オリジナルビーダマン物語 第97話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第97話「永遠の決勝戦」





 世界選手権本戦リーグ。
 第8回戦のシュウの相手はベルセルクだった。
 ロシアの宇宙開発技術が作り出した特殊な球体型のバトルフィールドで、シュウはマッハスパルナを駆り、ベルセルクと激突する!
 
 ズバァァァァァ!!!!
 激しい激突音が、バトルフィールドに鳴り響く。
『さぁ、スタート直後から真っ向からのぶつかり合い!!小細工なしの真剣勝負が展開されています!!』
 
「うおおおおお!!!いっけぇぇぇ、マッハスパルナァァァァ!!!!」
 バギュウウウウウ!!!!
 マッハスパルナから、ブレイグに負けないほどのパワーショットが放たれる。
「うがああああああああ!!!!!」
 ベルセルクは咆哮し、向かってくるパワーショットをクレイジーバイパーの連射で撃ち落とす。
『パワーVS連射の激突!!マッハスパルナは、4年前の機体とは思えない素晴らしい性能を見せている!
そして、それを連射性能だけで撃ち落とすベルセルク君とクレイジーバイパーも素晴らしい!!』
 
「うおおおおおお!!!!」
「がああああああ!!!!」
 ガキンッ!ガキンッ!!
 パワー重視と連射重視、性能の違う二機だが総合力は互角。
 真正面からぶつかりあっているもんだからなかなかシャドウボムにダメージが通らない。
 
『バトルは膠着状態の根競べか!?先に隙を見せた方が先制攻撃を許してしまう事になりそうだ!!』
 
 撃ち合いを始めてから、もう5分は経過しようとしている。
 5分間全力で撃ち合うと言うのは、2分間全力疾走しているようなものだ。
 並の人間ならとっくにスタミナが切れている。
「はぁ、はぁ、くそっ!あいつなんてスタミナだ!」
 ズキッ!!
 撃ち合いをしているシュウの腕に鈍痛が走った。
(くっ!サスペンショントリガーの弊害が……!いや、さすがに慣れてない機種で戦えば、長期戦になればなるほど不利になる。こうなったら……)
 ダッ!
 シュウは撃つのをやめ、向かいくるベルセルクのショットを横っ飛びで躱した。
 そして、反対方向へ走り出した。
『のおっと!シュウ君がここで根負けか!?攻撃を受ける前に戦略的撤退だ!!』
 
 タッタッタッ!!
「化け物みたいな体力に付き合ってられるか!俺はこの場を去る!!」
 
 控え室。
「シュウ、それはただの死亡フラグだぞ(汗)」
 タケルは中継画面を見ながらツッコんだ。
 
「待てえええぇぇぇぇ!!!逃げるなああああぁぁぁぁぁ!!!!」
 突然走り出したシュウに激昂し、ベルセルクは雄たけびを上げながら追いかけてきた。
 
『ベルセルク君、シュウ君を逃すまいと追いかける!!ここは球体のフィールド、どこまでも走れるが、逃げ場はどこにもないぞ!!』
 
「うがあああああ!!!」
 ドギュドギュドギュ!!!
 追いかけながら、ベルセルクは滅茶苦茶にビー玉を発射してきた。
「おわわっ!あいつ、この勢いで走りながらあんな連射できるのかよ……ほんっとどんな身体能力してんだ」
 ベルセルクの場合は、身体能力が凄いと言うよりも、狂人故に脳のリミッターが外れているのだろう。だから人並み外れたパワーを発揮できる。
 
「うがあああああ!!!」
 徐々に、ベルセルクの攻撃がシュウのボムにヒットしていく。
『さぁ、先制点を取ったのはベルセルク君だ!ダメージは小さいが、徐々にシュウ君のHPを削っていくぞ!』
「このままだとマズイな……ジリ貧だ。でも、どうすりゃ……あ、待てよ」
 シュウは先ほどのビーダマスターの実況を思い出した。
「確か、この球体フィールドは、どこまでも走れるし、どこにも逃げ場がないんだよな……だったら!」
 バッ!
 シュウは一瞬だけ振り返り、ベルセルク目掛けてショットを放った。
 シュンッ!
 しかし、そのショットはベルセルクのボムの上を通過し、そのまま走っていく。
 
