第22話「圧倒的パワー!脅威のシェイドスピナー!!」
バンVS操の好バトルの後も、遠山カップは恙無く進行していった。
『ゲンタ君VSレイジ君のバトルもいよいよ終盤戦だ!二人ともなかなかフリップアウトを狙えず、かなりの長期戦で互いにHPは1のみ!次のゲンタ君のターンで決まってしまうのか!?』
ゲンタとレイジの試合のようだ。
「へっへっへ、運よく先攻でダメージレース続けられたけど、これも実力のうちだ!悪く思うなよ!!それにしてもこのドライブヴィクターフレームとか言う機体、すげぇ性能だぜ!」
バシュッ!
ゲンタは買ったばかりの量産型ドライブヴィクターをレイジのミラージュレイダーに向かってシュートする。
バキィ!!
マインを弾き飛ばしつつ、ミラージュレイダーへ突進する。
『ゲンタ君の堅実なシュートで真っ直ぐにミラージュレイダーへ向かっている!これは、マインヒットは確実か……?』
「俺の勝ちだ!!」
「まだだよ!」
「なにぃ!?」
「エアリアルパリィ!」
『ミラージュレイダー!回避技で躱した!!反対にドライブヴィクターフレームは場外へ一直線!!』
「なにぃ!」
量産ドライブヴィクターはあっさり自滅する。
『決まったぁ!ゲンタ君自滅!レイジ君が勝利だ!!』
「うそだろぉ、一回戦負けかよ……!」
ゲンタはガックリと膝をついた。
「やったよ剛志~!」
レイジは観客の中にいる剛志に手を振った。
その様子を見ていたバンとリサ。
「レイジの奴、タッグバトル大会よりも腕を上げてるぜ」
「うん。スクール生たちもいっぱい参加してるし、油断できないね」
「そうだな。……でもさ」
ここまでのバトルを見てきて、バンは一つ疑問に思っていた。
「やっぱり普通の大会だよなぁ。スクール主催だから何かあると思ってたのに」
「ビックリしたのはドライブヴィクターの量産化くらいで、他にスクール生が有利になるような罠とか、そういうのは見当たらないもんね」
ここまで真っ当に大会してると、なんだか拍子抜けだ。
「その必要が無いからな」
バンとリサが頭を悩ませていると、隣で良く知った男の声が聞こえてきた。
「この大会はスクールのためであり、スクール生のためではない」
「え?」
その声の主は……。
「Mr.アレイ!?こんなとこまで来てたのかよ」
Mr.アレイが腕組みをして隣に立っていた。
「スクールのためなのに、スクール生のためじゃないって……?」
リサがMr.アレイに問うた。
「試合を見ていれば分かる」
それだけ言うと、Mr.アレイは風のように去って行った。
「あっ!……ほんと、突然現れて突然いなくなるよなぁ……」
深追いしても仕方がないのでアレイに言われた通り試合に集中することにした。
次の試合はBブロックの試合だ。
『さぁ、次の対戦カードは、鈴木太郎君VSザキ君!鈴木太郎君は、なんと前年度の鳥取フリックス大会で4位になったという実力者だ!
対するザキ君は、今大会の主催者の運営するフリッカーズスクールの秘密兵器!一体どんなバトルが展開されるのか!?』
ザキとメガネをかけた知的そうな少年がフィールドを介して対峙する。
「ふむ、僕の分析によれば、このフィールドに適したセッティングは……これですね」
鈴木が、フリックスを取り出した。
「フェンスに囲まれたフィールドで相手をフリップアウトさせるためには、一撃の破壊力以上に飛ばした相手をコントロールする事が重要。
つまり、攻撃面は広く、そしてウエイトは重い物を使用する。これが最善のセッティングです」
鈴木は、キリっとメガネを上げた。
しかし、ザキはそんな鈴木を鼻で笑った。
「へっ、くだらねぇ」
『それでは、バトルを始めるぞ!アクティブシュート!』
ザキはスタート位置からあまり動かず、反対に鈴木はフィールド中央まで進んだ。まずは鈴木の先手だ。
「いきますよ!ジーニアスアレイ!!」
鈴木のシュートでジーニアスアレイはフェンスに接して停止した。
「ここからなら攻撃は受けず、相手が隙を晒した時に狙い撃てる……ふふっ、最善の立ち位置ですね」
キラッ!とメガネを光らせる鈴木君。
そして、ザキのターンだ。
「鳥取4位……その程度か」
「な、なにが言いたいんですか!?」
「お前に見せてやるよ。小賢しいセッティングも戦略も、圧倒的力の前には無意味だって事をなぁ!」
ザキはシェイドスピナーをセットして構えた。
「はああああああ!!!!」
そして、気合いを込めてシュートする。
「殺れぇ!!シェイドスピナーーーーー!!!」
バキィ!!!
