オリジナルビーダマン物語 大長編2 中編

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


大長編2「爆走外伝!アルティメットレジェンダー」中編

 

 そうして、シュウ達は店を出て旅館へ向かった。
石段の街並みを楽しみながらも、頭の中はアルティメットレジェンダーの事でいっぱいだった。

 旅館に着いてからは、昼ごはんに水沢うどんをいただき。
 お腹も満たされた所で、温泉に入る事にした。
 シュウは早速パーツ集めに出かけたかったようだが。メインはあくまで慰安だ。
 ゆっくり温泉に浸かってから、後で探索をしようと言う事になった。

 旅館備え付けの露天風呂は、ほぼ貸切状態だった。
 濛々と湧き上がる湯気の中、シュウとタケル、ヒロトの三人がのんびりと岩でできた湯船の中に入っている。
「ふぅぅぅぅ~~~、身体の芯から暖まるなぁぁぁぁぁ」
 湯船に浸かるなり、タケルは深く、深く息を吐いた。
「タケル、オヤジ臭い……」
「しょうがねぇだろ。南極行ってから久々にこんなに温まったんだ。堪能させろぃ」
 言いながら、タケルは至福の表情で顎まで浸かった。
「この湯の効能は、腕や指先の筋肉を解すらしいな。ビーダマンにはピッタリだ」
 ヒロトは傍にある看板に書かれている文字を読んでいる。
「それにしても、俺達以外に誰もいないってのは凄いな。温泉どころか旅館そのものが貸切なんだろ?」
「ああ。チケットにはそう書かれてた。『ゴールドプラチナチケット』?とか」
「旅館を貸しきりにするほどのチケットか……一体どれほどの価値があるんだ?って言うか、そんなチケットを賞品に出来る爆球商店街ってよっぽど儲かってんのか?」
 謎は尽きない。
「まっ、なんでもいいじゃん!」
 言いながら、シュウはバシャバシャと泳ぎ始めた。
「こらシュウ!風呂で泳ぐな!」
「誰もいないんだから良いだろぉ~!あ、そだ!」
 良いながら、どこに持っていたのか、ブレイグを取り出して湯船に向かってショットを放った。

 バシャァァァァ!!!
 激しいお湯しぶきが湧き上がる。
「おっほぉぉ!!お湯に向かって撃つとこんな感じなんだなぁ!!」
「おまえ、こんなところまでビーダマン持ってきてんのかよ。温泉汚すなよ」
「エコビー玉だから、平気だって!ブレイグも湯船に入れる前にしっかり洗ったし!」
「だからってなぁ……」
 タケルはさすがにあきれてものも言えないようだ。
「なんだ、タケルは持ってきてないのか?」
 と、言いながらヒロトはポーカーフェイスのままヴェルディルを持っていた。
「ヒロトさんまで……と言いつつ、まぁ、俺も持ってきてるわけだが」
 おずおずと、実は隠し持っていたレックスを取り出した。
「なんだよ、タケルも人の事言えないじゃんか~!」
「うるせぇ!こうなったらヤケだ!!」
「おう!温泉ビーダマンバトルだ!」
「受けて立つ」
 三人はバシャバシャとビーダマンを使ってはしゃぎまくった。

 竹で出来た塀を挟んだ向こう側は女湯になっている。
 女湯と男湯は、湯船は共通なのだが、壁一枚で隔たっているだけだ。
 騒がしい男湯とは対照的に、女湯は比較的静かに女性陣3人が湯船に浸かっている。

