第23話「武の真髄!関ナガトVS遠近リョウマ!!」
潁川エンタープライズ。
ディバイトバイフーを手に入れた神宮タツヤは以降の試合を放棄して単身事務所へ帰ってきた。
「おぉ、タツヤ!一人でどうしたんだい?まだ大会は終わってないと思うけど」
帰ってきたタツヤを見るなり、潁川トウマは顔を綻ばせながらも首を傾げた。
「ディバイトバイフーを手に入れたので一刻も早く開発を進めるために一足先に戻ってきました。残りの試合はホウセン達に任せています」
「そっか。新しい仲間も増えたし、あの子達に任せれば大丈夫だね」
「えぇ。それと、もしかしたらデザイアに興味のあるお友達がここへ遊びに来るかもしれない。おもてなし準備をお願いします」
「もちろんOKさっ☆」
潁川は50代の小太り男がやるにはいささか気持ちの悪いウインクで返事をした。
それに対してタツヤは軽く会釈して部屋を出る。
そして、自室でもある研究室へ足を運んだ。
様々な機器や資料で散乱する部屋を見回し、タツヤは一息付いた。
「ふぅ、やはりここが1番落ち着く」
気分を切り替え、奥の箱型機械にバイフーを投入。横に備えられたコンピュータを起動する、
「ふっ、コウ如きに随分梃子摺らされたが、ようやく計画が進んだ。……大木スリマ、あなたを超える日も近い」
一方の試合会場。
江東館を下したインビンシブルソウルは、Aブロックの試合も見ずに選手控え室で待機し、機体のメンテをしたりイメージトレーニングをしたり、各々自由に過ごしていた。
「それにしても、四神フリックスって言っても大した事なかったなぁ。この分だと青龍と朱雀も楽勝かもな」
「とか言って、結構苦戦してた癖に」
ホウセンの軽口にアスカが苦笑しながら突っ込む。
「へっ、演出だよ演出。あのくらいやらねぇと試合が盛り上がらねぇだろ」
「どうだか」
「ただ勝つだけではなくオーディエンスを喜ばせなければ収益にはならない」
「そうそう!さすがタカトラ、よく分かってんじゃねぇか!」
「はぁ、あんた達がやってた危ない格闘大会と一緒にしないでくれる?」
「戦いって意味なら同じだろ。まっ、ボコすのが人じゃなく機体ってのが物足りねぇけどな」
ホウセンはシュッシュッ!とシャドーボクシングする。
「……こんな表舞台で本当に人殴ったら出場停止程度の処分じゃ済まないでしょ」
「わぁってるよ。……にしても遅ぇな。ほんとにあんな奴がタツヤの代わりになんのかよ」
「さぁ?まっ、わざわざ事務所にまで押しかけて来たって事は、それなりの覚悟と目的があってのものなんだろうけど」
と、話していると控室の扉が開いて一人の少年が入ってきた。
「待たせたね。選手交代の手続き完了したよ」
「ちっ、おせぇよ!いつまでチンタラやってんだ」
「悪い悪い。予選で参加してた前のチームの脱退手続きも必要だったみたいで、少し手間取った」
「なんだそりゃ、めんどくせぇな」
「別にいいんじゃない?仲良く作戦会議するわけでもないし、遅かろうが早かろうが試合に間に合えば」
「ふん、足引っ張んなよ」
「あぁ、しっかりサポートさせてもらうさ」
少年の口に歪な笑みが浮かんだ。
……。
………。
試合時間が迫っているので、小竜隊はステージへ続く廊下を歩いていた。
江東館の敗北を目の当たりにしたからか、その表情は重い。
そんな小竜隊の前に諸星コウが現れた。
「やぁ、調子はどうだい?」
「コウ……」
友好的な笑顔を見せているが、そこから感情は読めない。
「ディバイトバイフーは残念だった。だが、過ぎた事は仕方ない。君達は……」
「分かってる!俺は絶対に負けない!!」
コウが言い切る前に、ゲンジは強く叫んだ。
「……それでいい。青龍まで奪われては堪らないからね」
表情には出していないが、その声に力が入っていない。さすがのコウもショックを受けてるのだろうか。
「なぁ、ケンタの事は……」
