弾突バトル!フリックス・アレイ 第51話

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第51話「弾突!一番の勝利者(ヴィクター)!!」

 

 まどろみの中に、バンはいた。
 浮遊感と若干の気だるさを覚えながら、自分が姿形のない視覚を持った意識体になっている事だけはなんとなく理解出来た。

 セピア色の視界の中、バンが俯瞰で見ている光景は病院の一室だった。
 ベッドの上には優しそうだがやつれた顔の女性、その周りには医者と看護師、そしてバンの父親と幼き日のバンだった。

 バンは泣きながらベッドにいる女性……バンの母親にしがみついている。
 母親は優しくバンの頭を撫でた。
「ごめんね、バン……寂しい想いをさせて……でもね、お願いがあるの……最後にバンの笑顔を見せて欲しい。
どんな時でも、強く、笑顔でいてくれれば、お母さんはきっとバンのそばにいるから」

 それが、母親の最期の言葉だった。

(そうだ……だから俺、強くなりたかったんだ)
 忘れかけていた記憶。でも、ずっと、細胞レベルで刻まれた信念……。
 どんな時でも、強く……笑顔で……。
(俺が強くなれたのは、母ちゃんとの約束があったから……)
 だけど、それはいつしか呪いになっていたのかもしれない。

 今度は走馬灯のようにここ最近の記憶が巡る。
 ダントツ一番だと豪語していた自分の鼻をへし折った少女。
 その少女の見せた弱さに戸惑った事。
 少女の弱さを守り、そして強さを乗り越えると誓った事。
 しかし、その誓いもより強大な力によって打ち砕かれた事。
 少女とともに弱さを受け入れてより強くなろうとした事。
 力を得たことに調子に乗った自分を諌めてくれた事。
 愛機を失い、それでも強くあろうとする自分に、弱くなることを許し受け入れてくれた事。

 本当の強さは、強いだけでは得られない。
 純粋な願いは一歩間違えると呪いとなってしまう。
 「強くなる」という母親との純粋な約束がいつしか「どんな時でも強がらないといけない」と言う呪いに変わりかけたとき、いつも自分を導いてくれた少女の存在があった。

(そっか……だから、俺はずっと……)

 ぼんやりとした意識の中で、何かが噛み合うようなそんな感覚を覚えた時だった。

 ドンドンドンドン!!!!
 けたたましい打撃音に、バンの意識は一気に覚醒させられた。
「んぁっ!!」
 無意識に発せられた自分の変な声に驚きつつ、ハッキリとしてきた視界を認識しながら、脳内を整理する。
「そ、か、俺寝ちゃってたのか」
 ベッドの上で、掛け布団も掛けずに横になって意識を閉ざしていたらしい。
 そして、未だに鳴り響いている扉を叩く音。

「バンー!寝てんのか!?1時間前だぞ!!最終調整するんじゃなかったのかー?」
 扉の向こうから声が聞こえる。オサムや剛志が痺れを切らしているのが分かる。
「起きんようじゃったら、扉壊すか?」
 それは流石にまずい。
「うわわ、わりぃわりぃ!すぐいくよー!!」
 バンは慌てて返事して支度を始めた。

 そしてその頃、遠山フリッカーズスクールのトレーニングルームでは、ゆうが気の抜けた表情で訓練をしていた。
「……」
 筋トレマシンを心ここに在らずといった感じでゆっくりと上げ下げしている。
(リサ先輩の次はザキ様がスクールからいなくなってしまった……僕はどうすれば……)
 その時、トレーニングルームの扉が開き、受付嬢と思わしきお姉さんがゆうを見つけるなり手招きしてきた。
「あ、ゆうくん。お電話が来てますよ」
「は、はい……誰からでしょう?」
「伊江羅ザキくんからです」
「え!?」

