弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第30話「絆を背負って 東堂ゲンジVS南雲ソウ!」

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第30話「絆を背負って 東堂ゲンジVS南雲ソウ!」

 

 赤壁杯決勝戦。

 現在のHP
小竜隊
ライジングドラグナー 3
マイティオーガ 0
シールダーアリエス 3
ソニックユニコーン 2
レヴァントワイバーン 2

レッドウィングス
カイザーフェニックス 3
ワンサイドウルブズ 3
ツーサイドハウンド 3
ファングジャッカル 3
ランパートバッフロー 2

 小竜隊VSレッドウィングスの戦いは序盤から波乱の連続だった。
 これまで個の力で勝ち抜いてきたレッドウィングスが、八文字ジンを中心に連携を取り始めた。そして、小竜隊の要である関ナガトが撃沈。
 絶体絶命の小竜隊!果たして……。

「そんな、ナガト君が……!」
「なんて事や……!」
 ショックを受ける小竜隊だが、時間は容赦なく進む。
 前回アツシのシュートしたウルブズの回転はまだ止まっておらず、ブラックホールディメンションのカウントは続いている。

『さぁ、ナガト君が撃沈してもブラックホールディメンションは続きます!残り4…3.……』

 このままブラックホールディメンションが成立して小竜隊全体にダメージが入ったらますますピンチになる。
「させるかっ!」
 そこへ、ゲンジのシュートしたドラグナーが突っ込んできた。

「うおおおお!!ドラゴンヘッドブラスター!!!」

 バキィ!!
 遠距離をものともせず、ドラグナーが必殺技を放ちながら突っ込み、ウルブズを弾き飛ばして場外させた。

「ぬっ!」
「俺の方こそ、借りを返したぜ!」
「……面白い!」

 GFCではウルブズのブラックホールディメンションを破れなかった事で危機に陥ったが、今回はそれを突破出来た。
 アツシがナガトへ借りを返したのと同時に、ゲンジもまたアツシへ借りを返したのだ。

『さぁ、危機一髪のところをゲンジ君のドラグナーがピンチを脱却!まだまだ勝負は分かりません!!』

「どうにか首の皮は繋がったが、フォーメーションは崩れたか……!」
「すまない皆、迂闊だった」
「気にするなナガト、あとは俺達に任せろ」

 レッドウィングスのターン。
「奴らのフォーメーションは完全に崩れた!畳みかけるぜ!」
 レンが意気込んで機体を構える。
「待て」
 が、ジンがそれを制してバッフローを構えた。
「なんだよ、ジン。奴らはバラバラだ、もう連携はいいだろ!」
「そう言うな。獲物を提供してやる」
「はぁ?」
「しっかり受け止めろよ」
 バシュッ!!
 ジンはスピンシュートしてフィールド端にいるファングジャッカルを狙った。
「な、何考えてんだ!?」
 バウンッ!!
 バッフローのサイドカウルにジャッカルのサイドアームがヒット、スピンとバネバウンドの相乗効果によってジャッカルはフィールド内へと投げ飛ばされるように弾かれた。
 その先にいるのはシールダーアリエスだ。
「そう言う事か」
 ガッ!
 ジャッカルは飛ばされながら牙でアリエスをキャッチする。
「あ、アリエス!」
「こいつぁいいや!捕らえる手間が省けたぜ!」
 レンはボルトをアリエスのスポンジに食い込むほどに締めてしっかりと拘束する。
「喰らえ!スナールキャリードロップ!!」
 ドンッ!!
 再びレンの必殺技が発動。アリエスをフィールド端へ運ぶ。ユウスケは別の場所でバリケードを構えていたので咄嗟に動けない。
「ア、アリエスーー!!!」
「何度もやらせるかい!!」
 ガッ!!
 落とされると思ったアリエスだが、ツバサが素早い対応でバリケードを張ってアリエスを守った。
「ツ、ツバサちゃん……!」
「ナイスだツバサ!!」
「浪速の動体視力、舐めたらアカンで!」
「そうか、反射神経はツバサの十八番だったな」
 どうにかフリップアウトを免れた事で安心する小竜隊へ、サイゾウがニヤリと笑う。
「ならば、これに反応出来るかな?甲賀忍法・影打ち!!」
 シュンッ!
 サイゾウは目にも止まらぬスピードでバウンドをシュートし、ジャッカルのリアを小突いた。
 ガンッ!パリィィン!!
「うっ!」
 思わぬタイミングで襲いかかった衝撃に虚を突かれたツバサは怯んでしまい、バリケードが破壊され、ジャッカルが若干前に出る。
 それによって掴まれていたアリエスはフィールド外へ迫り出されてしまい、そのまま落下してしまった。
「アリエス!!」
 ガッ、ガッ!
 一方でジャッカルはアリエスのスポンジの弾力とバリケードが破壊された衝撃で、後ろにいるハウンドを乗り越えてゴロゴロと後ろへ転がって行った。