『シュウ君、起死回生のカウンターを仕掛けたが当たらず!!再び逃げに徹しているが、このままではジリ貧だぞぉ!?』
「へへっ、マッハスパルナはブレイグと違うんだ。試しみるか!」
 ダッ!
 それからシュウは一直線に駆け出した。
「待てぇぇぇぇぇ!!!!戦えええええぇぇぇぇぇ!!!!」
 狂ったように、ベルセルクはその後を追ってくる。
 そしてしばらく走っていると、シュウの前から一個のビー玉が転がってくるのが見えた。
「よし、やっぱりだ!」
 前から来たビー玉を、シュウはジャンプして躱す。
 そして、そのビー玉は後ろを追ってきたベルセルクのボムへと向かった。
「っ!」
『な、なんだぁ!いきなり前方からビー玉が転がってきた!!シュウ君はそれをジャンプで躱し、そのままベルセルク君のボムへ……!』
 
 バーーーーン!!!
『命中!!!これは、大ダメージだ!!!』
 何が起こったのか分からず、ベルセルクは立ち止まった。
「っっっ!?」
 
「へっへーん!成功だぜ!」
 シュウは立ち止まって振り返り、得意げにピースした。
 
 控え室にいる彩音がこの現象を解析する。
「そうか!このフィールドは球体だから、一方に走っていれば、いずれ元の場所に戻る。
だから、後ろに撃ったビー玉は、いずれ前から向かってくる事になるんだ!
マッハスパルナはブレイグと違ってドライブショットを撃てるから、この球体のフィールドを一周する事が出来たんだわ!」
「なるほど、考えたな、シュウ!」
「さすがですぅ、シュウ先輩!!」
 
 バトルフィールドでは、シュウがなおも得意げな顔をしている。
「どぉだ!さすがのお前でも、これは対応できないだろぉ!なっはっはっは!」
 調子に乗って高笑いしている。シュウの悪い癖だ。
 そんなシュウを見て、ベルセルクは拳を握りしめて震えている。
 さすがにおちょくられたと思って怒りに震えているのか?
 
「う、うぅ、うぅぅ……うおおおおおおおおお!!!!!!!」
 そして、突然咆哮を始めた。耳を劈くような大声だ。
「うわぁ、び、ビックリした……!」
 
『な、なんだ?!ベルセルク君が、急に吼えたぞ!?予期せぬ攻撃を受けて、怒っちゃったのか?』
 
「おおおおおおおお!!!!ゆううじいいいいいいい!!!!」
 ベルセルクはなおも咆哮を続ける。しかし、その声は怒っていると言うより……。
「なんか嬉しそうだな、お前……」
 シュウはなんとなくそう感じた。
 
 バトルを観戦している控え室では。
「きゃぁ!この人いきなり怒鳴ったりして怖いですね……怒っちゃったんでしょうか?」
 リカが体をビクつかせる。
「いや、あいつは喜んでるんだ。口元が笑っている」
 タケルが言った。
「そ、そうなんですか……?」
 リカには理解できないようだ。
「念願が叶った。という感じだな」
 ヒロトも訳知り顔で言った。
「今のシュウは、ゆうじさんそのものだ。俺も昔ダブらせた事があるが、今日は一段とゆうじさんの影と重なる」
「あいつも今の竜崎と同じだったな。パワー一辺倒で真正面からぶつかる事しか出来ないかと思えば、咄嗟に思いもよらない戦術を閃く。まるでアニメの主人公だ」
「ふふっ」
 ヒロトの言葉に、彩音は笑みを溢した。
「なんだ?」
「ううん。今の言葉、お兄ちゃんが聞いたらきっと『主役はビーダー全員だ!』って言いそうだなぁって」
「あー、確かに!」
 彩音に琴音が同調した。
「ふん」
 仲良しファイトクラブのいる控え室は、バトル中とは思えないような和気藹々とした雰囲気に包まれた。
 バトルフィールドでは、ようやくベルセルクの咆哮が終わり、ギンッ!とシュウを睨み付けてきた。
「へへっ、お前もこのバトル楽しいんだな!」
 シュウもベルセルクの想いを察し、マッハスパルナを持つ手に力を込めた。
「うおおおお!!!」
「がああああ!!!」
 ズババババババババ!!!!
『再び真正面からの激突!!!だが、こうなってしまうと、シュウ君には多少不利か!?』
「何度も同じ事を繰り返すかっての!!」
 ガクガクガクガク!!!!
 激しい撃ち合いによって、スパルナのヘッドの羽根が振動を始めた。
「来た来た!上手く使えるわかんねぇけど、いくぜ!!」
 ビュウウウウウウウ!!!!
 シュウの周りに風が吹く。
「ジャターユ・ジェットォ!!!」
 ドンッ!!!
 巻き起こした追い風に乗って、スパルナのショットがブッ飛ぶ。
「うがっ!?」
 シュウの必殺ショットがベルセルクの連射を弾きながら突進していく。
「いっけぇぇぇ!!!!」
  
