第18話「燃えろ!赤壁杯決勝大会!!」
赤壁杯予選大会の翌日。
小竜隊達はまたレンタルルームを借りて決勝大会進出を祝うパーティを開いていた。
子供達は、大皿料理の置かれた卓を囲み、わいわいとおしゃべりしながら飲み食いを楽しんでいる。
「いやぁ、予選突破して決勝大会進出なんて補欠として俺も鼻が高いなぁ」
一応小竜隊の控え選手トップに選ばれた経験のあるヨウが何故か自慢げに言う。
「なんでヨウ君が自慢げなの……?」
「補欠って言っても、一度も試合に出てないじゃぁないか」
アオイとチュウタに突っ込まれる。
「ははは、まぁ控えがいるからこそ俺達は安心して戦えるんだけどさ」
ゲンジは苦笑しながらフォローした。
「控えといえば、決勝大会は二人まで交代要員の控え選手が認められてるんだったっけ?」
ナガトが思い出したように言うとリュウジが頷いた。
「そうだ。ただし、予め選手登録したメンバーだけで途中変更は無しだ。もちろんチームの掛け持ちは禁止」
「まぁ、途中変更アリで、しかもチーム掛け持ちアリにしたら、勝ち進んだチームに移籍しまくって最低でも準優勝のチームに所属するって言う裏技が出来てまうしな」
「そ、そんな事する選手も、それを許可する大会も、あり得ないと思うけど……」
「でも、その交代要員ってあくまで決勝大会の前に登録するんだよな?って事は、予選落ちしたけどちゃっかり本戦出場チームの控え枠に入るって事は可能なのか」
「わざわざ予選落ちしたチームの奴を控えに迎えるチームなんて滅多におらんやろうけどな」
「……だが、チームとしては予選落ちでも、選手としては優秀なフリッカーもいるかもしれない。一度チェックしてみるのもアリか?」
ゲンジの言葉を聞いて、リュウジは少し考え込んでから大会パンフレットのチェックを始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!せっかくこんなに控え候補がいるんだから、俺達の中から選んでくださいよ〜!」
チュウタが不満気に言うと他のクラスメイト達もやいのやいの騒ぎ出した。
「ははは、冗談だ冗談!もちろん、ヨウに続いて二人目の控えはこの中から選ぶさ。明日の練習は早速控え選手決めのトーナメントをしよう」
「「「やったぁ!!!」」」
リュウジの提案にクラスメイト達は快哉を上げた。
「おっと、そうこうしてる間にもうこんな時間やないか!」
ふと時計をみたツバサが慌てて叫ぶ。
「どうしたの、ツバサちゃん?」
「張本、まだまだ貸出時間には余裕あるぞ。今日はたっぷり借りたからな!ガッハッハ!」
「ちゃうわ!そろそろGFC決勝戦の中継が始まる時間や!!」
「あ、そっか。GFCの決勝戦は今日だったな」
赤壁杯予選とGFC本戦の日程は被っていたのだが。
GFCは二日間かけて開催していたので、今日が決勝の日になる。
「確か、フリッチューブで生放送しとるはずや!」
ツバサはタブレットを開いて動画サイトへアクセスした。
画面には、大規模なフリックス大会の様子が映し出されており、バトルフリッカーが盛大に実況していた。
『さぁ、いよいよグレートフリックスカップも決勝戦だ!!
激アツの対戦カードはこの二人!遅咲きながら、最近メキメキと才能を開花させてきた早乙女コウキ君!対するは、2年連続チャンピオン!正本ハジメ君!!果たして3連覇なるか!?』
「ここで連覇を止めてやるよ、チャンピオン!」
「フッ、それは楽しみだ。お互い、いい試合をしよう」
『それでは、いくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』
「いけぇぇぇ!グランドファング!!」
「威光を解き放て、エンペラーガルディオン!!」
バーーン!バキィ!!
バネギミックを搭載した高火力機体、グランドファングと鳳凰を模した機体エンペラーガルディオンがフィールド内で何度も何度も激突する。
そして……。
『決まったぁぁぁ!!お互い一歩も譲らない攻防戦でしたが、コウキ君のグランドファングが繰り出した超火力攻撃を耐え抜き、エンペラーガルディオンが反撃でマインヒット!
