弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第25話「Welcome to 潁川エンタープライズ」

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第25話「Welcome to 潁川エンタープライズ

 

 赤壁杯準決勝、小竜隊は見事インビンシブルソウルを討ち破り、ゲンジはケンタの仇を取る事が出来た。
 勝利に喜ぶ小竜隊達のいるステージへ諸星コウが拍手しながらゆっくりと歩いて来た。

「おめでとう小竜隊の皆。よくやってくれたね」
「コウ……」
 コウは小竜隊への祝福もそこそこにインビンシブルソウルへ顔を向ける。
「さて、約束だ。君の持つその玄武のフリックスを渡してもらおうか」
 当然の権利を主張しながら手を出す。
「ちっ」
 ホウセンは渋りながらもおずおずとシェルロードを差し出そうとするが……。
「待て!」
 それをゲンジが制した。
「なんだね?」
「そんなもの要らない!それよりも、バイフーを返せ!!」
「ゲンジさん……」
 ゲンジの言葉に、一同呆気に取られる。
「シェルロードはホウセンの機体だ、勝ったからって取る気なんかない。それよりも、バイフーをケンタに返してくれ!」
「なんだと……?」
「何を勝手な事を……」
 抗議しようとするコウヘゲンジは強く反論した。
「勝手なのはそっちだろ!いくら開発者だからって、俺達の大事な相棒を勝手に賭けの対象にして!勝ったのは俺なんだ!だから、その報酬は俺が決める!!」
「……まぁいいだろう。バイフーも取り戻さなければいけない機体の一つだ」
 珍しく強気なゲンジを見て、討論するのは非効率だと判断したのかコウはあっさり引き下がった。

「へっ、残念だな。白虎のフリックスはここにはねぇ。お前も見ただろ、タツヤが持ってくところを。今頃研究に使われて原型留めてねぇかもな」
 バカにするように笑うホウセンへ、ゲンジは怯まずに続ける。
「だったら神宮タツヤの居場所を教えろ!研究に使われる前に取り戻してやる!!」
「ざけんな。バイフー返すならともかく、敵に本拠地教えるわけねぇだろ、割に合わねぇよ」
「なにぃ……!」
 往生際の悪いホウセンの態度に顔を顰めるゲンジだが、ホウセンの後ろでリョウマが徐ろに懐から一枚のカードを取り出してゲンジへ投げつけた。

「うぉっと!」
 不意を突かれながらもゲンジはそれをキャッチする。見ると、それはタツヤの名刺だった。
「こ、これ……」
「そこに潁川エンタープライズの住所が書かれている」
「え……」
 言われた通り、そこにはしっかりと住所が書かれていた。
「流山か……豊四季からならいけない距離じゃないな」
 どうやら、潁川エンタープライズの拠点は千葉県流山市にあるようだ。

「リョウマ、てめぇどういうつもりだ!」
 リョウマを責めるホウセンだが、リョウマは意に介さずに言い返す。
「負けたのは俺達だ。これ以上フリッカーの誇りを汚すな!!」
「ぐっ」
 リョウマの正論にさすがのホウセンも言葉を詰まらせる。

「リョウマ……」
 何か言いたげな顔のナガトへ、リョウマは目を合わせた。
「ナガト、今回は完全にしてやられた。俺の負けだ」
「……いや、俺もこれでリョウマに勝てたとは思ってないさ」
「そうか、なら……次の大会で決着をつけよう」
「え?」
 ナガトは耳を疑った。
 それは、これまで表舞台から姿を消していた人間からの復帰宣言のようなものだったからだ。
「あぁ、もちろん!」
 ナガトは強く頷いた。

「よし、場所は分かったしすぐに行こう皆!」
「ちょ、待ちぃな!これから決勝戦があるんやで、棄権する気か?」
「あっ、……でも、モタモタしてたらバイフーが!」
 スッとサクヤがゲンジの手から名刺を取る。
「ありがとう小竜隊。ここからは俺一人で行く」
「兄ちゃん、一人じゃ無茶だよ!僕も……」
「お前は今戦えないだろう。大丈夫だ、兄ちゃんを信じろ」
「ケンタの言うとおり、一人じゃ無茶だ!それに、俺だってバイフーを取り戻したい気持ちは同じなんだ!」
「……それでもし決勝に間に合わなかった時、俺達は今後君達に顔を合わせられると思うかい?」
「それは、でも……!」

