爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第95話「真実の救い 理想の慈愛」
世界選手権第6回戦の会場。
シュウVSマサーイの次の試合は、ヒンメルVS劉洸の試合となった。
『第二試合の対戦カードはヒンメル君VS劉洸君!そんじゃおっぱじめるぜ!レディ、ビー・ファイトォ!!』
バトルフィールドで、ヒンメルと劉洸が激突する。
その様子を、ルドルフはヒンメルの控え室でテレビを通して眺めていた。
「……」
固唾を呑んでヒンメルのバトルを見守っている。
それは、ヒンメルの勝利を心配して、ではなくヒンメルの暴走を心配している表情だった。
そんなおり、部屋の扉が控えめにノックされた。
「どなたですか?」
扉の向こうから、少年の声が聞こえる。
「仲良しファイトクラブの、竜崎修司です」
それを聞き、ルドルフは煙たそうな顔になった。
「今更何のようです?ヒンメル様は今試合中ですよ」
「ルドルフさんに話があってきました。少し時間をください」
「……」
丁寧な応対のシュウに、それ以上断る口実がないのか。ルドルフはゆっくりと扉を開いた。
「手短にお願いしますよ」
ルドルフはシュウを部屋に招き入れ、イスに座らせた。
「それで、何の話ですか?」
「……お願いがあります。この大会が終わった後、もう一度ヒンメルと戦わせてください」
シュウは頭を下げた。
「あなたはっ、まだそんな事を……!」
ルドルフは頭に血が上るのを寸でのところで抑え、目の前の冷め切ったお茶を啜って気を落ち着けた。
「あの話を聞いて、理解されなかったのですか?ヒンメル様と戦った所で無意味です」
「俺はっ!ヒンメルと戦って初めて知ったんだ。負ける事の悔しさと勝つ事の嬉しさ。だからこそ得られる本当の楽しさを!
今度は、俺があいつに伝えたい!本当のビーダマンの楽しみ方を!」
シュウの必死の訴えを聞き、ルドルフはため息を吐きながら言った。
「……承りかねますね。あなたの気持ちは理解できますが、それがヒンメル様のためになるとは思えない」
バンッ!と机を叩き、シュウは立ち上がりながら声を荒げた。
「ヒンメルだって、本当は楽しいバトルをしたいはずだ!ただビーダマンが出来ればそれで良いなんて思っちゃいない!!」
そんなシュウに対してルドルフは冷静に返した。
「そうでしょうね。私も元はビーダーですから、その気持ちは分かりますよ」
「だったらっ……!」
「堂々巡りです。私の行動の理由は既に伝えたはずだ。ヒンメル様が楽しむ事は危険すぎる。私は、ヒンメル様が傷つく姿を見たくない……」
ルドルフだって、ヒンメルを愛しているからこその行動をしているのだ。簡単に今までの行動を捻じ曲げられるはずがない。
「だったら、誰も傷つけさせない!」
「なんですって……?」
「ビーダーにとって一番辛いのは、楽しくないバトルをする事なんだ……!ヒンメルはもう十分に傷ついてんだよ!!だからっ、二度と傷つけさせない!!」
「……」
ルドルフは、苦々しい表情で視線をそむけた。
シュウの意見に同調したい気持ちは、ルドルフの中にある。ルドルフだって、ヒンメルに楽しいバトルをしてほしいと願っているのだ。しかし、現実はそうもいかない。
「感情論だけでは、誰も救えはしませんよ」
「今だってヒンメルは救われてねぇよ!!」
「あなたは……!」
図星だったのか、ルドルフの瞳に怒りの色が浮かぶ。
そんなルドルフに、シュウは再び頭を下げた。
「あいつとのバトルで何が起きたって、俺が真っ向から受け止める!俺以外の誰も傷つけさせない!!だから、お願いします!!」
「……あなたが傷つくことで、ヒンメル様が傷つくかもしれませんよ?」
「だったら俺も傷つかない!あいつとバトルが出来るなら、何があったって傷つかない!!」
シュウは顔を上げて、真っ直ぐな瞳でルドルフを見つめた。
しばらく睨み合っていた二人だが、根負けしたのかルドルフが視線を逸らした。
「……そこまで言うのなら、考えておいても良いでしょう」
その言葉に、シュウの顔が綻ぶ。
「ですが、ヒンメル様にもしもの事があれば。私はあなたに何をするか、分かりませんよ?」
ルドルフは無表情でシュウを見つめながら言った。
感情を込めないその言葉は、底知れぬ恐ろしさがあった。
「その時は、俺の命を使ってでも、ヒンメルを救ってくれ」
シュウはルドルフに気圧される事なく、迷わずにそう答えた。
「その言葉、覚えておきましょう」
「ありがとうございます!」
シュウは地面に着くほどの勢いで頭を下げた。
「話は済みました。もう頭を上げなさい」
