弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第7話「歌って踊って楽しくバトル!」
不動ガイがゲリラ的に行なっている勝ち抜きチャレンジバトルに乱入し、ガイへ勝負を挑んだ達斗。
しかし、その結果は完敗。得意技のストレートシュートも通じず、実力差を見せつけられてしまった。
その帰り道。
「じゃあな、タツ。気を付けて帰れよ」
「うん、また」
分岐点で翔也と解散し、達斗は一人トボトボと家路についた。
俯きながら、その歩みは重い。
(負けた……)
脳裏に浮かぶのは先程のバトルばかり。
(どうして……)
何もこれが初めての負けというわけではない。今までだって何度も負けた。なのに、何かが心に引っ掛かる。
(光の点は狙えてたはずなのに、ヴァーテックスの動きが……!)
“ダントツは重い!軽く考えるな”
(そうだ……きっと、何かが足りないんだ。見つけなきゃ、ヴァーテックスに足りないものを……!)
悶々と考えながら気がつけば家の前まで来ていた。
「ただいま……」
達斗は沈んだ声を出しながら玄関に入った。
すると、奥からとてとてと可愛らしくスリッパを鳴らしながらエプロン姿の美寧が小走で出迎えに来た。
「おかえり〜たっくん!遅かったね、もうごはんの準備できてるよ……って、どうしたの!?傷だらけじゃない!」
美寧は達斗の姿を見るなり素っ頓狂な声を上げた。
それもそのはず、達斗は全身砂埃まみれで腕や頬には生々しい擦り傷がついていた。
「あぁ、ちょっと転んだだけ。大した事ないよ」
今は自分の傷なんかどうでも良いし、そんな事にいちいちオーバーリアクションされる事が鬱陶しく感じ、達斗はつい素っ気ない態度をとった。
「でも、傷口から菌が入るかも知れないし、ちゃんと手当てしなきゃ……」
(うるさいなぁ)
美寧が達斗に対して過保護なのはいつもの事だ。普段なら軽く流しながらも反発はしないのに、今日は何故だかイライラした。
自分の事を見下したガイへ挑戦するもあっさりと返り討ちに合い、しかも自分の強みだと思っていた光の点が初めて通用しなかったと言う非常事態だ。
多少の怪我なんかに構ってる暇はない。そんな事に気持ちを煩わせないでほしい。
勝手な言い分だが、達斗はとにかく早く一人になりたくて、気が付けばつい強い語気の言葉が飛び出していた。
「だから大丈夫だってこんな擦り傷くらい!ほっといてよ!」
言って、達斗はハッとした。
自分からこんな強い拒絶の言葉を発してしまうなんて……達斗は少し後悔しながらも、出してしまった言葉を引っ込める事はできず、美寧の顔を見た。
美寧は一瞬目を見開いて驚いていたが、すぐに真剣な顔つきになり静かに、そして強く言った。
「いいから、来なさい」
それは、まるでワガママを言う子供を叱る母親のような強制力があり、達斗は小さく頷くしかなかった。
「……うん」
美寧に連れられるまま達斗はリビングのソファに座らせられ、美寧の手当を黙って受けた。
美寧の手際は素晴らしく、ぬるま湯で濡らしたタオルで汚れを拭き、アルコールを染み込ませた綿で傷口を軽く消毒してガーゼを当てていく。
「大丈夫?沁みたりしない?」
「うん、平気」
ガーゼを固定するテープの貼り方も工夫が凝らしてあり、関節を動かしても全く違和感がない。
「手際いいね」
「そりゃ、学校で保健委員やってるからね」
「そうなんだ……じゃあ将来はいいお医者さんになれるかもね」
「うーん、お医者さんより看護婦さんの方がいいなぁ」
「看護師、じゃないの?」
「看護婦って言った方がお姉ちゃんっぽいでしょ?しかもたっくん専属の」
「なにそれ」
軽い冗談を交わしつつ、少し雰囲気が和やかになる。
「……あのね、たっくん」
美寧は俯き少し言葉を選びながらなのか神妙に話し始めた。
「たっくんの身体はたっくんのものだから、何をしても自由だよ。でもね……」
「……」
「たっくんは私にとって、たった一人の大事な弟なんだよ。だからお願い、お姉ちゃんにもたっくんを大切にさせて」
