弾突バトル!フリックス・アレイ ゼノ 第3話「伝説のフリックス」

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第3話「伝説のフリックス」

 

段田バンとのバトルの最中に異世界へ強制召喚された弾介は、愛機ドラグカリバーが異世界で猛威を振るっている魔王を討伐できる伝説のフリックスの一つだと言う事が判明したので魔王討伐に挑戦する事になったのだ!

朝。身支度を終えた弾介とシエルは王室に呼ばれていた。

「やぁ、おはよう弾介!シエル!!」
「おはよう、二人とも」
「どうだ?昨夜はよく眠れたか?」

王様のジンとアリサが元気よく二人へ挨拶してくれるが、それに対して二人は元気がない。

「……はぃ」
「おはよぅ、ございます……」
「ど、どうした?眠れてないようだが……何か客室に不備でもあったか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんですが」

宿泊する事になった部屋は文句の付け所がなかった。快適なベッドに清潔な部屋、仄かなアロマの香りが心を落ち着かせてくれるこれ以上ない寝室だった。
しかし……

(あんな事あったら落ち着いて寝られないよ)

弾介がチラッとシエルを見ると、シエルは頬を染めて気まずそうに視線を逸らしながら弾介へぽしょっと話しかけてきた。

「あ、あの、弾介さん……昨日の事は、その、忘れていただけるとありがたいのですが……」

恥ずかしそうにそう言われると、昨日の感触が妙に鮮明に思い出されるような気がして、弾介は手で口元が緩みそうになるのを隠しながら言った。

「うん、出来れば早く忘れたい……」
「ヒドイです!忘れたいほど見苦しかったって事ですか!?」
「ええー!?じゃあどうすりゃいいんだよ!!」

2人のやりとりを見て、ジンは楽しそうに笑う。

「はっはっは!なんだ元気あるじゃないか!これなら魔王討伐も問題ないな」
「は、ははは……」

弾介は乾いた笑いで返すしかなかった。

「そんじゃ、とりあえずこれからどう動くかの方針についてだが……」
「そうですね、魔王の居場所が分かっていれば今すぐにでもそこ目指して出発しようかなと思ってますが」
「は?」
「さすがに遠いですよねぇ。新幹線とか飛行機って、こっちの世界にもあるんでしょうか?」
「えっと、弾介……?」

弾介の言葉を聞いて、ジンを始め皆唖然としている。

「あ、あれ?僕、また何か変なこと言いました?」
「弾介さん……昨日の話、覚えてますか?伝説のフリックスの事が書かれた古い文献の」
「お、覚えてるよ!えっと、確か……魔王を倒すには伝説のフリックスの力が必要で、それがドラグカリバーだったって話だよね?」
「間違ってはないが、全然足りん!!!」
「へ?」
「オホン。
『最強の剣、究極の盾、天空の覇者、地上の王者たるフリックスが一つになる時
邪悪なるものを打ち倒さん』
これが伝承な?」
「はい。つまり、その邪悪なるものを打ち倒す伝説のフリックスがドラグカリバーって事なんじゃないですか?」
「いやそうなんだがっ!聞いて?最強の剣と究極の盾と天空の覇者と地上の王者たる機体が一つにって言ってんじゃん?
つまり、四つ伝説のフリックスがあるわけよ!四つの力を一つにして魔王を倒す力が得られるわけ!」
「え、四つ……?じゃあ楽しみが4分の1に……あ、いやでも大丈夫ですよ!僕一人でも頑張って討伐しますから!!」
「だからぁ!頑張るとかじゃなくてぇ!四つ集めなきゃいけないってルールなのぉ!!」
「そ、そんなぁ〜〜!」

嘆く弾介に、ジンは頭を抱えた。

「意外と天然だな、こいつ……」
「ジンも似たようなものだけど」
「む」
「ジン、ここは一先ず弾介の気持ちを優先させた方が得策じゃない?」
「はぁ……まぁそうだな」

