オリジナルビーダマン物語 第100話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第100話「ヒンメル、暴走」





 タクマとの死闘を終えたシュウは、疲労困憊な体を引きずりながら控え室への廊下を歩いていた。
「いつつ、体中ガタガタだ……。今回のバトルはさすがにキツかったぜ……」
 身体を抑えながら歩くシュウの背中へ、良く知った少年の声が投げかけられた。
「シュウく~ん!」
「え?」
 振り向くと、そこには佐津正義が手を振りながら駆けてきた。
「正義……」
「やぁ、良いバトルだったよ。これで準優勝以上は確定だね。おめでとう」
 シュウの目の前まで来た正義は、少し息を整えてから賞賛してくれた。
「はは、サンキュ。でも良いのか?お前仕事あるんじゃ」
「交代で休憩貰ってるんだ。あと10分で戻らないといけないけど」
「お前も大変だなぁ。そんな短い休憩時間にわざわざ来なくても……」
「好きでやってる事だからね。シュウ君のバトル見てたら、いても経ってもいられなくなって会いに来たんだ」
「俺のバトルを?」
 シュウは自分を指差しながら首を傾げた。
「僕は、ずっと考えていた。源氏派が本当に排除すべき悪なのかどうか。もしかしたら、僕が思い込んでいるだけで、智蔵派の方が悪なんじゃないかって」
「正義……」
 シュウも考えていたことを、正義も悩んでいたようだ。
「君のバトルを見て確信したよ。きっと、どっちも間違ってない。ただのビーダマン好きなんだって」
「ああ。俺もそう思うぜ」
「うん。それで、僕の目標が決まった」
「目標?」
「正義の味方は、悪を倒す者じゃなくて大切な人を守る者。僕にとってはビーダマンが好きな人は皆大切なんだ。
だから、智蔵派も源氏派も関係なく、皆が日の下で楽しくビーダマンバトルが出来る世界を造りたい」
「皆が、楽しく……」
「きっと、凄く難しいと思う。もしかしたらまた誰かが傷付いたり、傷付けられたりするかもしれない……。それでも、それが今の僕の理想なんだ」
 まっすぐに夢を語る正義の顔は、まるで太陽のように眩しかった。
「そっか。頑張れよ、正義!その夢、俺も応援するぜ!!」
 シュウはグッと胸の前で拳を握りしめて正義を応援した。
「ありがとう、シュウ君!君には真っ先に伝えたかったんだ!」
 正義はシュウの拳に、自分の拳をぶつけた。
「いつかまた、俺とバトルしようぜ!」
「うん!それじゃ!」
 二人は再会を誓い合い、それぞれの持ち場へ歩いて行った。
 
 控え室に戻ったシュウは、メンバー達に祝福された。
「やったな、シュウ!!」
「さすがです、凄いです、シュウ先輩!!」
「やるじゃない、シュウ」
「これで二位以上決定だね!おめでとう、シュウ君!!」
 口々に祝杯され、シュウは照れくさそうに後頭部を掻いた。
「サンキュー。でも大げさだなぁ。優勝したわけじゃないのに」
「二位確定だって凄い事だよ」
「そうだな。今回の世界大会は強敵揃いだった。その中で二位になれたんなら、大したもんだ!」
「まっ、そうだな。夢は叶わなかったけど、ほんと最高に楽しい良い大会だったぜ」
 シュウは、今までの事を思い返しながら感慨深げに答えた。
「ふん」
 皆がシュウへ祝杯をかけるなか、ヒロトはつまらなそうに腕組みしていた。
「ヒロ兄……」
 が、ゆっくりと腕組みをほどき、シュウへ向かった。
「まぁ、良いバトルだったな」
 ヒロトは、素直にシュウのバトルを賞賛した。
「ヒロト……」
「ヒロ兄……」
 が、照れ臭かったのか、すぐにキツい口調に戻った。
「お前に呼び捨てにされる筋合いはない!いつまで突っ立ってる。とっとと座れ!」
「あ、あぁ!」
 ヒロトに促され、シュウは椅子に座った。
 
