shoot2「月光」
夢の中に現れた謎の少女からもらった三日月パーツを使ってルナ=ルチリアを作った千春は登校するや早速椎奈へその事を報告した。
「ふーん、で、それが新しいフリックスなわけね」
頬杖を付きながら椎奈が呟いた。そんなことありえないとでも言わんばかりに軽く流していた。
「あー、信じてないでしょ！ほんとなんだから！ほんとに夢でもらったパーツが枕元にあって……！」
「はいはい信じる信じる。確かに、千春じゃこんなパーツ作れそうに無いしね」
「バカにしてない？」
「してないしてない」
「まぁ、私だって信じられないんだけどさ……」
千春はそう呟きつつ、朝食用に買っておいたメロンパンを一口かじり、こう続けた。
「とにかく！今日もお昼にバトルね！今日こそ勝つんだから！」
そう宣言すると席へと小走りで戻っていった。
そろそろHRの時間だ。
「……あの素材、もしかして……いや、まさかね」
椎奈の呟きは誰にも聞かれることはなかった。
ーーーーー
千春と椎奈は屋上へたどり着くと食事を摂り始めた。
「お、ドロシーのお弁当かわいい」
「今日は上手くできたのよね」
焼きそばパンを頬張りながら千春が椎奈の弁当を覗き込んだ。だし巻き卵の黄色、レタスの緑、鮭の赤にご飯の白。見てるだけでお腹が空いてくると千春は思った。
「毎日自分でお弁当作るなんてすごいよね」
「まぁ、パパもママも忙しいからね。慣れっこよ」
「さすが、超エリート家系……！」
焼きそばパンを完食し、千春はクリームパンに手を伸ばしていた。
「それ、なかなか私から肯定はし辛いんだけど」
椎奈が苦笑した。
「じゃあドロシーも将来は学者目指すの？」
「んー、どうだろうなぁ。選択肢の一つだとは思ってるけど」
椎奈は少し言葉を濁しながら空を見上げた。
ーーーーー
「よし、お待たせ千春」
先に食べ終わった千春は屋上にホームセンターで買ったジョイントマットを広げていた。千春達が屋上でフリックスをする時はいつもこれを使っている。
「よし、行くよドロシー！今日こそ勝つ！」
フィールドの隅にルナ=ルチリアを置きながら千春は叫んだ。
椎奈も対角線上に彼女のフリックス、ストーンアレイを置いた。市販品のフリックスの中では最も重量があり攻撃を耐えることに特化したものだ。そしてマインをセットした後に……。
「3、2、1、アクティブシュート！」
掛け声と同時にフリックスがシュートされた。ストーンアレイは防御型故に機動力が低い。
一方ルナ=ルチリアは軽量な機動型。金の模様が煌きながら、一瞬で距離を詰めてストーンアレイに弾かれ止まった。先攻は千春。
「よし、いくよ」
ストーンアレイの近くにあるフリップマインにルナ=ルチリアを向けた。
そのままシュートしフリップマインをストーンアレイにぶつけた。
「よしマインヒット！」
「ほー、新型機ってのは伊達じゃ無いのね」
先制ダメージを受けた椎奈は感心したように言う。
「へへへ！昨日までの私とは違うよ！」
「それじゃ、私も遠慮なく……！」
椎奈はマインに向けてシュートを放つ。ストーンアレイはその場で回転しマインを吹き飛ばした。そしてルナ=ルチリアへと衝突。マインは場外へと飛んで行った。
「これが本当のマインヒットよ。ただ攻撃するだけじゃなく、反撃の芽を摘まないとね」
「ひええ……」
マインが一つ使えなくなった上に、残りの一つはストーンアレイと方向が違う。
「ここはフリップアウト……？いや、ドロシーの機体にはルナ=ルチリアじゃ通用しない……」
アクティブシュート時に正面衝突したにも関わらず大したダメージを与えられていなかった。
それを千春は覚えていた。
「ここは安全策をとってマインを……でもどうやって……？」
「どうしたのよ、考え中？」
「……よし！」
ルナ=ルチリアをストーンアレイに向ける、が正面は捉えず少しだけマインの方を向いていた。
「いっけええええええ！！」
ルナ=ルチリアは真っ直ぐにストーンアレイに向かう、そしてストーンアレイに弾かれた。
だがストーンアレイにぶつかったのは三日月状のブレード。
「なっ……！？」
椎奈が愕然とした。というのもストーンアレイに弾かれたルナ=ルチリアがマインに向かって進んでいたからだ。ブレードの形状を活かした戦略。そしてマインに衝突。
「これが本当のマインヒットだよ」
ドヤ顔で宣言する千春。だが椎奈は冷静だった。
「えい」
「あっ」
椎奈のシュートによりルナ=ルチリアの後ろからストーンアレイが衝突、運動エネルギーを伝えてルナ=ルチリアがフリップアウト。椎奈の勝利である。
「うぎゃああああ」
「詰めが甘いわね」
「もう一回！もう一回だけ！」
「勝つまでやるつもりでしょ」
こうして昼休みは過ぎていった。
つづく