アリサに促され、ジンは改めて弾介へ向き直った。

「弾介、確かに魔王を倒す楽しみは減ってしまったかもしれん。
しかし、他の三つのフリックスが最初から味方とは限らないだろ?」
「え?」
「最初は敵として立ちはだかるかもしれない。と言う事は……?」
「そっか!じゃあ三体も伝説のフリックスと戦えるんだ!よーし、俄然やる気出てきたぞ!!」

先ほどの凹みようから一転、弾介はすっかりとやる気を取り戻した。
それを見て、ジンも安堵しつつ少し呆れる。

「単純な奴だ」
「誰かさんそっくり」
「む」

アリサのツッコミに少しムッとするジンを無視し、アリサは話を先へ進める。

「それじゃあ、気を取り直してこれからの方針を決めましょう」

「そうだな。とりあえずハッキリしていることは、まだまだ我々は戦力不足って事だ」
「(別にドラグカリバーが戦力不足だとは思わないけど、ルールって言われた以上は仕方ないから一応神妙な態度で頷こう)そうですね……!」
「やはり、残りの伝説のフリックスを集めることが先決ですよね。
弾介さんのドラグカリバーが伝説の機体と分かった以上、伝承に従う価値は十分にあります」
「問題は、どう集めるかだな……。結果論として今回のシエルの召喚魔法は成功したが、またややこしい事態になるリスクもある。
そう言えば弾介、ドラグカリバーはどうやって手に入れたんだ?」
「え、どうやってって……普通に自分で作ったんですけど」

弾介がキョトンとした顔で答えると、一同は素っ頓狂な声をあげた。

「「「つくったーーー????!!!」」」

だからここはサバンナちほーか。

「え、あれ?別にフリックス作るのってそんな驚くことでもないんじゃ……この世界だと自分で作らないんですか?」
「いや、簡単では無いが作る事自体はこっちの世界でもよくやる事だ。しかしだ!別世界の子供が手作りした機体が伝説の機体になるとはとてもじゃないが信じられん」
「一体、どうやって作ったのです?」
「え、えと、どうやってと言われても……普通に市販されてるベースを買って、それにABS製のプラ板とかを接着剤や充填剤で貼り付けて形作っただけなんですが……」
「うーむ、こちらの世界とほとんど変わらないな。マテリアルも同じようなものが使われているらしい」
「弾介さん、他に何か思い付くことはありませんか?例えば、ドラグカリバーの設計のきっかけとか」
「きっかけかぁ……そういえば、ドラグカリバー作った時っていきなり頭の中に形と名前が思い浮かんだんだよなぁ……」
「突然の閃きって奴か、だがそのくらいはフリッカーやってれば誰でも経験のあることだからなぁ」

分からない事だらけだ。ここで考えてても拉致があかないだろう。

「やはり、地道に調査探索をしていくのが確実でしょうか」
「だな。千里の道も一歩からだ」
(こっちと同じ諺もあるんだ……)

弾介が密かに妙なところで感心していると、アリサが提案を口にする。

「となると、まずは[ライブラヴィレッジ]の巨大資料館で情報を改めて整理してみるのはどう?」
「そうだな……元々あの文献はあそこで見つけたものだし、さらに詳しい事が分かるかも知れん」
「ライブラヴィレッジですか……確かに、ドラグカリバーの事も何か情報があるかも知れませんし」
「シエル、ライブラヴィレッジって?」

聞き慣れない単語に、弾介は首を傾げた。

「あぁ、ごめんなさい。ライブラヴィレッジと言うのは、この世界の地名です。小さい村ですけど、全国から様々な情報が集まってきて、博物館や資料館、図書館が充実しているんです」
「へー、じゃあ調べ物するにはピッタリだね!早速行こう!」
「ただ、ここからだとちょっと距離がありますね。何か足がないと」
「送ってやれればいいんだが、あいにく今は人手が足りなくてな……。ここから村までは無料シャトルが出てるからそれを使うと良い」
「シャトルバスはあるんですね。それは便利だ」
「シエル、弾介の旅のサポートは頼む」
「はい」
「シエルも来てくれるんだ、そりゃ心強い!よろしく、シエル!」
「はい、こちらこそ」

