千葉県東京市幕張メッセ。
【第7回グレートフリックスカップ本戦大会】
と大きく看板が掲げられたこの会場は熱気と歓声に包まれている。
場内では正方形のテーブルがいくつも並べられており、各テーブルで二人の少年が対峙しフリックスバトルの火花を散らしていた。
「ダントツで決めろ!ドラグカリバー!!」
その中の一つ、一気に何十人ものバトルが繰り広げられているにもかかわらず一際目立っているのがこの少年のバトルだ。
14歳くらいの溌剌とした雰囲気を出している少年は青い龍剣のようなフリックスを巧みにシュートし、敵機を場外へ弾き飛ばした!
「フリップアウト!インフェリアスタッブ撃沈で勝者は千葉県佐倉市出身の龍剣弾介くん!!」
審判が高々と宣言すると、弾介と呼ばれた少年は嬉しそうにガッツポーズしてドラグカリバーを拾った。
「よし!これで15連勝!!このまま勝ち進めば予選突破出来るぞ!」
対戦相手へ一礼し、弾介は意気揚々と別のテーブルへと駆けて行く。
『さぁ!盛り上がってきました!第7回グレートフリックスカップ本戦大会予選ヒート!!会場に用意された50台のフィールドで繰り広げられるフリーバトルで勝ち星を多く稼いだフリッカーが決勝トーナメントへと進めるが、現在最も勝ち星を獲得しているのはエントリーナンバー26番の龍剣弾介君!
13番テーブルで山田直人君と熱いバトル中だ!!』
大きなモニターのあるステージでは派手な格好をしてマイクを持った青年が実況をして会場を盛り上げている。
「あと一回フリップアウトすれば勝てる!いっけぇ!!」
バシュッ!
弾介の指から強烈なシュートが放たれてドラグカリバーが敵機へ向かって突進する。
バゴォ!!
鈍く重い音を立てながら、敵機のサイドにドラグカリバーのフロントが激突!
そのまま勢いは死なずにフィールド端へ押し込んでいく。
端では相手フリッカーの山田直人くんがバリケードを構えて防御態勢を取っているが……!
「くっそ!耐えろハコケトン!!」
山田直人くんは、柔らかいシリコン素材のプレートを四方に囲って防御力を高めたようなフリックス[ハコケトン]を使っている。
サイドのシリコンを変形させながら衝撃を吸収し、さらにバリケードで自機を支えることで土俵際で耐えきった。
「うっ、落としきれなかった…!?」
「あ、危なかった」
『ナイスバリケード!!山田くん、ハコケトンの防御力をうまく活かし、バリケードで防いだ!!
弾介くんはこれまで圧倒的なパワーで勝負を決めてきたが、その勢いもここで落ちてきたかぁ……い、いや、違うぞ!!』
モニターに山田くんのハコケトンが大きく映し出された。
確かにハコケトンはバリケードのおかげで本体の大部分がフィールド内に収まっているが、ボディサイドのシリコンがわずか重力に負けてフィールド外の路面に接地していた。
『フリップアウトー!!!ハコケトン、柔軟素材でドラグカリバーの猛攻を吸収したまでは良かったが、今度はその柔軟性が仇となりボディの一部が落下場外!!
無念の撃沈だ!!!』
「そ、そんなぁ……」
山田直人くんは、愛機であるハコケトンのシリコンのようにへなへなと崩れ落ちた。
「よ、よし!いいぞドラグカリバー!!」
『ここでタイムアーップ!!予選終了!!
ここまでの勝ち星で決勝トーナメント進出者が決まるぞ!!モニターに注目!!!』
モニターにトーナメント表が映し出される。
そこには弾介の名前もしっかりと載っていた。
「や、やった!予選通過だ!!」
弾介はホッとした表情で息をついた。
『みんな、お疲れ様!見事決勝トーナメントに進出したフリッカーはおめでとう!!トーナメントは一時間後にスタートだ!