「2時間だ」

 不意に、コウが口を開いた。
「は?」
「今から決勝開始まで休憩時間に入る。それだけあれば十分だな?」
「コウ……!あぁ、絶対に間に合わせる!!サクヤも一緒だから心強いし!」
「……まったく、敵わないな。君達には」
 サクヤを『巻き込んでしまった側』ではなく『協力してもらう側』として扱って仕舞えば、サクヤは遠慮する理由がなくなってしまう。

「うぉぉーーい!」
 と、今度は黄山先生が携帯を片手に駆けて来た。
「先生!?」
「事情は雲野から聞いた!さっ、車の準備はできとる!早く来るんじゃ!!」
「へ?リュウジ、いつの間に……」
「報連相は早い方がいい、これは鉄則だ」
 携帯片方にリュウジはドヤ顔した。
「さっきから黙っとると思うたら、そう言う事やったんか」
「さすが!よし、急ごう!」
「あ、でも僕らは機体修理しないと……」
 ユウスケ、ツバサ、リュウジの機体はさきほどの試合で破損しており戦力にならない。
「そ、そっか。って事は俺とナガトとサクヤの三人だけか」
「……」

「西嶋ケンタ」
 コウが不意にケンタを呼び、一つの機体を手渡した。それは、黄金に輝く竜のような見た目をしていた。
「え、これは……!」
「セイントアルトロン。僕が前に使っていた機体さ」
「ど、どうして……!」
「君が招いた事態でもある、挽回のチャンスを与えよう」
「……!」
 ケンタは託された機体をギュッと握りしめた。
「よし、行こうぜ!」
「うん!」
 ゲンジ達は急いで黄山先生と一緒に駐車場へ向かった。

「ちっ、あいつら……」
 ホウセンがその後ろ姿を憎々しげに見つめていると……。
 ババババ!!
 とけたたましい音と突風を纏い、上空にヘリコが現れた。
「ホウセン!」
「あれは」
「恐らく、タツヤからの迎えだろう」
 バッ!
 ヘリコからロープ梯子が降ろされる。
「へっ、さすがタツヤ、グッドタイミングだぜ!こいつで先回りだ!」
 ホウセン、アスカ、タカトラが梯子を上ってヘリコへ乗り込む。
「リョウマ、ギョウ!何やってんだ!お前らも乗れよ!!」
 いつまで経っても乗る気配のないリョウマとギョウへホウセンが怒鳴る。
「……俺は大会を戦うためにチームを組んだんだ。負けた以上、もう戦いは終わりだ」
「何言ってんだてめぇ!デザイア完成がかかってんだぞ!!」
「あんただってデザイアの完成を望んでたんじゃないの!?」

「……そんな次元はとうに過ぎた。あとは好きにしろ」
 そう言って、リョウマは去っていく。
「俺も、出直しだ……」
 ギョウも何も言わずに別方向へ歩いて行った。

(関ナガト……ふっ、俺も愚かだったな。デザイアなんかよりも遥かに大きな可能性を持ったライバルの存在を忘れていたとは)
 歩きながら、リョウマは自虐と嬉しさを含めた笑みを漏らした。

「あいつら……!」
「裏切り者は放っておけ。俺達だけで拠点へ向かうぞ」
 タカトラに言われ、ヘリコは飛び上がり潁川エンタープライズへ向かった。

「僕達は機体の修理をしよう!決勝までに直さないと、ゲンジ君達が間に合っても不戦敗になっちゃうよ」
「せ、せやな!」
 ユウスケ、ツバサ、リュウジは機体修理のために控室へ向かった。

 控室。
 破損した三機を机に広げ、ユウスケはため息をつく。
「改めて見ると、酷いで……」
「2時間で直すのはさすがに厳しいか?」
「ギリギリだと思うけど、正直ここまでの破損は直した事がないから分からないよ」
「ツバサ、ユウスケだけに頼らず俺達も自分の機体くらいは出来る限り直そう」
「せやな」
 作業開始。
 三人は黙々とそれぞれの機体に向き合って没頭するが……。