シェイドスピナーのスピンシュートが炸裂!
抉るような一撃で、鈴木のジーニアスアレイをフェンス越しに場外させてしまった。
『き、決まった……!圧倒的過ぎる!たった一度のアタックでフェンスを飛び越えジーニアスアレイを場外へたたき出してしまったぞぉ!!!』
「そ、そんな、僕の分析ではあの状態でフリップアウトさせられる事はなかったはず……!」
「分析しただけで勝てるほど、フリックスバトルは甘くねぇんだよ」
「……投了します。今の攻撃から分析するに、逆転の可能性は0です」
まだHPは残っているが、勝ち目ゼロと判断した鈴木は降参した。
「ふんっ、くだらねぇ分析だ」
そう言ってザキはシェイドスピナーを拾い、踵を返して歩いて行った。
その様子を見ていたバンとリサ。
「ザキ……!」
「相変わらず、強いね……」
「あぁ」
「それに……」
リサは、去っていくザキに群がるマスコミたちを見て言った。
「反響も凄い」
「うぇ?!……あぁ、確かに、凄い人気だなぁ。ちょっと意外だぜ」
ザキの圧倒的な強さには驚かされるが、それ以上にザキのマスコミの注目度は凄い。
ザキは疎ましそうにしているが、いくつものカメラのフラッシュ、そしてインタビュアーのマイクがザキを包んでいた。
と、そうこうしているうちにバンの二回戦が始まる。
「あ、そろそろバンの試合だよ」
「おおっと、そうだった!」
『さぁ、続きましては、段田バン君VS木村修一君だ!』
修一とバンが対峙する。
「お前がこの間スクールに侵入してきたって言う段田バンか」
「え、俺の事知ってるの?」
「お前の事はスクール内じゃ有名だぜ。スクールに刃向おうとしてるバカって事でな」
「ば、バカとはなんだバカとは!」
「スクール生の実力、見せてやるぜ。しかもお前と同じドライブヴィクターも手に入れた条件は同じだぜ!」
「学校で習えば強くなれると思ったら大間違いだ!それに、ヴィクターを一番使いこなせるのは俺だ!」
『それじゃ、そろそろ始めるぞ!アクティブシュート!!』
「味わえ!これがスクール生の実力だ!!」
バトルスタート。
修一はスクール生としての自信があるようだ。
しかし……。
「いっけぇ!ブースターインパクトォ!!」
バキィィィィ!!!
『決まったぁ!接戦だったが、バン君の勝利だ!!』
「そんなっ、スクール生でもない奴に負けるなんて……!」
「そんなの関係ねぇ!勝負はスクールで決まるんじゃない!魂で決まるんだ!!」
ガックシ項垂れる修一に、バンはハッキリと言ってやった。
「魂で……そんなの、スクールじゃ教えてくれなかった……」
修一は顔を上げて、バンを見た。
「また、バトルしてくれるか?段田バン」
「おう!いつでも良いぜ!」
バンは快く返事した。
それを聞いた修一の顔は晴れやかだった。
そして、大会は進み……。
『決まったぁ!レイジ君、見事なマインヒットで2回戦を突破!!』
「おぉ~、レイジも順調に勝ち進んでるな~!」
「うん」
「次は、剛志の番だな……」
『さぁ、続いての対戦カードは、ザキ君VS武山剛志君だ!!』
かつて激闘を繰り広げた剛志と、ザキとの対決に、バンは緊張した。
「剛志、気を付けろよ……!」
気を引き締めて見守るバンの隣りから、劈くような高い声が響いた。
「つよし~~!!!がんばれぇぇぇぇ!!!!!」
「おわぁあ!」
いつの間にか、隣にはレイジがいた。
「れ、レイジ……!」
「ザキなんかに負けるなぁぁぁぁ!!!!」
そんなレイジの声が届いたのか、剛志はレイジの方を向いて頷いた。
「おぅ、任せとけぃ!」
「けっ、賑やかなギャラリーだなぁ」
「あぁ!頼もしい限りじゃぞぃ!!」
「しかし、残念だったなぁ。頼もしいギャラリーに、無様な姿をさらすことになるなんてよぉ!」
「それは、どっちになるかの?」
『さぁ、軽く言葉のジャブをかわしたところで、始めて行こうか!アクティブシュート!』
ザキはチョン押し、ハンマーギガはフィールド中央まで進んだ。
それを見たバンは驚いた。
「ちょ、ちょん押し!?」
「スタート位置から動かないの!?」
剛志は多少警戒している。
「あれだけの力を持ったお前の事じゃ。何か考えがあっての事じゃろうな」
「さぁ、どうだろうな?」
「じゃが、ワシは全力でいかせてもらうだけじゃ!」
剛志のターン。
「ハンマーギガ!!」
剛志は、ザキに向かってハンマーギガをシュートした。
(重量級のハンマーギガの一撃を、あんなフィールドの角で受けたら一たまりもないはず)
バンはそう思った。
しかし……。
ガッ!
