弾突バトル!フリックス・アレイ 第49話

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第49話「リサの想い リベンジの意味」

 

『第1回グレートフリックスカップ二日目!準決勝第一試合は大激闘の末にバンくんが勝利した!
次なる試合は、リサくんvs剛志くんの戦いだ!その前に、30分の休憩に入る!試合に向けてしっかりと準備を進めてくれよぉ!!』

 大会運営の幹部クラス以上の人間しか入ることの許せない部屋。
 ここに段治郎が座っていた。
 扉の前と段治郎の横にはガードマンらしき男が配置されている。

 扉の向こうで何やら言い争う声が聞こえる。
「こら!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!!」
「邪魔だ、雑魚ども」
 ドゴオオオオン!!
 爆音共に扉が開かれ、そこにはザキと倒れているガードマンがいた。

「なんだこいつ!」
 中にいたガードマンが身構えた。
「良い、通せ」
 段治郎の一声でガードマンは身を引き、ザキは段治郎の前に立った。
「てめぇに話がある」
「ふぉっふぉっふぉ!来ると思っていたぞ、ザキよ」
「けっ」
 ザキはつまらなそうに退学届と書かれた封筒を段治郎へ突きつけた。
「てめぇとの縁もこれまでだ」
「……良かろう」
 たったそれだけの会話をしたのちに、ザキは踵を返して去って行った。
「ふぉーはっはっはっはっ!!」
 ザキが閉めた扉を見つめながら、段治郎は何故か嬉しそうに高笑いするのだった。

 部屋を出て、薄暗い通路を歩いているザキは腕組みしながら壁にもたれかかっている伊江羅博士と遭遇した。
「やはり、行くようだな」
 無視して通り過ぎようとしたザキに、伊江羅は話しかけた。
「てめぇ……図りやがったな」
 立ち止まり、伊江羅を睨みつける。
「何の事だ?」
「……まぁいい。俺は俺の道を行くだけだ、あばよ」
 言って、ザキは再び歩き出した。
「ふっ、それもいいだろう。フリッカーであり続ければ、またいずれ道が交わる事もある」
「ケッ」
 ザキは不機嫌そうに舌打ちし、歩いて行った。

 一方、試合が終わったバンはオサムたちと合流した。
「おっ、やったなバン!」
「ついにザキに勝ったね!」
 オサムとマナブが口々にバンを賞賛してくれる。
「へへ、まぁな!けど、さすがにクタクタだぜ……決勝までに回復出来るかな……」
「今から次の試合まで30分休憩。試合が終わったらまた休憩に入るはずだから、時間はたっぷりあるよ」
「ま、とりあえずこれでも飲んで一息つけよ」
 オサムがスポーツドリンクをバンに渡す。
「サンキュ。……ところでリサは?」
 てっきりオサムたちと一緒にいるものかと思っていたリサがいない事に気付いた。
「あぁ、試合に向けて一人で集中したいからってどこかに」
「そっか、次の相手はあの剛志だからな……リサも気合い入ってんだな!」

 トレーニングルーム。大会運営が選手のウォーミングアップのために用意した部屋だが、ほとんどの試合が終わった今は人気がなくガランとしていた。
 その中で、部屋の隅にあるフィールドだけがフリックスのシュート音が響いている。

「いけっ!ブレイズウェイバー!!」
 バシュッ!!
 障害物がいくつも置かれたフィールドを、ウェイバーは縫うようにバウンドしながら突き進み、フィールド端にあるマインに当たる。
「ふぅ」
 汗を拭いつつウェイバーを拾い、再セットする。
「……」
 神経を研ぎ澄ませて、ジッと狙いを定める。

【絶対に決勝で戦おうぜ!】

 昨日、バンに言われた言葉が頭の中で反響する。
「っ!」
 一瞬の気持ちの乱れ。しかしそれは顕著に機体の動きに反映されてしまい、ウェイバーはあらぬ方向へとバウンドして自滅してしまった。
「……集中しなきゃ。今は、目の前の試合だけに」
 リサは一層気を引き締めて練習を再開するのだった。

