弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第29話「決勝フルバトル!小龍隊VSレッドウィングス!!」

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第29話「決勝フルバトル!小龍隊VSレッドウィングス!!」

 

 赤壁杯会場。
 エキシビジョンマッチのバトルロイヤルもそろそろ終盤戦。フィールドに残ったフリッカーも少なくなっていた。
「いっくでぇ!スライドメレオン!!」
 キミミチの駆るスライドメレオンがフィールドを上の機体を一掃する。

『決まりました!!エキシビジョンマッチを制したのは、キングミラージュの玉木キミミチ君です!!』

「だぁーっはっはっは!!やっぱりワイがキングやでぇ〜!!」

 ただの漁夫の利なのだろうが、キミミチはスライドメレオンを掲げて馬鹿笑いを続けた。

 一方の控え室。
 小竜隊メンバーは決勝へ向けてスタンバイしていた。

「機体の修復は完了」
「メンバーも全員揃っとる。これでいつでも決勝は戦えるで!」
 試合に必要なメンバーは5人。
 小竜隊はもちろん決勝を戦うために5人全員揃って待機していた。

「いやぁ〜」
「ま、まさか補欠としての最初の仕事が決勝戦になるなんて……」

 ただし、5人のうち2人は控え選手であるヨウとチュウタだった。

「この時間になってもゲンジとナガトが戻って来ないとなると、最悪の事態も想定しないといけない。2人とも、いきなりで荷が重いだろうがよろしく頼む」
 リュウジに頼まれ、2人は身を硬くしながら返事した。
「は、はい〜!」
「お、俺達だって小竜隊メンバーだ!やる時はやるさ!……でも、その前にトイレ!!」
 緊張でトイレが近くなったのか、チュウタが扉へ向かって駆け出す。
「あ、俺も〜!」
 ヨウもその後に続いた。

「おわぁ!!」
 扉に手をかけた瞬間、反対側からも同時に扉が開かれたのか、出ようとする人間と入ろうとする人間とで鉢合わせてたじろいだ。

「び、びっくりしたぁ……!」
「って、東堂に関!?」
 入ってきたのはゲンジとナガトだった。
 2人とも多少服が汚れているがどうにか無事に帰って来られたようだ。

「ゲンジ、ナガト!」
「間に合ったか」
「よかった、無事だったんだね」
「はは、どうにか」
「かなり苦戦したけどな……だが、デザイアプロジェクトは凍結させた」
「あぁ!これで気兼ねなくドラグナーで決勝を戦える!」
「うぇ!?そ、そこまでやったんか……!」
「バイフーを取り戻すだけなのかと……」
「なんや、うちらがおらん所で話進めよって」
「はは、悪い悪い。なんか流れで戦いの規模が大きくなっちゃってさ」
「敵組織に潜入して悪の計画を阻止なんてカッコ良すぎやん!ズルいわ〜、うちもその場に居たかったわ〜」
 ボヤくツバサをリュウジが嗜める。
「まぁいいじゃないか。俺達は悪を倒すために戦ってるわけじゃないんだ、カッコいい所は試合で見せようぜ。なんにせよ決勝に間に合ってよかった」
「そうだね。まだ少し時間あるし、ドラグナーとオーガもしっかりメンテするよ」
「あぁ頼むぜ、ユウスケ」
「俺達は少しでも体力を回復しよう」
「そうだな」
 決勝までの残り少ない時間、ゲンジとナガトは目一杯休憩する事にした。