 ……。
 ………。

 とある町外れの荒野にて、ザキが威風堂々と言った雰囲気で仁王立ちしていた。
 そこへ、ゆうがゆっくりと歩み寄る。
「どういうつもりですか、突然呼び出すなんて」
「昨日言っただろう。練習相手として付き合えと」
「スクールから去ったあなたがっ、スクール生の僕にそんな勝手な事を……!」
「スクールかどうかじゃねぇ、強くなれるかどうかの問題だ」
「っ!」
「選べ。てめぇはどっちなら強くなれるか」
「ぼ、くは……!」
 ゆうは、一瞬迷ったそぶりをするが、すぐに奥歯を食いしばり懐からオルカシャークNEOを取り出して構えた。
「これが僕の答えです!!」

 バシュッ!!
 ザキへ向けてシュートを放つ。
「へっ!」
 ザキはそれに対して素早く反応し、シェイドディバウアをシュートして迎撃した。
 砂埃が舞い、二つの機体はそれぞれの持ち主の手に戻る。

「僕は、リサ先輩も、あなたも、必ず超える!!そのためなら……その、近道になるならどこへだって行ってやる!!」
 ゆうの言葉を聞き、ザキは満足そうに笑い踵を返した。
「悪くねぇ」
 それだけ言って歩き出す。ゆうもその後をついていった。

 ……。
 ………。

 そして、それぞれの想いが交錯する中時間は過ぎていき……。

 ついに、運命の時間がやってきた。

 会場内は薄暗く、妙に静まり返っている。
 しかし次の瞬間、ステージにのみスポットライトが当たり、バトルフリッカーコウが現れた。

『さぁついに!運命の瞬間がやってきた!!
第一回グレートフリックスカップ決勝戦!
その頂点を争うのはこの2名のフリッカーだ!!!』

 ステージにバンとリサが現れる。

 観客席で口々に応援の声が上がる。
「バンー!リサちゃーん!どっちも頑張れー!!!」
「ぶちかましてやれぇ!!」
「バン!負けたらお小遣い半分カットだからなーー!!!」

「剛志、どっちが勝つかな?」
「さぁな。じゃが最高の試合になる事だけは確かじゃ!」
「だね!」

「バン……リサ……俺はいつか必ず復帰する。日本一の座で待っていろ」

『攻撃力なら誰にも負けない!圧倒的パワーと、どんな時でも諦めないガッツ!そして土壇場の閃きで数々の強敵を打ち破ってきたダントツ少年!!
段田バンくん!使用機体はディフィートヴィクターだ!!』

「リサ!絶対にお前に勝つぜ!!」

『対するは、類稀なる天才的テクニック!!常人ではたどり着けないセンスとシュートの冴えで常に我々を魅了してくれた!!
遠山リサくん!使用機体はブレイズウェイバーだ!!』

「バン、受けて立つよ!!」

『フィールドは、スタンダードに四つのフェンスがつき、真ん中に穴のあるタイプだ!最高のバトルを期待しているぜ!それでは、まずはマインセット!!』

 バンとリサはじっくり考えてフィールドにマインを置く。
 リサはなるべくフィールドの中の方へ、バンはフィールドの角にセットした。
 マインの置き方で、二人の戦い方の違いが分かる。
(やっぱりバンは、なるべくマインを利用されないようにしてフリップアウトを狙ってる)
(けど、リサにはあの技がある。どこに置いても変わんねぇだろうな)

 マインのセットが終わり、二人は機体をスタート位置に置いた。

『それではいよいよ始まります!
決勝戦!運命のアクティブ!!いくぜ!!』

 掛け声は会場のみんなで言うノリのようだ。
 モニターにカウントダウンの数字が映る。

「「「3.2.1.アクティブシュート!!!」」」

 その合図と共にバンとリサは渾身のシュートを放った。
 両端から放たれた機体は中央付近で掠め、バランスを崩しながらフィールド奥へ進み、提示する。

『相手の攻撃を躱して先手を取ろうとするリサくん!それに対して機体をぶつけて押し込もうとするバンくん!お互い異なった狙いのアクティブだったが、その結果掠めながらすれ違いフィールドの奥へと進んだ!
さぁ、先手を取ったのはどっちだ……?』

