第7話「勝てるか!?マイティオーガ!」
パパン!パーーン!!
「「「ナガトくん、退院おめでとう〜!!」」」
小気味良いクラッカーの音と共に児童達の祝いの声が上がる。
グレートフリックスカップから数日後、無事に退院できたナガトのために担任の黄山タダヨシ先生が少し広めのレンタルルームを借りて放課後に退院祝いのパーティを開いてくれたのだ。
煌びやかに飾り付けられた内装に、中央に並べられた長机には豪華な料理が用意されている。
「ありがとう皆!でも、なんか大袈裟で照れ臭いなぁ……」
「それだけ皆、関の帰りを待ってたって事じゃ!嬉しいじゃないか!わしはこんな友達想いのクラスを受け持って幸せじゃぞ!」
照れ臭そうにしているナガトへ、黄山先生が肩に手を置いて話しかけた。
「先生……先生も忙しい中、わざわざパーティまで開いてもらってすみません。入院中も寄せ書きの色紙や千羽鶴まで貰ったのに……」
「子供がそんな事気にするな!主役なんだから堂々としておれ!」
黄山先生は豪快にナガトの背中を叩くと、グラスを高く掲げた。
「それじゃ皆、グラスは持ったな?改めて、関ナガトの退院を祝して……」
「「「かんぱーい!!」」」
乾杯を終えると皆好き好きにお喋りしたり料理を食べたり、思い思いに楽しんでいる。
「なんか、こんなに豪勢なパーティ開いてもらえるとは思わなかったなぁ。てっきりホームルーム使ってレクリエーションするくらいだと思ったのに」
「まっ、楽しければなんでもええやん!ナガトは細かい事気にしすぎやで!」
「俺達としても、タダでご馳走食えるのはありがたいしな」
「もちろん、ナガトくんの退院は凄く嬉しいけどね!」
「ははは、なら良かった……これでようやく、俺も戦線復帰できる」
ナガトは機体を取り出して感慨深げに呟いた。
「暫く大きい大会がないのは残念だけど。ゲンジもユウスケも強くなってるみたいだし、新しくツバサとも良いライバルになれそうだし、これからが楽しみだよ」
「本当はグレートフリックスカップ優勝を退院祝いのプレゼントにしたかったんだけどなぁ」
「惜しいところまでは行ったんだけどね」
「そこまでは無茶な期待はしてないよ。けど、まさかゲンジからそんな言葉が聞けるなんてなぁ」
「へ?」
ナガトに苦笑されてゲンジはキョトンとした。
「確かに!最初はGFC出るの渋っとったし、出たら出たで『勝ち負けよりもいいとこまでいきたい』なんてみみっちい態度やったのに!」
「そ、そうだったっけ?……なんて言うか、戦ってるうちにどんどん『絶対に勝ちたい』って思うようになってきてさ。そしたら、バトルしてる最中だけじゃなくて、勝った事も負けた事も全部含めて、今までとは比べ物にならないくらいすげぇ楽しかったんだ!」
先日のGFC決勝戦を思い浮かべながら、ゲンジの声は弾む。
「それが本当のフリックスバトルだよ。『勝っても負けても楽しい』なんてのは、本気で勝とうとして初めて感じられるものなんだ」
「そうだな。なんか俺、やっと本物のフリッカーになれたって気がする」
しみじみと言うゲンジへ対抗するようにツバサも声を荒げた。
「それなら、うちらかて同じやで!なぁ?」
「うん!僕も、グレートフリックスカップに出て凄く強くなれた気がする!負けたのは悔しかったけど、でもそう感じるって事が成長の証なのかなって……」
遠慮がちながら、ユウスケも勝ちへ欲が出てきたようだった。
「ふっふっふっ!ウチもようやくこいつが完成したとこやからな!本当のバトルはこれからやでぇ!!」
ツバサは不敵に笑いながら新型のフリックスを見せて来た。
「こ、こいつは!?」
「前に見せてもらったのと違う……!」
「ウチの新型フリックス、レヴァントワイバーンや!!」
長方形で面で押し出すような形状のその機体はどことなくシールダーアリエスと似ている。
「グレートフリックスカップじゃ、ユウスケにしてやられたからな!それで、シールダーアリエスを参考にしてユウスケと協力して作ったんや!!」
「ツバサちゃんのバトルスタイルだとウィングワイバーンには衝撃が強すぎたから、アリエスみたいな耐衝撃バンパーを取り付けつつ、攻撃用にチューンナップしたんだ」
