弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第3話「挑戦!フリックスカップ!」

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第3話「挑戦!フリックスカップ!」

 

 謎の男、諸星コウから貰ったパーツでライジングドラグナーを手に入れた東堂ゲンジはクラスメイトのユウスケへリベンジを果たし、更に大阪から転校してきた凄腕フリッカー『張本ツバサ』にも勝利し、絶好調だった。
 しかし、いきなり現れた南雲ソウのカイザーフェニックスにはボロ負けしてしまう。
 南雲ソウは、ライジングドラグナーについて何か知っているようだったが……?

 成都中央病院。
 その一室でゲンジはベッドにいる同い年くらいの少年と談笑していた。
 少年の右足には包帯が巻かれている。

「悪かったな、ナガト。ここの所お見舞いに来られなくて」
「気にするな。それよりライジングドラグナー、良いフリックスじゃないか」

 ナガトと呼ばれた少年はゲンジから借りたライジングドラグナーを丁重な手つきで返すと、ゲンジは嬉しそうに顔を綻ばせながらそれを受け取った。

「だろぉ?このパワフルなボディに変形機構!それに、こいつにはまだまだ隠された機能がある気がするんだ」
「開発者の諸星コウとか言う男も、何か一癖ありそうだしな……あの南雲ソウと繋がってると言う事も気になる」
「南雲ソウ……くううぅぅ!なんか改めて悔しくなってきた!!俺がこいつを使いこなせなかったせいで、完敗しちまうなんて!!ちくしょう!!次は絶対に使いこなしてやるぜ……!」
「フフッ」

 悔しそうに拳を握るゲンジを見て、ナガトは小さく笑った。

「な、なんだよ?」
「いや……なんだか、負けた話してる時の方が楽しそうだと思ってさ」
「そっ!そんなわけないだろ!?負けなんて、面白いわけ……」
「なぁゲンジ、今年は出てみないか?グレートフリックスカップ」
「なっ!」

 ナガトの口から出てきた思わぬ単語に、ゲンジは一瞬面食らった。

「い、いやいや!俺なんかじゃ無理だろさすがに!!もっと練習して強くなってからじゃないと……!」
「ゲンジ。本当に強いフリッカーは、勝ちを目指しながら負けも含めて楽しんで、力に変えられる奴なんだ。今のゲンジはそう言うフリッカーになってると俺は思う」
「ナガト……うーん、自分じゃよく分からないけど」
「その手を見れば分かるさ。まさか怪我人に怪我の見舞いに来られるとは思わなかったけどさ」
「うっ!」

 ナガトは猛特訓によって傷付いたであろうゲンジの腕を見てフッと笑う。
 ゲンジは気恥ずかしげに腕を隠した。

「まっ、決めるのはゲンジ自身だ。時間はまだあるし、じっくり考えればいい」
「……そうだな。考えてみるか」

 ナガトに言われ、ゲンジも少し考え方が変わってきたようだ。
 そんなゲンジを見ながら、ナガトは羨ましげに呟いた。

「俺も早く怪我を治してお前らとバトルしたいよ」
「包帯も小さくなってるし、もう少しで退院なんだろ?後遺症もなさそうでよかったよな、ほんと。【かつて神童と呼ばれたフリッカーがこのまま事故で引退では、フリックス界の大きな損失】だからな!」
「おいおい、からからうなよ。それ情報誌で書かれてた時凄く恥ずかしかったんだからな」
「あははは!」
「まぁでも、退院したら思う存分暴れさせてもらうさ」
「おう、楽しみにしてるぜ!」

 ……。
 ………。

 翌日。朝のHR前の成都小学校。

「おはよ〜」

 喧騒で賑わう教室に入ったゲンジは、いきなりツバサとユウスケに絡まれた。
 ……正確には、ユウスケに絡んでいるツバサに絡まれた。

「お、ゲンジ!やっと来たか!遅かったやん!」
「なんだよツバサ、……に、ユウスケ」
「あ、はは。おはよ、ゲンジくん」

 ツバサにヘッドロックを極められながら、ユウスケは苦笑い混じりに挨拶した。

「ゲンジ!あんたは当然出るんやろ!?」
「は?なんだよ、藪から棒に」
「惚けんでええ!決まっとるやないか!来週開かれるグレートフリックスカップ千葉県大会や!!」
「あ……」

 ゲンジは声が詰まる。
 昨日ナガトに言われ、保留にしていた問題が不意打ちで現れてしまい一瞬思考が混乱してしまった。

「ユウスケの奴は『僕なんかが出るのはまだ早いよ〜』なんて根性ない事言うからしばいとったとこなんやけどな。ゲンジは当然出るやろ?ドラグナーへのリベンジマッチは大舞台でやりたいからな!」
「え、と俺は……」
「まさか、あんたまで根性ない事言う気やあらへんやろな……?」

 ツバサはユウスケを離して今度はジト目でゲンジへと詰め寄る。

「いや、そういうわけじゃないけどさ!」
「じゃあ出るんやな!決まりや!ほな3人で優勝争いと行こうや!!」
(出るとも言ってないんだけどなぁ)
(僕、いつの間に出る事になったの……!?)