 目測で二機の距離を比べてみるが……。

『おおっと、これはなかなか判断がつかないぞ!どっちが遠くへ進んでるんだ?レーザーポインターで精密に測ってみよう!!』

 それぞれのスタート位置からシュートポイントまでの距離を測定する……しかし。

『な、なんと!同距離!!全くの同距離だ!!!』

「え!?」
「なに!?」

『これは珍しい!同時場外はこれまでもよくあったが、同距離での引き分けは今大会初めての事象だ!!まさに実力伯仲の戦い!!!
よって、もう一度仕切り直すぞ!!』

 再び機体をセットする。

『3.2.1.アクティブシュート!!』

 バシュッ!!!
 仕切り直しアクティブ。しかしまたも同距離になってしまう。

『も、もう一回だ!3.2.1.アクティブシュート!!』

 またも同距離。

『シュート!』

 同距離。

『シュート!!』

 同距離。
 こんな展開が数回続いた。

『なんて激しい戦いなんだ!!まるで申し合わせたかのように全く同距離のアクティブシュートが続く!!
二人の試合にかける熱き想いがこのシンクロ現象を起こしているのか!?』

「やるな、リサ!」
「バンこそ!」

 まだアクティブシュートしかしていない。
 そしてダメージも全く受けていないにも関わらず、二人はもうバトル中盤戦かのように身体が温まっていた。

『そんじゃ行くぜ!3.2.1.アクティブシュート!!』

 バシュッ!!
 今度もまた同じような展開だ。

『再び同距離だ!……い、いや、これは!!』

 パンッ!
 突如、ディフィートヴィクターのフロントソードギミックが暴発。その反動で若干後退してしまった。

「な、に……!」

『なんと言う不運!!こんな時に限ってギミックが暴発!!!そのせいで若干距離が変動!しかしこの試合ではその僅かな差が致命傷となるぞ!!!』

 その様子を主催者室で段治郎と一緒に伊江羅博士も見ていた。
「いや、不運ではない。リサはアクティブシュートを何度も繰り返しながら、ディフィートヴィクターのボディを掠める事でフロントギミックを少しずつ緩めていたのだ。バンに勘付かれないように」
「ふぉっふぉっふぉ!さすがは我が孫娘、なかなか見せてくれるわい」

 リサが何か細工した事はバンも何となく気付いたのか、畏怖の目でリサを見る。
「さすがだぜ、リサ……!」

『さぁ、リサくんのターンだ!!』

 今のリサに一ターンでも優位を与えるとまずい。
 この隙を逃すわけが無いのだ。
「くそっ!」
 バンは急いでバリケードでステップをする構えをとった。
「バン!私はどんな時でも手加減しないよ!!」
「へっ!上等だぜ!!じゃなきゃ本当のダントツ一番にはなれないからな!来い!!!」
「フリップスペル発動!ブレイズバレット!!」

 ブレイズバレット……3秒以内にシュートし、マインが二つ以上干渉してマインヒットした場合2ダメージ与えられる。

「ブレイズウェイバー!ブレイジングドリフト!!」
 バシュッ!!
 ブレイズウェイバーはフェンスにぶつかった反動利用しながら加速し、縦横無尽に動き回る。

『出たー!!リサくんの必殺技!ブレイジングドリフト!!!フィールドを縦横無尽に駆け巡り、マインヒットを狙う!!』

 シュンシュンシュン!!

『既にマインは二つとも弾き飛ばしている!あとはディフィートヴィクターに接触すればブレイズバレット成立で2ダメージ入るぞ!!!』

「うおおお!!」
 バンはブレイズウェイバーの動きを目で追いながら、必死にステップでディフィートヴィクターを動かしている。
 ブレイジングドリフトの泣き所は、一瞬でフィールドを駆け巡っているわけではないという事。
 つまり、機体に触れるまでにタイムラグがある。停止するまでどうにかステップで躱しつづけられれば……!

「いや無理だろこんなの!!」

 ブレイジングドリフトを何度も受け、それを躱すための特訓をしっかりと行えばあるいは可能性はあるかもしれない。
 しかし、初めて喰らう今それをするのは、どんなフリッカーでも不可能に近い。

 バーーーーーン!!!

