するまでや!」
「ちょっとズルい気がするけど、向こうが言ってきた事だしな」

 と言うわけで、ゲンジは向こうが提示してくれた情報を元にしてセッティングをする事にした。
 そして、試合時間になりステージにゲンジとギョウが上がる。

「良いバトルをしようぜ」
「あ、ああ!」

 ギョウは相変わらず友好的な態度を崩さない。
 2人はバトルの前に審判に機体をチェックして貰ってからフィールドにセットした。

『3.2.1.アクティブシュート!』

「いけっ!ライジングドラグナー!!」
「捕えろ!ナスティアラクネア!!」

 ガッ!!
 フィールド中央でドラグナーとアラクネアが激突し、アラクネアのフロントアームがドラグナーを捕らえる。しかし、ドラグナーはそのまま力押ししてアラクネアを場外へ押し出すのだが、捕らえられているため一緒に場外してしまった。

『両者場外!仕切り直し!!』

「さすが、凄いパワーだな」
「くっ!これが拘束ギミックか!!」

 ゲンジ達のバトルを見ているツバサとユウスケ。

「かーっ、パワーでは勝っとんのに道連れされるとはなぁ!!」
「軽量の拘束型、どうやらその情報は間違ってないみたいだけど……でも」
「なんや、ユウスケ?歯切れな悪いな」
「いや、重ければ今のシュートも受け止めて有利に試合運び出来るはずなのに」
「そんなのどうでもええやん!相手の情報が正しいってのが確認出来たんなら、あとは対策通りのシュートをするだけや!いてもうたれーゲンジー!!」

 ツバサの声援を受けながら、ゲンジはドラグナーを拾ってフィールドにセットする。

(とりあえず、情報確認の様子見シュートは出来た。情報が間違ってないなら、ユウスケの立ててくれた対策通り行けば……ん?)

 ゲンジはとっくにセットしているのだが、ギョウは何やら手間取っているようでまだセットしていない。

『どうした君?トラブルかね?』

 見かねた審判が問う。

「すみません、この機体はギミックが複雑で準備に手間がかかるんです」

 言いながらギョウはようやく機体をフィールドにセットした。

『3.2.1.アクティブシュート!』

「これで決めるぞ!スピニングシュート!!」

 ゲンジはユウスケから借りたスピン用のシュートポイントとスピンシャーシでドラグナーに猛烈スピンをかけながらシュートした。

「なるほど、スピンシュートか」
「相手が軽量ならスピンが有効!それに回転しながらだと拘束されない!!」
「良い作戦だ。だが、甘い!!」

 ガッ!!!
 猛烈スピンするドラグナーを、アラクネアはあっさりと捕捉してしまった。

「なに!?」
「そんなっ!あの回転を捕捉するなんて!!」

 ゲンジとユウスケが同時に驚愕する。

「これがナスティアラクネアの力さ」
「そ、そんな……!」

 しかし拘束はされたものの先手はドラグナーだ。向きを変えられないので撃ちづらいものの、掴まれたままマインを狙う事は不可能ではない。

「いっけぇぇ!!……っ!」

 スカッた。
 ゲンジは渾身の力でシュートしたはずなのに、ドラグナーはほんの数センチ進んだだけで停止してしまった。

「あ、あれ?」
「どうだ!拘束されてると撃ちづらいだろう!」

 アラクネアは拘束を解いて、そのままマインへ向かってシュート。

『マインヒット!ライジングドラグナー残りHP2!』

「先制ダメージは貰った!」
「すぐに挽回してやる!!」

 ゲンジはドラグナーをスピンシュートしてアラクネアへ反撃する。しかし、そのシュートは弾かれて自滅場外してしまった。

「そんなっ!!」

『ライジングドラグナー自滅!残りHP1』

 思いがけずピンチになるゲンジに、ツバサはハラハラしてゲキを飛ばす。

「何やっとんのやゲンジ!もっと気張らんかい!!」
「……おかしい」
「なんや?」
「ナスティアラクネア、最初のアクティブシュートと今とじゃ明らかに重量が違う」
「ほ、ほんまか!?」
「いや、ここからじゃ確証は無いけど。スピンしてるドラグナーを受け止めたり、あのゲンジ君がシュートをミスしたり、スピンしてきたドラグナーを逆に弾き返したり……軽量フリックスじゃ出来ないよ」
「言われてみれば確かに!なんちゅー卑怯なやっちゃ!よし、ウチが抗議してきたる!!」

