オリジナルビーダマン物語 第99話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第99話「宿命の決着」





 バーーーーン!!!!
 
 本戦リーグ最終戦の舞台、カナダのバンクーバーを模したバトルフィールドでタクマとシュウの放つビー玉が火花を散らしながら弾け飛ぶ。
 
『さぁ最終戦第一試合、シュウ君VSタクマ君のバトルはますます激しさを増している!!』
 
「うおおおおお!!!!」
 ダッ!!
 シュウは、浮上するエレベーターのようなタイルに乗っかり宙を舞い、上空からショットを放った。
「自動メテオールバスターだぜ!!」
 ズバババババ!!
 宙にいる間に、シュウは何発もショットを放った。
 重力でシュウのショットが加速していく。
「そんなもの!!」
 タクマは、動く地面に乗り、その勢いを利用してショットを全て躱した。
「どわっ、と!」
 シュウは着地と同時にバウンドした。地面が弾力性のある素材で作られているのだろう。
「くぅ、着地しても痛くねぇ!さっすが近未来都市!!」
「だが、その隙は大きい!!」
 タクマのショットがシュウのボムへ命中。
 バーーーーン!!
『タクマ君!一瞬の隙を突いて、シュウ君のボムへヒット!素晴らしい反射神経だ!!』
 
「けっ、さっすがタクマだぜ!でも俺だって!!」
 バシュッ、バーーーン!!
 シュウもタクマのボムへ攻撃を命中させた。
 
『やられたらやり返す!シュウ君もタクマ君のボムへヒット!!』
 
「なかなかやるな……!」
「お前もなっ!」
 自然とシュウとタクマの顔は綻んでいた。
 
 その様子を見ている控え室にいる仲良しファイトクラブ。
「凄いバトルですシュウ先輩!!」
「あぁ、あのタクマ相手に互角の立ち合いだ」
「今のシュウ君なら、きっと勝てるよ!」
 口々に盛り上がる一同。
「ふん」
 その中で、ヒロトは腕組みして興味なさそうな顔をしている。
 心中はやはり複雑なのだろう。
「まぁ、悪くは無いな」
 が、タクマと互角にやりあうシュウの実力を素直に認めていた。
「ヒロ兄……」
 そんなヒロトを、琴音は苦笑しながら見守っていた。
 
 同じように、タクマの控え室ではクウを始めとした源氏派のビーダー達が見守っていた。
「シュウはんもなかなかやりおるなぁ。せやけど、あれだけ特訓したタクマはんの方がややリードってとこやな。長期戦になれば差がハッキリしてくるやろ」
 クウは冷静に分析している中、部下達はバトルに見惚れていた。
「す、すごいバトルだ……」
「さすがタクマ様」
「相手も強いが、きっと勝って我等に光をもたらしてくれるはずだ!」
 部下達はタクマの勝利を信じて、固唾を呑んでいる。
「でもさ、なんかタクマ様。いつもと違うような……」
 部下の一人が呟いた。
「俺も思った。なんか、生き生きしてるよな?」
「試合が始まる前は、あんなにピリピリしていたのに……」
 部下達は口々に、タクマの様子について語っている。
 
(さすが、いつも一緒にいて慕ってきた奴らや。タクマはんの様子の変化に気付いとるようやな。今のタクマはんは、今までで一番強ぅなっとる。ええこっちゃ。
せやけど、それは今までの主張を否定する事に繋がるでぇ。この自己矛盾をどう昇華させるか、それも見物やなぁ)
 クウは気持ち悪くニタニタ笑いながら、テレビを眺めた。
 
 バトルフィールドでは、シュウとタクマの戦いは更に激しくなっていた。
「いっけぇ、ブレイグ!!」
「迎え撃つぞ、ドライグ!!!」
 シュウのパワー一辺倒のショットをタクマのバランスの取れたショットが撃ち落とす。
 そのたびに、フィールドに熱い火花が散っていた。
「へへっ……!」
 シュウが口元を緩ませた。
「何がおかしい?」
「いや、楽しいなって思ってさっ!」
 言いながらショットを放つ。
「余裕だなっ!」
 タクマもそう言いながらショットを撃ち落とす。
「お前とのバトルに余裕なんてあるかよ!!」
 ダッ!
 シュウが駆け出して動く歩道に乗る。
 そして、タクマから離れた。
 ある程度距離を取ってから、今度は逆方向の動く歩道に乗った。
「余裕なんかないくらいギリギリのバトルだから、面白ぇんじゃねぇか!!!」
 駆け出しながら、その勢いも利用したパワーショットを放った。
「ぐっ!!」
 それはさすがに防ぎきれないのか、そのショットはタクマのボムに命中。
「お、おわぁぁぁ!!」
 シュウも勢いをつけすぎたのか、目の前の壁に激突してしまった。
 だが、壁もショック吸収の新素材でできているため、シュウ自身にダメージは少ない。
「バカが!」
 シュウが壁に激突して壁にめり込んでいる所へタクマが攻撃をブチ込んだ。
 
