弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第39話「ダントツの絆」

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第39話「ダントツの絆」

 

 トリニティカップ決勝戦の1週間前。
 本来はこの日が決勝戦当日となるはずだったのだが、昨日の雷雨で施設が停電し復旧のために1週間延期したのだ。
 雨はすっかり上がり、外は快晴が広がっている。そんな昼下がり。
 遊尽コーポレーションの運営する特設訓練場では、5人の少年達が待機していた。
 コウ、ソウ、アツシ、ハジメ、ホウセンだ。
 5人は何をするでもなく、時間を確認したり扉を眺めたりしている。

「……あと10分か」
 ソウがボソリと呟く。
「一つ聞いていいか、諸星コウ」
 ソウの呟きに便乗するようにアツシが口を開いた。
「なにかな?」
「お前はソウのやり方に異を唱えていたはずだ。それがなぜ、わざわざ小竜隊と江東館メンバーへ果たし状を出し、このような決闘の場を用意した?」
「……ある意味、君と同じさ。レッドウィングスを蹴ってまでソウのセコンドに着く事を選んだ君とね」
「そうか」
「だが、期待はしない方がいい。ただでさえ今のソウは警戒されている。そんな彼と決勝を前に草バトルを受けるような者がいるかどうか。そうだろう、ホウセン」
 険しい顔で立っているホウセンへ声を掛ける。
「当たり前だ。俺がここにいるのも、こいつがケンタ達に危害を加えない様に見張るためだからな。誰も来なかったら俺が代わりにこいつをぶっ潰す」
「……頼もしい限りだ。父が君を雇ったのは正解だった様だ」
「まぁそんな険悪に考えんなって!ただのフリックスバトルだ、楽しくやろうぜ。万が一が起きても、この俺がついてるんだ」
 ハジメが空気を和ませようと楽観的な口調で言う。
「えぇ。正本クリニック後継者のあなたがいれば、安心ですよ」
「フン……」

 そして、時間が経過する。
「時間か……」
「やはり誰も来ないか」
「まぁそうだろうね。あんな果たし状を受けてノコノコ来るのはよほどの愚か者か、よほどの……」
 その時、プシューと扉が開いて一人の少年が慌ただしく入ってきた。
「……お人好しは、やはり君か」
 入ってきたのはゲンジだった。額に汗を滲ませて肩で息をしている。
「はぁはぁ、間に合った……道に迷っちゃって……あれ、なんでハジメが?ってかホウセン、お前決勝前にこんな挑戦受けるのか!?」
「お前が言うか……」
「俺とホウセンはただのスタッフさ。果たし状を受けたのは今のところゲンジだけだ」
「そ、そっか。やっぱり江東館は来ないのか……」
「そりゃな。ってか、お前はよく来たな?メンバーには話してねぇのか?」
「……ケンタやツバサには止められたんだけどさ。でも、無理言って行かせてもらった。ソウとは決着付けたかったし」
 そう言って、ゲンジはソウを見る。
 ソウは無表情で機体の調整をしており、そこから感情は読めない。

「君なら来ると思っていたよ、東堂ゲンジ。ありがとう」
「あ、あぁ、でもなんでこんな……」
 コウは礼を言いながらゲンジへ近づき、カイザーフェニックスと一枚のスペルプレートを渡した。
「預かっておいてくれ」
「これは」
「……このバトルは僕の贖罪だ。フリックス界の未来ばかりを見て、目の前のフリッカーを……友の望みと向き合おうとしなかった、僕の……」
「友の、望み……」
「東堂ゲンジ、ソウの渇望を受け止めてやって欲しい。頼む」
「……」
 いつもの気取った口調でなく本心からの懇願と感じたゲンジは静かに頷いた。

「覚悟はいいな?」
「あぁ」
 フィールドを挟んでゲンジとソウが対峙する。コウが間に立ってルール説明を始めた。
「文句無しの一本勝負だ。そうだな、どうせ1VS1なら……せっかくだ、上級アクティブバトルでやると言うのはどうだい?」
「上級アクティブバトル?って、確かFICSで採用されてる!?」
「あぁ。今の君達の激突を受け止めるなら、そのくらいの方が良いだろう」
「なんでもいい。始めるぞ」
「お、俺も構わない!」
 両者合意し、機体をセットして構える。
 上級アクティブなので初期HPは15だ。

「3.2.1.アクティブシュート!!」

「いけっ!ライジングドラグナー!!」
「やれっ!デザイアフェニックス!!」
 バシュウウウウウ!!!
 ライジングドラグナーは緩やかにスピンしながら、デザイアフェニックスは真っ直ぐに突き進む。
 カッ!
 フィールド中央で二機が激突した瞬間、ドラグナーはスピンで身を翻し、フェニックスは勢い余ってそのまま場外してしまった。

