オリジナルビーダマン物語 第96話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第96話「マッハスパルナVSクレイジーバイパー」




 ロシア。プレセツク宇宙基地。
 この付近に特設された会場が、今回のバトルフィールドだ。
 
『皆!!世界選手権第8回戦へようこそ!長く続いた世界選手権ももう残り少ないけれど、最後まで付き合ってくれよぉ!!
今回の舞台は、ロシアの宇宙開発技術によって開発中のスペースコロニーを応用して特設されたこのドデカい球体!
なんとこの中は特殊な重力が働いており、球の中心から外側に向かって地球と同じ重力が働いているんだ!
つまり、地面、壁、天井、全て駆けめぐる事が出来るんだ!前代未聞のこのフィールドをどう攻略するのか、期待しているぜ!』
 ワーーーー!と歓声。
『そんじゃ、早速対戦カードを発表しよう!!』
 モニターにプーチンとブッシュが映し出された。
『おおっと!いきなりホームグラウンドのプーチン君が登場だ!だが、宇宙開発だったらブッシュ君の出身地、アメリカのNASAだって負けてはいない!
いきなり熱い戦いになりそうだ!!』
 
 ブッシュとプーチンがバトルフィールドに入る。
 
『そんじゃ、おっぱじめるぜ!レディ、ビー・ファイトォ!!
 早速、ブッシュとプーチンが激しくビー玉を撃ち合い始めた。
 
 シュウの控え室。
「今回は、凄く凝ったバトルフィールドだねぇ……」
「あぁ。こんな近未来の技術まで使うとは。今回の世界選手権は金がかかってるな……」
「4年前なんて、決勝トーナメントは一日で消化したからな」
「かがくのちからってすげー!俺も早くこのフィールドで戦いてぇ……!」
 シュウは目を輝かせながらワクワクを抑えきれないようだ。
 そうこうしているうちに、ブッシュとプーチンの試合が終了した。
 
『決まったぁ!勝ったのは、プーチン君!!ブッシュ君のアクロバティック戦法はこのフィールドでは通用しなかった!!』
 
「天井まで全方位動けるようなフィールドで、高く跳ぶ事はあまりアドバンテージにはならないからな」
 ヒロトがブッシュの敗因を冷静に分析する。
 
『それでは、次の対戦カードは……!タクマ君VSヒンメル君だ!!』
 モニターにタクマとヒンメルの顔が表示された。
 
「タクマかっ!」
 ヒロトが身を乗り出した。
「現時点での同率一位同士のバトル……これは見物ね」
 彩音もこの対戦カードに興味津々なようだ。
「真打登場って感じね」
「この試合で、もしタクマ君が勝てば。シュウ君にも優勝の望みがあるしね」
「え、そなの?」
 彩音の意外な発言にシュウが反応した。
「えぇ。シュウ君が今の所戦ってない相手はタクマ君とベルセルク君。つまり、今回の相手は自動的にベルセルク君に決定でしょ?
だから、この試合でタクマ君がヒンメル君に勝てば、ヒンメル君は7勝1敗。そしてシュウ君がベルセルク君に勝てば同じ8勝1敗で並ぶの。
そして最後の試合でシュウ君がタクマ君に勝てば、8勝1敗でタクマ君と並ぶことになるの。当然ヒンメル君も勝つだろうから、最後は三人の巴戦にもつれ込む事になるね」
「そっかぁ!うぅ、ヒンメルが俺以外に負けるとこは観たくないけど。タクマにも勝ってほしいぜ……!」
 シュウは複雑な表情で画面を見た。
「結局、タクマとヒンメルって、どっちが強いんですか?どっちも凄く強いってイメージしかないんですけど……」
 リカが単純な疑問を口にする。
「直接対決した事は無いが……やはり、ここまで無傷で勝利しているヒンメルに分があるか?」
 タケルが言うとヒロトが反論した。
「相性の問題もある。一概には言えないだろう。少なくとも、ヒンメルの無傷の勝利はここで終わるだろうな」
 どっちが勝ってもおかしくはないが、少なくともタクマが一撃も食らわせられずに負けるはずがない。ヒロトは本気でそう信じているようだ。
「まっ、始まってみれば分かるぜ!」
 シュウは心にゆとりを持って、試合開始を待つ事にした。
 
