第21話「究極の平等 イクヲリティー」
赤壁杯ユース大会が始まる数時間前。
スタッフルームで大会運営スタッフ達とバトルフリッカーコウが対峙していた。
「なんなんですか、この台本は!」
バトルフリッカーコウは手に持った冊子を見せつけながら怒鳴る。
運営スタッフは意に介さないと言う態度で答えた。
「見ての通りです。今回の実況はその台本を基にお願いします」
「私の仕事は、大会を盛り上げ、フリッカーや観客達に状況を分かりやすく伝えてバトルをより楽しんでもらうためのものです!誰かの思想を伝えるためじゃない!!」
「あなた個人の矜持は問題ではない。これは今大会のメインスポンサーの意向なのです」
「なに……!」
運営スタッフ達の目線が移る。それを辿ると、仮面をつけた男……プロフェッサーFの姿があった。
「バトルフリッカーコウ、あなたは公式委員会から派遣されたとはいえ、今は我々に雇われた身だ。既に契約が成立している以上、職務を全うするのがプロというものではないかね?」
プロフェッサーFが淡々と告げる。
「ぐぐ……!」
「案ずる必要はない。これもフリッカー達がアセンションに至るためのもの。あなたの仕事はその礎となるのです、誇りに思いなさい」
プロフェッサーFの仮面の奥にある瞳が怪しく光った。
……。
…。
そして、大会ではセレスティア所属のフリッカーチーム『チームイクヲリティー』の試合が始まった。
『さぁ、次の対戦カードはチームシックスダブルオーVSチームイクヲリティー!!』
バトルフリッカーコウのアナウンスで二組のチームがフィールドに着く。
「イクヲリティー……って、まさか!」
「セレスティア、参加してたのか……!」
チームイクヲリティーと呼ばれたメンバーは、的場テル、牛見トウキ、尾針サリア、粟倉クレア、後藤エンキの5人だった。
『チームシックスダブルオーは、先日発売されたエイペックス600とヴァーテックス600の改造モデルで戦う!』
シックスダブルオーのメンバー達がそれぞれ機体を取り出すと、達斗と翔也は嬉しそうに反応した。
「あ、ヴァーロクにエイロク!買ってくれたんだ」
「なんかこういうの嬉しいよな」
『チームシックスダブルオー、段田バンのプロデュースした新型量産モデルの力を見せつけるのか!?しかし、チームイクヲリティーの個性豊かな機体達の戦いも気になるぞ!』
特に因縁もないチームなので紹介が終わったらバトルスタート。
まずはチームシックスダブルオーが息のあった連携で先手を取り、マインヒットを決めていく。
『チームシックスダブルオー、素晴らしい連携だ!早くも先制ダメージを決めてリード!』
バトルの様子を見ている達斗達は戦況を見ながら感想を口にする。
「凄いなぁ、シックスダブルオー」
「それに比べてセレスティアの奴らはてんでバラバラじゃないか」
「所詮素人どもの集まりか」
「さすがのイクヲリティーも大人数のチームプレイには対応してないって事か」
「でも、じゃあなんでわざわざ参加したんだろう……?」
そんな疑問を抱きながらもバトルは続く。
次はチームイクヲリティーのターンだ。それぞれ全く毛色の違う五体のフリックスが好き勝手に行動している。連携も何もあったものではない。
しかし……。
『おおっと、チームイクヲリティーはバラエティ豊かなプレイング!しかしどうした事か、一見バラバラな動きだが、不思議と統率が取れているぞ!!』
サジタルバズーカの射撃、ランブルブルの突進、クローズカルキノスのハサミ、トリックアクラブの針、トラバースゴートの機動性……それぞれが好き勝手に動いているにも関わらず、何故かシナジー効果を発揮してバトルの流れを掴んでいるように見えた。
チームシックスダブルオーも完璧な連携で迎え撃つが、完全に呑まれている。
『それもそのはず!皆、チームイクヲリティーの腕に取り付けられたガントレットに注目してくれ!これはただのお揃いアクセサリーではない!今大会のメインスポンサーでもあるセレスティア様が開発したAIタクティカルサポートメカ、チーム名でもある[イクヲリティー]が装備されているのだ!』
モニターにイクヲリティーの画像が映し出され、そのスペック説明が流れる。
『このイクヲリティーは、ガントレットを搭載したフリッカーとフリックスのスペック、対戦相手、フィールド状況を瞬時に把握し、それらに応じたベストな行動やシュート方法を提示してくれるんだ!それに従えばどんなフリッカーでも自分のスタイルに合った最適なプレイングが可能になる!!』
バトルフリッカーコウが説明している間にバトルはどんどんと進み、チームイクヲリティーがチームシックスダブルオーを追い詰めていく。
『それだけじゃない!チームイクヲリティーの個人個人の成績にも注目してくれ!あれだけ自由に個性的に立ち回っているにも関わらず、敵機へ与えたダメージ、残りHPが全員均等だ!全員が平等に活躍している!』
バキィィィ!!!