「グレートフリックスカップはそんなに甘くはないぜ」

 ツバサの強引さに男子2人がタジタジになっている所に、1人の男子が3人に声をかけてきた。

「あれ、お前は隣のクラスの……」
「角瀬、タイヘイくん……だっけ」
「なんや、隣のクラスのあんちゃんがいきなり」
「別に。トイレの帰りに通りがかったらフリックスの話してるのが聞こえたからさ。小三の頃から毎年グレートフリックスカップに出場してる先輩として、忠告してやろうと思ってな」
「なんや、いらんおせっかい焼きやなぁ」
「俺もフリックス始めたのは小三からだけど、角瀬毎年出てたんだ……知らなかった」

 ゲンジはキョトンとした顔で言う。

「ムッ」
「っちゅー事は毎年出てるのに大した成績やないって事か」
「ムムッ!」
「ちょ、ちょっと2人とも!」

 ゲンジとツバサの容赦ない言葉にタイヘイの顔が引きつるので、ユウスケは慌てて2人を制した。

「ふん、まぁいいさ。毎年負けてるのは事実だからな。それだけグレートフリックスカップは厳しいって事だ」
「それでも、勝つんはウチのワイバーンやで!!」
「いいや!今年こそ優勝するのは俺だ!そのためにこいつを手に入れたんだ!!」

 そう啖呵を切って、タイヘイは赤と青二つのフリックスの入ったパッケージを取り出して3人に見せつけた。

「あれ、これって今度発売する予定の新製品?」
「あぁ〜、雑誌に載ってた!確か段田バンが小学生の頃に夢で見たフリックスを完全再現して製品化するって企画の奴だ!!」
「そうさ!ドラグカリバーにウイングジャターユ!特殊なルートでフラゲしてきたんだ。大会前日に発売されるこの二機は間違いなく今大会の環境機になる!!」
「あの段田バンがプロデュースした機体となると、素組でも相当な性能を発揮するやろうしな……」
「つまり、それを一早く手に入れて研究した奴が圧倒的に有利ってわけだ!」
「と言っても量産機は量産機だしなぁ。俺にはライジングドラグナーもあるし、関係ないや」

 ゲンジはなんともなしにドラグナーを取り出して呟いた。

「はん!そんなど素人の開発ごっこで作った機体が、プロの作った最新型に勝てるわけねぇだろ!」
「む……」
「おっと、そろそろ始業チャイム鳴るな。それじゃ、大会楽しみにしてるぜ」

 言うだけ言って、タイヘイは教室を出て行った。

「……行っちゃった」
「けったいなやっちゃな。それにしても、あいつトイレにまで買った機体持ち込んどったんか、どんだけ気に入っとんねん。……って、しもたー!もっとはよう突っ込むべきやったわ!!」

 変なところに悔しがってるツバサへ、ゲンジは静かに口を開いた。

「……ツバサ。俺、グレートフリックスカップに出るぜ」
「な、なんや今更。ウチとゲンジとユウスケの3人で出るのはもう決まっとるやん」
(やっぱり僕出る事になってるのね……!)

「……ライジングドラグナーは、絶対に負けない!」

 ……。
 ………。

 夜。ゲンジは自室で延々とシュート練習している。

「はぁっ!!」

 バゴーーン!!!
 机の上に並べたターゲットを撃破していく。

「……ふぅ、大分腕に負担がかからないシュートフォームが分かってきたぞ。あとは、このフォームのままライジングドラグナーの攻撃力を活かさないと」

 再びターゲットを並べ直し、ライジングドラグナーを構える。

「ライジングドラグナー、絶対にお前を使いこなせるようになってやる!!」

 ……。
 ………。

 その頃、角瀬家では。

「にいちゃーん!お腹減ったー!今日のご飯何ー?」
「リョウちゃんダメー!今から『アイドル戦士リズミックキュア〜』見るの!!リモコン貸して!!」
「えー!今日は『緊急ボランティア!海の水全部抜いてみた』のスペシャルがあるって言ったじゃん!!」