 バトルフィールドでは、ヒンメルとタクマが対峙している。
「ついにこの時が来たか……我の悲願達成において最も強大な壁となる存在、ヒンメル。貴様と戦う時が」
「……」
「神の子だかは知らぬが、貴様も智蔵派と言うのなら我は神にすら背く!」
「智蔵派……知らない。僕はバトルをするだけ」
 ヒンメルは感情の無い瞳で静かに言った。
「ふん。無思想か。ならばなお更我にとって害悪だ!」
 タクマはあからさまな敵意をヒンメルに向けたが、ヒンメルは我関せずと言った表情だ。
『さぁ、両者ともにそろそろスタート位置についてくれ!バトルを始めるぞ!』
「……」
 ビーダマスターに促され、ヒンメルは無言でスタート位置へ歩いて行った。
「ふん」
 タクマも面白くなさそうに鼻を鳴らしながらスタート位置へ向かった。
『準備オッケイだな!そんじゃ行くぜ!レディ、ビー・ファイトォ!!』
 
 ダッ!!
 早速タクマが駆け出し、射程圏内を目指す。
「珍妙なカラクリだが、障害物も何もない、動きやすい舞台だ。純粋な力の勝負が出来る!」
 ヒンメルもタタッとタクマの方を走ってきた。
 互いに射程内に入り、向き合う。
 
『早速お互いに顔合わせだ!熱い激突が始まるか!?』
 
「はぁぁぁぁ!!!」
 ズドドドド!!!
 タクマの強力なパワー連射が的確にヒンメルのボムを狙う。
『タクマ君!!早速強力な連射が火を吹いた!これをまともに受けてしまえばいかにヒンメル君と言えど、一たまりもないぞ!!』
 
「……」
 ドンッ!パシュッ!!
 ヒンメルは相変わらずのスピンボールで相手のショットを弱ショットで逸らして行った。
『しかし、さすがは無傷の大天使ヒンメル君!タクマ君のショットは通じない!!』
 
「ならばこれはどうだ!!」
 ガクガクガクガク!!!!
 ドライグのエアリアルバイザーが振動を始める。
『おおっと!タクマ君、出し惜しみなし!いきなり必殺ショットの構えだ!!』
 シュパァァァァ!!
 ヘッドから伸びたエアロチューブがヒンメルのボムに当たった。
「ドラゴニックブレス!!」
 エアロチューブの中を、ドライグのショットが進んでいく。
「……」
 ドンッ、パシッ!!
 ヒンメルのショットはタクマのショットに当たる前に吹き飛ばされてしまった。
「っ!」
 
『のおっと!ヒンメル君のいつもの防御ショットが通じない!!ビー玉に触れる前に空気のトンネルに吹き飛ばされてしまう!!』
 控え室のシュウ達。
「あれは!俺のフェイタルストームと同じ!!」
「そうか……ドラゴニックブレスも、エアリアルバイザーで発動する。原理は同じなんだ」
「ビー玉に直接触れられなければ、ヒンメル君の防御は通じないもんね」
 
 ドラゴニックブレスがどんどんヒンメルのボムに迫っていく。
 だが、ヒンメルは冷静だった。
「……」
 ズドドドド!!
 ヒンメルは、前方の地面に向かって連射を放った。
『なんだぁ?!策無しなのか!ヒンメル君は急に地面に向かって連射を始めたぞ!』
「無駄な足掻きを……なにっ!?」
 カンッ!カンッ!!カンッ!!!
 地面に落ちたビー玉は、強力なバックスピンによって跳ね上がり、玉同士が何度も反発し合い、ヒンメルの周りを半球状に跳ねまわり始めた。まるで、バリアのように。
 カンッ!カンッ!!カカンッ!!!
「デオス・パノプリア」
 ヒンメルは静かにその技名を口にした。
 その声は小さいが、不思議な響きがあった。
『なんとぉ!!ヒンメル君の撃った玉が、ヒンメル君の周りを飛び跳ねてバリアのようになっている!!』
 
「それがどうした!ドラゴニックブレスは既に発動している!!今更何をしようと……なに!?」
 跳ね回る玉が巻き起こした風圧によって、ドラゴニックブレスの空気のトンネルが吹き消されてしまった。
「な、バカな……!!」
『これは、どうした事か!?ドラゴニックブレスの空気のトンネルが掻き消えた!?僕は、夢でも見ているのか!!』
 