「そうか、それでアリエスと形が似てるのか……って、ユウスケいつの間にツバサと結託してたんだよ」
「ははは、僕は別に内緒にする気はなかったんだけど。ツバサちゃんに口止めされてて」
「当然やろ!新型機の開発は極秘事項や!」
「はは、確かに。それにしても、ユウスケの技術は相変わらず凄いな。俺のマイティオーガもユウスケの助けがなかったら完成しなかったし」
「そんな、僕なんて大した事してないよ。設計自体は全部ナガト君のアイディアだし」
「ってか、マイティオーガもユウスケが作ったんか!?どおりで手慣れてると思ったで……。って事はウチは神童ナガトのフリックス開発者の機体を手に入れたっちゅー事か!?これはもう負ける気せんで!!」
意外な真実を知ってツバサはますますテンションが上がった。
「おいおい、機体の開発者が同じだからってナガトみたいに強くなれるとは限らないぞ」
「んな事わかっとるわい!」
「……ふっ、なんかますます早く戦いたくなったなぁ」
盛り上がっていく中、ナガトがそうボヤくと、待ってましたとばかりにツバサがいたずらっ子のような笑みを浮かべ、ゲンジとユウスケとアイコンタクトを取った。
「そう言うと思っとったで!そんじゃ、そろそろメインイベントと行こうや!!」
「メインイベント?」
「ゲンジ、ユウスケ!フィールドの準備頼むで!」
「うん!」
「任せろ!」
ゲンジとユウスケが裏手に周り何やら荷物を運び始める。
そしてツバサは用紙を手にして声を張った。
「さぁ、お待ちかねのお楽しみイベント始めるでぇ!
皆ー、特別フリックス大会!ナガト杯をやるでぇ!!参加したいフリッカーはこの用紙に名前を書き込むんや!あの神童関ナガトと戦えるまたとないチャンスや!!」
ツバサの言葉でドッと児童達が押し寄せてきた。
そもそもこの会は自由参加で、クラスの中でもフリッカーやフリッカーとしてのナガトに興味を持つものが主に参加しているのでこの反応は当然だ。
「え、フリックス大会!?って、ナガト杯!?」
「せっかくの復帰戦なんや!パーッとやりたいやろ?もちろん先生の許可は得てるで!」
戸惑うナガトにツバサが説明すると、補足するように黄山先生も話しかけて来た。
「まぁ、学校でやるのは許可出来んが、ここなら問題無いじゃろう。ワシもここではプライベートじゃからな!参加させてもらうぞ!」
黄山先生は笑いながら言うとインフェリアスタッブを取り出した。
「先生……それでHRじゃなくて、わざわざ放課後にレンタルルームを……」
「そんじゃ、そろそろ準備も出来たし、早いとこトーナメント表決めて始めるで!!」
ツバサはホワイトボードにトーナメント表を書き込んだ。
とほぼ同時にフィールドの準備も出来たようだ。
約1m×1mの正方形で、二辺に低いフェンス、もう二辺に高いフェンスが設置してあり、中央には二つほどフリップホールがある。
大会などでよく使われるスタンダードなフィールドだが、それをこのプライベートな場で用意すると言うのはなかなかハードルが高い。
「結構本格的なフィールドだけど、よく用意出来たな」
「へへ、先生に頼んで車で運んでもらったからな!」
「こういう時、大人の力は偉大やからな」
「い、いいのかな……」
「先生もノリノリやったで?」
チラッと先生を見ると周りの児童達に教わりながら辿々しくフリックスの扱い方の練習をしていた。
「実は僕たち、先生から『ナガトくんが1番喜んでくれそうな事は何か?』って相談を受けてたんだ」
「それで、退院祝いのパーティでフリックス大会をやろうって俺達で提案したんだ」
「そうだったのか……だったら遠慮なく楽しませてもらおう!」
ナガトは小さく笑いながらマイティオーガを見つめた。
そして、いよいよ大会が始まった。
トーナメント参加者は全部で16人。ゲンジ、ユウスケ、ツバサ、ナガトは1回戦では当たらないようにしている。
最初の対戦カードはゲンジVS黄山先生だ。
「相手が教え子でも、ワシは手加減せんぞ東堂!」
「……先生、機体の向き逆」
黄山先生はシュートポイントを前に出して構えていた。ゲンジに指摘されると慌てて前後を入れ替える。
「うぉっと、そうじゃったそうじゃった!確か撃てる場所が決まってるんじゃったな」
(大丈夫かな?)