ついにシックスダブルオー最後の一人が撃沈し、チームイクヲリティーの勝利が決まる。
モニターにリザルトが映し出された。その記録はバトルフリッカーコウの実況で言われた通り、完全な平等だった。
『これこそがイクヲリティーの真骨頂!誰一人として足を引っ張る事もなく、全員がMVPになれる!そして、それだけじゃないぞ!チームシックスダブルオーの強みも活かし、受け止めた上で勝利を収めている!
つまりこのイクヲリティーを使えば、自分も味方も敵でさえも、それぞれの強みを最大限活かし、全員が平等に最高のバトルが出来るんだ!!』
バトル結果はチームイクヲリティーの勝利だが、チームシックスダブルオーも自分達の力を出し切って悪い気はしていないようだ。
『え、チームイクヲリティーばかり使えて狡い?
ご安心あれ!このイクヲリティーはあくまで試作モデル、ただいま量産市場流通に向けて開発を進めているところだ!
今年中には発売予定だから、楽しみに待っててくれよぉ!』
……こうして、チームイクヲリティーの試合が終わった。
「えっと、なんだろう、これ……」
「こりゃ試合って言うよりもCMだな」
達斗と翔也は呆れ顔になった。
「でも、セレスティアはイクヲリティーを販売するつもりだったんだ……」
「この大会はそのためのプロモーションってわけか」
「あんなものを売るなんて……!」
「この大会、あいつらにだけは負けるわけにいかないな」
イクヲリティーの恐ろしさを身をもって体感したことのある二人は身震いした。
「それにしてもバトルフリッカーコウって、あんなあからさまなダイマするような人だったっけ?」
「うーん、なんなんですかねぇ……」
メイも困惑しながらも、何か心配げにバトルフリッカーコウを見つめた。
……。
そして、それから何戦か試合をしてティンクルスターズとチームイクヲリティーは順調に勝ち上がっていった。
あとは決勝戦を残すのみとなった所で昼休憩に入る。
スタッフルームに備え付けられている洗面所。
バトルフリッカーコウが勢いよく水を出して口に含む。
「ガラガラガラ……ペッ!……はぁ、はぁ……」
大きくうがいをして口元を雑に拭う。鏡に映る顔は苦悶が浮かんでいた。
(くそっ、これから決勝戦だって言うのに、こんな……)
「お疲れのようですね」
「っ!」
鏡越しに仮面の男の姿を認識して反射的に振り向いた。
「プロフェッサーF……!」
絞り出したその声は枯れていた。
「バトルフリッカーコウ、あなたはこれまでよく頑張ってくれました。部屋を出て左の突き当りに医務室があります。今日はもうお休みください」
「そういうわけには……!」
「心配ご無用」
プロフェッサーFはガントレットのイクヲリティーを操作すると、その上に小さなマイクを持った二頭身のキャラクターが現れた。
『ドウモ、ワタシハジッキョウクン1号デス。ケッショウノジッキョウハオマカセクダサイ』
カタコトだが、しっかりとした音声を発している。機械が自分で思考して人工音声を出しているのだ。
「これは……」
「イクヲリティーはフリックス界へアセンションをもたらすための技術。故にこう言った使い方もあるのです」
「しかし……!」
「体調不良を押して中途半端な仕事をするか、新たな技術に仕事を与え経験値を投資するか……プロとしてどちらを選びますか?」
