第11話「地獄から這い上がるフリックス」
スクールに連れ去られたリサを取り戻すために、スクールに潜入したバンはついにリサのいる地下独房へ辿り着く。
しかし、そこには、一緒に謎の少年が卑下た笑みを浮かべながら膝をつくリサを見下ろしていた。
「リサ……!」
失意のリサに駆け寄るバン。状況が分からない。あの少年と関係があるのか?
「大丈夫か?」
「……うん」
リサは弱々しくうなずいたが、それ以上何も喋らない。
「へぇ、お前が侵入者か」
ザキが、面白そうに言う。
「誰だお前は!リサに何をした……!」
バンが食って掛かろうとすると、ザキの代わりに後ろから声がした。
『なに、楽しいフリックスバトルをしただけだよ。段田バン君』
「っ!」
振り返ると、そこにはモニターがあり、段冶郎の顔が映し出されていた。
「お前は……?」
『ワシの名は遠山段冶郎。スクールの校長であり、リサの祖父じゃ』
段冶郎……そういえば、公式サイトで見た事がある。
「お前が、リサに酷い事してきたって奴か……!」
『心外じゃな。ワシはただ、フリッカー達に最高の教育と最高の環境を与えてやったに過ぎん』
「うるせぇ!それだけだったら、リサが逃げ出すわけがないんだ!!リサは、泣いてたんだぞ!!」
『くだらん、ガキのわがままに付き合っていたらキリがないのう』
「なにをぅ……!」
売り言葉に買い言葉、押し問答を続けるバンと段冶郎だが、段冶郎はバンに会話する価値がないと判断し、言葉の矛先をリサに向ける。
『リサ、残念じゃったのぅ』
「っ!」
話を振られて、リサはビクッと反応する。
『生ぬるい事ばかり言っておるから、こうなったんじゃ。さぁ、約束じゃ。お前はスクールに戻り、また一から鍛え直すがいい』
「……」
段冶郎の言葉に、返すことが出来ないリサは俯いて体を震わせている。
「待て待て待て!どう言う事だよ!!約束って、なんだよ!?」
バンが吼えると、今度はザキがさも可笑しそうに口を開いた。
「俺に負けたらスクールに戻る。そういう約束だったからなぁ」
「……!」
その言葉を受けて、バンはザキへと向き直る。
「お前が、リサに勝っただと……?」
バンは、信じられないような、相手を憎むような、そんな表情でザキを睨みつける。
「ああ。つまらないバトルだったぜ」
『じゃが、テストとしては上々じゃ。ザキよ、今こそお前はスクール最強のフリッカーとして完成した!これからその腕を存分に振るってもらおう。一度ワシの所に来い、獲物を用意してやる』
段冶郎がそう言うと、ザキはフッと笑って頷き、踵を返した。
「待てよ!」
バンはザキの背中に向かって呼び止める。
ザキは動きを止めた。
「お前がリサに勝っただと……だからリサはスクールに戻るだと……冗談じゃねぇ!リサはお前なんかにゃ負けないし、スクールにも戻るわけがねぇ!!」
「はぁ?……リサは、俺に負ければ大人しくスクールに戻ると言う条件でバトルし、そして負けた。これが現実だ。残念だったな、もうお前の出る幕じゃない。帰っていいぞ」
振り返りもせず、一気にそう言う。
「帰って良いだとぉ……!」
「大人しく帰れば、不法侵入については目を瞑ってやる」
ザキが言うと、段冶郎も同意した。
『そうじゃな。ザキはこれから大事なバトルがある。これ以上ガキに構ってられんからの』
バンの不法行為すらも、ザキのバトルに比べたら瑣末な事らしい。それだけバンは軽く見られているのだ。
「ふ、ふざけやがって……!そんなに、バトルがしたいってんなら……俺が相手になってやる!!!」
激怒したバンは啖呵を切る。
「お前が?」
それを聞いて、初めてザキは振り返った。
「ああ!リサは、お前なんかに負けるようなフリッカーじゃねぇ!俺がお前に勝って、それを証明してやる!!!」
「……まぁいいだろう。お前如きに、大した時間は掛からないだろうからな」
ザキはニタリと笑ってバンの挑戦を受けた。
「バン、ダメ!」
が、リサがバンを止める。
「リサ、なんでだよ?」
「今の私たちじゃ、勝てない……!お願い、ここは引いて!」
何故か、リサは必死に、懇願するようにバトルをやめさせようとする。
「一体、なんで……?」
「どうした、怖気づいたか?」
バンがその理由を聞く前に、ザキが挑発する。
「んなわきゃねぇだろ!!」
当然、その挑発に乗ってしまい、リサの言う事は聞かずじまいになる。
リサは不安そうな表情だ。
「大丈夫だって。俺がダントツであいつをぶっ倒す。そして、帰ってまたフリックスバトルしようぜ!」
バンはリサを安心させるように言うのだが、リサの表情は浮かないままだ。
そして、バンとザキがフィールドを挟んで対峙した。
「アクティブシュート!!」
バシュッ!