「よし、じゃあやるぞ!まずは、ジャンケンか何かで順番を決めるんじゃったかな?」
「あぁ、もう……!」
完全など素人だった。
とりあえずゲンジは一から説明しながら試合をする事にした。試合というよりも完全にレクチャーだ。
一応試合は試合なのでゲンジはちゃんと勝つように戦ったのだが……。
「なるほど!フリックスとはなかなか面白いな!今度はワシも本気で勝ちに行くぞ!!」
「ははは」
先生に楽しんでもらえたのは良かったが、どこか物足りないゲンジだった。
ゲンジだけでなく、ツバサ、ユウスケ、ナガトも難なく一回戦を突破。
試合は恙無く進行していく。
そして次の対戦カードはツバサVSヨウだ。
「いっくでぇ!レヴァントワイバーン!!」
バーーーン!!
ワイバーンがヨウのフリックスを難なくぶっ飛ばして勝利する。
「す、凄いなぁ……!」
ヨウは相変わらず眠そうな顔をしているが、これでも驚いているようだ。
「どや!このフロントバンパーはアリエスよりも弾力が強い素材を使っとるんや!攻撃力はウィングワイバーンの3倍はあるで!!」
得意げになるツバサに若干呆れ気味になるものの素直に感嘆するゲンジ達。
「どこから3倍って数字が出たのかは分からないけど、確かに凄いな……!」
「ツバサちゃんもレヴァントワイバーンの力を十分に引き出してる。さすがだよ」
「これは何としてでも勝ち抜いて、戦ってみたいな!」
次はナガトVSチュウタだ。
「いけっ!マイティオーガ!!」
圧勝だった。
瞬きする間も無く、徹頭徹尾ナガトのペースで相手に何もさせる事なく勝利してしまった。
「う、うそ……何も出来なかったなんて……!」
「ふぅ……」
久しぶりのバトルでそれなりに緊張していたのか、ナガトは一息つく。
「さすが、腕は衰えてないみたいだなナガト」
「病み上がりとは思えないよ」
「あぁ。やっぱりフリックスバトルは良いな!久々に熱くなったよ」
「くぅぅ〜〜!!ナガトの生試合感動やでぇ!!!」
次はユウスケVSアオイの試合だ。
「僕も皆に負けてられない!頼むよ、アリエス!!」
これまでのユウスケとは思えない気合いで勝利する。
「やった!」
「あっちゃ〜、負けちゃった……」
試合の終わったユウスケにゲンジが声を掛けた。
「ユウスケ、かなりシュートパワー上がったな」
「うん、GFCで戦ったリュウジさんのアドバイスを思い出しながらずっと練習してたからね」
「リュウジ?」
聞いた事のない名前に、ナガトが首を傾げる。
「俺とユウスケがGFCで戦った相手さ。年上で俺達にアドバイスしながらバトルする変わった人でさ。……そういや、試合の後なんか意味深な事言ってた気がするけど、なんだったんだろ」
ナガトに説明しながらも、準決勝の後に言われたセリフのことを思い出して考え込むゲンジ。
そんなゲンジへツバサが声を掛けた。
「何ボーッとしてんねん。次はうちらのバトルやで!」
「あ、そうか!わりぃ!」
ツバサに催促されてゲンジはフィールドについた。
「あの時のリベンジマッチや!パワーアップしたワイバーンの力、見せてやるでぇ!!」
「俺だって、もっと強くなってるんだぜ!」
軽く言葉のジャブを交わしたのちにシュートを構える。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「いけっ!ドラグナー!!」
「飛ばすんやワイバーン!!」
二機のフリックスが、ややツバサ側の陣地で接触!シュートパワーはゲンジの方が上のようだったが……。
バチーーーーン!!