「は、はい……。失礼しました」
シュウはもう一度一礼して部屋を出ようとした。
扉に手をかけた時、背中からルドルフの声が届いた。
「いつかのあなたとのバトル。久しぶりに心躍りました。だからこそ、恐れてしまうのと同時に、期待してしまうのでしょうね」
それは、シュウに向けられているようで、独り言のようでもあった。
だからシュウは、それには答えずに静かに扉を開いて部屋を後にした。
後日。仲良しファイトクラブ。
「いっけぇブレイグ!!」
シュウは気合い入れて練習に励んでいた。
「シュウ、調子良いみたいだな」
そんなシュウへタケルが話しかけてきた。
「おう!もうこの大会じゃ俺の夢は叶わないけど。ここまで来たら、最後まで全力で戦うぜ!まだ優勝の望みだってあるしな」
この先、ヒンメルが二敗以上するとは考えにくいが。それでもまだシュウは一敗しかしていない。
勝ち続ければ上位入賞は出来るだろう。
「そうだな。夢なんて今後いくらでも叶えるチャンスがある。今は目の前の戦いに全力を尽くすしかないよな」
「だよな。あ、そうだ!」
シュウは何か思いついたのか、練習場の端っこでデータ分析をしている彩音の所へ駆け寄った。
「あやねぇ~!!」
「ど、どうしたの、シュウ君?」
「ちょっとお願いがあるんだ」
「お願いって?」
シュウは小声で彩音に願い事を言った。
「えぇ、あれを?!……どうしてまた?」
「今後の戦いで、どうしても必要なんだ!頼むよ!!」
シュウは両手を合わせてお願いした。
「う~ん……まぁ、構わないけど」
彩音は少し躊躇いながらも承諾した。
「ありがとうあやねぇ!」
「それじゃ、後で軽くメンテナンスしてから渡すね」
「うん!」
シュウは大きく頷いた。
その夕方。
仲良しファイトクラブでの練習を終え、シュウは帰り道にある中央公園の広場に立っていた。
そこに、一人の少年が歩み寄り、シュウの目の前に立った。
「すみません、お待たせしましたね」
それは、メアシだった。
「いや、俺の方こそいきなり呼んで悪かった」
「あなたからの呼び出しとあれば、いつどこへでも馳せ参じますよ」
メアシは含み笑いをした。
「そっか」
「それで、考えてはいただけたんですよね?」
メアシが言っているのは、前にメアシが提案した『自分と手を組む』という事だろう。
「ああ。お前の考えには同意する。やっぱり、ビーダマンは誰かを傷つけるかもしれない」
「分かっていただけたようで、嬉しいですよ。では、私とともに」
ドギュッ!!
メアシが手を差し伸べようとしたところで、シュウはショットを放った。
ビー玉がメアシの頬を掠める。
「……何の真似です?」
「お前の考えには賛成するけど、お前と手を組むつもりはない。ビーダマンの解放は、俺一人でする!」
「ほぅ……」
「お前の方こそ、妹の事や親友の想い出まで封印して、辛そうだからな。お前から救ってやるんだ!」
「私に救いなど必要ない」
「いいや!お前が救われなきゃ、マリアも救われないんだ!だから、まずはお前から解放する!!」
「マリア……」
メアシはその名前をボソッと呟いた。
「わざわざ呼び出したのはそういう事ですか。良いでしょう。受けて立ちます」
メアシはルシファーを取り出し、構えた。
(俺に出来るのは、これだけだ……!)
「レディ、ビー・ファイトォ!!」
シュウの合図と同時に、二人はショットを放った。
「いっけぇ!」
「はぁぁ!!」
ドンッ!バキィ!!
ノーマルショットとは言え、ブレイグのショットとルシファーのショットは相殺された。
「やるなっ!相変わらずすげぇ回転力だぜ!」
「あなたのブレイグも、力を抑えているにも関わらずそのパワー……単純な力比べではこちらが不利ですね」
メアシはコア下部に小型レールパーツを取り付けた。
「ならば、スピードで勝負です!」
ドヒュッ!!
ドライブ回転をそのままスピードに変換するレールの力によってメアシのショットは物凄い勢いで飛んでいく。
「くっ!」
威力は先ほどよりも低いが、初速が半端じゃない。
シュウはなんとかそのショットを食い止めたものの、不意を突かれてしまったら対応しきれないだろう。
「へへへ……スピードと回転を使い分けるショット……さすがだぜ!」
シュウは嬉しそうに笑った。
「余裕ですね。ビーダマンを破壊されるかもしれないと言うのに。それとも、本心ではそれがお望みですか?」
「んなわきゃねぇだろ!ただまぁ、せっかくだから楽しまなきゃ損だしな!」
「……このバトルは、楽しむためのものではないはずですよ」
「楽しむのに、理由も結果も関係ないって事だよ!!」
ドンッ!!