後半は消え入りそうになりながら、美寧は言った。それは間違いなく達斗へ向けた言葉なのに、どこか独り言のようで……不安の中絞り出された願いのように感じられた。
「美寧姉ぇ……」
「よし、終わり」
傷の手当てが終わり、美寧は軽く達斗の腕をタッチして離れた。
達斗は腕を動かし、その手当てによって怪我の痛みがかなり軽減された事を実感した。
「……ごめん」
何に対してなのかもハッキリしないまま、達斗は呟いた。
「そこはごめんじゃないよね?」
美寧は苦笑した。
「ありがとう、だね」
達斗も苦笑しながら、美寧へ感謝の言葉を伝えた。
「うん、それじゃご飯食べよっか」
夕食後、達斗は部屋に戻りベッドに倒れて美寧に手当てされた腕を眺めた。
痛みはほぼない。この分なら完治も早いだろう。
「美寧姉ぇ……」
“お姉ちゃんにもたっくんを大切にさせて”
美寧に言われた言葉が頭の中でリフレインする。
「大切に……」
その言葉を呟いた時、達斗はハッとして起き上がりヴァーテックスを取り出して机へ向かった。
「ヴァーテックス……!」
机につき、デスクライトを付けてヴァーテックスのボディの両端を持って回しながらよく見てみる。
ヴァーテックスには細かな汚れや傷がついており、特にシャーシはリアのグリップパーツがかなりすり減っていた。
「こんなに消耗してたんだ」
達斗はヴァーテックスを置いて、引き出しからティッシュやセロテープを取り出してボディやシャーシの汚れを綺麗にしていく。まるで先程美寧が自分にしてくれたように。
「足りなかったんじゃない……僕が減らしてたんだ。ごめん、ヴァーテックス」
夜が更けていく中、達斗は一心不乱にヴァーテックスの手入れを続けていた。
そして翌朝、通学路。
「ふぁ〜あ……」
あくび混じりに一人歩いている達斗の背中を後ろからやってきた翔也が軽く叩いた。
「よぅ、タツ!」
「あ、翔也……はよ〜」
「なんだよ眠そうだな。大丈夫か?」
「うん、まぁ……それより、今日の放課後さ、暇だったら段田ラボに行かない?」
「え、そりゃ構わないけど。もしかして、昨日のバトルで機体が壊れたか?」
「壊れたってほどじゃないけど、ちょっと」
と、その時遠くからチャイムの音が鳴り響き、それに合わせて周りの子供達の足取りが早くなった。
「あ、やべ!タツ、話は後だ!」
「うん!」
二人も慌てて学校へと駆け出した。
……。
…。
そして、放課後。達斗と翔也は早速段田ラボへと足を運んだ。
ラボではバン達が快く迎えてくれた。
「ども〜!」
「こんにちは」
「おぉ、達斗に翔也よく来たな!ヴァーテックスの調子はどうだ?」
「あの、その事でちょっと診てほしいんですけど」
そう言いながら達斗はバンへヴァーテックスを手渡した。
「おぉ、良いぜ。……結構使い込んでんな」
「手入れはしっかりしているようだが、パーツの消耗が激しいな。そろそろ性能に影響が出るだろう」
バンの横で伊江羅博士もヴァーテックスを覗き込む。
「はい。それで」
「分かった。整備が必要になったんだろ、任せとけって」
「あ、それもなんですけど。自分でもある程度出来るようにいろいろ教えてほしくて……」
達斗の思わぬ申し出にバンはキョトンとしたが、伊江羅博士はすぐに頷いた。
「そうだな。フリッカーなら自分の機体も整備できないようではな」
「確かに、それもフリックスの楽しみだもんな。分かった」
って事で、達斗はバンや伊江羅に付き添われながらヴァーテックスの整備をすることになった。
「ヴァーテックスは、多少の可動部位はあるが基本的には造形機とほぼ変わらない。だからメンテナンスもそう複雑ではないが」
「でも、造形機だからこそ油断出来ねぇんだよな」
「そうだ。複雑な機構に頼らない分、機体の形状、重心、空気抵抗、表面摩擦、これらの基本的な要素の影響をダイレクトに受けてしまう。だから、ちょっとした削れやヒビ、汚れの付着には気を付けないといけない。特に、衝撃で破損しそうな箇所は予め把握し、万が一試合中に破損しないかどうかの強度チェックは怠ってはいけない」
「なるほど……」
バンや伊江羅の解説を受けて、達斗は真剣に頷く。
「まずは汚れを落とすのが先決だな」
