弾突バトル!フリックス・アレイ FICS 第68話「遊べ!野生児達の雄叫び!!」

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第68話「遊べ!野生児達の雄叫び!!」

 

 ユーロフリッカー騎士団との試合で完敗したダントツウィナーズはより一層練習に身が入っていた。

「いっけぇ!ビートヴィクター!!」
「プロミネンスウェイバー!!」
「ブチかませ!ダークネスディバウア!!」

 激しい衝突音が練習場の中で響き渡る。

「はぁ、はぁ、くそっ!もっとパワーを出せ!ヴィクター!!」
「まだまだこんなもんじゃねぇぞ……!」
 息を乱し、汗だくになりながらも、全くペースを落とさずに練習に励む。
 しかしこれはどう見てもオーバーワークだった。

「ペース配分を考えろ!練習で潰れたら元も子もないぞ!」
 見るに見兼ねた伊江羅博士が声を張り上げて叱責するが聞く耳を持たない。

「ま、まだやれます!」
「こんなんじゃ足りねぇよ……!」
「あぁ!もっと鍛えねぇと、あいつらに勝てねぇ!!」
 1ダメージを与えられずに完敗した事がよほどショックだったのか、バン達はそのショックを紛らわせるために身体に負荷をかけ続けた。

「……」
 伊江羅はため息をつき、無言で部屋の電気を消した。
 部屋は真っ暗になり、練習どころではない。

「うわ、なんだ停電か!?」
「練習は終了だ。もう帰れ」
「な、ふざけんな!」
「それでも監督かよ!」
「お願いです、続けさせてください!」
 伊江羅へ文句を言う一同だが、伊江羅は毅然と言い放った。
「練習がしたいなら、監督に従え!今日のところはこれで終了だ」
「……」
 監督という肩書きを出されてはそれ以上反論はしづらい。
「そして、明日の練習メニューはこれだ」
 そう言いながら、伊江羅は3枚のチケットを取り出した。
「これは」
 受け取ると、それは千葉市動物公園のチケットだった。
「明日の日曜はFICSも休みだ。息抜きにはちょうど良い」
「そんな、遊んでる暇なんかないだろ!!」
「ほぅ、ではお前達が今やっている事はなんだ?」
「へ?なにって、フリックスじゃねぇか」
「……やはり、分かっていないようだ」
「なんだよ!」
「とにかく、次の試合まで時間はある。遊んでこい。監督命令だ。従えないなら、ダントツウィナーズを解散する」
「ぐっ、卑怯な……!」
 チーム存続を人質に取られては仕方ない。
 バン達は伊江羅の言う通りにするしかなかった。

 ……。
 ………。
 次の日曜日。ダントツウィナーズは千葉市動物公園へやって来ていた。

「ったく、何が悲しくてこんなところに。おい、適当に時間潰して練習に戻るぞ」
 ザキはあからさまに不機嫌そうに当たりを見回しながらバン達に言うが……。

「おおお!!すっげえぇぇ!!キリンだキリン!!!なっげええええ!!!」

 バンは昨日の態度とは打って変わって純粋に動物園を楽しんでいた。

「ぬおおお!!サーバルキャットのジャンプだ!!」
 注・現実の千葉市動物公園にはいません。

「カピバラだー!!」

「チンパンジーだーーー!!!」

「くおおおおお!!!ライオンだあああああ!!!!」

 動物見るたびにいちいち興奮して叫ぶ。
「バン、あんまり騒ぐと動物がビックリするよ」
「なんだこいつ……遊んでる暇ないんじゃなかったのか」
「ははは、いやぁ、実際に動物園に入ったらなんか楽しくて。まぁ、どうせ練習出来ないんだし、遊んだ方が得じゃん!」
「現金な奴だ」
「って事で、次はゴリラ見るぞぉぉぉ!!」

 ゴリラの檻の中には、大きなゴリラ1匹と、小さな服を着た猿?が3匹いた。

「なんだ?服着た子供のゴリラ?猿もいるなぁ」

「ウホッウホホッ!」
「ウッキー!キキキ!!」

「ほんとだ。でも、何か違和感が……」
「いや、これ猿じゃなくて、人間じゃねぇか?」
「に、人間〜!?」

 服着た猿と思われた動物は、色黒で小柄の少年たちだった。
 少年たちはゴリラと意思疎通し仲良くバナナなどを食べていた。

「な、なにこれ、何かのアトラクション?」
「ゴリラでふれあいコーナーなんかやるわけねぇだろ」
「そういやこいつら、どこかで見た事あるような」

 口々に話していると、色黒の少年たちはダントツウィナーズの姿を見つけると、目を輝かせて柵の方まで駆け寄って来た。

「ウッキー!ウキキキキ!!」
「ウキッキウキッキウキーーーー!!」
「ウッキー!ウッキー!!」

「何言ってるか分かんねぇよ!」

「おおっと、失礼デース!つい猿語のままで話しかけてしまいマシタ」
「アナタ達はダントツウィナーズデスね!?」
「へっ、俺たちの事知ってるの?」
「ワタシたち、FICSに出場しているアフリカ代表のデザートハンターズ!ワタシはリーダーのマルコデース!」
「えーー、FICS出場者!?」
「それがどうして動物園の檻の中に……アルバイトでもしてるの?」
「アルバイト?ワタシ達はただゴリラと意気投合して一緒に食事してただけデース。皆さんもどうデスカ?」
「え、って事は……」
「当然無許可だろうな……」