「アクティブアウトで4ダメージ!デザイアフェニックス残りHP11だ」

「っ!」
「よしっ!」
 渋い顔をするソウとしてやったりなゲンジ。
「……これは」
 それを見て、コウは一瞬何かに気付く。

 機体をセットし直し、仕切り直しだ。
 ソウはフィールド中央よりもゲンジ側へ分離パーツをセットした。
「3.2.1.アクティブシュート!!」

「いけ!ドラグナー!!」
「二度と同じ手が通じると思うな!」
 ガッ!
 フェニックスは分離パーツにぶつかることで自滅を防ぐ。
「飛べ!!」
 ガッ!
 対してドラグナーはドラゴンヘッドを展開して分離パーツに激突、衝撃でヘッドが畳まれる勢いを利用して飛び上がり、先手を取った。
「ドラゴンヘッドにこんな使い方が!?」
「いいぞ、ドラグナー!いっけぇぇぇ!!」
 ゲンジのターン。
 ゲンジは再びドラゴンヘッドを展開してスピンし、マインを弾き飛ばしてフェニックスへぶつけた。

「マインヒット!デザイアフェニックス残りHP8だ」
「……!」
 レフェリーを務めながらも、コウはゲンジの戦い方の正体に確信を得た。
(この戦い方……間違いない、かつての、カイザーフェニックスを使っていた頃のソウと同じ……だが、そんな事をして何になる?)
 その事はソウも察したようで、憎々しげにゲンジを睨み付ける。
「貴様……この期に及んで猿真似とは、どういうつもりだ……!」
「猿真似なんかじゃない!これは俺の力だ!お前との戦いで身に付けた俺の技だ!!」
「詭弁をほざくな!!!」
 おちょくられたと思ったのか、ソウが吠える。しかし、コウはゲンジの発言に説得力を感じていた。
(なるほど、ソウに対する当て擦りかとも思ったが。確かに一見はソウのテクニックだが、根幹は全てドラグナーの機能によってアレンジされている。ソウとのバトルを経験値にし、自分のものにしているのか……この違いに気付けるか、ソウ……?)
 そんなコウの納得がソウに伝わるはずもなく、ソウは嫌味な戦いをしでかしたゲンジを叩き潰そうと力を込める。
「貴様に見せてやろう……本当の己の力と言うものを!!はああああああ!!!!」
 デザイアシステムによってフェニックスの分離パーツが移動し、ドラグナーの後ろに設置される。クレイビングルイネーションの構えだ。
「クレイビングルイネーション!!!」
「ドラゴンクローディフェンス!!!」
 前の試合でケンタがそうしたように、ゲンジもクローディフェンスで耐えようとするが……。

「猿真似はもう通じん!!!」
 バキィィィ!!!
 踏ん張りはしたものの、衝撃でドラゴンヘッドが外れてそれがゲンジの身体にヒットする。

「くっ!」
「欠片ダイレクトヒット!ライジングドラグナー残りHP6!」

「耐えきれなかったか……!」
「これが頂点の力……己の力のみで獲得した真の強さだ!」
 豪語するソウに対し、ゲンジはドラグナーのヘッドを直しながら反論した。
「どこがだ!ソウの本当の力は、本当の戦い方はもっと違ったはずだろ!」
「それは貴様の主観だ。これこそが俺の求めていた本来の力だ!!」
「デザイアシステムに頼ってるだけじゃないか!こんなもの、ソウの力じゃない!」
「なら聞くが、貴様はどうなんだ?」
「っ!?」
 ソウの思わぬ問い返しにゲンジは言葉を詰まらせる。
「仲間だけでなく、敵の力も奪い取り込み、自分のものとする……それは純粋な貴様の力と言えるのか?もはや今のライジングドラグナーはかつてのライジングドラグナーではない。本来の力を失くした、デザイアよりも歪な存在だ」
「違う!ドラグナーは歪なんかじゃない!!」
 ゲンジは叫びながら機体をセットし、ソウもそれに続いた。
「これは、ダントツを誓い合った仲間やライバル達と共に強くなった、絆の証なんだ!!」
 仕切り直しアクティブ。