「……」
ここまであからさまに怪しげな行動をしてきたセレスティアの開発した技術に大会の実況を委ねて良いわけがない。
だが、今の自分では満足は実況は出来ない。……選択肢など、ハナから用意されていなかったのだ。
……。
…。
そして、昼休憩が終わり決勝戦の時間となった。
ステージにバトルフリッカーコウが現れてアナウンスをするかと思われたが、壇上に立っているのはプロフェッサーFだった。
「なんだ?」
「なんで、プロフェッサーFが……!」
『これから赤壁杯ユース大会の決勝を始めますが、その前に一つお知らせがあります。ここまで実況を務めていただいたバトルフリッカーコウですが、喉の不調により急遽決勝戦の実況が行えなくなりました』
まさかのアナウンスに会場がざわつく。
「あのバトルフリッカーコウが?」
「やっぱり、調子悪かったんだ……」
「メイたん、よく気付いてたね」
「でも、それじゃ決勝は実況無しなんでしょうかね?」
「まさかの真島アナウンサー呼んだりして」
「さすがに無理だろ」
『ご安心を。決勝を盛り上げるための実況者はここにいます』
プロフェッサーFが自身の右腕に取り付けているイクヲリティーを操作すると、そこから実況君1号が現れた。
「あのガントレットから立体映像が出てきた!?」
「あんな仕掛けまであったのか……!」
『ハジメマシテワタシハジッキョウクン1号デス』
実況君が自己紹介する。
『これはイクヲリティーのデータを元に生成した実況キャラクター。ありとあらゆるバトルデータを内包しているイクヲリティーは、バトルのサポートだけでなく大会進行のサポートも出来るのです。とは言え、まだまだ発展途上な技術、温かく見守っていただければ幸いです』
プロフェッサーFがほくそ笑んだ。ありとあらゆる方面からイクヲリティーのプロモーションをするつもりらしい。
「イクヲリティーが実況までするの!?」
「実質俺らアウェイじゃねぇか……どんな実況されるか分かったもんじゃないぞ」
「ふん、くだらん。外野で誰が騒ごうが、実力に影響はない」
「そ、そうです!メイたん達ティンクルスターズはどんな状況でも負けないんだから!!えいえいおー!!」
メイは可愛く気合を込めた。
「うふふ、随分と強気ねぇ、子羊ちゃん」
そんなメイへ、いつの間にかそばに来ていたチームイクヲリティーの尾針サリアと粟倉クレアが話しかけてきた。
「その元気がいつまで続くか楽しみですわ」
「イクヲリティーの真の力で、あの時の借りを返させてもらうわよ」
「……あたし達は、そんな力に頼るあなた達には負けないから!」
「テクノロジーを否定する者に、未来はなくてよ」
軽い言い合いをしたのち、二人は自チームへと戻る。
そして、両チームがフィールドについていよいよ決勝戦のスタートだ。
『デハイキマス、3.2.1.アクティブシュート』
「っ!」
「タイミングがっ!」
いつもと違う機械的な実況の合図なのでスタートのタイミングが掴めずにティンクルスターズは出遅れてしまう。
それに対してチームイクヲリティーはタイミングバッチリなシュートで先手を取った。
『チームイクヲリティー、ミゴトナアクティブシュートデセンテデス』
「うぅ、あたしこの機械音好きじゃないかも……」
