オリジナルビーダマン物語 大長編2 後編

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


大長編2「爆走外伝!アルティメットレジェンダー」





「ぐっ、待て……!」
手を伸ばすが、身体が痛んで動けない。
「おーーーい!!」
そこへシュウ達がやってきた。
「だ、大丈夫か、お前ら」
シュウ達を見ると、ハクラはあからさまに嫌悪を表情に現した。
「ちっ、来たのかよ……俺達は問題ねぇ……!すぐに追いかけるぞ!」
「おう!!」
ハクラ達は痛む体に鞭打って立ち上がり、追いかけようとする。
が、それを彩音が止めた。
「ダメよ!」
「なに……?」
「あなた達が良くても、このマシンじゃもう戦えない……」
彩音はホワイターとブラッカーを拾った。
それぞれボロボロで、とても走れそうになかった。
「くっ、アクセルホワイター……!邪神め、なんてパワーだ……!」
ボロボロな愛機を見て、ハクラとコクリは顔をゆがませる。
「私、メカニックをしているの。ビーダマンとは勝手が違うかもしれないけど、よかったら修理させてもらえないかな?」
「お前が……?」
「壊れている愛機を見るのは、好きじゃないから」
彩音の目に嘘はなかった。それを悟ったハクラはぶっきらぼうに言った。
「勝手にしろ」

歩道の傍にあるベンチに一同座り、彩音のメンテを待つ事にした。
「す、すごい……ビー玉発射装置に自走させるためのメカを搭載して、それらを脳波でコントロールさせてるなんて……。ボディも空力を考えて機動力を上げている。
私達のビーダマンとは全く違ったテクノロジーね……」
彩音はホワイターとブラッカーを修理しながら、その機構に感動している。
「で、治りそうなのか?」
「うん。大丈夫。仕組みは違うけど、壊れている場所の部品は流用できそうだから」
そう言いながら、彩音はテキパキと作業を進めた。
「それじゃ、そろそろ話を聞かせてもらおうか。お前らの事。そしてあのビーダマンの事」
タケルが切り出した。
「はぁ?なんでお前らなんかに……!」
「ハクラ。今の私達は彼女の修理が無ければ動けないのです。素直に言う事を聞きましょう」
「そ、そうだよぉ~!」
リョクエンとセイヤに説得され、ハクラは不機嫌そうに顔を逸らした。
「ちっ、人質盗られちまったな」
その言い方に、シュウと琴音はムッとした。
「何よその言い方!」
「そうだそうだ!あやねぇは親切でやってんだぞ!!」
ハクラはぶっきらぼうに反論した。
「別に頼んだわけじゃない」
口論になりそうなのをリョクエンが割って入った。
「まぁまぁまぁ!!……ハクラも、本当は感謝しているんですよっ!お礼、と言えるかはわかりませんが。私達の事情を話します」
「おいリョクエン……!」
リョクエンに喰ってかかりそうになるのを、コクリが肩を叩いて首を横に振る事で止めた。
「……ちっ、勝手にしろ!」
リョクエンは静かに語り始めた。
「私達は、『宝玉族』と言う古代のグンマーで栄えていた部族の末裔なのです」
「宝玉族?」
シュウが首を傾げた。聞いた事のない名前だ。
「透明な玉を神の魂として崇め、それを射出できる神器を守護神として祀っていました」
「それって……シュウのおじいさんが言ってたのと同じ……」
琴音がそう呟いたが、リョクエンは話を続ける。
「ですがある日、守護神は邪神として姿を変え、一族を襲い始めたのです……!」
「守護神が、邪神に?」
タケルがそう問うと、ハクラが口を開いた。
「けっ!変わったんじゃない!あれは最初から邪神だったのさ!守護神のフリをして、一族を騙してたんだ……!」
ハクラが怒りと悔しさの入り混じった声を出した。
「邪神は、どうにか生き残った私達の先祖が力を合せて、パーツをバラバラにして世界中に封印しました。ですが、所詮封印は封印。
完全に破壊しない限りいずれは復活してしまう。
我々は代々、邪神復活に備え、今度こそ完全に破壊出来るように訓練を積んできたのです。この伊香保温泉街を拠点としてね」
「そうか、あの旅館はお前達が運営していたのか」
「えぇ。いずれ復活するのなら、我々の目の届く場所で復活させてほしい。そう思い、邪神の封印を解く事が出来る優秀なビーダーを待ち望んでいたわけです」
「あの仕掛けも全部、ビーダーを試すためのもので、復活させればもう用無しって事か……」
話し終えたと同時に、彩音の作業も終了した。
「出来たよ。多分、これで元通り動くと思う」
彩音がビーダファイター二台を返す。
「おっ、すげぇ!元通りだ!」
「……うん、悪くない感じだ」
ビーダファイターを受け取ると、ハクラは立ち上がった。
「まっ、そういうわけだ!俺達の目の届くところで復活させてくれてありがとよ!あとは俺達に任せて、お前らは温泉を楽しんでな!」
そう言って駆け出そうとする。
「ふざけんな!俺だってアルティメットレジェンダーとはまだ決着がついてねぇんだ!それまで破壊させられてたまるかよ!!」
「あんた、バカでしょ?」
コウミがシュウを侮蔑の目で見る。
「なんだよ!」
「今の話聞いてた?もう坊やが出る幕じゃないの。あたいらは、子供の遊びでやってるわけじゃないのよ」
「そうなんだな。君達には危険なんだな」
「あ、あの、大人しくしてた方が、いいです……」
「時間を食ったな、行くぞ!」
ハクラ達はそれだけ言うと駆け出して行った。
「あ、待てよ!!」
慌てて追いかけるシュウ達だが、レーシングカーを模しているビーダファイターのスピードは速く、それとシンクロしている宝玉族達にはなかなか追いつけなかった。
「くっそぉ、はぇぇ!!」
必死で追いかけるシュウ達。
そんな時、一人の幼い少女が座り込んで泣いているのを見つけた。