「くっ!」
 エアロチューブが無くなり、無防備になったタクマのショットはデオス・パノプリアのバリアにあっさり弾かれてしまった。
「バカなっ!!」
 タクマは、何度も何度もパワーショットをぶつけるが、ことごとく弾かれてしまう。
『凄い防御力!!デオス・パノプリアの前にはいかなる攻撃も通用しない!!まさしく、神のご加護だ!!』
 
 控え室のシュウ達。
「嘘だろ……エアリアルバイザーで発生した空力が、掻き消えた……!」
「まさか今のヒンメルは、フェイタルストームも通じないのか!?」
「で、でも、あのバリアも無限じゃないはず。いずれビー玉の勢い尽きて、バリアも消える……!」
 彩音が言った通り、タクマもそれを狙っているようだ。
(ビー玉のバリアの勢いが尽きるその瞬間にエアリアルバイザーをぶち込めば、我にも勝機はある……!)
 タクマは、むやみに撃つのはやめ、ジッとチャンスを狙っている。
『タクマ君のショットが止まった。チャンスをうかがっているのか!?対するヒンメル君も、自分が発生させたバリアによって身動きが取れなくなっている!バトルは膠着状態だ!!』
 
 シュンッ!シュンッ!!シュンッ!!!
 凄まじい勢いでヒンメルの周りを跳ね回っていたビー玉だが、徐々にその勢いが落ちてきた。
「そろそろか……!」
 タクマがニタリと笑った。
「え……」
「貴様の防御、見事なものだ。だが、守ってばかりでは勝ちにはつながらない。そのバリアも無限には続くまい!」
「うん、そうだね……」
 飛び跳ねていたビー玉が、地に堕ちる。
「今だっ!」
「でも、君はもう終わりだよ」
 ヒンメルが静かに呟いた。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
 タクマがバリアが外れた場所目掛けてショットを放とうとした瞬間だった。
「だって君はもう、空に捕まってるから」
 ヒンメルがそう言うと、地に堕ちたビー玉が地面を蹴ってタクマのボムへと吹っ飛んだ。
「デオス・ネメスィ」
 またもヒンメルは静かに技名を呟いた。
『なんとぉ!!先ほどまでバリアを張っていたビー玉が、地に堕ちた瞬間にタクマ君のボムへとフッ飛んでいく!!』
 
「勢いが落ちても、回転力は落ちてなかったんだわ!!」
 控え室で彩音が叫ぶ。
 
「ば、バカな……!!」
 咄嗟の攻撃に、タクマは成す術がなかった。
 バババババババ!!!!!
 タクマのボムへ飛んできたビー玉は、的確にボムの急所を狙い、一気にHPを0にしてしまった。
 