「男湯の方、騒がしいわね~」
 音が聞こえてくる塀の方を睨みながら、琴音がぼやく。
「まぁまぁ。貸切みたいになってるから、しょうがないよ」
「シュウ先輩たち楽しそうです~!やっぱり私もそっちに……!」
 リカが湯船から上がって男湯の方に行こうとする。
「あんたはこっち!」
 それを琴音ががっしりと止めた。
「あ~ん、琴音先輩離してください~!!女には、行かなければならない時があるんですよぉ!!」
「それは間違いなく、今でもなければここでもない!!」
 ワタワタするリカを琴音は必死に喰いとめている。
「あ、あはは……」
 彩音は苦笑しながら見守っているしかなかった。
「キャッ!」
 滑りやすい湯船で押し問答していたもんだから、二人は足を滑らせて後頭部からダイブしてしまう。
「あぶないっ!」
 ふよん……。
 が、二人の頭は無事だった。
「いたたた……もぅ、琴音先輩が引っ張るから」
「あんたのせいでしょ……こんな所で頭打ったら怪我じゃ済まないよ」
「でも、丁度良い所にクッションが合ってよかったですぅ」
「そうね。ちょうどよく……って」
 琴音とリカは、自分たちを助けたクッションの正体に気付いた。
「あ、あの、二人とも……」
 二人の後ろから彩音の声が聞こえる。
「お姉ちゃん……」
「彩音先輩……」
 二人がゆっくりと振り返る。
 目の前で、怪しい目つきの二人に見つめられ、彩音は困惑した。
「だ、大丈夫、かな?怪我がないならそろそろ離れてほしいんだけど……」
「……」
「……」
「な、なんでそんな目をしているの?やっぱり頭打ったのかなぁ……?」」
 彩音は二人を刺激しないように慎重に話しかける。が、その声は届いていないようだ。
「大きくなってる」
「ますね……」
 二人はブツブツと会話している。その声は小さすぎて一部しか聞こえない。
「え、えっと……」
「お姉ちゃん……」
「彩音先輩……」
 気付くと、二人の手つきがうねうねと動いていた。
「え、なに、なにその手つき!?ねぇ、ちょっとや、やめようよ……!」
 その後、すぐに彩音の悲鳴が響き渡った。
 一方の男湯。
 温泉ビーダマンバトルは熾烈を極めていた。
「なんか聞こえたか……?」
 かすかに聞こえた女性の悲鳴に、シュウの動きが止まる。
「油断してていいのか?!」
 ドンッ!!
 ボールドレックスのパワーショットが襲い掛かる。
「くそっ!」
 シュウは慌ててそのショットを撃ち落とした。
「くぅぅ!やるな、タケル!!強度だけじゃなくて、パワーも上がってるのか!!」
「予選落ちしたからって、ボールドレックスの力を舐めるなよ」
 タケルの新型機、ボールドレックスのパワーはやはり凄い。
「だが、まだまだ甘いぞ!!」
 隙を突いてヒロトの連射が襲い掛かる。
「どわわわわ!」
 ババーーーン!!
 シュウとタケルのシャドウボムがヒロトによって撃破された。
「負けたーーー!!」
「さすがヒロトさんだ……」
 シュウとタケルはがっくりとうなだれた。
「せっかくの性能も、活かさなくては意味が無いぞ」
「た、たまたま勝っただけで偉そうに……!」
 シュウの言葉に、ヒロトの眉がピクッと動いた。
「たまたま、だと……!」
「そうだ!たまたまだ!偶然だ!!次やったら絶対俺が勝つー!」
「ふん、ならばもう一回戦だ。たまたまじゃないところをとことん教えてやる」
「おう!!」

 カッ!!
 その時だった。
 シュウの股間辺りが、淡く黄色く輝き始めたのだ。
「シュ、シュウ……お前の金のたまたまが光ってるぞ?」
 タケルがそれを指差した事でシュウはそれに気づいた。
「うぇっ!?」
 慌てて飛び上がるシュウ。
「おまっ、まさか洩らしたのか……!?」
 ヒロトはシュウから一瞬で1mくらい離れる。
「んなわけあるかっ!!……って、なんだ。光ってたのは俺の玉じゃなくて、アルティメットレジェンダーじゃん」
 シュウは股間からアルティメットレジェンダーを取り出した。
「おまっ、伝説のビーダマンをどこに仕舞ってんだよ!?」
「ここだったら盗られる心配は無いからなっ!」
 何故かシュウは胸を張った。
「でも、なんで光り出したんだ?」
「もしかしたら、何かに反応しているのかもしれないな」
 ヒロトが冷静に分析する。
「確かに……!えっと……!」
 シュウはキョロキョロと辺りを見回した。
「あ、あった!」
 そして見つけた。
 お湯を出しているライオン像の口。あの奥が淡く輝いているのだ。
「ん~、なんかあの奥にボタンみたいなものがあるぞ……!」
 勢いよく出ているお湯によって遮られているが、像の喉の奥に微かに赤い円形のボタンが見える。
「大きさは大体20㎜と言った所か。ビー玉よりも気持ち大きいくらいだな」
「あのボタンはアルティメットレジェンダーと同じ光を放ってる。あれをビー玉で撃てば、パーツが手に入るかもしれない!」
 シュウは早速ブレイグを構え、ライオンの口目掛けてショットを放った。
 しかし、水圧に押されてショットが届かない。
「くそっ!ブレイグのパワーでもダメかっ!!」
「シュウ、ここは俺に任せろ」
 今度はボールドレックスを構えたタケルが前に出る。
「いけっ!」
 ドンッ!!
 ドライブショットが水圧に負けずに駆け上がる。
「おぉすげぇ!!」
「ドライブショットか……!馬力が必要な場面ならレックスの方が有利だな」
 流れに逆らって進んでいくビー玉は、さながら鯉の滝登りだ。
「駆け上がれ!!」
 しかし、さすがのレックスのショットも水圧に負けて徐々に勢いが落ちていく。ボタンまでは届かない。
「あぁ、やっぱりダメか!?」
「まだまだぁ!!」
 ドンッ!!
 タケルは更にその後にグランドプレッシャーを放った。
 ガキンッ!!
 勢いが落ちた前のビー玉にそれがヒットする。
「やれっ!俺の最大奥義!ダイノクラッシャーーーー!!!!」
 バシュウウウウ!!!!
 二つのショットの反発によって凄まじい衝撃波が生まれる。
 それが水を弾き飛ばしながら、喉奥のボタンに見事ヒットした。