それまでは休憩タイム。
しっかりフリックスを調整して万全な状態で挑んでくれよぉ!!』
休憩時間ということで、弾介は二階にある休憩スペースへ向かった。
ここでは、売店や自動販売機、工作スペースなどが用意されており。
選手も観客も、試合時間以外はここに集まって思い思いに過ごしている。
弾介もマックスコーヒーで水分補給をしながら、ドラグカリバーのメンテをしていた。
「特に破損個所はないな。決勝トーナメントも頼むぞ、ドラグカリバー」
弾介の言葉に答えるようにドラグカリバーのボディは光を反射した。
その時、弾介の耳に隣の席の会話が届いた。
「うぅ、ごめんよ父さん。せっかく一緒にフリックス作ってもらったのに負けちゃって……」
(あ、さっき戦った人だ)
予選で弾介と戦った山田くんだ、両親と思われる男女と一緒にいる。
「気にするな直人。良いバトルだったぞ!また一緒に強い機体作ろうな!」
「うん、ありがとう父さん!」
「疲れたでしょ、今日の夕飯は直人の好きなカレーよ」
「やったぁ!母さんのカレー大好き!!」
試合に負けて落ち込んでいる直人を両親が慰め、直人は機嫌を取り戻して笑顔になっている。美しい親子愛だ。
「……」
その様子を、弾介はどこか物悲しそうに眺めていた。
「おっと!こうしちゃいられない!試合始まる前に腹ごしらえしなきゃ!!」
そして、休憩時間も終わり選手たちは会場に再び集まった。
『さぁ、いよいよ決勝トーナメントスタートだ!
っと、その前に本日のスペシャルゲストを紹介しよう!!
今回特別に来てくれたのはこの人!フリックス世界チャンピオンの段田バン選手だ!!』
会場が暗くなり、ステージにスポットライトが当たる。
そこには高校生くらいのツンツンヘアの男子が立っていた。
「うっす!俺がダントツ1番のフリッカー、段田バンだ!!」
バンの登場で会場のボルテージがMAXになり、耳が割れんばかりの歓声が湧き上がった。
「な、生バンさん……ついに見れた……!」
弾介はステージを見上げながら、興奮を抑え切れずに羨望の眼差しを送っている。
(かっこいいなぁ、バンさん……かっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこい……)
弾介の自重しない眼差しは羨望を通り越してメンヘラかヤンデレのようになっている。
弾介の眼差しを感じたからかそうじゃないからか、バンはむせ返るような熱気に嬉しそうに笑った。
「うっはぁ、すげぇ熱気だなぁ…!へへっ、面白くなってきたぜ!
さぁ、俺はいつでも準備はOKだぜ!全員まとめてかかってこい!!
アクティブ……!」
いきなりバンは脈絡なく青いフリックスを取り出して会場へ向かってシュートの構えをとったので、実況が慌てて制止する。
『ちょちょちょ!ちょっと待ってバン選手!!』
「なんだよ?」
『バン選手のバトルはまだ後!これから決勝トーナメントを行って、その優勝者とエキシビジョンバトルをするって先に説明したじゃないですか!!』
「えー、全員と戦えるんじゃないのかよ!ケチくさいなぁ……」
バンは高校生ともチャンピオンともらしからぬ態度で少しむくれたが、すぐに切り返す。
「まぁいいや!って事だからお前ら!!俺と戦いたかったら大会を勝ち抜いてこい!!
1番強ぇ奴をぶっ倒してやるぜ!!!」
普通なら『チャンピオンとして挑戦を受ける』といった旨の発言になるはずが、『強い奴を倒す』事を前提にした発言は些か大人気ない。
しかし、これがチャンピオンとしての段田バンのキャラとして受け入れられているのか、会場内は更に盛り上がりを見せた。
「うおお!やっぱ我慢できねぇ!今から俺もトーナメントに参加して…っとと!!
な、なんだお前ら!は、離せ!!俺は戦うんだーー!!!!」
収拾つかなくなりそうなので、スタッフ達によってバンは強制退場させられてしまった。
『お、おほん!だ、段田バン選手、ありがとうございました〜!
と言うわけで、いよいよ決勝トーナメント開催ダァ!↑』
とりあえず気を取り直して司会進行を続ける実況さん。語尾が少し声裏返ってしまった。
ステージの裏ではバンが大学生くらいの年齢の小柄な女性にやんわりと嗜められて小さくなっていた。
「バン、もう高校生なんだから皆の先輩として少し落ち着かないと。スタッフの人困ってたでしょ」
「いやだってさぁ、あんな強そうな奴らがたくさんいるの見たら燃えるじゃん……!」
「バン」
「すみません」
気を取り直して、大会はトーナメントがスタートしてから恙無く進行していった。
一回戦。
「耐えろ!ドラグカリバー!!反撃でマインヒットだ!!!」
バシュッ!バキィ!!
