フリックス・アレイ トリニティ 第1話「爆誕!ライジングドラグナー」

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第1話「爆誕!ライジングドラグナー」

 

 千葉県市川市のとある地区。
 市川市立成都(せいと)小学校5年2組の昼休みは子供達の喧騒に包まれていた。
 おしゃべり、お絵かき、チャンバラごっこ……と皆が思い思いに遊んでいる中、窓際の机で一際エキサイトしている集団がいた。

 その子供達は、机の上を戦場にして小型の戦闘マシンを指で弾いてぶつけ合っている。
 これは『フリックスアレイ』。
 共通のベースを基にして各々が規定に沿って愛機を作って戦う工作格闘おはじきだ!

「いっけぇ!ドライブドラグナー!!」

 快活そうな少年【東堂ゲンジ】の弾いたヒロイックな形状をしたマシン『ドライブドラグナー』が、相手のマシンを弾き飛ばし場外させた。

「よっし!フリップアウト成功!!」
「あっちゃ〜、これで俺の負けか〜」

 ゲンジが拳を挙げて勝利宣言すると、向かい側にいた眠そうな目をした少年【簡田ヨウ】は後頭部をかきながら苦笑いした。

「す、すごいねゲンジくん。これでもう4連勝だよ!」
「フゥン、なかなかやるじゃぁないか」

 側でバトルを見ていた控えめそうな女の子【姫川アオイ】とナルシスト風の男の子【笠原チュウタ】がゲンジを褒め称えると、ヨウもそれに便乗する。

「確かに、最近のゲンジは調子良いよなぁ。ひょっとしたら次のグレートフリックスカップで優勝出来るんじゃないか?」

 褒められすぎて逆に居心地が悪いのか、ゲンジは嬉しそうにしながらも困ったように視線を逸らした。

「いやぁ、さすがにそれは夢見過ぎだろ。全国には強い奴がまだまだたくさんいるんだ。それに……」

 ゲンジはゆっくりと廊下側の席へ近づく。
 そこには、机に突っ伏して狸寝入りしている少年がおり、ゲンジの気配を察するとビクッと身体を震わせた。

「このクラスにもまだ俺より強い奴がいるしな」

 ゲンジが言うと、狸寝入りしていた少年【乾ユウスケ】は観念したとばかりにゆっくりと顔を上げた。

「あ、はは……おはよう」
「おう、おはよ。ユウスケ、狸寝入りで勝ち逃げなんて認めないぞ」
「そんなつもりは……それに僕なんて大した事無いよ。この間ゲンジ君に勝ったのだってたまたまで」
「たまたまで10連敗もしてたまるか!よーし、今日こそリベンジしてやる!バトルだ!!」
「わ、分かったよ……」

 ユウスケはゲンジに強引に引っ張られ、バトルフィールドの机につく。
 お互いフリップマインをセットして愛機をスタート位置に置いて試合準備はOK。
 バトルフィールドの机は特に障害物もフェンスも穴もない簡素なものだ。

「それじゃいくぞ!」

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

 合図と共に向かい合った二人が同時に愛機をシュートする。

「行け!ドライブドラグナー!!」
「頑張れ!シールダーアリエス!」

 ユウスケの使う機体は周りに貼り付けられたスポンジとボディの角が特徴的な羊モチーフの機体だ。

 カッ!
 二体のフリックスがフィールド中央で接触し、ドライブドラグナーがやや押し込んだ。

「よっし、先手!」
「やっぱりシュート上手いなぁゲンジくん」
「へへっ、一気に決めてやる!!」

 バシュッ!ボヨンッ!!
 ゲンジの攻撃はシールダーアリエスのスポンジによって吸収され、無効化されてしまった。
 そこそこ弾けたものの、場外どころかマインにすら届かない。

「うげっ!」
「今度はこっちの番だね」

 バシュッ!
 ユウスケは手堅くマインヒットを決めた。

「やっぱフリップアウトは無理か!だったら!」

 ゲンジも負けじとマインヒットをお返しする。
 しかし次のターンでまたマインヒットで反撃されてしまい、このままダメージレースを続けては勝てない状況になってしまった。

