弾突バトル!フリックス・アレイ ゼノ 第5話「真紅の翼 ウイングジャターユ」

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第5話「真紅の翼 ウイングジャターユ」

 

ライブラヴィレッジへ向かう途中、盗賊団の襲撃にあった弾介とシエル。
盗賊団を退けたものの、ライブラヴィレッジへの到着が遅くなってしまい。
宿屋で夜を明かしてから資料館へ向かうことにした。

そして、朝。
部屋の中に差し込む朝日の眩しさに、シエルは目を覚ました。

「んん……ふわぁ……」

気怠げに身体を起こして小さく欠伸をする。

「あれ、私ここで寝てたっけ……?」

寝ぼけ眼で、自分が寝ていた位置に違和感を覚えながら部屋を見回すと窓辺で座禅を組んでいる弾介の姿を見つけた。

「弾介さん、おはようございます……なにやってるんですか?」
「おはよ、来たる戦いに向けて精神統一だよ」

嘘である。
本当は、昨夜のシエルのホールドから一瞬の隙をついて脱出し、不純な欲望を消し去るために一晩中座禅を組んでいたのだ。
所々仮眠はとったが、それでも寝不足だ。

「さすがですね。でも、あまり気合い入れすぎても倒れちゃいますよ」
「はは、そだね……」

誰のせいだ。とめっちゃ言いたかったが我慢した。

そして二人は朝食を済ませて身支度をし、本来の目的地である街の資料館へ足を運んだ。

ライブラヴィレッジ大資料館。
街の中央に鎮座する1番大きな建物だ。
所々修繕された後がなんとも歴史を感じさせる。

「ここが資料館かぁ!」
「はい、世界中のありとあらゆる情報が集まる場所です。ここならきっと伝説のフリックスに関連する情報もあるはずです!」
「よし、早速行こう!」

建物の中に入るとヒンヤリとした空調が心地よい。

「資料館っていうだけあって、いろんな本があるなぁ」

シエルが受付と話をしている間、弾介は周りにある本棚を興味深げに見て回った。

「フリックスに関連する本もいっぱいあるし、工業や物理学の専門書とかも充実してる。
あ、魔法書とかもあるんだ。あと武器や格闘術の本に兵器図鑑……なんか戦いに関連するのばっかだな」
「ここは戦闘関連の書物を置いているフロアですからね。昔、魔王が出現するようになってから、戦闘系の知識に需要が出来たので資料館の中でも特に力が入っているんです」

いつのまにか受付を終えたシエルが話しかけてきた。

「へー……って、シエル、もう終わったの?」
「はい。館長は最上階の館長室にいらっしゃるそうなのでそこへ向かいましょう」
「うん」

シエルに案内されるまま、弾介は館長室へ向かった。

「失礼します」

館長室の扉を軽くノックして開けると、中にはメガネをかけた小柄な女性が立っていた。
シエルはその女性に軽く頭を下げる。

「こんにちは、お久しぶりですイブさん」
「おおお、シエル!よく来たでありますなぁ!!」

知的そうな顔立ちとは裏腹にイブと呼ばれた女性は小動物のようにくしゃりと笑い駆け寄ってきた。

「弾介さん、こちら資料館館長のイブさんです」
「ど、どうも、龍剣弾介です」
「はじめましてであります!
王様から話は聞いてるでありますよぉ〜!あなたが異世界から来たと言う伝説の少年でありますな?」
「え、あ、はい、まぁ一応……」