「さて、俺の世界選手権は終わったけど。世界選手権はまだ終わったわけじゃないし。最後まで皆の試合、しっかり見届けるぜ!」
 シュウは身を乗り出して、試合を中継するテレビを見つめた。
 
 そして、試合会場では。
『さぁ、第二試合の対戦カードを発表するぜ!モニターチェック!!』
 モニターにアメンとカルロスの姿が映し出された。
『カルロス君VSアメン君だ!現在3勝中のカルロス君が、現在4勝中のアメン君に勝てば、アメン君に並ぶことが出来る!
反対に、アメン君が勝てば、5勝中の劉洸君と並ぶぞ!!』
 
 バトルフィールドにカルロスとアメンが姿を現す。
「余の幻影とそちのフットワーク。どちらが優れているか勝負であーる!」
「僕は負けないよ!!」
 二人は軽く挨拶したのち、スタート位置についた。
 
『それでは始めるぜ!レディ、ビー・ファイトォ!!』
 
 ダッ!
 カルロスが得意のフットワークで、数々の設備を潜り抜けながらアメンに迫った。
 
『カルロス君、やはり速い!あっという間にアメン君に迫る!!』
 
「いくよ、アメン君!」
「んっふっふ!やっぱり余が動くまでもなかった。素晴らしいフットワークであーる!」
「いっけぇ、エースストライカー!!」
 ドンッ!!
 エースストライカーのパワーショットがアメンを襲う。
「しかし、いくら速くても」
 ショットがアメンのボムにヒットする瞬間、アメンの姿が消えた。
「瞬間移動に勝る事は無いのであーる!」
 いつの間にか、アメンはカルロスの後ろについていた。
「っ!」
 
『のおっと!アメン君はスタート直後からいきなり幻影技を発動!!さすがのカルロス君も翻弄されっぱなしだ!!』
 
「は、速い……いや、そう言う次元じゃない!」
「0秒で目的地へ移動できる我の幻影の速度は無限大。いかに速くても無駄なのであーる!!」
 ズババババババ!!!!
 今度は分身して超連射を放った。
「うわあああああ!!!」
 
 バーーーーーン!!!
『決まったぁ!カルロス君、なすすべなくアメン君の幻影に翻弄されてしまった!勝者はアメン君だ!!これで総合4位の劉洸君へ並んだぞ!!』
 
「ザッとこんなもんであーる」
「負けちゃったか……でも、楽しかったよ。アメン!」
「我もであーる!」
 アメンとカルロスは爽やかに握手をしてバトルフィールドを去って行った。 
 
 控え室。
「カルロス~、惜しかったなぁ」
「瞬間移動に速度で対抗してもどうしようもないからなぁ」
「ちょっと相性が悪かったよね」
「これで今の所、1位が同率でヒンメル君とシュウ君、3位がタクマ君で4位が劉洸君とアメン君が並んだね」
 彩音が勝利数を確認した。
「次に劉洸が勝てば、劉洸が4位でアメンが5位に転落か」
 タケルが言う。
「そうね。ただ、劉洸君の対戦相手はブッシュ君で確定だけど、どっちが勝つかははっきりしないね」
「あいつの事だから、またすげぇ罠仕掛けてくるんだろうなぁ」
 シュウが苦笑しながら言った。
 