「くそぅ……!やっぱり一か八かフリップアウト決めないと勝てねぇ!こうなったら、伝説のあの技を使うぜ!」
「伝説の技?」
「まさか……」

 ゲンジの発言にギャラリーがざわつく。
 そしてゲンジは腕を引いて前のめりに構えた。

「ドライブドラグナーのパワーを受けてみろ!ブースターインパクトォォォォ!!!」

 腕を突き出しながらシュートする伝説の技だ!
 凄まじい勢いでシールダーアリエスへ突っ込んでいくドライブドラグナー!
 そして、シールダーアリエスには擦りもせず明後日の方向へすっ飛んで場外してしまった。

「あっ……!」
「ドライブドラグナー、自滅で撃沈!シールダーアリエスの勝ち〜!」
「ああああああ!しまった〜〜!!力み過ぎた〜〜!!!」

 ゲンジは悔しさのあまり頭を抱えながら膝をついて絶叫した。

「いや〜、いくらドライブドラグナーがドライブヴィクターフレームを基にして作ってあるとはいえ、伝説のあの技までは使えないでしょ〜」
「うぅ、動画で段田バンの試合観た時は出来ると思ったのになぁ……」

 ガックリと項垂れるゲンジにユウスケは拾ったドライブドラグナーを渡す。

「サンキュー。はぁ、またユウスケに負けた……」
「はは、このフィールドは穴もフェンスもないからグリップ力があるシールダーアリエスが有利なのは仕方ないよ……」
「そんな事言われても負けは負けだよ。くそー、どうすればいいんだ……!」
「うーん……あとはやっぱり機体性能もあるのかな」
「ドライブドラグナーじゃダメって事かよ?」
「そう言うわけじゃないけど。ゲンジ君のドライブドラグナーは市販品をただ重くしてるだけだから……」
「まぁ、市販品は量産コストや万人が扱える事を考えて性能を落としてあるからねぇ。ユウスケみたいに自分専用に作ったワンオフ機と比べれば劣るのは当然さっ☆」
「……そういうチュウタ君が使ってるのも市販品だけどね。私もだけど」

 何故か自慢げに量産市販機とワンオフ機の性能差を語るチュウタへアオイはやんわりとツッコミを入れた。

「やっぱり自分に合った愛機を手に入れるのが1番だよ」
「愛機か〜、そんな事言われてもなぁ。俺工作とかした事無いし。あー、もうどうすればいいんだよーーー!!!」

 頭抱えて叫ぶゲンジの頭を、シワシワのゴツい手がガシッと掴む。

「とりあえず、静かにして席につくんじゃ」
「……あ」

 ロボットのようにゆっくりと振り返ると、そこには口元をひくつかせながら睨み付けている初老の担任【黄山タダヨシ】がいた。
 すでに昼休みも終わりで午後の授業の時間らしい。周りを見るとみんな既に席についている。

「す、すいませーーん!!」

 ゲンジは大声で謝り慌てて席についた。

「じゃから静かにせぇといっとろーが!!」

 ……。
 ………。

 所変わって、ここは千葉県船橋市。
 南船橋駅付近の海側にある研究施設(IKEAがある位置)
 その中の一室では、様々な測定用機材にトレーニング器具、そしてフィールドが設置されており、そのフィールド上には無数のフリックスが置かれていた。

「よし、準備はいいなソウ」
「ああ」

 部屋の中には二人の中学生くらいの少年がいた。
 その一人【諸星コウ】はまるで研究者を思わせる白衣を着て仰々しいコンピュータの前に座り、もう一人【南雲ソウ】はフィールドに不死鳥を思わせる形状の機体をセットして待機している。

「じゃあ始めるぞ!3.2.1.アクティブシュート!!」
「フリップスペル発動!ライトニングラッシュ!!」

 ソウは開始合図早々素早くシュートし、目の前のターゲットを大きな翼を使って一気に吹っ飛ばした。

「はぁっ!!」

 間髪入れずにソウは地面を蹴って素早くフィールドの反対側へ回り込み、再び機体をシュート!
 バッ!と飛び上がって機体が止まる地点へ先回りし、機体停止と同時に今度はスピンシュートで薙ぎ払っていく。

「終了!」

 ビー!と電子音が鳴り、ソウは足を止めた。
 フィールドにはソウが操っていた機体のみが残り、その周りは無数のターゲットで埋め尽くされている。

「3秒でターゲットフリックス全撃破……見事だ、ソウ!カイザーフェニックスを完璧に使いこなしたな!!」

 コウが嬉しそうにいうと、コウはどこか不満げに目線を逸らした。

「まだまだこんなもんじゃない。完璧には程遠い」
「相変わらずストイックな奴だな。だが、君が不満だろうと、これで僕の夢が一歩近づいた事に変わりはないがね」
「夢、か……。ふっ、そのために親の意志に反して、隠れてこんな施設を貸し切るとは、とんだ親不孝者だな」
「おいおい、その片棒を担いでる君が言うか?」