「3.2.1.アクティブシュート!!」

「ドラゴントリニティフルバースト!!!」
「デザイアフェニックス!!!」

 カッ、バーーーーーーーーーン!!!
 お互いのパワーシュートが激突し、両者共に場外する。

「お互いに2ダメージ!デザイアフェニックス残りHP6、ライジングドラグナーは残りHP4だ」

「絆の力で何度でも強くなる!それが俺のフリックスだ!!」
「絆だと……!」
「俺はっ!お前とももっと絆を深めたいんだ!カイザーフェニックスを使ってた頃の、本来のお前と!!」
「そんなものは貴様のエゴでしかない!!」
「そうさ!これは俺のエゴ、ただのワガママだ!!」
「なに……?」
 ソウの言葉をただ受け止め、ゲンジは続ける。
「だけど、ソウだってこれまで散々ワガママ放題して来たじゃないか!だからこのバトルは、俺とお前とどっちのワガママが強いかの力比べだ!」
「上等だ……!」

 再び仕切り直しアクティブ。

「3.2.1.アクティブシュート!!」

「「いっけえええええ!!!」」

 渾身の力を込めたシュートが再び激突する。
 バーーーーーーーーーン!!!
「うわああああ!!!」
「くっ!!」
 その凄まじい衝撃波に、ゲンジもソウも吹き飛ばされて倒れる。
「い、っつつ……!」
 ゆっくりと立ち上がりフィールドを確認する。
 今度は二機とも堪え抜き、フィールド中央で密着したまま停止していた。
 進んでいる距離はほぼ同じに見えるが……。

「……僅かだが、デザイアフェニックスの先攻だ!」
 レーザー測定による高精度判定を行い、結果デザイアフェニックスが先攻を取った。
「っ!」
「どうやら、貴様の絆もここまでのようだな!
はああああああ!!!!」

 ソウは力を込めてデザイアシステムを可動させる。しかし……分離パーツが動かない。
「な!?」
 よく見てみると、ドラグナーの翼がフェニックスの分離パーツに挟まっていた。
 このまま分離パーツを動かすとドラグナーの位置が変わってしまうため、動けないのだ。
「これは、あの時の……貴様、まさか……!」
 ソウはミコットとのバトルを思い出し、狼狽する。
「経験値ってのは、自分のバトルじゃなくても得られるんだぜ!」
「舐めるなぁぁぁ!!!」
 ソウは全身全霊力を込めてデザイアシステムをフル可動させる。
「ぐ、ぐおおおおおおお!!!」
 ツゥ……とソウの鼻から血が垂れる。
「マズい!ソウ、これ以上は!!」
 ハジメが止めに入ろうとした瞬間……。
 プシュウウウウウと気が抜けるような音がしてデザイアフェニックスから煙が漏れた。
「なんだこりゃ?」
「デザイアシステムが、オーバーフローした……!」
 これではもうシステムは使えない。
「ちぃぃぃ!!」
 ブゥン!!
 ソウは苦し紛れに、乗り上げているドラグナーを投げ飛ばすようにスピンシュートを放った。
 飛ばされたドラグナーはマインの上に着地する。

「マインヒット!ライジングドラグナー残りHP1!!」
「くっ!」

(上手い、さすがソウだ。マインヒットしつつ、フルバーストの反撃を喰らわないようにしたか)

「ここからじゃ、トリニティフルバーストは使えない……!」
 マインの上に乗って地面と接地してない状態では掬い上げもグリップも効かないので攻撃力が激減するのだ。

 パキィ……!
 その時、ドラグナーの内部から何かが折れるような音が聞こえた。
「な、なんだ?」
 そして、ドラグナーの翼がゆっくりと広がる。それはまるで不死鳥の翼のように。
「ドラグナー、その姿は……!?」
「衝撃で内部のジョイントが折れて翼が広がったのか!」
 ドラグナーの新たな形態に驚く間も無く、ゲンジの懐から光が漏れる。まるでゲンジボタルの如く。
 ポゥ……!
「これは……お前が導いてくれたのか?」
 光の正体はカイザーフェニックスだった。ドラグナーの翼に共鳴するようにウィングが淡く光っている。
「それがどうした!今更翼を広げた所で、貴様に勝ちはない!!!」
「……セットしたのは、ただのお守りのつもりだったんだけどな」
 そう言いながら、ゲンジは一枚のプレートを取り出す。
「バ、バカな……!」
「なるほど」

「フリップスペル発動!【ブレイズバレット】!!」

 そう、それは、カイザーフェニックスが最も得意としたスペルだった。
 マインの上に乗った状態。そして、今の翼が広がったドラグナーなら余裕でダブルマインを決める事が出来るだろう。

「ソウ、これがお前の力!そして、お前のおかげで強くなれた俺の技だ!!」
「カイザー、フェニックス……!」
 ソウは目の前のドラグナーにカイザーフェニックスをダブらせ震える声で呟いた。
「受けてみろ!ドラゴンウィングエクスプロージョン!!」