「分かってるさ、彼はよく戦ってくれた。1番ショックを受けているであろう人間に追い討ちをかけるような真似は、非効率だからね。そっとしておくよ」
「……あぁ、そうしてくれ」
「では、頑張ってくれたまえ」
それだけ言うと、コウは奥へ歩いていった。
……。
………。
そして、いよいよ試合時間となる。
ステージ上に小竜隊とインビンシブルソウルが上がる。
「次はお前の番だぜ。青龍使い」
「もうお前らの好きにはさせない!」
睨み合うゲンジとホウセン、しかし次に言葉を放ったのはホウセンでは無かった。
「そいつはどうかな?」
その言葉の主の存在に気付き、ゲンジ達は驚愕した。
「お、お前は……!」
「「「デッドキャッスルのギョウ!?」」」
本来タツヤがいるはずだったポジションにデッドキャッスルをクビになったギョウがいた。
「な、なんでお前がインビンシブルソウルに……!」
「俺は決勝大会が始まる前にフリーになったからな。大会規定によれば、決勝大会に登録してない選手なら二人まで控え選手に登録出来る」
「それでわざわざインビンシブルソウルに……!?」
「あぁ、今度こそお前の息の根を止めてやるよ、東堂ゲンジ!」
ギョウは憎しみの籠った目で凄んでみせた。
「ただでさえ厄介な相手やのに、めんどくさい奴が紛れ込んどったもんやで」
「ある意味ホウセンよりも相手にしたくないフリッカーだ」
「それでも、勝つしかない!」
「うん、頑張ろうみんな!」
状況はかなり悪いが、小竜隊は気合を入れ直した。
『それでは、準決勝第二試合!小竜隊VSインビンシブルソウルの戦いとなります!
ルールは【ファイブトリプルバトル】!基本は3VS3のバトルですが、撃沈したフリッカーは次のターンに控えにいるフリッカーと交代します。そして、相手チームの全てのフリッカーを撃破したチームの勝利となります!』
小竜隊の作戦タイム。
「問題は、最初の三人を誰にするかだが……」
「流れを決める分、責任重大やで」
「やっぱ、アタッカーの俺とツバサで景気良く攻めて、ユウスケにサポートしてもらうのが安パイかな。ノースアマゾン戦の時みたいに」
ゲンジの安直な案にリュウジは首を振った。
「いや、普通の相手だったらそれで問題ないが、奴らはドラグナーを標的にしている。何をしてくるか分からない」
「対策もしっかり取ってるだろうしね」
「しかもギョウもいるしなぁ……!」
「うーん、せめて相手が誰を出してくるかの目星がつけばいいんだけど……」
「……となると、最初は俺が出た方が良いな」
ユウスケの言葉を聞いて、ナガトが名乗りを上げる。
「おっ、ナガトやったら流れ作れるし、適任やな」
「異論はないが、何か考えがあるのか?」
「恐らく奴らは、要であるシェルロードを温存するだろう。となると、シェルロードと相性の良いケツァルトルやトータスも温存する可能性がある。あとは、ギョウをどう扱うかが読めないが……どちらにしても先発はリョウマを出してくるはずだ」
「なるほど」
「幻のチャンピオン……序盤に流れを作るならこれ以上ない人材だな」
「リョウマと直接対決した経験があるのはこの中で俺だけだ。有利に戦えるとは言い切れないが、それでもある程度は立ち回れるはずだ」
ナガトはオーガをギュッと握りしめ相手側の控えにいるリョウマを見据えた。
観戦席の江東館。シズキ、リン、シメイは破壊された機体の修理をしているユミの手伝いをするために席を外しており、西嶋兄弟の二人だけが座っていた。
「ケンタ、休んでなくて大丈夫か?」
「うん、大した怪我じゃないから……それよりもゲンジさん達の戦いを見届けたい」
「……そうだな」
そして、両チームそれぞれの作戦が終わり、最初の三人がフィールドに着く。
小竜隊からは、ナガト、ツバサ、ユウスケ。
インビンシブルソウルからは、リョウマ、アスカ、タカトラの三人だった。
「やはり出てきたか、遠近リョウマ」
ナガトはリョウマを睨め付ける。
(俺は必ずこの人を倒す……!)