 ババーーーーン!!
「てめ、くそぉ!!」
 シュウは慌てて壁から抜け出してタクマのショットの防御に専念した。
 
『さぁ、機械仕掛けの都市を最大限利用して、二人の激突は続く!!
現在のHPは、シュウ君が44!タクマ君は49!いよいよ中盤戦に突入だ!!』
 
「まだまだいくぜぇぇ!!」
 シュウは弾力性のある床を利用して大ジャンプした。
 そして、電線を掴んでそれを伝って移動し、電柱の出っ張った部分に足をかけた。
「むっ!?」
「ここからなら狙い放題だ!!!」
 ズバババババ!!!!
 再び上からの攻撃。
 バーーーン!!
 タクマのボムにヒットする。
「くっ!」
 タクマも、宙に浮いているシュウのボムへ攻撃を仕掛けた。
 ババーーーン!!
 防御が手薄になっているシュウのボムへは簡単に攻撃が通じた。
「おわっと!」
 無理に防御をしようとしたシュウは足を滑らせて落下してしまった。
 が、今度は上手く着地して隙は作らなかった。
「っとと!へへっ!同じ手は食わないぜ!!」
 そして再び駆け出して動く歩道に乗って縦横無尽に動き回りながら攻撃を仕掛ける。
「俺の動きについてこられるかっ!?」
「ふんっ、ならば止めるまで!」
 タクマは、動く歩道の電源部分にショットをブチ込んだ。
 ビーーーーー!!!
 電源がオフになり、歩道が止まってしまった。
「どわわわ!!」
 いきなり停止したので、慣性の法則でシュウはよろけてしまった。
「はぁぁぁぁ!!!」
 そこへ、タクマがショットをブチ込んだ。
 ババーーーーン!!!
「くぅぅ……!」
 シュウが慌てて体制を整える。
「えっと、次は……!」
 歩道が使えなくなったので、シュウは辺りを見回して他に使えそうなものが無いか探した。
「貴様の作戦は見抜いているぞ」
 そんなシュウへ、タクマが声をかけてきた。
「なに!?」
「貴様は長い間全力でその機体を撃ち続ける事が出来ない」
「うっ……!」
 ある程度スタミナが付いているとはいえ、全力の撃ち合いで長丁場になれば負担の大きいブレイグが確実に不利だ。
「だからこそ、フィールドのギミックを使って我の目を眩ませ、強力なショットを放ちつつも腕を休めながら戦っている」
「さ、さすがだな。そこまで見抜いてたか……!」
「貴様とは一度戦っている。そのくらい見通せて当然だ」
「へっ、前回はそのせいで負けちまったようなもんだからな!」
「あの敗因を回避しようとした心掛けは誉めてやろう。……っ!」
 そこまで言って、タクマは一瞬気付いてしまった。
 自分が、過去にシュウとバトルした事を肯定していることに。
(あのバトルがあったから、奴は対策を考え。我はそれに気付く事が出来た……しかし、それは……)
 前話、シュウが言った智蔵派の主張と同じなのではないか……?
「だがっ、それも無駄な事!!」
 バシュッ!
 タクマはドライグを片手撃ちモードにし、弱ショットの連射を放った。
 ガガガガガ!!
 弱いショットが何発も何発も連続でヒットする。
 ダメージは少ないが、そのせいでシュウのボムは身動きが取れなくなった。
「うっ!」
「これで動きを封じた。さぁ、付き合ってもらうぞ。貴様の得意なガチンコだ」
 タクマはニヤリと笑いながら挑発してきた。
「くそっ、こうなりゃ腹括ってやるしかねぇ!!」
 シュウはブレイグの銃口をタクマのボムへ向けて、激突の構えを取った。
 