 バシュンッ!!
「おっしゃぁ!!!!」
 その瞬間、ライオン像が輝きを増し、後頭部から金色のパーツが飛び出した。
「あ、やっぱりアルティメットレジェンダーのパーツ!」
 バイザーのようなパーツがアルティメットレジェンダーの頭部に装着される。
「すげぇ、カッコいい!」
「これで、アームとヘッドのアーマーが揃ったか。あとはフットパーツだな」
「なんか楽勝で見つかりそうだよな!はっはっは!!」
「いや、油断するなシュウ!変な音が聞こえるぞ……!」
 タケルに言われ、シュウ達は耳を澄ました。

 どこからか、ゴゴゴゴ……!と言う地響きのような音が聞こえてきた。
 と同時に、ここら一帯がいきなり揺れ始めた。
「うわぁ、じ、地震か!?」
「いや、これはあのボタンの仕掛けかもしれない!ふせろ!!」
 バッ!!
 シュウ達は身体を屈めて頭を低くした。
「な、何が起こるんだ……!」
 ザバァァァ!!!
 温泉のお湯が一気に引いていき、そして敷居の塀が下がっていく。
 その塀が立っていた場所に、人一人入れるくらいの大きさの穴があった。
「あ、穴だ!奥に続いてるぞ!タケル、ヒロト!もしかしたらこの先にフットパーツがあるのかも……!」
 シュウが嬉々としてタケル達に振り返った。
 が、タケルとヒロトはポカンとしていた。
「へ?」
 ゆっくりと、タケル達の視線を追っていくと。
 そこにいたのは、塀が無くなった事によって露わになった女性陣だった。
 産まれたままの姿で両陣が対面する。
「きゃあああああああ!!!」
「おわあああああああ!!!」
 ワンテンポ遅れ、両陣の悲鳴が挙がった。
 なんやかんやあって、とりあえずタオルで体を隠し、メンバー達は謎の洞穴へ侵入する。