弾介はシエルを見て嬉しそうに笑った。一人旅になる事も覚悟していたので少し寂しかったらしい。

「次のシャトル出発までまだ時間がある。城下町で旅の準備をすると良い。特に弾介の服装は着替えた方が良いだろうからな……」

言われて、弾介は自分の来ている服へ視線を落とした。
洗濯はしてもらったものの、薄汚れたダサいTシャツにジーパン……おおよそこのファンタジックな世界観には似つかわしくない格好だ。

「軍資金はシエルのキャリージュエルの中に振り込んでおいた。数ヶ月は問題ないはずだ」
「あ、ありがとうございます!」
「大事に使えよ。何せ国民からの血税で賄ってるもんだからな」

ジンが意地悪そうな笑みを浮かべて言うと、シエルは苦笑いした。

「は、はい……」
「ジン、その言い方は悪趣味」
「そ、そっか?まぁ、気にすんな!魔王さえ討伐すりゃ問題はない!」
「はい!絶対に他の伝説のフリックスを全部ぶっ倒して、魔王にも勝ちます!!!」
「弾介さん、倒すんじゃなくて集めるんですよ……?」
「そ、そうだけど!気持ちの問題だよ!気持ちの!!」
「気持ちの、ですか」
「ともかく!やる事は決まったんだし、早速出発しよう!!」
「あ、待ってください!」

勢いよく踵を返して王室の外へ出ようとする弾介をシエルは慌てて追いかけた。
そんな二人を見送り、ジンは一息つくように呟いた。

「まったく、落ち着きのない奴だ」
「昔のジンみたい」
「そ、そうか?俺、あんなんだった??」
「ええ……まぁ、そう言うところも好きなんだけど」
「ん、なんか言ったか?」
「いいえ」

勢い良く王室から出た弾介とその後を追いかけてきたシエルは、早々に昨日草原で駆け付けてきた親衛軍の男とバッタリ遭遇した。

「シエルさんに弾介さん!ちょうど良かった」
「あ、昨日の」
「どうされたんですか?」

弾介とドラグカリバーの件は昨日のうちに親衛軍の方にも連絡が入っていたようで、弾介がこの場にいても何も不思議がられなかった。

「実は昨日の件で妙な事が発覚したので、これから王様へ報告する所だったのです」
「妙な事とは?」
「ええ、ご存知の通りこの近辺は魔王の拠点から離れてる事に加えて特殊な結界を張っているので他の地域と比べて比較的安全なはずなんですが……」
「……にも関わらず昨日はあれだけのモンスターが出現した」
「はい。もしかしたら結界の効力が弱まったのかと思い念入りに調べてみたのですが……どこにも、外部からモンスターが侵入した形跡がなかったのです」
「え、それって……!」
「外部からではなく、内部から発生した可能性があります。物証がないのであくまで可能性ですが」
「この街に、魔王軍がすでに侵入していると言うこともありえると……?」
「考慮に入れて損はないでしょうね。この街も警戒レベルを強化しなければ……シエルさん達は今後の方針はもう決まったのですか?」
「は、はい。弾介さんと一緒に伝説の機体を集めて魔王討伐のための戦力を得るつもりです」
「なるほど、やはりシエルさんの召喚魔法は成功していたんですね、良かった。お互い世界平和のために頑張りましょう。
弾介さん、巻き込んで申し訳ありませんがお願いします!」
「あ、あぁ!はい!!全部倒します!!!」