声を使う仕事をしているだけあり、メイは不快な音に敏感なようだ。
「へ、どうした?前より腕が鈍ってんじゃねぇか?」
「大したことないんだど」
テルとトウキが煽る。
「こいつら、実況君1号とイクヲリティーで繋がってるからタイミング取れるのか……!」
「そんなの、自分のタイミングでシュートしてるようなものじゃないか……」
「ふん、先手くらいくれてやる」
『デハチームイクヲリティノターンデス』
チームイクヲリティーはそれぞれの特徴的な攻撃を駆使してティンクルスターズ全員をマインヒットする。
『オミゴト!チームイクヲリティーハスバラシイコウゲキデティンクルスターズヲオイツメテイキマス!!コノママショウブヲキメルノデショウカ?』
「あぁもう、棒読みなのがますますムカつくな、この実況……!」
淡々とアウェイな空気を作り出してくる実況君1号にイラつく。
「くだらん、ここから挽回すれば良いだけだ」
ガイは近くにいるトリックアクラズへ狙いを定める。
「あら、ボウヤは確か力自慢だったわね。良いわ、フリップアウト狙ってみなさい。お姉さんが受け止めてあげる」
サリアはバリケードも構えずに妖艶に微笑む。
「舐めているのか……?」
ガイはサリアの態度にイラつきながらもシュートを放つ。
トリックアクラブは見た所可変アームと毒針を駆使するマインヒットタイプだ。防御力は高くないはず。
カッ!
ゼニスの攻撃がトリックアクラブのフロントにヒットした瞬間、ゼニスのバランスが崩れた。
そしてトリックアクラブとゼニスは一緒に場外してしまった。
「な、なにが起こった……!」
「うふふ、蠍の毒が回ったみたいね」
(あの機体に変化はなかった。だが、明らかに接触した瞬間に挙動が変わった……?)
予想していなかった事にガイは動揺を見せる。これでHP1だ。
「ガイがこんなミスを……?」
「とにかく、こっちもダメージ与えないと……!」
「は、はい!」
バッ!
翔也、達斗、タカシの攻撃でテル、トウキ、エンキの三人にマインヒットを決めた。
「フリップスペル、シャイニングキュア!」
メイはバリケードを消費してシャイニングキュアでガイのHPを1回復させた。
「……悪いな」
「ううん!次挽回しよっ!」
「次はないわよ!」
シュンッ!
チームイクヲリティーのターンになった瞬間、サリアが素早くトリックアクラブをシュートしてトゥインクルコメットを場外させた。
「あっ!」
『スゴイ!スゴイ!サリアクンノトリックアクラブガスバヤイウゴキデトゥインクルコメットヲゲキチンシマシタ!!』
「保科っ!!!」
「よそ見してる暇はなくってよ!ライトニングラッシュ!」
今度は粟倉クレアがライトニングラッシュを発動して連続シュートでゼニスの側に近づき、クローズカルキノスのハサミで思いっきり挟んだ。
ガッ!!
その衝撃でゼニスが転倒する。
「っ!」
「ブルルルルルルァァァァ!!!」
転倒したゼニスへランブルブルが突進。グリップを失ったゼニスはあっさりと場外へ運ばれてしまった。
『ツヅイテゼニスモゲキチン!チームイクヲリティーガアットウテキニユウリデス』
「くっ!」
「ガ、ガイまで……!」
「オラァ!」
「行きますぞww」
バキィ!!
今度はサジタルバズーカとトラバースゴートの攻撃だ。
「耐えろ、ポラリス!」
ガッ!