 バシュウウウウウ!!!!
 マインの上から放たれたその一撃は、デザイアフェニックスを掠め、その先にあるマインにもヒットした。
「うわあああああああ!!!!」
 ダブルマインヒットで爆炎のエフェクトが上がるとソウは断末魔を上げた。
 まるで本当に魂が焼き尽くされていくかのようだった。

「ブレイズバレット成立!デザイアフェニックス撃沈だ!!」

「……」
 ドサッ!
 力尽きたように、ソウは尻餅をつき倒れそうになる。
「ソウ!」
 後頭部を打たないよう、アツシが急いでソウを支えた。
「ホウセン、担架を持ってくる!手伝ってくれ!!」
「分かってる!」
 ハジメとホウセンは部屋を出て駆けて行った。

「……負けたのか、俺は」
 アツシに支えられながら、ソウは呆然と呟く。
「ソウ……」
「何故だ……デザイアと言う最強の力を手に入れて、頂点を極めたはずの俺が……」
「何故も何もないさ。君が極めた力よりも、東堂ゲンジの絆の力が優っていたと言うだけの事さ。……このバトルにおいてはね」
 コウの言葉に、ソウは自虐するように呟いた。
「そうか……俺の頂点への欲望も……これで……終わりという事か……」
 自分で自分の夢の終わりを宣言する事ほど辛いものはない。
 ソウは悲しげに顔を伏せ、目を閉じた。
「終わりなんかじゃない!!」
 突如聞こえたゲンジの大声に、ソウは目を開ける。
 すると、ゲンジはカイザーフェニックスをソウの胸へ突きつけて続けた。
「まだ本当の決着はついてないだろ!」
「なにを……」
 ソウはカイザーフェニックスを受け取らず聞き返すと、コウが答えた。
「彼の言う通り、本当の戦いは一週間後だ。それまでにしっかり回復する事だね」
「……俺は、負けたんだぞ」
「さっき言っただろう。『このバトルにおいては』とね。次どうなるかは誰にも分からない」
「そうさ!だから俺達は何度でも戦って、何度でも強くなるんだ!!」
「……」
 コウとゲンジの言葉を噛み締め、ソウはゆっくりとカイザーフェニックスに手を伸ばした。

 ……。
 …。
 そして、決勝戦当日。
「うわあ!いっそげいっそげ〜!!!」
 正本クリニックの運営しているトレーニング施設をゲンジ達が慌てて飛び出した。
「ボロボロになったドラグナーの修理、結局ギリギリになっちゃったね」
「ったく、だからウチらはあんな果し状受けるの反対したんや!!」
「だから悪かったって!」
 ゲンジはツバサへ謝ると、すぐに後ろを振り向いて手を上げた。
「ガン、ナガト!修理手伝ってくれてありがとう!」
「おう!しっかり戦ってこいよ!!」
「俺達もすぐに会場に向かう!」
 ソウとの決戦の後、ガンやナガトの協力で正本クリニックの施設を使わせてもらいどうにか修理を間に合わせたのだった。
 しかしそれでも時間ギリギリ。選手は受付などが必要になるから一般の観客よりも早く会場に行かなければ不戦敗になってしまう。

 キキーーー!!
 そんな三人の前に見覚えのある車が止まった。
「うわっ、なんだ!?」
 助手席の窓が開き、リュウジが顔を出す。
「だからこう言うのは早めの手配が大事だって言っただろ?」
 リュウジがドヤ顔すると隣の運転席から黄山先生が叫ぶ。
「早く乗るんじゃ!三人とも!!」
「リュウジ!黄山先生!!」
 三人は促されるまま車に乗り込むんだ。

「飛ばすぞ!雲野、ナビはしっかり頼むぞ!!」
「任せてください」
 ブロロロロロ!!!とエンジンに火が灯り、車が急発進する。
「いやぁ、助かったぁ」
 ほっと一息つく三人に、リュウジは苦笑した。
「まったく、こんな事だろうと思ったぜ」
「でもどうして俺達の事を?」
「昨日久々に小竜隊の練習見に行ったら、お前らがいなかったからな。それで大体の事情を聞いて、まさかと思ったら案の定だ」
「ははは、ウチら一週間学校休んで研究所で缶詰やったからな……」
「ドラグナー修理するのに夢中で連絡するの忘れてたんだ……」
「そんな事だろうと思った。しかし、それだけ没頭して作業出来たんなら、決勝はバッチリだな」
「もちろん!」
「あったり前や!!」
「絶対に優勝するよ!」
 三人はそれぞれの機体を取り出し、リュウジへ力強く宣言した。