 バーーーーン!!!!
『必殺技炸裂!!!しかもこの技は、公式戦では過去に2度しか見た事のないあの伝説の技!ジャターユジェットだ!!
まさか4年越しに見られるとは、私は今猛烈に感動しているぅぅ!!!』
 
 ビュウウウウ!!!
「う、うわああああ!!」
 しかし、慣れない技を使ったせいか、技の反動でシュウは吹き飛ばされて尻餅をついた。
『のおっと!しかし、まだ使いこなせていなかったのか、シュウ君は技の反動で倒れてしまった!そこをベルセルク君が容赦なく狙い撃つ!!』
「うがああああああああ!!!!」
 ズドドドドドドド!!!!!
 身動きがとれないシュウのボムへベルセルクが乱射を叩きこむ。
「くっ!」
『一発一発の威力は少ないが、どんどんHPが削れていく!!』
「負けてたまるか!!」
 シュウは、立ち上がるより先にビーダマンを地面に向けてショットを放った。
「うおおおおお!!!」
 バーーーン!!!!
 ショットの反動で飛び上がる。
『シュウ君!今度はメテオールバスターで攻撃を躱した!!そのまま必殺ショットか!?』
 
 飛び上がったシュウが、メテオールバスターを撃つ。
 が、威力が弱い。
「あ、あれ?」
 そのショットはあっさりと弾かれてしまい、シュウはフワッと着地した。
 
 控え室。
「あれぇ?シュウ先輩、メテオールバスター使えなかったんですか?」
「多分、使ってるビーダマンがブレイグじゃないからだと思う。
それと、今回のフィールドはいつもと重力が違うから、飛び上がった時の位置エネルギーが上手く活かせなかったんだわ」
 彩音が解説する。所詮は人工重力。地球のものに似せているとは言え、実際は多少弱いのだろう。
「だが、十分に体勢を立て直す事は出来た」
「いけっ、シュウ!!反撃だ!!」
 
 シュウは体制を立て直して、銃口をベルセルクに向ける。
「うおおおおお!!!!」
 バギュッッ!!!
 パワーショットでベルセルクをけん制する。
「うがああああ!!!!!」
 ベルセルクが連射でそれを撃ち落とす。
『再び始まった撃ち合い!!しかし、本当に激しいバトルだ!これは、まさに四年前の世界大会決勝戦の再現だ!!!』
 ビーダマスターから見ても、シュウの姿がゆうじとダブり。そして、ベルセルクの姿も……。
「強いな、ベルセルク……いや、トール・グリーグ!」
 シュウがその名を叫ぶと、ベルセルクは目を見開いた。
「っ!」
「お前とのバトル、楽しいぜ!いつまでも終わらせたくないくらいにな!!」
「ゆう……じ……!」
 ベルセルクの瞳に、穏やかな色が灯った。
「お前はずっと、戦ってたんだよな!ゆうじとの決勝を、あの時からずっと続けてたんだ!終わらせたくない戦いを!!」
「ゆうじ……!」
「でも、バトルはいつか終わるんだ!敗者が決まって、そして勝者が決まる!その決着をつけるのが、今だ!!」
「ゆうじいいいいいい!!!!」
 ベルセルクは、感極まったのか、連射しながら突進してきた。
「うおおおおおお!!!!」
 ガクガクガクガク!!!
 いつの間にか振動していたのか、シュウの周りに風が吹いた。
「ジャターユジェットォ!!!」
 ドギュウウウウウウ!!!!
 ジャターユジェットが炸裂し、ベルセルクのボムにヒット。
 そして、シュウはその風に乗って一気に後ろに後退した。
「うおおおおお!!!!」
 
『おおっと!シュウ君は、再びジャターユジェットを炸裂!しかもその反動を利用して後ろへ後退した!!』
「まだまだ!!」
 ダッ!!
 シュウは、ベルセルクが怯んでいる隙に更に差を広げていく。
 
『シュウ君は、ベルセルク君と更に差を広げている!しかし、そんなに距離を空けてどうするんだ!?』
 
「このくらいか!」
 シュウが天を見上げる。そこには、ベルセルクがいた。
『ついに!シュウ君はベルセルク君と対角線上に位置する場所まで距離を空けてしまった!』
 
「いっくぜぇ!!!」
 バッ!!
 シュウは、地面に向かってパワーショットを放った。
「ブッとべぇぇぇ!!!!!」
 バーーーーーーン!!!
 ショットの反動でシュウは飛び上がった。
「まだまだぁぁ!!!」
 バーーーーン!!!!
 シュウは更に下に向けてショットを放ち、高度を上げていく。
『シュウ君!地面に向かってショットを連発し、上昇していく!しかし、その先にあるのは、球体の中心だ!そこを過ぎれば、重力が変換されるぞ!!』
 