「えーんえーーーん!!」
シュウ達はその子に駆け寄った。
「大丈夫、怪我は無い?」
彩音が目線を合わせて優しく語りかける。
「……ひざ、すりむいちゃった」
「ほんとだ。ちょっと待っててね」
彩音は懐から消毒薬と絆創膏を取り出して、手当してあげた。
「ありがとー、お姉ちゃん!」
「もう痛くない?」
「うん!」
「あ、もしかしてその怪我、アルティメットレジェンダーにやられたのか!?」
シュウが思いついたように叫ぶ。
邪神と呼ばれた機体なら、少女を泣かせる事もやりかねない。
「あるてぃめっと?」
「金と銀の色をしたビーダマンだよ!」
「ううん。あたし、変な車を追いかけてたお兄ちゃんたちに突き飛ばされたの」
「え、ぁ、そうなのか……」
深刻な顔で叫んだのがちょっと恥ずかしい。
「金と銀のびーだまんも通ったのみたけど、何もしなかったよ」
「え?」
「それで、その金銀のビーダマンはどっちにいったのかな?」
「あっち」
少女が南東を指差す。その方角には河があったはずだ。
「分かった、ありがとう!!」
少女に言われた方角目指して、シュウ達は走り出した。

「なぁ、タケル。あの子が言ってた事、本当かな?」
「アルティメットレジェンダーは何も悪い事してなかった。あれだけ目立つ存在だ。見間違いって事は無いだろうしな」
「俺、アルティメットレジェンダーが邪神だなんてどうしても思えねぇんだ」
「何よ、シュウ。宝玉族の言う事は嘘だって言うの?」
「そうは言わねぇけど、ただなんていうか……」
上手い言い回しが思いつかなくて言いよどんでいると、ヒロトが口を出した。
「戦った者同士だからこそ分かる、勘って奴か」
「そうそう、それそれ!」
「まぁ、竜崎の言う事は一理ある。だいたい、古い言い伝えなんてアテなるもんじゃない。奴らが自分の目で見た事でもないしな」
ヒロトにそう言われて、シュウは自信を持った。
「そうだよな!あいつはただバトルが好きなだけなんだ!だから、俺との決着が着くまで、壊させるわけにはいかないぜ!!!」