バリアを展開していたポラリスはこの攻撃を耐え切った。
「スゴイなぁ、ポラリスのバリア」
「いろんな攻撃を想定しましたから」
『サジタルバズーカトトラバースゴートノコウゲキハオシクモタエキラレテシマイマシタ!シカシバトルハイッポウテキナテンカイ、ホボショウブハミエテイルデショウ!!』
実況君1号は相変わらず一方的な実況を続ける。
「カッチーン⭐︎」
メイは笑顔で、ブチキレた事を表すオトマトペを口にした。
そして、徐にマイクを取り出して叫ぶ。
『さぁ!バトルもいよいよ中盤戦に差し掛かり、ますます盛り上がりを見せていま〜す!現在、チームイクヲリティーが見事な連携で大幅リード!一方のティンクルスターズは二人も撃沈して大ピンチ!果たして、ここからどう挽回するのでしょうか!?』
メイがその場で実況を始めてしまった。
「メ、メイたん!?」
「なんのつもりかしら?」
メイの行動に、敵も味方も困惑した。
「あたしは、あたしのやり方で戦うから!」
『アーアー、ジッキョウハワタシガタントウシマス。センシュハバトルニシュウチュウシテクダサイ』
『アーアー、何も聞こえませーん!フリッカーとしてのメイたんはもう撃沈したので、今からは最強アイドルとしてバトルを盛り上げちゃいまーす!!』
バババッ!と衣装を早着替え。
かなりの暴挙ではあるが、その衣装は普段よりも露出が高いものだったおかげで観客からは概ね好評を得られて許される空気になった。
プロフェッサーFはこの空気を察したのか密かに実況君1号の電源をオフにした。
『さぁ、ティンクルスターズのターンですよ!残った三人でどんな攻撃をするのでしょうか!?』
「どんな攻撃って言っても……どうしよう」
今この状況で出来る事が果たしてあるのか……?
「相手はテルトウキエンキの三人が残り2で、サリアとクレアは無傷……生半可な攻撃しても焼け石に水だ」
「あ、あの……僕に考えがあるんですけど、いいでしょうか?」
タカシが遠慮がちに作戦を提案した。
「……分かった。それに賭けてみるか」
「うん!」
バシュッ!
達斗と翔也はチームイクヲリティーから離れるような位置へ機体をシュートした。
『おおっと、翔也君と達斗君は敵機から離れるようにシュートしました!一旦体制を整える作戦でしょうか?』
「フリップスペル、グラビティストンプ!」
タカシがスペルを宣言する。
グラビティストンプ……機体を7cm以上浮かせてシュートし、転倒せずに着地出来れば成功。次のターンまでバリケードを使わずにダメージを受けなければ、敵機全員に1ダメージ入る。
「いけっ!」
タカシはヴァーテックスとエイペックスを飛び越えてフィールド端に着地した。
『なんとなんとなんと!タカシ君はグラビティストンプを発動!しかもエイペックスとヴァーテックスを盾にする事で完全防御体制を取りました!』
「ちっ、場外かマインヒットすりゃいいんだろ!どうする、イクヲリティー?」
イクヲリティーの判断を伺うが、ここは攻撃せずにフォーメーションを組むような指示を出された。
「んだよ、面白くねぇな。大人しくダメージ受けろってか?」
「確かに、あの陣形を崩すのは不可能ですからなwww」
マインヒットは前方の二体が防ぎ、フリップアウトしようにも三体が固まってる上に達斗と翔也がその後ろでバリケードを構えている。
下手に攻撃しても藪蛇だろう。
「イクヲリティーは絶対。従うのが妥当ね」
「仕方ねぇな」
チームイクヲリティーは素直にAIの判断に従い、トラバースゴートを先頭にして五体が固まって防御力と攻撃力を高めるフォーメーションを組んだ。
そして、ティンクルスターズのターンになり、チームイクヲリティー全員に1ダメージずつ入る。
「よし、これで全員のHPが2以下になった!」
「翔也、アレを使って一気に決めよう!」
「当然!」
一箇所に固まってくれている上に全員がHP2以下。となれば大技で仕留めるしかない。
「やっぱりあの技で来る気ね」
「けっ、こっちは5体分の防御力だ。耐え切れるに決まってる」
「耐え切った後は5体分のパワーで反撃……さすがイクヲリティー、完璧なプランですぞwww」
イクヲリティーの提示した作戦は実に単純だ。全員の力で相手の必殺技を耐え切って、全員の力で反撃……一見脳筋ではあるがここまで追い詰めている以上下手な搦手は必要ないだろう。
何より全員で力を一つにすれば活躍度も均等になる。比較的ここまでの活躍度の低いトラバースゴートが先頭なのもその調整のためだろう。
(イクヲリティーの計算は絶対……どんな必殺技もこのフォーメーションで耐え切れるはずですぞ)
と、心の中で言い聞かせながらも、エンキはどこか嫌な予感をしていた。
「いっくぜぇ!!!」
バシュッ!!!