ハイテンションで迫られて戸惑う弾介に構わず、イブはズイッと弾介へ顔を近づけた。

「あ、あの……」
「おぉ〜!これが異世界人の顔!興味深いであります!」

さらに、イブはどこから取り出したのかメジャーを手にして弾介のボディを細やかにチェックしはじめた。

「ふむふむ、身長スリーサイズは平均的な10代前半男子とそう変わらないでありますなぁ。フリッカーだけあって筋肉はなかなか良いものをお持ちで、ぐへへへへ」

口の端から溢れそうになるヨダレを何度も拭いながら、イブは忙しなく楽しそうにチェックを続ける。

「シ、シエル、なにこれ…?」
「あはは……すいません、イブさんはこういう方なんですよ」

弾介の助けを求める視線に対して、シエルは苦笑いし、イブへ声をかけた。

「イブさん、そのくらいで……」
「はっ!つい、悪い癖が……!
いやぁ申し訳ない。あちき、好奇心が旺盛で……珍しいものを見るとつい興奮していろいろとしらべ……」

シエルの呼びかけで正気を取り戻したかに見えたイブだが、弾介の額あたりを見ながら再び目の色が変わっていく。

「これはっっっ!見たことない髪飾りでありますなぁ!!!まさか、異世界の特別な力を持ったアクセサリーとか!?!?」
「いたいいたい!」

グイッと弾介の顔を掴んで前髪留めを凝視した。

「いえ、それは城下町のブティックで買ったただの前髪留めです。弾介さん、前髪邪魔そうだったので私が選んだんですよ」

シエルはさり気に弾介のコーディネートをした人間としてアピールした。

「そうでありますか。では、本題に入りましょうか」
「冷めるの早っ!」
「こういう方なんですよ……」

イブのキャラに戸惑いを覚えつつ、一先ず本題に入ることにした。
ソファにつき、テーブルにお茶菓子並べ、3人は向き合った。

「ではでは、早速その伝説のフリックスとやらを見せていただいてもよろしいでありますか!?」
「は、はい」

弾介は言われるがままにドラグカリバーを取り出すと、イブは引っ手繰るようにそれを手にして、先ほど弾介に対して行ったようなチェックを始めた。

「ふむふむふむ!全長105mmに全幅75mmで全高が20mm……なるほどなるほど!やや小振りな分カスタマイズによる拡張性が……そして龍の顔をイメージした形状と鋭いフロントが高い刺突力を発揮するのでありますなぁ……しかもこの可動するフロントソードはかなりの……」

夢中になりながらドラグカリバーをこねくり回している。

「あ、あの…壊さないでくださいね……」
「心配ご無用であります!こう見えて、貴重な資料は丁重に扱う主義なので!」
(ほんとかなぁ)

そして、しばらくいじり倒して満足したのか、恍惚としたため息をついてから弾介に返した。

「ふぅ……ありがとうであります」
「あ、はい」
「確かに、伝説の力測定器が反応しただけあって素晴らしい機体でありますなぁ。しかもこれを弾介殿が作ったとは驚きであります」
「いやぁ、でも僕にとっては普通の事だからあまり実感がないんですよね……」

どこぞのラノベ主人公を思わせるような謙遜をする弾介だが、実際弾介にとって何がどうすごいのかの自覚はない。
ただ、ドラグカリバーが強いというのは喜ばしいと言うだけだ。

「ドラグカリバーの件もまだ謎が多いですが、それよりも魔王討伐のために残り三体の伝説のフリックスを集めたいんです。
そのためにも何か情報が得られないかと思ってここに来たんですが……」
「そうでありましたな。あちきも先日連絡を受けてから資料館にある関連しそうなデータを全て閲覧したのでありますが……残念ながら伝説のフリックスに関する資料は前に王様へ提供した文献だけで他には何も」
「そうですか……」

ここまで苦労して来たのに情報無し。
さすがにシエルはガックリと肩を落とした。

「そうガッカリすることも無いであります。
情報が無いという事が情報になることもあるのでありますよ」
「どういう事ですか?」
「普通文献というのは、何らかの文化や文明が存在するから出てくるもの。しかし、この文献はどこから出典したかの記録がまるで無い。突然この文献だけがポッと現れたようなんでありますよ」
「文献だけが……」
「その内容も抽象的で根拠がまるで無い……だから都市伝説レベルの扱いでしかなかった」
「王様も、100%信じてたわけじゃなく『やれる事があるならやっておくか』程度の感覚でしたしね」
「だからあんないい加減なやり方で集めようとしてたのか……」

伝説の機体を召喚魔法でお手軽に集めるなんて発想、本気で信じていたら普通はしない。

「えぇ、魔王討伐出来る可能性が僅かでもあるものは、ダメ元でとりあえずなんでも試してみると言うのが王様の考えでしたから……伝説の機体を集めると言うのも、無数にある策のうちの一つだったんです」
「ダメ元で召喚されたのか、僕……」