『シールダーアリエス、フリップアウト!!レッドウィングス、またも素晴らしいチームプレイです!!』

「す、すまん、守りきれんかった」
「ううん僕の方こそ、ツバサちゃんのバリケードを犠牲しちゃって」
「そういうのは後だ。まだ撃沈されたわけじゃないなら挽回するしかない!」
「せ、せなや」
「う、うん」
「でも、なんで3体も使ってアリエスを集中狙いしたんだ……!」
 このルールでは1ターンで行動出来るのは3体まで。ならば、攻撃を集中させるよりも分散させてより多くの機体へダメージを与えた方が得策なはず。陣形の崩れた小竜隊なら尚の事、レッドウィングスにとってはそれがベストな行動だったはずだ。

「俺のランパートバッフローと同様、お前達の陣形の基部はその機体のようだからな」
 ゲンジの疑問にジンが答えた。
「っ!」
「敵機も味方機も受け止められる大型の防御タイプは陣形を組む上で欠かせない要素だ」
 そう語るジンをレンは意外そうな表情で見上げた。
(ジン、お前そこまで研究してたのか……)

 小竜隊のターン。
「確かにその通りや。せやったら、うちらもそっちの基部を崩すまでや!!」
 バシュッ!
 ツバサはスピンシュートして近くにあったマインを弾いてランパートバッフローを狙った。一撃でも攻撃を加えればエクステンドを解除し、連携を崩せる!しかし……。

 ガッ!
 真っ直ぐにバッフローへ向かっていたマインはバッフローへは命中しなかった。

『ファングジャッカル、マインヒット!残りHP2です!』

「な、なんやて!?」
 ファングジャッカルがステップで移動し、飛んできたマインをキャッチしたのだった。
 まるで、投げたフリスビーをキャッチする犬のようだ。

「レン、お前……」
「勘違いすんな。俺はただ、お前との連携をもっと楽しみたくなっただけだ」
 お約束のツンデレ台詞を吐いたつもりのレンだが、ジンは首を傾げた。
「……ん?」
「多分、勘違いはしていない」
 アツシにツンデレになってない事を指摘され、レンは若干赤くなった。
「っせぇよ」
「ふっ、なんだかんだ、俺達でもチームプレイできるもんだな」
 今までと違い和やかなムードになってきたメンバーを見て、サイゾウは穏やかにつぶやいた。
「……あぁ、かもな」
 その言葉に、これまで後ろで鎮座していたソウが口を開いた。
「ソウ。……悪いな、なんか俺達だけで盛り上がって」
「なに、気にするな。バックには俺が付いている。思う通りにやればいい」
 珍しく優しげな表情で後押しするソウに勇気付けられたのか、レッドウィングスのメンバー達は強く頷いた。