急に話振られたもんだから弾介は少々素っ頓狂な声でズレた返答をした。

そして、弾介とシエルは時間まで城下町で旅の準備をする事になった。

街のとあるブティック。

「よし、着れた!シエル、どうかな?」

弾介は更衣室のカーテンを開けてシエルに全身を見せた。

「似合ってますよ、弾介さん」
「へへへ、こういうの初めてだからちょっと着るのに手間取ったけど、結構動きやすくていいなぁこの服!」

弾介はさっきまでの現代日本風な服装からファンタジーゲームの主人公のような衣装にチェンジした。
これなら違和感なくこの世界を歩けるだろう。

「ふふ、弾介さんは明るい雰囲気があるのでなるべく軽快な印象になるように青を基調にしてバランスを考えてみました。さらにアクセントとして……」

仕立てたのはシエルらしく、長々とファッション講座が始まりそうになったのだが

「あ、シエル、それは後でゆっくり聞くからとりあえず今は旅の準備しよ。時間ないし」

長くなりそうだったので中断した。

「ここからが拘りポイントだったんですが……」

不満そうにしながらも、渋々会計して店を出た。

次に向かったのは道具屋だ。
そこそこ大きな建物で、いくつかのフロアに分かれている。

「うわぁ!ボディベースにアーマーパーツにカスタムシャーシにウェイトに……フリックスアレイのパーツがいっぱいある!!」
「ここは道具屋ですが、特にフリックスアレイに関連する製品を専門に扱ってる店なんです」

弾介は目を輝かせながら店内を歩き回る。

「マテリアルフロアも、プラ板にエポキシパテに接着剤にプラリペア、ラバーもいろんな種類あるし……現実世界のホームセンターと品揃えはほとんど変わらないなぁ」
「機体は既にありますし、今必要なのは修理やメンテナンス用の素材ですかね」
「そうだね。あ、でもこの世界のフリックスも使ってみたいし、一個完成品買ってみよう!」

弾介は、各種素材に加えて量産機体を一つ両手に抱えた。

「こっちにあるのは、なんだろう?変なプレートに文字が書いてある」
「これはフリップスペルですね。戦闘中に特殊効果を発揮できるんです」
「あぁ、それならこっちの世界にもある!けど、こんな風にプレートになってるんだ……微妙に効果も違うなぁ」
「これもいくつか買っておきましょう」

フリップスペルも現実とほぼ同じなようだが
アクチュアルシステムに合わせて若干差異があるようだ。

「あとは、非戦闘用の消費アイテムも買い揃えましょう」
「非戦闘用?」
「ええ、このフロアにある製品ですね」

シエルが案内したフロアには、いろんな色の宝石型のアイテムがズラッと並べられている。

「あ、これって昨日も使ってた、ヒールなんちゃらとかいうの?」
「はい。アクチュアルバトルは、バトルが終わっても受けたダメージや消耗したバリケードや使用したスペルの状態はそのまま引き継がれて、回復するまで時間がかかるので
こうしたアイテムを使う事ですぐに回復する事ができるんです」
「なるほど」
「この青い宝石が昨日も使ったヒールジュエル。
赤い宝石は、リザレクトジュエル。HPが0になると時間経過でもヒールジュエルでも回復しないのですが、これを使えばHPを1に戻せます」
「HPが全快じゃないと機体には触れなくなるし、一番重要そうなアイテムだね」
「緑の宝石は、リフレッシュジュエル。消耗したバリケードや使用したスペルを元に戻します」
「うーん、いろいろあるのは良いけど、持ち運びが大変そうだなぁ」
「それは大丈夫です。この白い宝石のキャリージュエルは異次元と繋がっていて、そこにアイテムを収納できるので。容量に限りはありますが、旅に使う分は問題なく入りますよ」
「へぇ、なるほど!これで旅はバッチリだな!!」

必要な用品を全て購入し、キャリージュエルへ収納した。

そして、昼時になったので二人は一軒のこじんまりとした定食屋に入った。

「は〜、美味そう!!」

弾介の目の前にはカツ丼が濛々と艶めかしく湯気を上げている。

「いっただっきまーす!!」

まずはトロリとした卵を纏ったカツを豪快に齧り付く。
ザクッとした小気味の良い歯応えに、柔らかな肉からあまじょっぱい肉汁が口の中に溢れ、それを濃厚な黄身が受け止めて絶妙な味のハーモニーを演出してくれる。
さらに、その濃厚さの後に甘い甘い玉ねぎがサッパリとした後味にしてくれた。