「だーーっ、ぜんっぜん進まへん!!」
「あぁ、ここまで酷いとは」
「所々新しく作り直した方がいい箇所があるけど、手持ちのパーツだけじゃ全然足りないよ」
「かと言って、調達してる暇もないぞ」

 コンコン、ガチャ……。
 悩んでいると、控室の扉が開きそこから五人の男女が入ってきた。
「リュウジ、大丈夫か?」
「イッケイ……!」
「ホワイトホースのみんな……!」
 ホワイトホースの面々だった。試合を見ていたホワイトホースは機体破損したまま決勝戦を控えている小竜隊を心配して様子を見にきたのだろう。
「ひ、酷い……」
「遠くからだと分からなかったけど」
「近くでみると、ここまでとはなぁ」
「あぁ、手酷くやられたで。くそぉ……!」
「インビンシブルソウル、とんでもない奴らじゃい!」
「修復は間に合いそうか?」
 イッケイが問う。
「正直分からん。ここまでの破損も、それを短時間で直すのも、経験がないからな」
「せめてパーツが足りてれば……」
「そうか、やはりパーツが……それなら丁度いい。皆!」
 イッケイがメンバー達を促すと、それぞれ巾着袋や小型のケースを取り出してユウスケの目の前に提示した。
「こ、これは」
「俺達ホワイトホースの予備パーツだ。役に立つかは分からないが、好きに使ってくれ」
「え!?」
「いいのか?」
「私達はもう試合も無いし、予備パーツがあってもしょうがないから」
「どうせならリュウジ達に使って欲しいんじゃい!」
「サンキュ、ありがたく使わせてもらう」
 早速そのパーツが自分たちの機体に合うかどうかチェックしてみる。
「どうだ、ユウスケ?」
「うん、やっぱりユニコーンとは共通の規格が多いし、アリエスとワイバーンにも使えそう。これなら時間内に修理出来るかもしれない!」
「おっしゃ!おおきにな、ホワイトホースの皆!」
「へへっ、気にすんなよ」
「困った時はお互い様だもんね」
 思わぬ所でホワイトホースと小竜隊の友情が深まった。

 そして一方のゲンジ達は黄山先生の車に乗り込んで名刺に書かれた住所の場所へ向かっていた。
「先生、急いで!」
「バカ言うな!安全運転が第一じゃ!」
「住所だとここら辺だけど」
 車は雑居ビルがいくつも立ち並ぶ入り組んだエリアを走っている。
「こうも似たようなビルばかりだと住所が分かってても見つけるのは大変そうだな……」
 サクヤが呟いた直後、ケンタが叫んだ。
「あ、あれ!」
 ケンタの指さした方角には、昼間にもかかわらず煌びやかなネオンの大きな看板の立てられたビル。
 そしてそこには『Welcome to 潁川エンタープライズ』とドデカく書かれており、ゲンジ達はズッコケた。

「敵本拠地ならそれらしい門構えしろよ……」

 何はともあれ見つかったのはいい事だ。
 ゲンジ達は車から降りてそのビルの中に入る事にした。
「わしは近くのコインパーキングで待機しとるから終わったら連絡するんじゃぞ」
 とだけ告げて黄山先生は再び車を走らせた。

 黄山先生を見送り、ゲンジ達は恐る恐るうす暗いビルの中に入った。その瞬間。
 パンッ!パパーン!!
 と、クラッカーが鳴らされて電気が付けられる。内装はまるでパーティを思わせる楽しげな飾り付けで彩られており、派手なパーティ衣装を着た小太りのおじさんがニコニコしながら現れた。