「しかし実際にこうしてドラグカリバーが出現した事で、この文献の信憑性が増してしまった。それと同時に、今まで気に留めなかったはずなのに……たった一つ実証を得ただけで、初めて情報の少なさへの疑問が浮き彫りになったんでありますよ」
「一つの情報が、新しい疑問を……」
「まぁその疑問はおいおい調べていくとして。ドラグカリバーの存在によって、もう一つ価値を持ち始めた情報があるのであります」

非常にまどろっこしい言い回しだが、何かためになる情報があるそうだ。

「その情報って?」
「一ヶ月ほど前から、ここから南西数十キロ先にある村で奇妙な出来事が起きているんでありますよ」
「奇妙なって、一体どんな事なんですか?」
「なんでも、黒く輝くフリックスのような形の隕石が村外れの森に飛来して以来、夜な夜な巨大な化け物が現れて森の草とかを食べてるとかなんとか」
「な、なんですかそれ……」
「フリックスと隕石と化け物って、全然関連性なさそうだけど、もしかして魔王軍のモンスターかな?」
「モンスターだとしたら草なんか食べずに真っ先に村人を襲いそうなものですが……」

あまりにも突拍子も無い話に、弾介とシエルは首を傾げた。

「そう、あちきも最初は眉唾な話だと思って軽く考えてたんでありますよ!
でも、こうして伝説のフリックスが存在する確証を得た今なら、もしかしたら何か関連性があるのではと思ったのであります!」
「仮にその隕石が伝説のフリックスだとして、その力によって化け物が生まれた……と」
「ちょっと無理矢理だけど、他に何も情報がないなら調べてみる価値はあるかもね!」
「確かに、そうですね」
「よし!次の目的地は決まりだ!イブさん、ありがとうございます!」

イブに礼をして立ち上がる弾介だが、イブは何やら物欲しそうな表情で引き止めた。

「あ、ちょっと待って欲しいのであります」
「え、なに?」
「実は、その、情報提供料と言ってはあれなんでありますが、一つお願いが……」

イブはなぜか顔を艶めかしく赤らめてモジモジしている。

「な、なんでしょう?」
「そ、そのぉ……ドラグカリバーと戦わせてほしいのでありますよ!!」
「あ、あぁ、そういう事でしたら喜んで!でも、イブさんってフリッカーだったんですね。ちょっと意外です」
「むふふ、そんなに強くはないんでありますが、データを取るなら実際にバトルするのが1番なんでありますよ」

そう言って、イブは部屋の端にある棚の方へ歩いて行った。
そこには様々なタイプのフリックスが並んでいる。

「ドラグカリバーは攻撃型…となるとこのタイプがいいでありますな」

いくつも並んでるフリックスの中から一つを選んで取り出し、イブは弾介たちを促して部屋の外へ出た。
そして案内された場所はだだっ広い殺風景な体育館のようなスペースだった。

「ここはフリックスバトルができるフリースペースであります!」
「ここなら思いっきりバトルが出来るのか!よーし!」
「当然、フレンドバトル形式でやるので、弾介さんも許可して欲しいであります!」
「フレンドバトル?」
「お互いに了承した同士で出来るバトル形式であります。これならバトルが終わった後もダメージは残らないんであります」
「へぇ、便利だなぁ」
「その代わり、あくまでフレンドバトルをしているフリックス同士でしか干渉できないので、実戦では無意味であります」
「遊びや練習用のシミュレーションバトルってことか。OK、分かった!」

システムを理解したところで、弾介はイブからのフレンドバトル申請を許可しバトルの準備が整った。

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

イブと弾介が機体をスケールアップさせる。
そしてすぐにイブのウェイトカウントが経過してアクティブフェイズ(行動可能状態)になった。

「は、早っ!」
「あちきのビークスマッシャーは軽量型なんであります!」
「そういえば、ウェイトタイムは重さに比例するってシエル言ってたっけ……」
「それでは早速、フィールドジェネレート!!」

イブは昨日ゴウガンがやったようにまず結界を張った。
イブの生み出したフィールドはゴウガンと比べて若干広めで、フィールド端にいくつかフェンスが設置してある。

「ふふ、これであちきのバリケードが強化されたであります!」
「前のフィールドよりもちょっと広いし、フェンスもあるのか…」
「機動力重視のビークスマッシャーは、広くてフェンス付きのフィールドと相性がいいのであります」