 そして、大会は進み……。
『さぁ、第4試合!劉洸君VSブッシュ君の試合は、一方的な展開となりました!!』
 
「わっはっはっは!!ヒーローの空中殺法を喰らえぇぇ!!」
 ブッシュがバンクーバーの空を舞いながら一方的に劉洸を攻めている。
『ブッシュ君お得意の空中殺法炸裂!!この動きに、劉洸君は成す術無しか!?』
「やれ、射手兵!」
 ドギュッ!ドギュッ!!
 劉洸は攻撃されているのに気にもせずに射手兵をブッシュとは違う方向へ撃っている。
『一方の劉洸君はフィールドの設備にばかりショットを放ち、ブッシュ君の事はアウトオブ眼中!全く気にかけていない!
何か策でもあるのか、それとも勝負を捨てたのか!?』
「ふっふっふ!ヒーローの力に、屈したという事かな?」
 ブッシュは次々と攻撃をぶち込む。
「まさか。既に私は布石を散りばめているよ」
 劉洸は、余裕のブッシュを鼻で笑った。
「なにっ!?」
「そろそろ、効果が出て来るんじゃないかな」
 劉洸に言われ、ブッシュは気付いた。体の違和感に。
「ぐっ!?なんだ、急に体がしびれ、びれ……!」
 それによって、飛び回る速度が鈍くなる。
 
『どうしたんだ?ブッシュ君の動きが急に鈍くなってきたぞ!?』
 
「お前、一体何を……!」
 戸惑うブッシュを無視して劉洸は高らかに叫んだ。
「今です!!」
 ビリビリビリビリ!!!!
「がああああああああ!!!!」
 ブッシュの身体を、突如電流が走った。
 そして、痺れてしまった体のまま地に堕ちる。
 幸い、地面は特殊素材で出来ているので怪我は無かったが、ブッシュはしびれて動けない。
「ぐ、何をした……!」
「えぇ。ここら一帯の電気機器を僅かに狂わせて、電磁波のフィールドを作ったのさ。
通常の人間だったら受け流せる程度の微弱な電流だが、宙を舞っているあなたには受け流すためのアースが無い。だから痺れたんだ」
 ひこうタイプがでんきタイプに弱い理由の一つである。
 
「な、なんと巧妙な……!」
「これで終わりだ!!」
 ズドドドドドド!!!
 動けないブッシュへ、劉洸は猛攻をぶち込んで勝利を決めた。
 
『決まったぁ!勝ったのは、まさかの大逆転で劉洸君だ!!フィールドを完全利用した凄まじい頭脳プレイだったぞ!!』
 
 シュウの控え室。
「ひゃ~、孔明の罠こぇぇ~」
 狡猾な劉洸の戦術に、シュウは身震いした。
「だが、バトルフィールドをあんな風に利用するとは。敵ながらあっぱれな奴だ」
「これで劉洸君は4位確定ね」
「ビーダーもビーダマンも凡庸だが、戦術だけでここまで勝ち上がるとはな」
「改めて皆の試合を見ると、こんなすげぇ奴らと戦えたんだなって嬉しくなるぜ。またいつかあいつらと戦いたいな」
 シュウがしみじみと呟いた。
「だな。さぁ、泣いても笑っても、次がリーグ最後の試合だ!」
「おう!しっかり目に焼き付けるぜ!!」
 バトルフィールド。
『さぁ、長らく続いた本戦リーグも次の試合が最後となる!対戦カードは、ヒンメル君VSマサーイ・マーサイ君だぁぁ!!最後に飾るに相応しいバトルを見せてくれよな!!』
 
 フィールドでヒンメルとマサーイが対峙する。
「いえーい!ヒンメル!今日は楽しいバトルをしましょう!!」
 無表情のヒンメルに、マサーイが楽しげに話し掛ける。
 すると、ヒンメルは妖しく笑みを浮かべた。
「楽しく……うん。楽しいバトル、しよう」
「おっけーい!よろしくデース!!」
 マサーイはウキウキしがらスタート位置へ。
 ヒンメルも笑みを浮かべながらゆっくりとスタート位置へ向かった。
 
『両者ともに準備は良いな?そんじゃ、行くぜ!!レディ、ビー・ファイトォ!!』
 バトルスタート!
「いっきマース!!」
 マサーイがピョンピョンスキップしながらヒンメルへ向かった。
「……」
 タタッ……!
 ヒンメルも小走りでマサーイの元へ駆ける。
『さぁ、いよいよ始まった!本戦リーグ最終戦!これを戦うのは、前回の世界チャンプ!そして現在の成績一位のヒンメル君!
対するのは、勝利数は不戦勝の1勝しかないが、今大会を最も楽しんでいる少年、マサーイ・マーサイ君!
強さもタイプも全く正反対な二人だが、一体どのようなドラマを魅せてくれるのか!?』
 