「一応、昨日出来るところまではやったんですけど……」
「これ以上は専門のやり方が必要になる。ここを念入りにやらないと、機体を修復した時にゴミが素材の中に入って性能低下に繋がるからな。最悪作り直しになる事もある」
「そ、そんなに……!」
「滅多にないけどな。あくまで万が一だ」
伊江羅の脅かしに少しビビり、達斗はしっかりとヴァーテックスを洗剤で洗い、細かい部分は綿棒や爪楊枝などを使って汚れを取り除いた。
「次に破損や消耗箇所のチェックだ。ヒビが入っていたり、パーツが削れていた場合は接着剤や充填剤を注入してヤスリで形を整える」
「はい」
今回は、そこまで目立った破損もないので充填剤を薄くコーティングする程度で済んだ。
「ボディはこんなもんか。問題はシャーシだな」
「破損しやすいのはボディだが、消耗が激しく性能が変化しやすいのはシャーシの方だ」
「なんたってシュートの度に擦れるパーツだからな」
案の定、ヴァーテックスのシャーシは相当消耗しておりリアグリップ素材が削れていた。
「これでは、性能が著しく落ちるだろうな」
「ここまで来るとパーツ交換した方が良いな」
「やっぱり、それでヴァーテックスの動きが……僕のせいで」
「なに、フリックスの性能は水ものなんだ。全部完璧に管理できるフリッカーなんていねぇよ!次からは出来るだけ気にかけてやりゃ良いって」
「はい」
悔やむ達斗を慰めつつ、作業を続ける。
「このグリップパーツの在庫あったっけかな?」
「丁度今朝、リサが仕入れていたはずだ」
「おっ、さすがリサ!ナイスタイミング!」
シャーシのグリップパーツを剥がして新しいグリップを貼り付ける。
これでヴァーテックスのメンテ完了だ。
「ふぃ〜、出来た出来た」
「ヴァーテックス……!」
まるで新品のように整備されたヴァーテックスを達斗は手に取った。
「おっ、終わったか?」
と、別の机で工具やら設備やらを勝手に使ってエイペックスを弄っていた翔也が達斗の方へ顔を向けた。
「うん、お待たせ」
「悪かったな翔也、ほったらかしにして」
「いえいえ、その間ここの設備使ってガッツリエイペックスのチューン出来たんで。って事でタツ!早速調整した機体同士で慣らしバトルと行こうぜ!」
「もちろん!」
「いいねぇ、そう来なくちゃな!」
翔也の提案に一同乗り気で練習場へ向かった。
練習場に設置しているフィールドを挟んで達斗と翔也が対峙。
「本気で行くぜ、タツ!」
「こっちだって!」
「……あ、そうだ!」
やる気十分な二人にバンが何かを思いついたのか声をかけた。
「なんです?」
「せっかくやるんだから、なんか賞品あった方が盛り上がるだろ。この前、知り合いからいいもんもらったんだよな」
バンはゴソゴソとポケットから一枚のチケットを取り出した。
「じゃーん!今売り出し中のソロアイドル、保科メイの単独ライブチケットだ!」
「おぉっ、メイたんの!?しかもプレミアムチケットじゃないですか!!よく手に入りましたね!!」
翔也が目をきらめかせて食いついた。
「へっへっへっ、保科メイのプロデューサーとは仕事でちょっと付き合いがあってな」
「いいなぁ〜〜!!!」
翔也とは逆に、達斗は話題についていけてない。
「メイ……たん……?」
「なんだタツ、フリッカーのくせに知らないのかよ。今徐々に知名度上げてんだぜ、メイたん」
「アイドルにフリッカーは関係ないと思うけど……」
「いや、それが実はな……おっとやっぱいいや、それはそれでおもしれぇ。タツ、メイたんを賭けて勝負だぜ!」
「う〜ん、まぁ貰えるなら頑張ろうかな」
と言うわけでアイドルライブチケットをかけたバトルになった。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
バシュッ!!!
「いっけぇ!ヴァーテックス!!」
シュバァァァ!!!
しっかり整備したおかげか、ヴァーテックスは思い通りの軌道で進み、ピタッと理想的な位置で止まった。
「よし、良いぞ……!」
対する翔也は……。
「ぶっ飛べ!エイペックス!!」
ボヨヨヨーーーーーン!