フィールド生成したのでウェイトカウントは再びリセットされる。
そしてすぐにビークスマッシャーのターンだ。

「マインセット!」

ドラグカリバーの後ろにマインがセットされる。

「まだシュートしないのか!?」
「あちきは攻撃力が低いからマインは必須なんであります」

続いてドラグカリバーもアクティブフェイズになる。

「相手からの距離は近い!軽量型なら一気に吹っ飛ばしてやる!!」
「そうはいかないであります!」

イブはビークスマッシャーのすぐ近くにバリケードを構えた。

「あんなに近くに…!フィールド内でバリケードを構える場合は、機体から近くなればなるほど強度が落ちるんですが」
「だったらバリケードごと砕いてやる!!」

バシュッ!!
何の考えもないドストレートなシュートがアークスマッシャーへ直撃する。

凄まじい勢いですっ飛ばされるビークスマッシャーだが、イブがバリケードで受け止めた。

「なに!?」
「あちきの作ったこのフィールド内ではバリケードが強化されると言ったはずでありますよ!それに、軽量なフリックスはバリケードにかかる負荷も小さいのであります!!」
「そ、そうか!それでバリケードを近い位置で構えられたのか……!」
「さぁ、次はあちきの番であります!」

あっという間にイブのアクティブフェイズになる。

バシュッ!
ビークスマッシャーはドラグカリバーをかすめてその後ろにあるマインに触れた。

バチンッ!!
マインヒットの小爆発が起こる。
攻撃力がなくとも、これでそこそこダメージが入ってしまう。

「くっ!でも、マインと敵機の距離が近い!これなら反撃出来る!!」

弾介のアクティブフェイズが来る。
急いで構えてシュートするのだが。

「逃げるであります!」

ドラグカリバーがシュートする直前にアクティブフェイズになったビークスマッシャー。
ドラグカリバーの攻撃が当たる寸前にシュートして激突!
弾き飛ばされて後ろのマインに当たったものの、シュートして当たったのでマインヒットにはならない。

「は、早い……!」
「マインヒットは避けたでありますが、距離のダメージを受けたであります……!ドラグカリバーの攻撃力はシュートじゃなくバリケードで受けるべきでありますな」

そして、再びビークスマッシャーのターンだ。

「ここは下手に動かないでマインセットであります」

イブはもう一つマインをドラグカリバーの後ろへセットした。

「もう一個マインを?」
「マインは一人二つまでセット出来るんです!」

これでフィールドはビークスマッシャー有利な陣形になった。
いくら攻撃力が低いといえ、マインが二つも散りばめられた状態でしかも行動が早いとなると、ヒット&アウェイでダメージレースに持ち込まれるとマズイ。

「マイン合戦に持ち込むのは不利だ!やっぱりぶっ飛ばすしかない!!」

しかし、軽い機体を支える強化されたバリケードを突破するのは難しい……!

(いや、待てよ……防御力があるのはあくまでバリケードであって、機体そのものじゃない……それなら!)

弾介は、手首をやや反らせるように構え、シュートの際に指をやや斜め上へ突き出した。
すると、ドラグカリバーはリアを浮かせ、フロントがつんのめりながら突き進んでいく。

「バリケードであります!!」

先ほどと同じようにバリケードするイブだが……!

ガッ!!!

ドラグカリバーとバリケードに挟まれたアークスマッシャーは、その圧力を上へと逃しバリケードを乗り越えるようにすっ飛んでしまった。

「あぁ!?」

バリケードの支えがなければビークスマッシャーはただの軽量機体だ。
そのまま勢いに流されるまま大きく吹っ飛びされてしまい、場外へ着地。
それでも勢いは収まらずにズザァァと滑っていく。
フィールドの外は無限に平面が続いているため、勢いが尽きるまで距離のダメージはどんどん加算されてしまい……ついにはHPが0になる程のダメージとなった。