 シュウの控え室。
「ドラマって言っても、結果は見えてるようなものよねー」
 琴音が軽く言う。
「前チャンピオン、リーグ戦も無敗のヒンメルと実質全敗のマサーイ・マーサイとじゃな。さすがに力の差がありすぎる」
 タケルも、琴音と同意見のようだ。
「バトルはやって見なきゃ分からないぜ。そりゃ、ヒンメルの方が強いだろうけど、相性の問題だってあるし!」
 シュウは、この勝敗が目に見えたバトルも楽しみに見ているようだ。
「運や相性で縮まるような力の差とは思えないが……」
「とにかく!結果が決まるまで結果は分からないんだよ!!」
 シュウの言葉に、タケルは目を見開いた。
「シュウ……ったく、お前はとことんあの人に似ているな」
「へっ?」
 シュウは意味が分からず面食らう。
「目下も目上も、実力も関係ない。バトル中は同じビーダー同士。そう言う事だな?」
 その言葉は、以前タケルがゆうじに言われた言葉だった。
「あ、あぁ!そうそう!」
 その事を知らないシュウは、とりあえず同意した。
「終わるまで、観客として楽しむとするか!」
「おう!ヒンメルー!マサーイ!!どっちも頑張れーー!!」
 シュウは画面に向かって精一杯声援を送った。
 
 ヒンメルの控え室では、ルドルフが落ち着いた表情で中継画面を眺めていた。
「結果は目に見えている。この大会でもうヒンメル様を脅かすバトルは無い。……今回も無事にヒンメル様を連れ帰る事が出来そうだ」
 紅茶を啜り、一息ついた。
 
 そして、バトルフィールドではヒンメルとマサーイが対面し、激突していた。
「いきマース!!」
 ポコッ!マサーイのショットがヒンメルへ向かう。
「……」
 ガキンッ!
 が、あっさりと撃ち落とされる。防御用のスピンボールを撃つまでもない。
「うぅ、やっぱり強いデース!でも、負けないデース!!」
 ポコッ、ポコッ、パコンッ!
 マサーイが精一杯連射するのだが、その攻撃は一切届かない。
 
『ヒンメル君とマサーイ君の激突!!しかし、マサーイ君のショットは悉くヒンメル君には届かない!!だが、ヒンメル君も積極的に攻撃を仕掛けない!膠着状態だ!!』
 
「楽しいデス!こんなに強いビーダーと戦えるなんて、最高デース!絶対勝ちたいデース!!」
 マサーイは、実力差がこんなにも明らかだと言うのに、楽しげにヒンメルへ立ち向かっていく。
「……」
 ヒンメルは感情が無い表情まま淡々とマサーイのショットを防御していく。
「うぅ!こうなったらちょっとやり方を変えるデース!」
 バッ!
 マサーイは素早く建物の陰に身を隠した。
 そして、ちょっと大回りしてヒンメルの背後に接近する。
「っ!」
 ヒンメルは素早く反応するが、そこにいたのは変顔をしていたマサーイだった。
「ばぁぁぁ!!」
「???」
 ヒンメルは訳も分からず呆然とした。
「ヒンメル!笑ってください!!」
 突然、マサーイはヒンメルに話しかけた。
「え?」
「僕、あなたとのバトルとてもとてーも楽しいデス!バトルは、とっても楽しいものデス!!一緒に、楽しみましょう!」
 満面の笑みでそう話し掛けられたヒンメルは、一瞬思案する。
「たの、しむ……」
 そして、徐々にその口元が吊り上っていく。
「楽しいバトル……したい……。楽しいバトルしたい。楽しいバトルしたい!!」
 まるで機械のように同じ言葉を繰り返し始めた。
「そうデス!楽しいバトルデス!僕と一緒にやりましょう!」
「うん。やる。楽しいバトル、やる!楽しいバトル!!」
 そして、一瞬ヒンメルは空を仰いだ。
『な、なんだ?ヒンメル君の様子が少しおかしいぞ……?マサーイ君の不意な襲撃を受けてから、突如動きが止まった!』
「ど、どうしました……?」
 マサーイは心配そうにヒンメルの顔を覗きこんだ。
 その瞬間。
「ふふ……」
 ヒンメルの口から小さな笑い声が漏れた。
「はは……ははは……」
 その声は、徐々に大きく、長くなっていく。
 