翔也は渾身の力でスピニングエイペックスをスプリントヴァーテックスの目の前で強烈にスピンさせた。
ズギャアアアアアアアア!!!!
その猛烈なスピンで凄まじい磁気嵐が発生する。
「っ!」
それを見た瞬間、エンキは直感した。
(これは、無理ですぞ!)
慌ててイクヲリティーの作戦に更新がないかチェックするが、イクヲリティーの指示は相変わらずだった。
他のメンバーは不安そうな表情をしながらもイクヲリティーを信じてバリケードを構えている。
(ダメだ、このままでは全員やられる……ならばっ!)
「来い、タツ!」
「うん!いっけええええ!!!」
バシュウウウウウウウ!!!
スピニングエイペックスへ向かってスプリントヴァーテックスをシュート。
ガッ、バゴオオオオオ!!!!
接触した瞬間にスピニングエイペックスが凄まじい反発でぶっ飛ぶ。
「「スーパーノヴァトルネード!!!」」
『出ましたぁ!!スプリントヴァーテックスとスピニングエイペックスの合体技!それに対してチームイクヲリティーはメンバー全員で防御を固めています!まさにホコタテ対決!どちらに軍配が上がるのでしょうか!?』
「「このまま全員ぶっ飛ばせええええ!!」」
「トラバースゴート!!」
シュンッ!
必殺技が当たる寸前、エンキはステップでトラバースゴートを前進させてエイペックスに突っ込んだ。
「なに!?」
バキィィ!!!
トラバースゴートは単体で必殺技を受けたせいで一瞬で場外。しかも勢いが強すぎてボディが一部破損してしまった。
そして、トラバースゴートが突っ込んだせいで勢いを削がれてしまったエイペックスは残りの4体を弾き飛ばすものの、場外まではいかなかった。
「エ、エンキ……あなた……」
「イクヲリティーの指示を無視してまでワタクシ達を……?」
破損したゴードを拾い、エンキは不器用に笑う。
「これでも、小生は箱推しですからなww推しのために犠牲になるなら本望ですぞwww」
「けっ、カッコつけやがって」
「でも助かったんだど」
『な、なんと、スーパーノヴァトルネードをトラバースゴートが単身で受ける事でチームへの被害を抑えました!なんという美しいチームワークでしょうか!』
「くそ、勢い殺された……!」
「惜しかったなぁ……」
「ぼ、僕は念の為グラビティストンプ回収します」
そしてチームイクヲリティーのターンだ。
「とりあえず、グラビティストンプを回収したあいつが厄介みたいだな」
イクヲリティーの指示は四人で集中攻撃してポラリスを仕留めろとの事だった。
ティンクルスターズの三機はバラバラなので各個撃破するにはうってつけだ。
「「「いけええええ!!!」」」
四人が一斉にポラリスへ攻撃を仕掛けるが……。
ボヨンッ!!
