shoot8「不穏」
行方不明になった椎奈、カードを賭けたバトルロイヤルのようなフリックスバトル。
妙な夢から現れた三日月パーツを手に入れてから、千春の周りで何かが起きている。
「椎奈……どこいっちゃったんだろう」
アリスとのバトルから翌日。
千春は椎奈が未だに学校を休んでいる事を確認すると仮病で早退し、椎奈を探すために奔走していた。
「おじさんとおばさんの会社の場所も、何も知らないからなぁ」
閑散とした人気の少ない住宅地を歩く。
一応椎奈の自宅の近所を散策しているのだが、いかにも高級取りが住みそうな一軒家が立ち並ぶエリアになっている。
しばらく歩いていると、ポケットに入れていたカードが淡く光だした。
「っ!」
視線を感じて振り向くと、そこには同じように光るカードを持っている少女が立っていた。
少女の髪はボサボサで頬がコケていて、目が血走っている。
「やっと見つけた……!」
「っ!カードのフリッカー……!」
「私はアヤメ。あんた、カードは何枚持ってる?」
「ち、千春……え、と……5枚、だけど……」
「って事は、それなりに勝ってるのね……」
アヤメは手持ちにある2枚のカードを見ながら思案し、そして告げる。
「じゃあ、カード2枚賭けてバトルよ!」
「っ、ま、待って!あなたの手持ちカードの枚数って……!」
「2枚よ!悪い!?」
「なら、1枚で良いよ。ここで負けたら終わりでしょ?」
「舐めるな!私は、ここで成り上がらないといけないんだ!!」
問答無用と言った感じでバトルが始まる。
近くのフィールドがある人気のないエリアまで移動し、バトル開始。
「いけっ!ルナ=ルチリア!!」
「FT-7!!」
アヤメの使う機体は小型の戦車を模したような機体だ。パーツの一部に金属が使われている。
ガキン!!
2機の激しいぶつかり合い。
しかし、アヤメのシュートにはパワーが無く、戦況は千春が優位に進み……。
「ルナスクレイパー!!」
必殺のスピンシュートで三日月パーツを相手機体に引っ掛けて吹っ飛ばした。
「あぁ……!」
本来ルナルチはフリップアウトには向かないはずなのだが、それだけ相手の力が弱っていたのだろう。
「くっ、持っていけ……!」
アヤメは悔しそうに顔を歪めながら残り2枚のカードを差し出した。
しかし、千春はそこから1枚だけ抜き取る。
「っ!」
「言ったでしょ、一枚で良いって。それより、あなた休んだ方がいいんじゃ」
「う、うるさい!」
ダッ!
情けをかけられたのが悔しいのか、アヤメは踵を返して駆け出していった。
「……」
アリスとの戦いは楽しかったが、この殺伐としたものが本来のカードを賭けた戦いなのかもしれない。
千春は少し寂しくなるのだった。
「きゃあああああ!!!」
その時、少し離れた場所から甲高い悲鳴が聞こえた。
「まさか、他でもバトルが!?」
千春は駆け出してその場所に向かう。
案の定、別の場所のフィールドで二人の少女が戦っていた。
黒髪の少女が茶髪の少女に負けて跪いている。
「さぁ、約束よ!カードを二枚渡しなさい」
「そんなっ!あたしは、一枚しか賭けたくないって言ったのに!!」
「負けたものに決める権利なんてないわよ。さぁ!」
茶髪の少女は強引にカードを2枚奪う。
「あ、そ、そんな、ああああああ!!!」
カードを奪われた黒髪少女の体から気泡が立ち上がり、徐々に全身の力が抜けている。
「あ、あああ……」
ガッ!
少女の身体は、まるでスイッチが切れたロボットのように脱力し、倒れ込んだ。
「っ、大丈夫!!」
慌てて駆け寄る千春だが、少女に反応はない。
「なに?あなたもカード所持者の癖にルールも知らないの?このカードは生体エネルギーを具現化したもの、無くなればこうなるに決まってるでしょ」
「し、死んでるの……?」
「昏睡状態になってるだけよ。目覚めるかどうかは知らないけどね」
「そんな……あの子は、助けを求めてたのに……あなたはそれを知ってて!」
千春はフツフツと湧き上がる怒りに身を任せるように茶髪少女を睨みつけてフリックスを突き出した。
「そういうもんでしょ、これは。私だってやりたくてやってるわけじゃないし。でも、やる気だってんなら受けて立つわよ」
そして、そのままの流れで二人のバトルが始まる。
ガッ、バキィ!
「やれぇ!ユニゾレーターサプレ!」
「っ、強い!!」
金属製の掬い上げパーツにスポンジ素材のサイドパーツ。
攻撃も防御もバランス良く高次元なフリックスだ。
「そんなもの?威勢が良かった割に大した事ないわね」
「このままじゃ、負けちゃう……!」
絶望的な実力差に負けを覚悟する千春。
その時だった。
「いけっ!グラヴィトキシック!!」
どこからかフリックスが飛んできて、フィールドの根元に直撃し、フィールドを揺らした。
「な、なに!?」
それによってユニゾレーターサプレがぐらつく。
「今だ……いっけえええ!!!」
バランスを崩したユニゾレーターサプレへ向かって一か八かの渾身のシュート。
バキィ!!
どうにかフリップアウトに成功し撃沈させられた。
「くっ!こんな邪魔が入るなんて……!」
茶髪少女は悪態を突きながらも千春にカードを二枚渡して去っていった。
「あ、危なかった……でも、今のは……」
千春はフィールドを揺らしたフリックスが飛んできた方向を見る。
そこにはよく見知った金髪の少女が立っていた。
「やっぱり、こう言う事に巻き込まれてるのね。千春」
「ドロシー!!」
つづく