第26話「強者の理想と弱者の希望」
ケンタのバイフーを取り戻すために穎川エンタープライズへ潜入したゲンジ達。
数々のエリアを突破した先に現れたのはホウセン達インビンシブルソウルの三人だった。
「ここから先へは行かせねぇぜ!」
「インビンシブルソウル……やっぱり戦うしかないのか」
「数の上ではこっちが有利だ!怯む理由はないぞ、ゲンジ!」
「分かってるよ!」
「ケンタ、俺たちも行くぞ」
「うん……今度こそ負けない!!」
7人は対峙しながら機体を構えた。
「「「3.2.1.アクティブシュート!!」」」
スケールアップし、バトルが始まる。
「いけっ!ライジングドラグナー!!」
「頑張れ!セイントアルトロン!!」
龍型フリックス同士、ゲンジはケンタとコンビを組み。
「飛ばせ!コメットケラトプス!」
「続け、マイティオーガ!!」
ナガトはサクヤと組んで連携して戦う。
「こ、こいつら……!」
「大会で戦った時より手強いだと……?」
「絶対にバイフーを取り戻すんだ!いけぇ、アルトロン!!」
いつにも増して気合の入ったケンタのシュートにつられ、ゲンジ達も普段よりも力が入っており、インビンシブルソウルは圧倒される。
「ちっ、この短時間で何があったんだ……!」
「しかもあいつら、元々敵同士の即興チームのはずなのに」
「ふざけやがって、そんなもんに俺たちが負けるか!!」
バーーーーン!!
「うわっ!!」
シェルロードの一撃がアルトロンを弾き飛ばし、ホウセンは状況を立て直そうとする。
しかし、それは悪手だった。
「今だ!行くぞ、ゲンジ、ナガト!!」
「「おう!!」」
攻撃した直後で安定性を失っているシェルロードへ、サクヤの指示に合わせてドラグナーオーガケラトプスの三体が同時攻撃する。
バキィ!!
「ぐっ!」
「ホウセン!」
ガッ!
飛ばされたシェルロードをトータスとケツァルトルが支える。
「ち、くしょう……!なんで、俺がこんな奴らに……!」
「敵チーム同士で、なぜそこまでの連携が……!」
「当たり前だ!俺達フリッカーは、ライバル達との絆で強くなるんだ!」
ゲンジは、数多くのライバルと知り合い戦う事で強くなった。
「例え敵対しても、フリックスを通じて分かり合えば共に戦える!」
ナガトは、敵チームの元メンバーだったリュウジへの疑念を乗り越える事で友情を深めた。
「味方同士でも、本気で戦って高め合える!」
サクヤは、元チームメイトのタイシと決着を誓い合い、頂点を取った事に驕らずより己を高める事が出来た。
「ライバルを大事にしない君なんかに、僕らは負けない!!」
ケンタは、仲間の優しさとライバルの強さに触れる事で成長出来た。
そんな4人の言葉が癪に触ったのか、ホウセンの顔が歪む。
「ライバルとの絆、だと……そんなんで勝てたら誰も苦労しねぇんだよ!!!」
激昂し、ギミックをセットして構える。
「ホウセン!」
シェルロードの前にケツァルトルが出る。
「うおおおお!!ブロッケンボンバー!!」
バゴォォーーーン!!!
ケツァルトルをシェルロードが弾き飛ばし、その巨体がゲンジ達四体のフリックスに襲いかかり、弾き飛ばされる。
「「「うわああああ!!!」」」
「はぁ、はぁ……!俺は、家族に見捨てられ、誰も頼れない中1人で力を付けて這い上がったんだ……敵対する奴らを全員ぶっ潰す事でなぁ!信じられるのは自分だけ!潰さないのは味方だけだ!お前ら敵は、徹底的に潰すだけなんだよ!!」
「な、なんだ、それ……どう言う事だよ……!」
「一体、君はどんなフリックスバトルをしてきたの……?」
いくらなんでもこんな過酷なセリフがフリッカーから出てくるなんて思わず、疑問を口にすると、タカトラがゆっくり口を開いた。
「……俺とホウセンは元々フリッカーではない。親に捨てられ、食い扶持を得るために地下闘技場で賭け試合をしてきたグラップラーだ」
「グラッ、プラー……?」
聞きなれない単語に首を傾げる。
「俺達にとって、戦いは仕事だ。そして対戦相手は、俺達から生きる糧を奪う敵。奪われる前に奪わなければ、俺達に明日はなかった」
タカトラの言葉に、ナガトがハッと思い出す。
「そういえば、ちょっと前にニュースで違法な格闘試合を運営する組織が摘発されたって聞いたような……」
「まさか、それでフリックスに?」
「タカトラ、余計な事を言うな!」
「……」
ホウセンに叱られてタカトラは口を閉じた。
「そんな事はどうでもいいんだよ!今ここでお前らは俺に潰されるんだからなぁ!!」
「っ!負けてたまるか!!」
再び激しいぶつかり合いが始まる。
……。
………。
その頃、会場では。
スタッフルームで諸星コウが壁にかけられた時計と睨めっこしていた。ゲンジ達が会場を出てから既に1時間が過ぎている。
「……残り1時間を切ったか」
その呟きには若干の焦りが見えている。
その時、扉が控えめにノックされた。
「どうぞ、入りたまえ」
そう言うと静かに扉が開かれた。