『さぁ、動く歩道を利用してきたシュウ君だが、ここで足を止められてしまった!!
タクマ君も動きを止め、これはガチンコの様相だ!!』
 
「コンフターティスドライグ、パワーモード!!」
 タクマはドライグのバックパックをパワーモードにし、構えも両手撃ちに変更した。
「いっくぜ、ブレイグ!!」
「殲滅せよ、ドライグ!!」
 ズババババババ!!!
 二人の全力のパワーショットの連発がぶつかり合う。
 パワーはシュウの方が上、連射はタクマの方が上だが、その総合力は互角。
 二人の間で何発ものビー玉が相殺されて撃ち落とされている。
 
『ガチンコバトル再び!互角の立ち合いが続きます!!だが、そのショットは互いのボムへは届かない!根競べの長期戦に突入か!?』
「はぁぁぁぁ!!!」
「うおおおお!!!」
 シュウとタクマが、気合いとパワーを全開で出しながら激突する。
 
 シュウの控え室。
「打つ手無しでのガチンコか。まずいな、こうなるとシュウが不利だ」
 タケルが呟く。
「えぇ!?でもパワーではシュウ先輩の方が強いじゃないですかぁ!」
 リカが反論する。
「パワーだけならな。だが、総合力では互角だ。こうなってくるとスタミナがある方が勝つ。シュウのブレイグは負担が大きいからスタミナの消費も激しい」
「アジア予選もそれで負けたようなものだしね……」
「コンフターティスドライグは、使い手への負荷も軽減してある。ここまでか」
 ヒロトが淡々と言う。
「あの敗因の対策を取ってたのは良かったんだが、シュウとのバトルを経験しているタクマ相手じゃ見抜かれて当然だからな」
「あぁもう、しっかりしなさいよシュウ!根負けって一番情けない負け方よ……!」
 テレビに向かって琴音が叫ぶ。
「まだ負けたわけじゃない。ビーダマンバトルで最後に物を言うのは身体能力じゃない。ビー魂だ!」
「うん。シュウ君ならきっと勝てるよ!私達はそれを信じましょう!」
 彩音が皆に向かって言う。
「そうですね!シュウ先輩の勝利は私が一番信じてます!!」
「だな!戦ってるシュウだけのビー魂じゃない。俺達のビー魂だって、勝利に繋がるはずだ!!」
「頑張ってください、シュウ先輩!!」
 リカがテレビに向かって声援を送る。
「頑張って、シュウ君!」
「必ず勝てよ、シュウ!!」
 他のメンバー達も口々に声援を送った。
 
『さぁ、ガチンコが始まってから既に1分が経過!!だが、二人のペースは一向に落ちる気配がない!!物凄い体力勝負だ!!』
「うおおおおおお!!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 ガキンッ!ガキンッ!!!
 無数のビー玉が火花を散らしながら弾け飛ぶ。
『だが、若干シュウ君の息が乱れてきたか?一方のタクマ君はまだまだ平然としている!!』
 
「はぁ、はぁ、くそっ!うおおおお!!!」
 シュウは息を乱しながらも、歯を食いしばってショットを放つ。
「ふっ、そろそろ疲れてきたか?」
 タクマの言葉に、シュウは声を荒げた。
「ふざけろ!この程度、どうって事ないぜ!!」
「それでこそ、我と戦うに相応しい!!!」
 軽口を叩きながらも、二人のペースは落ちない。
 
 凄まじい火花と衝撃波が巻き起こる。
『うおおお!!ビー玉の激突で衝撃波が巻き起こる!!が、二人は動じない!!勝利への執念が、二人を戦いの場へと縛り付けているかのようだ!!』
 
「うおおおおおおお!!!!!」
 ズキンッ!!!
 全力ショットを放っていたシュウの腕に、鈍痛が走った。
「ぐっ!」
 シュウが一瞬顔を顰める。
「そろそろ、か?」
 タクマはそれを見逃さなかった。
「けっ、こ、このくらい……!」
 必死で平静を装おうとするが、それでも顔のゆがみは隠せなかった。
「強がるな。ここまで喰らいついてきただけ大したものだ」
「ぐぐ……!」
 徐々にシュウのショットが乱れ始める。
『おおっと!シュウ君のペースが若干落ちてきたか?リロード速度が遅くなっているぞ!!』
 