「ウェルカムトゥようこそお友達の皆様!ここが楽しい楽しい潁川エンタープライズだよ〜!!」

「「「はぁぁぁぁ????」」」

 予想を遥かに超えた歓迎に、ゲンジ達は素っ頓狂な声を上げた。

「僕は社長の潁川トウマ!よろしくね☆」

 似合わないウインクまでかまされてしまい、なかなか思考が整理出来ない。

「え、えっと……これは、なに?」
「なにって、君達の歓迎だよ!タツヤからお友達が遊びに来るって聞いたからねぇ!」
「い、いや、遊びにじゃなくて、俺達、戦いに来たんだけど……」
「そうか、君達にとってバトルは遊びじゃ無いもんね。失礼失礼!もちろん、こちらも真剣バトルでお迎えするつもりさ☆」
「じゃなくて!俺達、敵なんだけど!!」
「熱いライバルって事だろう?いいねいいねぇ〜!」
「ああ、もう〜〜!!」
 全く話が噛み合わずにイライラする。
「落ち着けゲンジ、ああやって俺たちのメンタルを掻き乱す作戦かもしれない」
「あ、そうか」
「ナガトの言う通り、ここは端的に進めた方がいいかもしれないな」
「うん。あ、あの!僕達、バイフーを……」
 ケンタが単刀直入な目的を口にしようとした瞬間、トウマはハッとして顔を綻ばせた。

「あぁ、君かぁ!デザイアプロジェクトのために機体を提供してくれた子は!」

「へ?」
「タツヤはクラウドファウンディングみたいなものだから気にしなくて良いって言ってたけど、やっぱり上手くいくか気になるよね?
でも安心して!今日は我が社の様々な開発プロジェクトを見学させてあげるからっ!もちろん、デザイアプロジェクトもね!出資者にはウンとサービスしてあげなくっちゃ☆」

(((なんだろう、事実が捻じ曲げられてる気がする)))

 心の中で突っ込む一同だが、強引な潁川には敵わず……。

「さぁさぁ、こちらのエレベーターがアトラクションの入り口だよぉ!一つ一つ存分に楽しんで行ってね〜!」

「う、うわちょっと!!」
 ドサドサッ!
 乱暴にエレベーターの中に押し込まれる。
「それじゃあ、夢と冒険の潁川エンタープライズ見学ツアーへ出発〜!気をつけていってらっしゃ〜い!」
 まるで遊園地のガイドのように笑顔で手を振りながらエレベーターの扉を閉める。
「あ、おい!」
「そうだ。今この建物は特殊なAR機能でアクチュアルバトルに対応してるから、それも楽しんでね」
 完全に閉まる間際にそんな重要な情報を告げたのち、ゲンジ達は完全にエレベーターに閉じ込められた、

「くっ、開けろ!!」
 ドンドンと扉を叩くが意味はない。
「完全にしてやられたな……」
「いや、どちらにしても中に入る必要はあったんだ。歓迎してくれるならそれに乗じた方が良い」
 さすが、江東館リーダーだけあって冷静にこの状況をポジティブに捉えた。

『Welcome to 潁川エンタープラ〜イズ!全てのフリッカーへ、最高の時を提供いたします!潁川エンタープラ〜イズ!』

 エレベーターの中には巨大なモニターがあり、終始ムカつく企業PVが流れている。

「なんかイラっとするなこの動画」
「気にするな」
 暫くすると、ポーンと音が鳴り静かに扉が開いた。

 中は殺風景で広々とした空間がり奥の方にコンピュータとプラネタリウムの投影装置のようなものがあった。

「なんだ、何もないぞ?」
「階を間違えたのかな?」
「歓迎すると言った以上、何か考えがあってエレベーターを設定してるはずだが……」

 キョロキョロしていると、ふいに奥の装置が光り、投影装置がレーザーを照射。
 そのレーザーはゲンジ達の目の前で人の形となった。

「神宮、タツヤ!?」

『やぁ、必ず来ると思っていたよ。小竜隊に江東館の諸君』

「立体映像で通信か……!」
「隠れてないでここまで来いよ!」

『おっと勘違いしてるようだねぇ。私は神宮タツヤそのものだが、神宮タツヤ本人ではない』

「……どう言うことだ?」
「タツヤをモチーフにしたAIプログラムとか?」

『近いが全然違うね。ここは量子力学研究エリア。私は、神宮タツヤの身体細胞、頭脳、記憶、学習能力を量子レベルで再現し、量子テレポーテーションの技術を応用して複製しバーチャルで出力した存在に過ぎない』

