Shoot3「大会」
放課後、千春と椎奈は一緒に下校していた。
「あーあ、せっかく新しいフリックス作ったのに、全然勝てなかったー」
「付け焼き刃で勝てるほどフリックスバトルは甘くないからね。新しい機体を作ったならまずは慣れないと」
「そうだね!よし、椎奈!帰ったらいっぱいバトルしよ!」
千春の誘いに椎奈は申し訳なさそうに断った。
「ごめん、私ちょっと用があるんだ」
「ええー!」
「ぼやかない。その代わり、千春がその機体をもっと使いこなせるように私も分析してあげるから」
「ほんと!?」
「うん、だから、その機体の写真、撮らせてもらっても、良い?」
何故か椎奈の言葉はどこか途切れ途切れだった。勝手知ったる仲である千春に緊張しているかのようだ。
「もちろん!」
しかし千春はそのことには気付かず、快くルナルチを椎奈に渡す。
椎奈はそれを丁重に受け取りスマホで写真を撮った。特に、三日月パーツを入念に。
「でも分析もいいけど、やっぱりバトルしたいなぁ」
「そういえば、明日の休みに大人も出れる大会があるらしいわよ。珍しいわよね、小学生までの大会しかこの辺じゃやってないのに」
「え、ほんと!?じゃあ出てみよっかなぁ〜!椎奈も出るんでしょ?」
「うーん、私は明日も忙しいから。ちょっとパパの研究で調べなきゃいけないことがあって」
「……そっか、残念」
……。
…。
そして、翌日。
「えーーっと、椎奈が言うにはここら辺のはずなんだけど」
千春は街を彷徨っていた。
「……迷った。ここどこ……?」
スマートフォンに保存した地図とにらめっこをして歩き回っていた。
ドンッ!
よそ見しながら歩いていると不意に誰かとぶつかった。
「いってぇな!ちゃんと前見て歩け!!」
「ご、ごめんなさい!!」
その口調から、てっきりイカついにいちゃんかと思ったが、声音は異様に高い。
よく見ると、立っていたのは赤いエプロンドレスに長い金髪を持つ少女だった。歳は16歳程度だろうか。
「ん、お前もしかしてフリッカーか?」
「え、は、はい」
と言う事はこの子もフリッカー?
本人には申し訳ないけどフリックスやってるとは思えないな、と千春は思った。ふと椎奈を思い出したが、決定的に違っていたところがあった。左目を通るように付けられた傷。跡になっていてもう消えないだろう。
「そっか、お前佐藤屋の大会に出る奴だろ!こっちだ!早く行こうぜ!!」
「あっ」
しどろもどろの千春の手をとって、少女は駆け出した。
そしてようやくお目当ての場所へとたどり着いた。店のショーウィンドウにはモデルガンが展示してあり、ドアにはカードゲームのポスターが貼ってあった。
ドアを押して少し薄暗い店中へ入ると、駄菓子とプラモデルの山が目に入った。奥にはモデルガンの棚と旧式のアーケードゲーム機が並んでいた。
そして、少し背の高いテーブルの周りに人が集まっていた。ざっと見た感じ高校生やそれ以上の人が多いだろうか。
「おー、おー、集まってるなー!」
「す、すみません、大会の受付ってまだやってますか……」
「ああ、参加者ね。ちょっと待ってて、今名簿持ってくるから書いてね」
声をかけた相手は偶然主催者側だったようだ。すぐ名簿を持って戻ってきた。
「この2人で最後かな、じゃあ締め切るよ」
「今回は初めての人が多いっすね」
「んじゃ、大会始めるよ。トーナメント戦で、順番はくじ引きで決めるよ」
ーーーーー
「それじゃあ次の試合はー、アリスさんとアヴァさん、こっちの卓は流川さんと魔剤族さん」
3回目のバトル、準決勝まで千春は勝ち進んでいた。対戦相手は大学生に見える男性。
「よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