これによって、優勝は正本ハジメ君!3連覇達成だああああ!!!』
試合が終わり、ツバサは画面から目を離してため息をついた。
「はぁ〜、やっぱり正本ハジメの優勝か。大したもんやでまったく」
「リョウマが出ていれば、また変わったんだろうが……」
「それでも3年無敗は凄いよ」
「でも、確か今年で引退なんだっけ?あーあ、一度でいいから戦ってみたかったよなぁ〜」
「どうせボロ負けするに決まってるで」
「うるさいなぁ、分かってるよそんな事」
軽口を叩き合いながらも、小竜隊は祝勝会を時間いっぱい楽しんだ。
……。
………。
潁川エンタープライズ事務所。
社長である潁川トウマがデスク作業をしていると、扉が開かれて五人の少年達が入ってきた。インビンシブルソウルのメンバーだ。
「失礼します」
タツヤを先頭にぞろぞろと穎川の座る席へと歩み寄る。
「おぉぉ〜!みんなおかえりぃ〜!!お疲れ様!頑張ったねぇ〜!」
トウマは満面の笑みで立ち上がった。
「アスカちゃん、怪我とかしなかったかい??」
猫撫で声で紅一点のアスカへ両腕を広げて迫ったがヒョイと躱されてコケてしまった。
「ぶべっ!」
「キモい」
そんな潁川の姿を冷ややかな目で見ながら、タツヤは淡々と言葉を発する。
「……報告に上がります。我々含め、四神フリックスは全て予選通過。決勝大会で一同に会するでしょう」
タツヤの報告を聞きながら潁川はゆっくりと小太りな身体を起こして頷いた。
「うんうん、上出来上出来。皆の試合はちゃんと中継で見てたよぉ!決勝大会が楽しみだねぇ」
「えぇ、必ず残り三機を手に入れてみせますよ」
「青龍も白虎も大した事なかったからなぁ!今度は朱雀の野郎もまとめて、全部俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」
イキがるホウセンに対し、潁川は少し寂し気な顔をした。
「……フリックスを奪っちゃうのはちょっと可哀想な気がするけど。これもデザイア開発のためだもんね」
「まぁ、四神フリックスよりも強い機体が手に入るのなら、彼らも納得するでしょう」
「そうだよね!無事に完成したら彼らにはうんとサービスしてあげよう!」
「そうですね。では、失礼します」
穎川のノリを受け流しながらタツヤは頭を下げてとっとと出ようとするが。
「あ、ちょっと待って待って!」
潁川が止めた。タツヤは一瞬めんどくさそうな顔になったが、すぐに無表情になる。
「なにか?」
「君たちに、新しい友達を紹介するよ」
「……は?」
思い掛けぬ言葉に間抜けな声が出てしまう。
「さっき、ウチに所属したいって子が面接に来てね。なかなか感じの良い子だから採用しちゃったんだ。決勝大会は控え選手を登録できるみたいだし、丁度良いと思って」
「はぁ」
「ちょっと待ってて、今奥のソファで待機してもらってるから……おーい!もう来ていいよ〜!」
潁川は部屋の奥に向かって呼びかけた。すると、ソファの軋む音と共にこちらへ長身の少年が歩いてきた。
「やぁ。確か君とは前に顔を合わせたっけ」
「っ!てめぇは……!」
意外な人物だったのか、その姿を見てインビンシブルソウルのメンバーは驚いた。
……。
………。
そして、一週間後。
ついに、赤壁杯決勝大会の開催日となった。
会場である千葉県柏市豊四季屋外スタジアムでは、多くのフリッカーや観客でごった返していた。
「凄い人だねぇ〜!」
「グレートフリックスカップにも負けんで、これは」
「予選はバーチャルだったから実感湧かなかったが、この規模は赤壁杯始まって以来だな」
「観戦チケットも即完売だったらしい」
「諸星コウの商才恐るべし、だなぁ」
ゲンジが何ともなしに呟くと。
「お褒め預かり、光栄だね」
その本人から声をかけられた。
「諸星、コウ……!」
「やぁ、予選突破おめでとう。今日は頑張ってくれよ。シェルロードを取り返す絶好のチャンスなのだから」
「別にそのために参加したわけじゃないけどな」
「おっと、失礼。そうだな、もちろん純粋に君達の活躍は楽しみにしているよ。僕の開発した四つのフリックスをどのように成長させてくれたのか……きっと素晴らしいバトルになるだろう」
「あぁ。ドラグナーの力を見せてやるさ」
「優勝するのはウチらやで」
「ふっ、その意気だ。では、健闘を祈る」
それだけ言って、コウは去っていった。