『バンくん、健闘虚しくマインヒットを食らった!!ここで一気に2ダメージ受けてしまうのは辛いゾォ!!!』

「くっ……!」
「よしっ!」
 悔しげなバンに顔を綻ばせるリサ。
 しかし、バンも次第に笑みが浮かぶ。
「へ、へへへ……!」
「ど、どうしたの?」
「いや、初めてリサと戦った時も、こんな感じだったなって」
「え……?」
「リサはさ、なんっていうか……わけわかんねぇんだよ」

「……は?」
 いきなりdisられて、リサは怪訝な顔になってしまう。

「あぁいや!変な意味じゃなくてさ!なんっていうのかな……今までも強ぇ奴らと戦ってきて、負けちまう事もいっぱいあってさ……。
ただ、そいつらって、なんで俺に勝っちまったのかとか、なんで俺より強かったのかとか、どうすれば勝てるようになるかとか、分かりやすかったんだ」

 そう、ザキにしても剛志にしても、その強さはハッキリしていた。力の差も目に見えていた。だからこそ、ただそれを超えれば良いだけだった。

「だけど、リサは違った。なんで強いのか、どうして勝てないのか、どうすれば勝てるようになるのか……全然分からねぇんだ。リサとのフリックスはいつも俺に新しい世界を見せてくれる。だから俺は、その先へ行きたくなるんだ!」
「バン……」

「俺も出し惜しみはしねぇ!今出来る全力を込めるぜ!!
フリップスペル発動!デスペレーションリバース!!」

 デスペレーションリバース……目隠しした状態でシュートする。自滅を無効に出来るが、バリケードを失う。

「ここでフリップアウト決めなきゃ勝ち目がねぇからな!!!」
 バンの目の周りに闇の瘴気が纏わり付いて視界が奪われる。
「デスペレーションリバースならステップで躱せば…!」
「させねぇ!!」
 バンは素早くシュートの構えをとった。
「うおおおおお!!!アンリミテッドォォ!ブースターインパクトオオオオオ!!!!

 自滅を恐れぬ限界を超えた一撃!

「っ!」
 リサはどうにかステップで躱そうと機体を動かしたのだが……!

 カスッ……バゴオオオオオオオオオン!!!
 ちょっと掠めただけで、ブレイズウェイバーは木の葉のように吹き飛び、ステップで使っていたバリケードも破壊されてしまった。

『フリップアウトォォ!!!やられたらやり返す!!!バンくんもフリップスペルを駆使した超必殺技で2ダメージ返したぞ!!』

「へっへーーーん!どうだ!!」
「バン……」
 二人は場外した愛機を拾う。
「ふふふ……」
 今度はリサの方が笑みを浮かべた。
「なんだよ?」
「バン…すっごく楽しいね!!」

「……は?」
 何を今更……とバンは怪訝な顔をした。
「当たり前だろ!それがフリックスバトルだ!!」
「ううん、そうじゃなくてね。私、バンとやるフリックスが楽しいの!初めてだった……こんなに心から楽しいって思えるフリッカーと出会えたのは……!
バンと一緒に暮らすようになって、たくさんの仲間が出来て、ライバルと戦えて、バンと協力したりバトルしたり……凄く、凄く幸せな毎日だった!!
バン、私を守ってくれてありがとう」
 リサはまっすぐにバンを見つめ、瞳を潤ませながら心からのお礼を言った。
「リサ……へっ、お前を守ったのは今ここで倒すためなんだぜ!忘れんなよ!!」
 バンは照れ隠しにそういきがる。
「クスッ、そうだったね」
 リサは微笑ましく口元を緩ませながら頷いた。

 そして、アクティブシュートのためにマインと機体をセットする。

『さぁ、激闘の決勝戦もいよいよクライマックスか!?
HPはお互いに残り1!そしてフリップスペルを使い切り、バリケードも失った状態!!
まさにお互い崖っぷち!このアクティブシュートを制したものが勝者になると言っても過言じゃないぞ!!』

 会場の注目度が一気に高まる。ここから、一瞬たりとも見逃すまいと皆が集中する。

「ディフィートヴィクター、頼むぜ!」
 バンはフィールドから離れて助走をつけた。
「ブレイズウェイバー、お願い!」
 リサは精密に狙いを定めた。

 ドクン、ドクン、ドクン……!
 鼓動が鳴り響く。誰のものなのか?それとも全員の鼓動がシンクロしたのか?