「「「ああ!!」」」

 しかし、メンバー達の視線がソウから離れた瞬間、ソウはフッと冷たい表情になる。

(この程度も突破出来ないようでは、話にならないぞ東堂ゲンジ)

 ソウの視線はメンバーに一切向けられず、ただライジングドラグナーにのみ集中していた。

「なんや、あいつらどんどんチームワーク良くなっとるやん!?」
「個人技主体のチームじゃなかったのか!?」
「さすがは名だたるトップフリッカーを集めたチームだ。経験が薄くても、その気になれば飲み込みは早い」
「くそぉ、このままじゃあいつにたどり着けない……!」
 ゲンジは歯噛みしながら後ろで鎮座しているカイザーフェニックスを睨め付けた。
「まだ試合はこれからだ!気落ちするには早い!!」
「あ、ああ……!」
「分かっとるわ……!」
「……頑張るしか、ないもんね」
 リュウジの鼓舞に対してゲンジ達は気丈に振る舞おうとはしているが、徐々に士気が下がっていくのは目に見えて明らかだった。

「しっかりしろ皆!!」
 そんなゲンジ達へ、ナガトが怒鳴りつけた。
「ナガト……」
「確かに、相手の連携は作戦もテクニックも凄い。だけど俺達のチームワークはそれだけじゃないはずだろ!」
「っ!」
 ナガトに言われ、思い出す。これまでの戦いの日々を……。

 慣れないチームプレイに戸惑いながらも、地道な努力で身に付けてきた事。
 疑心暗鬼で仲違いを起こしかけ、それを乗り越えてより絆を深めた事。
 その絆でそれぞれの夢を追いかけ、少しずつ実現させてきた事。

「ナガトの言う通りだな。俺達の力は、ただの作戦やテクニックだけじゃない!」
「せやったな、大事な事を忘れるとこやったわ」
「あぁ!俺達は、絆の力でここまで戦ってきたんだ!!」
 小竜隊の持つ真の力に気付いたゲンジ達の瞳に精彩が戻り、レッドウィングスを見据える。
 その様子にレッドウィングスも身構える。
「あいつら、士気を取り戻したな」
「撃沈してもチームへ貢献する、か。さすがは神童・ナガトだ」

 その時、ユウスケが盤面を見て気付いた。
「リュウジさん、ワイバーンの位置」
 ユウスケの言葉を全て聞かずともリュウジは察し、頷いた。
「なるほど、さすがだユウスケ。いくぞ、ユニコーン!!」
 バシュッ!!
 リュウジがユニコーンをワイバーンに向けてシュートする。
「え、ウチに向けて!?」
「ガードレールにさせてもらうぞ、ツバサ!」
 ガッ!
 ワイバーンに激突したユニコーンは急激に角度を変え、バウンドで加速しながらハウンドへ接触し、その先にあるマインを弾き飛ばす。
 これでハウンドが残りHP2。

「いけぇドラグナー!!」
 バキィ!!
 更に、まだ勢い余ったユニコーンへドラグナーが突っ込み、弾き飛ばして軌道を変える。
 それによってウルブズと接触。ウルブズはマインヒットで撃沈だ。

『おおっとこれはミラクルショット!!小竜隊の奇跡のような連携でレッドウィングスの2体が一気にマインヒットを受けました!』

「ゲンジ、よくあそこで突っ込もうと思ったな……!」
「いや、なんとなくの直感でさ。リュウジもユウスケのあの一言であんなシュートするなんて凄いぜ」
「あれだけ言われれば十分だ。それよりユウスケの盤面を読む力の方が見事だ」
「ううん、あれはワイバーンの位置が良かったんだよ」
「たまたまやけどな……って、この連携全部偶然って事やん!?」
 せっかくのミラクルなチームプレイが偶然起きたものと言う事に気付いてショックを受けるツバサに、ナガトは言った。
「いや、これが絆って事じゃないか。小手先の技術や机上の作戦なんかじゃ実現出来ない」
「……そうだな。俺達が絆を信じれば」
「どんなミラクルも起き放題ってこっちゃ!」

