第7話「目覚め」
レイガとの戦いに勝利したダンガは、レイガから紫のアーマーを譲り受ける。
播磨博士は早速研究所でそのアーマーのデータ分析をするのだった。
そして、翌日。
播磨、アキラ、ダンガは研修室へ集まり、播磨の研究結果を聞いていた。
播磨「間違いない、これはキメラシステムだ」
アキラ「じゃあ、お父さんが作ったもの……?」
播磨「あぁ、二つしかアーマーを取り付けられないところから、恐らくプロトタイプだろう」
アキラ「たった二つのアーマーでアレだけのパワーを……!」
ダンガ「面白い。こいつがあればもっと美味いバトルが食えるわけだ」
ダンガは播磨からアーマーを奪い、ニヤリと笑う。
播磨「待ちたまえダンガ君。まだキメラビーストとのマッチングは完璧ではない」
ダンガ「ふん、そんなもの戦いながらやればいい」
播磨「はぁ……」
アキラ「それよりお父さん。結局、あのレイガってフリッカーはなんだったんだろう?ダンガ君の事を兄弟って言ってたけど」
アキラは昨日のバトルを思い出しながら言った。
播磨「……心当たりはある。あれはいつ頃だったか……そう、丁度氷刃カイヤ君がフロンティア所属フリッカーになった頃だ。カイヤ君の練習相手としてふさわしいフリックスとしてキメラビーストの開発プロジェクトがスタートしたのは、アキラも知ってるだろう?」
アキラ「うん」
播磨「たった一機であらゆる状況に対応できるキメラシステムは練習相手にうってつけだった。しかし、高すぎる汎用性故に扱えるフリッカーは限られていた。そんな時、ある青年が共同プロジェクトの話を持ちかけてきた。確か、潁川エンタープライズの元副社長だったか……」
アキラ「潁川エンタープライズ……まさかそれが」
播磨「そう、どんなフリックスも扱える存在。人造フリッカーだ」
アキラ「人造フリッカー……」
ダンガ「……」
播磨「さすがの白井所長も、倫理的なリスクを感じて計画を途中で放棄したが……私は、自分の生み出した機体がそこまでして練習相手として消費されてしまう事に虚しさを覚えてね、半ば逃亡する形で研究所を退職した」
アキラ「もしかして、その人造フリッカーって……」
播磨「レイガ君、そしてダンガ君の正体だ」
アキラ「そんなっ!」
……。
…。
その頃、白井研究所【フロンティア】では、白井が先日撮影したダンガVSレイガの映像をカイヤへ見せていた。
白井「どう思う、カイヤ?」
カイヤ「随分と懐かしいプロジェクトですね。確かあれは破棄したはずでは?」
白井「何のことだい?そんなプロジェクトは我がラボのデータには存在しない」
カイヤ「そうですか……」
白井「私が言っているのは彼らの事じゃない。彼らのバトルだ」
カイヤ「このバトルに注目すべき点があると?」
白井「カマトトぶるのはよしたまえ。キメラビーストは元々君の練習相手足り得る機体として開発されたものだ。その性能を完璧以上に使いこなす二人のバトル、そのバトルの勝者こそ君の練習相手に相応しいと思わないか?いや、それどころか……実際に戦えば君が彼らの練習相手になってしまうかもしれない」
白井が挑発すると、カイヤはフッと笑った。
カイヤ「へぇ、白井さんでも冗談を言う事があるんですね」
白井「冗談だと、思うかい?」
何かを試すような表情をする白井。その瞳は何を思っているのか計りかねる。
カイヤ「……良いでしょう。たまには白井さんの冗談に乗ってみましょう」
……。
…。
そして数日後。
富津岬の公園でカイヤとダンガが対峙していた。
アキラと播磨もその様子を心配そうに見つめている。
カイヤ「やぁ、よく来てくれたね」
ダンガ「まさかお前が俺に食われにくるとはな」
カイヤ「フッ、何の事だい?僕はただ君が僕の命令に従って来たか、テストにしに来ただけさ」
ダンガ「なんでもいい、とっとと始めるぞ!」
カイヤ「君に御託は不要だったね。いいだろう」
ダンガとカイヤが機体を構える。
アキラが間に立ってスタートの合図をする。
アキラ「3.2.1.アクティブシュート!!」
ダンガ「やれぇ!キメラビーストォ!!」
カイヤ「薙ぎ払え!エクスカリバー・ゼノ!!」
二機の激突はほぼ互角だったが、僅かにカイヤが勝る。
播磨「さすがは氷刃カイヤ……!」
ダンガ「ちっ」
カイヤ「へぇ、前よりは出来るじゃないか。でも、これはどうかな!」
ガッ!!
エクスカリバーの鋭い剣先による刺突!
キメラビーストは堪らず吹っ飛んだ。
アキラ「ダンガ君!!」
ダンガ「軽い前菜だ!」
ダンガはすぐにキメラビーストの体勢を立て直し、センターアーマーを変更しつつ反撃する。
ガッ!
その攻撃をカイヤは難なく受け止めた。
カイヤ「そんなものかい?もっと見せてみなよ、僕の相手をするに相応しい力を!!」
バキィィィ!!