最初は様子見なのか、ザキはあまり飛ばさず、ドライブヴィクターは真ん中付近まで進んだ。
「いいぞ、ドライブヴィクター!!」
バンの先攻だ。
ドライブヴィクターを思いっきり撃つ。
バキィ!
強い当たり、シェイドスピナーが大きく飛ばされる。
「よしっ!」
フリップアウトにはならなかったが、マインヒットは出来た。このまま徐々に追い詰めていけばこっちが有利だ。
「くくっ……」
それを見て、ザキは小さく笑った。
「な、なんだよ……」
「その程度か」
「な、なに……!」
「フリックスは高性能みたいだが、フリッカーの腕が全然だな。いいか、攻撃ってのは、こうやるんだ!!」
ザキが、シェイドスピナーを構え、ドライブヴィクターに向かってスピンシュートを放つ。
周りの空気を吹き飛ばしながら、ドライブヴィクターに迫ってくる。
ブオオオオオオオオオオオオ!!!!!
「う、うわあああああ!!!」
そのあまりの迫力に、バンは思わず悲鳴を上げてしまった。
バーーーーーン!!!
そして、ドライブヴィクターにマインヒット!シェイドスピナーはスピンの反動で少し横に弾かれながらも、あまり動かずにその場に留まる。
ドライブヴィクターは凄い勢いでフィールドの端へとフッ飛んで行く。
「ドライブヴィクター!!!」
バンは慌てて気合いを込めて、踏ん張る。
それを受けたドライブヴィクターがシャーシから煙を発しながらもシェイドスピナーから受けた運動エネルギーと戦っている。
ギャギャギャ!!!
間一髪!ギリギリの所でなんとか踏みとどまった。
「は……あ……」
たった一発の攻撃で、バンは精神的にも肉体的にも、大きく消耗してしまった。
「な、なんて鋭くて重い一撃なんだ……あとほんのちょっとでも気を緩ませてたら、フリップアウトしてた……」
「ククク」
ザキは余裕の表情で卑下た笑みを浮かべている。
「あいつ……あれだけのシュートを撃ってんのに、まだ余裕があるのか……!」
ザキの底知れぬ力の一端を体感し、バンは身震いした。
(どうする……またあの一撃を喰らったら、もう耐え切れる体力はない……!)
ただでさえバンはここまでくるのに体力を消耗しているのだ。もう防御に使う体力は残ってないだろう。
「くそっ!」
バンは一旦、シェイドスピナーから離れるように撃った。
「無駄だ!!」
バシュッ、バーーーーン!!!
しかし、シェイドスピナーの猛攻は続く。
一旦離れたおかげで、遠距離に向かないスピンシュートの威力が落ちていたからあまり痛くはなかったが、マインヒットを受けてしまいダメージレースでは逆転されてしまった。
「く……!」
だが、逃げた所で嬲り殺されるだけだ。
(でも、見た感じあのフリックスは防御力はそんなに高くない。こうなったら、このターンで一気に決めるしかない!)
バンはドライブヴィクターを構えて、じっくり狙いを定める。
「いっけぇ!!」
バシュウウウウウ!!!バキィ!!!
ドライブヴィクターのストレートシュートがシェイドスピナーにヒット。しかし、大きく飛ばせはするがフリップアウトには至らない。
「くっ!なんで……!」
相手は防御型ではないのに、上手く吹っ飛ばせない事にもどかしさを感じる。
「確かに、シェイドスピナーは防御力は高くない。だがなぁ、シェイドスピナーはスピンシャーシを搭載している。お前みたいに刺突面積が小さいフリックスの攻撃は、重心を捉えられない限り、受け流せるんだよ」
『面』で攻撃するような通常のフリックスならばシェイドスピナーは防御力の低いフリックスになるのだろう。しかし、『点』で攻撃するドライブヴィクターにとっては防御面で非常に相性が良いのだ。
もちろん、重心を捉えられてしまえば、大きく飛ばされてしまうのだろうが。今の消耗しきったバンにはそこまでの命中精度がない。
「さぁ、行くぜ」
ザキのターンだ。
ズギャアアアアアアアアアア!!!!