シェイドスピナーは、フィールドの角でハンマーギガの一撃を受け止めた。
『のおっと!シェイドスピナーは、ハンマーギガの巨体を受け止めた!!』
「な、なんじゃと?!」
「お前のフリックスは重量級だ。接近戦で押し出すことに優れているが、その分移動時の消耗も激しい。遠距離の相手を弾き出すのには向いてないんだよ」
「そうかっ!それで最初にチョン押ししたのか!」
と、納得するバン。
「じゃ、じゃが!ワシのハンマーギガは防御力にも優れておる!お前の攻撃など逆に弾き返してくれるわ!」
「どうかな?俺もテメェと同じで、近距離戦が得意でなぁ……これがベストレンジなんだよ!」
ザキが構える。
「喰らえぇぇ!!」
バキィ!!!
至近距離からのシェイドスピナーの一撃。
ハンマーギガは木の葉のようにすっ飛んでしまった。
「なっ!」
「バカなっ!あのハンマーギガをあっさりフッ飛ばすなんて……!」
と、驚くバン。
「つ、剛志~!!」
レイジは隣りであたふたしてる。
ガッ!!!
運よくフェンスにぶつかったおかげでフリップアウトは免れたハンマーギガだが、フェンスがなければ確実に負けていた勢いだった。
「わ、ワシのハンマーギガを一撃で……!」
「さぁ、楽しいバトルの始まりだ」
ニタリと、ザキは口元を緩ませた。
「くっ!」
剛志は、シェイドスピナー目掛けてシュートする。
が、今度はステップによるスピンでいなされてしまった。
「重いが遅いシュートだな。簡単に見切れるぜ」
「ぐっ!」
「俺のターンだ」
狙いを定めるザキ。シェイドスピナーとハンマーギガの線上にはフィールドの角。つまりフリップアウトが狙えるポイントがある。
このまま弾き飛ばせばフリップアウトが出来る。
「はぁぁ!」
バキィ!!
シェイドスピナーのスピンがハンマーギガを弾き飛ばす。
ガッ!!
ハンマーギガはフリップアウトせずに、フェンスに叩きつけられた。
「ぐぉぉ!!」
力いっぱい防御してる剛志も体に負担がかかる。
『これは惜しい!ハンマーギガはまたもフェンスに助けられ、フリップアウトは免れた!!』
「あ、あぶねぇ……!ザキの奴、上手くコントロールできないみたいだな」
「ち、違う……!」
リサは震えながら呟いた。
「え?」
「フェンスに助けられたんじゃない……。ザキは、スピンでコントロールしてわざとフェンスに叩きつけたんだ……。ハンマーギガを弄ぶために」
「な、なんだって?!」
「そんなっ!剛志~!!!」
レイジはもう泣きそうだ。
「ぐっ、なかなかの一撃じゃな」
「デカい図体だけあって、我慢強いな。普通だったらとっくに気絶してるぜ」
「伊達に、鍛えとらんからの……!」
剛志は、ボロボロになりながらもハンマーギガを構えた。
「ぐぐっ!!」
しかし、身体の負担が大きいのか、まともにシュートできず、ハンマーギガはシェイドスピナーに届かなかった。
「届いてないぜ、大丈夫か?」
「こ、これも作戦のうちじゃ……!」
剛志は、精一杯の強がりを言う。
「なるほど」
そして、ザキは再びシェイドスピナーをシュートしてハンマーギガをフェンスに叩きつけた。
「ぐあああああああ!!!!」
その衝撃で、剛志も一緒にフッ飛ぶ。
「は、はぁ、はぁ……!」
何度も何度もフェンスへ叩きつけられる。
『こ、これは一方的展開だ……!ザキ君は、まるで弄んでいるかのように、ハンマーギガを、剛志君をいたぶっている……!もはやこれは、バトルなのか!?』
「つ、つよし~!もうやめよう!棄権してぇぇぇ!!!」
レイジが、泣き叫びながら剛志に向かって懇願した。
「あっはっはっは!頼もしいギャラリーからのアドバイスだぜ!言うとおりにしたらどうだぁ?」
「ば、バカを言うなぃ……勝負は、これから……じゃ……!」
剛志は震えながら立ち上がった。
「つ、剛志……!」
そして、心配そうに見ているレイジの方を向いた。
「大丈夫じゃ、レイジ。このくらい、クマ狩りと比べたら屁でもないわ!とっとと勝負を決めて、決勝を二人で戦うぞ!」
と、笑顔を向けた。
「剛志……!」
「さぁ、行くぞ……!こいつは、バンへのお返しに使うつもりだったんじゃが、特別じゃ!」
剛志が右の掌を広げ、構えた。
「あの構えは!?」
『おおっと!剛志君、見たことないシュートの構えだぞ!これは……!』
「必殺!スラッピングシュート!!」
剛志は、まるで張り手のような動きでハンマーギガを打った。
すると、今までとは比べ物にならない勢いでハンマーギガが突進する。
「す、すごい!ハンマーギガがあんなスピードで!!」
「バンのブースターインパクトはトルクとスピード両方を高めるシュートじゃったが、ワシのスラッピングシュートは純粋にトルクを推し高めるシュート!!重量級高グリップのハンマーギガと相性抜群の必殺シュートじゃ!!」
ハンマーギガがシェイドスピナーを捉え、運び出す。
しかもその軌道は、フリップアウトが出来る方角だ。
「そのまま押し出せ!!!」
しかし……。
あと一歩の所で、勢いが止まってしまった。
「ははははは!惜しかったなぁ!!」
「くっ……!」
必殺技を使ったのに、決められなかった……!