シュートポイントを下へ押しつけるようなシュートでジャンプ。
が、そのジャンプ力はこれまでとは比べ物にならないほどの大飛翔で、達斗の頭上を飛び越えて場外した。
「しょ、翔也……?」
「あちゃー、やりすぎたか!はっはっは!」
「何やってんだよ翔也〜」
バンが笑いながらツッコミを入れる。
「シャーシに何か仕込んだな」
伊江羅は翔也のシュートの原因を察した。
「バレました?さっきシャーシの裏にバネ仕込んでみたんですよ!面白い動きするかな〜って」
「そんなの上手くいくわけ……」
「いや、案外いけるんじゃねぇか?翔也、次はスピンと組み合わせたらどうだ?」
「あ、そうっすね!やってみます!!」
仕切り直しアクティブ。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「飛べ!エイペックス!!」
シュバッ!!
エイペックスはスピンしながらジャンプ!回転のジャイロ効果によって安定しながら着地した。
「やった!成功だ!!」
「やるじゃねぇか翔也!」
しかし、先手を取ったのは達斗だ。
「……いけ、ヴァーテックス!」
達斗は無難にマインヒットを決めた。
「よし、今度はこれだ!」
バシュッ!
翔也はジャンプシュートで、ヴァーテックスの機体上部を踏みつけつつ、また跳ねて着地した。ビートヒットだ。
「へへっ、上手く行ったぜ!」
「そんなアタックありかよ!」
「……」
現状勝ってるのは達斗なのに、翔也の方が称賛されている。
その事に少し違和感を覚えた。
そして、バトルは終盤。いつも以上にトリッキーな動きに翻弄されるものの、やはり慣れていない翔也はミスも多く達斗の優勢でバトルは進んだ。
翔也HP4 達斗HP7。
「よし、チャンスだ……!」
達斗のターン。
立ち位置はかなり有利だ。エイペックスとの距離はそこそこで、エイペックスから場外までの距離もそれほど遠くない。そして、エイペックスの隣にはマインがある。
光の点を突いたアタックが決まればフリップアウト出来るはず。
「……!」
しかし、脳裏にガイとのバトルでの失敗が蘇る。
(こっちはまだHPに余裕があるし、ここは……)
達斗は少し軌道をズラして、マインとエイペックス両方にぶつかるようなシュートをした。
「タツ?」
「さすがにフリップアウトは狙わないか」
「まぁ、それも戦術だろう」
翔也のターン。
「さて、こっからどうすっかなぁ〜!とりあえず、マインヒットだ!」
バシュッ!!
スピンしながらのマインヒット。
マインを弾き飛ばして場外させつつ、ヴァーテックスにぶつかった反動で遠くへ逃げた。
「いけ、ヴァーテックス!!」
とは言え、後はビートヒットすれば勝ち。多少遠くへ逃げた所で、ビートヒットを防げるはずもなく。
あっさりと達斗の勝利だ。
「決まったな。達斗の勝ちだ」
「ちぇ、負けちまったかぁー!結構使いこなせてきたんだけどなぁ〜!」
「翔也もすげぇぜ、あんな戦い方であそこまで追い詰めたんだからな!」
「でも負けは負けだ。タツ、良いバトルだったぜ!」
「う、うん」
「ヴァーテックスの整備は完璧のようだな」
「はい、ありがとうございました!」
勝負には勝った。しかし、達斗はどこかすっきりしない表情をしていた。
「って事で達斗、おめでとう!ライブ楽しんでこいよ!」
バンが達斗へチケットを渡す。
「は、はい」
「良かったな、タツ!」
「あ、翔也……もし欲しかったらこのチケット、別に譲っても良いんだけど」
「あぁ、良いって良いって!だって俺もう持ってるし」
そう言いながら、翔也は同じチケットをピラっと見せた。
「うぇぇ!?」
「なんだよ翔也!あるなら先に言えよ!!」
「あはは、せっかくバンさんが盛り上げようってしてくれたのに賞品の価値を下げちゃ悪いじゃないですか!」
「ちぇ、だったら最後まで黙ってろよ……」
バンは大人気なくボヤいた。
「って事でタツ、ライブ当日は一緒にメイたんを応援しようぜ!」
「う、うん……」
達斗は戸惑いながらも頷いた。
そしてライブ当日。
達斗と翔也は千葉みなとの『千葉ポートアリーナ』で開催される保科メイの単独ライブへ足を運んだ。