ワイバーンの弾力性に弾かれてドラグナーは場外してしまった。
「なに!?」
「どや!ドラグナーが硬さで攻めるなら、ワイバーンは弾力で吹っ飛ばすんや!!」
「弾力性……衝突の力がそのまま攻撃力になってるのか……!」
「ドラグナーのパワー、そのまま利用させてもらうで!」
「アクティブではそっちが有利か……しかも軌道を変えようにもツバサなら簡単に読んでくるだろうな……仕方ない」
ゲンジはドラグナーのフロントを変形させた。
「「3.2.1.アクティブシュート!」」
「いっけぇぇぇ!!ドラゴンヘッドブラスター!!!」
バゴオオオオ!!!
ゲンジはフルパワーの必殺技を放つ事でどうにかレヴァントワイバーンの弾力に打ち勝ち、押し込む事が出来た。
「いぃ!?なんちゅーパワーや……!」
「はぁ、はぁ……くそ、先手を取るためだけに必殺技を使わないといけないなんて……!」
どうにか先手は取れたもののそのために払った代償は大きい。
フリップアウトを狙いたいが、連続で必殺技を使うのもリスキーだ。ゲンジはフロントヘッドを戻してノーマルシュートをすることにした。
「さすがに大技の連発は厳しいみたいやな?」
「それでも、ドラグナーのパワーで押し出す!!」
ドラグナーのシュートが真っ直ぐにワイバーンの横っ腹にヒット。
バキィ!!!
ワイバーンの弾力性を逆に利用して大きく吹っ飛ばすが、ワイバーンのサイドバンパーが地面に接した瞬間に急ブレーキがかかった。
どうにかマインヒットは出来たものの、まだゲンジの方が不利だ。
「なに!?防御力も格段に上がってる……!」
「当然や!アリエスの良いところも取り入れとるからな!次はこっちの番やで!!」
ツバサのターンだが、マインはドラグナーが遠くへ飛ばし、穴も近くにはない。
場外のみ警戒すれば良い。
「なんとしてでもバリケードで耐えて立て直す!!」
「無駄や無駄や!うちのレヴァントワイバーンにバリケードは通用せん!!」
ツバサはシュートポイントの中央からほんの少しだけ右にずらした位置に指を添えてシュートした。
「いっくでぇ!バウンディングジョルト!!」
バシュッ!!
ワイバーンは左へややフロントを傾けながら真っ直ぐにドラグナーへと向かってきた。
(シュートミスか?この程度のパワーなら耐えられる!!)
ゲンジはグッとバリケードに力を込めるのだが……。
バウンッ!!!
