弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 段田バン視点第5話「発売間近!皆に届け、600(シックスダブルオー)」

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段田バン視点第5話「発売間近!皆に届け、600(シックスダブルオー)」

 

 段田ラボ会議室。
 バンと琴井トオルが資料を見ながら打ち合わせをしていた。

「ゼノシリーズの初動はかなり好調でしたし、今回も強気で行けそうですね」
「もちろんそのつもりですが……ただ、あの頃と比べてフリッカー達の目も肥えてるからなぁ……量産機も増えてきましたし」
「差別化となる付加価値は必須ですね」
「付加価値か……確か数年前、ゼノシリーズの時はグレートフリックスカップ関東予選の前日に合わせて発売したんでしたね」
「そうでしたね。やはり大会に合わせるのが一番でしょうな」
「っても、スプリング大会は終わったばかりでサマーまで時間もあるし……」
「発売記念イベントを立ち上げると言うのは?」
「んー、そうだな……」

 思案していると、扉がノックされたのちに開かれ伊江羅博士が顔を出した。
「バン、こっちの方は完成したぞ」
「おっ、ほんとか!んじゃ、続きは実物を見ながらにしましょうか、琴井さん」
「そうですね」
 バンとトオルは腰を上げて、伊江羅博士と共に開発室へ向かった。

 開発室。
 大仰な製造機の前に置かれたテーブルの上にヴァーテックスやエイペックスとよく似た機体がズラッと並べられていた。

 

「おぉ、これが……!」
 トオルは思わず感嘆を漏らす。そこにはビジネス用の外面はなく素直なフリッカーとしての表情があった。
「いよいよこの企画の本番って感じだな」
「バトルと共に成長していくあの二機のデータを基にして、いくつかのパターンを作ってみた。どこをオミットし、どこを採用するかはこれからまたテストが必要になるな」
 よく見ると、製作された機体達は全て微妙に形状が違っており、エイペックスやヴァーテックスの形状とギミックをそのまま再現したもの、ギミックはオミットしているもの、形状を若干丸みを帯びさせているもの……など様々だ。

「となると、あいつらの力借りた方がよさそうだな」
 バンが達斗や翔也の顔を思い浮かべた時、来訪者を知らせるブザーが鳴った。
 モニターを付けると、達斗と翔也が門の前にいるのが見えた。
「お、噂をすれば、ちょうど良い!お前ら二人に頼みたい事があるんだ」
 バンが言うと、翔也は少し焦ったような困ったような顔で口を開く。
『バンさん、こっちもそれどころじゃ無いと言うか、お願いしたい事があるんです!』
「な、なに?」
 切羽詰まった翔也の様子に戸惑っていると、翔也と達斗の後ろにゾロゾロと複数人の子供達がいるのが見えた。
「なんだよ、随分大所帯だな……!」
「あれ、スナ夫君?」
 後ろでモニターを見ていたトオルが反応する。
『おじさん、どうしてここに……』
「仕事でちょっとね」
「知ってる子ですか?」
「えぇ、親戚の子です。段田さん、一先ず事情を聞いてみましょう。只事じゃなさそうですし」
「ですね」

 とりあえずバンは子供らを招き入れる事にした。
 開発室はそれなりに広いが、それなりに人数が押し寄せると手狭に感じる。
「どうした?何があったんだよ」
「実は……」
 翔也が促すと、付いてきた子達が壊れた機体を取り出して見せる。
「これは、ひどい」

 損壊度に差はあれど、皆ただバトルしただけではあり得ないような破損をしていた。

「穏やかじゃないな。一体どうしてこんな」
「俺達がフリックスやってるとこに変な二人組がやってきて、俺達のフリックスを破壊しまくったんだ……!」
 シチベエが悔しげな表情で説明する。
「変な二人組?」
「翔也君と神田君が追い払ってくれなかったらどうなってたか……」
「も、もっと詳しく話せるか?その二人の特徴とか」
 バンに言われ、比較的冷静な翔也が説明する。
「歳は俺達より上で、中学生くらいですかね……一人は、前に輪ゴム銃で通り魔事件起こした事がある的場テル。もう一人は同じくらいの時期にフリックスの店舗大会を荒らし回ってた牛見トウキって言うフリッカーです」
 翔也の説明を聞いて、バンはげんなりした顔になる。
「問題児が手を組んだ感じかよ……」
「まぁ、そうなりますね……」
 翔也が苦笑いすると、トオルが顎に手を当てて何やら考え込んだ。
「的場テル、牛見トウキ……」
「おじさん、知ってるの?」
 スナ夫が問うと、トオルはゆっくり首を振った。
「いや……ただ、どこかで聞いた事があるような……」