 会場の駐車場にたどり着き、三人は車を降りて駆け出す。
「この分なら間に合いそうだな!」
「せやな……って、うわっ!!」
 安心による油断からか、ツバサは小石に躓き蹌踉めく。コケはしなかったが、ワイバーンを落とし道路まで転がってしまった。
「はっ、しもたっ!!」
 慌てて取りに行こうとするが、そこへ大型トラックが迫ってくる……!
「ダメだよ、ツバサちゃん!!」
 ガシッ!
 後ろにいたユウスケがツバサを慌てて引き止める。
「そ、そんな!ワイバーーーーン!!」
 突如路上に現れた小物に大型トラックが気付くはずもなく、無情にも速度を緩める事なく通り過ぎようと……。

「吼えろ、インパクトラオン!!獅子粉砕弾!!」
 その時、向かい側の歩道から聞き覚えのある叫び声が聞こえ、そこから分厚い円盤状の弾が飛んできてワイバーンにヒットし弾き飛ばす。
 飛ばされたワイバーンはツバサの手元にに戻った。
「あ、あいつは……!」
「馬場……!」
 馬場超次郎はインパクトラオンを掲げ、ニヒルに笑った。
「アホ、決勝前に機体を壊す奴があるか!」
「す、すまん!おおきな!」
「礼はいらん!パワーアップした獅子粉砕弾でワイバーンをフリップアウトできるかテストしただけやからな!」
「ほんならテストはバッチリやな!大会終わったらバトルやで!」
「当然や!それよりはよ行け!受付時間始まるで!」
「うぉっと、せやった!!」
 小竜隊は改めて馬場へ頭を下げて駆け出した。

 一方ソウは、会場の受付へ続く通路をアツシとハジメに付き添われながら歩いていた。
「体調の方はどうだ?」
「……問題はない」
 アツシの問いにソウは静かに答える。その声音には覇気がない。
「正本クリニック後継者の威信をかけて、俺が直々に診てやったんだ、身体の方はバッチリなはずだ!」
 ハジメの太鼓判には答えず、ソウは歩みを進める。
 そんなソウの前に三人の少年が現れた。
 レッドウィングスの三人だ。

「お前達……」
「ソウ、俺はお前を許さねぇ。けどな……」
「決勝戦、頑張れよ」
「……貴様達には関係ない」
「あぁ、関係ないね!だから勝手に応援する!」
「……」
「ソウ、アツシ、お前達が何を考えようと俺たちにとってお前達は元チームメイトだ。それはずっと変わらない」
「……なら、勝手にすればいい」
 三人の言葉を受けてもソウは表情を変えず横をすり抜けて歩いていった。
(ソウ、あとは心の問題だな)
 そんなソウの様子を見て、ハジメは思うのだった。

 ……。
 …。
 そして、試合開始時間となりフィールドに小竜隊、南雲ソウ、江東館の三組が集う。

『さぁ!いよいよこの時がやってきた!!トリニティカップ決勝戦!!前代未聞の三つ巴の戦いだ!!フィールドもそれに合わせた特注品、六角形のヘキサフィールド!三ヶ所にスタート位置を用意したぞ!!』

 バトルフリッカーコウのマイクパフォーマンスに会場が湧き立つ。

「勝てよ、小竜隊ー!!」
「ユウスケー!しっかりな!!」
「ツバサちゃん!頑張って!!」
「ぶっちぎれよ!ゲンジ!!」

「江東館の力を見せてやれ!!」
「ケンタ、無理しちゃダメだよ!!」
「ホウセン!負けたら承知しないよ!!」
「サクヤあああああ!!勝てええええ!!!!」

 ギャラリーからそれぞれのチームを応援する声が轟く。
 その中にはかつて戦った懐かしい人物も多数いた。

「心地良い歓声やな」
「うん、ついにここまできたんだね、僕たち」
「あぁ、ここまで来たらやるっきゃない!」
 小竜隊三人は円陣を組み、機体を中央で突き合わせて気合を込めた。
「絶対に優勝するぞ!」

「「「ダントツの誓いに懸けて!!」」」

『さぁ、三者共に準備はOKかな?それでは、運命のバトルを始めるぜ!!』

 三者がスタート位置に機体をセットする。

『3.2.1.アクティブシュート!!!』

「「「いっけええええ!!!」」」
 7体のフリックスが一斉に飛び出す。
「バイティングクロー!!」
「ドラゴングリップインパクト!!」
 その中で、バイフーとドラグナーが飛び抜けた。
 そしてその狙いは、覇気のないシュートをしているカイザーフェニックスだった。

