flicker’s anthem Shoot5「天使」

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Shoot5「天使」

 

「よし、ここでマインヒットできれば……」
 駄菓子屋での大会から一週間後、千春は夏樹とバトルの練習をしていた。
「そこで油断しちゃうのが姉ちゃんだろ?」
「ふっ、数々の試合を乗り越えて私は強くなったんだよ、見てなー?」
 そう言うと千春はルナ=ルチリアをシュートした。打ち出されたルナ=ルチリアは綺麗に直線を描きマインに衝突、そのまま夏樹のフリックスにぶつかった。
「ほらね?」
「……やるね、この業魔灼熱亜霊 零式を何度も倒すなんて」
 夏樹は彼のフリックス、業魔灼熱亜霊を手に取り机の角に再度置いた。
「もう一度やるんでしょ?姉ちゃん」
「もちろん!」
 弟との練習によって千春は徐々にシュートが上達していた。
 大会でアリスに負けて以来、夏樹を相手に何度もバトルをしていたのだった。実際勝率は上がっていき、今では千春の方が上手いのではないか、と思わせるほどであった。
「……ちょっとフリップアウト狙えるんじゃないかな?これ」
「いや、このまま撃つと姉ちゃんのも落ちちゃうんじゃない?」
「んー、そっかぁ……」
 その時、ドアのチャイムが鳴り響いた。
「あ、はーい、今行きまーす。夏樹、ちょっと中断」
「うい」
 短い会話を済ませ、千春は玄関へと向かう。
「はーい。お待たせしましたー」
「千春、来たわよ」
 千春がドアを開けると、そこには椎奈がいた。真剣な表情で千春を見つめていた。
「ちょっと聞きたいことがあってね……上がっても良いかしら?」
「ドロシー……?いいよ、とりあえず私の部屋に来て」

ーーーーー

「それで、何が聞きたいの?」
「ええとね……その、フリックスのことなんだけど」
 椎奈と千春が向き合って座っている。
 夏樹が持ってきた麦茶を椎奈が受け取り、ありがと、と軽い返事をして口を付けた。
「フリックス?これのこと?」
 千春はルナ=ルチリアを机の上から手に取り、椎奈に渡した。
「そう、これよ。この三日月……千春」
 椎奈は深呼吸を2、3回して続けた。
「確か突然現れたのよね?」
「そうそう、夢で見た日の朝にね」
「そう……うーん……」
「どうしたの?」
 椎奈は腕を組み俯きながら何かを考えていた。
「……千春、その夢についてもう少し詳しく教えてくれないかしら」
「えー、確か白い女の子とフリックスして……負けたんだけど三日月くれた」
「白い女の子?」
「そうそう、服が白くって髪も肌も白かったの。人形みたいに……どこかで見た事ある子だと思ったんだけど、どこだったかなぁ?」
 千春がそう言うと椎奈はメモを取り始めた。
「その女の子が使ってたフリックス……覚えてる?」
「んー、忘れちゃったなぁ……白いボディに黒い翼があったのは覚えてるんだけど」
「……わかったわ。ありがとう千春」
 そう言うと椎奈は彼女の鞄からフリックスを取り出した。
「せっかくだから一回やらない?」
「この私が断るとでも?」

ーーーーー

「それじゃ、フリックスをセットして」
 夏樹が進行役となり、千春と椎奈の戦いが始まろうとしていた。
「私だって練習してきたんだから!」
「……見せてもらおうかしらね」
 お互いにフリックスを机の角にセットし、アクティブシュートの準備をした。
「それじゃ、3、2、1、アクティブシュート」
 勢いよくシュートされたルナ=ルチリア。一方椎奈のストーンアレイはあまり移動せず、ルナ=ルチリアに先攻を譲ることになった。
「っ……」
 椎奈が軽く舌打ちをした。
「ドロシー……?」
「……なんでもないわ」
 千春は多少困惑しつつもルナ=ルチリアをストーンアレイとの間にあるマインに向けた。そしてシュートをし、まっすぐ進み、マイン、そしてストーンアレイにヒットした。
 だがマインにほぼ接触しているためカウンターは受けてしまう場所だった。
「……」
 椎奈はストーンアレイをルナ=ルチリアに向け、シュート。
 だが力が入りすぎてルナ=ルチリアとともに机の下に落ちてしまった。
「あっ!」
「ストーンアレイ、自滅!」
「らしくないね……何か悩んでるみたいだけど、大丈夫?」
「……大丈夫よ。私は大丈夫」

「それじゃ、仕切り直すよ」
 夏樹が再度フリックスをセットするよう宣言した。お互いにフリックスを置き直し、アクティブシュート。
 今度は椎奈のシュートが強く、ルナ=ルチリアを吹き飛ばし先攻を取った。
「……」
 ストーンアレイをマインに向けてシュートをした。
 だがパワーが足りず、マインにヒットはしたもののルナ=ルチリアにヒットすることはなかった。
「あのさ、多分だけど、ドロシーの考えてる他にも手段はあると思うよ?何をしようとしてるかはわからないけど……」
 そう言いながら千春はルナ=ルチリアをストーンアレイの近くにあるマインへと向けた。
 そのまま千春はシュートをし、ストーンアレイにマインヒットを決めた。
「ストーンアレイのHP0、ルナ=ルチリアの勝ちだね」
 夏樹が千春の勝利を告げた。

ーーーーー

「なんかいつものドロシーと違うよ?夢のこと聞いてきたり……いつもの冷静さがなかったりさ」
「ちょっと、考えすぎてたのかもしれないわ」
 バトルの後、椎奈と千春は再び座って話をしていた。
「確かに、千春の言う通り他に手段はあるのかもしれないわね」
 ふう、と息を吐き、椎奈は顔を綻ばせた。
「気が楽になったわ。ありがとう、千春」
「よくわからないけど、どういたしまして」
 椎奈はすっと立ち上がった。
「そろそろ失礼するわ」
「んじゃお見送りとでもいこうかな」

ーーーーー

 玄関で椎奈を見送り、自室に戻った千春はルナ=ルチリアを手に取り眺めていた。
「この三日月がどうしたんだろう……」
 ルナ=ルチリアの角度を変え、光を当てて煌めかせて弄んだ。時折きらりと三日月が光り、網膜に刺激を与えた。
 そのうち親が帰宅する音を聞き、宿題を済ませてないことを思い出して机に向かうのであった。

 

  つづく

 

 

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