第43話「決勝トーナメントスタート!」
盛り上がったエキシビジョンマッチも終わり、ステージモニターにはトーナメント表が映し出されている。
『それでは、いよいよトーナメントの発表だ!』
トーナメントに選手の名前が出される。
『第一回戦は、バンくんvsやまとくん、ザキくんvs操くん、剛志くんvsレイジくん、リサくんvsイツキくんだ!』
この結果を見て、フリッカー達は思い思いの反応を見せる。
「剛志…!」
「レイジ、まさかいきなり当たるとはの」
「操の奴、ザキと当たるのか…大丈夫かよ」
いつのまにか操がバンの側に来ていた。
「失礼な奴だな、お前は」
「あ、わり。でもザキの奴はすげぇパワーアップしちまった。半端な強さじゃねぇぞ」
「心配無用だ。我は多くの魂を背負っている。背負わずに葬ってきた奴とは重みが違う。
ふっ、我の方こそ謝らねばならんな。お前の奴へのリベンジは叶わぬぞ?」
「へっ、そんときゃお前を倒して憂さ晴らしするだけだぜ」
「上等だ」
リサも自分の対戦相手となるフリッカーの名をつぶやいた。
「イツキ……」
「お久しぶりですねぇ、リサさん」
「っ!」
「まぁ、そう警戒しないでください。私は純粋にあなたとのバトルを楽しみにしているだけなのですから」
「私はっ、もう揺るがない!バンのライバルとして、絶対に勝ち上がる!!」
「ライバルとして……ですか。確かにバンくんにとって、あなたはライバルでしょうね」
「何が言いたいの……?」
「いえ、関係性とは必ずしも相互とは限らないという事です。……とは言え、私とあなたとのバトルには無関係なことでしたね。
では、失礼…」
言うだけ言って、イツキは去っていった。
「バンにとっての私、私にとってのバン……」
イツキの言葉はシコリとなってリサの胸に留まってしまった。
『試合開始までしばらく休憩のフリータイムだ!しっかり休んで、試合に備えてくれよ!』
休憩という事で、バンとリサは息抜きとして外に出た。
蒸せ返るような熱気から解放されて、ヒンヤリとした新鮮な空気が心地よい。
「あー、なんかずっと戦ってたからなぁ!外が気持ちいいぜ!」
「うん、いい風……」
「でも剛志とレイジは来なくてよかったのかな」
「一回戦でいきなり二人が当たったかね、一緒に居づらいのは仕方ないよ」
「まぁ、それもそうか」
久々の外を楽しみながらバン達は近くの公園に足を運んだ。
そこでは大勢の子供達で賑わっており、フリックスバトルに興じていた。
「おおー、盛り上がってんなぁ」
「さすが全国大会。試合以外でも凄い盛り上がりようだね」
その子供達の中心で仕切っているのは関西弁の少年だ。
「いっくでぇ!全員のバトルロイヤルマッチや!」
フィールド内ではさまざまな機体で埋め尽くされている。
「プレートシェル!」
「プレッシャー!!」
「フリッチェスター!!!」
ありとあらゆる機体が一つの機体へ向かって一斉攻撃を仕掛ける。
「甘いでぇ!防御や!!ヴィクデウス!!」
それは仕切っている少年の機体だった。
ドライブヴィクターフレームを改造したと思われる機体が全ての攻撃を受けきる。
「あぁ、くっそぉ!!」
「さすがやまとさん、全然かなわねぇや」
「なーっはっはっは!これが関西チャンピオンの力や!!」
「やまとさんなら優勝間違いなしですぜ!」
「当然やで!!」
仲間達に煽てられて関西弁少年は浮かれまくる。
「何言ってんだ!ダントツで優勝するのはこの俺だぜ!!」
そこへバンが割って入った。
「なんや、お前?」
「俺は段田バンだ!決勝トーナメント出場フリッカーさ!!」
「あぁ、お前か!ワイの一回戦の相手は!」
「って事は、お前はやまととか言うフリッカーか?」
「まぁな!関西地区チャンプ!そしてフリップチューバーのやまととは、このワイのこのや!!」
「フリップチューバー?なんじゃそら」
「かー、お前もぐりだな!動画サイトの投稿者の事やん!