「失礼します」
入ってきたのはホワイトホースのイッケイだ。
「君は、ホワイトホースのリーダー……」
「公孫寺イッケイです」
「そうだったね。一体何の用かな?」
「はい。大会メインスポンサーであるあなたに、一つ提案があってまいりました」
「提案?」
……。
………。
まだ休憩時間なので多くのチームが思い思いに過ごしている。
その時、突如ステージに真島アナが上がりアナウンスを始めた。
スケジュール的に予定されたものではないので会場がざわつく。
『えー、皆様!急遽ではありますが、ここで予定変更のお知らせです。休憩時間の後に予定していた小竜隊VSレッドウィングスの決勝戦ですが、その前に一つエキシビジョンバトルを行う事になりました!』
「エキシビジョンバトル?」
「なんだそれ?」
『トーナメントで惜しくも敗退したチームで一斉に戦うバトルロイヤルです!まだ戦い足りないチームは奮ってご参加ください!』
「へぇ、面白そうだなぁ!」
「試合じゃ運悪く負けちまったけど、ここで活躍してやるぜ!!」
「名誉挽回名誉挽回!」
意外と感触は良く、各チームやる気を出していた。
そんな中でレッドウィングスは座り慣れた観戦席でそのアナウンスを聞いていた。
「予定変更……?」
「随分と急だな」
「ちぇ、なんだよ。それが終わるまで待たされるって事かよ」
出番を後回しにされたレッドウィングスとしてはあまり面白くはない。特にレンはあからさまにボヤいた。
「……なるほど」
ソウは何かを察したのか静かに頷くと、スッと立ち上がった。
「ソウ、どこへ行く?」
アツシが問うと、ソウは振り向きもせずに答えた。
「野暮用が出来た。試合開始までには戻る」
そう言って歩いて行った。
……。
………。
潁川エンタープライズ。インビンシブルソウルとのぶつかり合いは更に激化。
お互いに一歩に引かずに何度も衝撃波が巻き起こっている。
「ちぃ、しぶてぇ奴等だぜ……!」
「はぁ、はぁ……ホウセン、やっぱお前強いな」
ゲンジの顔に笑みが浮かぶ。
「てめぇ、この期に及んでまたバトルが楽しいとか抜かすんじゃねぇだろうな?」
「いや、さすがにそんな余裕はない……。けど、やっぱりお前とはこう言う場じゃなくてちゃんとライバルとしてバトルがしたい」
「ライバルとしてだと?」
「俺達フリッカーは、勝っても負けても何度も戦って、何度も強くなれるんだ!それがライバルなんだ!!」
「ふざけるな。俺とお前は敵同士だ!敵は戦いで潰す!二度と出て来られないようにな!!」
「そんなの、もったいないじゃないか……!これはフリックスバトルなんだ!お前らがやってた格闘技じゃないんだぞ!」
「甘っちょろい事抜かしやがって!お前らだって、ここで俺を敵として潰しとかないと後悔するぜ?」
「しない!俺は、お前が何を言おうとライバルとして勝つ!だから、絶対に潰さない!もう一度ちゃんと戦いたいから!!」
「僕だって、バイフーを取り戻したら君にリベンジするんだ!そのために勝つんだ!!」
「てめぇら……!」
シュンッ!
その時、何故か横からケツァルトルが飛んできてドラグナーを攻撃した。
「ドラグナーッ!」
「あんた、さっきからうるさい!」
アスカがゲンジを睨みつける。
「あたしはデザイアを完成させなきゃいけないの!あんた達の戯言に付き合ってる暇はないのよ!」
アスカからデザイアの名前を聞き、ゲンジはムッとして言い返す。
「何がデザイアだ!あんな、誰でも強くなれるような機体なんか作って何が楽しいんだよ!!自分だけの愛機で、ライバル達と競い合って、少しずつ強くなっていくからフリックスは楽しいんじゃないか!」
「っ!うるさい!!!あんたに何が分かる!!!」
アスカが激昂した。
「アスカ……?」
その姿に、チームメイトであるはずのホウセンが怪訝な顔をした。
「何度でも戦って、強くなれる?それが楽しい?それじゃ、強くなれなかったフリッカーは楽しんじゃいけないの!?弱いフリッカーは戦う価値はないって言うの!?」
「え、それは……!」
「皆が皆、強いわけでも、強くなれるわけじゃないのよ!!!それでも楽しくフリックスバトルがしたいのに、弱いってだけで出来なかった奴らだっているの!!!強いからって、強くなれるからって、それを邪魔する権利は無いでしょ!!」
「弱くても、楽しみたいフリッカー……」
そんな事、考えた事もなかった。
フリッカーは皆、強くなる事を夢見て、そしてそのための努力を楽しめる存在だと……。
いや、違う。
(俺だって、そうだったじゃないか……)
自分に才能が無いと決めつけて、強くなる事なんて考えもせず、ただ凡人として過ごしてきた日々。
たまたまライジングドラグナーを手に入れただけで、仲間達に恵まれただけで、ほんの少しでも運命の歯車がズレていたら、自分はこの場にはいなかった。あんな偉そうな事を言える立場じゃなかった。
(もし、昔の俺がデザイアの話を聞いたら、否定出来るだろうか……?)