 一方、レッドウィングスの控えでは。
 決勝に向けてそれぞれが別個で準備をしている。ここまで個の力で勝ってきたチームだけに、決勝前と言えど仲良しこよしで準備をする気はないようだ。
「……」
 そんな中で、チームの中でも1番大柄な少年八文字ジンは手に持った自機と準備を進めるメンバーたちを交互に眺めていた。
「なんだよジン?さっきから黙って俺達の方チラチラ見やがって、気持ち悪いな」
 ジンの視線に気付いたレンが文句を言う。
「いや、いよいよ決勝だ。チームメイトを気にかけるのは当然だと思うが」
「はぁ?人のこと気にしてる暇があったら自分の機体の調整してろよ」
 レンの乱暴な物言いに少しムッとするジンだが、メンバーの中でも1番落ち着いた雰囲気のある忍者コスプレをした少年サイゾウが割って入って宥める。
「まぁ、そうぼやくなレン。だが、いきなりどうしたジン?何か気になる事でもあるのか?」
「……この赤壁杯、俺達は連携も取らずに個の力で戦ってきたな」
「あったりまえだろ。俺達は元々個人戦のフリッカーだぜ。それでここまで勝ち上れたじゃねぇか」
「……これまではな」
 レッドウィングスは、第一回戦では連携の必要がないタイマンの団体戦ルールだったが(第18話参照)それ以降も個人個人の実力差によって勝利している。
「まぁ、運良く1on1重視のルールが続いたとは思うが」
 サイゾウはジンの言わんとしてる事を察した。
「決勝の相手、小竜隊はこのチーム戦の荒波を乗り越えて来ている。これまでのようにいくかどうか」
「はぁ?だから今更俺達で仲良しごっこしようってか?」
「そこまでは言わないが、これはGFCとは違う」
「ははは、冗談キツイぜ」
「まぁ、ジンの言いたい事も分かる。しかし、レンの言うように今更俺達で連携取っても上手くはいかないだろ。ジンのパンツァーバッフローだって、1on1運用を想定して火力を高めた設計だ。フォーメーションシュートには向いてない」
「……」
 レンとサイゾウに言いくるめられ、ジンは口を閉じる。
「別にいいだろ」
 そこへ、アツシが口を開いた。
「アツシ」
「俺達は好きに戦って勝ってきた。なら、ジンも好きにやればいい。それで勝てるなら問題ない」
「……あぁ」
 思わぬ言葉に面食らいながらも小さく頷くジン。
「別にジンが勝手にやる分にはいいけどよ。そこまで言うからには何か秘策があるんだよな?」
「あるにはある……まぁ、状況次第だな」
 ジンの、愛機を持つ手の反対側には、追加武装のようなユニットパーツが握られていた。

 そんな話をしているメンバー達とは少し離れたところで、ソウとコウが2人話をしていた。
「大体の状況は東堂ゲンジから聞いている。まさかデザイアプロジェクトを壊滅させてしまうとは、思わぬ収穫だ。ご苦労だったね、ソウ」
「……労われる筋合いはない。理論上最強の機体から生まれた四神フリックス、その頂点に立つためだ」
「ふっ、東堂ゲンジは君が頂点を勝ち得るに値するフリッカーに成長した。この決勝戦で、僕の夢も君の望みも叶うだろう」
「そうだな、奴は強くなった……俺と最強を争うに相応しい相手だ」
 心なしか、ソウの表情が穏やかに微笑んでいた。
 まるで甥っ子の成長を微笑ましく感じる叔父のようだ。
 ゲンジに対して試すような事をしたり、厳しく接したのも全ては成長を促して戦うためだったのだろう。典型的なツンデレだ。
「まったく、君は分かりやすくていい。では、楽しみにしているよ。延滞料分を回収出来るほどのバトルをね」
 やはり会場は延滞してしまったらしい。コウは楽しそうに皮肉を言うと軽い足取りで控え室を出て行った。
 静かに閉められた扉を見ながら、ソウは先程の穏やかな表情から一変、刺すような冷たい瞳をして呟いた。

「……タツヤ、コウ、貴様達は何も分かっていない。真の最強の形も、そしてそれを求めるフリッカーの欲望の大きさもな」
 ソウの手には、ボロボロになったフリックスが握られていた。
 それは先程潁川エンタープライズで激闘を繰り広げたはずの……。