河の畔で宝玉族達とアルティメットレジェンダーは戦っていた。
「いけぇ!アクセルホワイター!」
「ブーストブラッカー!!」
二台で応戦するが、歯が立たない。

「あ、いたいた!!」
そこへシュウ達がやってきた。
「お前ら、来たのかよ!」
「うるせぇ!女の子突き飛ばしていきやがって!アルティメットレジェンダーとバトルするまで、絶対に破壊させねぇからな!!」
「ふん、もう遅い!」
シャアアアアアア!!
ホワイターとブラッカーが挟み撃ちでアルティメットレジェンダーを追い詰めていた。
「あぁ!」
「さぁ、追い詰めたぜ!!」
しかし……!
アルティメットレジェンダーはフワッと浮き上がり、二台の攻撃を躱した。
「なに!?」
「飛べるのか……!」
「へっ、これじゃお前らのマシンじゃ攻撃届かねぇな~!」
「ふっ、甘いな。セイヤ!お前の出番だ!」
「う、うん!!」
「破壊はしなくていい、俺達の射程圏内に入るように撃ち落としてくれ」
「わ、分かった!」
そう言ってセイヤが取り出したのは、飛行機にプロペラが付いたような機体だ。
「いけっ、ジェットブルード!!」
そう呼ばれたマシンはプロペラによって浮力を得て、アルティメットレジェンダー目掛けて空を飛んだ。
「飛行機型のビーダファイター!」
「ビーダファイターが、車型だけとは言ってないぜ?」
「だ、だが、空飛ぶ機体にビー玉が積めるのか?」
「ジェットブルード!ビーダレーザー発射!!」
シュンッ!!
ジェットブルードから赤外線が発射された。
「なにぃ!?」
「ビーダレーザーって、ビー玉じゃないじゃん!」
「いや、レーザーのための光集束レンズにビー玉を使用している」
「なるほど、それなら間接的にビー玉を使って発射していると言えるか……」
タケルは納得した。
「あのレーザーに物理的威力は皆無だが、アルティメットレジェンダーの内部機器を狂わせる事が出来る!」
シュンッ!!
ジェットブルードの一撃が、アルティメットレジェンダーにヒットした。
それによってアルティメットレジェンダーの動きが鈍る。
「よし、ヒットした!いいぞセイヤ!!」
「うん!」
しかし、カウンターの放たれたアルティメットレジェンダーのショットがジェットブルードにヒットし、バランスを崩して墜落した。
「あぁ!」
「ちっ!だが、奴の動きは封じた!落下した所を狙い撃つ……!」
アルティメットレジェンダーはフラフラしながらも、近くの川に落ちた。
「なにっ!」
「水の中に逃げられたんじゃ、さすがに厳しいな……!」
「こういう時こそ、あたいの出番だよ!」
コウミが自分の機体を取り出して、河の中に放り投げた。
「えぇ!?」
「あたいの愛機、マリンレッダーは潜水艦型。と言っても、水の中でビー玉は発射できないかビーダレーザーで足止めするくらいしか出来ないけどね!」

バシャッ!バシャッ!!
水の中で激しい攻防が繰り広げられているらしい。
が、シュウ達には水面の揺らぎでしかそれを確認する事が出来にない。

バシャァァァ!!!
そしてついに中から機体が飛び出した。それはアルティメットレジェンダーだった。近くの森林公園へ飛び立っていった。
一方のマリンレッダーはプカァと力尽きて浮いている。
「マリンレッダー!」
「ちっ、森の中に逃げたか……!コウミ!俺達は奴を追う、機体を回収したらすぐに来い!」
「分かったよ!」
ハクラ達はアルティメットレジェンダーの後を追った。
「俺達も行こう!」
シュウ達もそれに続く。

森林の路面状況は酷いものだった。
それでもアルティメットレジェンダーは飛ぶ力を失ったのか、地を走っている。
荒れた路面なのにかなりのスピードだ。
「あの機体はオフロードにも対応しているのか……!」
「……ここじゃ、オンロード向けの俺達では走れないな」
「どうした?手詰まりか?」
シュウが挑発する。
「オラに任せるんだな!」
キイトが、一際大きなビーダファイターを取り出した。
「いけっ!ビルドイエーガー!!」
ブルドーザーのような巨大な機体は、走るたびに障害物を押しのけて整地していった。
「オラのビルドイエーガーは建機型!ビー玉発射能力低いけど、他のビーダファイターのために道を作るんだな!」
「その後に続くのは私です!ランドグリーバー!!」
整地されたとは言え、まだ荒れている路面をキャタピラを装備した戦車型のランドグリーバーが続く。
「戦車型のランドグリーバーは砲身も上下左右自由に動かせます。ビルドイエーガーの陰に隠れていても攻撃は可能!」
ドンッ!ドンッ!!!
弧を描くようにランドグリーバーのショットがアルティメットレジェンダーを襲う。
「させるかっ!」
「おう!!」
シュウ、タケル、ヒロト、琴音の四人はそのショットを撃ち落とし始めた。
「こら、てめぇら邪魔すんじゃねぇ!!」
「うるせぇ!お前らこそ攻撃をやめろ!!」
二人はいがみ合う。
「先にてめぇらからブッ潰す必要がありそうだな……!」
「へっ!お前らなんかに負けるかよ……!」
「喧嘩している場合じゃありません!見てください!!」
シュウ達が食い止めたおかげか、アルティメットレジェンダーは森を抜けて再び温泉街の方へ向かっていった。
「あぁ、もうまたふりだしかよ!!」