シュウはシメ撃ちを放った。
「ふんっ!!」
メアシは、レールを外して、超回転でそれに迎え撃った。
ガキンッ!!
「うっ!」
しかし、やはりパワーはビクトリーブレイグの方が上だったようだ。
ビクトリーブレイグのショットがルシファーにヒットし、メアシはルシファーを落としてしまった。
「くっ!」
地面に伏したルシファーへ、シュウは銃口を向ける。
「勝負あったな」
「……そのようですね」
メアシは力なく頷いた。
「じゃあ、遠慮なく行くぜ」
「好きにしてください。あなたが私の意志を継いでくれるのであれば、私は一足先にあなたの救済を受ける事にしましょう」
メアシは、両手を広げて目を瞑った。全てを受け入れるかのように。
「うおおおおお!!!」
シュウは躊躇う事なく、パワーショットをルシファーへぶち込んだ。
バゴオオオオン!!!
砂煙が上がる。しかし、そこに断末魔は無かった。
煙が晴れるとそこには、ビーダマンを庇いながら転がっているメアシの姿があった。
「メアシ……!」
「……」
メアシは、自分が取った行動に、動揺していた。
「わ、私は、なぜ……!」
「やっぱお前、ビーダマン好きだったんじゃねぇか」
「ち、ちがっ!私は、私は……!」
必死に首を振って否定するが、ルシファーを大事そうに抱えているその姿では説得力が無い。
「ほんとは、マリアや涼もそんな風に助けたかったんだろ?」
「っ!!」
その名前を聞き、メアシの目から大粒の涙がこぼれ出した。
「違う、私は……私は……!」
両手を地面に着き、ボロボロと涙が落ちる。
「すまない……マリア……涼君……!私は、ただ、救いたかった……!救えなかった自分を罰したかった……!
だけど、誰も私を責めてくれない……!誰も悪くない……?誰かを憎んではいけない……?じゃあ、なんで二人とも傷ついた!!
誰かが悪くないと……!何かを排除ないと……もう、何も救えないじゃないか……!!」
メアシは、まるで懺悔するように心のうちにあるものを絞り出してきた。
何かを悪にし、それを排除しなければ、同じ事が繰り返される。メアシはずっとそう考えてきたのだ。
その結果、ビーダマンを悪にし、排除する事で自分の心を慰めてきた。それが理想の慈愛だと信じて。
「メアシ。何かを排除しなきゃ誰も救えないなんて、そんな事は無いぜ」
「え……?」
メアシが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
「俺は、思ったんだ。楽しむ事が、ヒンメルにとって悪い事だとしても。それでもヒンメルから楽しむ事を奪うのは何か違うって。
それで、すげぇ傷つく事になるかもしれないけど。それでも、真っ向から受け止めて立ち向かうって決めたんだ」
「……悪を排除するんじゃなく、受け止める……?」
「マリアも、受け止めてた。メアシの事も、すげぇ心配してた」
「マリアが……」
「本当に何かを救いたいんだったら。良いとか悪いとかを決めるんじゃなくて、ちゃんと受け止めるしかないんじゃないかな」
「……」
メアシは、地に着けた拳を握りしめた。
「だけど、私は既に多くのビーダマンを救済の名の下に殺めてしまった……今更引き返してもいいものなのか」
「やっちまったもんはどうしようもねぇよ。けど、取り返せないなんて事は無いぜ。
現に俺だって、お前に解放って奴をさせられたけど、こうしてブレイグと一緒に戦えてる!」
シュウはブレイグをメアシに見せ付けた。
かつてメアシに『救済』の名目で破壊されたビーダマンだ。
それでも、シュウはそれを乗り越えて更なる強さを持ってブレイグを蘇らせた。
「ビーダーがビー魂を失わない限り、ビーダマンはいくらでも生まれ変わるんだ!
ビーダーだって、いくら打ちのめされたって何度でも立ち上がれるんだ!お前だってきっと……!」
シュウが言い切る前に、メアシは涙を拭って立ち上がった。
「まだ、私には分からない……すぐには動き出せないでしょう。ですが、いつか必ず答えを出します」
そう言って、メアシは踵を返した。
「そっか」
「では、またいずれ……」
歩き出すメアシの背中に、シュウは言葉を投げかけた。
「じゃあな、お前とのバトル。楽しかったぜ」
それを聞いて、メアシは立ち止まった。
「私も……私も、楽しかったよ」
振り返らずにそれだけ言うと、メアシは再び歩き出した。
「メアシ……」
遠ざかる背中を眺めていたシュウは、急に夜風の肌寒さを感じて踵を返した。
つづく
次回予告
「俺の次の対戦相手は、あのベルセルクだ!ゆうじと戦うためだけに大会に参加して、ずっと棄権してきたベルセルクが、ついに本戦リーグに姿を現した!
あいつと真っ向から戦うにはこの機体を使うしかない!行くぜ!!
次回!『マッハスパルナVSクレイジーバイパー』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」