 ……。
 ………。

 小竜隊控え室。
 ユウスケがメンテ作業を進めるのと並行してリュウジ達は作戦会議をしていた。

「試合開始までもう時間が少ない。急いでレッドウィングスのデータをチェックして作戦会議だ」
「準決勝関連でゴタゴタしすぎて、決勝に向けた準備ろくに出来んかったからな」
 リュウジはタブレットのモニターにレッドウィングスのデータを表示させた。
「レッドウィングスは元々GFC常連の個人畑の選手を寄せ集めたチームだ。一人一人の実力は相当なものだが、当然連携は弱い」
 次にレッドウィングスの機体データを映し出す。
「大型変形ウィングで圧倒的マインヒット力を持つカイザーフェニックス、強力なスピン性能で相手を弾き飛ばすワンサイドウルブズ、高い直進性と機動力で翻弄するツーサイドハウンド、特殊な拘束ギミックを備えているファングジャッカル、フロントのスプリングバウンド機構で高い火力を発揮するパンツァーバッフロー……」
「個々の性能は高そうだけど、チームとして噛み合ってるかと言うと」
「ツギハギやな」
「それでも、この大会を勝ち進んでるって事はチーム戦なんか関係ないくらいに実力が圧倒的って事か」
「それもあるだろうが、そもそもこれまでのレッドウィングスの試合はほぼ個人戦を繋げたようなルールが多かった」
「そう言えば、一回戦なんかまさにそれやったな」
「それって、勝つも負けるもルール次第って事になりかねないのか!?」
 ゲンジの極端な意見にナガトが苦笑した。
「まぁ、俺達も個人戦が出来ないわけじゃないし。そもそも赤壁杯の決勝で集団戦にしないわけがないけどな」
「それもそうか」
「レッドウィングスも、その程度の事は承知の上で挑んでくるはずだ」
「楽な戦いにはならないだろうな」
「ただ、連携する可能性が低いとなれば対処は単純だ。なるべくフォーメーションを組んで防戦して、隙を突いてカウンターをする」
「連携しないって事は各個撃破の効果は薄いし、積極的に攻めると相手に隙を作ってしまう。が、逆に防御に徹すれば相手はそれを崩す手立てがなくなって隙が出来るって事か」
「なんや、地味やなぁ」
「奴らは一人一人が必殺級の強さだからな、徹底的に用心しないとすぐに瓦解される」
「よし、とにかく俺達は連携に徹して確実に戦おう!」
「せやな」
 作戦もまとまったところでユウスケが声を上げた。
「ゲンジくん、ナガトくん、ドラグナーとオーガのメンテナンス終わったよ!」
「おっ、サンキューユウスケ!」
「いつも悪いな」
 ドラグナーとオーガを受け取り、ゲンジはみんなに声を掛けた。
「よし、準備完了したところで、最後にアレやろうぜ!」
 ゲンジの言葉を全員が察して頷いた。
 そして円陣を組んで、それぞれ愛機を突き出して中央で合わせる。
「赤壁杯決勝戦、絶対に勝とうぜ!」

「「「俺達のダントツの誓いに懸けて!!!」」」

 ……。
 ………。

 そして、いよいよ決勝戦の時間となった。
 ステージ上に小竜隊とレッドウィングスが並び、対峙している。
 時間は押しに押して、既に太陽は西に傾いて夕陽となっている。
 しかしそれが却って決戦の舞台として相応しいシチュエーションを演出していた。

『さぁ、いよいよこの時がやって参りました!赤壁杯決勝戦!小竜隊VSレッドウィングスの試合が始まります!!』

 散々待たされたにも関わらず観客のボルテージは尽きず、大きな歓声が上がる。

 江東館。
「いよいよ、か」
「光陰矢の如し、長い戦いのようであっという間だったな」
「頑張って、ゲンジさん!」
「シャシャッ、俺達を乗り越えたあいつらならやってくれるぜ!」
「直接対決はしてないけどね」

 ホワイトホース。
「リュウジ……」
「うぅ、こっちまで緊張してきたんじゃい」
「ツナヨシ君、汗ダラダラだよ……」
「気持ちは分かるけど」
「とにかく小竜隊を応援だ!頑張れー!!」

 これまで戦ってきたライバル達が見守る中、決戦の時が刻一刻と迫ってきた。

「この時を待ってたぞ、関ナガト……!」
「甲賀アツシ、俺もまたお前と戦えるのを楽しみにしてた」
「俺だって、今度こそ負けないからな!アツシ、ソウ!!」
「ウチらの絆、見せたるで!!」
「フッ、面白い。見せてもらうぞ、俺に倒されるに相応しい力を」
「あぁ、見せてやる!でも、見せるのはお前を倒す力だ!!」

『さぁ、言葉のジャブを交わしたところで、今回のルール説明です。決勝戦は【フルバトル】5VS5の全員HP3で行う頂上決戦!ただし、1ターン中に行動出来るメンバーは3人まで。個々の実力、チームの連携、戦略、全てが試されます!』

 ルール説明後、それぞれ控えエリアで打ち合わせタイム。

「フルバトルかぁ」
「まさに決勝に相応しいルールだな」
「あぁ、予想通りだ。さっき話した作戦で行くぞ。まずは俺が先手を取る」
「ウチらは陣形を組んで着実にやな」
「うん」

 打ち合わせタイム終了。
 両チーム、フィールドに着いて機体を構えた。

『それでは赤壁杯決勝戦!スタートの火蓋が切って落とされます!!3.2.1.アクティブシュート!!』
 ドンッ!バシュウウウウウ!!!