温泉街を、アルティメットレジェンダーが爆走する。
「待ちやがれぇぇ!!」
その後をホワイターとブラッカーが追いかける。
「ブッ潰す!!」
ズドドドド!!
「させるかっ!」
ホワイターとブラッカーのショットをシュウ達が食い止める。
「なんなんだよ!いい加減しつこいんだよ!!」
「うるせぇ!ビーダマンを壊すのを黙って見てられるか!」
「邪神を放っておいたら、世界が滅ぶんだよ!一族を滅ぼされた俺達の苦しみが、お前に分かるのか!?」
「あいつはそんなんじゃねぇよ!戦った俺だから分かる!それに、お前らだってあいつが一族を滅ぼしたところをその目でみたのか!?」
シュウに言われ、ハクラ達はグッと顔を顰めた。
「俺は、俺の目で見た事を信じてるんだ!あいつはただバトルがしたいだけだ!だから俺はあいつとの決着をつけたい!ただそれだけだ!!」
「お前に……分かるのかよ……俺達の苦しみが……!」
ハクラが、込み上げる想いを押し込めながら声を絞り出した。
「確かに俺達に、邪神に関する確かな情報は無い。だが、先祖代々、憎しみだけを伝えられてきた……それだけを信じるしかなかったんだ!!」
ハクラの目が、鋭く変わる。
「俺は奴が憎い!その憎しみを糧に生きてきた!!そうするしかなかった!!!だから、破壊する!この憎しみから解放されるために!!!」
「ハクラ……!」
本当に憎いわけでは無い。ただ、そう教えられてきただけ。
でも、それがいつしか本当の感情になってしまった。偽りの感情に支配された人生から解放されるためには、憎しみの対象を消すしかない。
彼らの行動の本当の原動力はそれなのかもしれない。

