第8話「結成!小竜隊」
成都小学校5年2組のクラスメイト達で開かれた、ナガトの退院祝いパーティ。
フリックスのトーナメント大会も開かれ盛大に盛り上がったこの会だが、その最後の最後で主催者である黄山先生から驚きの特別ゲストが紹介された。
「「「雲野リュウジ!?」」」
会場に入ってきた年上の少年を見た瞬間、ゲンジユウスケツバサの3人は同時に声を上げた。
「やぁ、久しぶりだな。ゲンジ、ユウスケ……それに、関ナガト」
リュウジはそれぞれの顔を見回しながら友好的に笑顔を向ける。そして、ナガトとも目があった瞬間……。
「っ!」
ナガトは、何か言い知れぬ不快感のようなものを覚えた。
キキーッ!!ガンッ!!!
脳裏に蘇る忌まわしき記憶、反転する世界、ブラックアウトする視界、けたたましいブレーキ音にゴムの焦げた嫌な匂い……そして……。
「ナガトくん?」
急に顔を硬らせて黙り込んだナガトへ、ユウスケが心配そうに声をかけると、ナガトは首を振った。
「い、いや、なんでもない」
「?」
ユウスケは首を傾げるもそれ以上追求せずに、再びリュウジと黄山先生の方へ向いた。
「な、なんでリュウジがこんな所に?」
目をパチクリさせながらゲンジが問うと黄山先生が呆れた顔で答えた。
「さっき言ったじゃろ、雲野はワシが転勤する前の学校で教え子じゃったと」
「ちょっと前にこっちに越してきたんだけどさ、先生が転任した学校が近くにあるって事を知って嬉しくなって久しぶりに会いに行ったんだ……そこで、君達の話を聞いてね。まさかGFCで俺と戦ったフリッカーが黄山先生の生徒だったとは」
「い、いや、先生とリュウジの関係の事じゃなくて……!」
「どうしてわざわざここに……?」
「あっ!まさか、ここでリベンジしようってのか!?」
「違う違う」
リュウジは笑って否定した。そもそもリベンジしたいならナガト杯に参加するだろう。
「って事は……ウチらの強さに恐れをなして敵情視察にでも来たんか?」
「ははは!こんな堂々とスパイには来ないさ!むしろその逆……」
リュウジは、コホンと小さく咳払いした後、ゲンジ達4人を順に見回して言った。
「君達4人を俺が今から結成するチーム『小竜隊』にスカウトしようと思ってね!」
「「「スカウトォォ!?」」」
ゲンジ、ユウスケ、ツバサは素っ頓狂な声を上げた。
「チ、チームってどないこっちゃねん!?フリックスは個人技やろ?」
「いや、フリックスにもチーム戦はあるんだぜ。君達は『赤壁杯』って大会は知らないかい?」
「せき」
「へき」
「はい?」
3人はキョトンとしながら首を傾げる。
「おい、誰かせきへき杯って知ってるか?」
「いや、知らねぇ」
「なんか舌噛みそうだな」
周りにいるクラスメイトも口々に話すが誰も赤壁杯を知ってるものはいなかった。
その様子に、リュウジは少し残念そうに苦笑した。
「は、ははは……まぁ、まだマイナーだから仕方ないか。赤壁杯ってのは3.4年くらい前から毎年開催してる、5人1組のチームで戦うフリックスの団体戦さ」
「団体戦……なんてものがあったんだな」
「う〜ん、タッグ大会ならずっと昔に開催されてたって話は聞いた事あるけど」
「あっ!あと、段田バンが初めて優勝した世界グランプリは3人1組のチーム戦だったんだっけ?」
「あぁ、それはよう知っとるで!段田バン、遠山リサ、伊江羅ザキの『ダントツウィナーズ』やろ!」
「そういえば!……でもその次の大会から個人戦になったんだよね」
「確か、世界大会の後に段田バンが非公式で開いた『ダントツウィナーズ内の真のダントツ決定戦』が影響ってのはなんかの本で読んだ事ある」
「あぁ、ウチも生で観たかったなぁその試合……」
「世代的に無理だけどね」
口々にそれぞれの知識を披露し合うゲンジ達へ、リュウジがそろそろ口を挟んだ。
「オホン。まぁ、日本は段田バンの影響大きいからなぁ。でも、海外では割とチーム戦が盛んでな、日本も遅れずにチーム戦に力を入れようって事になって赤壁杯が企画されたってわけさ」