 ソウの皮肉に対して臆する事なくコウも言い返す。この二人は気のおけない関係のようだ。

「フン……だが、俺一人順調でも意味がない。最後のモニターはもう見つかったのか?」
「あ、いや、それがなかなか……」

 コウはバツが悪そうに苦笑いした。

「手を尽くして探しているつもりなんだが、あの機体と思想の合うフリッカーとなるとそう簡単にはいかない。それに、あんな事があった後だ、慎重に決めないとね」
「……そうだな」

 何故か、ソウは悲しげとも悔しげとも取れるような表情で視線を落とした。

「まぁともかく、もう少し範囲を広げて探してみるさ」

 ……。
 ………。

 そして数時間後。日が傾き、もうそろそろ夕日に変わるような時間帯にゲンジは1人下校していた。

「はぁ〜あ、居残りさせられたせいで皆と遊べなくなっちまった……黄山先生も、授業中にドラグナーの調整してたくらいであんなに怒らなくてもいいのに。この時間じゃ病院の面会にも間に合わないな」

 ドライブドラグナーを手に持ちながらトボトボと歩く。

「それにしても、自分だけの愛機かぁ〜。どうしたもんか……そりゃ、俺だって何も考えがないわけじゃないけどさ」

 思い出すのは昼休みの事。市販機じゃなくワンオフの愛機を手に入れた方がいいんじゃないかと言われてからずっとその事について考えている。
 午後の授業で怒られたのも、それで集中出来なかったからだ。

「ドラゴンみたいにドッシリしたボディ、フロントのドラゴンヘッドで突撃して、シュートパワーが伝わるシュートポイントに拡張機能も……ああもう!頭の中で考えてるだけじゃ纏まらない!!」

 ゲンジはダッと駆け出して、近くの広場に向かった。

「ほぅ……」

 その様子を、1人の少年が見ていた事にも気づかず。

 ゲンジは四阿の椅子に座り、テーブルにノートと筆記用具を広げる。

「ボディの形状は、こんな感じで!ここに、ジョイントがあって、素材は……!」

 一心不乱に頭の中にある考えを紙に書き写していく。
 そして……。

「できたー!!」

 落書きレベルの出来ながらもどうにかノートいっぱいに理想のフリックスの形を描けた。

「……けど、問題はこれをどう作るかなんだよなぁ〜!!」

 一気に気が抜けたのか、ぐでーっとテーブルの上に突っ伏す。
 その時、せっかく描いた紙がヒラリとテーブルから落ちた。

「あっ!」

 紙は四阿の側にいつの間にか立っていた年上っぽい少年の足元まで流れていった。
 その少年は、船橋の研究所で白衣を着ていた諸星コウだった。今は白衣を脱いで外行きの格好をしている。

「へぇ……」

 コウは、ゲンジの紙を返す事なく興味深げに凝視している。

「か、返せよ!」

 雑な絵がバカにされたんじゃないかと思い、恥ずかしくなったゲンジは紙をひったくる。
 しかし、コウはバカにするでもなく興味深げにゲンジの顔を見つめた。

「な、なんだよ……?」
「これは、君が描いたのかい?」
「あ、あぁ、悪いかよ!」
「いいや、悪くない。むしろ面白い」
「は?」

 コウは意味深に笑みを浮かべると、1枚の紙をゲンジに手渡した。

「こ、これは……!」

 それは、ゲンジの描いた設計図とソックリ……では全然なかったが
 まるで、ゲンジの雑な落書きをきちんと清書したかのような本格的な設計図だった。

「俺が考えてるのと似てる……!?まさか、お前……パクったな!!」

 ほんの数分前に書いたばかりの落書きの内容をパクれるわけがない。

「プッ、ハッハッハッハッハ!!!」
「な、なにがおかしい!!」
「いや、失礼……僕の名前は諸星コウ。君の名は?」
「へっ?東堂、ゲンジ……」

 名乗られたもんだから条件反射で名乗り返してしまった。

「そうか。ゲンジ、君にこれを託そう」

 コウは青いパーツの入ったケースをゲンジに渡した。

「え、へっ?」
「そのパーツを使って設計図通りに組めば、君の理想は形になる」

 それだけ言って、コウは去ってしまった。
 ゲンジはただ茫然とその後ろ姿を眺めているしなかった。

 ……。
 ………。

 家に帰り、ゲンジは部屋の中でずっとコウに託されたパーツと睨めっこしていた。

「むー……」

 確かにこのパーツと設計図があれば、自分の理想通りの機体は作れるかもしれない。
 しかし、見知らぬ人間にいきなり渡されたパーツと設計図。怪しむなと言う方が無理な相談だ。
 言われた通りにすべきか、無視すべきか……。