 
『き、決まった……!ヒンメル君完勝!!!同じく優勝候補のタクマ君相手に、無傷連勝の記録を更に伸ばしたぁぁぁ!!!』
 
「我が……負けた……!」
 ザッと膝をつくタクマ。
 そんなタクマを無視して、ヒンメルは歩いて行った。
 
 控え室のシュウ達も、この結果に驚きを隠せなかった。
「嘘だろ……タクマが、あんな負け方をするなんて……!」
「唯一の突破口だったエアリアルバイザーさえも防ぎきるとは、どこまで強いんだあいつは……!」
 その中で、ヒロトだけは冷静だった。
「だが、恐らくあの技がヒンメルの本気だろうな。それを引き出したと言う意味では、さすがはタクマと言った所か……」
「だけど、最強の盾と最強の矛……二つを併せ持つあの技に、勝てる奴はいるのか……!」
 タケルが戦々恐々と呟く。
「さぁな。だが、これで奴の優勝は決まったようなものだな」
「え、でもまだあと一試合……あ」
 次のヒンメルの試合相手を思い出して、琴音は口を噤んだ。
「あいつに負ける要素がないだろ」
「まぁ、ね……」
 さすがにハッキリ言うのは失礼だろうと、琴音は曖昧に苦笑する。
「ヒンメル……へへへ……!さすがだぜ!!」
 最初はおどろいていたシュウだが、徐々にその顔は喜びに代わって行った。
「シュウ?」
「あいつと戦うのが俄然楽しみになってきたぜ!そのためにも、残りの試合に勝って弾みをつけなきゃな!!」
 ヒンメルの強さを見て、シュウはより一層闘志を燃やしていた。
「ったく、あんたはほんとノー天気よね」
「でも、それこそシュウ先輩ですぅ!」
 ヒンメルの事も大事だが。それよりも今はシュウの試合の方が重要だ。
「さて、俺の相手はベルセルクだったな。早速用意してたこいつを使う時が来たぜ」
 そう言いながら、シュウは青いビーダマンを取り出してテーブルに置いた。
「お、おい、シュウ、それって……!」
 そのビーダマンを見たタケル達は驚愕した。
「マッハスパルナか……?」
 ヒロトがそのビーダマンの名を呟く。
「ああ。あやねぇに頼んで用意してもらったんだ。ベルセルクとの試合、こいつで受ける!」
「ちょ、ちょっと待てよシュウ!ベルセルクはシュウをゆうじさんと勘違いして、敵意をむき出しにしている!そんなお前がマッハスパルナなんか使ったら……!」
「そうよ!余計にお兄ちゃんだと勘違いされて、あいつが凶暴化するんじゃないの!?」
 タケルと琴音が、シュウの行動を危険視する。
「ごめんね。本当は私が止めるべきだったんだけど……」
「いや、あやねぇは悪くねぇよ。これは俺が決めた事なんだ!」
「だから、どうしてよ」
「あいつも、俺と同じだからさ」
 シュウの言葉に一同首をかしげた。
「あいつは、大会なんてどうでもよくて。俺と……ゆうじと戦えさえすればいいって思ってる。
それって、俺も同じなんだ。あいつほど極端じゃないけど。俺は別に心から世界一になりたいわけじゃない。ただヒンメルに勝ちたいってだけだったんだ」
 称号ではなく、特定の人物を目的にして大会に参加していると言う点では、シュウとベルセルクは同じだった。
「俺の想いを受け止められるのがヒンメルだけなのと同じように、あいつの想いを受け止められるのは今は俺しかいない。
だから、とことんやりたいんだ!あいつの一番望む形で!じゃないと、あいつはずっと呪われたままだから」
 シュウの言葉に、タケルは納得したように頷いた。
「自分を縛り付けるほどの強い想いは、呪いと同じか……。シュウ、くれぐれも気を付けろよ」
「タケル……」
 タケルはそれ以上シュウを止める気は無いようだった。
「そうね。大会が終わってからも付きまとわれちゃあたし達もたまらないし、ガツンとやってスッキリさせてやりなさい!」
「シュウ先輩なら、どんなビーダマン使っても絶対勝てますよ!」
「お前がゆうじの代わりとは、頼りなさすぎるがな」
 皆、シュウの考えに賛同してくれているようだ。
「皆、サンキュ!!」
 
 そして、ビーダマスターのアナウンスが聞こえてきた。
『次の対戦カードは、シュウ君VSベルセルク君だ!二人はバトルフィールドに来てくれ!!』
 
「んじゃ、行ってくる!」
 シュウはマッハスパルナを持って勢いよく飛び出した。
 
 バトルフィールドで、シュウとベルセルクがスタート位置につく。
『両者ともにバトルフィールドについたな!!なんとベルセルク君は、今回が本戦リーグ初バトルとなる!!今まで棄権ばかりだった彼の何が心を動かしたのか!?
そして、シュウ君が使うビーダマンはいつものブレイグではない!なんと、四年前の世界チャンピオン!佐倉ゆうじの使っていた愛機だ!!
シュウ君の意図は不明だが、四年前のゆうじ君の再現なるのか!?』
 
 シュウの持つマッハスパルナを見て、ベルセルクはニタリと笑った。
「マッハ……スパルナ……!」
 闘志が燃え上がるのか、クレイジーバイパーを持つ手が震えている。
 
(スパルナの使いこなしは、前にゆうじから夢で教わった。……これが初めての実戦だけど、頼むぜ!!)
 シュウはマッハスパルナに想いを込めた。
『それでは、そろそろおっぱじめるぞ!!レディ、ビー・ファイトォ!!』
「いくぜ、マッハスパルナ!!」
 シュウはマッハスパルナを手に、クレイジーバイパーを持つベルセルクへ立ち向かっていった。
 
 
         つづく
 
 次回予告
 
「ついにはじまったベルセルクとの一戦!マッハスパルナを見たベルセルクは、まるで闘牛のように凄まじい攻撃を仕掛けてくる!
俺も全力で迎え撃つぜ!いっけぇ、マッハスパルナ!!
 次回!『永遠の決勝戦』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」
 

 

 



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