「……平たく言うと、クローンやコピーといった類のものか?」

『全然違うが、そのようなものさ』
「よく分からないけど、だったらつまりお前を倒せばタツヤを倒したって事になって、バイフーも取り返せるのか!?」

『残念だが、私はバーチャルで出力してしまったのでバトルは不可能だ。その代わり彼らが君たちの最初の相手をする』

 タツヤが合図すると、五人の少年の立体映像が現れた。

「こいつらは……!」
「デッドキャッスル!?」

『ギョウから提供されたデータを元に作り上げた量子コピーデータだ。プリントアウトすれば実体化も出来る』

「コピーを、実体化!?」

『まだ未完の研究だから一体までが限界だが……誰と戦いたい?』

「いや、誰って言うか、俺達こんな奴らと戦いに来たんじゃ……」

『ならこちらで適当に決めよう……そうだな、延城ブン、君に決めた^_^』

 タツヤはブンの形をしたデータへ手を翳すと、下から徐々にブンが実体化されていく。

「うわっ、なんなんだよね!?なんでおいら、こんな所に……!」
 実体化されたブンのコピーは今の自分の状態に戸惑いをあらわにする。

『おっと、記憶をそのまま継続させるのは厄介だな。失礼、やり直すよ』
 バシュゥゥ!
 タツヤが手を翳すと、実体化したブンが消え、そしてまた新たに生成された。

「……」
 今度のブンは記憶がないのか虚な目をしている。

『さぁ、君の力を見せてくれたまえ』

「了解、なんだよね」
 ブンの目の前にアサルトスコーピオが現れる。
「っ!」
「とにかく、やるしかないか!」
 ゲンジ達も機体を取り出す。
 すると、アクチュアルに対応しているためか機体の立体映像が目の前に現れた。
「そうか、ARだからこいつを撃ってスケールアップするのか」
 即座にシステムを理解し、それぞれスケールアップのためのシュートをした。
 赤壁杯予選で散々やってきたのでお手の物だ。

「いけっ、ドラグナー!!」
「マイティオーガ!!」
「飛ばせ、ケラトプス!!」
「がんばれ!セイントアルトロン!!」

 バゴォォ!!!
 さすがに強豪四人の機体を相手にアサルトスコーピオ一体だけでは太刀打ち出来ないのか、一気にダメージが削られていく。

「な、なんかずるい感じするけど」
「気にするな。しなくても良い余計な戦いを要求したのは向こうなんだ」
「早く片付けるぞ」
「うん!」

『ふふふ、さすが強豪フリッカーだ!でも、気を付けてくれ。量子には常に揺らぎが生ずるものだからね』

「なに?」
「ゆらぎ……?」

 タツヤの意味深な言葉に首を傾げていると、ブンとスコーピオの姿がゆらめき始めた事に気づいた。

「な、なんだ!?」

 そして、フッとその場から消えたかと思ったら現れたり、別の場所へ移動したり、そんな事を何度も何度も繰り返し始める。

「ど、どうなってるんだ!?」

『量子の揺らぎさ。ミクロの世界では常に、起こりうるあらゆる無限の可能性が矛盾なく同時に多発している。そこに存在するという可能性と存在しないという可能性がね』

 ブワッ!!と、今度はブンが無数に分身した。

「な、なに!?」
「増えたぞ!」

『あらゆる可能性が起こり得るというのはつまりこういう事さ』

「なんだよね!」
「なんだよね!」
「なんだよね!」
「なんだよね!」

 無数のブン達が騒ぎ出す。ウザい。

「ど、どれが本物なんだ……!」

『どれも本物であり、同時に本物ではない、この二つの可能性を内包している。それが量子の存在さ』

「いくらなんでもこの数を相手にするのはキツいぞ……」
「あ、あぁ……!」
「だけど、やるしかないよ」

 バッ!
 無数のブン達が一斉にアサルトスコーピオをシュートする。

「くっ!」
 迎撃の構えを取るゲンジ達だが、すぐにその存在は消えてしまった。
「え?」

『ふむ、やはり不安定な存在だな。存在出来ると言う事は、同時に存在出来ないと言う事でもある』

「消えた、のか……」

『消えたとも言えるし、消えてないとも言える。また別の場所に出現している可能性もある、この世界のどこかか、はたまた時空を超えたパラレルワールドか』

「は?」

『何を言っても可能性があると言い切れるのがこの研究なのさ。だが、ここまで不確定要素が多いと実用化は厳しいな……良いデータ収集になった。ここは攻略だ、次のエリアへ案内しよう』