ワイバーンがドラグナーに接触した瞬間、予想してた軌道とは全く違う明後日の方向へ飛ばされてしまい、せっかく構えたバリケードには掠りもせず、ドラグナーは場外してしまった。
「な、なにぃ!?」
「おっしゃ成功や!練習してた甲斐があったでぇ!!」
「え、まさか今の狙ってやったのか!?」
「当然や!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするゲンジにユウスケが解説をしてくれた。
「レヴァントワイバーンのフロントは弾力性のある素材で、平べったい形状をしてるから攻撃した敵機を狙った方向へ弾き飛ばしやすいんだ。でもそのかわり、少しでも面の角度がズレてるとそのズレもダイレクトに影響して飛ばす角度をズラしてしまう」
「なるほど……その特性を利用して、ストレートに見せかけつつ、機体の向きが少し傾くように撃つ事で相手に飛ばされる軌道を読ませないようにバリケードが無い方向へ飛ばせるって事か」
ユウスケの解説を聞いてナガトは素早く理解した。
「そう言う事や!どやっ、大したもんやろ!!」
「くっそぉ……」
「まぁ、あくまでこの技は初見殺しだから、見破られたら無力って言う欠点があるけど」
しかし、ゲンジは何度も試行錯誤しながら強くなるタイプなので初見殺しな技とは相性が悪い。
「次は絶対にその技破ってやるからな」
「望む所や!それよりももっと凄い技でまた勝ってやるで!」
ゲンジとツバサの試合が終わり、次はユウスケとナガトの試合だ。
二人は早速フィールドについて対峙する。
「久しぶりにナガトくんとバトルできて嬉しいよ!」
「俺もさ!どれだけ強くなったか見せてくれ!」
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
ガシッ!!
中央で2機のフリックスが激突し、弾ける。
先手を取ったのはマイティオーガだ。
「さすがだね、ナガトくん!」
「いや、周りにマインも穴もない……ユウスケの戦術も相変わらずだな」
シールダーアリエスは防御力に優れている。なので穴とマインにさえ気を付けていれば先手を取られても大丈夫と言う考えなのだろう。
(ここは下手に動かない方がいいな)
ナガトはマインをシールダーアリエスの後ろに置いてターン終了した。
(さすがナガトくん。攻めるタイミングをちゃんと考えてる)
とは言え、ユウスケも攻め手がない。しかしマインを近くにセットされた以上動かなければ攻められる。
「そこなら!」
バシュッ!
ユウスケは一旦アリエスをマインとオーガから離すようにシュートした。
(一旦体勢を立て直す事にしたか……このままマインで追い掛けても盤面を見る事に長けたユウスケには通じないだろうな。それに、長期戦になれば防御型のアリエスが地力を発揮する……となれば、強引にでも攻めて流れを変えるか)
ナガトは細長い札を出して宣言した。
「フリップスペル発動!ライトニングラッシュ!!」
「!?」
「ここでスペルを使うか……!」
「やっぱり流れを変えてくるよね」
ライトニングラッシュは3秒間連続でシュートができるスペルだ。
つまり、テクニックさえあればどんな盤面でもマインヒットを決められる。
「いくぞ、マイティオーガ!!」
バシュッ!バシュッ!!
ナガトは素早くマインに触れた後にアリエスへアタック。更にそこからシュートして距離をとった。
(ヒットだけじゃなく、反撃を受けないためのアウェイも忘れない。さすがナガト君だ)
「さぁ、これで1ダメージだ!どうする?ユウスケ」
「だったら僕は、それを打ち消す!フリップスペル、シャイニングキュア!」
ユウスケが発動したスペルは、1ターン消費する代わりにHPを1回復する効果だ。
「これでナガト君のスペルは打ち消した!」
「なるほど、あくまで長期戦に持ち込んで隙を伺うか。でも、そうはさせないぜ!」
「え?」
バシュッ!
ナガトは真っ直ぐマイティオーガをシュートしてアリエスを弾き飛ばした。
その先にはマインがあり、アリエスはマインの上に乗ってしまった。
これでマインヒットだ。
「あっ!」
「どうだ!」
「……さっきアリエスから離れたのは、反撃を喰らわないためだけじゃなくて次のターンに万が一動きがなかった時に追撃するため……?」
「一つの行動には、複数の保険をかけとくもんさ!」
しかし、マインとアリエスは接触状態なので簡単に反撃マインヒットを決められる位置関係だ。
(……ここは、一応反撃でマインヒットを……いや、)
ユウスケはシュートする手を戻して宣言した。
「スペル回収」
「……反撃しないのか」
「うん、不利な状態で攻め急ぐのは危険だから」
「さすがユウスケだ。このまま攻めてきたら反撃でフリップアウト狙おうと思ったけど。でも、だったらそれはそれで!」
バシュッ、カーーン!