一瞬、考えてしまった可能性。
もしもライジングドラグナーが手に入らず、GFCにも参加しないで小竜隊にも入らず、学校で身内だけで細々とフリックスで遊ぶだけの日々を送っていた時に、デザイアが手に入るとしたら……。
何の努力もせずに簡単に強くなれる機体。それを俺は否定できるか……?
“いっけぇ!ドライブドラグナー!!”
“よっし!フリップアウト成功!!”
“あっちゃ〜、これで俺の負けか〜”
「っ!」
不意に思い出すかつての日々。
確かに強くはなかった。誇れるようなバトルも、熱いライバル関係もなかった。
けど……だからって、楽しくないわけがない!
(ドライブドラグナー……)
だって……。
(強くても弱くても、俺にはずっとドラグナーがいたじゃないか……!)
それは、昔も今も変わらないたった一つの真実。
そしてそれこそが、フリックスをやる本当の理由。
「俺は、強くても弱くても、それが俺の力なら……!自分の力だからフリックスバトルは楽しいんだ!!例え弱くても、俺は自分にしかない力で戦いたい!!」
ゲンジの訴えに、アスカはたじろぎ、そして俯く。
「自分の力……そんなの、分かってるよ……でも、それでも離れてしまったらどうしようもないじゃない……!それしか希望がなかったら縋るしかないじゃないか……!!」
「え……」
アスカは震える声で言葉を絞り出し、目に涙を浮かべながら顔を上げた。
「あんたの方が正しい事なんて分かってるよ!でも、あたしには、取り戻したいものがあって、助けたい恩人がいるんだ!!だから……!」
「アスカ、お前……」
シュンッ!!
その時だった。突如どこからか別の機体が飛んできてシェルロードへ攻撃し、撃破した。
「「「なに!?」」」
一同、その機体が飛んできた方へ視線を向ける。
そこには、タツヤがゆっくりと近づいているのが見えた。
「やれやれ、時間をかけすぎだ。意外と使えないな、君達」
「神宮、タツヤ……!」
「どうして、味方の機体を……?」
「て、てめっ!いきなり何しやがんだ!!」
当然食ってかかるホウセンだが、タツヤは表情を崩さずに言い返す。
「それはこちらのセリフだ。『敵を倒してその機体を奪う』そんな簡単な指示も迅速に熟せないとは、何をやっているんだ君達は」
「ぐっ、てめぇが邪魔したからだろ……!」
「タイムアップだ。ここまで時間をかけられるなら私が直接手を下した方が早い。どちらにせよ、シェルロードも後に回収する予定だったしね。君たちはもう用済みだ、消えるといい」
そう言いながら撃沈したシェルロードを拾い、立ち去ろうとする。
「用済みって、どう言う意味だ!?シェルロードをどうする気だ!」
「質問は一つずつにしたまえ。先程言った通りだ。シェルロードも四聖獣の一つ。つまりバイフーと同じ、デザイアのための生贄さ」
「なん、だと……!」
その言葉に、さすがのホウセンもショックを受けたのか呆然とする。
「ふ、ふざけるな!シェルロードはホウセンのフリックスだぞ!!」
「違う。アレはコウから託された私の機体だ。戦力として一時的にホウセンへ預けたに過ぎない。が、戦力にならないならば必要ない」
「なにっ……!」
「ちょっと、話が違うじゃない!!ホウセンの才能を認めて、シェルロードの使い手として雇ってくれるんじゃなかったの!?」
「あぁ、確かに彼にはそこそこの才能はあるし、シェルロードもよく使いこなしてくれたね。それは見込み通りだが、成果を得られない者に終身雇用を約束した覚えはない。利益にならない人員は切られる。それは君よりも彼自身が一番よく分かっているはずだ」
「この俺が、利益にならないだと……!」
ホウセンは拳を握りしめるが、もうどうにもならない。
「このっ!」
バッ!
アスカとタカトラがタツヤへ向かってシュートを放つ。
「ふん、セイバーギラフレア!!」
しかし、タツヤの一振りでセイバーギラフレアと呼ばれた機体が瞬時にその2機を迎撃して弾き飛ばす。
ケツァルトルとトータスは勢いよく壁に激突し、めり込んだ。
「ケツァルトル!」
「トータス!」
「退職金は後日振り込んでおくから安心したまえ。一方的な解雇を言い渡した分、金額には色を付けておくよ」
タツヤはめり込んだ機体を取り出そうとするアスカとタカトラに冷たく言い放ち、ゲンジ達へ視線を向けた。
「さて、そろそろ青龍のフリックスをいただくとしよう」
「ふざけるな!フリッカーをなんだと思ってるんだ!!」
「僕達は絶対に負けない!バイフーも、シェルロードも、お前の好きにはさせない!!」
つづく
CM