お互いに挨拶をし、フリックスをフィールドに置く。対戦相手は装甲が何重にも重なっているように見えるフリックスを置いた。
「おい女の子相手なんだから負けてやれよ!」
「うるせー俺は誰でも全力で行くんだよ!」
「大人気ないな!」
千春にとって野次が入るバトルは今回の大会が始めてだった。そんな非日常感に千春は少し酔いしれていた。
「じゃあ試合始めるよー、向こうの卓もいいかな?」
「はーい」
「おうよ!」
同時に試合を行う都合上、少々忙しそうだ。
「んじゃ行くよ、3、2、1、アクティブシュート!」
合図に合わせて千春と対戦相手の魔剤族(ハンドルネームだろうか)はフリックスをシュートした。
ルナ=ルチリアは装甲を持ったフリックスにぶつかり、弾き飛ばされた。
そして跳ね返ってきたことにより距離が縮んだ。先攻を譲ることになった。
「それじゃ先行いただきます」
「はい」
「まず変形します」
「……へ?」
そう宣言すると魔剤族がフリックスを変形させ始めた。
「来た!魔剤族の魔剤が魔剤モードになるぞ!」
「魔剤族の魔剤が魔剤モードって魔剤!?」
外野から歓声が飛ぶ、が。
「え、魔剤?魔剤が魔剤…?」
千春の思考が追いつかなかった。魔剤がゲシュタルト崩壊しそうだった。
混乱しているうちに相手のフリックスが変形を終えた。重なっていた装甲が展開され、あたかも横向きのカプセルのような形になっていた。
「シュート行きます」
「あ、はい」
魔剤がシュートされた。転がってルナ=ルチリアの上に乗り、そのまま向こう側にあるマインに接触した。マインに隣接し、魔剤が止まった。
「マインヒットしました、どうぞ」
「はい、じゃあ向き変えてシュートします」
ルナ=ルチリアを魔剤に向けシュート。ルナ=ルチリアが魔剤に接触した瞬間にマインヒットが成立するが、千春はフリップアウト狙いだった。
しかし攻撃を受けて転がった魔剤は一回転しかせずに止まった。
「やっぱ魔剤は防御力高いなー、魔剤族のパワーがないとうまく転がらないんかな」
そんな感想が聞こえた気がした。そして魔剤族のターン。
「まず変形して元に戻ります。それでシュート行きます」
そう宣言し、魔剤を元の多重装甲のモードに戻した。そしてルナ=ルチリアに向けてシュート。
押し込まれるようにしてフィールドの端へと追いやられた。
「んー……これはどうすれば……少し考えます」
「どうぞ」
千春は考えていた。ルナ=ルチリアの方が外側、このターンで何かしないとフリップアウトされて負けてしまう。
「……よし、向き変えてシュートします」
千春はフリックスの向きを変えた。まっすぐに魔剤に標準を合わせた。
「っ……!いっけええええええ!」
千春が叫んだ。そして全力でルナ=ルチリアを斜め向きにシュートした。
時計回りに高速で回るスピニングシュート、その勢いで魔剤へとぶつかっていった。その瞬間、ルナ=ルチリアの三日月状のブレードが魔剤の下に潜り込み浮かせ、場外へと吹き飛ばした。
「やった!」
「おめでとうございます、決勝戦頑張ってくださいね」
「ありがとうございます!」
やはりバトルは楽しい、そう千春は思っていた。
「……それにしてもドロシーに一回も勝てないんだけど、もしかしてドロシーってめっちゃ強い?」
そう小声で呟き、ふと物思いに耽りかけたした時。
「おっ、そっちも終わったのか。んじゃさっさと決勝やっちまおうぜ。待ちきれねえよ」
千春の後ろから声をかけられた。振り向くと赤いエプロンドレスの少女が千春を見つめていた。
「おお!女の子対決だ!」
「お前どっち応援する?」
そんな外野の声も決勝戦だという緊張と対戦相手の存在感に怯えていた千春には聞こえなかった。
つづく