「あー、いい豚肉使ってるなぁ……卵も濃厚だし、玉ねぎも甘い。ご飯も汁をたっぷり吸ってるはずなのに芯がしっかりとしてる……んん?」

カツ丼を味わっている間に、弾介は一つある事に気づいた。

「この世界にも豚っているんだなぁ。卵があるってことは鶏もか」

食文化はある意味世界の生態系を表す最も分かりやすい要素であろう。
カツ丼があるということは、その材料となった生物が存在しているということだ。

「はい、豚も鶏も、あと牛も食肉として使われてますね」
「あ、それおんなじおんなじ!」
「そうなんですか?じゃあ、魚とかって……?」
「食べる食べる!……僕は、そこまで好きじゃないけど」
「好き嫌いはダメですよ。……じゃあ野菜とかは?これはキャベツって言うんですが」

シエルは自分の頼んだ野菜炒め定食から葉っぱ状の食材を箸でつまんだ。

「あるある!余裕であるよ!!そこの人参も玉ねぎも、もやしも!!」
「へぇ〜、世界は違うのに同じような食材があるのってなんだか面白いですね!」
「意外と、どこの世界の生き物も同じような進化するもんなのかもね。
じゃあ、食べ物以外で…ネコ、とかはいる?」
「はい!小さくて、ニャーニャー鳴く可愛い動物ですよね」
「おお!それじゃあ、蛇は?」
「細長くて、ニョロニョロしてる爬虫類ですよね。ちょっと苦手です」
「あとは、蝶とか」
「羽が綺麗な虫ですよね」
「虫もいるのか……!」
「ふふ、なんだか異世界人同士の会話と思えないですね」
「たしかに。ここまで通じるとは思わなかった」
「ですね。じゃあ当然ギョヌメとかもいるんでしょうね」
「は?ギョヌメ?」
「え?あのプッパモを少し小さくしたような可愛い動物ですけど」
「いやプッパモも分かんない!」

「……」
「……」

「やっぱり、違う所もあるみたいですね」
「一応、異世界だしね……」

異世界なのに驚くほど現実世界と似ていて、でもふとした時にやっぱり異世界なんだと感じてしまう。
その事が面白くて、二人は少し笑い合った。

「あ、シエル水いる?」

ひとしきり笑い終わった後、弾介はシエルのコップが空になってる事に気づき、声をかけた。

「うん、ありがとうパパ」
「は?パパ??」
「あっ……!」

シエルはしまった!と言った様子で口を閉じた。

「え、何その先生をお母さんって呼んじゃう現象みたいな……ってか、シエルの方が年上じゃないの?僕ってそんなに老けて見えるのかな……」
「す、すみません!その、ちょっと言い間違えたといいますか、言葉の綾といいますか……かみまみた!!」
「そんな噛み方があるかっ!」
「うう……あ、そ、そういえば弾介さんの親御さんってどんな方なんですか?」
「ごまかしたな」
「あ、はは……でもその、弾介さんはあっさり魔王討伐の旅に出る事を決意されましたけど、元の世界や親御さんの事が恋しくならないのかなと少し気になってましたから」

シエルの問いに、弾介は少し考えるそぶりをした後に答えた。

「んー、僕親とかいないから」
「あっ、ごめんなさい!私ったら無神経な事を…!」
「あぁいやいいよ!なんて言うかハナっからいないから、そう言うもんなんだって感じで大して何も思ってないんだ」
「最初から、いない?」
「うん、うまく言えないんだけど。親の存在そのものがないんだ、僕。4歳か5歳くらいの頃に千葉県佐倉市っていう所の城址公園で発見されたんだけど。
僕にはそれ以前の記憶がないし、DNA鑑定しても親族に該当する人間の記録はないしで、施設をたらい回しにされて……だから、ドラグカリバーさえ側にいてくれるなら、僕はどこへ行ったっていいんだ」
「弾介さん……」
「バンさんとのバトルがお預けになったのは悔しいけど、でもここでも同じくらい倒してみたい相手が出来たし!
……って、こっちこそ無神経かな?頭では分かってるんだけどさ、シエル達にとっては遊び事じゃないって」
「いえ、弾介さんに悪気がないのは分かってますから気にしないでください。私達としては、弾介さんとドラグカリバーの伝説の力は希望なんです。それを積極的に役立ててくださるならば、これほど有難い話はありませんから」
「そっか、ならまぁ僕も遠慮せずに戦えるかな」
「ただ、世界にはもっと大きな被害に遭われてデリケートになっている方もいますので……」
「うん、そういう所は気をつけるよ」