 剛志は、レイジの用意したトランスポーターの中で機体の調整をしていた。
「できたよ、剛志。グランドギガの強化コーティング!」
「おお!さすがじゃなレイジ!」
 グランドギガは強そうな光沢を帯びている。
「これでグランドギガの素材強度は大幅にアップした!剛志のフルパワーでも機体バランスが崩れることは無いよ」
「シャーシは新素材の特殊ラバータイプ。これでワシのパワーが100%活かせるわけじゃな」
「100%どころか、1000%だよ!」
「じゃが、それでもリサを倒すのは容易じゃないじゃろうな」
「……うん」
 レイジは徐ろにタブレットを開き、画面にリサとブレイズウェイバーのデータを映した。
「ブレイズウェイバー……揺らめく炎のようなボディ形状とサイドパーツに埋め込まれたサスペンションでフェンスや敵機と接触した時にバウンドして、通常だとありえない角度で反射してどんな位置からでもマインヒットを決める……しかもシュート準備に時間がかからないから、ブレイズバレットと相性が良い」
「バンが苦手とするように、ワシにとっても不利な相手じゃろうな」
「グランドギガのあらゆる機体を受け止める形状は逆にリサにとっては利用しやすいだろうしね……」
「ワシに勝機があるとすれば、やはりあの手しかないじゃろうな」
「え?」
「レイジ、お前の魂借りるぞ」
「???」

 そしてそれぞれの準備が終わり、試合時間になる。

『さぁ、準決勝第二試合!そろそろ開始の時間だ!!両選手入場してくれ!!』

 ステージ上にリサと剛志が現れる。

『類稀なシュートテクニックで数々のバトルを制覇!華麗なるマインヒットは見るものを魅了する!ブレイズウェイバーのリサくん!!』

 リサにスポットが当たる。

『鍛え抜かれたフィジカルと野生の勘で戦うワイルドフリッカー!グランドギガの剛志くん!……んん?』

 剛志にスポットライトが当たると、剛志の持っているフリックスがいつもと違う事に気付いた。

『な、なんだ!?剛志くんのフリックスがいつものグランドギガではないぞ!!』

「今回ワシが使うのはこれじゃ!ファントムギガ!!」
 剛志はファントムギガと称した機体をフィールドにセットした。
 それは、フロントとセンターをグランドギガにし、サイドとリアパーツをファントムレイダーのものを使用したフリックスだった。

『なんとなんと!今回剛志くんが使うのはグランドギガとファントムレイダーのニコイチ機体だ!!FXシステムの特徴をフルに活かしたこの形態!個人戦とはいえ剛志&レイジタッグの力が見られるのか!?』

 客席。
「す、すげぇ……!」
「敗退したレイジの機体パーツを合体させるなんて、考えたね」
「マジかよ…!剛志相手ならリサの方が有利だと思ってたのに!くっそー!負けんなよリサーー!!!」

 ステージではリサも剛志の奇策に驚きを隠せなかった。
「ファントムレイダーとの合体!?」
「レイジも一緒に戦っとるっちゅー事じゃ。ワシは絶対に負けんぞ」
 剛志の凄みを効かせた睨みにリサは一瞬ひるんだ。
「っ!」

『さぁ、それではそろそろ初めて行くぞ!』
 フィールドは四辺の真ん中にフェンスが取り付けられたスタンダードタイプだ。

『3.2.1.アクティブシュート!!』

 シュンッ!
 リサはぶつかり合いを避けて先手を取った。
「相手がどんなフリックスでも、先手さえ取れば……!」
 ファントムギガは横っ腹を晒している。
 マインの位置は遠いが、ファントムギガにぶつかった反動で反射すればマインヒットは可能だ。
「いけ!」

 ス……。
 リサのシュートはファントムギガをすり抜けてまっすぐ進んで止まった。

「!?」
『おおっとこれは珍しい!リサくんが攻撃失敗!!続いて剛志くんのターンだ』

「グランドギガはブレイズウェイバーにとっては相性が悪い。じゃが、受け流し性能に優れたファントムレイダーならブレイズウェイバーの反射を無効化出来るんじゃ」
「っ……!」
 リサにとってレイジは天敵だった。一度倒した事があるとは言え、それでも相性が不利なのに変わりはない。
「そしてこいつはグランドギガのパワーも備えておる!」

 ドンッ!!
 剛志はステップさせる暇も与えずに強シュートを放った。

 バキィ!!
 ブレイズウェイバーはそのパワーになすすべなくすっ飛ばされてしまう。
「ブレイズウェイバー!!」

『ブレイズウェイバー場外!これは、フリップアウトか……い、いや!』

 よく見ると、ファントムギガのフロントがフィールド中央の穴に被っていた。
 フリップアウトは無効で、剛志が自滅で一ダメージだ。

「くっ、まだこの機体のシュート感覚に慣れとらんかったか」
「今のは運が良かったけど、ファントムレイダーの受けながしに、グランドギガのパワー……!このままじゃ苦しい」