「もう、あんたたちいきなり何やってんのよ!」
「俺達のせいじゃねぇよ!アルティメットレジェンダーが反応したからさ」
「そういう問題じゃないでしょ!温泉もめちゃくちゃにしちゃって、旅館の人になんて説明するのよ……」
 琴音があーだこーだ文句を垂れる。
「でもぉ、シュウ先輩にだったら私見られても……」
 リカが頬を染めながら体をくねらせる。
「あんたは黙ってなさい!!」
「は、ははは……」
「しかし、これだけ大掛かりな仕掛けが施されてたって事は、この旅館のオーナーもアルティメットレジェンダーについて一枚噛んでいる可能性が高いな」
 タケルの言う事ももっともだ。あとで従業員に話を聞いてみる必要がある。
「そうね。でも、もし関係ないんだとしたら……」
「器物損壊で、訴えられるかもな」
「だ、大丈夫かなぁ……」
 彩音は、自分たちが犯罪まがいの事をしているんじゃないかと、その事が気になった。
 しばらく進んでいくと、行き止まりになった。
 が、行き止まりの岩壁の前に玉座のような台。そしてその上に全長全幅10㎝程度の小さな箱が置かれていた。
「これは、またベタな宝箱だな」
「でも、きっとこの中にアルティメットレジェンダーのパーツが入ってるんだぜ!」
 ダッ!
 シュウが駆け出してその箱に手を伸ばす。
 その瞬間、箱が怪しく光ったかと思ったらバッと飛び上がってシュウの手から逃げた。
「なにっ!」
「箱が浮いた!?」
「どうやら、あれで間違いないようだな。撃ち落とすぞ、琴音!」
 ヒロトが琴音に合図する。
「うん!」
 琴音もすぐにヒロトの支持を察する。
「いくぞ、ヴェルディル!!」
 ヒロトは素早くヴェルディルを構えて箱目掛けてショットを放つ。
 バシュッ!バシュッ!!
 しかし、浮遊する箱は素早く、なかなか当たらない。
「やはり、まずは逃げ場をなくす必要があるな……!」
 ヒロトは、グルグルと腕を回転させ始めた。
「ジャンブル・ワルツ!!」
 ズババババババ!!!!
 四方八方へヴェルディルの乱射が襲い掛かる。
 しかし、箱は見事にその弾幕をすり抜けながら飛んでいく。
「まだまだぁぁ!!!」
 ヒロトのショットは続く。しかし、箱には当たらない。
「なんだよヒロトの奴。全然当たらないじゃん」
 シュウが言うと、琴音が何故か自信満々な表情で言う。
「まぁ、見てなさいって」
 そして、しばらくしてヒロトが叫んだ。
「今だ琴音!」
「オッケー!」
 バッ!!
 琴音が箱目掛けてグルムを構える。
「雷光一閃!!」
 ズバババババ!!!
 連射が一直線になって箱を襲う。
 箱がそのショットを避けるために動こうとしたが、自分の周りはどこを動いてもヒロトの作った弾幕が張られている事に気付いた。
 バゴンッ!!!
 なすすべなく、箱は琴音の連射を受けてしまった。
「やった!」
「良いぞ、琴音。反応速度は前よりも上がっているな」
「うん!ありがとう、ヒロ兄!」
 パンッ!とヒロトと琴音がハイタッチした。
「なるほど、ヒロトさんの乱射で逃げ道を塞いで、琴音のコントロール連射でトドメ……か。いつの間にこんなコンビネーションプレイを」
 タケルが感心しながら解説する。
「へへーん!大会に出てなくても、あたし達だって成長してるんだからね!!」
 琴音が、バスタオルに包まれた慎ましやかな胸を張る。
「んな事より中身中身!!」
 シュウは早速、地面に落ちた箱を手に取って蓋を開けた。
 てっきり中に入っているのは、金色のアーマーパーツだと思った。しかし……。
「あれぇ?中にあるの、フットパーツっぽくないなぁ……」
「これは、アーマーと言うよりビーダマンを乗せる台座みたいだな」
 それはフット型の窪みがある台座のようなパーツで、裏にはタイヤのようなものが露出している。
「これにアルティメットレジェンダーを乗せれば、完成って事かな?」
 シュウはそう言いながら台座にアルティメットレジェンダーを乗せようとする。
「あ、待ってシュウ君!」
 寸での所で彩音が止めた。
「へ?」
「まずは、御師匠に知らせてからにしよう。何が起こるか分からないし」
「あ、そうだな!よし、とりあえずまずは連絡するか!」
 そう言って、シュウは元来た道を戻ろうとする。
「いや、その前にやる事があるだろ」
 タケルが、重々しい口調で言った。
「え?」
 タケルの言うやる事とは……。
「「「「すみませんでしたっっっっ!!!」」」」
 旅館のロビーで、仲良しファイトクラブのメンバー達は旅館オーナーの前で事情を話、頭を下げていた。
「いえいえ、良いんですよ。気になさらないでください」
 10代後半くらいの、若いお兄さんとお姉さんの二人はニコニコしており、全く怒っていない。
「で、でも、温泉滅茶苦茶にしちゃって……」
「あれは、ああいう仕様なんですよ!泊まりにいらっしゃるビーダー達に楽しんでもらうための、一種のアトラクションなんです」
 お姉さんがニコニコしながら説明した。
「あ、そうだったんですか。よかったぁ……」
 彩音がホッと一安心する。
(アトラクション、ねぇ……)
 が、ヒロトはそんなお兄さんお姉さんに胡散臭さを感じていた。
「ですから、お気になさらないでください。後片付けは私どもでやっておきますので!」
「あ、ありがとうございます!」
 一同は再び頭を下げた。
「ふふっ、楽しんでいただけましたか?」
「おう!なかなかスリルがあったぜ!」
「なら良かったです。引き続き、当旅館をお楽しみください」
 オーナー二人は深々と頭を下げた。
「はい。じゃあ俺達、失礼します」
 タケルが挨拶をして、メンバー達はその場を離れる事にした。