薄暗い会場をスポットライトや観客のペンライトが目紛しく照らしていく。
そしてそのステージの中心に煌びやかな衣装を纏った一人の少女が立っていた。
『みんなー!今日はメイたんのソロライブに来てくれてありがとー!いっぱい楽しませちゃうからねー!!!』
女の子らしい甘ったるい声でありながら確かな声量を会場に響かせると、観客から野太い歓声が轟いた。
「「「「うおおおおおお!!!メイたぁぁぁぁん!!!!」」」」
達斗は思わず耳を塞ぎながら隣の翔也へ話しかけた。
「す、凄い人気だね……」
「そんなんあったり前だろ!それよりタツ、よく見とけよ!メイたんのライブは面白い事が起こるからな!」
「う、うん……?」
翔也の言ってる意味がよく分からなかった。
『それじゃあ早速行ってみよう!まず最初の曲は[サインスターズ]!!』
賑やかな音楽が流れ、メイがそれに合わせて踊り出す。
『キラキラ輝く星を繋いで まるでそれはあなたとの出会いの印🎶
瞬きを見失わないように そっと願うよ🎵
二人だけの星座を紡げますように♩』
まさに王道アイドルといった感じの曲だ。
それだけなら、ファンでも何でもなければ別に面白くも何ともないだろう。
しかし、達斗は目を疑った。
『いっくよぉートゥインクルコメット♪』
メイは歌って踊りながら星型のフリックスをシュート。
そのフリックスはステージに設置してあった楽器に反射し、見事な軌道で宙を舞っている。
しかもそれが曲、歌、ダンス、全てとマッチしているのだ。
「ふ、フリックスと踊ってる……!?」
さすがの達斗もこれには驚き魅了された。
「すげぇだろ?俺、これ見てフリックス始めたんだぜ。こんなシュート出来たら面白ぇだろうなって!あの時はメイたんも無名で、路上ライブやってたけど……こんなに人気になるなんてなぁ……」
翔也の早口語りも無視して、達斗はメイのパフォーマンスに夢中になっていた。
……。
…。
何曲か歌い終えて、ライブもそろそろ終盤となる。
『それじゃあ、そろそろメインイベント、バトル会いっくよぉー!』
ステージ上でスタッフが忙しなくセッティングを始め出した。
「メインイベント?バトル会?」
「あぁ、ここからが本番だ。普通アイドルって、歌が終わったら握手会やるだろ?」
「やるんだ?」
「やるの!でも、メイたんは握手会の代わりにステージで一緒にバトルができる『バトル会』ってのがあるんだよ!」
「へぇ……」
「そんでもって、その握手券ならぬバトル券ってのが……」
『それじゃ、今回のバトル券の持ち主はステージへどうぞー!』
メイの一言で、観客席の一部にスポットライトが当たる。
そのライトは達斗を照らしていた。
「バンさんが持ってたプレミアムチケットってわけだ」
「へ?」
「ほら、行ってこい!」
翔也に促されるまま達斗は戸惑いながらもステージに上がった。
達斗はキョトンとしながらステージに上がり、フィールドを挟んでメイの前に立った。
『今日の相手は随分可愛い男の子だね〜!あなた、お名前は?』
「あ、えっと、神田達斗です……」
『達斗君?よっろしくねぇー!』
にっこりと笑うメイの笑顔に達斗は見惚れてしまった。
(可愛いなぁ)
さすがアイドル。翔也が夢中になるのも分かる。
『えへへー、正直だねぇ!ありがとっ!』
「え、あれ!?僕、口に出したっけ!?」
本気で戸惑う達斗の姿がおかしかったのか、会場にドッと笑いが起こる。
「何やってんだあいつ」
翔也も思わず苦笑していた。
『それじゃ、そろそろはじめよっか!』
「は、はい、よろしくお願いします…!」
ステージのモニターにでっかくスタートの合図が表示される。
3.2.1.アクティブシュート!
『いっくよぉー!トゥインクルコメット⭐︎』
「いけぇ!ヴァーテックス!!」
会場の雰囲気にのまれながらも達斗はしっかりとシュートし、トゥインクルコメットを弾き飛ばす。
「軽いっ……!」
飛ばされたコメットはまるで流星のように宙を舞い。メイはその場で一回転したのちにそれをキャッチしポーズをとった。
飛ばされた自機を手で触れたので場外扱いでアクティブアウトだ!