 パパパパーパーパーパッパーパー♪
 どこかで聞いた事あるようなファンファーレが流れエレベーターが開く。

「待ってくれ!俺たちはこんな事してる場合じゃないんだ!早くバイフーの所に行かせろ!」

『安心してくれ。順路通りに進めば必ずデザイアへ辿り着ける。そうでなければ私も困るのでね。最も、途中で力尽きたとしても青龍のフリックスだけはデザイアの元へ辿り着くだろうね』

「っ!」
 アトラクションと称してデザイアまで段階を踏んでバトルをさせ、研究データを集めつつ青龍のフリックスを手に入れようと言う魂胆だ。
 しかし、これがデザイアへ、バイフーへ続いてく道のりならばそこから外れるわけには行かない。

「ゲンジ、ここは言う通りにした方が確実そうだ」
「……そうだな。とにかく勝ち進めばバイフーの元に辿り着けるんだ」

 一旦タツヤの策に乗り、案内されるままに様々なエリアへ向かう。

『ここはフリッカーを強制的に強化させる研究をしている所さ。以前遠山フリッカーズスクールが強化装置を作っていたが、あれは単に栄養剤や細胞強化剤などを直接皮膚から取り入れさせてるだけに過ぎず、体質の合うフリッカーしか強化出来なかった。
だが、私はどんな初級フリッカーも同じように強化する機能を開発した』

 複数人のフリッカー達が奥から現れる。彼らは皆、強化スーツのようなものを着込んでいる。

『どんな雑魚でも、この強化スーツを着込めば皆同じ一定以上の能力を得ることが出来る!』

「「「「3.2.1.アクティブシュート!!」」」」

 バーーーン!!
 強化装置でパワーアップしたフリッカー達は確かに強力だが……。

「なかなか手強いな」
「よく見ろゲンジ、あいつら行動パターンが全く同じだ」
「あ、って事は」
「あぁ、見切れば大した事はない!」

 バキィィィ!!
 動きを完全に見切ってあっさり撃破する。

『ふむ、やはり雑魚を皆同じような強化した所で真の強者には見切られるだけか。これはボツだな』

 次のエリアでは、フリッカーがおらず代わりに機体だけが襲いかかってきた。

『ここは自動戦闘フリックスの研究エリア。アクチュアル限定になるが、結局フリッカーなどいなくても強い機体があればバトルには勝てると言う理論に基づいている』

 タツヤの言う通り、扱うフリッカーのいない機体達の動きは読みづらくかなりの強敵だった。
 しかし……。

「フリッカーはいらないだって……!」
「フリックスバトルは、機体とフリッカーの絆で戦うんだ!」
「どちらが欠けていても真の強さは発揮できない!」
「アルトロン、僕は君の本当のフリッカーじゃないけど……今は力を貸して!!」

 バシュゥゥゥゥ!!!
 フリッカー達の愛機への絆を込めたシュートで自動で動く機体達を難なく撃破。

『やはり、これは火を見るよりも明らかな結果となったか。それにしても、その機体はコウのものだったはず。にも関わらず絆を結ぶ事が出来るとは、さすがは白虎に選ばれたフリッカーだ』

 ここもクリアし、ゲンジ達は次のエリアへ進む。

『強豪のコピー、強引な強化装置、自動操縦の機体……いろいろと研究してきたが、やはり1番の戦力は、才能あるフリッカーを発掘育成し、それぞれにあった機体を提供すると言う事に尽きる。王道こそ覇道』

 ザッ、ザッ、ザッ!
 エリアの奥から三人の男女が歩んできた。

『次の相手は彼らだ』

「お、お前ら……!」

「へっ、数十分ぶりだなぁ!」
「大会の時みたいには行かないよ!」
「今度こそ、殲滅する」

 インビンシブルソウルの三人が立ちはだかった……!

 

   つづく

 

 

CM

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