ナガトはダルマ落としの要領でアリエスの下にあるマインを弾き飛ばしながらマインヒット。
マイティオーガのフロントがアリエスのスポンジボディの下に潜り込んだ状態で停止した。
「これで残り1だ!」
「でも、今度は僕の番だよ!」
「なに?」
「攻撃力がないアリエスでも、スポンジに密着した状態なら運び出せる!」
ユウスケはアリエスの向きを変えてフィールド中央付近にある穴へ狙いを定めた。
「あそこを狙う気か!?」
「逆転するためにはこれしかない!いっけぇ!!」
アリエスは密着したオーガを運ぶように穴へと突き進み、オーガを穴の上で停止させた。
「やった!フリップアウトだ!!」
「……いや」
よく見てみる。確かにオーガは穴の上で停止している。しかし、それと密着しているアリエスもほんの僅かに穴の上で停止していた。
「あっ……!」
自滅扱いとなるのでフリップアウトは無効。アリエスのみが1ダメージ受けてしまい、撃沈してしまった。
ナガトの勝利だ。
「そ、そんな……完敗だなんて……」
ガックシと肩を落とすユウスケに、ナガトが声をかける。
「いや、これは運が良かっただけだ。ユウスケ、本当に強くなったな。ビックリした」
「そ、そうかな?」
「あぁ。シュートの精度が上がってるのはもちろんだけど、それ以上に判断力や思い切りが良くなってる。今までのユウスケだったらあそこで穴なんか狙わずに安全にマインヒットを狙ってただろ?」
「あ、うん、確かに……」
「あそこでフリップアウトを狙うのはリスキーだけど、安全を取るよりも勝率は高い。でも、その選択をするためには小手先のテクニックよりも勇気が必要なんだ」
「勇気……僕に……」
「まいったなぁ、想像以上だ。俺が入院してる間に、皆こんなに強くなってるなんて……うかうかしてられないな」
ナガトとユウスケにゲンジとツバサも話しかけてきた。
「いやぁ、すげぇバトルだったな!ナガトもユウスケもさすがだぜ!!」
「あんな深い心理戦見たの初めてやで!」
感嘆するゲンジとツバサ。周りもナガトとユウスケの試合に感動したのか歓声が上がり盛り上がっている。
「ああ!俺も凄く楽しかった!!全然気が抜けなかった!」
「ははは、僕はなんだか気が抜けちゃったよ……ナガト君はやっぱり強いね」
「さぁ、次はうちらの決勝戦やな!神童・ナガトと戦えるなんてワクワクするでぇ!!」
「ちぇ、俺もナガトと決勝戦いたかったぜ」
「残念だけど、今回は応援に専念してくれ。俺も強くなったゲンジと戦ってみたかったけど、レヴァントワイバーンとのバトルも面白そうだ」
「光栄やな、目にモノ見せたるでぇ!」
ナガトとツバサはさっそくフィールドについてシュート準備した。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
早速試合スタート。
ワイバーンとオーガがストレートに突っ込んでいく。
「飛ばすんや!ワイバーン!!」
「掬い上げろ、オーガ!!」
ギュム……!