 キッチンでタイヘイが料理している横で、2人の小さな弟達がギャーギャー騒いでいる。

「ほらほら!もうすぐご飯出来るからテーブルに着けー!今日は野菜も肉もたっぷりなスペシャルカレーだぞ!
リョウヘイ、スペシャル番組は録画しといてやるからタカラにチャンネル譲ってやれ!」

 落ち着きのない幼子達をタイヘイは見事に統率しながら食事の支度をした。

「「「いただきます!!」」」

 無事に食事の支度も終わり、皆おいしそうにカレーをがっつく。

「タイヘイにいちゃんのカレーうめー!幼い僕たちに合わせて甘口ルーをベースにしつつも、辛味とは少し違うスパイスを加えてアクセントにしている……この隠し味はまさか、ワサビか!粗めに削ったワサビは辛味成分が少なく、更に熱する事で刺激を和らげ、子供でも食べやすく飽きのこない味に仕上げている!」
「はは、サンキュー。リョウヘイ、グルメ番組ごっこは程々にな」
「プリズムピンクちゃんかわいかっこいい〜」
「ぼくは、ブルー派かな……」
「タカラ、零れてるぞ。テレビもいいけど食べるのに集中しろ。リョウヘイ、お前もなんだかんだ言って夢中じゃねぇか」

 タイヘイの家は大家族な上に両親が共働きで、家事や育児は長男であるタイヘイが引き受けている。
 弟達もそんなタイヘイに懐き、誇りに思っているようだ。

「そう言えばタイヘイにいちゃん、今度のグレートフリックスカップ出るんだよね!?」
「え、まぁ、な」
「そっかー!楽しみだなー!」
「みんなで応援に行こう!!」
「にいちゃんのカッコいいとこ動画で撮るぞ!!」
「ご飯の後片付けは僕らでやるから、兄ちゃんは大会のためにしっかりフリックスの調整してね!」
「おう、サンキュー」

 弟達の応援や協力を背に受け、食事の後はタイヘイは自室でドラグカリバーとウイングジャターユの研究をする。

「ドラグカリバーにウイングジャターユ、今までの量産機と違って可変ギミックがついている。しかも、基本性能が高いだけじゃなくチューンナップのベースにもしやすくなってるのか。さすが段田バンプロデュースの機体……」

 暫く集中していたが、さすがに疲れて来たのでふと一息つく。

「……グレートフリックスカップ。今年で出るのは3回目……今まではずっと一回戦で負けたけど、今年こそは、あいつがいない、今年こそは……!!」

 タイヘイの脳裏に浮かぶ忌々しい記憶。
 初めて参加したグレートフリックスカップの一回戦。

『決まったー!!小学3年生同士の熱き激突を制したのは、関ナガトくん!!タイヘイくんも大健闘したが、及ばなかった!!』

 そしてそのままナガトは勝ち進んでいき……。

『ナガトくんはここで惜しくも敗退だがベスト8確定!小学3年生でこの記録は凄いぞ!!まさにフリックス界の神童だ!!』

 ……。
 ダンッ!
 嫌なことを思い出してしまい、タイヘイは思わず机を叩いた。

「なんでだよ!同じ小3で始めたのに、なんであいつは神童で、俺は毎年一回戦負けなんだよ……!!」

 コンコン。
 その時、部屋の扉が遠慮がちにノックされゆっくりと開いた。

「どうした?」
「えっと、にいちゃん。これ、どうぞ」

 2人の弟達はソッと何かを差し出した。
 それはあったかい缶コーヒーだった。

「……どうしたんだよ、これ」
「お小遣い出し合って買ったんだ。にいちゃんに頑張ってほしくて」
「お前ら……」
「にいちゃん!大会絶対勝ってね!」
「勝つに決まってるじゃん!にいちゃんは僕らのヒーローなんだからさ!」

 タイヘイは2人の頭をぐしゃっと撫でて抱き寄せた。

「ありがとな!にいちゃん、絶対に勝つよ!!絶対に……!!」

 負けられない……今度こそ弟達のヒーローとして、勝たなければいけない。
 タイヘイは強く思うのだった。

 ……。
 ………。

 そして、大会当日。
 千葉県浦安市にある夢と魔法の国『ディスティニーランド』
 ここのディスティニーキャッスル前の広場が今回の会場だ。

「おっひょ〜!ここが関東最大のテーマパークか!ユニバーサルほどやないけど、たいしたもんやで!」
(シーの方も含めると、規模はユニバーサルの数倍なんだけどね)
(めんどくさくなりそうだからそういう事は言わないでおくぞ、ユウスケ)