「ほんと、よかったぁ。何もなくて!」
「おっしゃ!じゃあ早速じいちゃんに連絡しようぜ!!早くアルティメットレジェンダーを完成させたいし!!」
 シュウ達はがやがやはしゃぎながら歩いて行った。

「……」
 オーナーのお兄さんはその後ろ姿をしばらくながめた後、ポケットからケータイを取り出した。
「見つかりましたよ、ハクラ。……えぇ、間違いないでしょう。……分かりました。引き続きコウミと共に監視の目を光らせます」
 電話を仕舞うと、お兄さんはお姉さんと顔を合わせ、目で何かの合図をした。

 旅館近くにある広場で、仲良しファイトクラブと智蔵が落ち合った。

「おお、お主たち!アルティメットレジェンダーのパーツが揃ったと言うのは本当かぇ!?」
 智蔵がやや興奮気味にシュウ達に駆け寄った。
「じいちゃん、あんまり慌てると血圧上がるぜ」
 シュウが呆れながら言う。
「世界最古のビーダマンが拝めるなら!今ここで血圧上がって死んでも本望じゃ!!ワシの最後の夢じゃからな!!ささっ、早く見せてくれんか!!」
「おう!」
 そう言って、シュウはアルティメットレジェンダーとさっき手に入れた台座をじいちゃんに見せた。
「こ、これが……!」
「多分、この台みたいなのを乗せれば完成だと思う」
「は、早く乗せんかい!!」
「せ、急かすなよ……!」
 シュウは智蔵に急かされるままアルティメットレジェンダーを台の上に乗せた。
 その時、カッ!!と言うまばゆい光に辺りが包まれ、シュウは吃驚してアルティメットレジェンダーを地面に落としてしまった。
「おわぁ!!」
 光りが収まり、シュウは慌ててアルティメットレジェンダーを拾おうとした。
「ちょっとシュウ何やってんのよ!」
「伝説のビーダマンだぞ!大事に扱えよ」
「わ、分かってるよ!」
 シュウが地面に落ちたアルティメットレジェンダーに手を伸ばそうとした時だった。
 シュッ……!
 アルティメットレジェンダーが自分から動き、シュウの手から逃れた。
「なにっ!?」
「こいつ、動くぞ……!」
「自分で動けるビーダマンなんて、聞いた事ないわよ……!?」
 口々に騒ぎ立てるメンバー達。
「ふむ、これこそが古来のビーダマン……いや、ビーダマンと言うより、ビー玉発射メカと言う事か」
「今のビーダマンは、手に持って戦う武器だが、昔は自走してたのか……」
「俺達のビーダマンとは、違うって事か?」
「そうじゃな。ワシは元々少ない文献を元にビーダマンを開発したんじゃ。構造に相違があっても不思議はないじゃろう」
 ジジッ……!
 アルティメットレジェンダーはしばらく大人しくしていたかと思ったら、シュウが手に持っていたブレイグ目掛けていきなりビー玉を放った。
「おわぁ!」
 間一髪でそれを躱す。
「いきなり何すんだこのやろう!!」
「ビーダマンに向かって何怒鳴ってんだよ……」
 タケルが呆れる。
「いや、だってこいつがいきなり……!」
 文句を垂れるシュウだが、アルティメットレジェンダーはなおもビー玉発射の構えを取っている。
「……」
 その姿を見て、シュウは何かを悟った。
「もしかしてお前、バトルしたいのか?」
 ジジッ……!
 シュウがそう問いかけると、アルティメットレジェンダーは頷く1回転した。
「そっか!よーし、じゃあ俺とバトルだ!!」
「バトルって、お前なぁ……」
「ビーダーもいないのに、ビーダマンと戦うの?」
「いいじゃねぇか!こいつは自分で動けるみたいだし、何より戦いたがってんだ!だったらバトルするしかねぇ!!」
 シュウがアルティメットレジェンダーに向かってブレイグを突き付ける。
「勝負だぜ、アルティメットレジェンダー!!」

