第1話「お前のダントツを喰わせろ」
千葉県富津市、とある山奥にあるフリックス研究施設『フロンティア』。
その研究室で、一人のフリッカーがVR器具のようなものを頭に装着し、そのそばで白衣を着た男がコンピュータのキーボードを叩いていた。男の白衣には『白井』と言う名札がついている。
モニターには、そのフリッカーが見ているであろうVR空間が広がっている。
白井「よし、準備OKだ。いつでもはじめていいぞ、カイヤ」
カイヤと呼ばれたフリッカーはコクリと頷くとシュートの構えを取った。
するとVR上に聖剣を模したような機体が現れ、そしてその機体に敵対するかのように無数のフリックスが現れた。
カイヤ「3.2.1.アクティブシュート!」
カイヤのシュートモーションに合わせて聖剣のフリックスが無数の敵機に向かって突っ込んでいく。
カイヤ「進入角度3.5°修正、旋回範囲50R……」
ブツブツと数値を呟きながら、剣で薙ぎ払うようにあっという間に敵機を全て撃破した。
白井「全機撃破!シミュレーションレベルMAXクリアだ」
カイヤ「……ふぅ」
カイヤは機器を外して一息付いた。額に汗を滲ませているカイヤへ白井がタオルとドリンクを渡した。
白井「お疲れ、カイヤ。調子は完璧だな」
カイヤ「いえ、最後の一機への反応が0.2秒遅れました。完璧とは言えませんね」
白井「そんなもの、誤差の範囲だろう。そこまで突き詰めなくとも、今の君に敵うフリッカーはいないさ」
カイヤ「関係ありませんよ。僕はただ、今よりも高みへ行きたいだけですから」
白井「相変わらずだな、君は」
カイヤ「ですが、ここのトレーニング設備も少々マンネリになってきましたね」
白井「ふっ、安心したまえ、君が望むものなら私は何でも用意してみせよう。最強の機体であれ、ライバルであれ、ね」
トゥルルルル♪
白井のケータイが鳴る。
白井「もしもし、私だ。……なに?あの機体の所在が判明した?分かった、すぐに詳細を送ってくれ」
白井はケータイを切ってカイヤへ話しかけた。
白井「早速、君の望むものを与えられそうだ」
カイヤ「期待しないでおきますよ」
……。
………。
富津岬。灯台や広場もあるこの娯楽施設で二人のフリッカーがフィールドを挟んで対峙していた。
一人はごく普通な見た目をしたごく普通そうな少年、もう一人はボロボロな風貌の旅人のような少年だ。
新一「俺の名前は新井新一。君、ここらじゃ見かけないけど観光客か何か?」
ダンガ「……ダンガ。美味いバトルを求めて旅をしている」
新一「美味い、バトル……?」
ダンガ「お前のダントツを喰わせろ……!」
……。
バトルはダンガが勝利した。
新一「いやぁ、まいった!強いなぁ君」
ダンガ「美味かったぞ、お前とのバトル」
新一「美味かったって、バトルを食べたの……?」
ダンガ「クンクン……美味そうなバトルの匂いだ。あっちか!」
ダンガは駆け出していった。
新一「……変わったフリッカーだなぁ」
……。
海岸沿いの道を小さな少年がアタッシュケースを持って走っていた。
その後ろをチャリンコに乗った不良集団が追い掛ける。
アキラ「はぁ、はぁ……!」
タイラ「てめぇ待ちやがれぇ!!」
ケイ「逃げても無駄だよ!」
必死に逃げたが壁に追い詰められる。
タイラ「さぁ追い詰めたぜぇ」
アキラ「うぅ……!」
コウキ「チビ!いい加減大人しくその機体を渡せ!」
アキラ「嫌だ!この機体は、誰にも渡すわけにはいかないんだ!」
コウキ「強情な奴だな。優しくされてるうちが花だぜ?」
タイラ「コウキ様、こんな奴とっととやっちゃいましょうぜ」
コウキ「そうだな。穏便に事を運びたかったが、こうもつけ上がられちゃ武闘派フリッカー集団『ダスト』の名が廃るってもんだ。悪く思うなよ、チビ」
不良集団が機体を構えて少年に向ける。
アキラ「っ!」
死を覚悟して身構えたその時……!
ドゴォォォ!!