ここにいる奴ら全員ワイのチャンネル登録者なんやで!!」
「へー、結構人気なんだなお前」
「結構なんてもんやないで!ワイの動画はバトルから制作まであらゆるコンテンツがそろってまんのや!」
「でも、バトルだったら俺が勝つぜ!」
「なんやて?じゃあ今ここでどっちが強いか証明したろか!」
「望むところだ!!」
好戦的な二人をリサが慌てて止める。
「ちょっと待って!このあと試合できるんだからここでやらなくても!!」
「あ、確かに」
「頭ええな、お前のお連れさん」
二人が短気なだけである。
「うがああああ!!!砕けちれええええ!!!」
「うわああん!やめてよぉ!!」
その時、乱暴そうな声と悲鳴が聞こえてきた。
みると、やまとの取り巻きのうちの一人が目つきが悪くガタイの良い少年にフリックスを壊されていた。
「うぅ、僕のパカンダムゥ……!」
「な、なにやってんだ!!」
バンが怒鳴る。
「うるせぇ!!俺はなぁ、この日のために一生懸命に機体を作ったんだよ!!なのに予選落ちなんて納得出来るかよ!!
だからここで憂さ晴らしするのさ!!」
あまりにも身勝手な言い分だ。
「今日のために頑張ってきたのはみんな一緒だよ!」
「それでも勝てる奴と勝てない奴がいるのが大会なんじゃないか!」
「黙れぇ!!それでも俺様が勝てねぇのはおかしいんだよ!!!現に予選じゃ誰にも負けなかったんだぜ!!」
予選のルールは勝ち星の数で優劣が決まる。
たとえ負けなかったとしても勝利数が少なければ突破が出来ない。
「ん、そういやよく見ればお前らトーナメントに出る奴じゃねぇか!丁度いい、俺様の強さを見せつけてやる!!俺の方が予選突破するのに相応しかったって事をな!」
「へんっ、やれるもんならやって見やがれ!いい準備運動だぜ!」
「待つんや、バン!」
やる気満々のバンへやまとが制止した。
「なんだよ、止めんな!」
「そうやない……ワイにやらせぇ」
「え?」
「こいつにやられたフリッカーはワイのチャンネル登録者様なんや……ファンがひどい目に合わされたのに黙って見てたんじゃ、フリップチューバーの名折れやからな!!」
「誰が相手でもいいぜ!ここでトーナメント進出者を潰せれば少しは気が晴れるってもんだ!」
悪ガキとやまとがフィールドについてマインをセットする。
「「アクティブシュート!!」」
「いけ!エンシェントドラグブレード!!」
「捕らえろ!ギルティギア!」
真正面からの衝突!
先手はやまとのエンシェントドラグブレードが取ったのだが、ギルティギアは激突した瞬間フロントのアームが閉じてドラグブレードを掴み、高々と持ち上げてしまった。
「なに!?」
「獲ったどー!!!」
バン達も驚愕する。
「掴み上げるフリックス!?」
「そんなフリックスがあったなんて」
「さぁ、お前の先手だぜぇ」
「この状態じゃ、機体の向き変えができへん……!このまま撃つしかあらへんか!!
脱出するんや!!」
バシュッ!
下向きになったシュートポイントを撃ってどうにかアームから抜け出すものの、それだけでターンが終わってしまう。
「だったらまた掴むまでよ!!」
再び掴まれる。
「くっ!このままやといずれ隙が出来てまう……!」
「はっはっはっ!こうやって相手をジワジワと追い詰めるのが俺様の戦術よ!!」
バトルの様子を見ているバン達。
「あいつが無敗なのに予選突破できなかったのって、一試合が長引いてたからなんじゃ……」
ただのタイマンだと厄介な戦術だが、時間制限の中多く試合をこなさないといけないルールとは相性が悪いだろう。
「こうなったら!
皆!力を借りるでぇ!フリップスペル発動!エクステンド!!」
エクステンド……30gまでの追加パーツを取り付けてターン終了する。ダメージを受けたらパーツは元に戻す。すでに追加パーツが付いている場合は入れ替えることができる。
「僕のプレートシェルを使ってくれ!やまとさん!!」
「おおきに!」
ドラグブレードの上部に、仲間が貸してくれた機体のボディが接続される。
「な、仲間のフリックスがパーツに!?」
「あの機体の上部にはシャーシと同じ形をしたジョイントがついてる!だから他の機体のボディを接続できるんだ…!」
「けっ!だからなんだってんだ!たかだか30g程度重くなったくらいで!!」
またも掴もうとするギルティギアだが、掴み上げた瞬間にコケてしまい、ドラグブレードを落としてしまう。
「なに!?」
「プレートシェルはベースの上に鉄板の乗っとるフリックスや!そんなボディを機体上部に取り付ければ高重心になってバランスが悪うなる!バランスの悪い機体を無理に持ち上げたらコケるのは当然やで!」
バシュッ!