 バキィィィ!!
 ドラグナーとバイフーの挟み撃ちによってカイザーフェニックスは弾き飛ばされてしまい場外する。

『おおっと!敵チームであるはずのゲンジ君とケンタ君のコンビネーションプレイでソウ君のカイザーフェニックスが場外!これで1ダメージだ!しかし、開始早々予想外な展開だ!!』

「やったぁ!」
「一時的な共闘はバトルロイヤルの基本だからな!」

『驚きの作戦で小竜隊と江東館が一歩抜きん出た!そして先攻は江東館だ!!』

「だが、共闘はあくまで一時的」
「バトルロイヤルはバトルロイヤルって事忘れんなよ!」
 サクヤとホウセンが即座にワイバーンとアリエスへ狙いを定める。
「コメットブレイカー!!」
「ブロッケンボンバー!!」
 バキィィィ!!!
 ケラトプスとブロッケンシェルロードの必殺技がワイバーンとアリエスをぶっ飛ばす。

「負けるかっ!」
「耐えろ!アリエス!!」
 アリエスの踏ん張りがワイバーンを支えたおかげでどうにかフリップアウトは耐えたが、その最中に二体ともマインヒットを食らってしまった。
「かーっ、油断も隙もあらへんな!」
「裏切りからの闇討ちもバトルロイヤルの基本だ!」
「兄ちゃん!」
 最後にケンタがシェルロードとケラトプスを守るような位置へバイフーを移動させて江東館のターン終了。
「エゲツないフォーメーションやで!あの防御を突破するのは難しそうやな」
「ツバサちゃん、だったら僕らもフォーメーションでお返しだ!ゲンジ君、あれをやろう!」
「そうだな、分かった!」
 小竜隊のターン。
 ツバサとユウスケはバイフーの目の前へ縦一列になるようにアリエスとワイバーンを移動させた。
「頼むで、ゲンジ!」
「任せろ!」
 ゲンジはドラグナーをランストライデントに変形させてシュートする。

「青龍三連砲弾!!!」
 縦一列になったアリエスとワイバーンをぶっ飛ばし、バイフーへぶつける。

「耐えろ!バイフー!!」
「しまった、これは……!」
 バキィィィ!!!
 バイフーは踏ん張ったものの、その衝撃は後ろにいるケラトプスへと通じて場外させてしまった。
「兄ちゃん!!」

『コメットケラトプスフリップアウト!これでサクヤ君は撃沈だ!』

「ごめん、兄ちゃん」
「いや、お前のせいじゃない。さすがだな、小竜隊。凄い技だ」
「へへへ!大したもんやろ!!」
「これで勝負は五分五分だ!!」
「けっ、すぐに俺がぶっ飛ばしてやるよ!!」

 熱いバトルを繰り広げる小竜隊と江東館。
 その様子を、ソウはスタート位置から眺めていた。自分もバトルに参加しているにも関わらず蚊帳の外といった様子で。

「ソウ、何やってんだよ!」
 不意に声を掛けられ、ソウは我に帰る。
「お前のターンだぜ!」
「……!」

『さぁ、どうしたんだ南雲ソウ君!ターンが来たにも関わらず動きを見せません!これは何かの作戦なのか!?』

「なんだ、ビビっちまったのか?とっとと来いよ!!」
「……」
 ソウは無言でカイザーフェニックスを眺める。

「ソウー!しっかりしろー!!」
「今のお前なら勝てる!」
「自信を持っていけー!!」

 そんな時不意に聞こえる声援。見上げると、そこには観戦席から声を張り上げるレッドウィングスの三人が見えた。
「……カイザーフェニックス」
 その声援を噛み締め、改めてカイザーフェニックスに目を向ける。
「こんなものは、俺の望んだバトルではない。だが……」
 ソウは、ゆっくりとフェニックスの翼を広げた。
「みすみす負けるつもりもない!!」
 ソウの目に精彩が戻り、機体を構える。

「ヴァリアブルエクスプロージョン!!」
 バシュ!バーーーン!!!
 大きく翼を広げたフェニックスが機体の密集しているエリアへ突っ込み、一気にマインヒットした。

『出たああああ!!ソウ君お得意の変形翼を利用した多段マインヒット!!ゲンジ君以外の四人にマインヒットが決まった!これによって、ツバサ君とユウスケ君は撃沈!ホウセン君とケンタ君は残りHP1だ!!』