「よし!上手くいった!!」
「ワザとつんのめらせる事で掬い上げてバリケードを乗り越えたのでありますか……それにしても、たった一撃であそこまでのダメージを与えるなんて」
「す、凄いです弾介さん!」
「えへへ、これがドラグカリバーの力さ!」

バトルが終わり、フィールドが解除される。
フレンドバトルはダメージが残らないので、機体も普通に元の状態に戻った。

「ふ、ふふふ、でゅふふふふ」

ビークスマッシャーを手に戻したイブは、気持ち悪い笑いをこぼしていた。

「あ、あの、大丈夫ですか…?」
「でゅーーーふっふっふっふーー!!!いやぁ、快感でありますぅぅーーー!!!」
「は?」
「やっぱりデータをこの身に感じるには相手の最高の攻撃を受けて負けるに限るでありますなぁぁぁぁはぁぁぁぁんんん!!!
負けるの気持ちいいのおおおおお!!!!」

高揚した顔で身悶えするイブに、弾介は引いた。

「ド、ドMなの……?」
「こういう方なんですよ……」

弾介とシエルがイブの反応に呆れていると

ドーーーン!!
と言う激しい爆音と地響きが伝わってきた。

「な、なんだ!?」
「外で事故でもあったでありますかね?」
「行ってみましょう!」

急いで外に出る三人。
そこでは、両腕が鎌のようになっている人型のモンスターが複数体現れて街中で大暴れしていた。
建物や器物は崩れ、人々が逃げ惑っている。

「こ、こいつらは……!」
「魔王軍のモンスターです!」
「ひぇ〜、こんな辺境の街にも現れるようになったでありますか!」

モンスターが一人の女性へ襲いかかり、羽交い締めにする。

「キシャアアアア!!!」
「いやぁぁ、だ、誰かー!!」

「やめろぉ!!」

ドスッ!
咄嗟に弾介は飛び出し、モンスターへ跳び蹴りをかました。
モンスターは女性を離して蹴り倒された。

「早くっ、逃げて!」
「あ、ありがとうございます!」

弾介に言われるまま、女性はおぼつかない足取りでその場を離れていった。

「シエル!とにかくこいつらをやっつけよう!」
「はい!イブさんは避難誘導をお願いします!」
「りょ、了解であります!」

イブは急いで住民達を安全な場所へ誘導し始める。
そして、弾介とシエルはフリックスを取り出し、右手をかざしてスケールアップするための魔法陣を出現させた。

「「アクティブシュート!!」」

魔法陣を通過させて機体を大きくしアクチュアルモードを起動。臨戦態勢だ!

「イブさんとのバトルのおかげでウォーミングアップはバッチリだ!ダントツで決めるぞ、ドラグカリバー!!」

弾介は軽快な動きで敵の攻撃を回避しつつ、隙をついてシュートし、どんどんモンスターを倒していく。

「こいつら、一体一体は弱いけど数が多いな」
「弾介さん!マインを使ってください!!上手くいけば複数体ダメージを与えられます!」

シエルがドラグカリバーの前にマインをセットしてくれた。

「うん、ありがとう!」

シエルの置いてくれたマインを弾き飛ばしながらドラグカリバーを突進させ、複数のモンスターへ接触していく。

バチンッ!バチンッ!!
一気にマインヒットでモンスター達を倒していく。

「シエル、フィールドジェネレートしてフリップアウト出来るようにした方が効率良く退治出来るかな?」
「いえ、この街中でそんな事したら逃げ遅れた人を危険に晒す事になります!」
「そ、そっか……!」

ただ敵を倒すだけならフィールドを作り出してフリックス有利な環境を作ればいいのだが。
戦闘力を持たないものにとっては、フィールドは牢屋に閉じ込められたも同じだ。
住民を守りながらとなると気軽に発動させていいものじゃない。

このまま戦っていくしかないのだが……。

「うふふ、フィールドジェネレート」

突如、どこからか無理に捻り出したような高い声でフィールドジェネレートが発動した。

「な、なんだ!?僕たち何もやってないのにフィールドが出来たぞ!」
「他にフリッカーが!?」

弾介とシエルが戸惑っている間に、またも謎の声が聞こえる。

「切り刻みなさい、クロススプラッター!!」

シュンッ!
物陰から突如ドクロとノコギリを身に付けた禍々しいフリックスが襲い掛かってきた。

「ドラグカリバー!!」

弾介は咄嗟にドラグカリバーをシュートして迎撃する。

ガキン!!