『さぁ、仕切り直しだ!
3.2.1.アクティブシュート!!』

 バシュッ!!
 今度は剛志が躱そうとするブレイズウェイバーを見事に狙い撃ちし、先手を取った。
「っ!もう感覚を掴んでる……!」
「いつもと違うとは言えレイジの機体じゃ!一度撃てば十分じゃ!!」

 ドンッ!!
 剛志の攻撃、重い一撃がブレイズウェイバーにヒットしマインのある位置まで飛ばされた。

『鋭い攻撃!飛ばされたブレイズウェイバーはそのままマインにヒット!!』

「無理にフリップアウトを狙う必要はないからのぅ」
「……!」

 そしてまた同じような展開になった。
 リサの攻撃は不発し、剛志はブレイズウェイバーを吹っ飛ばし着実にマインヒットする。

『さぁ、リサくんの攻撃が通じないまま、剛志くんは着実に攻めていく!!
リサくんの残りHPは1!!
対して剛志くんのHPは2でまだまだ余裕があるぞ!!』

「あ、ぐ……!」
「追い詰めたぞ……!」

 客席。
「リサー!落ち着いていけー!!お前の力はそんなもんじゃないだろ!!!本気出せば絶対勝てる!!!」
 バンの力の限りの声援。

「バン……ううん!私は、私は剛志を倒す事だけを考えないと……!」
 リサはバンの声が聞こえないように頭を振った。
 その様子に、バンは怪訝な表情をした。
「リサ…?どうしたんだ」

 バンの声は当然剛志にも聞こえているが、剛志はしたり顔で笑った。

「悪いのぅ、リサ。お前の、バンと決勝で戦うという目標は叶わんぞ」
「わ、私は!ただ今は剛志を倒したいだけ!!先の事は関係ない!!!」
「ほぅ……?」

 バンはリサの反応に構わずに叫ぶ。
「リサー!俺は決勝で絶対にお前にリベンジするんだ!!ここで負けたら承知しねぇぞ!!!」

 バンの言葉に反応を示したのは剛志の方だった。
「リベンジ…か。バンがリサへのリベンジを望んどるように、ワシも絶対にリベンジしたい相手がいるんじゃ。だから絶対にここでお前を倒す」
「え、リベンジしたい相手……?」
「バンじゃよ」
「バン……?」
「忘れたとは言わせんぞ。いつかのタッグバトル大会……個人戦で勝ちはしたが、あの試合は完全にバンにしてやれたからのぅ。今度こそ完膚無きまでに叩きのめしたいんじゃ」
「それが、剛志の目標……?」
 意外そうな顔をしたリサを見て、剛志は何かを感じた。
「そう言えば、お前の方はどうなんじゃ?」
「え……」
「お前はバンと戦いたいんじゃないのか?」
「私はっ!ただ目の前の戦いに勝つことを……!」
「今に全力を尽くすのは結構じゃが、それは未来に目を背ける事の言い訳にはならんぞ」
「っ!?」

 確かに、剛志のいうとおりだった。
 今のリサは本気でバトルしているとは言え、未来への答えを先延ばしにしているだけ。でも、もう決着の時が近づいている以上先延ばしていい段階ではない。

「わ、私は、私だって、バンと決勝で…たたか、いたい……!」
 絞り出すように言葉を紡いだ。これは間違いなく自分の本音のはずだ。
「何故じゃ?リサはバンに何度も勝っとる。わざわざリベンジに受けて立つ理由はないじゃろう。だったらワシに譲れや」
「あ、ぐ……!」
 いやだ。なぜだか、それだけは絶対に嫌だった。
 優勝とかもうどうでもいい、バンと戦いたい。でも、どうして?バンがリサと戦う理由があっても、リサがバンと戦いたい理由がない。

『おおっとどうしたんだリサくん!ターンが来てからまだ動かない!!30秒経過すると剛志くんのターンになってしまうぞ!!』

 HPが1の状態でターンが移ってしまうのはまずい。
 バンは涙を浮かべながら必死で叫んだ。
「リサー!俺は、お前がいたから強くなれたんだ!!お前と戦えなきゃ、俺は、ダントツ一番になんかなれねぇよ……!!だから頼む!!勝ってくれぇぇぇ!!!!」