「うわあああああああああ!!!!!」
ハクラの憎しみに反応したのか、ホワイターが急激に加速し、アルティメットレジェンダーにぶつかった。
ガキンッ!!!
「潰す!潰す!潰す潰す潰す!!!」
その時だった。
神々しく輝いていたアルティメットレジェンダーは、まるでハクラの憎しみが映ったかのようにどす黒く変色した。
「アルティメットレジェンダーの色が……?」
その瞬間、どす黒いオーラを放ち、その衝撃波がシュウ達を弾き飛ばした。
「「「「うわあああああ!!!」」」」
地面に倒れるシュウ達。
そして、アルティメットレジェンダーはビー玉を乱射しながら暴走していった。
ドンッ!バキィィ!!
そのショットはあらゆるものを砕き、美しい温泉街を破壊している。
そして、アルティメットレジェンダーは破壊を続けながら走り去って行った。
「な、なんだ……急にどうしたんだ?」
「つ、ついに本性を現したか、邪神め……!」
邪神として相応しい行動を始めたアルティメットレジェンダーに、宝玉族達は憎しみを露わにした。
「それに見ろ!お前達が邪魔をしたせいで、邪神が覚醒し、この世が破滅してしまう!」
「そ、そんな……」
「アルティメットレジェンダーが邪神なのは、本当だったの……?」
さすがにあの行動を見てしまっては、信じざるを得ない。アルティメットレジェンダーは邪神だった。
そして、自分たちのせいでその邪神がこの街を滅ぼしてしまうかもしれない。
シュウ達にドッと罪悪感が襲った。
「それは違うぞぃ」
そこへ、智蔵がゆっくりと歩いてきた。
「じ、じいちゃん……」
智蔵の手には古い文献が握られている。
「宝玉館と言う資料館で神器についてずっと調べとったんじゃ。それで分かった事がある。神器は、純粋な力と想いの塊に過ぎん。
しかし、純粋ゆえに人の心に左右される。善なる心で接していれば守護神となる」
「な、なにっ!?」
智蔵の言う事が信じられず、ハクラは文献をひったくった。
「……!」
ハクラ達はその文献を見て、驚愕した。自分達が伝えられて事と、微妙に差異がある事に。
「じゃあ、なぜ邪神は、我等の部族を滅ぼしたんだ……?」
「邪悪な心が近づけば、機体も邪悪に支配され、破壊神となる。一族が滅びたのは、邪悪な心を持った人間が神器を悪用しようと近づいたからじゃな」
「……悪いのは、神器じゃなく、我々人間の方だったと言うのか……」
真実を知り、ハクラ達は言葉を失った。
「って事は、最初にアルティメットレジェンダーがバトル好きだったのって」
タケルが言うと、智蔵がすぐに答えた。
「シュウの影響じゃな」
「なるほど」
その答えには大いに納得だ。
「って事は、俺がずっと傍にいれば、ずっとバトルが出来るって事か!」
シュウは能天気にそんな事を言う。
「まぁ、そう言う事じゃな。が、今はそうも言ってられんな」
「え?」
「一度邪悪な心に支配された状態で、走り去ってしまった。わしらの及ばぬ所で破壊活動をされてはな……」
智蔵が悲痛な声で言うと、ハクラが言葉を発した。
「こうなったのは、俺達の責任。なんとしてでも被害が少ないうちにあれを破壊する」
「な、なに言ってんだよ!?」
「邪神認識して襲った事は悪かった!だが、こうなった以上はもう手遅れだ!やっぱり破壊するしかない!!」
「ふざけんなよ!人間の都合で勝手に邪神にしておいて、勝手に破壊するなんて、あんまりだろ!!」
「だが、だからって放っておけるものじゃないだろ!!」
そう言いかえしたハクラの目には涙が溜まっていた。
「ハクラ……」
「シュウ。悔しいが、ハクラの言うとおりだ。ああなった以上は、バトルの決着に拘っている場合じゃない」
「……だけど。あいつは何も悪くないのに、ただバトルがしたかっただけなのに……なのに勝手に悪い奴にさせられて、破壊されるなんて可哀相すぎるだろ……!」
シュウは拳を握りしめながら悔しそうに呟いた。

「方法ならあるだろ」
ここでヒロトが口を開いた。
「え?」
「追いかけて言った所で後手に回るだけだ。だったら、餌を用意しておびき出せばいい」
「餌って……?」
「お前みたいなバトルバカが最も好む餌だ」
そう言って、ヒロトはフッと笑った。
「???」

そして、最初の広場に戻り、リカも呼び。
仲良しファイトクラブと宝玉族が対峙した。
「ヒロト、ほんとにこの方法で良いのか?」
「確証はない。が、今できる最善手である事に代わりは無い」
「で、なんで俺達までこんな茶番に付き合わなきゃならねぇんだ?」
ハクラが文句を言う。
「責任を感じているんだろ?だったら付き合え」
ヒロトは鋭く反論すると、ハクラは何も言えなくなった。
「ま、まぁ、彼らの言う作戦も一理ありそうですしね。付き合いますよ」
「……悪くは無い策だ」
「ちぇっ」
「そ、それに、ビーダファイターで競技をするなんて初めてだからちょっとワクワクするかも」
セイヤが心なしか楽しそうに言った。
「なんだよ、お前らバトルした事ないの?」
「悪いか?俺達にとってはビーダファイターは邪神を破壊するための武器だったんだ。そのための訓練はしても、それで勝負するなんて考えた事もない」
「そっかぁ。へへ……!」
シュウが小さく笑う。
「なんだ?」
「いや。だったら楽しみにしてな!アルティメットレジェンダーの気持ちが分かるぜ!」
「……まぁいい。とっとと始めろ!!」
「う、うん。それじゃあルール説明ね!ルールは、シャドウヒットバトル特別版!
宝玉族達は、仲良しファイトクラブに着けたシャドウボムを一発当てればOK。仲良しファイトクラブはビーダファイターに括り付けた紙風船に一発当てれば破裂するから。
各チームの全員のボムを破壊した時点でバトル終了!生き残っているビーダーのチームの勝ちよ!」
彩音がルール説明をする。
「おっしゃ、やってやるぜ!」
「シュウ先輩、ガツーンとやっちゃってください!!」
「任せろ!!」

「あたいらはビー玉発射できないから応援に回るよ!」
「が、頑張ってね、ハクラ!コクリ!リョクエン!キイト!」
宝玉族のコウミとセイヤはビーダレーザーしか発射できないので不参加のようだ。