自由の身になったドラグブレードは難なくマインヒットを決めた。
「ちっ、持ち上げが無理ならこっちのモードの方がいいな」
ギルティギアの内部メカをいじる。
「チェンジ!ギルティギアゼクス!」
そしてシュートし、ドラグブレードを後ろから掴む。しかし今度は持ち上げなかった。
「掴んだだけか?」
持ち上げられた時よりはシュートしやすい。
先ほどと同じように抜け出そうとシュートするが、今度は抜け出せなかった。
「強いっ!?」
「持ち上げをオミットした代わりにホールド力を増強したモードだ。そう簡単には外せないぜ!」
「それやと、あんさんも攻撃できひんやろ!」
「甘いな!」
ギルティギアはアーム部分を分離させ、本体だけをシュートしてやまとのマインにぶつかり、マインが場外する。
「分離したやと!?」
ダメージを受けたので、エクステンドの追加パーツは剥がれてしまう。
「対策は万全に決まってるだろ」
「くっ!ここは一旦スペル回収や。そしてマイン再セット」
エクステンドを回収し、マインを自機で隠すようにセットする。
「へっ、悠長な!」
バシュッ!ガキン!!
マインヒットするためにドラグブレードの裏側にあるマインを狙うのだが、あっさり弾かれた。
「なに!?」
「分離したせいで機体が軽くなってパワーが出んのや!
ワイのターン!フリップスペルエクステンドや!!
しゅうた、デストラクションを頼むで!!
」
「了解っす!!」
しゅうたと呼ばれた少年が、シュートポイントにペットボトルのキャップのようなものを装備したF1マシンのような形状の機体を渡す。
「いくらシュートポイントを隠されたと言っても、上部までは隠せとらん!
スピンの遠心力で振り払うだけや!!」
「させるかよ!!パラサイトホールド!!」
ギルティギアのアームが変形し、ドラグブレードの上部を覆うように掴んだ。
「どうだ!敵機上部に寄生させる事で重心を高くしてバランスを崩させる技だ!この状態でスピンシュートしても倒れるだけだぜ!」
スピンシュートは横方向に力を加えて機体を回転させるのでバランスが崩れやすい。こんな状態ではまともに撃てるわけがないのだ。
「普通のスピンシュートやったらな」
「なんだと!?」
「むしろ好都合や!いくで!!」
やまとはデストラクションの円形のシュートポイントを摘んで力を加えた。
「行くで!ピンチングブースター!!」
バシュッ!!!
圧出するように機体を放つ。通常のスピンでは考えられないほどの凄まじい回転が巻き起こった。
「す、すげぇ!握力をスピン力に変えたのか!!」
「弾くんじゃなくて圧力で放ったから、バランスを崩さずにスピンができるなんて!」
そのままスピンの遠心力でパラサイトしたパーツを場外へと放り投げた。
「くっ!バカな…!」
「どや!これが仲間の力や!!」
「お、覚えてろ!!」
いかにも小物な捨て台詞を吐いて去っていった。
「す、すげぇ……感覚とか精神論とかじゃなく、ダイレクトに物理的に仲間の力を自分の力に出来るのかよ」
「まっ、ざっとこんなもんや。ワイの力思い知ったやろ?棄権するなら今のうちやで」
「冗談言うな!散々手の内明かしといて勝てる気でいるのかよ!!」
「ジョーダン言うとるのはそっちやろ、アホ。今自分で言うたばかりやないか。
ワイはダイレクトに仲間の力を自分の力に出来るんや。
ワイには何万という登録者が、仲間が付いとる。使える戦術も仲間の数だけあるんや。今見せたのはほんの一部、対策された所で痛くも痒くもあらへんわ!」
「くっ!」
「まっ、試合を楽しみにしときぃや!ほな、後ほど」
……。
………。
そして試合時間が迫ってきた。
バン達は会場内に戻り、ピットエリアで機体調整をしている。
「よし!ディフィートヴィクターのメンテはバッチリだ!!」
「大丈夫、バン?結局何も対策練れなかったけど」
「大丈夫だって!確かにあいつの戦術の数は凄いかもしれねぇけど。フリックスバトルは戦術の多さだけで勝てるもんじゃねぇ!
それに、あいつだって俺と戦うのは初めてなんだ。条件は同じ!」
そう前向きに答えてバンは立ち上がった。
そして、バトルフリッカーコウのアナウンスが響き渡る。
『さぁ、そろそろ決勝トーナメントをおっぱじめるぞぉ!