「へぇ……」
「グローバル化って奴やな」
「ちょっと違うと思うけど」
リュウジの説明に三者三様の反応だ。
「俺も前に住んでたとこでチームを組んで、毎年出場はしてたんだが、今年は引っ越しでチームから脱退する事になってさ。それで、新しいチームメイトを探してたのさ」
「あぁ、それでグレートフリックスカップで……!」
GFCでのリュウジの不可解な態度や言動に合点がいった。
ライバルを倒して自分が1番になるためじゃなく、共に戦うに値する仲間を見定めるために出場していたのなら、助言して相手を強くした結果自分が負けても何も問題はないわけだ。
「まっ、そう言う事さ。で、どうだい?俺の誘い、受けてくれるよな?」
リュウジは再び四人を見回して念を押すように問うた。
物腰は柔らかのようで、静かな圧を感じさせる視線にゲンジ達は答えを窮した。
「な、なんか急に言われてもなぁ」
「う、うん……」
ゲンジとユウスケはお互いの顔を見合わせながら曖昧に言葉を濁す。そんな2人に変わって、ナガトが口を開いた。
「……あの」
しかし、ナガトから出た言葉はリュウジの提案とは全く別の話題だった。
「もしかして、以前俺と会った事あります……?」
ナガトは、どこか虚な表情でリュウジへ質問した。
「……なぜだい?」
リュウジは何か探るような間を置いて、そう聞き返した。
「いや、さっき俺の名前を呼んでたから……」
その言葉を聞き、リュウジはフッと息をついて答えた。
「あぁ、よく知ってるさ」
「っ!」
リュウジの瞳からは感情が読み取れない、あくまで飄々としている。しかし、その真意の読み解けない視線にナガトは動悸が激しくなるのを感じた。
「関ナガト……数年前に小学3年ながら全国大会で上位入賞したフリックス界の神童、だろ?フリッカーで君の名を知らない方がモグリってもんさ」
「……あぁ」
なんと言う事はない。特に鼻にかけるつもりはないが、一応そこそこの有名人らしい事は自覚している。ならば名前くらい知られていて当然だろう。
ナガトはホッと胸を撫で下ろした。
「……」
しかし、それと同時に何故こんな事で安心したのか……いや、そもそも安心しなければならないほどの不安を何に感じていたのか。
新たな疑問が浮かびそうになったのだが、隣から聞こえてきた喧しい声によって掻き消された。
「そら、関ナガトはフリッカー達の憧れやからなぁ!そんなナガトと一緒にチーム組んで戦えるなんて夢のようやで!!」
ツバサの弾んだ声を聞き、リュウジは身を乗り出した。
「おっ!って事は、ツバサは俺のスカウトを受けてくれるんだな!」
「当然やろ!またとない機会やもんな!」
「おいツバサ、お前またそんな考え無しに……」
「ゲンジこそ何を躊躇する事があるんや?丁度でっかい大会が終わって気が抜けそうになってた所なんや!グッドタイミングやないか!」
「そりゃ、そうかもしれないが」
「ははっ、ツバサの言う通りだな。GFCに出られなくて燻ってたんだ。新しい目標が得られるなら、この誘いに乗らない手はない!」
「ナガト、お前まで……!」
「なんだゲンジ、出ないのか?」
ナガトの挑発的な口調にゲンジはムッとして言い返した。
「お、俺だって前向きには考えてたっての!ただ、少しくらい覚悟する間があったっていいだろ!」
「どうせ出るんやったら同じ事やん!んで、ユウスケはどないするんや?」
「……少し不安はあるけど、僕もみんなと一緒に戦ってみたい!」
控えめながらもユウスケの肯定的な返事にリュウジの顔が綻ぶ。
「よしっ、これで決定だな!よろしく頼むぜ、皆!」
リュウジは笑顔で握手を求めるように手を差し出した。
「あ、あぁ!」
まずゲンジがその手を握り、そしてツバサ、ナガト、ユウスケがそれに重ねるように手を置いた。
その様子を見て、黄山先生は満足そうに何度も頷いた。
「うんうん、世代を超えた我が教え子達の友情……教師冥利に尽きるのぅ……」
「ところで、チーム名の『小竜隊』ってのはどこから出てきたの?」