『それじゃ、いくぜ!!運命のアクティブ!』

 バトルフリッカーコウに合わせて会場にいる全員が声を上げる。

「「「3!」」」

「「「2!!」」」

「「「1!!!」」」

「「「アクティブシュート!!!!」」」

「うおおおおおお!!!!カッ飛べええええ!!!!!
ビッグバンインパクトオオオオオ!!!!

 ダッシュしたバンが全身をバネにした超強力な最大奥義を放つ。
 ブレイズウェイバーも逃げずに真正面から向かってきた。

 ガキンッ!!!
 大きく斜め後ろへと弾き飛ばされるブレイズウェイバーだが、フェンスに激突しその反動で加速しながら反撃してきた。

 バゴォ!!バキィ!!ドゴォ!!
 何度も何度も壁に反射しながらディフィートヴィクターを四方八方から攻め立てる。

ブレイジングドリフト!!
「うおおおおお!!!!抜け出せヴィクター!!!」

 ブレイズウェイバーの攻撃の反動を利用して勢いを取り戻したディフィートヴィクターはラッシュから脱出し、フェンスに激突!
 そしてフロントソードのバネの力で跳ね返り、スピンしながらブレイズウェイバーへカウンターアタックする。

 バキィィ!!!
 その反動でお互いに弾かれ、再びフェンスにぶつかってバネの力で勢いを回復させながら跳ね返り、再びぶつかる。

「いっけええええ!!!」
「ウェイバー!!!」

 ドガァ!!!バーーン!!!バゴォーン!!!
 それからは何度もその繰り返しだった。
 機体に内蔵されたバネの力で、壁や敵機とぶつかりながらその反動で勢いを回復し、激突していく。
 激突すればするほど勢いが増していき、止まる気配が見えない。

『な、な、なんだこのアクティブシュートは!!
お互いにバネの力と激突の衝撃を利用して勢いを保ちながら、何度も何度もぶつかり合っている!
これは、もはやおはじきとは言えない!まるで、リアルタイムで戦う格闘技だ!!!』

「頑張れ!ブレイズウェイバー!」
「ダントツで決めろ!ディフィートヴィクター!!」

 そして、お互いの勢いが最高速に達し、フィールドの中央で激突した時……!

 カッ!
 と、眩い光が会場全体を包み込んだ。

『な、なんだこの光は!?』

 この現象を、伊江羅が驚愕しながらも解説する。
「火花……?いや、衝撃と摩擦熱による発光か?!」
「ふぉっふぉっ!フリッカー魂の共鳴、とでもいった方がキャッチーじゃろう?」
 理論的な伊江羅に対して、段治郎は経営者としての広報メインの考え方をしている。

 そして、しばらくして光が収まると、フィールドの状況が見えてきた。
 マインはすでに全て場外している。
 そして、肝心のヴィクターとウェイバーは……?

『謎の光がようやく収まった……現在の状況はどうなっている?
おおっと!二機ともまだ無事だ!!しかし、お互いに相手のスタート位置のフィールド角に機体のリア半分を迫り出している!ギリギリのところで耐えてはいるが、フラフラしていていつ落ちても不思議じゃないぞぉ!!!』