「ふぉっふぉっふぉ!そう言う思うてな、既にバトルフィールドは準備済みじゃ!」
 何故か智蔵が張り切って言うと、懐から何かのスイッチを取り出して、ポチッと押した。
 すると、地面からゴゴゴゴゴ……!とバトルフィールドがせり上がってきた。
 パッと見、パワープッシュのような競技台だ。
「す、すげぇ!いつの間にこんな仕掛けを……!」
 シュウが目を輝かせる。
「暇だから作っとったんじゃ!」
「勝手にこんなの作って、怒られないか……?」
 タケルが若干引きながら言うと、智蔵は自信満々に答える。
「役所には許可を得ておる」
「抜け目ない。ってか、よく許可したな、その役所」
 さすがはグンマーである。
「ま、なんでもいいじゃん!とにかくバトルだぜ!!」
 シュウがバトルフィールドに着くと、アルティメットレジェンダーも飛び上がってシュウと反対側の陣地についた。
「へへっ、あいつもやる気満々だな……!」
 シュウとアルティメットレジェンダーが対峙する。
「ルールはパワープッシュじゃ!じゃが、通常よりもデカくて狙いやすくなっとる分、押し込むにはパワーが必要なフルパワーバージョンじゃ!」
「おっしゃぁ、俺の得意そうなルール!」
「ってか、あいつルール理解できてるのか?」
「そんなのやってみりゃ分かるって!んじゃ、タケル審判頼む!」
「あ、あぁ」
 タケルはすぐにフィールドの横に立った。

「シュウVSアルティメットレジェンダーのバトル!ルールはフルパワープッシュ!先に3本のバーを相手陣地に押し込んだ方の勝ちだ!
それじゃ、行くぞ!レディ、ビー・ファイトォ!!」
「いっけぇ!!」
 ドンッ!!
 シュウは早速真ん中のバーへショットをぶつけた。
 さすがのビクトリーブレイグは、一気に9割ほど押し込んだ。
「惜しい、あと一歩!!」
「相変わらず化け物みたいなパワーね……」
「あの重そうなバーを一撃であそこまで……」

 ドンッ!!
 同時にアルティメットレジェンダーのショットが火を吹く。
 ガキンッ!!
 シュウから見て一つ右のバーに命中。シュウ程のパワーは無いのか、4割程度しか押し込めていない。
「おっ、さすが伝説のビーダマン!なかなかのパワーだな!でも、パワーなら俺の方が……!」
 ドンッ!ドンッ!ドンッ!!!
 パワーでは劣るが、それを連射でカバーし、バーを見事押し込みつつ、先ほどシュウが押し込んだバーも押し返してきた。
「いぃぃ!?」

「動きが速いっ!!」
「人間が動かすんでなく、ビーダマンが直接動いとるんじゃ。反応速度は人間の比ではないと言う事か」
 智蔵が分析する。
「どうしたのシュウ~!ビーダマンに負けちゃうわよ~!」
 琴音が野次を飛ばす。
「う、うるへー!」
「シュウ先輩、負けないでください!!」
「分かってるよ!!」

 ドンッ!ドンッ!!
 シュウは必死で押し返した。
 撃ち合いならばシュウの方が有利だ。真ん中のバーを押し込んだ。
「よしっ!」
 しかし、その隙にアルティメットレジェンダーは、シュウから見て右端のバーを押し込み始めていた。
「やべっ!」
 シュウは慌てて右端のバーを押し込まれまいとショットを放つ。

「あの連射力と機動力、なかなかのものだな」
「うん。それに、普通のビーダマンバトルだと、ビーダーの表情や仕草である程度動きが読めるけど。ビーダマンが自走するこのバトルは相手の行動が読みづらい……。
シュウ君が苦戦しているのはそのためね」
「ビーダーがいない事が、ここまで脅威とは思わなかったな」