ナガトの拳に自然と力が入る。
「関ナガト、戦いの本質を忘れるなよ」
「本質……?」
思いがけない言葉に首を傾げるが、リョウマはそれ以上は何も答えなかった。
「ちぇ、最初に俺が出て景気良くあいつらボコボコにしたかったのによぉ」
インビンシブルソウルの控えではホウセンがボヤいていた。
「何言ってんのよ。あんた大将なんだからホイホイ出せるわけないでしょ」
「ちぇ、楽しみは残しとけよ」
「それは約束出来かねるな」
「なっ、タカトラてめっ!」
「私語は慎め。そろそろ始まる」
リョウマが三人を嗜める。
タツヤがいない今、消去法的にリョウマがチームのまとめ役を務めているらしい。
「ちっ、有名人だからって偉そうに」
『さぁ、両チームとも試合の準備が出来たようです!それでは早速はじめましょう!』
両チームの三人が機体を構える。
『3.2.1.アクティブシュート!!』
バシュッ!!!
フィールド上で合計6体のフリックスが駆ける。
「まずは俺とツバサのどちらかで先手を取る!」
「いっくでぇ!!」
オーガとワイバーンが先陣を切って敵陣へ突っ込む。
「そうはさせないよ!タカトラ!!」
「了解!!」
アスカはケツァルトルをトータスの前に出し、その後ろにトータスが激突するとその衝撃で折りたたまれていたボディが広がる。
面積の広いケツァルトルとトータスのグリップの支えが合わさって巨大な壁を形成してワイバーンとオーガを受け止めた。
「「何!?」」
そして、リョウマのレジリエンスオーディンは凄まじい勢いで突き進んでいる。
ガッ!!
普通なら自滅だったのだろうが、スタート位置からあまり進まなかったアリエスにぶつかる事でブレーキとなった。
『おおっと!これは敵チームの機体を利用した見事なアクティブでインビンシブルソウルが先手です!!』
レッドウィングスの観戦席。
「遠近リョウマ、久しぶりの表舞台と聞いたが、腕は衰えてないな」
忍者コスプレした少年、サイゾウが感心しながら呟く。
「ふむ、それどころか、更に進化しているみたいだな」
隣にいる大柄な少年もサイゾウの感想に同意する。
「ナガトもマイティオーガを開発してから腕を上げている。どっちが勝つか……」
「アツシはリョウマともナガトともGFCで戦った事があるんだったな。どっちに直接リベンジしたい?」
サイゾウの問いに、アツシは軽く答えた。
「どっちでも構わん。勝った奴を倒せば、俺の勝ちだ」
「なるほどな」
いかにもアツシらしい答えにサイゾウは苦笑した。
「でもよ、こんな他人の試合見てどうすんだよ。時間の無駄だぜ」
どうやらレッドウィングスはちゃんと観戦するのはこの試合が初めてらしい。
「ぼやくなレン。これに勝ち上がったチームが決勝の相手になるんだ、見ておいて損はない」
レンと呼ばれたぼやき少年をサイゾウが嗜める。
「なんせソウから観戦するって言い出したからな。珍しい事もあるもんだ」
「マジで?てっきりジンかサイゾウが言い出しっぺかとばかり思った」
大柄な少年はジンと言うらしい。
「フン……」
話を振られそうになり、ソウはそっぽを向いた。
「なんだかんだ、ソウも四神フリックスの行く末が気になってるようだねぇ」
と、後ろから声を掛けた。振り向くとそこにはコウが立っていた。
「コウ」
「失礼するよ」
コウはソウの隣の余っている椅子に座る。
「……いいのか?メインスポンサー様が一選手の観戦席に来て」
「このくらい問題無いさ。ここの所バタバタしてロクに話せていなかったし、ちょうど良い機会と思ってね」
「……好きにしろ」
ソウはぶっきらぼうに答えて試合に集中した。
そして試合の方はインビンシブルソウルの先攻だ。
「いくよ、タカトラ!」
「ああ」
バシュッ!!
アスカはケツァルトルの変形を元に戻してシュートし、ワイバーンをマインの近くまで弾く。
そしてそこへトータスがアタックし、連携してマインヒットを決めようとする。
「させるかい!!」
ツバサは得意の反射神経を活かしてステップで躱す。
「むっ」
「へぇ」
次はリョウマのシュート。
目の前にいるアリエスに向かって突進する。
「はああああ!!!」
バシッ!!
アリエスのスポンジボディの摩擦には掬い上げは通じないのでそのまま押し出す形になる。
「耐えろ!アリエス!!」
ユウスケはバリケードを構えてその攻撃を防ぎ切る。
「いいぞ、アリエス!」
「ほぅ」
「アリエスの防御力、舐めたらあかんで!!」
「別に舐めてないさ」
ギュム……バウンッ!!!