 いつも間にかデザートハンターズの後ろに鬼のような形相をした飼育員が立っていた。

「くぉらああああああ!!!!!」

 園内に怒号が鳴り響いた。

 デザートハンターズと、何故かダントツウィナーズもとばっちりを受けてコッテリと絞られたあと、二チームはとぼとぼと園内を歩く。

「うぅ、どうして怒られたのデスカ……ゴリラは友達デース……」
「っていうかなんで俺たちまで巻き添え喰らってんだよ」
「まっ、気を取り直すデース!中に入れなくても動物達は友達!ダントツウィナーズの皆さんも友達デース!!」
「お、おい!」
 デザートハンターズ達はバンの手を引いて動物園を駆けずり回った。

 最初は戸惑っていたが、バンも一緒になってデザートハンターズ達と笑い合う。

「あはははは!お前らおもしれぇ奴だな!!」
「バンこそ、一緒にいて楽しいデス!!」
「トモダチトモダチ!!」

 その様子をリサとザキは感心するとも呆れるともつかない様子で眺めていた。
「もう意気投合してる」
「知能レベルが動物と同じって事だろ」

「へへへ、そういやさ。なんでマルコは千葉市動物公園なんかに来たんだ?」
「それは、今日の午後からFICSの試合があるからデース!」
「へぇ、こんなとこでもやるんだ……って、もうすぐ昼だぞ」
「え?えええええ!!皆急ぐデース!!遅刻してしまいます!!」
 マルコ達は慌てて駆け出して行った。

「なんだかなぁ……」
「だが丁度いい。せっかくだから観戦に行くか」
「そうだね。ライバルチームの試合を観るのも大事だし」
「だな!よーし、頑張れよマルコ!!」
 バン達も会場に向かった。

 ……。
 ………。

『さぁ、ここ千葉市動物公園特設ステージで行われるのはTSインテリジェンスとデザートハンターズの試合だ!!』

「マルコーー!しっかりやれよー!!」
 バンは当然先程仲良くなったマルコを応援する。
「デザートハンターズ、どんなフリッカーなんだろう」
「TSインテリジェンスとは真逆って感じだな」

 デザートハンターズとインテリジェンスが対峙する。
「フリッカーは皆トモダチ!よろしくデース!」
 マルコは友好的に手を差し出す。
「……」
 デイビットはそれを見ながら少し思案している。
「友好には友好を返す方が得と判断……ラジャー」
 小声でそう呟き、無表情のままその手を取った。
「こちらこそ、デザートハンターズ」
 マルコは満足気に笑うが、デイビットからは心からの友好は感じられない。

「……今の握手で正確な体温データが取れた。そこからコンディションデータを算出する」
 またもボソボソと呟き、ゴーグルでコンピュータとやり取りしている。
「メンタルのバフを確認。それに応じて至急作戦をアップデートする。即時確認せよ」
「「ラジャー」」

『そんじゃ、始めるぜ!3.2.1.アクティブシュート!!』

「行くデス!パイライトファング!!」
「ディープクラーケン!!」
「ティラノデストロイヤー!!」

 デザートハンターズの機体はそれぞれ自然派なフリックスと言った感じで。
 高機動で予測不可能な動きでインテリジェンスを翻弄した。

「アンノウンデータ多数。予測が取れません」
「落ち着け。確実にデータを回収し、AIに取り込む。随時アップデートする。そのためにも持久戦に持ち込む」
「「ラジャー」」

『これは面白い展開だ!デザートハンターズの自由な動きにインテリジェンスは完全に翻弄されている!このまま決まってしまうのか!?』

「おっ、マルコの奴すげぇじゃん!これなら勝てるかもな!」
「うん、まさに野生児って感じ」
「頭でっかちなあいつらには相性が悪そうだな」

 しかし、徐々にデザートハンターズの動きにインテリジェンスが反応してくる。

「ムービングアンノウン率5%……敵機の行動パターンほぼトレース完了」
 バトルを長引かせたおかげでデザートハンターズのデータをほぼ入手し、自由な動きに対しても反応出来るようになったのだ。

「ど、どういう事デス!?」
「君達の動きは確かに予測不可能だった。しかし、データを十分に得る事ができれば自由な動きにも法則性を見出す事が可能。それがテクノロジーと言うものだ」

 バチィィィン!!
 序盤とは反対にインテリジェンスがハンターズを翻弄し、マインヒットを決めて勝利した。

『決まったぁ!!見事な逆転劇でインテリジェンスの勝利だ!!!』

「そんな、そんな……それが、テクロジーなんて……」
 さすがにショックを受けたのか、声を震わせるマルコだったが……。
「そんなの、すっごく面白いデーーース!!!」
 満面の笑みで飛び出して、デイビットの腕を掴んでブンブンと振り回す。
「アナタ達とのバトル、トテモトテーモ素晴らしいモノデシタ!!また是非ともやりマショウ!!」
「あ、あぁ……」
 この反応は流石に予想外だったのか、デイビットは戸惑いを隠せないでいる。

 その様子を見ているダントツウィナーズ。
「マルコの奴……負けたくせにあんなに楽しそうにしやがって」
「でも、分かる気がする。フリックスって、ただ戦うだけで楽しい遊びだったんだよね」
「そうだな。俺達、なんか代表だから勝たなきゃいけないって気負い過ぎてたんだ……よーし、マルコ達に負けてられねぇぜ!俺達も思いっきりフリックスを楽しんでやろうぜ!!」

 

  つづく

 

 

CM

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