そして、真島アナウンサーによる挨拶と大会説明が始まる。
『皆さま、本日は赤壁杯決勝大会へようこそおいでくださいました。司会進行を務めさせていただきます、FBテレビの真島です』
「きゃーーー!ステキーー!!!」
「こっち見てーーー!!」
真島アナのファンと思わしきそこそこ年齢のいった女性達が黄色い歓声を上げる。
『それでは今大会の説明に入ります。決勝大会は予選を突破した16組のチームによるトーナメント戦。試合は5VS5のチーム戦となりますが、ルールは試合ごとにランダムで決定します』
「チーム戦って一口に言ってもいろいろあるからな」
「江東館とやったバトル以外にもいろんなルールがあるんだ」
『それでは、トーナメント表の発表です!』
会場のモニターにトーナメント表が映し出される。
「レッドウィングスは、Aブロックの一試合目か」
「うちらはどこや?」
「Bブロックみたいだね」
「あ、ほんまや……ってやばぁ!?」
ユウスケに言われて小竜隊の名前を見つけたツバサは、Bブロックに記載されているチームを見て素っ頓狂な声を上げた。
「江東館にホワイトホースにインビンシブルソウルに……強敵が大体揃っとるやん!偏りすぎやで!?」
「コウの仕業か……。なるべくインビンシブルソウルに当たる前に四神フリックスが潰し合わないようにしつつ、万が一ゲンジとケンタが負けた時に備えて最後にソウをぶつける、と」
「あいつらしいっちゃらしいけど……」
「公私混同しすぎやろ」
用意周到なコウややり方に多少辟易しながらも、大会は進行していく。
『それでは早速Aブロックの第1試合をはじめます!
第1試合は、レッドウィングスVSキングミラージュ!!』
レッドウィングとキングミラージュがフィールドに着く。
「ソウの相手は、あいつらか……!」
予選のサバイバルバトルで苦戦させられた事を思い出す。
「セコい奴らやったが、それでも一応去年の優勝チームやからな」
「対して南雲ソウは個人戦畑の人間だ。楽な試合にはならないだろうな」
『今回のルールはポイント戦!5人が順番で1VS1のバトルを行い、合計得点の多い方の勝利です!同数だった場合は代表選手を1人選出してサドンデスバトルで決着が付きます』
「典型的な団体戦って感じだけど、勝ち星じゃなくて得点ってどう言う事だ?」
誰かが呟いた疑問が聞こえたのか聞こえてないのか、真島アナは説明を続ける。
『得点は単純な勝ち数ではありません。勝利した時の残りHPがポイントとなります。ただし、フリップスペル【シャイニングキュア】を使用した場合、ポイントの上限は2点までとなります』
「つまり、先に3勝しても勝ち確定にはならないのか」
「勝つかどうかよりも、どれだけHPを残して勝てるか、結果以上に試合内容が大事になってくるんだなぁ」
『では、今から15分の作戦タイムを設け、その後にバトル開始となります!』
さすがにランダムでルールが決まっていきなりスタートと言うのも厳しいのでちゃんと作戦タイムは設けられるようだ。
選手達はそれぞれの控えエリアへ向かった。
試合に出ないチームは、特設された観戦席で待機している。
「団体戦方式ってなると、ソウ達が有利かな」
「実質個人戦を繋げたようなものだしね」
「だが、それでも選出する順番は大事だ。相手との相性もある。適当にオーダーして勝てるルールじゃないが……」
それぞれの控えをみると、キングミラージュは綿密に作戦を練っているのに対してレッドウィングスはそれぞれが機体のメンテをしたり瞑想したりして好きに時間を過ごしている。
とても作戦を練っているようには思えない。
そして、時間が経過する。
『さぁ、それではそろそろ試合を始めましょう!第1バトルの選手は前へ出てください!』
レッドウィングス側は忍者の格好をした少年、キングミラージュ側は玉木キミミチが出てきた。
『レッドウィングスは甲賀サイゾウ君!キングミラージュはリーダーの玉木キミミチ君が選出されました!』
小竜隊の反応。
「チームミラージュはいきなり大将が出たか!」
「大将って普通ラストにするもんやないんか?」
「いや、最初に一番強い奴を出して勢いをつけるのは団体戦の定石だ。さすがチームミラージュ、チーム戦は慣れてるな」
「甲賀サイゾウ……一体どんなフリッカーなんだ?」
そして、サイゾウとキミミチがフィールドにつく。
『それでは、両選手セットしてください!