 怒り心頭でステージに向かおうとするツバサをユウスケが慌てて止めた。

「ま、待って!これはあくまで推測だから!もしこれで不正してなかったらゲンジ君が不利になっちゃうよ!」
「んなこと言ったって、黙ってられるかい!!」
「下手したら、ツバサちゃんも悪質な業務妨害で大会出禁になっちゃうかもしれないんだよ!」
「うっ、そ、それは困るな……!じゃあどうすればええんや!?」
「そ、それは……」

 なす術なしで立ち往生しているツバサとユウスケへ1人の少年が話しかけて来た。

「相手が違反している。確証は無いが、可能性は高いんだな?」
「へ?う、うん……って、君は!」
「なんであんたが」
「分かった」

 面食らいながらもその少年の姿を認識するユウスケとツバサだが、少年はさっさと何処かへ行ってしまった。

 一方、試合の方はゲンジが自滅したので仕切り直しのアクティブシュートのセットをしていた。

「今度こそ頼むぞ、ライジングドラグナー!」

『3.2.1.アクティブシュート』

「「いけーー!!!」」

 二機のフリックスが激突する瞬間。
 バゴォォ!!!

 突如二つのフリックスが外部から乱入し、ドラグナーとアラクネアへ不意打ち、アラクネアは耐えたがドラグナーはたまらず場外してしまった。

「な、なんだ!?」

 いきなりのアクシデントに会場が騒つく。

「あ、す、すみませーん!!」

 ヘコヘコ謝りながら、ステージにタイヘイと2人の弟が上がってきた。

「か、角瀬!?なんでお前が」
『なんだね、君は!』

 面食らうゲンジと迷惑そうな顔をする審判に、タイヘイは頭を下げた。

「試合の邪魔をして申し訳ありません!ウチのチビどもが撃ったフリックスが暴投しちゃって……ほら、お前らも謝れ」
「「ごめんなさ〜い!」」

 迷惑行為ではあるが、小さい子供のやった事という事で会場の雰囲気も柔らかくなる。

『まぁ、次から気をつけるように。では仕切り直しを』
「あ、レギュチェックから仕切り直した方が良いんじゃないですか?」

 タイヘイはシレッとした顔で提案する。

「へ?」
「っ!」
『レギュチェックから?』
「ほら、今のアクシデントで違反になるような破損の仕方したり、異物混入したかもしれないし、念のためチェックした方が良いですって」
『……確かに。では2人ともレギュチェックから仕切り直す』
「あ、はい」
「ちっ!」

 ゲンジはすんなりとそれを受け入れるのだが、ギョウは慌てて機体を手に取ろうとする。
 しかし、それをタイヘイが一喝して止めた。

「待て!!!」
「っ!」
「ここからは審判の仕事だ」
「てめぇ……!」

 そして、審判が両者の機体をチェックする。

『ライジングドラグナー、問題なし』
「はい」

 ゲンジはドラグナーを受け取った。

『そして、ナスティアラクネア……これは』

 アラクネアを重量計に乗せた審判の顔が険しくなる。
 そこに書かれていた数値は150gに達していた。

「いぃ!?通常レギュの倍以上じゃん……!」
「……」
『君、いくらアクシデントがあったとはいえこれはオーバーだ。試合前に測った重量と差がありすぎる』
「クソッ」

 その様子を見ているツバサとユウスケ。
「やるやないか!あのあんちゃん」
「うん。それにしても、試合中に重量を上げるなんて……試合前に自分の機体情報を伝えたのは、軽量機体用の対策を相手に取らせるためだったのか」
「汚いやっちゃで、ほんま!」

『試合中にスペルも使わずにパーツを追加して重量を上げるのは違反行為だ。残念だが君は失格……』
「待ってください!」

 審判が失格を告げる前にゲンジが声を上げた。

『なんだね?』
「え、えと、フリックスって重量レギュを超えてもペナルティでHPを-2すれば試合に出せるじゃないですか。だから、最初からそれで試合したって事にすれば違反じゃ無いかなと」
「なっ!」
『……確かに。選手2人が良いというなら』
「てめ、正気か!?」
「こんなアクシデントで勝っても面白くないし、それに相手が重量違反してるって事が分かってれば俺とドラグナーは絶対に負けない」
「……ちっ、後悔すんなよ!」