 レッドウィングスのターン。
「やるな、小竜隊。さすが、ここまでチームプレイで勝ち上がってきただけの事はある」
 サイゾウは素直に感心した。
(絆が運命を引き寄せ、直感へ導いたと言う事か。技術は練習で身に付き、作戦は思考で生み出せる。だが、絆と言うものは一朝一夕では……)
 ジンは心の中で小竜隊の大進撃を脅威に感じていた。
「でも、俺達だってあいつらに負けてねー」
「あぁ。偶然に頼れるほどフリックスバトルは甘くない。俺達にはこれまで培った実力がある!何よりも確かなものだ」
 レンとアツシは強気な発言をする。それを聞いてジンとサイゾウも頷いた。
「そうだな」
「あぁ、分かっている」
 バシュッ!
 ジンはバッフローをフィールド中央へ移動させる。
 そこへ挟み撃ちするようにハウンドとマインを抱えたままのジャッカルがバッフローの両サイドへ突っ込む。
 ギュムッ、パーーン!!
 まるで花火が弾けるようにハウンドとジャッカルが左右別々に弾け飛ぶ。
 ジャッカルはワイバーンへヒット。
 ハウンドは途中マインと接触したのちにユニコーンへヒットした。

『やられたらやり返すと言わんばかりにレッドウィングスも連続マインヒット!凄まじい攻防戦です!!』

「やるな……!」
「だが、これはチャンスだ」
 ナガトが言うとゲンジ達は首を傾げた。
「ゲンジ、あの技を使えばもしかしたら……」
「あ、そうか!」
「なんや知らんけど、協力するで」
 ツバサに言われ、ゲンジは指示を出す。
「リュウジ、ツバサ、ハウンドとジャッカルをバッフローに密着するまで運んでくれ!」
「あぁ、任せろ」
「ガッテンや!」
 ツバサとリュウジはゲンジの指示に従って目のまでにいるハウンドとジャッカルを弾き飛ばしてバッフローの側まで運んだ。

「なんだこいつら?」
「わざわざこちらの防御力を高める陣形を組ませた……?」
「この技は、相手の踏ん張りが強いほど効果があるんだ!」
 ゲンジはドラグナーのヘッドとウィングを変形させる。
「いっけぇぇ!ドラゴンランストライデント!!!」

 バキィィィ!!!
 固まって防御力が上がっている三機へドラグナーが突っ込む。

「堪えろ!ランパートバッフロー!!」
 バッフローの防御力は半端じゃない……はずだった。
 しかし、ドラグナーのヘッドで掬い上げられてグリップ力を失い、更にバッフローのバネ付き板がドラグナーのランスの衝撃を受けて自らの弾力で弾け飛ぶ。
 更に、密着していたハウンドとジャッカルも巻き込まれるように吹っ飛ばされてしまい、三機とも場外してしまった。

「「「なにぃ!?」」」

『これは凄い!ゲンジ君の新必殺技でレッドウィングスの機体を三体同時にフリップアウト!
レッドウィングス有利で進んでいたかに思えたこの試合でしたがここにきて形勢逆転です!!』

「よし、上手く行った!」
「す、凄いんやん!なんや今の技!?」
「ナガトの鬼牙二連斬を参考にしたんだ」
「鬼牙二連斬なら、バッフローの防御力を無視出来て、そのまま他の機体も巻き込めると思ったんだ!」
「なるほど。掬い上げてから弾けば、グリップ力を失う上に自分のバネの反発で飛ばされる。そして、あの巨体が味方を巻き込むと。考えたな」