「うわっ!」
 手の痺れによって、シュウはビー玉のリロードをミスってしまった。
 ビー玉が一個だけ、地に堕ちてしまう。
 それは、ほんの一瞬の隙だった。
 が、ガチンコの撃ち合いでその一瞬は致命的だ。
「はぁぁぁぁ!!!」
 当然、撃ち落とせなかったタクマのショットが多数シュウのボムへヒットする。
 
 ズバババババ!!!!
『ペースの落ちたシュウ君のボムへ、タクマ君のショットが多段ヒット!!シュウ君、急いで防御に転じるが、このダメージは大きい!!
シュウ君の残りHPは18だ!一方のタクマ君は32!まだまだ余力を残しているぞ!!』
 
「これが最後の勝負となるな……!ドライグ!!」
 ガクガクガク!!!
 ドライグのエアリアルバイザーが振動を始め、そこからエアロチューブが伸びてシュウのボムにぶつかった。
 
『おおっと!ドライグのエアロチューブが発生!!必殺ショットの構えか?!』
 
「俺だって、負けるかよぉ!!」
 ガクガクガク!!
 ブレイグのエアリアルバイザーも振動する。
「メタル弾セット!」
 そして、メタル弾をセットした。
「うおおおおおお!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 二人が最大の気合いを込めてショットを放った。
 
「ドラゴニックブレス!!」
「スーパー・フェイタルストーーーム!!!」
 バゴオオオオオオオ!!!!!
 二人の必殺ショットが嵐を巻き起こしながらブッ飛んでいく。
 
『今、両雄の最大ショットが炸裂!!!これで決まってしまうか!?』
「「いっけえええええええええええ!!!!!!」」
 
 タクマのエアロチューブ内を通る無数の連射を、空気の膜を纏ったシュウのショットがいくつか吹き飛ばして突進する。
 が、さすがに全てのショットは止められなかったのか、何発かがシュウのボムへ飛んでいく。
 反対に、フェイタルストームも勢いを衰えさせる事なくタクマのボムへブッ飛んでいく。
 
 バーーーーーン!!!
 両者のショットが、ほぼ同時に互いのボムに着弾し、その衝撃で爆風が巻き起こった。
 
『ヒットォ!!!互いの必殺技がボムに着弾!!果たして、軍配はどちらに上がったんだ……?!」
 爆風による煙が、少しずつ晴れていく……。
 しかし、そこには両者ともに生きたボムが存在していた。
 
『なんとぉ!どちらもまだ生きていた!!シュウ君のHPは残り3!対するタクマ君のHPは残り8!首の皮一枚繋がっているぞ!!次の一発が正真正銘の決め手となりそうだ!!』
 
「はぁ、はぁ……!」
「くっ……!」
 が、二人とも力を出し尽くし、燃え尽きていた。
「くそっ、まだ決着ついてないのかよ……!」
「しぶとい奴だ……!」
 ビーダマンを構える二人だが、トリガーを押せない。
 たった一発撃てば終わるのに、体力を使い果たし、それすらも出来ないのだ。
 
「ぐっ、トリガーが重い……たった一発なのに、撃てねぇ!」
「くっ、奴だけでなく、この我もスタミナ切れだと……?さすがに長丁場にしすぎたか……!」
 二人とも苦痛で顔を歪め、ビー玉を撃てないでいる。
 
『二人とも、体力を使い果たしたのか?!たった一発!あとたった一発で決まると言うのに、そのショットが未だ撃てない!!!
先に体力を回復し、ビー玉を撃てたものが勝者となるぞ!!』
 
 その場を離れて隠れて体力を回復した方が良いのかもしれない。
 しかし、場を離れる体力すらも、今は消費してしまっている。
「この一発……この一発で未来が決まると言うのに……!」
 必死でトリガーを押そうとするタクマだが、指が痺れて言う事を聞かない。
「負けるわけにはいかないのだぁぁ!!!」
 タクマは叫びながらトリガーを少しずつ押して行った。
 
『おおっと!先に動き出したのはタクマ君だ。少しずつ、トリガーが動いていくぞ……だが、発射までには至らない!!』
 今まで、全力で戦い体力を使い果たしたうえでバトルが終わる。という事はあった。
 だが、体力を使い果たしてもバトルが終わらず、再び撃たなければならないと言うのは精神的にも肉体的にもかなり辛いものだ。
(へへっ、辛いな、これ……ビーダマンやってて一番疲れたかも……でも、楽しかったしな。これで負けちまっても悔いは……!)
 一瞬、苦痛に負けそうになるシュウだがすぐに気持ちが奮い立つ。
(いやダメだ!このバトルにはブレイグがかかってんだ!ブレイグは俺の大事な相棒だ!絶対に渡せねぇぇ!!!)
 ブレイグを守る。その気持ちがシュウに最後の力を振り絞らせた。
「う、ぉぉぉおおおおお!!!!!」
 ググ……!
 徐々に、ブレイグのトリガーが動く。
『むっ、シュウ君にも動きが見えた!トリガーが少しずつ押されている!』
 