「ヴィクター!」
「ウェイバー!」

 フラフラと、今にも落ちそうな二機だが、その揺れは心なしかヴィクターの方が大きく、ウェイバーは徐々に揺れが収まりつつあった。

『こ、これは……若干ではあるが、ウェイバーの方が安定しだしたぞ!ヴィクター、ここで万事休すか!?』

 ヴィクターの揺れが更に大きくなり、ついに外にせり出していたリアパーツが下へと傾いてしまう。

「勝てえええ!!ヴィクタァーーーー!!!!」

 負けまいとバンは必死で叫んだ。
 その時だった。

 パンッ!!
 と小さな破裂音が響き、フロントソードのギミックが発動し、フロントが伸びた。
 その振動と、フロントが伸びて重心が変化したことにより、下へ傾きそうになったヴィクターの姿勢は回復。フィールドにしっかりとシャーシをつけ、安定した。

 反対に、その小さな振動によってブレイズウェイバーが若干動いてしまい……地に落ちてしまった。

『こ、れは……!奇跡、なのか……?万事休すだと思われたディフィートヴィクターは、間一髪でギミックが暴発した事で九死に一生を得た!それとは反対に、ギミックの振動によってブレイズウェイバーがバランスを崩して場外!
よって、勝ったのはディフィートヴィクター!!
第一回グレートフリックスカップを制したのは、段田バンくんだああああああ!!!!!!』

「ぃよっしゃあああああああ!!!!!!」

 バンがありったけの力で喜びを表現すると、会場がドッと湧き上がった。

「やった、ついにやったんだ……」
「すげぇぜ、すごすぎるぜバン!!」
「うおおおおお!!!お前は俺の誇りだあああああ!!!!」
「さすがじゃ!いいバトルじゃったぞ、二人とも!!」
「うん!歴史に残る凄いバトルだった!!」

「フッ、こんなの見せられたら、俺も一刻も早く復帰したくなるな」

「うおおおおお!!!なんか俺すっげぇ感動したぜええええ!!!!不肖、男ゲンタ!このバトルに誓って、もう絶対に卑怯な事はしないぞおおお!!!!」

「なんか、言葉にならないんだな……」
「うん、僕もいつかあんなバトルができるようになりたいな」

「あなたの答え、しかと見せていただきましたよ、リサさん」

 今までバン達と戦ってきたライバル達は皆このバトルに心打たれ、そしてそれぞれのこれからに想いを馳せた。
 最高の決着は、同時に新たなるスタートラインでもあるのだ。

「バン……」
 喜びに満ち溢れているバンへ、リサはゆっくりと近寄り静かに声をかけた。
「リサ!へへっ、いいバトルだっ……たな?」
 リサへお互いの健闘を讃えようとしたバンだったが、その言葉は途切れてしまった。
 言い切る前に、リサはフワリとバンを抱きしめたのだ。
「リ、サ…?」
「おめでとう……良かった、良かったね……!本当に、おめでとう!バン!!」

 リサは涙をボロボロと流し、嗚咽を漏らしながらバンを祝福した。
「な、なんだよ……!リサは負けちまったんだぞ、悔しくないのか?」
「悔しいよ…だって、本気で戦ったんだもん……!でもね、それよりももっともっと!バンが私を超えて優勝してくれたのが嬉しいの!凄く、凄く、嬉しいんだよ……!!」
「リサ……」

「私ね、ずっと考えてたんだ。私にとってバンはなんなのか、私の本当の目標はなんだったのか……私はね、バン。あなたの目標になれた事が凄く楽しくて幸せだったんだ……だから、その目標を叶えてもらう事が、私の夢になってた。だから、ずっと強くありたかった……!
私が持てる全力の強さをバンが乗り越える瞬間をずっと待ち望んでたんだ!」
 涙でくしゃくしゃになった顔を上げ、リサは満面の笑みを向ける。
「私にとってのバンは、誰よりもダントツ一番なフリッカーだよ」
「リサ……」
 リサの言葉を受け、バンは照れ臭そうに顔をそらし、視線を観客席へと向けた。
「へっ、サンキュ!俺もリサを目標にしてきて本当に良かった……!」
「バン……」
「でもさ、『私にとっての』ってのだけは間違いだぜ!」
「え……?」
 バンはディフィートヴィクターを掲げて大声で宣言した。

「俺はっ!誰にとっても、正真正銘!!
ダントツ一番だぜえええ!!!!!」

 

   おわり

 

 

CM

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