 そこで、控え室でバトルを見ていた彩音は理解した。
「そうか!シュウ君は上昇を続ける事で、ベルセルク君に向かって落下する気なんだ!』
「上昇して、落下?」
「今回のフィールドは、球体の中心部から外に向かって重力が働いている。つまり、対角線上へ向かって上昇を続けて中心部を通過すれば、後は落下する事になる」
「なるほど!その落下のエネルギーを利用して、メテオールバスターをかます気なのか!」
 
 彩音の言うとおり、シュウは球体の中心部を超えて、ベルセルクに向かって落下した。
 ベルセルクもそれに気づいたのか、上に向かって銃口を構えた。
 
『シュウ君が中心部を突破し、落下!まさか、この体制で撃ち合うのか!?』
 
「うおおおおお!!!トーール!!!!」
 ズババババババ!!!!
 落ちながら、ベルセルクへ向かってパワーショットを何発もぶち込む。
「ゆううじいいいいいいいい!!!!!!」
 ベルセルクも負けじと連射をぶち込む。
 ズババババババババ!!!
 互いのショットがボムに命中していく。
『さぁ、これが最後のぶつかり合いとなるのか!!落下していくシュウ君に、撃ち落とそうとするベルセルク君!
HPの減る速度はほぼ互角!!一体、どちらが先に力が尽きるのか……!!』
 バーーーーーーン!!!!
 シュウが、地面に堕ちたと同時に、ベルセルクのボムが爆発した。
 シュウのボムはギリギリ、HP3で生き残っていた。
 
『決まったぁ!!勝ったのは、僅かの差でシュウ君だ!!最後の天地激突は大白熱だったぞぉ!!!』
「はぁ、はぁ、……勝った……ぜ……!」
 なんとか受け身をとって、落下のダメージを軽減させたものの、シュウは疲労懇媒だ。
 だが、それ以上にベルセルクは……。
「ゆうじ……良いバトルだった」
「え?」
 ベルセルクは、フッと笑顔を見せたのち、パタリと倒れて気を失った。
「ベルセルク!?おい、しっかりしろよ!!」
 倒れたベルセルクをゆするシュウだが、反応が無い。
『おっと!どうしたんだ?!ベルセルク君が急に倒れてしまった!救護班!早く彼を医務室へ!!!』
 
 運営側の手際の良い手配によって、ベルセルクはすぐに医務室に運ばれた。
 
 しばらく付き添っていたシュウは、医者から容態を聞き、命に別状はない事が分かり、医務室を出た。
 
「……」
 医務室を出た所でシュウを呼ぶ声と、多数の足音が聞こえてきた。
「シュウー!」
「シュウ君!!」
 仲良しファイトクラブの皆だった。
「みんな……」
「シュウ、ベルセルクは大丈夫なのか?」
 息を切らせながら、タケルが問う。
「うん。極度の疲労で体力を使い果たしただけだって。命に別状は無いよ」
「そうか」
「よかった……」
 今まで畏怖していた相手とは言え、死なれては後味が悪い。
 一同はホッと胸を撫で下ろした。
「ただ、長年心身ともに緊張状態を保ち続けてた、とかで……回復にはちょっと時間がかかるとか。すくなくとも1ヶ月は意識を戻さないって」
 シュウはたどたどしく、医者から言われたことを頭の中に浮かべながら反復した。
「無理もないね。あんな狂人みたいな精神状態を続けてたら、身体が持つわけが無いもの」
 彩音がしんみりとした口調で言った。
「目が覚めたら、あいつは元に戻るのかな?」
 シュウがボソッと呟いた。
「さぁな。それは誰も分からないだろ。そんな簡単な事じゃなさそうだしな」
「だよな……でも、あいつ。倒れる直前、笑ってたんだ」
「シュウ……」
 シュウはゆっくりと天井を見上げながら口を開いた。
「また、あいつと戦えたらいいな。今度は、ゆうじとしてじゃなく、竜崎修司として」
「あぁ、そうだな」
 湿っぽくなるシュウの肩に手を置きながら、タケルは頷いた。
 
 
 医務室のベッドでは、ベルセルクが静かに目を閉じていた。
 しかし、その表情は憑き物が取れたかのように、どこか穏やかだった。 
 
 
 
        つづく
 
 次回予告
 
「世界選手権本戦リーグも、いよいよ最後の試合を残すのみとなった!
俺の最後の相手は、大原タクマ!今までずっと智蔵派と源氏派の覇権を争ってきた!相手にとって不足は無い!
だが、タクマは前回ヒンメルに負けて後が無くなった事で、物凄い気迫で俺に襲い掛かってきた!
 
 次回!『光を求める闇』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!』

 

 



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