 これで、レッドウィングスは南雲ソウ一人になってしまった。

「まさか、俺達を一気に撃沈させるパワーを秘めてたとは……」
「すまない、ソウ。力及ばなかった」
「いや、よくやってくれた。上出来だ」

 レッドウィングスのターン。
 南雲ソウがようやく動き出す。

「南雲ソウ、ここまで来たぜ……!」
「どや!これがウチらの絆や!!いくら南雲ソウでも、一人じゃどうにもならんで!!」
 勝ちを確信するゲンジ達だが、ソウは余裕の笑みだ。
「絆の力……大したものだ」
 バッ!
 ソウはカイザーフェニックスの翼を広げてシュートする。
 ガッ!ウイングの先端でマインを弾き、ユニコーンへぶつけ、そのままの勢いでワイバーンへ接触、まだまだ勢いがつきないままアリエスへぶつかって、その反動でフィールド内側へ戻った。

「一撃で消え去るほどには、な」

「え」
「な、なんだ……!」
「何が起きたんや……」
「あそこから連携も無しに、俺達3人を同時にだと……!?」

『なんとなんと!ここにきてようやくシュートした南雲ソウ君ですが、まさかの一撃で小竜隊3機を沈めてしまいました!!これで、南雲ソウ君と東堂ゲンジ君の一騎討ちとなります!!』

「こんな脆弱なものに縋っていては貴様に勝ちはない」
「ソウ、やっぱり強い……!けど、小竜隊の絆だって負けない!」
「その力はもう消え去った。今の貴様は小竜隊ではない」
「違う!例えフィールドにいなくても、俺達は小竜隊として、仲間と戦ってるんだ!」
「その詭弁がいつまで続くか、試してやろう」

 小竜隊のターン。
 ゲンジはランストライデントの形態のままカイザーフェニックスへアタックを仕掛けた。

「いっけぇ!ドラゴンランストライデント!!」
「遅いっ!」
 ソウはステップでこれを回避、勢い余ったドラグナーは壁にぶつかり、壁を破壊するが自滅は免れた。
「あぁ!」
「大した威力だが、当たらなければ無意味だ」

「くっ!ドラゴンクローディフェンス!」
 壁に激突した衝撃でクローディフェンスモードに変形。これなら攻撃を受けても場外は防げるはず。
「関係ないな」
 ソウはカイザーフェニックスの翼を広げて難なくマインヒットを決める。マインヒットの前には防御力は意味がない。
 ドラグナー、残りHP2だ。

「くそぉ……!」

「ゲンジさん……!」
 自分の与えた力が通じなかったのもあり、観戦席でケンタが心配そうにつぶやいた。

「ならこれだ!!」
 ゲンジはヘッドとウイングとクローを畳み、グリップシュートポイントを取り付けた。
「ドラゴングリップインパクト!!」
 パワーではなくスピードを乗せた一撃。これならば回避は出来ないはず。
「甘い」
 ガシュッ!
 そのシュートはフェニックスの複雑なウイングによって衝撃吸収し絡め取られてしまい、そのまま一緒に場外へ落ちた。
 自滅扱いでドラグナーのみ1ダメージ。残りHP1だ。

『これは予想に反して一方的な展開!激しい攻防戦になるかと思われた一騎討ちでしたが、南雲ソウくんがまだ無傷なのに対し、ゲンジくんはあとがない!このまま決着がついてしまうのでしょうか!?』

「そ、そんな……俺が、皆との絆で手に入れた力が……!」
 スタート位置に復帰したドラグナーをソウは容赦なく狙う。
「終わりだ」
 この状況なら、ソウは難なくマインヒットを決めるだろう。そうなれば勝負は決まる。
 バシュッ!
 無慈悲なまでに正確なシュートが放たれる。翼を広げて、風を切り裂きながらフェニックスが迫る。

 風……。

「諦めるな!ゲンジ!!」
 リュウジが叫んだ。その瞬間。

 ビュオオオオオ!!!
 突如、強風が吹いた。
 それはほんの一瞬だった。本来ならば大した影響はないだろう。
 しかし、翼をはためかせながら突き進んでいたフェニックスにとっては致命的。
「むっ!」
 想定していた風を掴み損ねたフェニックスは、風に煽られながら場外してしまった。