「あ、もしかしてウチのワイバーンから取ったんか!?ワイバーンは翼竜やからな!」
「それを言ったら俺のドラグナーだって青龍じゃないか」
「でも、リーダーがリュウジさんなら竜よりも馬に関係する名前の方が良いんじゃ……?」
「あ!自分の名前が“リュウ”ジやからやないか!?」
「え、ダジャレ……?」
そんなくだらない理由で付けられたチーム名なのか?と、ゲンジ達がリュウジへ視線を向けると、リュウジは苦笑して黄山先生の方へ目を逸らした。
「いやぁ、ははは……チーム名は俺が決めたんじゃなくて」
「ワシの好みじゃ!ええじゃろう?」
「「「は?」」」
何故かドヤ顔する黄山先生に一同は口をポカーンと開けた。
「黄山先生、最近カンフー映画にハマッてるみたいでさ……」
「なんじゃなんじゃ!ワシのセンスに文句でもあるのか!?」
「あ、いえ、チーム名自体は普通に良いと思うんですけど……」
「なんで部外者の先生が名付け親してんですか……」
「何を言う!ワシはこの小竜隊の特別顧問じゃぞ!!」
「「「ええーーー!!特別顧問ーーー!?」」」
「顧問って、これ学校の部活動とかじゃないですよね?」
「そう言うわけではないが、せっかくワシの受け持っている児童がこんな面白そうな事しとるんじゃからな。黙って見てるのも勿体無いじゃろ!」
「そんな理由……?」
「なんや、興味本位かいな……」
「それに、お前達子供だけで活動資金はどうする?練習場所は?大会遠征のための足は?交通費は?」
「うっ……!」
この中に特別金持ちがいるわけじゃない。子供だけでチームを作って競技活動をするのは難しいだろう。
「だ、だけどこれ先生のプライベート活動になりますよね?いくらなんでも悪いですよ……」
「その点なら問題ないぞ!クラブでは無いが、課外活動として申請しておいたからの!放課後は空き教室を練習場所として使わせてもらえるようになった」
「職権力すげぇ……!」
「もちろん、あくまで課外活動じゃからな、お前らメンバーだけを特別扱いは出来ん。5年2組のクラスメイトは全員参加自由じゃ!」
黄山先生の言葉にこの場にいる皆が歓喜の声を上げた。
「「「やったーー!!」」」
「雲野にスカウトされたからってウカウカしとると、足元を掬われるかも知れんぞ?」
「は、ははは……なんかどんどん話が大きくなってきたなぁ」
「フッ、そう言うわけだ。早速明日から放課後は毎日チームプレイの練習をするが、大丈夫かい?」
「まぁ、俺たちは元々放課後はフリックスやってるし」
「何も問題ないで!」
「よし!ビシビシいくから、覚悟しておけよ!!」
と、こんな感じで話はまとまり。あとは時間いっぱいまで退院パーティを楽しんでお開きとなった。
……。
………。
そして、それから数日。放課後は毎日空き教室にクラスのフリッカー達が集まって小竜隊の練習会が開かれる事になっていた。
「いっけぇ!」
「負けるなぁ!!」
北校舎の隅にある空き教室では机をいくつも並べてそれをフィールドにして何人もの児童達がフリックスのフリーバトルに勤しんでいる。
「なんか部活みたいだね!」
「俺達もがんばれば、レギュラー入り出来るかも!?」
練習と言うよりは遊んでいるような雰囲気だが、対称的にレギュラーメンバーであるゲンジ達はリュウジの指導の元厳しい練習メニューをこなしていた。
「よし、じゃあゲンジにツバサ!準備はいいな!?」
「おう!」
「いつでもええで!」
ゲンジとツバサはお互いに並んで機体を構え、数十cm先にある中身の入った2lペットボトルへ狙いを定めていた。
ナガトとユウスケはそんな二人を側から見学している。
「3.2.1.アクティブシュート!」
「「いっけぇ!!」」
ゲンジとツバサはほぼ同時シュートし、ターゲットのペットボトルを狙う。
しかし、スピードではワイバーンの方が勝るのか、ドラグナーよりも前に出る。
「ブッちぎりや!!」
しかし、パワーが足りずにペットボトルに接触して逆に弾かれてしまう。
「いぃ!?」
「ぶっ飛ばせドラグナー!!」
バキィ!!