敵機の攻撃を耐えてからの密着した状態でマインヒット。
「マインヒット成立!勝者、龍剣弾介!!」
二回戦。
「相手はフィールドの端にいる……だったら、スピンで攻めろ!ドラグカリバー!!」
シュンッ!
シュートポイントの片側をシュートしてスピンしながら敵機を弾き飛ばす。敵機はバリケードを反射して場外。
「フリップアウト!勝者龍剣弾介!!」
弾介はトーナメントを順調に勝ち進んでいった。
そして決勝戦!
『さぁ、あっという間に進んだトーナメントもいよいよ決勝戦!!
勝ち上がったのは、千葉県は佐倉市出身!龍剣弾介くん!使用フリックスはドラグカリバー!!
対するは豊本鳳梨くん!使用フリックスはナップルセイバーだ!!
カリバーとセイバーの剣戟対決となるのか!?』
フィールドを挟んで対峙する二人。
「よろしくな!」
鳳梨は気さくそうな笑顔で挨拶した。
「うん、良いバトルをしよう!」
弾介も爽やかにそれに応えた。
『そんじゃ、そろそろおっぱじめるぞ!果たして、段田バン選手への挑戦権を得るのはどちらかのか!
運命の決勝戦!3.2.1.アクティブシュート!!』
「いけっ!ドラグカリバー!!」
「ナップルセイバー、頼むぞ!!」
ガキンッ!!
同時に放たれた二機がフィールド中央で激突し、少し弾かれたあとに停止した。
「パワーは互角か!?」
「先攻はどっちだ!?」
『さぁ、先手を取ったのは僅かにドラグカリバーだ!!』
「よしっ!」
「くそっ!」
「一気に決めるぞ!!」
先手を取った弾介は真正面に向かい合っているナップルセイバー目掛けてシュートする。
ガガキンッ!!
真正面からの激突、しかしなぜかいくつも細かくぶつかったような打撃音がした。
「っ!勢いが足りない?」
力は乗っていたはずなのに飛ばされていくナップルセイバーの速度が想像より遅く、鳳梨は楽々バリケードで防ぎきった。
『おおっと!ドラグカリバーの渾身の一撃が防がれてしまった!!』
「俺のナップルセイバーのフロントはパイナップルの葉っぱを模した形状が攻撃を分散させるのさ!」
「くっ!」
それから、二人の攻防が続く。
お互いいい当たりをするもののイマイチ決め手に欠けてしまい全てバリケードで防がれてダメージが入らない。
途中お互いに一回だけマインヒットが決まったものの、殆どのターンが徒労に終わっている。
『さぁ、バトルは膠着状態が続いている!!
渾身の攻撃を渾身の防御で防ぐターンが連続し、二人とも息が上がっているぞぉ!!』
「はぁ、はぁ……!こ、こんなに長引いたバトルは初めてだ」
「くっ!そろそろバリケードの防御力も落ちてくる!早く先に決めねぇと!!」
『疲労困憊!消耗戦!!根比べだ!!ここからは気力の勝負になるぞ!!!』
その時、ギャラリーの方から喧しく応援の声が届いてきた。
「頑張れ!鳳梨!!」
「俺たちが付いてるぞ!!」
「踏ん張るんだ!!!」
鳳梨の友人と思われる大勢の少年達がエールを送る。
「み、みんな…!」
『おおっと!鳳梨くんのギャラリーの熱きエール!!さすがは決勝戦!応援も気合が入っているぞ!!』
「そうだ!みんなの為にも負けられない!!」
仲間達のエールで力を得る鳳梨。
それを見て、弾介は複雑そうな顔で奥歯を噛み締めた。
(仲間の、応援……)
一瞬瞳の輝きが消えそうになるが、ドラグカリバーの姿を見てハッとする。
(いや、僕にはドラグカリバーがいる!こんなに頼もしいパートナーがいるんだ!それに……!)
弾介は、ステージの端で待機しているバンの姿を見据えた。
(絶対に辿り着きたい場所がある!届きたい人がいる!!
僕にはこれしかないんだ!いや、これだけのものがあるんだ!だから、だから……!!)