「他に、何か分かる事はあるか?」
「そうですね……二人とも何か妙なガンレットと言うか機械みたいなのを腕に取り付けてました」
「ガントレット……フリップスペル『カタパルトランチャー』用の器具か?」
「いえ、シュート装置って感じではありませんでした。何に使うものなのかまでは……」
「コンビ組んだ証の共有ファッション的な奴かな……?」
「それにしてはちょっと嵩張ってるんですよね。わざわざファッションで身に付けるには大袈裟すぎると言うか」
「あ、気になる事と言えば」
 ガクシャが口を開く。
「なんだ?」
「上手く言えないんですが、彼らが使ってた機体はガンナー機とフライホイール駆動機で、とても破壊力に優れてる機体とは言えませんでした。なのに、何と言うか……的確に僕らの機体の壊れやすい弱点を狙った攻撃をしてきたような気がして……」
「ちょっと待て、ガンナー機とフライホイール機でここまで皆の機体を破壊したのか!?」
「あ、動画ならここに」
 スナ夫が撮影したバトル動画のデータを提供し、バン達に観せる。
 主に映っているのは機体だけなのでフリッカーの姿は分からない。

「……マジか。感心する事じゃねぇが、この機能でよく破壊出来るな……」
「彼の言うように、的確に相手フリックスの壊れやすい部分を見定め、破損するように攻撃を加えているようだな。……だが、一般のフリッカーにできるような芸当ではない」
 伊江羅博士が分析する。
「芸当と言えば……奴らの戦術、どこか妙だったんですよね。フリッカーの実力に見合わない的確さと言うか……」
「どう言う事だ?」
「例えて言うなら、見た目は子供、頭脳は大人、みたいな違和感ですかね」
「『名探偵バカヤロウ』かよ……」

 『名探偵バカヤロウ』とは、平日夕方に放映されている大人気長寿アニメである。
 『バカヤロウ』が口癖の名探偵が、とある事情で子供の姿に変えられ、元の姿に戻るために宇宙に散らばった願い玉を求めて大冒険すると言った冒険活劇だ。

「子供のいたずらにしては度が過ぎてますね」
「下手したら通報案件だぞ、これ」
「とは言え、これだけだとただバトルをしてその結果機体が壊れたに過ぎない……子供の喧嘩として処理されるのがオチだな」
「だよなぁ、となるとあからさまに怪しいガントレットから紐付けてなんか分かれば……」
 バン達が通報も視野に入れて大人の会話をし始める中、モブ太が悲しげに呟いた。

「僕の機体、直るかな……」
 それを聞いて、達斗が声を上げた。
「そうだ、バンさんに伊江羅博士!皆の機体を修理してあげてください!お願いします!」
「犯人の情報より、まずはそれだよな。俺からもお願いします!」

「「「お願いします!!」」」

 翔也が頭を下げると他の皆も頭を下げると、バンは困ったように後頭部を掻いた。
「……本来ならこう言うサービスはやってないんだが、状況が状況だしな。良いよな、伊江羅博士?」
「まぁ、このくらいなら良いだろう」
 バンと伊江羅の言葉を聞いて皆顔を上げる。
「おっしゃ!段田ラボの総力を結集して皆の機体を直してやるぜ!!」

「「「ありがとうございます!!」」」

 こうして、壊された皆の機体の修理が始まった。

 まずはガクシャの機体からだ。
「えっと、ガクシャって言ったっけ?お前の機体は市販のリプレイスシステムだからすぐ直せそうだな。ジョイント部分はウチに予備がある」
 リプレイスシステムはユニット交換出来るので壊れた部分を交換すれば修理は簡単だ。
「ありがとうございます!ある程度は自分でやりますから他の子の機体をお願いします」
「分かった」