 バトルは一進一退の攻防。
 どちらが勝ってもおかしくない激しい戦いだった。
 だが、その時だった……。
 ドギュンッ!!!
 どこからか、一発のショットが撃ち込まれ、バトルフィールドにぶつかった。
 バーーーン!!!
 その衝撃で、パワープッシュの機能が停止する。
「なんだぁ!?」
 いきなりの出来事にシュウはブレイグを撃つのをやめた。
「バ、バトルは一旦中断だ!」
 タケルもバトルのストップを命じると、アルティメットレジェンダーは人の言葉が理解できるのか、動きを止めた。
「誰だっ!こんな事しやがったのは!!」
 シュウが怒鳴りながらビー玉が飛んできた方向を振り向くと、そこには6人の男女が立っていた。 

 白髪でツンツンヘアな男。
 少し萎れたロングヘアな気弱そうな少年。
 短髪で無表情な男。
 小太りでメガネをかけている少年
 長身で落ち着いた雰囲気の男。
 紅一点、クールで気が強そうなロングヘアの女。

 6人の男女は、民族衣装のような妙な格好をしている。
 そのうち、長身の男と気が強そうな女の顔には見覚えがあった。
「な、なんだよ、お前ら……!」
「あ、あれ?あの人って旅館の人じゃ……?」
 温泉を壊したのを謝った時に許してくれたお兄さんとお姉さんだ。
 あの時は服が違っていたし、ニコニコしていたが。
 今は妙な格好の上に厳しい表情をして雰囲気が全然違うから別人に見える。

「その邪神を破壊する。ガキどもは離れてろ!」
 白髪の男が叫ぶ。
「なっ!邪神って、アルティメットレジェンダーの事か!?ふざけんな!せっかくバトルしてたのに、邪魔しやがって!
その上ビーダマン壊すだってぇ!?そんな事させるかっ!!」
 ドンッ!!
 白髪の男の足元からショットが飛んできた。
「っ!」
 ショットがシュウの頬を掠める。
「これは脅しじゃねぇぞ。邪魔するならてめぇらごとブッ飛ばす!」
「ま、まぁまぁハクラ。もうちょっと穏便に行こうよ……」
 気弱そうな少年がハクラと呼んだ白髪男を宥めようとした。
「セイヤ。お前自体分かってんのか!?邪神を前に、んな呑気な事言ってられっかよ!!」
 気弱少年はセイヤと言うらしい。
「だ、だけどさぁ。あの子たちは関係ないわけだし……ね、リョクエン?」
 セイヤは長身男に助けを求める。
「ん~、そうですね……。話し合いで決着が着くのなら、それが一番ですが……」
 リョクエンと呼ばれた長身男が顎に手を当てながら言う。
「あぁもう、男の癖にウジウジうるさいねぇ!あんな邪神、破壊しちまえばいいのさ!」
 女がヒステリックに叫びだす。
「オラも、ハクラとコウミに賛成なんだな」
 メガネ男が口をモチャモチャさせながら言う。
「……俺もだ」
 無表情男もそう呟いた。
「キイトやコクリもあたいらに賛成だね!多数決で決まりだよ、悪いねセイヤ、リョクエン!」
「だなっ!」
「仕方ないですね……」
「そんなぁ……」
 ハクラは再びシュウ達へ向き直った。
「っつーわけでガキども!邪神の味方するってんなら、てめぇらも悪だ!今からブッ飛ばすから覚悟しとけよ……!」
 シャアアアアアアアアアア!!!!
 ハクラの足元からモーター音が聞こえたかと思ったら、小型のレーシングカーのようなマシンが走ってきた。
「なんだ、あのマシンは!?」
「いけぇ、アクセルホワイター!!」
 アクセルホワイターと呼ばれた小型の車のようなマシンは走りながら、フロントについた砲台からビー玉を発射する。
 ドンッ!ドンッ!!
「あのマシン、ビー玉を発射している!?」
「って事は、ビーダマンか!?」
 シュウがアルティメットレジェンダーを守るようにブレイグを構える。
「ビーダマン?そんなチャッチィもんじゃないぜ!俺達が使う武器は、ビーダファイター!我が部族に代々受け継がれてきた、ビー玉を発射する自走メカだ!!」
 シャアアアアアアアア!!!
 アルティメットレジェンダーを危険を察知し、アクセルホワイターから逃げるようにフィールドから飛び出した。
「逃がすかよ!!狙い撃て!アクセルホワイター!!」
 ドンッ!ドンッ!
 アクセルホワイターの砲身からビー玉が何発も放たれる。
「させるか!!」
 シュウがブレイグでそのショットを撃ち落とす。
「ちっ、邪魔すんな!ガキが!!」
「邪魔してんのはそっちだろ!?」
 シュウとハクラは同レベルの良い争いをしながら戦っている。
「これじゃ、埒があかねぇ!コクリ!お前も参戦しろ!」
「……分かった」
 コクリが懐から似たような黒いマシンを取り出した。
「……いけっ、ブーストブラッカー!!」
 このマシンも走りながらビー玉が撃てるようだ。
 アクセルホワイターがフルカウルで最高速重視のプロトタイプレーシングカーなら
 ブーストブラッカーはネイキッドで旋回性重視のフォーミュラカーと言った所だろう。