接近して来たキメラビーストへカイヤはエクスカリバーを薙ぎ払うようにシュートして弾き飛ばす。
ダンガ「良いだろう」
ダンガはリアアーマーも付け替える。
全身が赤く染まった、イーピードルコンボだ。
カイヤ「それがあの実験体を倒した力か」
ダンガ「はぁぁぁぁ!ビーストバーン!!!」
掬い上げ+スピナーを使っての超火力攻撃!これにはさすがのエクスカリバーも大打撃を受けるのだが……。
アキラ「やった!」
播磨「い、いや……!」
エクスカリバーはギリギリの所で耐えていた。
カイヤ「今のは僕も危なかったよ」
ダンガ「受け止めただと……!」
カイヤ「どうやら、認めざるを得ないようだ。君は僕の……練習相手に相応しいと言う事をね!氷刃流剣技、飛燕斬!!」
バキィィィ!!
今度はカイヤの必殺技が炸裂!キメラビーストは大ダメージを受けしまう。
ダンガ「ちぃぃ!」
カイヤ「へぇ、よく耐えたね。上出来だ」
アキラ「ダ、ダンガ君……!」
播磨「き、規格外だ……氷刃カイヤ、まさかこれほどの使い手とは……!白井さんが手塩にかけるはずだ」
ダンガ「あぁ……いい感じだ。やはりお前のバトルは美味い!!」
しかしダンガの目は死んでいなかった。それどころか美味しい料理を前にした子供のように輝いている。
ダンガ「こいつを使ってみるか」
ダンガは懐から紫のアーマーを取り出してキメラビーストに取り付ける。
播磨「はっ、ダメだダンガくん!そのアーマーはプロトタイプ用で、キメラビーストには合わない!」
ダンガ「黙れ!毒かどうかは食ってから決める!!」
カイヤ「へぇ、それがあの実験体から譲り受けたパーツか。面白い、是非見せてよ」
余裕の現れか、カイヤが待ってくれたおかげでダンガは難なく紫アーマーを取り付ける事ができた。
ダンガ「キメラビースト・プテラトリケラ!!」
紫の恐竜を纏ったコンボでシュートするダンガ。
しかし、想像していたよりもはるかに弱く、エクスカリバーを僅かに動かしただけだった。
ダンガ「なに?」
アキラ「そんな……!」
播磨「やはり、アーマー二つだけでは安定しないか……!」
アキラ「だったら、何か適当なリアアーマーを!」
播磨「いや、プロトキメラ用のアーマーに合うアーマーはキメラビーストには無い……!」
カイヤ「なんだ、もう終わりかい?ならそろそろフィニッシュだ」
ガッ!!
エクスカリバーの刺突。しかし、先程と違って大した攻撃にはならなかった。
カイヤ「むっ」
アキラ「助かった、の?」
播磨「これまでのキメラビーストよりも頑強なボディ、攻撃力は出なくとも防御力は上がっていたようだ」
カイヤ「首の皮一枚繋がったね。でも攻撃出来ないならジワジワ攻め落とすだけだ」
ダンガ「ちっ!」
絶体絶命のピンチ。その時、アキラが何かを思いついたように叫ぶ。
アキラ「そうだ!ダンガ君!シーラカンスリアを付けて!」
ダンガ「なに?」
播磨「どう言う事だ、アキラ?」
アキラ「紫のアーマーは恐竜、恐竜は古代種……同じ古代種のシーラカンスなら相性がいいかも!」
播磨「そうか!確かに、理に適ってるな」
適ってるのか?
それはともかくとして、ダンガはプテラトリケラコンボにシーラカンスリアを取り付けた。
アキラ「やった!取り付けられた!」
播磨「いや、しかし……!」
カイヤ「へぇ、それでどうシュートするんだい?」
シーラカンスリアは掴みやすい一本のテールが伸びたシュートポイントが特徴だ
それによってアックススラッシュをするのが本来の使い方だが、プテラフロントではアックススラッシュをする意味がない。
播磨「カイヤ君の言う通り、本来ならアックススラッシュ専用のリアアーマーではカチ上げバネギミックの紫アーマーと相性が悪い……!」
アキラ「ダンガ君……!」
ダンガ「ふん、ごちゃごちゃと食事マナーにうるさい奴らだ」
ダンガは悪態をつきながらシーラカンスリアアーマーを掴んだ。
そのまま振り回すのだろうか?
ダンガ「いいか、飯ってのはな……どんな食い方しようが、美味けりゃいいんだよ!!」
バッ!!
ダンガはリアアーマーを掴んだまま前へ突き出してエクスカリバーへぶつけ、その勢いでバネギミックを発動させてぶっ飛ばした!
ダンガ「ビーストイクスプロージョン!!!」
バーーーーン!!!
その一撃はまさに爆発的!さすがにこれには耐えきれず、カイヤは撃沈。ダンガの勝利だ!
アキラ「や、やったぁ!ダンガ君が勝ったぁ!!」
播磨「あぁ!大したものだ!!」
アキラと播磨博士がダンガの下へ駆け寄り歓喜する。
カイヤは無言でエクスカリバーを拾い、その様子を眺め思案していた。
カイヤ(僕が、負けた……これが、彼の力……?いや、僕と彼とでは明確な力の差があったはず。だと言うのに、バトル中にそれが覆された……それを実現させたのが、キメラシステム……!)
カイヤの思案など知る由もないダンガは、無言で見つめてくるカイヤへ堂々と勝利宣言した。
ダンガ「美味かったぞ、お前とのバトル!」
カイヤ「っ!」
その一言に、カイヤの表情が一瞬歪む。
ベキィ……!
カイヤの手に握られていたエクスカリバー・ゼノが圧力によってひしゃげる音が聞こえた。
カイヤ「……次に糧になるのは、君の方だ」
カイヤはすぐに表情を戻し、極めて平静にそう呟いた後に踵を返して去って行った。
つづく