 ガクシャに言われムォ〜ちゃんの機体の修理に取り掛かる。
「ムォ〜ちゃんの機体は……天然の貝殻使ってんのか……ここが破損してなくて良かったな。これなら接続部分を修復すれば良さそうだ」
「良かった……ありがとうございます」

 次にシチベエの機体だ。
「シチベエの機体は社外品のミキシングだから、さすがに在庫はないな。壊れたパーツと似たようなのを複製してツギハギになっちまうけど、良いか?」
「全然全然!!あのバンさんに直してもらえるなんて、むしろ進化っすよ!!」

 モブ太のグランドパンツァーに取り掛かる。
「おっ、これはグランドパンツァーか。んー、確か剛志とレイジがウチに来た時のデータがあったよな……」
「フッ、ある意味敵に塩を送る事になるぞ?」
 グランドパンツァーは神位継承戦に置いてライバルの剛志とレイジが頒布している機体だ。言ってみれば、任天○にプレス○の修理を依頼するようなもの。
 バンにとっては僅かながら不利益な行動になるが……。
「うっせ、それとこれとは別問題だろ」
「て、敵なんですか、この機体……?」
 モブ太が不安げに聞いてくる。
「あー、気にすんな気にすんな!伊江羅博士も変な事言うなよ」
「冗談だ、悪かった」

 スナ夫の機体はトオルが修理を担当していた。
「久しぶりのフリックス工作、腕が鳴るなぁ。僕もかつてはグレートフリックスカップに出場してたからね」
「頼りにしてるよ、おじさん!」
「それにしても、スナ夫の親戚のおじさんがバンさんの商談相手だったなんて、驚きだなぁ」
「世間は狭いものさ、ベイベー」
「そっか、だからメイたんのライブチケットをバンさんが持ってたのか。確か、琴井コンツェルンがプロデュースしてるってスナ夫言ってたもんな」
「おっ、君保科メイのファンなのかい?」
「はい!そりゃもうめっちゃ推しですよ!!ライブ何回も行ってるし、CDも全曲揃えてますよ!」
「それは嬉しいねぇ。今後ともウチのメイをよろしくお願いしますよ」

 こんな感じで和気藹々としながら順調に皆の機体が修理されていった……。

 …。
 ……。

「うっし!こんなもんかな!」
 破損していた機体は全てピカピカの新品同様に修理された。
「おお!すっげぇ!!さっすがぁ!!」
「本当にありがとうございました!!」
「修理費は後日色を付けてお支払いしますよ、ベイベー」
 スナ夫の言葉にバンは笑う。
「金の事は気にすんな。でも、ここまでしてやったんだ。タダで帰れるとは思うなよ?」
「え、タダなのかタダじゃないのかどっちですか……?」
 困惑するモブ太に対して、バンはニヤッとして皆の前にヴァーテックスとエイペックスの量産型をズラッと並べた。

「おわっ、なんだこれ!?」
「ヴァーテックスとエイペックスに似てる……!」
「量産したんですか?」
 ずらっと並べられたこれらを見て、子供達は各々賑やかに反応する。
「あぁ!ようやく計画の第一歩って感じだ!」
「そっか。そう言えばヴァーテックスとエイペックス作ったのって市販化するためだったんだよね」
「そう言う事だ。っつってもまだ完成じゃねぇんだ。いくつかパターン作って、テストする必要があってな。んで、それを翔也と達斗にお願いしようと思ってたんだが……」
 バンはこの場にいる子供らを順に眺める。
「なるほど。確かにこの状況は渡に船ですね」
 翔也がバンの意図を察して苦笑する。
「え、どゆこと?」
「つまり、機体を修理してもらったお礼として僕らでこの量産機のテストプレイをするって事だよ、シチベエくん」
「マジか!それって一石二鳥じゃん!やるやる!!」
「面白そうだね!」
「タダじゃないってそう言う事かぁ!」
 皆乗り気のようだ。