シエルに言われ、弾介は神妙な顔で頷いた。

カタッ…
「伝説の力……?」

その時、店の奥の席で微かに呟きが聞こえたような気がしたが、上手く聞き取れなかったのでスルーした。

飯も食べ終え、準備も万端に整った所で無料シャトル出発の時間になった。

カタカタと揺れるシャトルの荷台を弾介とシエルとその他数名の客が狭そうに詰めて座っている。

「シャトルバスって言うかこれ、シャトル馬車じゃん!!!!」

そう、弾介の突っ込んだ通りこれは馬車だった。血色の良い牡馬が荷台を引いて走っている。

「やっぱりファンタジー世界だなぁ。車とかないんだ」
「無くはないんですが、今燃料は貴重品で軍事目的以外だとなかなか使用出来ないんですよ」
「まぁ、目的達成出来るならいいんだけどさ……ふぁ〜あ」

寝不足のためか、馬車に揺られて心地良くなったためか、弾介は大きなあくびをした。
その時だった。

「ぶちかませ!アシュラカブトォ!!!」

ドゴーーーーン!!!

大きな衝撃音とともに荷台が横転し、弾介達は外へ放り出されてしまった。

「きゃっ!!」
「うわああああ!!!」

路面が柔らかかったのと咄嗟に受け身をとったため、ダメージは少なかったが馬車が横転して煙を上げている。
幸い、攻撃を受けたのは荷台部分だけであり、起こせば再び走ることは出来そうだが……。

「へっへっへっ!命中命中!!」
「さっすがアニキ!百発百中なんだよね!!」
「当然!このくらい屁でもねぇや!」

みると、ガタイの良い粗暴そうな男とその横でゴマをすっているチビ男、その周りを囲んでいる下っ端らしき数人の男達の集団が弾介達の前に立ちはだかった。
そして、ガタイの良い男の足元にはスケールアップした紫色のゴツいフリックスがある。

「フリッカー!?しかもアクチュアルモードを起動してる……!」
「まさか、もう魔王軍と遭遇か!?」
「いえ、魔王軍の紋章が見当たりません……恐らく、ただの賊でしょう」

シエルの言葉が聞こえたのか、粗暴そうな男は得意げに答えた。

「おうよ!俺様は魔王軍とは関係ない!!
だが、ただの賊でもない!最高にカッコいい盗賊団さ!
その名も『カッコイイ団』!!
俺様が団長のゴウガン様さ!ぐわっはっはっは!!!」
「オイラは副団長のブンなんだよね!」

ご丁寧に自己紹介までしてくれた。

「た、確かに名前はカッコいいですが、盗賊はカッコよくありません!悪い事です!!」
「いや、名前もカッコよくはないよね!?」

弾介はシエルのセンスを疑った。
そうこうしてるうちに馬車は走行出来る状態になり弾介達以外の客は乗り直していた。

「君達も早く乗って!」

運転手が促してくる。

「いえ、ここは私達が食い止めますから皆さんは先に逃げてください!」
「ああ!この世界で初めてのフリックスバトルだ!いくぞ!ドラグカリバー!!」

弾介とシエルがフリックスを取り出した。
それを見た運転手は二人に戦闘力があることを察して馬を走らせる。
ゴウガンとブンは走っていく馬車を眺めている。どうやら追い討ちをする気は無いようだ。

「食い止めるも何も俺様が用があるのはお前だけだ」
「シャトル馬車なんてどうでもいいんだよね」

ゴウガンが弾介を指差す。

「なに!?どう言う事だ!!」
「なかなか面白そうなもの持ってるじゃねーか。お前のフリックス、伝説の機体なんだって?痛い目に遭いたくなかったら大人しく渡しな!」
「弾介さん狙い!?弾介さん、彼らに関わるのは危険です!ここは私達も逃げましょう!」
「え、でも……!(戦いたい)」
「ドラグカリバーは私たちの希望です!無用な戦闘で、もしもの事があったら……!」
「うぅ〜、分かったよ!」