 ヒンメルの控え室でその様子を見ていたルドルフが、ヒンメルの異変に気付いて立ち上がった。
「っ!いけないっ!!」
 そして、慌てて部屋を飛び出して行った。
 
「あーーーっはっはっはっはっは!!!!」
 バトルフィールドでは突如、ヒンメルの狂ったような笑い声が響き渡った。
「な、なな、なんデスカ!?」
 マサーイは、いきなりのヒンメルの豹変にビックリして腰を抜かしてしまった。
 
『どうしたんだ?!ヒンメル君がいきなり豹変して、狂ったように笑い始めた!?な、なにが起こったんだ!!』
 
 シュウの控え室。
「ヒンメルっ!?」
 ガタッとシュウは立ち上がった。
「これは、ヒンメルカップの時のアレか?!」
「で、でもどうして、相手はあんなに弱いのに……!」
「強い弱いの問題じゃない……!ヒンメルの暴走の引き金は『楽しむ事』。マサーイ・マーサイのバトルを心から楽しむスタイルが、ヒンメルの琴線に触れたんだ!!」
「っ!」
 シュウはダッと駆け出した。
「あ、シュウ!」
 仲間たちの制止を聞かず、シュウは部屋の外へ飛び出して行った。
 
 バトルフィールドでは、狂笑を始めたヒンメルがでたらめにパワーショットを乱射していた。
「あーっはっはっはっはっはっは!!!」
 ドギュッ!バゴォ!!!
 ヒンメルのショットが辺りの施設を破壊しまくる。
 でたらめなショットはバトルに勝つためのものじゃない。ただヒンメルがビーダマンを撃って楽しむためだけのものだった。
「ノー!い、いきなりどうしちゃったのデスカ、ヒンメル!こんなのバトルじゃあーりません!!」
 マサーイは、狂ったヒンメルに恐怖しながらも正気に戻るように訴えかける。
「っはっはっはっはっは!!!!」
 しかし、全く効果が無い。
「や、やめてください!!ちゃんと、僕と戦ってください!!」
「バトル、楽しい!楽しい!!楽しいいいいいいい!!!!!」
 マサーイの訴えは無視し、機械のようにヒンメルは楽しそうに笑い続ける。
「うわぁぁぁ!!!」
 そして、そのショットの衝撃波はマサーイを襲い、マサーイは壁に激突して動けなくなってしまった。
「うぅ……!」
 
『突如暴走を始めてしまったヒンメル君によって、バトルは滅茶苦茶だ!
ボムのHPは互いに無傷のままだが、会場は崩壊!マサーイ君も吹き飛ばされて戦闘不能だ!一体どうなってしまうんだ!?』
 
 滅茶苦茶なバトルフィールド。その端へ、シュウが駆けつけた。
「ヒンメル!!」
 暴れまわるヒンメルを見て、シュウは息を呑んだ。
「そんな……あの時より、ヒデェ……!」
 そして、瓦礫に埋もれているマサーイを見つけた。
「マサーイ!!」
 急いでマサーイの元へ駆け寄り、介抱した。
「大丈夫か?!」
「シュウ……サンキュー、デス……」
 シュウの腕の中で、マサーイは呻くように礼を言った。
「どうして、デスカ。ヒンメル……僕は、君と楽しくバトルをしたかっただけなのに……」
 マサーイは嘆くように呟いた。
「お前はなんも悪くねぇ……ヒンメルだって、悪くないんだ……!」
 悲痛な顔をするマサーイへ、シュウはただそう言うしかなかった。
 