「だーっ、やられてもうたー!!」
「さすが、カイザーフェニックス……一気に四人もマインヒットを決めるなんて」
「後は頼んだで、ゲンジ!」
「あぁ!任せろ!」

 江東館ターン。
「ちっ、味な真似しやがるぜ」
「でもこの攻撃はチャンスだよ!」
「それもそうだな!」
「いけっ!ディバイトバイフー!!」
 バイフーは穴を通り過ぎた直後の位置で停止し、その場でグリップを効かせた。
「やれっ!シェルロード!!」
 そしてホウセンはカイザーフェニックスへ攻撃し、バイフーへ向かって飛ばした。
 ガッ!バイフーがフェニックスを受け止める事で停止。
 フェニックスの羽が穴の上と重なってしまった。

『おおっと!変形させた事が仇となったか!?穴フリップアウトでソウ君は残りHP3だ!』

「へっ!馬鹿デカくなったおかげで穴に落としやすかったぜ!」
「フッ、2ダメージ程度くれてやる。それよりも自分の心配をするんだな」
「なに?」

「いっけえええ!!ドラグナー!!!」
 バキィ!!
 ドラグナーがシェルロードを攻撃し、バイフーへ向かって飛ばす。
 ガッ!
 バイフーにぶつかった事でシェルロードはバネギミックが発動してフロントパーツが伸び、穴の上にかぶさった。
「なっ!」
 さらに、シェルロードのバネギミックを受けたバイフーは弾き飛ばされて後ろにあったマインに接触。

『これは凄いぞ!ゲンジ君の一撃でホウセン君とケンタ君がダブルKO!これで江東館は脱落だ!!』

「よしっ!上手くいった!!」
「やるやんゲンジ!」
「凄いよゲンジ君!」
 凄技の成功に喜びを分かち合う小竜隊。

 一方の江東館は、これで三位が決定してしまった。
「ちっ、負けちまったか……!」
「でも、凄く楽しかった!」
「そうだな!」
「あとは試合の行方を見守ろう」

 ソウのターン。
 既にマインは散らばっており、ドラグナーの近くには何もない。ここから攻撃を仕掛けるのは難しいが……。

「ワンウィングエクスプロージョン!!」
 カイザーフェニックスを片翼だけ展開してシュート、片翼をドラグナーへ当ててそれを軸にして微妙にカーブしながら進む事で遠くにあるマインにもヒットした。
 勿論、そのマインはしっかりと落として反撃の芽を摘む事も忘れない。
「この状態でマインヒットするのか……やっぱすげぇ……!」
「これが貴様の望みだ。後悔しても遅いぞ」
「後悔なんかしない!こんなに凄いお前だから俺は、バトルの楽しさを知る事が出来たんだ!!!」
 ゲンジのターン。
 ドラグナーのヘッドを展開して構える。フリップアウトを狙うのだろうが、フェニックスとドラグナーの間には距離があり、更にフェニックスはフィールド端に位置しているのでバリケードによる防御がより強く影響する。これを突破するのは難しいだろう。
「この状態で何が出来る?」
「一撃じゃ無理かも知れない……けど!」
 バッ!
 ゲンジは力を込めてシュートした。
「ドラゴンヘッドブラスター!!」
 バシュウウウウウ、ガキンッ!!!
 ドラグナーのメタルヘッドがカイザーフェニックスへぶつかり、バリケードへ押しつける。
「そんなものか!!」
 しかし、しっかりと機体のそばで構えられているバリケードは強固にフェニックスを支えている。
「まだまだ!!!」
 ドラグナーの勢いはまだ尽きない。バリケードに挟み込まれたフェニックスはその圧力で弾かれて、斜め後ろへと弾かれて着地する。
 そして、フェニックスがいなくなった事で、ドラグナーのメタルヘッドが目の前のバリケードにぶつかる。
「メタルヘッドブレイク!!!」
 パキィィィン!!
 直接バリケードへ攻撃を加えた事で、ソウのバリケードが二枚破壊されてしまった。
「なに!?」
「よしっ!」

『なんとなんと!ゲンジ君、惜しくもフリップアウトは失敗したものの、ソウ君のバリケードを二枚破壊!!これは後々有利に働くぞ!!』

「バリケードを破壊だと……!」
「これで次は絶対にフリップアウトを決める!」
 バリケードのない無防備な状態ではフリップアウトする事は容易だろう。
 HPにはまだ余裕があるとは言え、バトルが長引けば確実にソウが不利だ。
「くっ!」
 どうにかこのターンで仕留めたい所だが、マインヒットをしようにもフィールドには狙えそうなマインが無い。
 ただでさえ三つ巴専用で広いフィールドなのに、ソウ自らが反撃されないようにマインを散らして落とした事が仇となってしまった。
 ここからマインヒットできる状況を作るような余裕はないだろう。

(どうする?このターンで決めなければ……だが、マインもフリップホールもない。狙える盤面を作るにもその間にフリップアウトを決められるだけだ。ならバリケードを回収するか?いや、一枚回収したところで焼け石に水。どうすれば……やはり俺は、負けるのか……!)

