flicker’s anthem Shoot4「斬撃」

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shoot4「斬撃」

 

「おっ、そっちも終わったのか。んじゃさっさと決勝やっちまおうぜ。待ちきれねえよ」
 準決勝を終えたばかりの千春の後ろから声をかけられた。
 振り向くと赤いエプロンドレスの少女が千春を見つめていた。
「それじゃ早速始めようか。流川ちゃん大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です」
 審判の声で我に戻った千春はテーブルの上にルナ=ルチリアを置いた。
 エプロンドレスの少女もフリックスをセットした。少女のフリックスはピンクと紫に塗られた鎌をフロントに持ち、ゴムのようなもので固定さていた。本体の色は水色で、某清涼菓子のケースが剥き出しになっていた。そして白いレースがリアを飾っていた。さらには時計のようなアクセサリーが付いていた。
「もしかしてこれって…不思議の国のアリス?」
 そう小声で呟いた瞬間、少女が突如大きな声でこう言った。
「よし!折角決勝戦まで来たんだ。お互いに自己紹介でもしようか!俺はアリス、このファランクスドールで圧倒して忘れられない名前にしてやるよ!」
 外野から歓声が上がる。負けじと千春も声を張り上げた。
「
「私は流川 千春!ルナ=ルチリアの煌めく刃であなたのドールを切り刻んであげる!」
 さらに歓声が上がった。駄菓子屋の一角のボルテージはもはやマックスだった。そして審判が宣言した。

「よおおおし!行くぞ!3、2、1、アクティブシュート!!」


 お互いにフリックスをシュートした。まっすぐに進み、そして正面衝突した。その時。
「かかったな!」
「!?」
 ファランクスドールの鎌が振られルナ=ルチリアが勢いよく弾き飛ばされてしまった。

「これは……自滅扱い!ルナ=ルチリアに1点のダメージ!」
「まだまだぁ!」
 千春が気合を入れ直し、再びアクティブシュート。千春はスピンシュートを、アリスはギミックを再装填した後ストレートシュートを放った。
「またぶっ飛ばしてやる!」
「無駄だよ!受け流してルナ=ルチリア!」
 再びぶつかり合うフリックス。ファランクスドールの鎌が振られるがスピンの勢いに飲まれダメージを当たれられなかった。それどころかルナ=ルチリアに弾かれて距離も伸びなかった。
「先攻は流川ちゃん!」
 千春は小さくガッツポーズをし、作戦を考え始めた。
「……フロントにぶつかったら刈られる。としたらマインを……」
 千春はマインに照準を合わせシュート。椎奈との訓練によりコントロールが上手くなった千春は綺麗にマインにルナ=ルチリアを当て、マインをファランクスドールへと飛ばした。だが威力が足りずにヒットにはならなかった。
「作戦は間違ってなかったな。だが足りなかったのはパワーだ!」
 アリスが叫んだ、まっすぐにルナ=ルチリアへと進み、衝突。鎌が振られた。
「耐えて!」
「耐えられねえよ!とくと目に焼き付けな!」
 ルナ=ルチリアがステージ端へと吹き飛ばされた。そしてギリギリで持ちこたえた。
「ちっ、仕留め損なったか」
「油断してていいの?」

千春が素早くファランクスドールに向きを合わせた。
「いっけええええええ!!」
 全力を込めたスピンシュートを放った。ルナ=ルチリアは高速で回転しながらファランクスドールへと向かう。だが……。
「スピンなんか効かねえんだよ!」
 ファランクスドールの鎌にスピンシュートがヒット。鎌がスピンを受け流すかのように弾かれた。
 そして回転力を奪われ威力が減ったスピンシュートではファランクスドールをフリップアウトさせることはできなかった。
「ジエンド、だな」
 アリスがギミックを再びリロード。そしてルナ=ルチリアに向けてスピンシュートを放った。ギミックが作動。
 スピンシュートと鎌の威力が合算された。ものすごいパワーでルナ=ルチリアを文字通り吹き飛ばした。
「ああっ!」
 空を飛びそのまま場外へ。
「ルナ=ルチリアフリップアウト!2ダメージによりHP0!勝者アリスちゃん!」
「ま、こんなもんだな」
 負けてなお千春は勝負の熱気を忘れられないでいた。

ーーーーー

「よう、流川って言ったっけ。良いバトルだったぜ、まあまだまだだけどな!」
「あ、アリスさん。こっちこそありがとうね。楽しかったよ」
 優勝商品と準優勝商品の駄菓子無料券で買った駄菓子を千春が食べていたらアリスに声をかけられた。
 ちなみに優勝が1000円分、準優勝が500円分だった。こんなに食えねえよとアリスが嬉しそうにしていたのを千春は忘れられないでいた。
「もう行っちゃうの?」
「ああ、次のバトルが俺を待ってるからな。それじゃ、またどこかで!」
 そう言い残しアリスは駄菓子屋を去った。フリーバトルに興じる参加者と食べかけの駄菓子を手に持った千春だけが後に残った。

ーーーーー

 ちょうどその頃、椎奈は自宅で何やら神妙な顔で思案していた。
「あの三日月パーツに使われてる素材……それに、夢の中から枕元に現れたって言う千春の言葉……やっぱり、確かめてみなくちゃ」
 思い立った椎奈はスマホを手に取り電話をかけた。

「……もしもし、パパ?うん、私、椎奈。ちょっと聞きたいことがあってね。笑わないでほしいんだけど……」
 椎奈は唾を飲み込み、間を置いてから慎重に言葉を紡いだ。
「あのさ、何年か前にパパの研究所にフリックス開発の依頼があったでしょ?……そう、フリッカーと感応して……その力って、超能力的な?……そう、……まだ確証はないんだけど、画像データあるから送るね……うん、何か分かったら教えて……ありがとうパパ」
 電話を切り、深いため息を一回。そして昨晩の夢を思い出し、もう一度ため息をついた。

「サイメタル……」
 

 小さく呟いてベッドに横たわった。


「……もし、千春が持ってるものがそうだとしたら……一体誰が、何故……?」

 

   つづく

 

 

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