「おし、決まりだな。んじゃあ、いろんなバトルシーンが見たいから時短でHP3点制の通常アクティブでガンガンやろうぜ!」
「通常アクティブ?」
 達斗が首を傾げる。
「あー、今の子には通じないのか……。俺がガキの頃の主流競技でな、HP3でビートヒットは無し、マインヒットと自滅が1ダメージでフリップアウトは2ダメージのルールだ」
「へぇ、昔はそんなに単純だったんだ……」
「アマチュアもすっかり上級アクティブが主流になったからなぁ。時の流れを感じるぜ」

 そんな風にバンは憂いたが、時間がもったいないのでさっさと練習場に移動してサクサクとバトルを進める事にする。

 まずは量産ヴァーテックスのバージョン違い同士でモブ太とシチベエがバトルだ。

「へぇ、こいつが神田の使ってるヴァーテックスの量産型かぁ」
「神田君、何かコツってある?」
「うん、ヴァーテックスのシュートのコツは」
 二人に聞かれ、達斗がアドバイスしようとすると、バンに止められた。
「達斗、そう言うのは無しだ。今回は純粋な使用感を見たいからさ」
「あ、そっか、確かに」
 達斗は納得して口を閉じた。

 そして、バトル開始。
「アクティブシュート!」
 バキィ!
 モブ太の量産ヴァーテックスがシチベエの量産ヴァーテックスを弾き飛ばして先手を取る。
「す、すごいパワーだ」
「直進性やば……!」
 モブ太のターン。
「いけっー!」
 ガッ!
 フリップアウトを狙ってシュートを放ったモブ太だが、量産ヴァーテックスはフィールドのギャップに躓いてしまった。
「あっ!」
「どうしたどうした!!」
 シチベエのターン。
 バキィィィ!!
 シチベエは強力なストレートシュートを放ってモブ太をフリップアウトさせた。
 仕切り直しアクティブ。
「3.2.1.アクティブシュート!!」
 ガキンッ!
 再びモブ太の先手。
「今度は慎重に撃たなきゃ……!」
 バシュッ!!
 慎重なシュート。しかしそれゆえにパワーが乗らずマインヒットするにとどまった。
「マインヒットは出来たけど……!」
「反撃で俺の勝ちだな!」
 マインヒットしたと言う事は近くにマインがあると言う事。つまり、シチベエは返しのターンで楽々マインヒットを決められるのだ。

「ふむ、なるほどな……」
「モブ太の方は達斗のヴァーテックスとほとんど同じギミック積んでるんだが、アクティブシュートでは打ち勝てても通常時の扱いが難しいみたいだな。反対にシチベエが使ったギミックをオミットバージョンの方が総合的には扱いやすいみたいだな」
 バトル内容を見ながらその結果からさまざまな分析をしつつ、次々とバトルをさせていく。

「いけぇ!量産エイペックスー!」
 量産エイペックスを使うムォ〜ちゃんとガクシャのバトルだ。
「あぁ、あんまりスピンしないなぁ……!」
 ムォ〜ちゃんの量産エイペックスはギミックも形状も殆ど本家エイペックスと同じものが使われている。
「やっぱあのギミックは翔也のシュート力あってのものか」
 バンはムォ〜ちゃんのシュートからそう分析する。
「うーん、スピン特化機体は使いづらいなぁ……でも立ち位置を考えれば」
 バシュッ!
 ガクシャは上手くスピンで反射させてマインヒットを決めた。

 次はムォ〜ちゃんが量産ヴァーテックス、スナ夫が量産エイペックスを使用。

「いけぇ!!」
 バキィィィ!!
 ムォ〜ちゃんがスナ夫の量産エイペックスをフリップアウトさせる。
「やっぱりこっちの方が使いやすいかも」

「なるほどな……スピン特化機は一般の子供には使いづらいか」

「いや、でもちょっと考えて撃てばいけるかも」
 次は量産エイペックスを使うガクシャと量産ヴァーテックスを使うモブ太のバトルだ。

「いけぇ!」
 ガクシャは見事な立ち位置で量産ヴァーテックスへマインヒットを決める。
「やるなぁ……でも!量産ヴァーテックスでフリップアウトしちゃうぞ!!」
「か、躱せ!」
 カッ!
 ガクシャはステップで量産エイペックスをスピンさせて重心をずらした。
「あ、あれぇ!?さっきまでと全然攻撃力が違う」
「直進型のヴァーテックスはしっかり重心捉えないとその威力を発揮しないんだ」
「意外と難しいんだなぁ」