「バン……!」
 その時、リサの胸の中に温かい感情が生まれたような気がした。
 そして、脳裏に浮かぶバンと過ごした日々……。

『タイムアップ!!ターンは剛志くんに映るぞ!!』

「少々小狡い精神攻撃をさせてもらったが、これも勝負じゃ!」
 バシュッ!!
 剛志は容赦なくトドメの一撃を放った。

「リサーーーーー!!!!!」

 しかし、その一撃は正確で重いものだったにも関わらず、ブレイズウェイバーにダメージを与える事が出来なかった。

「なんじゃと!?」

『か、間一髪ーーー!!!リサくんはグランドギガの攻撃が当たる寸前にステップで躱した!!』

「リサ……」
 ホッとするバンの方を向き、リサは凛々しい顔つきで言った。
「安心して、バン。私は必ずあなたのところへ行くから」

「リサ……へっ、当然だぜ!」

「何やら吹っ切れたようじゃな」
「うん……私は、私にとってバンはフリックスの本当の楽しさを教えてくれた恩人なんだ。バンと一緒にフリックスするの、凄く楽しい。いつまでも楽しくバトルがしたい。でも、今はそれだけじゃなくて……」
「ほう?」
「……うまく言えないんだけど、正直言って、あなた達二人が羨ましくなる事もあった」
「ワシとレイジがか?」
「うん、仲間としてもライバルとしてもお互いの事をいつも想いあって……だけど、それと同じが良いってわけじゃなくて、その、もっと別の……」
 言ってるうちにリサの顔が徐々に赤くなっていく。それを見た剛志も釣られて赤くなって手をブンブン振った。
「あーもうええもうええ!こっちが恥ずかしくなるわい!!」
「え……?」
 剛志の反応を見てリサはキョトンとする。
「自覚なしか。まぁええ。じゃったらその想い、ワシを超えてバンにぶつけるんじゃな!!
未来を見据えた今の全力を見せてくれんと、ワシも倒し甲斐がないわ!!」
「うん!いくよ、ブレイズウェイバー」
 リサは、盤面を見渡した上で宣言した。
「フリップスペル発動!ブレイズバレット!!」

 ブレイズバレット……3秒以内に変形向き変えしてシュートする。この時二つ以上のマインに干渉してマインヒットしたら2ダメージ与えられる。

「やはり来るか……!じゃが、ファントムギガにブレイズウェイバーの攻撃は通用せんぞ!!」

「いけっ!ブレイズウェイバー!!」
 素早く向き変えしてシュートする。
 ガッ!ガッ!!バシュッ!!!

 ブレイズウェイバーは、フェンスにぶつかりながら向きを変え、バネの力で加速しながらフィールド内を縦横無尽に動き回った。

『のおっとこれはすごい!!ブレイズウェイバーはお得意のバウンドを利用してフィールド内を所狭しと駆け巡る!!!』

「ブレイジングドリフト!!」

「な、なんじゃこの動きは!!!」

『まさしく燃え広がる炎の如く、ブレイズウェイバーの軌道はフィールドのほとんどの面を通っている!!』

 これでは、如何にファントムギガの受け流し性能があっても無意味だろう。
 当然のようにブレイズバレットは成功した。

『決まった!グランドギガを撃破し、ブレイズウェイバーのリサくんが勝利だーーー!!!!』

「やったぜリサーーー!!!」

 リサは一息ついてブレイズウェイバーを手に取った。
「ありがとう、ブレイズウェイバー」
「いやぁ、参ったのぅ、まさかあんな隠し球があったとは」
「剛志のおかげだよ。剛志のバンへリベンジしたい想いが、私に大切な事を気付かせてくれた」
「みたいじゃな。まぁ、お前さんの想いはワシらとは少し違うようじゃが」
 剛志のからかうような口調に、リサは少し赤面する。
「あ、そ、それ、は……!」
「あ、いやすまん、これはワシにもダメージあるな……」
 釣られ赤面してしまった剛志は自身の軽はずみな発言を悔いた。

『さぁ、これで日本一を決めるための役者が揃った!!
段田バンくんと遠山リサくん!果たして、優勝するのはどっちだ!?』

   つづく

 

 次回予告

「ついに、来たんだな!ずっと待ち望んでいたこの時が!!
リサ、俺は全力でお前を倒す!!!

次回!『恋い焦がれていたバトル!』

次回も俺がダントツ一番!!」

 

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