遅れてターゲットへぶつかったドラグナーは、そのパワーによって見事ターゲットを倒す事に成功した。
「やったぁ!!」
「ふぃ〜、どうにか成功やな」
ターゲットを倒した事でゲンジとツバサは満足気な顔をするのだが……。
「ダメだダメだ!全然ダメだ!!」
リュウジは厳しく否定する。
「えぇー」
「なんでやねん!倒したやん!」
「はぁ……最初に言っただろ。同時にターゲットに攻撃をヒットさせろって」
リュウジは額に手を当てながらため息をついた。
「んなこと言うたかて、ドラグナーが遅すぎるんや……」
ツバサが愚痴るとゲンジはムッとした。
「なにぃ……!大体、ターゲットを倒したのはドラグナーの方じゃないか!あとはツバサがこっちに合わせろよ!」
「なんやて!?ウチのワイバーンはスピードが強みなんや!ゲンジこそ、スピード上げるためにウェイトを軽くせぇ!」
「軽くしたらドラグナーのパワーが落ちるじゃないか!」
言い合いを始めそうになるゲンジとツバサをリュウジは無理矢理諌めた。
「ああもう、喧嘩は終わった後にしろ!とにかく、息を合わせるんだ。最高速度に差が出るなら、シュートタイミングをズラせばいい」
「「は〜い」」
リュウジに言われた通り。ツバサはゲンジよりワンテンポ遅らせてシュートする事にしたのだが……。
バキィ!!
「まだツバサのシュートが早い!」
バキィ!!
「今度は遅すぎだ!もっと早く!!」
バチーーン!
今度は、タイミングバッチリだがそれゆえにドラグナーとワイバーンが接触してお互いに弾かれた。
「「うわぁ!!」」
二機のフリックス接触による衝撃でゲンジとツバサは尻餅をついた。
「集中力が切れてるぞ。本番のつもりでやるんだ!」
リュウジの叱責を聞きながらゲンジとツバサは機体を拾い、そして動きを止めて黙り込んだ。
「……」
「……」
「どうした?次行くぞ、早く準備を……」
「ええい、なんやねんこの練習は!!」
我慢の限界だったのか、ツバサが叫ぶ。
「基礎トレーニングが終わったかと思ったらこんな意味の分からん練習ばっかり繰り返させよって!もううんざりや!」
「いくらチーム戦だからって、攻撃のタイミングを合わせるなんて意味あるのか……?」
不貞腐れ始めた二人を見て、リュウジはやれやれと言った感じで口を開いた。
「悪い、少し根を詰め過ぎたか。ナガト、ちょっといいか?」
「え?」
急に振られて、ナガトはキョトンとする。
「手本を見せる。出来るよな?」
「え、あ、まぁ……」
さっきまで見てただけのナガトだが、戸惑いながらもしっかりと首肯した。
ナガトとリュウジは先程のゲンジとツバサと同じように二人並んでターゲットを狙う。
「ナガト、好きなタイミングで撃っていいぞ」
「了解。……いけっ、マイティオーガ!」
バシュッ!
マイティオーガがターゲットへ向かって突進していく。
「いくぞ、ソニックユニコーーーーン!!」
ワンテンポ遅れてソニックユニコーンをシュートする。
スピードではユニコーンの方が勝っているので徐々に追いついていく。
そして、ターゲットはたどり着く時には、ほぼ同時にヒットした。
その時だった。
バコオオオオオ!!!!
信じられないほどの勢いでペットボトルが吹っ飛んで、倒れた。
その迫力は、さっきまで自由に遊んでいた児童達が一斉に注目するほどだった。
「すげぇ、なんだ今の!?」
「フリックスってこんなにパワーが出せるのか!?」
リュウジは一息付いてナガトへ声をかけた
「ふぅ、1発で成功とは、さすがナガトだな」
「いや、リュウジが合わせてくれただけさ」
そしてゲンジとツバサもクラスメイト達と同じように驚愕していた。
「な、なんや、あのパワー……!」
「あの2機に、あんなパワーが隠されていたなんて……」
「いや、マイティオーガもソニックユニコーンも、ドラグナーやワイバーンみたいに爆発的に火力を出せるような機体じゃない」
「え、でも今のは……!」
「これがチームの力だ。二機以上のフリックスが同じターゲットへ同じタイミングで攻撃をヒットさせる事で、力の逃げ場を完全に奪い衝撃を効率よくターゲットへ伝える。それによって、二機分以上の攻撃力を出せるってわけだ」
「これが」
「チームの力……?」
「ただ、この力を1番活かせるのはチームのアタッカーを担うゲンジとツバサだ。だから二人にこの練習を課したんだ」
「そういう事だったのか……」
「よーし、やるでゲンジ!こないな凄いもん見せられたら俄然やる気も湧いてくる!」
「おう!!」
やる気を取り戻した二人は再び練習に勤しむ。
バゴォ!!バキィィ!!!