アリエスはバリケードに支えて場外を免れるが、オーディンはスポンジの弾力によって逆に後ろへ大きく弾かれた。
カッ!
その先にあるマインにぶつかり、停止。そしてマインは更にその後ろへと飛ばされてマイティオーガへヒットした。
「な、なに!?」
『おお、お見事!!遠近リョウマ君のミラクルシュートで、一気に2体をマインヒットです!!』
「な、なんやて……!?」
「そんな」
「こ、このテクニック、まるでナガトみたいや」
「俺のバトルスタイルはあの人を参考にしてる所があるからな……だが、俺はそれを超える!」
「ナガト君?」
小竜隊のターン。
「いけっ、マイティオーガ!!」
オーガがマインを弾き飛ばしつつ、オーディンへ突っ込む。
「甘い!」
しかしリョウマはステップで回避する。
「ナガト君!!」
危うく自滅しそうになるのを、ユウスケが咄嗟にアリエスをシュートしてオーガを受け止めた。
「すまん、ユウスケ」
「うん、大丈夫!」
「勝ち急いだ攻撃は隙が生まれるぞ」
「くっ!」
「せめてウチは攻撃成功させたる!!」
バキィ!!
ワイバーンは面積が広くなったケツァルトルへ難なくマインヒットを決めた。
『オーディンへの攻撃には失敗しましたが、どうにかワイバーンがケツァルトルへダメージを与えました!しかし、まだまだ小竜隊は不利な状況!』
「やるじゃない。でも、その攻撃が命取りよ!」
シュッ!
アスカはケツァルトルをシュートしてワイバーンへ密着させた。
「タカトラ!」
「任せろ!」
そのケツァルトルのケツヘトータスが突っ込む。
「ナックルシュート!!」
ガッ!!!
トータスのグリップの効いたシャーシによる強引な押し出しによって、ケツァルトルのフロントの半分がフィールドの外へ飛び出す。当然ケツァルトルに押されていたワイバーンは場外へ。
「な、なんやてぇ!?」
『これは上手い!アスカ君とタカトラ君の見事な連携プレイによってワイバーンがフリップアウト!残りHP1となりました!!』
「どうだ!ケツァルトルのケツにトータスが突っ込めばシェルロード並みのパワーが出るんだぜ!!」
控えにいるホウセンが自慢げに叫ぶ。
「なるほど、蛇と亀で合わせて玄武ってわけか」
リュウジも妙に納得する。
「もうちょっと言い方ってもんを考えられないの……?」
アスカは呆れて額に手を当てた。
そして次はリョウマのシュートだ。
「神裁二連戟!!」
レジリエンスオーディンの必殺技がマイティオーガへ直撃する。
二本の剣で掬い上げ、上面の刃で相手を叩き伏せる大技だ。
一撃で二連の打撃を食らったオーガはゴロゴロと転がりながら場外へ向かう。
「くっ!うおおお!!!」
ナガトが咄嗟にバリケードを構えてそれを阻止するが……。
バシッ!!
バリケードによって弾かれたオーガはその先にあるマインに接触してしまった。
これで残りHPは1だ。
「そ、そんな……!」
「バリケードで反射する機体の軌道も読んでたのか!?」
控えにいるゲンジも思わず驚愕で叫んでしまう。
「あのナガトがまるで子供扱いや……!」
「あれが、幻のチャンピオンの実力……!」
小竜隊のターン。
「くっ!」
ナガトは条件反射的にリョウマへ照準を向ける。明らかに冷静さを欠いている。
「ナガト!リョウマに固執するな!」
リュウジの指示も無視してナガトはシュートする。
「うおおおお!!!鬼牙二連斬!!」
ナガトの必殺技が炸裂!