タカシはバリケード上部をポラリスはボディ上部に押さえつける事でグリップ力を高め、敵機の攻撃をバリアで逆に弾き返して場外させた。
「「「なに!?」」」
射撃をしたサジタルバズーカ以外は全員自滅。
ランブルブルはこれで撃沈だ。
残りはサジタルバズーカ、トリックアクラブ、クローズカルキノスがそれぞれHP1だ。
「そうか!ステップの構えでグリップ力を高めたのか!」
「はい!」
「ステップでこういう使い方もあるんだ……」
ステップは、機体を動かさなければバリケードで触れたまま構え続ける事が出来る。そのルールを応用したのだ。
(素直にイクヲリティーの判断に従っていれば、5体分のパワーで押し通せたものを……愚かな)
様子を見ていたプロフェッサーFは密かに悪態をついた。
「あとはさっきのグラビティストンプフォーメーションで勝ち確だな!」
「はい!」
タカシはさっきと同じようにグラビティストンプを発動し、達斗と翔也はポラリスを守るような陣形をとった。
「くそ、イクヲリティー!この状況どうすんだ!!」
テルが乱暴に問い掛けるが、イクヲリティーはなかなか答えを出さない。
「ちぃ……!」
「これが今の限界みたいね」
なすすべなく、チームイクヲリティーはグラビティストンプダメージを受けて全員撃沈した。
『決まりました!!激しいチームワークの戦いを制したのはティンクルスターズでーす!おめでとうございまーす!!!』
「やったぁ!」
「すげぇじゃんタカシ!」
「いえ、皆さんのおかげです!」
「ふん……」
ティンクルスターズはそれぞれの形で喜びをあらわにする。
その様子に観客達も沸き立つ。
「いやぁ、スゴイ試合だったなぁ!」
「さすが強豪ぞろいのチームだ」
「イクヲリティーも凄かったけど、なんかまだまだ発展途上って感じ」
「でも可能性は感じたし、今後に期待だな」
「ただ実況君1号はちょっとなかったな」
「俺もそこは萎えた。メイたんが実況代わってくれて良かったけど」
「バトルフリッカーコウ大丈夫なんかね?」
それぞれ好きに感想を言い合う。
そんな様子をプロフェッサーFは眺めていた。
(まずまずと言ったところか……いや、作戦は失敗だな。どうやら彼らを甘く見すぎていたようだ)
仮面の下に渋い表情を隠し、踵を返した。
……。
…。
その後、セレスティア本拠地ではプロフェッサーFの前に全員が整列し反省会をしていた。
「「「申し訳ありませんでした、プロフェッサーF」」」
全員が声を揃えて頭を下げる。
「いや、プロモーションとしての成果はまずまずと言ったところだ。ご苦労だった、顔を上げなさい」
プロフェッサーFの優しい声音に安心したのか、メンバーは恐る恐る顔を上げる。
「しかし、重要なのは試合の結果ではない。……どうやら一人、再教育が必要な者がいるようだ」
プロフェッサーFが冷たい視線を送る。その先にいたのは。
「後藤エンキ」
「っ!」
名指しされたエンキは顔を強張らせる。
「何故ですの!?エンキはワタクシ達を守ったんですのよ!!」
クレアが咄嗟に庇うが、プロフェッサーFはそれを無視して続ける。
「エンキ、君はセレスティアの平等精神に反した。その思想を正さぬ限り、いずれセレスティアの癌となる」
「そんな、小生は本気でサインスターズを愛し、セレスティアへ忠誠を誓っているのですぞ!例えこの身をどれだけ犠牲にしようとも……!」
「それが問題なのだ。セレスティアの思想は完璧なる平等。その平等の中には君も入っていなければならない。自己判断による自己犠牲は私の理想から程遠い精神だ」
プロフェッサーFが指を鳴らすと、その合図で奥から黒服を着たスタッフが現れてエンキを連れていく。
「小生は、小生は、皆に幸せになってもらいたく……」
「エンキ、君にも幸せになる義務がある。イクヲリティーの判断はそのためのもの。今一度その思想を強く胸に刻むのだ」
エンキはがっくり項垂れてスタッフと一緒に歩き出すと、奥から4人の少女が現れた。そして、その中の長身で色黒な少女がエンキに近づいてきた。
「レ、レイナ、さん……」
「ご苦労だったね、エンキ」
「申し訳ないですぞ……元ファンクラブ会長として、力及ばずで……」
「あんたはよくやったよ。安心しな、こいつが完成した以上、ここからはあたいがメンバーの指揮を取る」
そう言いながら、レイナは手にしているチラリと機体を見せた。
まるで百獣の王を思わせるような仰々しいオーラを放っていた。
「よろしく、お願いしますぞ……」
エンキは消え入るような声でそう呟いた。
つづく