『さぁ、計10体のフリックスが一斉に中央へ向かって解き放たれました!!先手を勝ち得るのはどちらのチームか!?』

「いけっ!ユニコーン!!」

『やはりここは音速の白馬、ソニックユニコーンが先頭を取ります!』

「させん!!」

『しかし、迅速の猟犬、ツーサイドハウンドが真っ向からこれに立ち塞がります!!ユニコーンの方がリードしてますが、果たして……!』

 ガキーーン!!

『激突ーー!!なんとユニコーンが大きく弾き飛ばされて後退!スピードではユニコーンが勝っていたものの、ぶつかり合いを制する事でレッドウィングスが先手を取りました!!』

「なに!?」
「ツーサイドハウンドのストレートグリップシャーシは、直進性とグリップ力を両立させている。カチ合いなら負けん!!」
 飛ばされたユニコーンはクルクルと回りながら後退し、小竜隊メンバー達と孤立してしまった。
「リュウジ!」
「俺に構うな!フォーメーションを維持するんだ!!」
「わ、分かった!」
 他のメンバーは、ドラグナーとオーガを先頭にしてその後ろにワイバーンとアリエスを付けると言うスクエアフォーメーションだ。

「へっへっへ、チャーンス!」
 孤立したユニコーンへ洪レンが狙いを定めた。
「食らい付け!ファングジャッカル!!」
 フロントに特殊な牙のようなギミックを備え付けた機体、ファングジャッカルが飛び掛かる。
「躱せ!!」
 リュウジはステップでユニコーンの意味を若干横へ逸らそうとする。
「無駄無駄!ファングジャッカルの攻撃範囲を舐めるな!!」
 ジャッカルはフロントサイドにも可変式の牙があり、それを広げる事で逃げようとするユニコーンを捉えようとするが……。
「弾き飛ばせ!ウルブズ!!」
 そこへ、猛烈にスピンしてきたウルブズが突っ込み、ユニコーンへ掠めるように接触し弾き飛ばしてしまった。
 そのおかげでジャッカルの突進は不発。飛ばされたユニコーンはマインに当たり1ダメージ受ける。
「な、なにしやがる!!」
 レンがアツシへ文句を言うが、アツシは悪びれもせずにシレッと答えた。
「敵機へ攻撃しただけだ」
「たったマインヒットしただけじゃねぇか!俺だったらもっと大ダメージ与えられたってのに!!」
「ふん、ならとっとと仕掛けない方が悪い」
「なにぃ……!」
「落ち着け。仲間割れしてる場合か」
 サイゾウが二人を嗜める。

「なんや、案の定チームワークはボロボロやな」
「でも、掠っただけであそこまで弾き飛ばすなんて、さすがアツシのウルブズだ」
「レンって奴のファングジャッカルも、リュウジのステップを覆す攻撃範囲に、何か必殺の隠し球を持ってるようだった」
「一人一人がトップクラスの実力者ってのは伊達じゃないみたいだな」
「1VS1の状況に持ち込まれたら厳しいかも……!」
 小竜隊メンバーは、レッドウィングスの欠点と強さの極端なバランスに改めて戦慄を覚えるのだった。

(あの機体、孤立している分機動力が厄介だ。なら、固まっている他のメンバーを一気に仕留めるか)
 そんな時、今度は八文字ジンがパンツァーバッフローを陣形組んでいる小竜隊へ向けた。
「やれ!パンツァーバッフロー!!」
 バシュウウウウウ!!!
 フロントに巨大な板とバネを搭載して面で弾き飛ばす構造の、見るからに超火力機体であるバッフロー。こいつに突っ込まれたら如何に陣形を組んでいようとひとたまりもないはず。