ワイバーンがオーガのフロントと接触した瞬間、フロントバンパーが歪み、オーガのフロントの斜面に乗り上げる。
そしてワイバーンはそのままバウンドするように弾かれてしまった。
「なんやてぇ!?」
場外はしなかったものの、オーガの先手だ。
その様子を見ているゲンジとユウスケ。
「オーガのフロントアッパーで掬い上げつつ、ワイバーンの弾力を受ける事でダウンフォースを発生させて踏ん張ったんだ……」
「対してワイバーンは浮き上がった分踏ん張りが効かずに自分の弾力で飛ばされたって事か」
バトルはナガトのターンだ。
先手取ったもののマインからは遠く、場外を狙おうにもワイバーンの防御力を考えると少し難しい。
「さぁ、この状態でどないするんや?」
「ここは、一か八かあれで決めるか」
ナガトはワイバーンへ向かってオーガをスピンシュートした。
そして、オーガはサイドの角ばったパーツをワイバーンのボディに当てる事で反射し、マインヒットに成功。
「なっ!あの角度でマインヒットできるんか!?」
「マイティオーガの多角ボディはあらゆる攻撃を可能にするのさ」
ユウスケの解説。
「マイティオーガの角ばったサイドカウルで反射角を調整しつつ、レヴァントワイバーンのグリップと弾力を利用してマインヒットしたんだ」
「ナガトの得意技の一つだよな。病み上がりなのに完璧に決めるなんて、さすがだぜ」
そして、ツバサのターン。
「こっから取り返すで……!レヴァントインパクトや!!」
マイティオーガの横っ腹へレヴァントワイバーンが真っ直ぐに突っ込む。
ギュワッ!
攻撃は見事にヒット。しかし、オーガの角ばったサイドによって重心がズレてしまい、力がうまく伝わらずに思わぬ方向に反射してしまう。
「しもうた!」
どうにかマインには当たったものの、マイティオーガの射程圏内でケツを向けたまま停止してしまう。
そして、その隙を逃すナガトではない。
「斬り拓け、マイティオーガ!!鬼牙二連斬!!」
バシュウウウウ、ガッ、バギィィィ!!!
ナガトはややつんのめるようにストレートシュートし、オーガのフロントがワイバーンを掬い上げ、そしてオーガの上面に装備している偃月刀で叩きつけた。
掬い上げる力と叩きつける力が拮抗する事で、その圧力が凝縮され凄まじい力となってワイバーンを前方へ弾き飛ばす。
「な、なにぃぃぃ!?」
吹っ飛ばされたワイバーンはツバサのバリケードをあっさりと破壊してフリップアウトしてしまった。
試合終了、ナガトの優勝だ。
「……な、なんだ、今の技……」
「初めてみた……」
ナガトの技を見て、会場が騒然とする。
「ふぅ、上手くいって良かったぁ」
「な、くぅぅぅ負けたぁぁぁ!!!」
「すげぇなナガト!なんだよ今の技!」
ゲンジ達がナガトの周りに集まる。
「あんな技隠し持ってたなんて知らなかったぜ」
「いや、隠し持ってたっていうか……入院してる時に思い付いてさ。ずっとシミュレーションはしてたんだけど、ここまでハマるとは思わなかった」
「え、じゃあイメージトレーニングだけで新技を開発したの!?」
「オーバーだなぁ。マイティオーガが元々持ってた力を引き出そうとしただけだよ」
「なんちゅーやっちゃ……」
パチパチパチパチ!
皆が盛り上がる中、黄山先生が拍手しながら近づいてきた。
「いやぁ、あっぱれだ!素晴らしい試合じゃったぞ、皆!!勝ったものも負けたものもええ顔しとる!フリックスバトルは面白いもんじゃな!」
「はい。改めて、こんな素晴らしい会を開いていただいてありがとうございます!」
ナガトは礼儀正しく頭を下げた。
「それじゃ、ここらで特別ゲストの紹介と行くかな」
「え?」
「特別ゲスト?」
「あぁ、先生がここに転勤する前の学校の教え子でな。ちょっと前にこの街に引っ越してきたらしくて、この間会ってきたんじゃが……。そいつもフリッカーでな、お前らの話をしたら興味を持たれたんじゃよ」
「はぁ……」
「かなり強いらしいから、お前らにとっても良い出会いになるはずじゃ」
そして、黄山先生は扉に向かって呼びかけた。
「雲野!そろそろ入ってきてええぞ!」
呼びかけると扉が開く。中学生くらいの少年が入ってきた。
「あぁ!」
「あ、あんたは……!」
「やぁ、久しぶりだな。ゲンジ、ユウスケ……それに、関ナガト」
「っ!?」
その、少年は……
「「「雲野リュウジ!?」」」
グレートフリックスカップ準決勝で戦った、雲野リュウジだった。
つづく
CM