「くっ!二台掛かりか……!」
「なら俺も参戦するぞ!いけっ、ボールドレックス!!」
 タケルも参戦し、互角の戦いになった。
 しかし、邪神を破壊すると言う明確な目的のある奴らと違い、シュウ達には目的が無い。
 このままでは決着がつかない。

 シャアアアアアアアアアア!!!!
「逃がすな!アクセルホワイター!!!」
「うおおおおおお!!!!ビクトリーブレイグ!!!」
 バーーーーン!!!!
 アクセルホワイターとビクトリーブレイグのショットが激突し、衝撃波が巻き起こる。
「くっ!」
 その衝撃波に、一同は怯んだ。
 その隙にアルティメットレジェンダーは広場を飛び出して街の方へ走って行ってしまった。
「しまったっ!」
 ハクラはハッとして広場の外へ駆け出す。
「おうぞ、お前ら!!」
「「「「おう!!」」」」
 6人の男女はアルティメットレジェンダーを追って街の方へ走って行った。

「や、ヤバいぞぃ、あの方向は温泉街があるぞぃ!」
「あんな奴らが街で暴れたらパニックになる!」
「俺達も行こう!!」
「そうだな。彩音とリカと智蔵さんは危ないからここに残っててくれ」
「うぅ、シュウ先輩!気を付けてくださいね!」
「おう!任せろ!!」
「ううん、私も一緒に行くよ!イザと言う時、ビーダマンを修理できる人がいた方がいいでしょ」
「あ、それもそうか……」
「ワシは、一度資料館へいってアルティメットレジェンダーについて調べてくるぞぃ。もしかしたら何か分かるかもしれん!」
「分かりました!じゃあリカは旅館に戻って連絡係を頼む。もし何かあったら、そこを拠点にする」
「了解です!任せてください!」
「全く、これじゃ本格的に休息なんて無理ね……」
「だが、面白い催しだ」
「よし、これで決まったな。行くぞ!!」

 そんなわけで、アルティメットレジェンダーはシュウとタケルとヒロトと琴音と彩音のの5人で追う事にした。

 その頃、温泉街はちょっとしたパニックになっていた。
 当然だ。
 小型のメカが人の操作も無しに動き回っているものだから、人々は何事かと驚いている。
 しかし、何か破損があったりとか誰かが怪我したりとか、そういう被害は今のところないようだ。
「まてぇぇ!邪神!!」
 と、そこへ先ほどの男達がアルティメットレジェンダーに追いついてきた。
 アクセルホワイターとブーストブラッカーと並走して男たちは走っている。
「いくぞ、アクセルホワイター!!」
「ブーストブラッカー!!」
 ズドドドドドド!!!
 二台のマシンが連射を放ってアルティメットレジェンダーの足止めをする。
 その連射のせいで石段が次々と破壊されていく。
 観念したのか、アルティメットレジェンダーは振り返り、二台のビーダファイターと対峙した。
「へっ、ようやく破壊される気になったみたいだなぁ!!」
 ズドドドドドド!!
 二台分の連射をアルティメットレジェンダーは見事にすり抜けて、それぞれのマシンに一発ショットをぶつけた。
「なにっ?」
「早すぎる……!」
 バーーーーンッ!!
 その衝撃波で、ビーダファイター二台だけでなく、ハクラ達もフッ飛ばされてしまった。
「「「「「ぐわああああああああ!!!!」」」」」
 地面に仰向けに倒れ、顔を顰める。
 それを一瞥したのち、アルティメットレジェンダーは走って行った。




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