両者弾け飛んだがダメージを受けるほどではなかった。

「な、なんなんだ一体…!」
「うふふ、なかなかやるじゃない坊や」

謎のフリックスが飛んできた物陰から一人の人間が姿を現した。
20代前半の女性だろうか?スラッとした体型にボディラインが現れるようなワンピース、そして少しケバい化粧。
いや、それにしては声が低く体つきもフラットだ。
それに口元には薄っすらと毛が生えている。

「お、オカマ……!?」
「なによいきなり失礼しちゃうわね!オカマじゃなくて、乙女よ乙女!親愛なる魔王様に恋する一途な乙女!!」
「ええーー」

弾介ドン引き。

「あらぁ、でも坊やもちょっと好みかも……あらやだ!あたしったらおかしいわ!魔王様一筋なはずなのに、これってどう言う事かしら?」
「知らんがな」

一人でクネクネと悩ましく動いているオカマにまともに対応する気は無い。

「あ、あなたは魔王軍のフリッカーですね!」
「ええ、そうよ。巷では切り裂きジュリエって呼ばれているわ」
「切り裂きジョリジョリ?」
「ジョリジョリって言うなっ!!髭剃りしてるみたいじゃねぇか!!!」

弾介の言葉にキレるジュリエ。その声はドスの効いた男の声そのものだった。

「ひぃぃぃ!!」
(やっぱりオカマじゃないか)

ビビるシエルと冷静に心の中で突っ込む弾介。

「ふん、それにしてもあたしの可愛いペットちゃん達に随分と酷い事してくれたわねぇ」
「ペ、ペットォ?」
「えぇ、あのモンスター達はあたしが育てたの。あの子達とは気が合うのよ、獲物を切り裂くのが大好きな所とかねっ!!」

唐突にジュリエがクロススプラッターをドラグカリバーに向けてシュートした。

「っ!」

弾介は咄嗟にバリケードを使ってドラグカリバーを動かして回避するが、クロススプラッターの金鋸がボディをかすった。
そして、掠った部分にハッキリと切り傷がついてしまった。

「ドラグカリバーのボディに傷が!?」
「うふふ、次は外さないわよ。細切れにしてあ・げ・るっ!」
「ふざけるなっ!!」

弾介がクロススプラッターへ向けてシュートの構えを取る。

「弾介さん!」

その時、モンスターの残党がドラグカリバーへ襲い掛かろうとしてた所をシエルがマインヒットで倒した。

「シエル!」
「残りのモンスターは私に任せてください!弾介さんはあのフリッカーをお願いします!」
「言われなくても、絶対倒す!」

ドラグカリバーのアクティブフェイズ。
弾介は力の限りシュートする。

「くらえぇぇ!!」
「あら勇ましい。男らしくて素敵よ」

シュンッ!
ドラグカリバーの攻撃はヒットしたものの、クロススプラッターはボディを回転させて受け流した。

「なに!?」
「残念でした。スピン用のシャーシ装備してるから、重心を捉えないと受け流せるのよねぇ〜」
「くっ!」

そしてクロススプラッターのアクティブフェイズになる。

「ん〜、でもちょっと物足りないわねぇ。やっぱりあたし、機体よりも生き物を切り刻む方が好きなのよね」
「なに?」
「そう、ちょうどあの子みたいな、か弱い子が一番楽しいのよ!」

カサッ……。
弾介の後ろで、小さな足音が聞こえた。
そこには、逃げ遅れたであろう小さな女の子が恐怖に震えながら立っていた。

「に、逃げろぉ!!」

必死に叫ぶ弾介だが、怯えた少女が言われた通りに動けるはずもない。
弾介は急いでステップでドラグカリバーを動かしてせめて盾になろうとするも、バリケードで動かせる速度はたかが知れている。