 奥歯を噛み締めながら、ソウは必死に活路を見出そうとフィールドを睨み付ける。
 その時、ドラグナーのヘッドに視線が吸い込まれた。

 ”メタルヘッドブレイク!!”

「っ!」

 直感だった。
 たった一つだけ、ここから打開し勝利する方法をひらめいてしまった。
(だが、それは……!)
 躊躇い動きが止まるソウ。

『さぁ、作戦を決めあぐねているのか!?ソウ君の動きが止まっている!しかし、30秒経過すれば強制的にターンが終わるぞ!!早く撃たなければ敗北は確実だ!』

(敗北……!)
 その言葉を聞き、ソウは反射的に手を動かしていた。
 考えている場合ではない、拘っている場合ではない。
 ソウはフェニックスのウィングを前方へ展開して構える。
 もはやそこにソウの意志などなく、ただ本能と脊髄のみで動いていた。

『おおっと?これは今までにない変形だぞ!フェニックスのウィングを前方へ展開!!まるでドラグナーのフロントヘッドを彷彿とさせるが、一体どのようなシュートを放つのか!?』

「こ、この変形は……!」
 ゲンジはこれまでと違うソウの様子を警戒し、バリケードを構えた。

「フェニックスウィングブレイク!!!」
 バシュウウウウウ!!!
 ソウの渾身の力の籠ったシュート!
 フェニックスのウィングがドラグナーへ突き刺さり、フィールド端へと運んでいく。
「耐えろ!ドラグナー!!!」
「フェニックス!!!」
 ガッ、ガガガガガ!!!!
 今までにないパワーで押し込んでいくフェニックスにゲンジは焦った。
「なんだ、このパワーは!ほんとにカイザーフェニックスなのか!?」
「うおおおおおお!!!!」
 そして、フェニックスのウィングがドラグナーを掬い上げ、その先のバリケードへ直接触れる。

 パキィィィ!!!
 それによってゲンジのバリケードが破壊。そして、支えがなくなった事で掬い上げられていたドラグナーは重力に負けて場外へ落ちてしまった。

「ド、ドラグナー……!」

『決まったあああああ!!!!土壇場で新たなる技を編み出し、ライジングドラグナーを撃沈!!!トリニティカップ優勝は南雲ソウ君だああああああ!!!!!』

 ドッと歓声が湧き上がる。
 ソウの勝利を喜ぶ声、単純に熱いバトルに興奮する声、小竜隊や江東館の敗北を悔しがる声、戦ったフリッカーの健闘を称える声。
 様々だ。

 その様子を運営席で眺めているコウとキンジロウ。
「コウ、フリックス界の未来は明るいな」
 キンジロウはコウの肩へ手を置き、優しく言った。
「うん、そうだね。父さん」
 コウも素直に答えた。その表情は普段の気取った感じが薄れ、年相応の喜びに満ちていた。

「はぁ、はぁ……!」
 バトルが終わり、いつまでも湧き立っている歓声を聞きながら、ソウは息を乱し呆けていた。

(俺は……勝った……のか……?)

 ほぼ無意識で動いていたため記憶は曖昧だった。
 しかし、徐々にモヤが晴れていくように、ソウは自分の行動を冷静に思い返していく。

(俺は、俺が放った、あの技は……アレは……俺の力では……あいつ、なくしては……!)
 ソウは拳を握りしめ、悔しげにゲンジの方を見る。

 ゲンジは仲間達と悔しさを分かち合いつつも、健闘を称え合っていた。
 そしてゲンジはソウの視線に気付くと、フッと微笑んで歩み寄ってきた。

「ソウ、お前の勝ちだ。やっぱ凄いな、俺じゃまだまだだ」
 友好的に笑いながら負けを認め、ソウの勝利を称える。
 そんなゲンジの笑顔を見たソウは、スゥと肩の力が抜けたかのように穏やかな表情になった。

「このバトルは、俺の負けだ……」
 ソウは静かに言った。
 ゲンジは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐにその意味を察して頷いた。

「そっか。じゃあ、またバトルしようぜ!」
 ニカっと笑って手を差し出す。
「……」
 ソウは、一瞬戸惑いながらもその手を握った。

「ああ」

 今この瞬間、二人のフリッカーにダントツの絆が生まれたのだった。

 

 

   おわり

 

 

 

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