再び物凄い勢いのスピンシュートがドライブヴィクターに迫る。
「ぐっ!!」
バーーーーーーーーーーン!!!!!
「ぐ、ぐおおおおおおお!!!!」
バンが渾身の力で踏ん張る。
ドライブヴィクターがまたギリギリの所で耐えた。
「はぁ……はぁ……」
「惜しい惜しい。命拾いしたなぁ、お前」
ニタニタ笑いながら言うザキ。
「こいつ、遊んでやがるのか……!」
明らかに手加減して撃っている。ギリギリの所でフリップアウトさせないで、じわじわと痛めつけているのだ。
「くっそおおおおお!!!」
バシュッ!バキィ!!
ドライブヴィクターの攻撃。シェイドスピナーがこれに耐える。
「はああああああ!!!」
ズギャアアアアアアアア!!!!!バーーーン!!!!!
シェイドスピナーのスピン攻撃。ギリギリの所で耐えられるように手加減される。
そんな展開を何度も繰り返させられた。
「はぁ……くっ、はぁ……!」
バンはもう満身創痍だ。
「バン……!」
リサも傷ついていくバンを見ていられないようだ。
「お爺様!お願い、もうやめさせて!バンが……バンが……!」
振り返り、モニターに映る祖父に向かって懇願する。
しかし……。
『それを決めるのはワシではない。お前でもない。一度始まったバトルは中断できんな』
「そんなっ……!」
もうリサの声は涙が混じっている。
「心配、すんなよ、リサ……」
疲労困憊ながらも、バンはリサに話し掛ける。
「バン……」
「こんなの、どうって事ねぇ。とっととケリつけるから、心配するな」
どう見ても痛々しい強がりなのだが、バンは無理に笑顔を作っていた。
「……」
リサは、もう何も言えなくなってしまった。
「なかなかしぶといなぁ。少しは楽しめたぜ」
ザキが馬鹿にするような笑みを浮かべたまま言う。
「へへへ」
肩で息をしながら笑う。こんな奴に弱みは見せたくない。
(こうなりゃ、もう出し惜しみはしてられない……ドライブヴィクターのHPはあと1……これがラストチャンスだ……!)
ドライブヴィクターの上部に立体映像で『1』と言う数字が浮かんでいる。
「いっけぇ!ドライブヴィクター!!」
バシュッ!!バキィィ!!!!
ドライブヴィクターの攻撃がシェイドスピナーにヒット。
バゴオオオオオオオオオオオ!!!
今日一番の威力のシュートがシェイドスピナーに襲い掛かる。
バキイイイイイイ!!!!
シェイドスピナーにヒットし、強烈な打撃音が響き渡る。
そして、その音に見合う勢いでシェイドスピナーがすっ飛んでいく。ザキはバリケードを構えていたものの、勢いに負けたのか接触した瞬間に真横へとズラし、シェイドスピナーはスピンしながら場外へと飛んでいった。
ドライブヴィクターも勢い余って滑っていったのだが、場外する前に止まった。
「はぁ……はぁ……」
ドライブヴィクター、残りHP1。そして、シェイドスピナーはフリップアウト。
つまり、このバトルは……。
「や、やったああああ!!!勝ったぜええええ!!!」
バンは飛び上がって歓喜した。
「やっぱり、俺がダントツ一番!」
そして、リサの方を向く。
「やったぜ、リサ!これで……!」
しかし、リサの表情は浮かないままだ。いや、それどころか、何かに恐怖しているようにガタガタと震えている。
「?」
パンパンパン!
「ククク!!あーーーっはっはっは!!!」
パンッ!パンッ!パンッ!!
バンが歓喜していると、ザキが大きく手を叩きながら爆笑していた。
「な、なんだよ……?」
「くっくっく、なかなか面白い見世物だったぞ」
笑いを堪えながらザキは言う。その意味がバンには分からない。
「どういう意味だ!」
その時、フィールドの周りに黒い瘴気が立ち込め始めた。
「な、なんだ、これは……!」
その瘴気はフィールドを覆い尽くしてしまう。
「見せてやれ……シェイドスピナー!」
その中で、ザキの声が静かに響く。
「アンデッドリバース」
しばらくして、瘴気が晴れる。
すると、シェイドスピナーは猛スピンしながら壁に接触し、その反動でフィールドへと戻った。
「な、なんだ、これは……!確かにフリップアウトさせたはずなのに!」
「これがシェイドスピナーの必殺技、アンデッドリバースだ。フリップアウトは場外に接触しても3秒間はセーフだからな。バリケードを使って回転させる事で壁に当たった反動でフィールドに戻るようにしたんだよ」
「そ、そんな、バカな……!」
闇だけに、ゾンビのような技だ。
「闇の力を思い知れ……」
ザキのターン。
シェイドスピナーを構える。
ドライブヴィクターのHPは1。つまり、一撃でもマインヒットを喰らえばバンの負けだ。しかもシュートの軌道上にマインがある。
この状態でザキが外すとは思えない。
もう、バンは詰んでいる……!