いきますよ……3.2.1.アクティブシュート!!』
「いけっ!ツーサイドハウンド!!」
サイゾウの使うツーサイドハウンドは左右に牙が付いており、ストレート攻撃を重視したような形状だった。
「王の力を見せるでぇ、正面突破や!メレオン!!」
それに対して、キミミチのメレオンは馬鹿正直にまっすぐ突っ込む。
「愚かな!迅速で決める!!」
どう考えても攻撃力ではハウンドの方が優って見えるのだが……。
「愚かはそっちや!!」
フッ……!
メレオンは瞬時に横移動してハウンドの攻撃を躱した。
いや、最初からハウンドの軌道上にメレオンはいなかったのだ。
「何!?」
ハウンドは標的を失って自滅してしまった。
『これは驚きです!メレオンはいつの間にか姿を消して、ハウンドの攻撃を回避しました!』
「一瞬で、軌道を変えた……いや、違う!」
サイゾウはメレオンのボディが鏡のように反射していることに気付いた
「マヤカシか!」
「せっかくの猟犬も、獲物がおらんと意味があらへんからな!」
「……からくりが分かれば大した事はない」
サイゾウは機体をセットしたのちに目を瞑った。
『なんと、サイゾウ君が目を瞑ってシュートを構えています!何かのフリップスペルを使う気配もない……大丈夫でしょうか?』
「問題ない、合図を」
「血迷いおったか?」
『そ、それではいきます!3.2.1.アクティブシュート!!』
シュンッ、ガッ!!
シュートした直後、ツーサイドハウンドはスライドメレオンが動き出した瞬間に噛み付いて動きを止めていた。
『おお!サイゾウ君のツーサイドハウンド!先程とは違い、見事にスライドメレオンを止めました!!』
「なんやて!?」
「貴様のマヤカシは視覚に頼っているもの。ならば、視覚に頼らない戦いをするまでさ!」
バキィ!!
既に接触状態だったので、ツーサイドハウンドがあっさりとマインヒットを決める。
「絶対王者を舐めるんやないでぇぇぇ!!」
キミミチはメレオンの吸盤がついた舌を伸ばしてフィールドに張り付けてシュート。
大振りな軌道でマインヒットを狙う作戦だが……。
「遅いっ!」
サイゾウはあっさりとそれをステップで回避し、そして返す刀でメレオンへ攻撃しフリップアウトした。
『スライドメレオン撃沈!勝者は甲賀サイゾウ君です!!レッドウィングスは2ポイント獲得!!』
「ん、んなアホな……!」
ガックシと肩を落としてキミミチは控えエリアへ戻っていった。
観戦している小竜隊。
「す、すげぇ……あのシュートスピード、ツバサやリュウジ以上かもしれない」
「忍者のコスプレしとるだけあるわ」
『それでは第二バトルです!レッドウィングスからは甲賀アツシ君!そしてキングミラージュからは紀レイカ君です!!』
「キミミチの仇は私が討ちますわ!お覚悟を!!」
「……バトルは自分のためにしろ」
愛しのキミミチを倒されて復讐に燃えるレイカに対し、アツシはあくまでマイペースに集中している。
『それでは、第二バトルを始めます!両者セットしてください!
3.2.1.アクティブシュート!!』
「いきますわよ!スピアホーネット!!」
「吼えろ!ウルブズ!!」
一直線に迫るスピアホーネットへ猛スピンで突っ込むウルブズが接触した。
バーーーーン!!
接触した瞬間、スピアホーネットがまるで木の葉のように吹き飛んだ。
「うっそぉ、ですわ……!」
バーーーーン!バーーーーーーーン!!