「……」
リョウマはステップで軽くオーディンの向きを変えるが、回避しきれずにオーディンに見事ヒットした。しかし……。
「なに!?」
その攻撃は大した威力を発揮せずに少し弾けただけであっさりと耐えられてしまった。
「この手の技は重心を捉えて掬い上げなければ効果は薄い」
オーガのフロントの先端部分がオーディンの接地している剣にぶつかり、掬い上げる前に弾いてしまったのだ。
「俺の技が、見切られた……!」
リョウマへ初めて見せるはずの、切り札とも言えるとっておきのつもりだったのに。
まるでリョウマはこの技の特性を知り尽くしてるようだった。
「いや、そうか……」
ナガトの脳裏に先程喰らった『神裁二連戟』の映像が浮かぶ。その動きや特性は鬼牙二連斬とまるで同じじゃないか。
「俺の技のつもりでいて……所詮、リョウマの影を追ってただけ……そんな俺の戦いが通じるわけがない……!」
鬼牙二連斬は入院している時のイメージトレーニングで編み出した技のはずだ。しかし、イメージと言うのは自分の中に深く刻まれた意識の影響を受けてしまう。
思い付いたようでいて、ただリョウマの真似をしているだけだったのだ。
その事を思い知り、ショックで茫然自失となってしまうナガト。
「落ち着いてナガト君!」
「らしくないで、ナガト!」
「俺は普通だ!」
二人の励ましも効果がない。
「しゃあない。とりあえず、ウチは他の二人へ攻撃するで!ユウスケはナガトをサポートや!」
「う、うん!」
ユウスケはアリエスをオーガに近づけてサポートしやすい位置に移動する。
ツバサはケツァルトルやトータスを相手取る事にする。
「いっくでぇ!レヴァントインパクト!!」
バキィ!!
ワイバーンの攻撃がトータスにヒットするが、僅かにしか動かない。
運良くマインヒットはできたものの、フリップアウトには届かない。
「効かん!!」
「くぅぅぅ!硬いやっちゃで!でもこの立ち位置ならさっきの技は出来へんで!!」
ワイバーンはトータスとケツァルトルを分断するような立ち位置を取っていた。
「むっ!」
「一旦体勢の立て直しね」
タカトラとアスカは攻撃は諦めて位置移動する。
そしてリョウマが攻撃の構えを取る。
「マインもウチらの機体も遠いで!攻撃出来へんやろ!!」
ツバサの言う通り、ナガトの攻撃を受けて位置を移動させられたオーディンは敵機から離れた位置にいる。しかし、リョウマは余裕の表情だ。
「武の真髄と言うものを見せてやろう」
リョウマはオーディンをスピンさせてマインを弾き飛ばす。
引っ掛かる部分の多い形状のオーディンのスピンを受けてマインは猛スピンしながらフェンスにぶつかり、普通ならありえない角度でオーガに向かっていく。
「サイクロナイズド・タイフーン!!」
このままではオーガはマインヒットで撃沈だ。
「う、うわああああああ!!!」
しかし、向かってくるマインとオーガの間に一体のフリックスが割って入った。
バチィィッ!!
『アリエス!マインヒットで残りHP1です!!』
「ユ、ユウスケ……!」
「よかった、間に合って」
見ると、ユウスケの手にあるバリケードが壊れている。
ステップに向かない機体であるアリエスを無理矢理動かしたものだから、負荷が大きくてバリケードが壊れたようだ。
「すまん、今回サポートされっぱなしだな」
「気にしないでよ。これが僕の役割で、僕達の戦い方なんだから!」
「俺達の、戦い方……」
「だから、ナガト君はナガト君の役割を、ナガト君の戦いを全うして!」
「……だが、俺の戦い方は所詮リョウマの焼き写し。付け焼き刃でしか無い」
普段からは考えられないほど自信を失っているナガト。それだけナガトにとってリョウマは大きく絶対的存在だと言うのか……。
「そんな事ないよ!」
「え?」
「確かに最初はリョウマさんの真似だったのかもしれないけど。でも、今までのナガト君の戦いはナガト君だけのものじゃないか!」
「俺だけの、戦い……」
「せやで、ナガト!付け焼き刃かて、鍛え上げれば本物になるもんや!」
「ユウスケ、ツバサ……!」
二人の励ましを受けて、ナガトの目に生気が戻る。そして愛機を見つめる。
(そうだな、オーガ。お前だって、オーディンの焼き写しなんかじゃない。オーガはオーガだ!)
オーガには歴戦の傷が刻み込まれている。それは、オーディンにはないオーガだけのもの。
その傷の重みを深く目に焼き付けようとした時に気付いた。
(オーガの先端は、ここ最近のバトルで変形して掬い上げしづらくなってる。ここはいくらメンテや修理しても追い付かないからな……いや、逆にそれを利用すれば!)