背後の壁に穴が空き、そこからダンガが現れた。
ダンガ「腹が減ったぞぉぉぉぉ!!!」
ダンガの突然の登場に場は混乱した。
コウキ「な、なんだてめぇ!いきなり現れやがって!!」
ダンガ「あぁ〜、匂いはここからか」
ケイ「え、あたいそんなに体臭キツい!?」
ダンガ「違う。バトルの匂いだ」
タイラ「バトルの匂いだぁ?何言ってんだこいつ」
コウキ「おい、誰だか知らねぇが俺達はそこのチビと大事な話があるんだ。部外者はすっこんでろ」
ダンガは凄んでくるコウキを無視して不良集団を見定めた。
ダンガ「人数は、いち、に、さん……いっぱいか。大盛り無料ってとこだな」
コウキ「無視すんじゃねぇよ!」
ダンガ「しかもイキがいいな。喰いごたえがありそうだ」
コウキ「あぁ?」
ダンガの空気読めない発言の連続に一触即発のムードになる。
が、これは少年にとっては渡りに船な展開だ。
アキラ「あ、あの、助けて!僕、あの人達に襲われてて……!」
ダンガ「知るか。お前は不味そうだ、引っ込んでろ」
アキラはビクッとしてダンガの後ろに隠れた。
対応は冷たいが結果として守られる形になる。
ダンガ「俺の名はダンガ。お前達もフリッカーなら俺とバトルしろ」
コウキ「あん?てめぇ、この俺様を『ダスト』のリーダー、早乙女コウキと知ってて舐めた口聞いてんのか?」
ダンガ「ダスト?なんだそれは」
コウキ「知らないなら教えてやる!俺達はなぁ、空に輝く一番星、スターダストのようにフリッカー界にその名を轟かせる武闘派集団!それが『ダスト』よ!」
アキラ「……ダストって、ゴミクズって意味じゃ」
コウキ「誰がゴミクズだとぉ?」
アキラ「ひぃぃ、ごめんなさい!それで、合ってます!」
ダンガ「何でもいい、早くしろ。俺は腹が減っているんだ」
コウキ「こいつ……!」
タイラ「こんな奴、コウキ様が出るまでもねぇ!俺が捻り潰してやりますよ!」
ダンガ「ほぅ、大盛りかと思ったらフルコースか」
タイラ「ふざけた事はこいつを見てから抜かせ!」
アキラ「あ、その機体は……!」
タイラが得意げに機体を見せつける。
タイラ「オルカシャーク!旧式だが、名機だぜぇ?」
ダンガ「それがどうした」
ダンガも機体を見せる。
タイラ「げぇ!?その機体は……!」
アキラ「ハンマーギガ!?」
ケイ「なんでこんな奴がハンマーギガみたいな名機を……!」
タイラ「けっ!名機使ってりゃいいってもんじゃねぇんだよ!!」
タイラとダンガのバトル。
あっさりとダンガが勝利し、タイラの右腕にぶっ飛ばされた機体がぶち当たる。
タイラ「ぐあああああ!!う、うで、腕がああああ!!!」
ダンガ「前菜にしてはまずまずだな」
タイラ「ぐ、くそ……例え腕が捥がれようと、コウキ様の邪魔するやつはこの俺が……!」
ケイ「タイラ、無理はいけないよ。次はあたいが相手になってやる」
タイラを庇うようにケイが前に出るのだが、それをコウキが制した。
コウキ「ケイ、お前も下がれ。こいつは俺が始末する」
ダンガ「いきなりメインディッシュか。ここのシェフは随分せっかちだな」
コウキ「言ってろ、ボコボコにしてやる。このグランドファングでな!!」
ダンガとコウキがシュートの構えを取る。
ダンガ&コウキ「「アクティブシュート!!」」
バキィ!!
同時にシュートで2機のフリックスがぶつかり弾け飛ぶ。
アキラ「ど、同時場外!?」
コウキ「なに、俺のグランドファングを弾き飛ばしやがった!」
ダンガ「やるな……最高のご馳走にありつけそうだ」
コウキ「ちっ、まぐれは二度続かねぇぜ!」
再び、二人はシュートの構えを取った。
コウキ「いけぇ!グランドファング!!」
ダンガ「喰らえ!ハンマーギガ!!」
先ほど以上の勢いで突っ込んでいく2機だが……。
???「薙ぎ払え!エクスカリバーゼノ!!」
突如、聖剣を模した機体が間に割って入りスピンで2機を薙ぎ払った。
ダンガ&コウキ「「なにぃ!?」」
驚く一同に、カイヤがゆっくりと歩いてきた。
カイヤ「君は播磨博士の息子だね、随分探したよ」
アキラ「あ……!」
コウキ「てめぇ、カイヤ……!」
タイラ「な、なんでチャンピオンの氷刃(ひょうじん)カイヤがここに!?」
カイヤ「君達は、大方例の機体を巡ってバトルしてたんだろうがそれは無効だ。あの機体の所有権は我々にある。さぁ、大人しく渡したまえ」
アキラ「で、でも……!」
カイヤ「僕は彼らと違って暴力に訴えはしない。が、ルールは誰の味方をするか、賢い君なら分かるだろう?」
アキラ「……!」
アキラは悔しそうに、抱えていたケースから機体を取り出す。
ダンガ「待て!!!」
ダンガが怒声を張り上げた。
ダンガ「貴様、よくもやってくれたな……!」
ダンガの手にはボロボロに破損したハンマーギガが握られていた。さっきの衝撃で壊されたのだろう。
カイヤ「あぁ、君の機体壊れちゃったのか。すまなかったね、そこまで脆いとは思わず加減を間違えてしまった。お詫びと弁償はまた後日に……」
ダンガ「そこじゃねぇ!!何故俺の食事の邪魔をした!!!」
カイヤ「食事……?」
ダンガ「久しぶりにありつけたご馳走を台無しにしやがって!食い物の恨み、お前とのバトルで払ってもらうぞ……!」
カイヤ「……言っている意味はよく分からないが、バトルを中断させられた事を怒ってるのか?なら、それも後日に」
ダンガ「ふざけるな!!俺は腹が減ってるんだ!今すぐ戦え!!!」
カイヤ「戦えって、君の機体は壊れてるじゃないか」
ダンガ「なら、こいつの持ってる機体を俺に貸せ!それでバトルしろ!!」
ダンガはアキラの持っている機体をぶん取った。
カイヤ「……なんだって?」
ダンガ「この機体はお前の所有物だと言ったな?そしてお前は俺に詫びるとも言った。この機体を俺に貸して今すぐバトルする事が、俺への詫びだ!!」
アキラ「え、だ、ダメだよ!その機体は特別で……!」
ダンガ「お前は黙ってろ!」
カイヤ「……めちゃくちゃな言い分だが、一応筋は通ってるな。いいよ、バトルしよう」
カイヤはあっさりと了承した。
ダンガ「お前のダントツを喰わせろ……!」
つづく
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