 悪態をつきながらギョウがスタート位置につく。

 ゲンジの行動にツバサがぼやく。
「なんやゲンジの奴、もったいない事するなぁ」
「うーん。ゲンジ君、この大会は勝つことよりもドラグナーと戦うために参加したみたいだから。むしろ戦わずに勝つ方が勿体無いって思ったんじゃないかな?」
「せやけど、今のドラグナーは軽量機体に合わせたセッティングやろ?大丈夫かいな」

 ステージの準備が整い、仕切り直しのアクティブシュートだ。

『3.2.1.アクティブシュート!』

「捕えろ!アラクネア!!」
「躱せ!ドラグナー!!」

 鈍重なアラクネアの動きなどあっさり交わしてドラグナーが先手を取った。

「へっ!いくら先手を取ったとこでな!このアラクネアを倒せると思うな!!」
「相手は超重量級……こんな相手、大会じゃ滅多に戦えないもんな。良い経験になる!」

 ゲンジは珍しい相手との戦いにワクワクしながらドラグナーのフロントを変形させた。

「必殺技を使っても、さすがにあの重量は……!それに、今のセッティングじゃ威力が下がってる!」
 と、見ていたユウスケは思うのだが。

「必殺技の使い方は、一つじゃない!また強くなろうぜ、ドラグナー!!」

 ゲンジは、周りの心配に構わずシュートした。

「いっけぇ!ドラゴンヘッドスピナー!!」

 ギュルルルルル!!!
 フロントを延長した事で攻撃範囲を広げながら猛スピンするドラグナー。
 ガッ!カキンッ!!
 アラクネアに接触するが、全く弾けずに逆にはじき返される。

「へっ、効くかよ!」
「あーもう、やっぱりダメやん!」

 しかし、弾かれたドラグナーは回転を維持したままマインに接触。

『マインヒット!ナスティアラクネア撃沈!勝者、ライジングドラグナー!』

「やったぜドラグナー!!」
「ば、バカな……!」

 今のゲンジのシュートをユウスケが分析する。
「そうか!ドラゴンヘッドはストレートシュートをすれば単純に威力を高める効果だけど、スピンすると威力はそこまで上がらない代わりに攻撃範囲を広げるんだ!だから、マインヒットがしやすくなる……!」

 バトルが終わり、ステージを降りたゲンジへタイヘイが話しかける。

「やったな」
「あ、角瀬。お前のおかげさ。でも悪かったな、せっかく相手の不正を暴いてくれたのに無碍にしたみたいで」
「気にすんな。あの方がお前らしい。それで負けたとしてもそっちの方が良いって思ったんだろ?」
「まぁな」
「テメェ!!」

 ガッ!
 突如、ギョウが割って入り角瀬の胸ぐらを掴んだ。

「よくも、やりやがったこの野郎!!!」
 今にも殴り飛ばしそうな勢いで睨みつけるギョウだが、タイヘイは平静な顔を保ってる。

「俺はなぁ!今年が最後のグレートフリックスカップなんだよ!!今回で勝てなきゃもう終わりなんだ!!!なのに、邪魔しやがって!!」
「どんな事情があったって、あんな手段で勝っても意味なんかないだろ」
「うるせぇ!!手段がどうあれ、勝たなきゃ、終わりじゃねぇか!負けに意味なんか」
「あるんだ!!」

 ギョウが言い終わる前にタイヘイが遮った。

「意味は、あるんだ。負けにだって、意味は……俺はこいつとの戦いでそれを知った!」
「角瀬……」
「なん、だと……」
「俺も同じだ。負けに意味はないと思って、勝つ事ばかり考えて……だけど違うんだ!負けた俺をカッコいいって言ってくれた家族がいて、俺とのバトルを楽しいって言ったライバルがいて……そいつらの想いに負けないために戦うんだ!」
「……」

 タイヘイの言葉に暫く黙っていたギョウだが、自嘲気味に笑いながら声を発した。

「けっ、クッセェセリフ」

 ギョウはタイヘイを離して踵を返した。

「覚えとけ、俺は終わらねぇからな。いつか必ずお前らだけは倒す。じゃなきゃ終われねぇ」

 振り向かずにそう言った後、ギョウは歩いて行った。

「……」
 怒涛の展開に呆然とするゲンジへ、タイヘイがスッと手を出した。

「なに?」
「あの時、しなかったからさ。俺も、お前とまたバトルがしたい」
「あ、あぁ……!おう、もちろん!約束だぜ!!」

 ゲンジとタイヘイは硬い握手を交わした。

 

     つづく

 

 

CM

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