「ツバサ、ユウスケ。俺は今からリョウマを仕留める。二人はマインを場外させてくれ」
「うん!」
「なんや分からんが、分かったで!!」
ツバサとユウスケは言われるままにマインを場外し、回収する。
「真髄を見つけたようだな?」
「あぁ、今から見せてやる。俺だけの、武を!」
ナガトはオーガ内部のウェイトをリアからフロントへ移動させた。
そして、腕を水平に構えてストレートシュートした。
「いけぇぇ!!」
「見せてもらうぞ!」
リョウマは先程と同様、掬い上げられないように剣をオーガの先端へ向ける。
ガッ!二機が接触する。オーガのフロントはオーディンを掬い上げる事が出来ず、そのままつんのめってしまった。
「叩き斬れ!マイティオーガ!!」
オーガはツンのめる事によって、上部にある二本の刀を振り下ろすようにオーディンへ叩きつけた。
「なに!?」
「これが俺の、俺だけの技!!鬼牙偃月斬!!」
叩きつけるような攻撃によってテコの原理でオーディンは跳ね上げられ、バリケードを超えて場外してしまった。
『これはお見事!!!ナガトくん、土壇場で編み出した新必殺技によってリョウマ君のオーディンをフリップアウト!!!』
リョウマはオーディンを拾ってスタート位置に戻す。
「なるほど、フロント重心にしてぶつかった時につんのめる事で刀を叩きつけたか」
「これなら、掬い上げが出来なくても攻撃が通じる!」
「確かにこれは俺にはない技だ。見つけたようだな、自分の真髄を」
「リョウマ……!」
どこか嬉しそうな顔になるリョウマに、ナガトも心が晴れる。
そしてインビンシブルソウルのターン。
ツバサとユウスケにマインを場外されて不利な位置にマインを再セットされたせいで攻め手に欠けてしまう。
「ああもう、HPではこっちの方が有利なのに……!」
仕方なく位置移動して場を濁すしか出来ない。
「おっしゃ!このままオーディンを撃沈してやるんや、ナガト!」
ツバサはマインを弾いてオーガとオーディンの線上に移動させた。
ナガトはオーディンを見据える。
(このまま攻めれば、オーディンを倒せる……念願だった、リョウマに勝てる……!)
夢が叶いそうな瞬間に胸が高鳴り、生唾を飲み込む。
そしてリョウマの顔を見た瞬間に、ナガトはハッとした。
“関ナガト、戦いの本質を忘れるなよ”
試合前に言われた言葉が浮かぶ。
(この戦いの、本質……!)
ナガトはオーディンへ向けていたオーガの向きをゆっくりと回転させる。
「どうしたんや、ナガト?」
「オーディンを狙わないの!?」
「この戦いに本当に勝つために、俺がすべき事は……これだ!!」
最終的にオーガが向いた先にある機体は……。
「あ、あたし!?」
「いけっ!マイティオーガ!!」
バシュッ!!
オーガはケツァルトルの横っ腹へ突撃、ケツァルトルは巨大をグルグル回転させながら弾かれて穴の上で停止してしまった。
『フリップアウト!これにて、ケツァルトルは撃沈です!!』
「な、なんなのよ、今のあたし狙う流れじゃなかったじゃん……!」
「だが、妥当な判断だな」
ガックシと肩を落とすアスカと納得するタカトラ。
「ここでリョウマを撃沈したら、控えからシェルロードが出るかもしれない。そうなった時、ケツァルトルと連携される方が厄介だからな」
「正解だ。よく見極めたな」
しかし、これで力を使い果たしてしまったオーガはあっさりとオーディンのシュートでマインヒットを喰らって撃沈してしまう。
「あとは任せた!」
「うん!」
「当然や!!」
「さすがだぜ、ナガト!リュウジ、次はどっちが出る?」
「俺が出よう。ドラグナーはまだ温存だ」
「分かった、頼むぜ!」
リュウジが次のターンで出るためにスタンバイする。
「へっ!ようやく俺様の出番だぜ!!」
アスカの代わりに出てきたのはホウセンだった。
シェルロードをスタート位置に付けてシュートを構える。
「こっからは俺のお楽しみだ!リョウマ、タカトラ、邪魔すんなよ!!」
ドゴォォォ!!!
シェルロードの攻撃が真っ直ぐワイバーンに向かう。
「っ!はやっ!?」
バキィィィ!!
ワイバーンの弾力とシェルロードのバネギミックの相乗効果で凄まじい衝撃が生まれ、勢いよくぶっ飛んでフェンスにぶつかり、ワイバーンの翼が折れてしまった。
「ワ、ワイバーン!!!!」
満を辞して、再びホウセンの残虐な殺戮ショーが小竜隊にも襲いかかってしまうのだろうか……?
つづく
CM