「ブレイグは、俺が守るんだあああああ!!!!!」
 バシュッ!!!
 最後の力を絞り出し、ようやくビー玉を射出できるくらいにトリガーを押し出せた。
「なんだと……!」
 そのショットは、先ほどまでのショットと比べればなんとも弱弱しい。
 だが、今のタクマのボムを撃破するには十分な威力だった。
 
 バーーーーーーン!!!
 最後は、シュウの力を振り絞った弱ショットによって決着が着いた。
 
『決まったぁ!!勝ったのは、最後の最後に勝利への執念を見せてくれた、シュウ君だあああああ!!!!』
 
「か、った……」
 ビーダマスターの実況を聞いた瞬間、シュウはブレイグを落とし、地面へへたり込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁぁぁぁ」
 空を仰ぎながら、でたらめに息を吸う。
 体中に乳酸が溜まっているし、吸っても吸っても酸素が全然足りない。
「……」
 一方のタクマは、シュウと比べればまだ体力に余裕があるのか。
 呆然と立ち尽くしていた。
 そして、無言で歩み寄り、ブレイグを拾ってシュウに手渡した。
「え?」
「落し物だ。これは貴様のものだろう」
 タクマからブレイグを受け取り、シュウはニッと笑った。
「……へっ、前にもこんな事があったな」
 シュウは、初めてタクマと遭遇した時の事を思い出した。
 あの時はシュウが落としたドライグを拾ったのだった。(第3話参照)
「そうだったか?」
「おう」
 多少体力が回復したのか、シュウは立ち上がった。
「バトルは貴様の勝ちだ。条件は飲んでやる」
「ああ。いつかまたバトルしようぜ」
 シュウは笑顔で握手を求めた。
 が、タクマはその手を取らなかった。
「ふん、愚かな奴だ」
 すまし顔をしてそっぽを向くタクマに、シュウは自然と笑みが零れた。
「へへ……」
「何がおかしい?」
「いやさ、お前の言う源氏派のバトルってのも悪くないなって」
「なに?」
「あの時、俺がショットを撃てたのは『ブレイグが奪われるかも』って思ったからなんだ。ブレイグを守りたいって気持ちが俺にパワーをくれた。
もしも、あの条件で戦ってなかったら、きっと俺は甘えてお前に負けてた」
「……」
「まっ、ビーダマンを賭けてバトルするなんてもう二度とゴメンだけどさ」
 そう言って、シュウは再び笑った。
「……我もゴメンだ。敗北したと言うのに何も失わないとは、情けをかけられているようで非常に不快だ」
 タクマはわざと不機嫌そうな顔をした。
「悪かったな」
「だが、我はあのアジア予選決勝の後、心のどこかで貴様とブレイグとの再戦を望んでいた。このバトル、心躍るものであった」
 再戦を望む。それは、『負かした相手のビーダマンを奪う』事を思想とする源氏派ではまずありえない事だった。
「タクマ、お前……」
「勘違いするな。我の思想は未来永劫変わらぬ。貴様が智蔵派で居続ける限り、我と貴様は相容れぬ存在だ」
「……」
 シュウは複雑な顔をして黙り込んだ。
 それ以上話す事もないのか、タクマは踵を返して歩いて行った。
「だが、もしも出会い方が違っていれば、貴様と我は良きライバルとなっていたのかもしれぬな」
 タクマはボソッとそう呟いて去って行った。
 その言葉は、ちゃんとシュウの耳にも届いていた。
「タクマ……良いバトルだったぜ」
 シュウは穏やかな表情で、小さくなっていくタクマの背中へ向かって呟いた。
  
 
 
 
        つづく
 
 次回予告
 
「俺の世界選手権はこれで終わったけど、バトルはまだまだ続く!
大会を一緒に戦ってきたライバル達のバトル!最後まで見届けるぜ!!
そして最終試合の対戦カードで、とんでもない事が起こってしまった……!
 
 次回!『ヒンメル、暴走』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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