 次のバトルは、シチベエが量産エイペックス、スナ夫が量産ヴァーテックスを使用している。

「よーし!俺はパワースピンでフリップアウト狙うぜぇ!!」
 シュバァァァ!!!
 シチベエ渾身のスピンシュートが量産ヴァーテックスに迫る。
 バキィィィ!!!
 さすがにスピンで機体を弾き飛ばすのは素人には難しいのだが、その衝撃で量産ヴァーテックス上部のパーツが欠けて場外してしまった。
「あっ!」
 シチベエが『やべっ!』と言った顔をする。
「あちゃー、やっぱそこの強度に問題あったか」
「設計の見直しが必要だな」
「す、すんません!まさか俺壊れると思ってなくて……!」
 シチベエは慌ててバンと伊江羅博士に謝った。
「あぁ、良いって良いって!むしろこう言うのが貴重なデータになるんだ。だからドンドン本気でやってくれ!」
「は、はい!」
 バンにそう言われて俄然やる気になったのか、その後も皆でいろんな組み合わせでバトルをした。

「飛べ!エイペックス!」
「いいぞ!ヴァーテックス!!」
「ここでこういうシュートしたらどうなるだろう……?」
「シャーシ変えてみていいですか!?」
「フリップスペルも色々試してみようぜ!」

 子供達はどんどん創意工夫をして自分の戦い方をみつけていく。

「だぁぁ!いつまでも見てるだけじゃ面白くねぇ!タツ、俺達もやろうぜ!本家本元の力を見せつけてやる!」
「うん!」
 辛抱たまらんと言った感じで翔也と達斗もバトルに加わっていった。
「お、おいお前ら!趣旨分かってんのかよ」
「まぁ良いだろう。これもデータとして役立つ」
「それもそうか」
「いい製品になりそうですね、段田さん」
「ええ」

「いっくぜ!エイペックス!!ブライテンオービツト!!」
「ヴァーテックス!フラッシングクエーサー!!」

「だぁぁぁ!さすがにそれには勝てねぇ〜!!」

 そんな感じでわいわいやりながら、量産型のデータ収集は筒がなく進んだ。

 ……。
 …。
 その夜。
 達斗達が帰宅した後、バンと伊江羅博士は研究室に篭ってデータをまとめて設計を進めていた。
「いい感じだな」
「ああ。あいつらのおかげで完成しそうだぜ」
 コンピュータのモニターに映し出されている設計図には『ヴァーテックス600』と『エイペックス600』と言う機体名が書かれていた。

「こいつが流通すりゃ、フリックス界はもっと盛り上がるぜ」
「フッ、そうなると良いがな」
「なるに決まってんだろ。なんたって俺達の汗の結晶なんだからさ」
「そうだな」
 伊江羅はバンの自信満々な言葉に苦笑しながら穏やかに頷き、立ち上がった。
 そして、コーヒーを淹れて一息付く。
「お前も飲むか?」
「おぉ、サンキュ」
 バンは伊江羅から渡されたマグカップを一口啜った。
「はぁー、俺もちょっと一息付くか!」
 バンはカップを置いて大きく伸びをした。
「……」
 伊江羅はなんともなしに窓際に近づいてカーテンを開けた。
 外は闇を月が照らしている。
「……ガントレットに、的確な戦術か」
 伊江羅は何か思う所があるような表情で呟いた。
「やっぱ、気になるよな」
 バンも真剣な表情で伊江羅の隣へ歩み寄る。
「フリックスも小さな界隈ではない。ちょっとした事件くらい、いくらでも起こっている」
「実際そう言うの、何度か解決してきたしな」
「だが、今回は何かが違う」
「あぁ。これから、何が始まろうとしてるんだ……?」
「……」

 不安げに佇む二人を月明かりは優しく照らしていた。

 

    つづく

 

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