弾介のターン。
ナップルセイバーはフィールドの中央で鎮座している。ドラグカリバーは端から狙う位置だ。
「仲間達のためにも俺は勝つ!」
「僕は……僕のフリックスがある!だから負けない!!」
仲間の想いで防御する鳳梨に対して、弾介はただひたすらに自分のフリックスへの信念のみを込めてシュートを放った。
そして……。
『決まったぁ!!!見事なフリップアウトで龍剣弾介くんの優勝!!!』
「はぁ、はぁ…勝った…!」
「負けた…はは、くそ、まいったな……」
鳳梨は悔しげに頭を掻きながらも大切そうにナップルセイバーを拾い、弾介へ向き直った。
「良いバトルだった、ありがとう」
鳳梨は爽やかに笑いながら握手を求めてきた。
「あ、う、うん!こっちも、楽しかったよ!!」
弾介は戸惑いながらもその手を握った。
『決勝を戦い抜いたフリッカー同士、熱き友情が芽生えたぞ!!』
(友情……か)
鳳梨と別れた後も、弾介は握手した手を何気なく見つめていた。
「やっぱり、フリックスっていいな」
そして、表彰式も終わり。
いよいよバンへ挑戦するエキシビションマッチが始まる!
『さぁ、ここからがメインイベント!
優勝者龍剣弾介くんとチャンピオン段田バン選手のエキシビションマッチだ!!』
「おっしゃあやっとバトル出来るぜ!!!」
バンは待ちくたびれたとばかりに意気揚々と身体をほぐす。
「段田バンさん!僕はずっとあなたに憧れてました!!今こうしてあなたと戦えるのが凄い嬉しいです!!」
「おう、よく言われるぜ!俺も、お前とのバトルめっちゃ楽しみだ!!」
『さぁ、それでは始めるぞ!
3.2.1.アクティブシュート!!』
「頼むぞ、ドラグカリバー!!」
「いけっ!バンキッシュヴィクター!!」
弾介のドラグカリバーとバンのバンキッシュヴィクターがフィールド中央でぶつかる。
その瞬間…!
バチンッ!!
と凄まじい音がして、ドラグカリバーが一瞬で弾介の頬をかすめながら場外してしまった。
「え…?」
何が起こったのか理解した頃には、ドラグカリバーは地に墜ちていた。
『相変わらず凄まじいパワー!!バンキッシュヴィクターの強力なバネを使ったインパクトアタック!!!
押しバネとキックバネを複合した高火力ギミックでドラグカリバーを一瞬で跳ね飛ばした!!』
これで、自滅扱いとなってドラグカリバーは1ダメージと思われたが…
「…いや、やっちまった」
バンは苦笑いしている。
よく見るとギミック発動によって伸びたフロントパーツがフィールドにある穴の上に僅かにかぶっていた。
このフィールド内の穴は機体が僅かでも被さった状態で停止すると場外扱いになるのだ。
『なんと!先制を決めたと思われたヴィクターだが、僅かに穴に落ちていた!
と言うわけで、これはお互いに無効!ダメージは無しだ!!』
(た、助かった……けど、力の差が歴然な事に変わりはない。
今のは運が良かっただけ、このままじゃまともな勝負にならない……どうすれば…!)
せっかくここまで来たんだ。勝てないにしてもいい勝負はしたい。
弾介は必死に頭脳をフル回転させて打開策を探った。その時、ヴィクターの展開したフロントパーツに目がいった。
「そうだ!」
『さぁ!仕切り直しアクティブだ!
3.2.1.アクティブシュート!!』
バシュッ!!
弾介は、今度はヴィクターと激突しない方向へシュートした。
「な、なんだよ!逃げるのか!?」
「いえ、戦うためです!」
「なに…?」
『さぁ、今回は激突しなかったが……先攻は弾介くんだ!!』
「何企んでるかしらねぇけど、バーンと来いってんだ!」
バンは余裕の表情のままバリケードを構えた。
「いくぞ……ダントツで決めろ!ドラグカリバー!!」
バシューーー!!!
ドラグカリバーがヴィクターへ向かって突進する。
「良いシュートだな、でもその程度!」
カッ!バチーーーン!!!
ドラグカリバーがヴィクターに接触した瞬間、ヴィクターのバネが発動し、その反動でヴィクターは場外してしまった。
「いぃ!?」
「や、やった!」
『な、なんとなんとなんとーーー!!!エキシビションマッチ!先にダメージを与えたのは挑戦者の龍剣弾介君だった!!これは大番狂わせだぞぉぉぉ!!!!』
「バンキッシュヴィクターの攻撃力は確かにすごいです。でも、強さと弱点は表裏一体!