「それじゃあ行くよ。レディ、ビー・ファイトォ!!」
彩音の合図で一斉に動き出した。
「うおおおおお!!勝負だハクラ!!」
「負けるかよぉぉ!!!」
早速シュウとハクラが激しくぶつかり合う。
ドギュドギュドギュッ!!
シュウのパワーショットをホワイターが猛スピードで躱す。
「はぇぇ!!」
「これがビーダファイターのスピードだ!!フルカウルボディは空気抵抗が低いから、最高速が速い!そして、その勢いからの……!!」
ドンッ!!
ホワイターが走りながら、その勢いでショットを放った。
「くっ!威力も高いのか……!」
一方、コクリと戦っているのはヒロトだ。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
ズドドドド!!!
凄まじい乱射で弾幕を張るヒロトだが、ブラッカーはその間をすり抜けていく。
「すばしっこい奴だ……!」
「……ネイキッドタイプのブラッカーは旋回性が高い」
「らしいな。剥き出しになったタイヤが強力なダウンフォースを発生させている。その分空気抵抗が高いからスピードは劣るが、この敏捷性は厄介だな……!」

リョクエンと戦っているのはタケルだ。
ドンッ!ドンッ!!
「いきますよ!!」
「はぁぁぁ!!」
ランドグリーバーとタケルはその場にとどまり、パワーショット対決をしている。
「このショット……!戦車みたいにどっしりしたボディだから、反動を気にせずにパワーショットを放てるわけか……!」
タタッ!!
タケルは、少し場所を移動しながら撃つが、グリーバーは砲身を自在に動かす事でそれに対応する。
「機動力は低いが、砲身の自由度がそれを補っている!場所を移動しなくてもどこでも狙えるってわけか!」
「その通りです。見事な分析力ですね」

キイトと戦っているのは琴音だ。
「オラ、こんな可愛い娘と戦えて、嬉しいんだな!」
キイトはニタニタと気持ち悪く笑った。
「うわっ、きも……でも、あのどっしりした機体は厄介ね……!」
ポスッ!ポスッ!
ビルドイエーガーから発射されるビー玉は弱い。が
「いけっ!!」
ガキンッ!!
琴音のショットはビルドイエーガーのブレードによって弾かれてしまう。
「防御力がスゴイ……!」
「ぐへへへ、効かないんだなぁ」
「うぅ、キモい!」
「隙ありなんだな!」
ポスッ……!
キモがっている琴音へ、超弱ショットが転がってきてボムに命中した。
「あっ!」
琴音のボムは無残にも撃破された。
「琴音ちゃん、アウト!」
彩音が宣言する。
「うぅぅ……」
「勝ったんだなぁ!琴音たんに勝ったんだな!」
喜ぶキイトの所へ、一発の流れ弾が飛んできて、ビルドイエーガーのボムに命中した。
「キイト君、アウト!」
「んがっ!」
「悪いな、油断するからだ」
「……俺と互角に立ち合いながら別のターゲットにもヒットさせるとは、強い」
「俺の得意技は乱射による広範囲攻撃。一度に複数を狙うのは十八番だ」
「だが、油断した」
ズドドドド!!!
コクリの攻撃がヒロトのボムに迫る。
「ちっ!この隙はデカいか!!」
が、ヒロトも負けじとコクリのボムを狙い撃つ。
ババーーーーン!!
二人のボムが同時に撃破された。
「ヒロト君とコクリ君、同時アウト!」
「ちっ、相打ちか」
「……お前、強い。なかなか良かった」
「ふん」

タケルとリョクエンのバトルは、単純な力比べに発展していた。
「いっけぇ!ボールドレックス!!」
「頑張ってください!ランドグリーバー!!」
ドンッ!ドンッ!!
パワーショットが何発も相殺される。
「こうなったら、アレを使うか……!」
タケルがメタル弾とドライブ弾をセットした。
「グランドプレッシャー!!」
オプチカルボードを出現させて、グランドプレッシャーを二連発。
前を行くメタル弾にドライブ弾が命中、その反発でメタル弾を加速させた。
「喰らえ!俺の究極奥義……ヘヴィダイノクラッシャーーーー!!!」
ズバァァァァァ!!!
「な、なんですか、このショットは!?」
そのパワーの前にはなすすべなく、ランドグリーバーのボムは撃破されてしまった。
「リョクエン君、アウト!!」