 3人は既に大勢の人が集まる会場に来ていた。

「それにしても、凄いな。さすが大会だ、いろんなフリッカーがいる」
「ぜ、全員強そうだよ……!」
「はん、何を怖気付いとんのや!こういうのは気合が大事や!もっと気張りぃ!!ガルルルル!!!」

 ツバサが無闇矢鱈に威嚇すると、たまたま眼帯をした強面の少年と目があった。小柄ではあったが、他者を萎縮させる攻撃的なオーラを纏っている。

「ぬ、何か用か?」

 ギョロっとした目つきに、さすがのツバサもたじろいだ。

「あ、い、いやぁ、あはは、今日はええ天気でんな〜」
「ふん、見れば分かる」

 少年はブッきらぼうに言うと去っていった。

「はー、ビビったわ〜。あんな目付き悪いのも出るんかいな。しかも眼帯までしよって、こわ〜」
「き、気を付けようね……」
「ははは……」

 そんなやり取りをしてる間に大会は開催された。

『皆!グレートフリックスカップ千葉県大会へようこそ!!司会進行のバトルフリッカーケンだ!!
今大会は予選なしの勝ち抜き戦!ランダムに対戦カードが決まって行き、最後まで勝ち残った人の優勝だ!!基本はタイマンで行うが、エントリー数によっては人数合わせで3人同時バトルになる事もあるのは予め了承してくれ!!』

 バトルフリッカーケンが簡単に大会のルールを説明すると、早速対戦カードが一気に数組発表された。
 会場にはいくつかフィールドが用意されているので、最初は同時進行でスムーズに試合を消化していくようだ。

「ウイングジャターユ!マインヒットだ!」
「負けるな、ドラグカリバー !!」

 専用のワンオフ機を持たない多くのフリッカーは発売したばかりのドラグカリバーとウイングジャターユを使っている。

「いけ!ソニックユニコーン!!」
「は、はやっ!なんてスピードだ!!」

 長身の青年の使う機体が猛スピードでアクティブシュートを制する。
 なかなかの強敵だ。

 そして、ゲンジも対戦カードが発表されたのでフィールドへ向かった。
 そこにいたのは……。

「なんだ、いきなりお前か」
「あ、確か角瀬……!」
「ちょうど良い、研究に研究を重ねて作った新機体のお披露目だ!見ろ、これがマグ・ドラグ・ウイング・カリバー!!」

 タイヘイは、ドラグカリバーとウイングジャターユの各パーツをユニット分けして、さらに磁石でそれぞれのパーツを合体させて一つの機体にしていた。

「新機体を融合させたのか!?」
「ああ!この新型機は性能の高さだけじゃなく、それぞれが改造のベースにしやすくなってる。だからこういう工作がやりやすいんだ」

 やりやすい工作というのは得てしてみんなに真似されてしまう。
 しかし、ドラグカリバーとウイングジャターユはまだ発売されて間もないのでそこまで研究が進んでいない。
 フラゲしたタイヘイだからこそ優位に立てる改造だった。

「それでも、ライジングドラグナーは負けないぜ!」
「素人の機体に負けるかよ!!」

 ゲンジとタイヘイは機体とマインをフィールドにセットして準備する。

「3.2.1.アクティブシュート!」

 各フィールドに1人付いている審判のバイトの人がスタートの合図をしてくれる。

「いけ!ライジングドラグナー!!」
「喰らえ!ドラグリーチアタック!!」

 フロント剣を延長したウイングカリバーがドラグナーを弾いて押し込み、タイヘイが先手を取った。

「は、弾かれた!?」
「ドラグカリバーのフロント剣は弾力で相手を弾くのさ!」
「くっ!でもこの位置ならマインヒットはできない!バリケードで耐えれば……!」

 ドラグナーからマインまでの距離は離れている。フリップアウトを狙うなら耐えれば良いだけだが……。

「甘い!スプレッドウイング!!」

 タイヘイはサイドウイングを展開させてマインヒットを決めた。

「量産機なのに、ウイング展開もするのか!?」
「これが最新型フリックスだ!!」
「負けるか!!」

 ゲンジは渾身の力でシュートしてウイングカリバーをぶっ飛ばす。
 しかし、マインには当たったもののバリケードで耐えられてしまった。

「耐えられた!?」
「剣と翼で衝撃を分散させたのさ!」

 そして、タイヘイは反撃のマインヒットを決める。
 これでゲンジの残りHPは1。このままではかなり不利だ。

「このままダメージレースを続けてたら負ける……!」
(よし、今度こそ勝てるぞ、今度こそ……!)