と、これを2回繰り返し、アツシがあっさりと勝利した。
「いや〜〜ん!」
『ワンサイドウルブズ強い!赤子の手を捻るかのように全てアクティブシュートで決めました!!!無傷の完勝!これでレッドウィングスは合計5ポイントです!!』
観戦小竜隊。
「す、げぇぇ……!」
「GFC決勝でゲンジに勝っただけはあるで。バケモンやあいつ……!」
「去年俺と戦った時よりもずっとパワーアップしてるな、甲賀アツシ……」
「ナガト君と戦った時は市販機を使ってたからね」
「ナガトのマイティオーガにリベンジするために作ったっぽいからなぁ」
それはゲンジの勝手な想像だ。
「なるほどな。だとしたら、俺もあの機体と戦ってみたいぜ」
「あの強さを見てそんな事が言えるなんて、さすがナガトやで……!」
「俺だって、次やる時は絶対に勝つぜ」
そんな事を話していると、早くも第三バトルが始まりそうだ。
『さぁ、第三バトルは南雲ソウ君と橋下ズイ君のバトルになります!』
「……」
「……」
お互い口数が多い方では無いので特に会話はしない。
『それでは行きます!3.2.1.アクティブシュート!!』
「燃えろ!カイザーフェニックス!!」
「いけっ、ナッターハーミット!!」
ガッ!!
フェニックスが進んだ状態で両者組み合って停止した。
『先攻は南雲ソウ君です!』
「貴様如きに時間をかける気はない。フリップスペル【ブレイズバレット】」
【ブレイズバレット】
3秒以内にシュートし、二つ以上のマインと干渉しながらマインヒットすれば2ダメージ与えられる。
「ヴァリアブルエクスプロージョン!!」
バッ!
ソウは一瞬でフェニックスの翼を広げてシュート、マインを二つ場外へ弾き飛ばしながらマインヒットする。
『出ました!!いきなりソウ君の大技炸裂です!!ズイくん、もはや後がない!!』
「っ!」
フィールドにマインがなく、そして攻撃力のないズイは出来る事がない。
仕方なくマイン再セットでターン終了する。当然、マインはなるべく遠くへ置いたのだが。
「その程度か」
ソウは、今度は片翼を閉じて、もう片方の翼を広げてハーミットへ向けてシュートした。
「ワンウイングエクスプロージョン!!」
ジャッ!!
広げた片翼の先端が、ハーミット上部に備えていたスチールウールの殻に刺さり、そこを起点にして機体を大きく旋回させて方向転換し、遠くへ置いてあるはずのマインへ突っ込んだ。
『あ、圧勝!!南雲ソウ君、圧倒的な力の差を見せつけて無傷の大勝利です!これでレッドウィングスのポイントは8!なんという事でしょう!第4バトルを待たずして勝敗が決してしまいました!!』
このポイントバトルは第3バトルの時点で7ポイント以上獲得すると、その後の試合では最大でも6ポイントしか獲得できないためその時点で勝負が決してしまう。
単なる勝ち星勝負とは違うからもう少し熱い接戦が見られると思っていた会場は騒然とした。
それは小竜隊も同様だ。
「曲がりなりにも去年のチャンピオンをこうもあっさりと倒すとはな」
「南雲、ソウ……!」
ゲンジはグッと拳に力を入れた。気付くと身体も震えている。
「ゲンジ、武者震いっちゅー奴やろ?分かるで。自分のライバルがこないに強いと、ワクワクするもんやからな」
「……いや、正直言って怖くて震えてる」
「あらら」
ゲンジの返答にツバサはズッコケた。
「でも、それでも、あいつと戦って勝ちたいって気持ちもどんどん膨れ上がってくるんだ!」
「ゲンジ君……」
「って、それで負けて、またチームに迷惑かけちゃうかもだけど」
「勝てるさ、今のお前には俺達がいるんだ」
ナガトがゲンジへ拳を向けると、ゲンジは力強く自分の拳を当てた。
「ああ!今の俺は絶対に負けない!!」
多くの人達がレッドウィングスの強さに感動を覚えている中。
全く動じていない人物もいた。
「まったくソウの奴、少しはギャラリーを喜ばせる努力をして欲しいものだ」
その中の1人が諸星コウだ。
コウはこの結果を当然として捉え、その上で少しだけ不満を漏らした。
つづく
CM