「はあああああ!!!」
ザキが、シェイドスピナーをシュートする。
シュパアアアアアアアアア!!!
シェイドスピナーがドライブヴィクターに迫る。
もうなすすべがない。
「うっ!」
「ブラッシュゲイザー!!」
その時、どこかで聞いた事がある声ともに見た事のあるフリックスが飛んで来て、ドライブヴィクターへ向かうシェイドスピナーを弾き飛ばした。
「「なにっ!」」
ブラッシュゲイザーは、シェイドスピナーを弾き飛ばした反動で何処へと弾かれてしまう。恐らく、持ち主の手元へ飛んでいったのろう。
シェイドスピナーも反動でザキに手元に戻った。
「誰だああ!!!」
ザキが怒声を上げる。
しかし、何も反応しない。
「今のフリックスは、まさか……」
バンが何かに気付いた。その時だった。
バチンッ!
突如、辺りの証明が切れて、真っ暗になる。
「っ!」
『な、なんじゃ、何が起こったのじゃ!ええい、誰かどうにかせんか!!』
段冶郎も予期せぬ出来事に慌てているが、その声も次第に聞こえなくなる。モニターの電源も切れたのだろう。
「い、一体……!」
バンもリサも状況が分からずに戸惑っている。
「今だ!フリックスを持ってここから逃げろ!」
うろたえていると、再びどこからか聞いた事のある声が響く。
「あ、ああ!」
バンは暗闇の中手探りで、ドライブヴィクターとリサの手を取り、そのまま駆け出した。
「バン、こっち!」
「お、おう!」
無我夢中で駆け抜けて、なんとかリサの案内で裏口から外に出る。
「はぁ…はぁ……」
外に出て、一息つく。
「バーーーン!!」
「大丈夫か?!」
騒ぎを聞きつけたのか、表玄関から周ってオサムとマナブが駆けて来る。
「オサム、マナブ……」
「あ、えっと……!」
リサは自分が変装してない状態で二人の前に顔を晒している事に少し狼狽する。
「あぁ、大丈夫だよリサ。この二人には全部教えてあるから」
「……うん」
リサは安心したように頷いた。
「やったな、バン!」
「救出成功したんだね!」
リサを見た二人が口々に祝辞の言葉をかける。
「あ、あぁ……」
しかし、当のバンは、微妙な表情をする。
「どうしたんだ?」
様子のおかしいバンに首を傾げる二人だが、その時、一人の男がバン達の前に姿を表す。
「あ」
「Mr.アレイ……」
「……」
Mr.アレイは腕組したままバンを見下ろし、何も喋らない。
「……さ、サンキュ、あん時あんたが助けてくれたんだろ?」
気まずくなり、バンは視線を逸らしながらぎこちなく礼を言った。
しかし……。
「あまり俺を失望させるな」
Mr.アレイは厳しい口調でそう言った。
「っ!」
バンの目が見開かれる。
「……」
それだけを言うと、Mr.アレイは風のように去ってしまった。
「な、なんだぁ、今の?」
「さぁ?」
事情が分からないオサムとマナブは、首を傾げる。
リサだけがいたたまれない表情でバンを見ていた。
「……」
バンはしばらく呆然としているのだが、拳を握り、ブルブルと震えだした。
「お、おい、バン……」
様子のおかしいバンにオサムが声をかけようとした時。
ドガァァ!!!
「ぐ、ぐおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
バンが拳を地面にたたきつけ、悔しさの篭った咆哮を上げた。
そこには、リサに負けた時とは比べ物にならない。微塵の楽しさも無い純粋な悲しみがあった。
つづく
次回予告
炎のアタッカーユージンの競技玩具道場!!フリックスの特別編
うっす、ユージンだ!元気にフリックス、やっとるかなぁ?
リサをスクールから取り戻す事は出来たものの、ザキとシェイドスピナーの前に惨敗してしまったバンとリサ。
脅威的なスピン攻撃力にフリップアウトを無効化するエレメント……!
あの圧倒的な力に、今後二人がどう立ち向かって行くのか見所だね!
そんじゃ、今回はここまで!
最後にこの言葉で締めくくろう!!
本日の格言!
『敗北は、勝利へのチャンスだ!』
この言葉を胸に、皆もキープオンファイティンッ!また次回!!