 その時、ギャラリーからタイヘイの弟達の歓声が届く。

「いいぞー!にいちゃーん!!」
「あとちょっとで勝てるよー!!」

(皆……!待ってろ、今回こそかっこいい所見せてやるからな!!)
「状況を変えるには、フリップアウトを狙うしかない……だったらこいつだ!」

 ゲンジはライジングドラグナーのフロントヘッドを展開させた。

「お前のも変形すんのかよ!?」
「……だけど、この技は負担が大きい、失敗したら南雲ソウとのバトルの二の舞……!」

 トラウマにもなっているソウ戦が脳裏に浮かんで日和ってしまう。

「いや!俺はライジングドラグナーを使いこなすシュートフォームを身につけたんだ!自分と、ドラグナーを信じるんだ!!」

 ゲンジはシュートを構える。それは今までのフォームと違っていた。
 肘を下げて前腕をフィールドと並行にし、左手をそっと手首に添える。

「シュートフォームを変えた?」
「これが、俺とライジングドラグナーが一つになるためのシュートだ!うおおおお!!ドラゴンヘッドブラスター!!!」

 ドーーーン!!!
 腕への負担を軽減させつつも真っ直ぐ正確に力を伝えるシュートフォームでドラグナーは一切ブレずにタイヘイのウイングカリバーへドラゴンヘッドをぶつけて弾き飛ばした。

「な、なんだこの力は!?」

 バキィ!!!
 あまりの勢いにバリケードは破壊され、そのままフリップアウトしてしまった。

「やった!成功したぞ!!ライジングドラグナー!!!」
「う、うそ、だろ……絶対勝てると思ったのに……」

「ライジングドラグナー!やったな!俺達、本当のパートナーになれたんだ!!このシュートなら、お前とずっと戦っていける!!!」

 ゲンジは勝った事以上にライジングドラグナーの力を引き出せた事が嬉しくて、ドラグナーを手に取って舞い上がった。
 それとは対照的に、タイヘイはダーン!とフィールドを叩いた。

「ちくしょおおおおお!!!!」
「っ!」
「なんで!なんでだよぉぉ!!なんで勝てねぇんだよ!!!俺は、俺は、頑張ったのに!!!!強くなる方法を調べて、練習して、フラゲするために何軒も店を廻って!!!なのに、なのに……!!!」
「角瀬……」

 一頻り嗚咽を漏らしたあと、タイヘイはスッと顔を上げて踵を返した。
 フィールドにウイングカリバーを残したまま。

「ま、待てよ!機体忘れてるって!」
「もういいよ。フリックスは、もうやめだ。だからそれはお前にやる」
「っ!ふざけんな!!」

 ゲンジはタイヘイの肩を掴んで無理矢理振り向かせ、ウイングカリバーをその手に握らせた。

「俺はっ!お前とウイングカリバーとの戦いが楽しかったんだ!!勝っても負けても、また戦いたいって思えるくらい楽しかったんだ!!!」
「……」
「お前は、俺とのバトルを楽しんでくれなかったのかよ……!」
「そんなの、わからねぇよ」
「だったらまたやろうぜ!勝っても負けても楽しいバトルをさ!」

 ゲンジは目に涙を浮かべながら手を差し出す。再戦を望む握手だ。

「……わりぃ、まだその手は握れない。けど、なんだ。すまなかったな、その機体の事悪く言って」
「え」
「頑張れよ」

 それだけ言って、タイヘイは歩いていった。
 その手にはしっかりとウイングカリバーが握られている。

「ごめんな、皆。にいちゃん、負けちまった。カッコ悪かったよな……」

 弟達の元に戻り、タイヘイは悲しそうに謝った。

「ううん!そんな事ない!!にいちゃんすっごく強かったもん!!」
「あと一歩で勝ててたもんなぁ!凄いや!!」
「また見たいな!にいちゃんのバトル!」
「ああ!次やったら絶対ににいちゃんの勝ちだよ!!」

 2人とも口々に今日のバトルを楽しみ、そして次のバトルを楽しみにしている。

(俺は、負けたのに……こいつらは、それでも楽しんで、楽しみにしてくれるのか……?)

 勝っても負けても楽しいバトル。その意味が少しだけ分かったような気がして、タイヘイは涙が出てくるのを誤魔化すために2人を抱きしめた。

「え、なんだよにいちゃん」
「苦しいよ」
「ありがとう、ありがとうな、みんな……!次は、絶対に勝つからな……!」

 

    つづく

 

 

 

CM

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