「切り裂きなさい!クロススプラッター!!」

ジュリエがクロススプラッターを少女に向けてシュートする。
もう間に合わない!
その時だった。

「ウイングジャターユ!!」

赤い閃光が割って入り、クロススプラッターの横っ腹を突き、弾き飛ばした。

「きゃっ!な、なんなのよ…!」

衝撃で巻き起こった砂煙が徐々に晴れていく。

「あ、あいつは…!」

そこには、昨日遭遇したあの少年と赤い翼を持ったフリックスがいた。

「あ、あの、お兄ちゃん、ありがと……」

少女が戦々恐々としながら礼を言うと、少年は振り向きもせずに言った。

「隠れていろ。ただし、フィールドの外には出るなよ」
「う、うん…!」

少女は言われた通りにその場から逃げた。

「んもうなんなのよあなた!邪魔しないで頂戴!!」
「邪魔なのはお前の方だ。俺はこの街に用がある。これ以上荒らされるわけにはいかないんでな」
「なにそんな勝手な事を……って、あらよく見るとなかなかのイケメンボーイじゃない。でもごめんなさいね、あたしは魔王様一筋だから、いくらイケメンでも好みじゃないの」
「……」

勝手にイケメン扱いした癖に勝手に振ったジュリエのことは無視し、少年は弾介に話しかけた。

「龍剣」
「え、なに、なんで僕の苗字知ってんの??」
「フリップ王国の城下町にいれば、嫌でも噂が耳に入る」
「な、なるほど」
「ここは一旦手を組むぞ。その方が効率がいい」
「……」
「どうした?不満なのか?」
「いや、その前に名前聞いてもいいかな?せっかく協力するのに、僕だけ名前知らないのも不公平だし」
「……レイズだ」

少年は渋々と言った感じで答えた。

「そっか、よろしくレイズ!」

友好的な弾介には答えず、レイズは話を元に戻した。

「奴の機体、弱点は恐らくノコギリのサイドだ。そこを突くぞ」
「で、でも、あいつスピンシャーシでこっちの攻撃を受け流すんだ……!」
「問題ない。奴の両サイドに回り込んで同時攻撃だ。出来るな?」
「わ、分かった!」

「なによなによ、こそこそしちゃって!こうなったら二人まとめて切り刻むだけよ!行きなさい!クロススプラッター!!」

バシュッ!!
ジュリエが二人固まっている所へシュートする。

「今だ!!」
「ドラグカリバー!!」

二人はステップでバラけるようにクロススプラッターの攻撃をかわした。

「いくぞ、龍剣!」
「分かった、レイズ!」

そして、挟み撃ちするように二人がクロススプラッターのフロントノコギリの両サイドへシュートをぶちかました。

「な、なによそんな攻撃!そんなんじゃダメージ受けないわよ!!」

確かに、挟み撃ちではマインもなければフリップアウトも出来ないし、距離を飛ばす事も出来ない攻撃だ。
しかし……

バキィ!!!

両サイドからの負荷にノコギリを接合している付け根部分が耐えられなかったのかノコギリが本体から外れてしまった。

「いやぁん!あたしのクロススプラッター!!」

HPは減らなかったものの、機体そのものが破損してしまい大きく戦力ダウンしてしまった。

「んもう!なんて事してくれるのよぉ!!フィールド解除!!」

ジュリエはフィールドを解除し、クロススプラッターを回収。

「覚えてらっしゃい!次こそ切り刻んでやるんだから!!」

捨て台詞を残して逃げていった。

「は、ははは、初めての魔王軍フリッカーとの戦いだったけど、なんとか撃退できた……。
レイズ、ありがとう」

弾介はレイズへ友好的に握手を求めたのだが。

パシッ!
と、レイズは弾介の手を弾いた。

「え?」
「ドラグカリバー……どうやら最強の剣と言うのは本当らしいな。ならば、ここで潰す」

バーーン!!
ウイングジャターユが突如ドラグカリバーを弾き飛ばした。

「な、なんだよ!もう戦いは終わっただろ!それに、協力するんじゃなかったのか!?」
「今のお前の言葉が全ての答えになっている。戦いが終われば、協力も終わりだ!」
「だ、だからって、いきなり……!」
「フィールドジェネレート!」

弾介がもたもたしてる間にレイズはフィールドジェネレートを発動させてしまった。

「これで逃げ場はないぞ」
「っ!上等だ……!やるしかないなら、やってやる!!」

 

        つづく

 

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