「別に、今のままでも困ってるわけじゃねぇんだよな。ドライブドラグナーだって、俺がもっと上手くなればもっと勝てるようになるかもしれないし」

 下手な事をして余計に弱くなったり、思いもよらない大変な事になったりするかもしれない。
 そう考えたら、無理に冒険なんかしない方がいい。
 君子危うきに近寄らずだ。

「やっぱりドライブドラグナーをもっと使いこなせるように猛特訓するか」

 その時、台所の方から父【セイザン】の呼び声が届いた。

「おーいゲンジ!飯だぞ!早く来い!!」
「分かったー!」

 台所に行くと、そこにはエプロンをして気持ち悪い笑みを浮かべている父がいた。

「げっ、今日は父さんが作ったの?」
「なんだ、その『げっ』てのは」
「いやだって父さんいっつも変な創作料理作るから」

 東堂家は共働きなのだが、現代人らしく家事は夫婦でフィフティフィフティ。父もちゃんと料理する。
 のだが、何故か男の料理は余計な創作をしたがるものなのか、普通に作ればいいものをいっつも変なコラボレーションをして台無しにしてしまう。

「あぁ、その事なら心配するな。今日は大丈夫だ」
「ほんと?なら良いけど」
「もちろん!今日は『変な』じゃなく、『絶品の』創作料理だ!!名付けて、オムサバ!!」

 デーーーン!とテーブルの上に乗っているのは、サバを丸ごと玉子の薄焼きで包んでいる奇妙な料理だった。

「だからそういうとこだぞ!!!!」
「良いから食ってみろ!絶対美味いから!」
「どこにそんな自信が……」

 試しに一口食べてみる。
 フワッフワの卵に香ばしく脂の乗ったサバ。
 ……食えん事はないが、わざわざ組み合わせる意味がわからない。

「どうだ?」
「55点」
「おおっ、及第点!」
「喜ぶな。別々に作ってたら90点の料理が55点に下がってんだよ。創作によるマイナスがでかい」
「なんだよ美食家ぶりやがって……でもお前の言う事も一理あるな、だったらこれならどうだ?」

 セイザは塩胡椒かけてその上に醤油を垂らしてみた。

「ん〜、もう一振りかな」

 味を微調整していく。

「おし、食ってみろ」
「そんなんで変わるわけ……あれ?」

 玉子の甘味とサバの旨味が醤油によって調和され、胡椒のスパイスがアクセントとなっている。

「どうだ?」
「……73点」
「おおっ、上がった!」
「それでも創作した分マイナス」
「だったらもっとチャレンジして、マイナスをプラスに変えるまでよ!」
「懲りないな……。父さんはなんでいっつも失敗するって分かっててわざわざ創作料理なんかするんだよ?」
「楽しいからに決まってんだろ」
「食わされる身にもなれ!!!」
「まぁまぁ。それにな、失敗するなんてやってみるまで分からないだろ。仮に失敗したとしても成功するまでやり直せば良いだけだ」
「え……?」
「失敗するなんて決め付けて諦めるのは、やった後からでも遅くないって事だ!」
「やった後からでも……」

 夕食後。
 ゲンジは、部屋に戻り机に向かっていた。
 その手にはドライブドラグナーと、例のパーツが握られていた。

「ドラグナー……どうせなら、強くなりたいよな、俺達。
何度でも、何度でも、強くなろうぜ……!」

 夜が深々と更けていく中で、ゲンジは黙々と手を動かしていた。

 ……。
 ………。

 翌朝。
 ゲンジは徹夜でずっと作業していたようだ。
 目の下にクマを作りながらも、表情はずっと楽しげだ。

「へ、へへへ、出来たぞ……やっと出来た……!」

 机の上には、青い竜を模した新しいフリックスが完成していた。

「俺の、愛機!ライジングドラグナー!!」

 ライジングドラグナーは朝日を浴びてボディを煌めかせた。

 

 

     つづく

 

 

CM

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