その高火力ギミックはこっちにとっても武器になるんです!」
「……」
バンは無言でヴィクターを拾ったあと、嬉しそうにニヤリと笑いながら弾介を見た
「へへっ、やるじゃねぇか。まさかそこに気付くとはな!
龍剣弾介!お前、最高のフリッカーだぜ!!」
「バ、バンさん…!!(僕の名前っ!呼んでくれたっ!!この耳しばらく洗わない!!!)」
「けどなぁ……やっぱり俺が、ダントツ1番だぜ」
「…!(気迫が、さっきとは全然違う!)」
『では、いくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』
バシュッ!ガチンッ!!
今度はドラグカリバーとヴィクターが中央付近でぶつかり、停止した。
「弾けない!?」
「自分の弱点くらい、自分が1番よく分かってるんだよ」
よく見ると、すでにヴィクターのフロントが展開していた。
「ギミックを、解除して…!」
『さぁ、今度の先手はバン選手だ!』
バンはゆっくりと、まるで死刑宣告でもするかのようにギミックをセットした。
「いくぜ、弾介!」
バンは肩の力を抜き、前傾姿勢になって腕を構えた。
「エキシビションマッチでこの技を使うとは思わなかったぜ、サンキューな!
ブースター……インパクトォォォ!!!」
バシュウウウウウ!!!!
腕を突き出しながらの超高火力シュート、しかも自身はバネによってブレーキがかかるので場外の心配は薄い。
反対にドラグカリバーはまるで嵐に吹き飛ばされる木の葉のようにすっ飛んでしまう。
「うっ、うっ、うわあああああ!!!」
ドゴオオオオオ!!!
ドラグカリバーを受け止めたバリケードごと弾介は大きく後ろへと吹っ飛ばされてしまう。
その時だった。
弾介の背後に眩い光が出現し、弾介はその光に吸い込まれるように…跡形もなく姿を消してしまった。
これには、会場も騒然となる。
『ふ、フリップアウト…?なのか、これ?
相変わらずの凄まじい攻撃力だが、吹っ飛ばされた弾介君とドラグカリバーの姿が消えてしまった!一体これはどうなってるんだ!?』
状況がわからずに困惑する運営陣。
「なはははは、フリップアウトし過ぎちまったかな!」
『呑気な事言ってる場合じゃないですよバン選手!!
一体、弾介君はどこに消えてしまったのか!謎の神隠し現象に会場は騒然となっているぞ!!
弾介君!カムバーーッック!!!』
実況者の叫びも虚しく、その場に弾介の姿が戻ることは無かった。
……。
………。
一方の光に吸い込まれた弾介は。
「うわあああああなんじゃこりゃあああああ!!!」
極彩色な光に包まれた異空間っぽいトンネルを浮遊しながら、まるで吸い込まれるかのように飛ばされていた。
「どこまで行くんだこれえええええ!!!!」
しばらく飛ばされたのち、ようやく明るい日の光のようなものが差し込む穴が見えてきた。
どうやらそこへ吸いだされようとしてるらしい。
助かる保証はどこにもないが、とりあえず今の三半規管を揺さぶる現状が変わるのならもうなんでも良い、そんな気分だった。吐きそう
やがて、弾介はスポッと穴から吸い出され、放り出される。
そこは、野外。
青い空に白い雲、そして眩しい太陽、と普段からよく見慣れた景色だ。
ただし、その身を置いている場所が地上から数メートルほど離れた空中であると言う点を除いて。
(あ、これ死んだな)
と、脳が認識するのと同時に弾介は重力に従って落下する。
今まで味わったことのない凄まじい浮遊感、まるで時間が何百倍にも引き延ばされるかのような感覚。
それでも、やっぱり地上が迫るのは一瞬だったようにも思う。
ドゴンッ!!
幸いな事に、地面は柔らかい土と草で覆われていたようでかなり衝撃は吸収されたが。
背中を強かに打ってしまい、意識が次第に遠のいていく。
「え、え、えええええ!!なんでえええ!!!
どうして男の子が空から降ってくるの!?呪文も魔法陣もちゃんと説明通りにやったのに!
どうしよう!どうしよう!!
え、えっと、この子死んでないよね?大丈夫だよね??
ああんもう、こういう時どうすればいいのぉぉ!!!
分かんない!何も分かんない!!分からないままなんてそんなのはいやぁぁ!!
もうやだぁ、おうちかえるぅ……」
遠のく意識の中で、やたらとパニクりながらベソをかいている女の子の声が聞こえた。
……ような気がした。
つづく