「さすが、バトルのプロは違いますね。でも、楽しかったですよ」
「おう!」

そして、タケルはハクラと激闘しているシュウの元へやってきた。
「シュウ、加勢するぞ!」
「タケル!」
タケルはシュウと並んでホワイターを狙う。
「ちぃ、俺以外の奴らは皆やられたのかよ!!」
二人分のショットを、ハクラは必死で捌く。
「タケル。ここは俺一人でやらせてくれ」
「え?」
「俺一人で、あいつとガチでやりたいんだ」
シュウはハクラを見据えた。
「お前……」
ハクラはシュウを見つめ返した。
「……分かった。精一杯やれ」
シュウの気持ちを察したタケルは、自分で自分のボムを撃った。

「タケル君、アウト!!」

「うぇ!?いや、タケル!別にボム撃たなくても……!」
タケルの行動にシュウは吃驚した。
「え?いや、一騎打ちがしたいんだろ?」
「だからって、何も自分からアウトになる事ないだろぉ!」
「なんだ?自信が無いのか?」
ハクラが挑発する。
「な!んなわきゃねぇだろ!!お前なんか、俺一人で十分だ!」
「上等!!」
ハクラとシュウの戦いは更に激しさを増した。

ズバババババ!!!
ビー玉とビー玉がぶつかりあい、火花を散らす。
「へっ、なんだか、妙な気分だぜ!」
「え?」
「俺はずっと憎しみの中でビーダファイターを動かしてきた。だが、こんな熱くて気持ちいい気分でこいつを走らせるのは初めてだ!悪くないな、こういうの」
「ははっ!これがバトルだぜ!」
「そうか。お前らはずっとこうやってきたのか……お前らといて神器が邪神化しなかったわけだな」
ハクラは少し悔しげに呟いた。
シュウ達と近くにいたアルティメットレジェンダーは邪神化せず。
正義の行いをしていたと思っていた自分たちはアルティメットレジェンダーを邪神化させてしまった。
その事が、皮肉に感じられたのだ。
「お前だって、今は俺達と同じだぜ!」
シュウの言葉に、ハクラは顔を上げる。
「あぁ、そうかもな!」
そして、二人が向き直る。
「さて、これで最後の勝負と行こうぜ!」
「おお!!」
二人が、パワーショットの構えをとる。
「いけぇ!!アクセルホワイター!!」
ドンッ!!
アクセルホワイターからパワーショットが放たれた。
「うおおおおおおおお!!!」
ドンッ!!
ビクトリーブレイグも強力なシメ撃ちが放たれる。

二つのショットは交差し、それぞれのボムへ飛んでいく。

バーーーーーン!!!
ほぼ同時に二つのボムが撃破された。
しかし、結果は……。
「両者ともにアウト!だけど結果は……」
「俺の負けだな……」
彩音が言う前に、ハクラが潔く負けを認めた。
「ほんの僅かに、俺のボムの方が早く撃たれていた」
ハクラは悔しそうに空を仰いだ。
「あー、参った参った。ちくしょう……でも、不思議と嫌な気はしないな」
「ハクラ……」
「次やる時は負けねぇぞ」
「あぁ、いつでもこい!!」
シュウとハクラはガキンッ!と拳を合わせた。

その時だった。
「あ、き、来ましたよっ!!」
リカが広場の入り口を指差しながら叫ぶ。
そこには、未だどす黒いオーラを放っているアルティメットレジェンダーがいた。

「よし、ビンゴだ!」
ヒロトがほくそ笑む。
「よっしゃぁ!じいちゃん!!」
「任せんさい!」
じいちゃんが、バトルフィールドの準備をする。
アルティメットレジェンダーと戦った時と同じものだ。
「さぁ来いよ、アルティメットレジェンダー!また俺と戦おうぜ!!」
フルパワープッシュの台に着き、シュウが誘う。
が、アルティメットレジェンダーはどす黒いオーラのまま、動かない。
「だ、だいじょうぶ、でしょうか……?」
リカが、少しビビりながら心配そうに呟いた。
「大丈夫よ。シュウ君ならきっとアルティメットレジェンダーの心を開ける」
「ああ。ここに来たって事は、バトルをしたがってるって事だからな」
タケル達はシュウを信じて、固唾を呑んで見守った。