第1試合を戦うバンくんとやまとくんはフィールドについてくれ!!』
バトルフリッカーコウに言われた通り、二人はフィールドについた。
「対策はちゃんと練れたか?」
「そんなもん、練らなくても俺が勝つぜ!」
「さよか、ほなあんじょう料理したるさかい覚悟しいや!」
言葉のジャブを交わしたあと、二人はマインをセットし機体をスタート位置に置く。
『そんじゃ行くぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』
「いけっ!ディフィートヴィクター!!」
「行くんや!エンシェントドラグブレード!!」
二機がフィールド中央で激突する!
ガッ、ボヨン!!
ドラグブレードの先端に接触した瞬間、ヴィクターはまるでバウンドするかのように弾かれてしまった。
「な、なんだ!?」
「ドラグブレードの先端は超弾力性のバウンド刃を装備しとるんや!それが相手を弾くと同時に、バウンド素材の摩擦力で踏ん張る事もできるんやで!!」
「くそ!正面衝突だとこっちが不利だ…!」
『先手はやまとくんだ!』
「ほな、遠慮なく行くでぇ!フリップスペル、エクステンド!!アダプトイレイザー!!」
やまとは、消しゴムがたくさん取り付けられた機体を接続した。
『開幕早々エクステンドだ!しかしこれでターンエンドだぞ!!
先制攻撃はバンくんだ!!』
「どんな機体か知らないけど、エクステンドはダメージを受ければ解除出来るんだ!いけっ!!」
マインヒットするべくシュートするバンだが、ドラグブレードに接触した瞬間予想とは違う方向へ反射し外れてしまった。
「な、なんだ!?」
「消しゴムの弾力と摩擦はバウンド刃と相性がええで!」
「くそっ!」
「ほな、いきまっせ!!」
今度はやまとの攻撃だ。難なくマインヒットを決めてきた。
『さぁ、先制攻撃はやまとくんが制した!しかしまだまだ勝負は分からないぞ!!』
バンのターン。
しかし、近くに利用できるマインがない。
「くそっ!マインが遠い!こうなったらぶっ飛ばすしかない!!」
バウンッ!!
フリップアウトを狙うものの、重量に加えて摩擦と弾力を強化したドラグブレードに弾かれてしまう。
「なんや、痒い攻撃やな」
「ぐぐ……!」
「ほな、フィニッシュに向けて準備を整えるか。フリップスペル回収や!」
『おおっと!やまとくんはターンを飛ばしてスペルの回収だ!防御力が上がった事による余裕の表れか!?』
「なめるな!!」
相変わらずバンの攻撃は通じない。
「大した事ないなぁ!ほんじゃま、せっかくやから冥土の土産にドラグブレードの本気を見せたるわ。エクステンド!ヴィクデウス!!」
やまとは、再びエクスエンドを使用。先ほど追加したアダプトイレイザーを外し、代わりにヴィクデウスを接続した。
こいつはさっき凄まじい防御力を発揮していた機体だ。
「どや?あんさんも本気で来てええんやで」
「へ、へんっ!ドライブヴィクターの量産型を改造した機体に俺が負けるかよ!!
見せてやるぜ!ヴィクターの本当の力を!!」
バンの目の周りに闇の瘴気が漂い始める。
「フリップスペル発動!デスペレーションリバース!!」
『のぉっとバン君!最大火力のスペルを使う気だぁ!!
バリケードを捨てて、視界を遮った状態でシュートする代わりに自滅を恐れずにシュートができるぞ!!』
「うおおおおお!!!アンリミテッドブースターインパクトォ!!!」
バンの最大奥義が炸裂した!
凄まじい衝撃が発せられ、さすがのドラグブレードもたまらずに押し出されていく。
「な、なんちゅーパワーや!!これがホンマもんのヴィクターの使い手っちゅーことか!!」
確かな手応えを感じ、バンの目の周りの瘴気が晴れる。
「へっ!どうだ!!」
しかし、そこには……未だフリップアウトせずに場内に残っている二機がいた。
「危なかったでぇ……エクステンドしたのがヴィクデウスやなかったらとっくの昔にお陀仏でっせ」
「そ、んな……!」
渾身の一撃が防がれてしまった。しかも、スペルを使ったデメリットによってバンはバリケードが使えない。
「ほな、反撃開始や!」
圧倒的な絶望感のまま、やまとのターンになってしまった。
つづく
次回予告
「脅威的な破壊力を手にしたザキに、操が立ち向かう!
それは懺悔の想いを込めた一戦だった!!
次回!『シェイドディバウア、暗黒への誘い』
次回も俺がダントツ一番!!」