「き、来たっ!」
「行くぞゲンジ!」
「ああ!!」
 バッ!
 ナガトの合図で、ドラグナーとオーガがステップで分散し、散開する。

「なに!?」
 そして、バッフローは回避したドラグナー達の後ろにいたワイバーンとアリエスに突っ込んだ。

「堪えるんや!ワイバーン!!」
「頑張れ!アリエス!!!」

 ガガガッ、バーーーーン!!!
 バッフローの一撃は想像通り超強力で、凄まじい衝撃に空気が震えた。
 が、横並びで密着する事でグリップ力を高めたワイバーンとアリエスは、多少弾き飛ばされるもアリエスを中心に密着したワイバーンがグルリと回る事で衝撃を緩和し攻撃に耐えた。

「バカな!?」

『おおっとこれは凄い!これまで試合、狙った獲物は確実仕留めてきた八文字ジン君の攻撃を小竜隊は見事なフォーメーションで耐え切りました!これがチームの力なのでしょうか!?』

 これでレッドウィングスのターンが終わり小竜隊のターンになる。

「よし、行くぞゲンジ!!」
「ああ!!」
 バシュッ!!
 ゲンジとナガトがパンツァーバッフローへ向けて同時にシュートする。
「くっ!!」
 バーーーン!!
 同時アタックによる凄まじい衝撃を受けながら、その先にいるアリエスとワイバーンへ押し付けられ、衝撃が圧力に変わり力を受け流すために上へと弾け飛んだ。
 そしてフワリと宙を舞いながら着地し、マインにヒットする。

「おしい、フリップアウトはできなかったか!」
「いや、上出来だ。欲張らずに着実に攻めるんだ」
 シュンッ!
 味方同士集まるような軌道でシュートしたおかげで、攻撃したにも関わらず防御陣形を崩さずにいるドラグナー達。
 そこへ向けてリュウジはユニコーンを動かして陣形に加わった。

『小竜隊、陣形を崩しません!それはさながら難攻不落の矢倉囲いの如し!』

(……やはり、これが奴らの。となれば、今のままではダメだ)

 レッドウィングスのターン。
「ちっ、たまたま上手くいったからって調子に乗りやがって。あのくらいファングジャッカルの必殺技で……」
「ジャッカルは群勢を相手にするのは向いてないだろ。ここは俺のツーサイドハウンドで崩す……!」
 サイゾウがハウンドを構えた所で、ジンが声を掛けた。
「サイゾウ、俺のバッフローを攻撃してフィールド中央へ運んでくれ」
「なに?」
 思いもよらない頼み事にサイゾウは怪訝な顔をした。
「頼む」
「……分かった」
 バシュッ!!
 サイゾウは訳が分からないままバウンドをシュートしてバッフローを攻撃し、指定された位置へ弾き飛ばした。
「レン、ジャッカルをバッフローから見て3時の方向にフロントを向けるように移動させてくれ」
「はぁ?勝手にしろとは言ったが、指図しろって言った覚えはねぇぞ」
「……」
 ドゴォォ!
 アツシがウルブズをシュートしてジャッカルを弾き飛ばし、ジンの指定した通りの立ち位置になった。
「あ、アツシお前っ!」
「これで良いのか?」
「あぁ、悪い」

 いきなり攻撃するでもなく味方同士で小突きあったレッドウィングスに小竜隊は疑問を抱いた。
「なんやあいつら?」
「どうして味方同士で……」

『さぁ、難攻不落の小竜隊を崩すのは容易ではないと判断したからでしょうか?レッドウィングスは攻撃をせずに陣形を組んでいます!』

「で、本当にこれに意味があるんだろうな、ジンさんよ?」
「……フリップスペル発動。【エクステンド】」
 ジンが静かにスペルを宣言する。

 【エクステンド】……30g以下のパーツを追加出来る。ただし、ダメージを受けると追加パーツは解除。

 このスペルによって、パンツァーバッフローに新たなユニットが被さるように追加された。
 今まではフロントにしか付いていなかったバネ付きの壁パーツが左右両サイドにも付き、ウェイトが追加されて超重量の要塞のようになっている。

『おおっとなんと言う事でしょう!パンツァーバッフローはまさかのエクステンドで姿を変えました!!まさにこれは城壁です!!』

「パンツァーバッフローではない。今のこいつは、ランパートバッフローだ!!」

 驚愕する小竜隊。
「ランパート……」
「バッフロー!?」
「エクステンドで、姿が変わるなんて」

 レッドウィングスのメンバーもこれにはテンションが上がる。
「へぇ、やるじゃねぇかジン!こいつが隠し球ってか」
「まだまだ、これからだ」

 そして、小竜隊のターン。
「あのエクステンド機体を放置するのは危険だ。何をしてくるか分からない」
「エクステンドはダメージを与えれば解除出来る。まずはあいつを確実にマインヒットだ」
「ほんなら、ヒット&アウェイが得意なウチらやな!」
 小竜隊は、反射の得意なワイバーンとオーガ、そして機動力の高いユニコーンで確実にマインヒットをするためにランパートバッフローへ三体同時攻撃を仕掛けた。