「よしっ!」
華麗なアクティブアウトに会場が湧く。
「うおおお!!」
「いいぞーー!!!」
しかし、その称賛の矛先は……。
「メイたーーーん!」
「飛ばされ方も可愛いYO!!」
アクティブアウト成功させた達斗ではなく、メイへの賞賛だった。
「っ!」
達斗はこの間の翔也とのバトルで感じたものと同じものをまた感じていた。
その後の展開も同じようだった。
一進一退の攻防だが、最初のリードのおかげで達斗が優位な状況。
しかし、攻めるにしても守るにしても、会場を沸かせているのは全てメイの動きによるものだ。
『ええい!いっけぇ!!』
カッ、カキンッ!
メイが壁反射で見事にマインヒットを決め。
「いけ!」
達斗は普通にマインヒットを決める。
与えるダメージは同じだが、メイの戦い方の方が明らかに映えている。
それだけじゃない。
(あの機体、遠くからじゃ分からなかったけど、薄いから攻撃が通じない……!)
そう、トゥインクルコメットは薄型の受け流し機でもあったのだ。
アクティブシュートならシュートの勢いで多少浮き上がったおかげで攻撃が通じたが、普通に停止していると上に受け流されてしまう。
残りHPはお互いに3で、達斗のターン。
ダメージレース的には達斗が有利だが、周りにマインが近くにない状況になってしまった。敵機の特性を考えたらフリップアウト狙いは危険だ。
「……ここは、ビートヒットで」
バシュッ!
達斗はトゥインクルコメットの上を乗り越えていくようにビートヒット。
これでメイのHP2でメイのターンとなった。
「しまっ……!」
しかし、思ったよりもマインから離れる事はできず、メイの壁反射テクがあればマインヒットできそうな位置で止まってしまった。
(これじゃ、負ける……!)
『すっごーい!えへへ、でもそろそろ決めちゃおっかなぁ〜』
メイはしたり顔で笑いながらポーズを取った。
『ひっさぁ〜つ!イオンテールファシネーション⭐︎』
クルクルと回転しながら、その勢いで機体をシュート。シュート準備しなかったのでカウンターブローをする隙もなかった。
コメットは、カンッ、カンッ、と壁を反射していく。
その軌道はまるで五芒星のようだった。
「す、すごい……!」
フィールド内に輝く綺羅星。それに会場が圧倒されていく。
『フィニッシュ⭐︎』
バッ!!!
勢い余ってコメットが場外し、隅に置いてある楽器をかき鳴らしながら反射していき、そしてメイの手元に帰って行った。
『イエイ✌️』
コメットを手にしてピースを決める。
「……」
「「「うおおおおお!!!メイたーーーーーん!!!!」」」
達斗はしばらく見惚れていたが、会場のモーレツな拍手を聞いて我に帰った。
『うふふ、ありがとーみんなー!!』
「……なんで」
観客へ笑顔で手を振るメイへ、達斗は言葉をぶつけた。
『ん、なぁに?』
「どうして、あんなシュートを……普通にやってたら、勝てたはずなのに」
達斗の声は震えていた。勝ったはずなのに、まるで負けたみたいな悔しさだった。
『んー、だって』
メイは可愛らしく人差し指を唇に当てて、少し考えたのちに首を傾げながら言った。
『こっちの方が可愛いでしょ?』
「なっ……!」
達斗は無意識に拳を握り締めていた。
「勝てたのに、可愛いからって、それを……!」
まるで、真剣なバトルを侮辱されたみたいで……。
「アンコール!アンコール!」
達斗の表情が歪みそうになった時、後ろから翔也の声が聞こえた。
振り返ると、翔也がチケットをヒラヒラさせながらニヤッと笑っていた。
「俺も、バトル券持ってるんで」
それを見たメイは快く頷いた。
『うん、もちろんいいよ!一緒に楽しもうね!』
「しょう……」
「タツ、よく見てな」
翔也は達斗の肩に手を置きながらその横を通り過ぎ、フィールドについた。
『あなたも可愛いねぇ、さっきの子のお友達かな?あれ、そういえばどこかで……』
「……メイたん」
メイの質問に答えず、翔也は不敵な笑みで言った。
「宣言する。俺は、メイたんに勝つ。勝負だ!」
その宣言は、ただのバトルに対する勝利宣言ではない。
それを察したメイは嬉しそうに笑い、ウインクした。
『あはっ⭐︎それいいね!すっごく良いよ!!
メイたんのバトルで、あなたもメロメロにしてあ・げ・る❤️』
つづく
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