『なんとなんとなんと!!これは奇跡でしょうか!?絶体絶命のドラグナーを救ったのは一縷の風!運命の女神は、まだどちらも見捨てていない!!』

「風、が吹いた……」
 ゲンジは何が起こったのか分からず、呆然とする。
「絆が運命を引き寄せた」
 フェニックスを拾いながらソウが言う。
「……とでも考えているとしたら、それは思い違いだ」
「っ!」
「今のは偶然だ。そして偶然は二度続かない」
 場外したフェニックスをスタート位置に戻す。
「俺は……!」
 どうすれば……。
 打つ手が思い付かず、愕然とするゲンジ。

「ゲンジ……!」
 そんなゲンジを小竜隊は不安気に見守る。

「風は君達に吹いているぞ!小竜隊!!」
 そんな時、観戦席からホワイトホースの声援が届いた。

「え?」

「ゲンジさん!!何度も僕を助けてくれたゲンジさんならきっと勝てるよ!!」
 ホワイトホースだけじゃない、江東館、そして今まで戦ってきた他のチームからも声援が届いてきた。

「いけー!小竜隊!!」
「やるのである!!」
「ふちかますんじゃー!!」

 一般観客席からは黄山先生やクラスメイト達も必死で応援している。

「みんな……!」

「よし、俺達もゲンジを応援だ!」
「うん!」
「せやな!チームメイトとして一緒に戦うんや!!」
「あぁ!最後の最後まで、俺達は小竜隊だ!!」

 小竜隊はそれぞれの愛機を掲げて声を揃えた。

「「「ゲンジ!俺達のダントツの誓いを見せてやれえええ!!!」」」

 その声援を受け、ゲンジはドラグナーを見つめた。

「ダントツの、誓い……そうだ、皆で誓い合ったんだ。最初はバラバラだった皆が、一つになって……一つに?」
 思わず出てきたつぶやきから何かを思いつく。
 皆の力を一つにする……そんな、チームなら当たり前に出てくる言葉。
 しかし、さっきの戦いを思い出すと、果たしてそれが本当に出来ていたかと疑問が浮かぶ。
 確かにこれまでの絆で得た力を全て使って出し切った。
 だが、それは一つ一つを小出しにしていただけ。それでは結局バラバラの力。
 絆は一つになってない。

「そうか、そうだったんだ」
 ゲンジは、ヘッド、ウィング、クロー、グリップシュートポイント……今までの力を全て展開したてんこ盛りのような形態にドラグナーを変形させた。

「これが、俺達の絆だ!」
 それを見た瞬間、ソウの口元が釣り上がったがすぐにポーカーフェイスになる。
「何をするかと思えば……そんな事をしても負担が大きくなるだけだ。あの時の二の舞になるぞ?」
「っ!」

 初めてソウと戦った時の事を思い出す。強力なドラグナーの力に耐え切れず、腕を痛めた挙句に無様に敗北したあの戦いを……。

「今の俺は、俺じゃない!小竜隊として、このライジングドラグナーを撃つんだ!!」
 ゲンジはドラグナーを構えた。

(ツバサから貰ったグリップシュートポイント、ケンタに託されたラバークロー、ナガトから教わったランストライデント……この三つの力を一度に撃つなんて、不可能に近いかもしれない)

 下手したら、機体もフリッカーもどちらもその負荷に耐えきれずに壊れてしまう可能性だってある。

(けど、ユウスケのメンテしてくれたボディならきっと耐えられる!リュウジから教わったフォームなら、シュートできる!それに……)