「さぁ、次は俺の番だぜ」
それからのバトルは、まさに地獄絵図だった。
満身創痍の剛志に対し、ザキは、フリップアウトを狙わずに何度も何度もハンマーギガをフェンスに叩きつけた。
その間に偶然2回ほどマインヒットが決まるが、ザキはそんな事意識していない。
ただ、痛ぶる事しか考えておらずそれ以外の出来事は瑣末な事なのだ。
『あ、圧倒的……過ぎる……なんだこのバトルは!ボロボロの剛志君に対して、ザキ君の執拗な攻撃!これは、もはやバトルではなく、拷問だ!!』
「剛志……剛志……もう、やめて……やめてよぉ……!」
レイジの目からポロポロと涙が流れる。
「どうだ?今の気分は」
ザキがバカにするように剛志に聞いた。
「た、大したことないのぅ……。この、ターンで決めてやるわ」
剛志はフラフラになりながらも、ハンマーギガを構えた。
「うっ!」
しかしシュートの瞬間眩暈がしてしまい、ハンマーギガはチョンっと押されただけだった。
「はっはっは!それが決め手になるシュートかよ!笑わせるぜ!!」
『これで、ハンマーギガのHPが1の状態でザキ君のターンになった!これは、勝負が決まってしまうかぁ!?』
「さて、トドメだ」
ザキがシェイドスピナーを構えた。
あと一回、マインヒットすれば勝てる。
そう、ただ当てるだけでザキは勝てるのだ。
だが……。
「シネェェェェェ!!!!!」
バシュウウウウウ!!!!
ただ、当てれば良いだけなのに、ザキは渾身の力でシュートした。
バキィィ!!!!
とてつもない衝撃がハンマーギガと剛志を襲った。
「ぐあああああああああああああ!!!」
そのあまりの衝撃に、剛志は吹っ飛び倒れてしまう。
『決まった!ハンマーギガ、フリップアウト!!ザキ君の勝利だ!』
「剛志ぃぃ!!!!」
レイジはたまらず駆け出して、倒れた剛志を支えた。
「剛志!しっかりして!剛志!!」
レイジの呼びかけに答えない剛志。どうやら、気絶しているようだ。
「お前ぇぇぇ!!!!」
レイジは、叫びながらザキを睨み付けた。
「よくも、よくもおおおおお!!!!!」
「なんだ?言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
ザキは余裕で、レイジを挑発する。
「許さない……!お前だけは……お前だけは!!!」
「はっ!だったら、俺をバトルで倒してみろよ。勝ち上がってきてなぁ」
ザキの言葉に、レイジの目つきが更に鋭くなった。
「勝ち上がる……!絶対に、剛志の仇を撃つ!!」
つづく
次回予告
炎のアタッカーユージンの競技玩具道場 フリックスの特別編
うっす、ユージンだ!
遠山カップで猛威を振るうザキの力には、あの剛志でさえも敵わなかった!
ザキの猛進撃にバン達は一体どう対抗するのか?
そして、唯一無二の親友をボロボロにされてしまったレイジは……!
次回は、バンとレイジのザキとの対戦権をかけたバトルだ!!
それじゃ今回はここまで!最後にこの言葉で締めくくろう!
本日の格言!
『圧倒的な力に勝るものは、強い想いだ!』
この言葉を胸に、皆もキープオンファイティンッ!また次回!!