「決着がつけられなくて、お前もモヤモヤしてんだろ!さぁ、あの続きやろうぜ!!」
シュウが誘うと、アルティメットレジェンダーはバッとシュウの方へ飛び出してきた。
「動いたっ!あいつを襲おうと……!」
ハクラが反応する。一瞬、アルティメットレジェンダーがシュウを襲おうとしているように見えた。
「いえ、よく見てください!」
しかし、リョクエンが指差す。
アルティメットレジェンダーは、一瞬シュウへ向かって飛び立ったが、すぐに方向転換して反対側の陣地に着地した。
「へっ、やる気満々だな……!」
「よし、シュウ!俺が合図するぞ!」
「頼むぜ、タケル!」
タケルがフィールドの横に着いた。
「それじゃ、フルパワープッシュ!レディ、ビー・ファイトォ!!」

「連戦だけど頼むぜブレイグ!!」
ドンッ!!!
さっそくブレイグが二連射して真ん中のバーを押し込んだ。
負けじとアルティメットレジェンダーが右端のバーを押し込む。

「最終的に撃ち合いになれば俺達が勝てるんだ!今は狙ってない側のバーを狙うぞ!!」
そしてシュウは左端のバーを狙い、アルティメットレジェンダーは一つ右のバーを狙った。

「両者ともに2vs2!残り一つのバーを押し込んだ方の勝利だ!!」

「おっしゃぁ、ここからがガチンコだぜ!アルティメットレジェンダー!!」
ズババババババ!!!!
残り一つのバーをかけて、シュウとアルティメットレジェンダーが激突する。
その激突の中、徐々にどす黒いオーラが晴れていく。

それを見ていた宝玉族達は思った。
「なんかさ……邪神、いや、アルティメットレジェンダーの奴。どこか楽しそうだな」
「それはあたいも思った」
「き、きっと、僕達と同じなんだ。初めてのバトルが、とっても楽しいんだよ」
「そうですね。それは私も先ほど感じました」
「黒いオーラも、どんどんなくなっていくんだな!」

そして、バトルもそろそろ終盤だ。
「いくぜ、ブレイグ!!」
ガクガクガク!!!
ブレイグのエアリアルバイザーが振動しはじめた。
「メタル弾セット!いっけぇ、スーパーフェイタルストーム!!!」
ドンッ!!
空気の膜を纏ったメタル弾がブッ飛ぶ。
ガガガガガガ!!!!
アルティメットレジェンダーも必死で応戦するが、シュウの究極技の前にはどうしようもなかった。

バーーーーーン!!!!
バーが押し込まれ、衝撃波が発生する。と同時にアルティメットレジェンダーの黒いオーラは完全に吹き飛んでしまった。

「バトル終了!勝者、シュウ!!」
「おっしゃぁ!!!」
飛び上がって喜ぶシュウ。
しかし、目の前のアルティメットレジェンダーが輝きを失い、動きが止まっている事に気付いた。
「レジェンダー!!」
慌てて駆け寄るシュウ。
「ど、どうしたんだ?まさか、今の衝撃で壊れたのか……!」
彩音が機体を見てみる。
「ううん。どこも壊れてない。多分、力を使い果たしただけじゃないかな。あれだけ激しいバトルをしたんだから」
「そっか、よかった……」
「でもなんだか、遊び疲れて眠っている子供みたいです」
リカが笑いながら言った。
「確かに、そうかもな。あははは!!」
アルティメットレジェンダーの姿が微笑ましく見えて、一同軽く笑い合った。
しばらくして……。
「それじゃあ、こいつは俺達が責任を持って引き取る」
アルティメットレジェンダーを手に取り、ハクラ達はその場を去ろうとする。
「なぁ、お前らは、これからどうするんだ?」
去っていこうとする宝玉族へ、シュウが訪ねた。
ハクラは、少し考えてから答えた。
「……俺達は、邪神を破壊するために。そのためだけに生きてきた」
ハクラの口調は重々しかった。
「だが、その目標は、無くなってしまった……」
「ハクラ……」
「新たな目標は出来たがな」
そう言ったハクラ達の表情は爽やかだった。
「え?」
「俺達は、お前達にリベンジするため、里に戻ってまた一から鍛え直す。この、アルティメットレジェンダーと一緒にな」
ハクラは手に持ったアルティメットレジェンダーを見せながら、笑顔で答えた。
「ハクラ……!おう、待ってるぜ!!」
再戦を誓い、仲良しファイトクラブと宝玉族は固い握手を交わし、芽生えた友情を確かめ合うのだった。

       完

 

 

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