 精悍な表情でソウを見据える。

「それに、今まで出会ったライバル達との戦いが俺に自信をくれたんだ!」
「……」
 そんなゲンジの言葉を受けても、ソウは動じずにバリケードを構えた。

「いくぞ!」
 グッ!とゲンジの手に力が籠る。そして、小竜隊全員で叫んだ。

「「「ライジングドラグナー!ドラゴントリニティフルバースト!!!」」」

 グリップインパクトのスピード、ランストライデントのパワー、クローディフェンスの安定性を兼ね備えた必殺シュートが凄まじい息吹を放ちながらカイザーフェニックスへ迫る。

 ガシィィィ!!!
 これを受け止めるフェニックスだが、ドラグナーの勢いは尽きずに押し込み続ける。

「むっ!」
 ソウの表情が若干歪む。
 それを察したレッドウィングスメンバーは声援をかけた。

「ソウ!負けるな!」
「お前なら耐えられる!」
「レッドウィングスの意地を見せろ!!」

「……」
 その声援を聞き、ソウの表情が若干緩まった。と同時に、ほんの僅かにバリケードの力が弱まる。

「今だ!」

「「「いっけええええ!!!!」」」
 その隙を逃さず、ドラグナーは勢いを増してソウのバリケードを粉砕。
 カイザーフェニックスを場外へ弾き飛ばした。

『き、き、決まりましたああああ!!!小竜隊、奇跡の必殺技で強豪南雲ソウくん率いるレッドウィングスを撃破!!!赤壁杯優勝は、小竜隊に決定です!!!』

「「「やったあああああああ!!!」」」
 優勝決定の瞬間、小竜隊は飛び上がり、歓声が湧き上がる。

 観戦席の他のライバルチーム達もそれを祝福した。

 江東館。
「ゲンジさん、やった!凄い!!やったね、兄ちゃん!!」
「あぁ、大したチームだ。小竜隊」
「まさに、鯉の滝登り!」

 ホワイトホース。
「すっげぇ!リュウジ兄ちゃんのチーム優勝だ!」
「大したもんじゃ!」
「やったな、リュウジ……」

 そして、諸星コウもその様子をスタッフルームから見ていた。
「良い試合だった。このデータは後に必ずフリックス界に貢献する……よくやった、東堂ゲンジ。そして、ソウ……果たして君はこの結果をどう受け止めるのか、楽しみにしていよう」

 殆どのフリッカーが小竜隊優勝の結果に浮かれる中、レッドウィングスもこの結果を苦く噛み締めていた。

「ちっ、負けちまったか。くそぉ」
「フリックスにもまだまだ俺たちの知らない世界があったと言う事だな」
 フェニックスを手に持ったソウがフィールドから離れてメンバー達へ近寄ってきた。
「ソウ、惜しかったな」
「だが、良い試合だった」
「だな。荒削りとはいえ俺たちの連携も結構サマになってたし」
「まっ、たまにはチーム戦も悪くないな」
「レンが一番ノリノリだったがな」
「うるせ」
「またレッドウィングスでエントリーしてもいいかもな」
 皆が口々に感想を言い合う中、ソウがゆっくりと口を開いた。

「ああ、いい経験になった。これまでご苦労だった。俺達、レッドウィングスは……」

 ソウは一呼吸置いて言葉を続けた。

「これで、解散だ」

「「「え!?」」」
 ソウの思わぬ発言にメンバー達は目を見開いた。
「ちょ、ソウ!?」
「待てよ!」
 ソウはメンバー達を無視して踵を返してその場を去っていく。

(……上出来だ、東堂ゲンジ。これで予定通り十分な見積もりが出来た。やはり俺の見立てに間違いはなかった)

 ソウは立ち止まって振り返る。
 その目線の先には仲間達と喜びを分かち合うゲンジの姿があった。

 “これが、俺達の絆だ!”

(あんなものは絆の力などではない、もっと歪で悍ましいものだ。そして、それこそが俺の求める欲望……)

 ソウは再び歩き出した。
 それから暫く、ソウの姿を見たフリッカーはいなかった。

 

    つづく

 

 

CM

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