「「「いっけーー!!!」」」
 ユニコーンは真っ直ぐ突っ込み、オーガとワイバーンはそれぞれ左右からフェンスにぶつかり反射してから別角度で挟み込むように攻める。
 ガギィィィ!!!
 三方向から同時に、ランパートバッフローへ攻撃がヒットした。
 その瞬間。
 バチィィィン!!!
 と、挟み込まれた事で圧縮したバネの力で小竜隊三機は想定外の方向へ弾かれてしまった。

 「「「なに!?」」」

 ユニコーンとワイバーンは散り散りに離れ、そしてオーガは……。
 ガッ!
 ファングジャッカルのフロントに密着し停止してしまった。
「おっ、いただき!」
 レンはジャッカルのフロントに取り付けれたネジ式の牙を噛み付いたオーガへ食い込ませ完全に拘束する。
「な、何をする気だ……!」
「いくぜ、これが俺の必殺技!」
 オーガを拘束したままフィールド端に向けてシュート、そしてフロント半分を迫り出した所で停止。
「スナールキャリードロップ!!」
 すると、上側しか拘束されておらず、下はフリーのオーガはそのまま重力に従って場外に落とされてしまった。

『フリップアウト!ファングジャッカルはランパートバッフローと連携した見事な必殺技でマイティオーガを落としました!!』

「バカな……!」
「なんちゅー技や……!」
「ジン、なかなかいいぜ!お前の連携作戦!!」
 ぼやきのレンが珍しく素直に褒めた。
「あぁ、おかげで攻めやすい!」
 バシュッ!
 今度はサイゾウがワイバーンを攻撃し、マインヒットする。
「うっ!」
「奴らが散り散りなら、あれがやりやすい」
 バシュッ!!
 アツシがウルブズを小竜隊側のスタート位置へ飛ばすように猛スピンシュート。
 次のターンでナガトが場外から復帰するスタート位置前で強烈にスピンを始めた。

「フリップスペル発動!【ブラックホールディメンション】」

『レッドウィングス、連続でスペル使用!ブラックホールディメンションを使った事でターンは小竜隊へ移行しますが、10秒以内に回転を止めないとダメージを受けてしまいます!!』

「まずい、早く止めんと!!」
 ツバサは急いで回転を止めるためにシュートするが、遠距離故に狙いが定まらず十分な威力が出ずに逆に弾かれてしまう。
「くっ!」
「ここは近くの俺が止める!!」
 場外から復帰したナガトが猛回転するウルブズへ狙いを定める。
(タイミングを見計らわないと……!)
 じっくりと狙いを定めようとするナガトだが……。
 しかし、もう時間がない。
「ナガト、はよう!」
「ちぃ!」
 ツバサにせっつかれ、ナガトは十分狙いも定まらないままシュートする。
 精度に欠けたそのシュートはウルブズにとっては逆に良い餌食だ。
「吼えろ!ウルブズ!!」
 バキィ!!!
 ウルブズのメタルパーツに弾かれてしまい、オーガは場外。撃沈した。

『なんとなんと!!これは大番狂わせです!!かつて、フリックス界の神童と呼ばれた関ナガトが、まさかの序盤で敗退!小竜隊、いきなり絶体絶命です!』

「そ、そんな」
「ナガト君が、負けるなんて……!」
「借りは返したぞ、関ナガト」
「くっ!」

 チームの要でもあるナガトを失った小竜隊。
 果たして強敵レッドウィングスに勝てるのか……!

 現在のHP
小竜隊
ライジングドラグナー 3
マイティオーガ 0
シールダーアリエス 3
ソニックユニコーン 2
レヴァントワイバーン 2

レッドウィングス
カイザーフェニックス 3
ワンサイドウルブズ 3
ツーサイドハウンド 3
ファングジャッカル 3
ランパートバッフロー 2

 

    つづく

 

CM

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