まだ成功には遠いが、徐々にタイミングがあって来ている。マスターするのも時間の問題だろう。
「よし、この二人は大丈夫そうだな。それじゃあナガトとユウスケ、俺達はどちらかと言うと搦手で攻めるタイプだ。爆発力がない分、臨機応変な連携がより重要になる。あらゆる状況でも対応出来るように、シチュエーション練習だ」
「「はい!」」
ナガトとユウスケもリュウジに従って三人での連携プレイ練習に勤しんだ。
様々な立ち位置でも攻撃が通じるように、連携してマインヒットを決めていく。
「ユウスケ、前方15cm先にシュートして機体を止めてくれ」
「はい!」
リュウジに言われた通りにシュートするユウスケだが……!
「あっ!!ごめん、ちょっと力が足りなかった……!」
リュウジの指示よりも少し手前で機体が停止する。
「いや、大丈夫だ。いけっ、マイティオーガ!!」
バシュッ!
ナガトはややスピンさせながらマイティオーガをシュートし、サイドの角をアリエスのスポンジへ当て、バウンドさせる。
そしてマインを弾き飛ばして、通常なら難しい位置のターゲットへ見事にマインヒットを決めた。
「よし!」
「あ、ありがとうナガトくん」
「ナイスリカバリーだ、ナガト!ユウスケも、良いシュートだったぞ。でももう少し自信を持て」
「は、はい……!」
(まだぎこちないが、素直で協調性がありチームの壁となってサポートに徹するユウスケ。
類稀なセンスとアドリブ力で状況を切り開くナガト。
……うん、良い感じに仕上がって来たな)
リュウジはメンバー達の予想以上の仕上がりを確認して満足気に頷いた。
ガララ……!
その時、ノックもなしに教室の扉が開かれ黄山先生がプリントの束を持って入ってきた。
「おっ、今日も精が出とるな!結構結構!!」
「黄山先生」
リュウジが先生の方へ歩み寄ると、先生はプリントをリュウジへ手渡した。
「おう、雲野!例のチームからの返信来とったぞ!快くOKしてもらった!!」
「ほんとですか!?よかったぁ……」
プリントを受け取って、ホッと胸を撫で下ろしたリュウジは教室にいるみんなへ向かって呼びかけた。
「皆!ちょっと集まってくれ!」
リュウジの言葉に、児童達は練習の手を止めてぞろぞろを集まって来た。
「どうしたんだ、リュウジ?」
「せっかく感覚掴んできた所やったのに」
何故集められたのか分からず、皆怪訝な顔をしている
「チームを結成してから数日、そろそろ連携プレイにも慣れてきたと思う。そこで今度の日曜日、その成果を試すために江東区にあるフリックスチームと練習試合をする事になった!」
「「「練習試合!?」」」
「ああ!これがそのチームの情報だ」
リュウジは集まって来た児童一人一人にプリントを配る。
「江東館……?」
プリントに書かれているチーム名を読んでみた。
「あぁ。歴史あるフリックス道場のチームだ。赤壁杯にも第1回から出場している、チーム戦のエキスパートだ」
「い、いきなりそんな凄そうなチームと……!?」
「なにビビッとるねん!練習なんやから強い奴とやらんと意味ないやろ!」
「ツバサの言う通りだ。これはあくまで練習試合、負けても問題はない。しかし、だからこそより強い相手に全力で勝ちに行ってこそ意味があるんだ」
「よし!練習して強くなったドラグナーの力を見せてやる!」
「今の俺達の実力がどれほどのものか、試すにはちょうど良いな」
それぞれ、やる気は十分なようだ。
「よし、それじゃあ試合当日までは打倒江東館に目標を絞って特訓だ!ビシバシ行くぞ!!」
「「「おーーーー!!!」」」
新たに明確な目標を得て、小竜隊はより一層士気を高めるのだった。
……。
………。
ちょうどその頃。
小竜隊の方で話題に上がった東京都江東区にあるフリックス道場『江東館』。
課外活動と言う名目で学校の空き教室を使っている小竜隊とは違い、立派な建物と設備の中で多くのフリッカー達が稽古に勤しんでいた。
その中で一際強そうなオーラを放っているフリッカーが数名おり。
彼らは他のフリッカー達よりも整った設備で稽古をしていた。
「よし、じゃあ組み手を始める!まずはシメイとケンタだ!!」
「押忍!」
「お、おす……!」
彼がキャプテンなのだろう。1番長身で最年長っぽい少年が言うと、シメイと呼ばれたパーマの掛かった長髪の少年は元気よく返事をし、ケンタと呼ばれた比較的背の小さな少年は弱気な返事をした。
「ケンタ、落ち着いていけ。お前だって確実に強くなってるんだ」
「う、うん、分かってるよ、兄ちゃん」
緊張気味にフィールドへ向かうケンタへキャプテンは優しげに声をかけた。
そして、二人がフィールドについて機体を構える。
「いくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!」
「エメラルドエイグル!!」
「頑張れ、ディバイトバイフー!」
ガッ!