「ヒンメル様ーーー!!!」
 少し遅れて、バトルフィールドへルドルフが入ってきた。
 そして、ヒンメルを捕まえて、薬品の沁みこんだハンカチを口元に当てる。
「っ!」
 すると、先ほどまで大暴れしていたヒンメルが、嘘のように静かになった。
「……」
 それを見て、ひとまず安心するルドルフ。
 そして、ビーダマスターに向かってタオルを投げた。
 
『おっと?ヒンメル君のセコンドのルドルフさんからタオルが投げられた!これは、ヒンメル君の試合放棄という事か?』
 
「ルドルフ、さん……」
 シュウはマサーイを抱えながら、眠りについたヒンメルを抱き留めているルドルフの姿を確認した。
 ルドルフがゆっくりとシュウの方を向く。
「ヒンメルは……?」
 シュウは死んだように動かなくなっているヒンメルを見ながら、恐る恐る尋ねた。
「……一時的に眠らせただけです。暴走を沈めたわけでは無い。目覚めてしまえば、再びあの状態が続くでしょう」
「っ!」
 
『さ、さぁ、大変な事になったぞ!このバトルによって、勝者はマサーイ・マーサイ君!
そしてこれによって、最終的にシュウ君とヒンメル君の勝利数が並んで同率一位になった!
よって!後日、ヒンメル君とシュウ君の一騎打ちで、優勝が争われることになったぞ!!』
 
「え?」
 思わぬところで大会優勝のチャンス。そしてヒンメルとのバトルの舞台が出来てしまい、シュウは耳を疑った。
「ヒンメルと、優勝決定戦……?」
 呟いて、状況を把握する。まだ、世界選手権は終わらないと言う事か。喜ぶべきなのかどうなのか……。
「シュウ様」
 そんなシュウへ、ルドルフは淡々と話し掛ける。
「っ!」
「今のヒンメル様と戦う覚悟はありますか?」
「今の、ヒンメル……」
 それはつまり、バトルも勝敗も関係なく、ただビーダマンを撃つだけの化け物と戦えと言う事だ。
 アレとの戦いは、ただのバトルとは違う。ビーダーとしての常識が通用するものではない。下手をすれば、自分の身に何が起こるか分からないようなものだ。
「……」
 シュウは、一瞬恐怖に呑まれそうになるのをグッと堪え、拳を握りしめて応えた。
「あぁ、当然だぜ!ヒンメルを倒すのはこの俺だ!!」
 まっすぐな瞳でルドルフを見つめた。
 それに対してルドルフは、フッと笑った。
「その覚悟、信じましょう。ですが、命の保証はしませんよ」
 そう言って踵を返した。
「……」
 ルドルフは、歩き出す前に小さく呟いた。
「ヒンメル様を、お救いください」
 その言葉には、ヒンメルに対する深い愛情。そして、藁にもすがりたいほどの切なる願いが込められていた。
「っ!」
 歩きだし、小さくなっていくルドルフの背中に向かって、シュウは誓った。
「あぁ!絶対、ヒンメルに勝つ!!」
 
 
 
 
 
 
 
         つづく
 
 次回予告
 
「ヒンメルと優勝をかけて戦うチャンスが舞い降りてきた!
だけど、ヒンメルは楽しむ事によって凶暴化してしまった。あのヒンメルと戦えってのかよ……!
でも、これは俺がずっと願い続けていた事。絶対に逃げるわけにはいかない!
俺の全てを賭けて、あいつの全てを受け止めるんだ!!
 
 次回!『シュウVSヒンメル!待ち望んでいた戦い!!』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」
 

    
 




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