せっかくバトルできるチャンスだったのに……と悔しく思いながらも弾介はシエルとともに逃走の構えをとった。

「おっと、そうはいかねぇ!フィールドジェネレート!!」

突如、周りの空間が歪むような違和感を覚え、気付いたら自分の周りの一定の区画が淡い光を帯び、区画の外側の景色が歪み、まるで閉ざされたような感覚になった。

「な、なんだこれ?」
「しまった……!ここはフィールドジェネレート規制範囲外でした」
「フィールド?」
「そう言う事!もう逃げられないぜ!!」
「え、なんで?普通に走って逃げればいいじゃん」
「あ、ダメです!」

ダッ!
弾介はシエルの制止も聞かずに空間の外へ走っていく。

「へっ、バカなやつ」
「フィールドも知らないなんてモグリなんだよね」

ゴウガンとブンは逃げていく弾介を追うこともせずに余裕の構えだ。

「お、おわぁ!!」

空間の外へ一歩踏み出そうと身を乗り出したが、外の景色が変化している。
今いる空間から一段下がった平面の地面が永遠に続いている無限の空間が広がっていた。

「な、なんだぁ!?」

驚きながらも弾介は一段下の地面へ足を踏み出し……そうになったところでシエルに引っ張られた。

「危ないです!」
「へ?」
「その路面に数秒間触れていると強烈な衝撃を受けちゃうんです!」
「へ、え、えええええ!!!!???」

言われて、弾介は慌ててその場から離れた。

「な、なんだよそれ!じゃあもうここから逃げられないの!?これってどう言う事!?」
「あのゴウガンと言う男にフィールドジェネレートを使われてしまったからです。一定時間経つか、生成者を倒さない限りフィールドは消えません」
「フィールドジェネレート?」
「シュートの他に出来るフリックスの行動の一つです。空間に、任意の大きさ形状の特殊な結界を作り出し、その中から外に出たものは場外としてダメージを受けるんです」
「フリップアウトって事か。それってゴウガンも条件は同じなの?」
「はい、生成者も場外したらダメージを受けます。ただ、生成者はフィールド内だとバリケードが通常より強化されるんです」
「じゃ、じゃあ僕らもフィールドジェネレートすれば……!」
「いえ、他のフィールドと被るように生成は出来ないんです」
「そゆこと。フリックスバトルは早い者勝ちでフィールドを先に生成するのが基本なんだよ!」

余裕からか、ゴウガンが補足で説明してくれる。

「フィールドは外から中へは自由に入れますが、中にいる以上は……」
「戦うしか無いって事か!」

弾介は嬉しそうな表情でゴウガン達へ向き直った。

「おっ、やる気になったか。不意打ちで奪っても良かったんだが、欲しいもんは真正面から力尽くで奪うのが俺様達カッコイイ団のモットーだ!」
「へぇ、そのモットーだけはカッコいいじゃん」

弾介は手をかざして魔法陣を出現させた。すると、ドラグカリバーが弾介の目の前まで浮かび上がる。

「仕方ありませんね…!」
「アニキ、おいらも加勢するんだよね!」

シエルとブンも同じように構えた。

「「「アクティブシュート!!!」」」

三機のフリックスがスケールアップし、フィールド上で四機のフリックスが対峙する。

「ぶちかましてやろうぜぇ、アシュラカブト!」
「おいらのアサルトスコーピオからは逃げられないんだよね!」

ブンの使うアサルトスコーピオは巨大なハサミのようなアームが特徴的なフリックスだ。
ゴツいアシュラカブトと並ぶと威圧感が凄い。
しかし、弾介は気圧されるどころか嬉しそうに笑う。

「へへへっ、面白くなってきた!
ダントツで決めるぞ!ドラグカリバー!!」

 

                     つづく

 

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