シメイの扱うエメラルドエイグルの特攻をケンタのディバイトバイフーが踏ん張って受け止める。
「いいぞ……!」
「甘いっ!」
バッ!!
エイグルがバイフーを乗り上げるように飛び上がり、フィールドの奥で着地した。
「先手、シメイ!」
「先ずればバトルを制す!!」
諺を叫びながら、シメイは先攻を活かしてマインヒットを決めた。
「くっ!」
ケンタも反撃でマインヒットを決めるが、ダメージレースでは不利だ。
「雀の巣も構うに溜まる、1ダメージの積み重ねが勝利に繋がる!」
バシュッ!
またもあっさりマインヒットを決めてケンタの残りHPが1になった。
「こ、このままじゃ……!」
圧倒的に不利な状況だ。ケンタは改めて盤面を見た。
現在、エイグルがフィールド端にあり、その横に少し間を空けてマインがある。
そして、もう一つのマインはかなり遠い……。
「ここは……!」
バシュッ!ガキンッ!!
ケンタはエイグルとマインの間を狙うように撃ち、両方にぶつかってマインヒット。更にマインを落とす事に成功した。
「これでどうだ!」
「ケンタ……」
ケンタの取った戦術を見て、兄であるキャプテンは少し落胆の表情を浮かべた。
「生兵法は敗北の元だぞ!!ハァァァ!!!」
シメイはエメラルドエイグルの変形翼を広げてシュートし、マインが遠くにあったにも関わらず余裕でマインヒットを決めた。
「勝負あり!勝者、エメラルドエイグルのシメイ!!」
「「あーしたァ!!」
キャプテンが高らかに宣言すると、二人は礼をしてフィールドから離れた。
「はぁ、また負けた……」
ケンタはガックリと肩を落としてため息をついた。
「ケンタ、何故最後のシュートでフリップアウトを狙わなかった?逆転する絶好のチャンスだったじゃないか」
「だって……自滅するかもしれないし、それに万が一シメイ君がマインヒットを失敗すればそれでも勝てると思ったから……」
「あのなぁ、シメイがマインヒット失敗するわけないだろ。万が一は相手の失敗よりも自分の成功に賭けろよ」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、だな。ケンタとバイフーの力なら十分狙う価値はあるだろう」
「わ、分かってるけどさ……」
二人に責められ、ケンタはますます身を縮めた。
「はっはっはっ、弟くんの育成に苦戦してるようだね、西嶋サクヤ」
と、いつの間にそこにいたのか、かつてゲンジに青龍のフリックスを与えた男、諸星コウが近くに来ていた。
西嶋サクヤ、それがこのキャプテンの本名らしい。
「諸星、コウ……!何の用だ?約束の日は次の日曜のはずだが」
サクヤは厄介者でも見るかのように言った。
「おいおい、僕は大事な機体を預けてるんだぜ。様子を見に来たっていいだろう?」
コウは大袈裟に肩をすくめながら言った。
「……そうだな。失礼した」
「しかし今の様子だと、やはりあの機体はサクヤ、君が使った方が良いように思うがね」
「前にも言ったが、俺には愛機[こいつ]がいる。それに、バイフーを1番使いこなせるのはケンタだ。こいつは俺よりもフリッカーとしての才能がある」
「兄ちゃん……」
「フッ、ブラコンなのは結構だが、僕も慈善家じゃない。僕らは利害関係である事は忘れないでくれよ?」
「もちろんだ。……次の日曜、千葉のフリッカーチームと試合をする事になった。そこで答えを見せてやろう」
「そんな短い期間で、答えを提示できるのかい?」
コウが挑発的に言うと、シメイが口を出した。
「男子三日会わざれは刮目して見よ、とも言うだろう」
「ふっ、はははは!是非とも刮目させて欲しいものだね!!じゃ、楽しみにしているよ、西嶋ケンタ」
コウは愉快そうに笑いながら歩き出し、江東館を出て行く。
ケンタはバイフーを大事そうに握り締めながら不安気な表情でコウの背中を眺め続けた。
つづく
CM